DAVID BOWIE『THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS』(1972)
1972年6月にリリースされたデヴィッド・ボウイの5thアルバム。
ボウイの人気を決定づけた歴史的名盤のひとつであり、グラムロックというジャンルにおける教科書的作品。前作『HUNKY DORY』(1971年)で揃ったミック・ロンソン(G)、トレバー・ボルダー(B)、ミック・ウッドマンジー(Dr)によるバンド編成がひとつの頂点へと達しつつあることを示す名演を、たっぷり楽しむことができます。また、本作はその長尺のタイトルが示すように、非常に物語性の強いコンセプチュアルな作風で、このアーティスティックな作風もボウイのカリスマ性を高めることに一役買ったのではないでしょうか。
ゆったりしたドラムのリフがフェードインする「Five Years」の、非常にドラマチックなオープニングといい、続く「Soul Love」「Moonage Daydream」の風変わりなテイストといい(特に後者で聴けるミック・ロンソンのギターソロは圧巻!)、前作での穏やかさとは異なる、影に潜んだ狂気性がじわじわ伝わってくる楽曲群はさすがの一言。そこから名曲「Starman」へと続く流れも文句の付けどころがなく、気づけばその独特な世界観にグイグイ引き込まれているわけです。
中盤はパワフルなハードロック「It Ain't Easy」や、キラキラした眩さすら伝わるバラード「Lady Stardust」で緩急をつけ、豪快なロックチューン「Star」以降はクライマックスに向けてバンドの熱量が加速し始めます。ドライブ感の強い「Hang On To Yourself」、パワフルなギターリフがすべてと言わんばかりのタイトルトラック「Ziggy Stardust」、そして終焉と向けた狂騒を表す「Suffragette City」からラストナンバー「Rock 'N' Roll Suicide」へと流れ、約40分におよぶ壮大なドラマは幕を下ろします。
もはやコンセプトアルバムと呼ぶにふさわしい本作は、確かにデヴィッド・ボウイというアーティストにとって最初のピークと断言できる内容です。ソングライターとしても表現者としても、当時にできることをすべて詰め込み、かつ周りでサポートするバンドのメンバーの力量もそれに追随するものがある。加えて、ライブでの狂気じみたパフォーマンスやボウイのカリスマ性、それを崇めたてるファン……すべての要素がプラスに作用し、アングラとメジャーの狭間で伝説を作り上げた。それが1972年当時のボウイ=ジギーだったのかなと、後追いで彼に触れた(リリース当時は1歳にも満たない)自分は思うわけです。
本作に最初に触れたのは、ボウイがソロを封印するための実施した1990年の東京ドーム公演前後だったと思います。ボウイの諸作品がCDで再発され、その流れで本作を購入。以来、30年以上にわたり聴き続けているわけですが、本当の意味で本作の魅力や凄みに気づいたのって、実はここ10年くらいのことかもしれません。
ボウイが亡くなって今日でまる5年。本来「Five Years」という曲は、5年後に迫った人類滅亡を伝える内容で、まさにこのアルバムで語られる物語の序章に当たるわけですが、ボウイの死から5年経った現在、本当に“世界の終わり”みたいな状況に一歩近づいていることを考えると……ジギー・スターダストみたいな存在が本当に誕生するんじゃないか、そいつは救世主なのか破壊神なのか……なんてことをふと想像してしまいます。
長いボウイのキャリアにおいて、グラムロック期はほんの数年。ここから先の探求の旅が本当に面白いので、初期数作だけにとらわれずにいろいろ聴いてほしいなと思います。
▼DAVID BOWIE『THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS』
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