それもあってキレはさほど強くはない。殿下に何を求めているかで評価は変わりそうですが、個人的にはDISC2と3が好みかな。あと、初めてカバー曲(THE STYLISTICS「Betcha By Golly Wow!」、ボニー・レイット「I Can't Make U Love Me」、THE DELFONICS「La-La (Means I Love You)」、ジョーン・オズボーン「One Of US」)を採用したのも興味深かった(殿下、意外とメジャー感の強い曲を選ぶのね)。解き放たれたあとの創作欲はここからさらに向上していくものの、それと同時にゼロ年代に向けた黎明期にも突入することになります。
殿下がピアノやシンセで参加し、THE NEW POWER GENERATIONホーン隊やオーケストラチームとともに制作したインストゥルメンタル作品で、内容的にはクラシックを下地にしたジャズ。若干前衛音楽的な側面が感じられるのは殿下ならではか。もともと当時の恋人のバレエ演舞のために制作された組曲で、その後彼女と結婚した際には自身の結婚式で演奏されることを想定していたんだとか。それを踏まえて聴くとなるほどなと納得するものもあるかな。
1998年6月30日にリリースされたTHE NEW POWER GENERATION名義の3rdアルバム。
当初はチャカ・カーン『COME 2 MY HOUSE』とGRAHAM CENTRAL STATION『GCS 2000』との抱き合わせ3枚組仕様で販売されたほか、日本では単品CD化もされたので、THE NEW POWER GENERATION名義過去2作と比べると比較的入手しやすく、「これは知ってる。聴いた」という方も多いのでは。殿下の諸作品と比べてジャケがチープなので、当時は「えっ、ブート?」と敬遠したことも今では懐かしい思い出です。
▼THE NEW POWER GENERATION『NEWPOWER SOUL』 (amazon:国内盤CD / 海外盤CD)
PRINCE『THE VAULT... OLD FRIENDS 4 SALE』(1999)
1999年8月24日にリリースされた“プリンス名義”の22ndアルバム。
1996年の『CHAOS AND DISORDER』でワーナーとの契約は完全終了していたかと思いきや、もう1枚残っていたのかと当時驚いた記憶が。で、例によって今回も未発表曲をかき集めた編集盤なのですが、そこは殿下のこと。しっかりとトータル性の強い1枚に昇華されています。
プリンス名義でのワーナー末期は『COME』(1994年)でダークなファンク、先の『CHAOS AND DISORDER』ではロックと、それぞれ異なるカラーでしたが、今作はジャジーなソウルといったところでしょうか。刺激こそ薄いものの、これが実に心地よくて直近の新作よりも優れているんじゃないかと思うほど。リリース当時は寄せ集めという思い込みであんまりリピートしなかったけど、こうやってキャリアを振り返りながら1枚1枚聴いてきたことで改めてその魅力を再発見できたのは嬉しい限り。
THE NEW POWER GENERATIONを携えての2作目となりますが、前作と比べたら大衆性は薄いのですが、だがそこがいい。だってオープニングからある種のジャイアニズム炸裂の「My Name Is Prince」(36位)、2曲目が「Sex MF」(66位。MFはもちろんMother Fxxkerのこと)ですからね(笑)。嫌いになる要素がまったくない。大衆性が薄いものの、しっかりと「7」(7位)というポピュラリティの高いヒット曲もしっかり用意されている。全体的にノリで気持ちよく楽しめる1枚ではないでしょうか。
しかし、これ以降再び模索の時期に入るんですよね。1年に新作1枚ペースはひとまずここまで。
▼PRINCE & THE NEW POWER GENERATION『LOVE SYMBOL』 (amazon:国内盤CD / 海外盤CD / 海外盤アナログ / MP3)
