カテゴリー「1973年の作品」の11件の記事

2023年1月 4日 (水)

DAVID BOWIE『PIN UPS』(1973)

1973年10月19日にリリースされたデヴィッド・ボウイの7thアルバム。

『THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS』(1972年)『ALADDIN SANE』(1973年)の成功でグラムロックスターのイメージが強く付きまとうようになったボウイが、原点回帰を目指して制作した全編カバー曲による1枚。ボウイの生前発表されたアルバムの中では、唯一のカバーアルバムとなります。

プロデュースは『HUNKY DORY』(1971年)以降のアルバムを手がけるケン・スコットが担当。レコーディングはボウイのレコーディングやツアーを支えるTHE SPIDERS FROM MARSの面々が担当するのですが、ドラマーがウッディー・ウッドマンジーからエインズレー・ダンバー(のちにJOURNEYWHITESNAKEに参加)に交代しています。また、ボウイの右腕であるミック・ロンソン(G)は本作を最後にボウイのもとを離れることになります。

取り上げられたカバー曲はすべて60年代のもので、PRETTY THINGSやTHEM、THE YARDBIRDS、PINK FLOYD、THE MOJOS、THE WHO、THE EASYBEATS、THE MERSEYS、THE KINKSと今となってはロッククラシックの教科書的面々の楽曲ばかり。PRETTY THINGS、THE YARDBIRDS、THE WHOのみ2曲ずつ取り上げられており、こういった楽曲群が当時のボウイサウンドにリアレンジされています。

前作『ALADDIN SANE』にTHE ROLLING STONESのヒット曲「Let's Spend The Night Together」のパンキッシュなカバーが収録されていましたが、今思うとあそこからすべては始まっていたのかもしれませんね。「Don't Bring Me Down」やのちにゲイリー・ムーアーがカバーする「Friday On My Mind」あたりは、その流れを汲むテイストですし。ただ、全体的にその方向性かというと、すべてがそうというわけではありません。

もちろん、全体的に当時のボウイらしいロックスタイルが展開されていますが、そこに彼ならではの工夫も見え隠れする。例えばTHE WHOの「I Can't Explain」なんてスローテンポにアレンジされ、サックスを加えることでグラマラスさが増幅されている。その一方で、シド・バレット時代の名曲であるPINK FLOYD「See Emily Play」はサイケデリック&アバンギャルド感が増しており、70年代後半の彼の活動につながっている。その一方で、初期のアーシーなテイストと印象が重なる「Sorrow」のような楽曲もあり、ここを起点にいろいろなボウイのスタイルへと分岐していく、その根っこのような1枚なのかなという気がしています。そういう意味では、原点回帰という目標を果たしつつ、次へ進むための過渡期的な役割も果たす1枚でもあったのかな。

ここで一度ガス抜きを経験し、ジョージ・オーウェル『1984年』やウィリアム・バロウズとの出会いを経ることで、続く『DIAMOND DOGS』(1974年)へとつながっていくわけですが、そこからさらに劇的な変化を果たすことになるとは、まさかこの頃は誰も想像できなかったでしょうね。

 


▼DAVID BOWIE『PIN UPS』
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2022年1月 8日 (土)

DAVID BOWIE『ALADDIN SANE』(1973)

1973年4月13日にリリースされたデヴィッド・ボウイの6thアルバム。

前々作『HUNKY DORY』(1971年)を経て、よりグラマラスなサウンド&ビジュアルに特化させたコンセプトアルバム『THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS』(1972年)でひとつの答えへとたどり着いたボウイ。同作を携えたツアーでは、アルバムの主人公である架空のロックスター、ジギー・スターダストになりきってステージに立つことでカリスマ的人気を手中にします。

その勢いのまま制作に突入した今作には、前2作から引き続きTHE SPIDERS FROM MARSの面々……ミック・ロンソン(G)、トレヴァー・ボルダー(B)、ウッディ・ウッドマンジー(Dr)に加え、ジャズ方面のピアニストであるマイク・ガーソンが全面参加。THE ROLLING STONESのカバー「Let's Spend The Night Together」や「The Jean Genie」など豪快なロックンロールに、「Aladdin Sane (1913–1938–197?)」を筆頭とした排他的な空気を強めた楽曲が加わることで“何かの終焉”を匂わせる作風に仕上がっています。