この年、プリンスはデビューから所属してきたワーナーとの関係を終え、6月には「シンボルマーク(The Artist Formerly Known as Prince)」を新たな名前として掲げます。『LOVE SYMBOL』と前後して制作されたものの、リリースは1年後。ということは、タイミング的にプリンスという名前を一時的に捨てていた頃。PRINCE & THE NEW POWER GENERATION名義ではないので、本作では殿下の名前はクレジットされていませんが、楽曲はほぼ殿下が手がけたものでギターやコーラスなどのレコーディングにも参加しています。
空気感的には先の『LOVE SYMBOL』やその前作『DIAMONDS AND PEARLS』の延長線上にあるジャズファンク/ヒップホップサウンドなので、殿下ファンはもちろんこの頃の彼の作品が好きな方なら安心して楽しめる内容。ただ、殿下のあの声あってこそと感じる方には物足りなさもあるかも。THE TIMEなどファミリー作品として触れるのが一番かな。
▼PRINCE『THE HITS / THE B-SIDES』 (amazon:国内盤3CD / 海外盤3CD / MP3)
PRINCE『THE BEAUTIFUL EXPERIENCE』(1994)
1994年5月17日にリリースされたEP。番外編的な1枚。サブスク未配信。
ワーナーと揉めまくってるタイミングの1994年は、真の意味での過渡期。プリンス名義ではなくあの変な記号(笑)名義で自身のレーベルから発表されたこのEPは、当時のヒット曲「The Most Beautiful Girl In The World」(3位)をネタにいろんなバージョンを作って1枚にまとめたもの。サビの名フレーズだけは共通しているものの、どれもらしいアレンジが施された似て非なるものに仕上がっていて、かつシームレスな構成なのでちょっとしたコンセプトアルバムのようにも聞こえる。なので最後にオリジナルバージョン(シングルと同テイク)がくると、なぜかホッとするという。全7トラックで33分というトータルランニングもちょうどいい。
殿下がシンボルマークへ改名した際に立ち上げたNPG Recordsのカタログ的コンピ。当時は日本盤もリリースされました(海外盤にリミックス数曲追加した仕様)。プリンス名義の楽曲は当然ながら未収録で、ジョージ・クリントンやマイテ、メイヴィス・ステイプルズのほか、殿下が携わるTHE NEW POWER GENERATIONやMADHOUSEの楽曲、さらにはMINNEAPOLISという謎のユニットの新曲も収録。実はこのMINNEAPOLIS、殿下や彼と関わりの深いメンバーたちによる覆面ユニットだったりします。
前年のヒット曲「The Most Beautiful Girl In The World」(3位)が正式にアルバム収録されたほか、「Eye Hate U」(12位)や「Gold」(88位)といったヒットシングルも含まれており、比較的聴きやすい内容にも関わらず大きなヒットに繋がらなかったのは、一連の揉め事も影響したか。ただ、日本では「Endorphinmachine」が某格闘技中継で使用されたこともあって。それなりに売れた記憶が。
殿下の自伝的同名映画のサウンドトラックの役割も果たした作品で、前作『1999』(1982年)でのロング&大ヒットも手伝って初の全米1位を獲得。アルバム自体、アメリカだけで1000万枚を超えるメガヒットに。本作からは「When Doves Cry」「Let's Go Crazy」が1位、「Purple Rain」が2位、「I Would Die 4 U」が8位、「Take Me With U」が25位とヒットシングルも多数生まれました。
初めてPRINCE & THE REVOLUTION名義で発売された本作は、バンド録音中心ということもあってか全体的にロック色が濃厚。パーティ感の強いハードロックな「Let's Go Crazy」、泣きのロックバラード「Purple Rain」を筆頭にとにかく聴きやすい。加えて前作での大作志向が減退し、どれも4分前後とコンパクトかつキャッチー(タイトルトラックのみ約9分もありますが)。なので、どれをシングルカットしたとしてもそれなりのヒットが約束されたようなもの。ノリにノるってこういうことなんですよね。だってMTV(いや、『ベストヒットUSA』かも)で「When Doves Cry」のMVを観て(曲を聴いて)、最初こそあのビジュアルにたじろいだ自分が「それでも聴きたい」と思ってしまうほどの魅力を放っていたんですから。