全体を通して前作よりもワイルドさが強まったのは、前作のツアーで初めて実現した本格的USツアーでの経験が大きく作用したものと思われます。イギー・ポップとの出会いも、たしかこの前後(もうちょっと前?)でしたし、「Panic In Detroit」なんてタイトルの楽曲もあるくらいですから、いろいろな影響を得たのでしょう。とにかく全体を通して“バンド感”がより強まっており、全体の流れの心地よさはぶっちゃけ前作以上ではないでしょうか(それもあって、個人的にはこちらのほうがダントツに好きだったりします)。

「Drive-In Saturday」や「Time」のようにそれまでの流れを汲むドラマチックなミディアム/スローナンバーもしっかり用意されているし、王道のグラムロック「The Prettiest Star」もしっかり存在する。だけど、このアルバムでもっとも印象的な曲って、結局マイク・ガーソンのピアノを全面にフィーチャーした「Aladdin Sane (1913–1938–197?)」や「Lady Grinning Soul」なんですよね。中でも、後者の流れるようなピアノのフレーズ/メロディは圧巻の一言で、この1曲を聴くためだけに本作に手を伸ばしても損させないだけの魅力が備わっていると思うんです。

このしっかり作り込まれた傑作アルバム発売から数ヶ月後、ボウイはワールドツアー最終日にジギー・スターダストという架空のキャラクターを葬り去り、グラムロック時代に終止符を打ちます。音楽的にも臨界点を迎えたというのもあるし、借りの姿を演じることにも疲れた(というか飽きた)んでしょうね。だけど、最初のピークを経て、ボウイの新しい音楽探求の旅がここから40年以上にわたり続くことになるとは、当時は思いもしなかったでしょうけど……。

 


▼DAVID BOWIE『ALADDIN SANE』
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2021年1月11日 (月)

IGGY & THE STOOGES『RAW POWER』(1973)

1973年5月にリリースされたTHE STOOGES(IGGY & THE STOOGES名義)の3rdアルバム。日本盤は初出時、『淫力魔人』の邦題のもとリリースされています。

前作『FUN HOUSE』(1970年)発表後、デイヴ・アレクサンダー(B)がアルコール中毒でバンドから解雇。イギー・ポップ(Vo)を筆頭に他メンバーもドラッグ問題に陥り、バンドは活動休止状態に陥ります。そんなタイミングに、イギーはデヴィッド・ボウイと出会い、ボウイがイギーをサポートすることに。イギーはTHE STOOGEを再生させようと、ジェーウズ・ウィリアムソン(G)とともに音楽活動を再開させます。新たなリズム隊を探すものの、なかなか良いメンツに恵まれず、結果として旧THE STOOGESからロン(G)&スコット(Dr)のアシュトン兄弟を呼び戻し、ロンがベースにスイッチすることで新生THE STOOGESとしての活動が始まるわけです。

すべての楽曲をイギーとジェームズで制作し、プロデュースをイギーが担当、ボウイがミックスを手がけた『RAW POWER』では、初期のアートロック的なテイストが完全に払拭され、ガレージロック色をさらに強めた初期パンク的な作風を確立。以降に続くイギーのパブリックイメージを定着される上でも、非常に重要な1枚となりました。また、オープニングを飾る「Search And Destroy」やタイトルトラック「Raw Power」などは、現在まで多くのアーティストたちにカバーされる人気ナンバーで、イギーもソロになってからも演奏する機会を多く持ちました。

本作は1997年に国内初CD化されておりますが、実はこのバージョンは1973年のオリジナル盤とはミックスがまったく異なります。というのも、1997年バージョンはミックスをイギーがやり直しているのです。ボウイがミックスしたオリジナルバージョンはリズムトラック音圧が低く、ボーカルとギターのみが前に出過ぎていて、このバンドが本来持つ暴力性や狂気性を表現しきれていない気がします。

このミックスに対する不満の声が多かったことに対し、イギーは「どの曲も音が全部振り切れるくらいボリュームを上げて、すごい激しいミックスになったぜ!」とやりすぎってくらい高音圧で激しいリミックスバージョンを完成させます。のちに「スタッフが怖気づいておとなしいバージョンってのを作ったが、俺は聴くことさえ拒否した」とのことで(笑)、そちらの修正版の仕上がりも気になるところです。

内容に関しては文句なし。生々しいロックンロールをベースに、パンクやブルースを味付けに、時にはハードロックと言わんばかりのヘヴィさも表現された本作は、ボウイ版よりもイギー版のミックスで聴くことをオススメします。なお、ボウイ版ものちにCD化され、現在もストリーミングサービスで聴くことができるので、気になった方は聴き比べてみてはどうでしょう。その際、先にイギー版から聴いてしまうと、ボウイ版がペラペラに感じられること間違いなしなのでご注意を(苦笑)。

 


▼IGGY & THE STOOGES『RAW POWER』
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2020年6月 4日 (木)

THE ROLLING STONES『GOATS HEAD SOUP』(1973)

1973年8月末にリリースされた、THE ROLLING STONES通算11作目(イギリスにて。アメリカでは13作目)のスタジオアルバム。

無軌道なまでにやりたい放題をやり尽くした結果、アナログ2枚組の大作となった前作『EXILE ON MAIN ST.』(1972年)。派手な印象が強い同作から一転して、この『山羊の頭のスープ』という直訳邦題が付けられたアルバムはなんとジャマイカにてレコーディングを敢行。ボブ・マーリーが台頭し始めたタイミングということもあって、いよいよレゲエテイストを導入か?と思いきや、その内容は非常に穏やか、かつダークでファンキーという……一聴すると地味に聴こえなくもないですが、いやいや。じっくり聴き込むと前作以上の完成度で、実は70年代前半のストーンズにおけるベストワークでは?と思えるほどの出来なのです。

「Dancing With Mr. D」という怪しげな楽曲からスタートする本作は、基本的にこのテイストがアルバム全体を覆っているイメージといっていいでしょう。キース・リチャーズ(G, Vo)がリードボーカルを務める「Coming Down Again」といい、ビリー・プレストンのパーカッシヴなクラヴィネットが耳に残る「Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)」といい、実は「Angie」よりも優れた名バラードだと思っている「Winter」といい、妖艶さと肩の力の抜けきったミック・ジャガー(Vo)のルーズなボーカルが気持ち良く響きます。

かと思えば、『BEGGARS BANQUET』(1968年)以降のストーンズらしいサザンロック・テイストをより強めた、「Silver Train」や「Star Star」のような軽やかなロックンロールもしっかり用意されている。激しさや破綻こそないものの、ダウナーなストーンズの魅力が端的に表れた良質な楽曲集と言えるのではないでしょうか。

それと興味深いのが、本作収録曲の多くがピアノやキーボードを軸にした楽曲だということ。このへんも、キースやミック・テイラー(G)のギターリフでグイグイ引っ張る前作、前々作とは一線を画するものがあります。とはいえ、この反動がまたすぐ次のアルバムに表れるんですけどね(笑)。

本国では『LET IT BLEED』(1969年)から4作連続1位、アメリカでも『STICKY FINGERS』(1971年)から3作連続で1位に輝き、特にアメリカでは『STICKY FINGERS』に次いでマルチプラチナム(現在までに300万枚以上)を達成。シングルも「Angie」が全英5位/全米1位という大ヒットを記録し、さらに「Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)」も全米15位まで上昇しました。そう、完成度の高さとセールスがしっかり結果につながった1枚でもあるのですよ。

いわゆる誰もが知る代表曲は「Angie」程度しか見当たりませんし、そういう意味でも一見さんにオススメするには弱い内容かもしれません。が、ストーンズにハマればハマるほど、本作の魅力に気づかされるのでは。今では『BLACK AND BLUE』(1976年)と並んで愛聴しまくるベスト作品のひとつです。

 


▼THE ROLLING STONES『GOATS HEAD SOUP』
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2019年8月13日 (火)

BLACK SABBATH『SABBATH BLOODY SABBATH』(1973)

BLACK SABBATHが1973年12月に発表した5thアルバム。全英4位、全米11位という好記録を残しており、本作までを初期サバスの黄金期と認識するファンも少なくないようです。

『血まみれの安息日』の邦題でHR/HMファンの間ではおなじみのこのアルバム。前作『VOL.4』(1972年)では従来の“らしさ”に拍車がかかりつつも、新たな実験にも取り掛かるなどバンドとしての意欲が伝わってきましたが、この新作制作に入る際には新曲がひとつもできていなかったとのこと。つまり、バンドとしては枯渇状態にあったようです。

その要因のひとつに、オジー・オズボーン(Vo)をはじめとするメンバーのドラッグ問題もバンドに大きな影を落としていたことは否めません。ですが、トニー・アイオミ(G)はあるとき、起死回生の一撃となるギターリフに出会います。それがタイトルトラック「Sabbath Bloody Sabbath」のメインリフでした。