もちろん「Paisley Park」や「Raspberry Beret」みたいなポップチューンもあるけど、それもサイケ味が散りばめられていてストレートだった前作とは異なる印象。しかし、これが非常にクセになるんですよね。そんな中で異彩を放つ「Tamborine」「America」あたりのハードファンク、次作への布石とも言える「Condition Of The Heart」や「Temptation」でのジャズ風味が非常にいい味を出しています。
本作は自分がプリンスにハマるきっかけの1枚。彼の全キャリアの中でトップ3クラスで好きなアルバム。
▼PRINCE & THE REVOLUTION『AROUND THE WORLD IN A DAY』 (amazon:国内盤CD / 海外盤CD / 海外盤アナログ / MP3)
全米1位を記録した名曲「Kiss」や無機質ファンク「Girls & Boys」、前作の流れを汲むサイケソウル「Mountains」(全米23位)といった個性的なシングル曲を含むも、全体的には前作でのサイケ色にジャズサウンドを散りばめた大人なテイスト。音のおもちゃ箱的側面もあった前作や前々作とは異なり、音数も意識的に減らしている印象もあり(「Kiss」なんてその最もたるや)、初めて聴いたときは子供ながらに地味に映ったものです。が、ある程度大人になってから触れてみると……気持ちいいのなんの。組曲的に進む冒頭から緩急に飛んだ中盤、そして感動的なジャズバラード「Sometimes It Snows In April」で締めくくる流れは完璧の一言。
しかも『1999』とは異なり、今作は全16曲入りで含まれる楽曲のジャンルもバラバラ。『AROUND THE WORLD IN A DAY』がビートルズにおけるサージェント・ペパーズだとすると、本作はホワイト・アルバムか。ただ、ビートルズと違って殿下はこれをたったひとりで作り上げてしまったところが恐るべし。
それもそのはず、本作はティム・バートン監督の同名映画のサントラ的立ち位置なのだから。が、実際には劇中で使われた曲は少なく、どちらかというとイメージアルバム的な1枚。そういう意味では『PURPLE RAIN』に近しいものがあるかな(ロックとヒップホップ寄りという違いはありますが)。全米1位を記録した「Batdance」は歌モノではないサウンドコラージュ的ダンスチューンだし、そのほかの歌モノもスルッと聴けてしまうくらい薄味。映画の相乗効果もあって『AROUND THE WORLD IN A DAY』以来の1位に輝いたけど、前作までの好調ぶりを考えると肩すかすを喰らうかも。
1978年というと『サタデーナイトフィーバー』を筆頭に空前のディスコブーム。そんな中、殿下はありきたりなソウル/ディスコアルバムとは一線を画する斬新なファンクアルバムで世に出ていくわけですから圧巻です(もちろん時代を読んでそういったテイストも適度に含まれていますが)。オープニングのタイトルトラックは1分少々ながらも40以上の声を重ねた力作。デビューヒットとなった「Soft And Wet」の非凡さ、アコギ弾き語りテイストはのちのスタイルにも通ずる「Crazy You」、エロいファルセットがたまらない「Baby」など聴きどころ満載。
本作からは名曲「I Wanna Be Your Lover」(11位)や、のちにチャカ・カーンがカバーした「I Feel For You」、殿下のハードロックギターが炸裂する「Bambi」、セクシーなスローバラード「Still Waiting」など前作以上に佳曲が豊富。デビュー作の時点で異彩を放っていたファルセットもより磨きがかかり、すでに殿下以外の何者でもない個性をたっぷり楽しめます。
前2作が同系統の作風でより磨きをかけていったのに対し、今作ではタイトルトラックや「When You Were Mine」、組曲的な「Head」〜「Sister」など当時主流になりつつあったニューウェイヴからの影響が感じられ、常に最先端なものに惹かれながらそれらを独自の解釈で取り入れて、独自のサウンドへと昇華させていくというのちの殿下らしさがここで芽生え始めます。そういう意味でも個人的には初期4作の中でもこれが一番好きかもしれない。だって一番ロックだもんね(ジャケも中身も)。