その「Sabbath Bloody Sabbath」からスタートするこのアルバム、とにかく「Sabbath Bloody Sabbath」の完成度が素晴らしいのなんのって。リフの強烈さはもちろんのこと、そこに乗るオジーの甲高い声、Bメロのジャジーなフレージングや後半の盛り上がりなど、サバスが山をひとつ乗り越えてまた新たな山を登り始めた、そんな“次への鍵”になっていたんじゃないかと思います。

続く「A National Acrobat」や「Sabbra Cadabra」といい、ラストの「Spiral Architect」といい、サバスのサバスたる所以が詰め込まれているし、中でも特に「Spiral Architect」は前作での実験が結実したようなアレンジ含め素晴らしいのなんの。

かと思えば、サイケデリックなロックチューン「Killing Yourself To Live」やシンセを前面に打ち出した「Who Are You?」、グルーヴィーな「Looking For Today」、アコギとピアノなどで構成された「Fluff」は確実に『VOL.4』がなかったら生まれなかっただろう楽曲群だし。実は意外と粒ぞろいな1枚なんじゃないかと思っています。

実は10代〜20代前半の自分は完全なる『MASTER OF REALITY』(1971年)&『VOL.4』信者で、有名曲の多い2ndアルバム『PARANOID』(1970年) や表題曲しか聴きどころがない(と思い込んでいた)本作を毛嫌いしていました。でもね、年を取るとキャッチーな『PARANOID』はもちろんのこと、良い意味で“らしくない”ことにトライしようとした本作が愛おしく思えてくるんですよね。不思議なものです。

というわけで、僕的にはオジー在籍時のサバスに捨て作なし……と思っております(今後、6作目『SABOTAGE』から8作目『NEVER SAY DIE!』、さらにはラスト作『13』までを取り上げる機会があると思うので、そちらも好意的に触れていきたいと思います)。

 


▼BLACK SABBATH『SABBATH BLOODY SABBATH』
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2019年1月 6日 (日)

LED ZEPPELIN『HOUSES OF THE HOLY』(1973)

LED ZEPPELINが1973年3月に発表した、通算5作目のオリジナルアルバム。現在までにアメリカだけで2000万枚を超えるほどのメガヒット作となった前作『LED ZEPPELIN IV』(1971年)から1年半ぶりの新作にあたり、ナンバリングされた過去4作(そもそも『LED ZEPPELIN IV』は本来“無題”なのですが)から離れ、バンドとしてさらなるスケールアップを目指した1枚に仕上げられています。

ブルースを基盤にしたハードロックが展開された『LED ZEPPELIN』(1969年)および『LED ZEPPELIN II』(同年)、そこにトラッドミュージックのカラーを加えた『LED ZEPPELIN III』(1970年)を経て、これまでの要素をよりキャッチーに昇華した『LED ZEPPELIN IV』。いわゆる我々の知るLED ZEPPELINのパブリックイメージは、この4作目までに凝縮されています。では、続くこの5作目は何を表現しようとしたのか。それは、その“パブリックイメージからの離別”だったのではないでしょうか。

本作の中にはブルースおよびブルージーなハードロックをベースにした楽曲は皆無です。「The Song Remains The Same」や「Over The Hills And Far Away」といった楽曲はハードロックの枠内にあるナンバーですが、『LED ZEPPELIN IV』路線の延長線上にありながらも、確実に何か別の地平へと向かおうとしている。そんな動きが確認できます。

また、リフでグイグイ引っ張る「The Ocean」も聴きようによってはブルースの影響下にあるように感じられますが、変拍子を用いたり終盤に能天気なロックンロール的展開に変わったりと、一筋縄でいかない感じは確実に『LED ZEPPELIN IV』までとは異なるものを感じます。

一方で、「The Rain Song」のような壮大で美しいバラードがあったり、サイケデリックな長尺ナンバー「No Quarter」、ファンクミュージックからの影響が濃厚な「The Crunge」、この手のバンドとしてはいち早くレゲエを取り入れた「D'yer Mak'er」など、確実に新しいツェッペリン像を作り上げようとしている。音楽家としのアイデアや意欲が枯渇するどころか、この時点ではどんどん新しいことをやりたいという前のめりさを感じることができる。そういった意味でも、ツェッペリンがいよいよ本格的にオリジナリティを獲得した1枚と言えるかもしれません。

アルバムとしては派手な印象はありませんし、なんなら冒頭の「The Song Remains The Same」はロッキン(『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』)開始後、渋谷陽一氏の出囃子みたいになっちゃって、なんだかなぁみたいなイメージも強いですが、その後のロックシーンに与えた影響という点では実は初期4作よりも大きい1枚なのではないでしょうか。



▼LED ZEPPELIN『HOUSES OF THE HOLY』
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2018年10月 8日 (月)

NEW YORK DOLLS『NEW YORK DOLLS』(1973)

1973年7月にリリースされた、NEW YORK DOLLSのデビューアルバム。当時のメンバーはデヴィッド・ヨハンセン(Vo)、ジョニー・サンダース(G)、シルヴェイン・シルヴェイン(G)、アーサー・キラー・ケイン(B)、ジェリー・ノーラン(Dr)。アルバムのプロデュースはかのトッド・ラングレンが担当し、このほかにもトッドはアルバムでピアノやモーグシンセなどでも参加しております。

アルバムジャケットを見ると、そのケバケバしいルックスに驚かされ「グラムロック?」と思ってしまうかと思います。もちろんそれも間違いではありませんが、それよりもここで鳴らされている(記録されている)音の塊はパンクロックそのものではないでしょうか。

例えば、60年代末から70年代初頭のキラキラしたメイクのストーンズ。アメリカではマイナーな存在だったかもしれないけど、デヴィッド・ボウイを筆頭にMOTT THE HOOPLE、T. REXといったお化粧をしたロックアーティスト。そういったバンドたちと肩を並べる存在、あるいはその延長線上にあるムーブメントだったのかもしれない。けど、何か違う。むしろ、ドールズの数年先にデビューしていたTHE STOOGESを、アグレッシヴさをそのままに、もっとキャッチーにした存在。そのほうがピンとくるのは僕だけでしょうか。

オープニングの「Personality Crisis」を筆頭に、「Looking For A Kiss」や「Frankenstein」「Trash」など、ロックンロールのフォーマットに乗ったポップなメロディと、どこか危うさが伴うバンドアレンジ。例えばそれは、本作から数年後に誕生するSEX PISTOLSにも通ずるものがある気がするし、さらにそこから10年後にデビューするGUNS N' ROSESにも共通するものがある。なんていうのは言い過ぎでしょうか?

僕自身がこのアルバムと出会ってすでに30年近く経ちますが、今でも本作と向き合うときは「ジャンルとは?」「カテゴリーとは?」なんてことを考えさせられます。それくらい、括りとかどうでもよくなる1枚。それがNEW YORK DOLLSのデビューアルバムの持つ大きな意味なのかもしれません。

このアルバムから影響を受けて誕生したバンドは、ここ日本にも少なくありません。ジャケットのアートワークを見て「あっ!」と思い浮かべるバンドもいるでしょうし、楽曲の1つひとつを聴いて脳内でイメージできるバンドもいるでしょう。そういった意味でも、国境関係なくすべてのロックファンに一度は接してほしいアルバムです。



▼NEW YORK DOLLS『NEW YORK DOLLS』
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2018年7月29日 (日)

QUEEN『QUEEN』(1973)

本国イギリスで1973年7月、ここ日本では翌1974年3月に発売されたQUEENのデビューアルバム。全英24位、全米83位という成績を残したほか、「Keep Yourself Alive」「Liar」の2曲がシングルカットされています(2曲ともチャートインせず)。もっともイギリスではこのアルバム、発売当初はまったく話題にならず、次作『QUEEN II』(1974年)のヒットに引っ張られてランクイン。この24位という数字も1976年に入ってから到達したようです。

QUEENと聞いて我々がイメージする「大げさで起承転結のしっかりした曲調」「バラエティに富んだ楽曲群」「フレディ・マーキュリー(Vo)のボーカルスタイル」「ブライアン・メイ(G)のギターオーケストレーション」「オペラのようにオーバーダブされたコーラス」といった要素は、すでにこのデビューアルバムの中に存在しており、まだ完璧とまでは言わないものの、それでも「ああ、QUEENだ」と納得できる仕上がりにはなっています。

LED ZEPPELINDEEP PURPLEBLACK SABBATHなど、1曲の中にいろんな要素を詰め込み複雑な展開を見せるバンドはすでに存在していましたが、ブルースやジャズといった音楽からの影響が強いこれらのバンドと比べ、QUEENはもっと気品のある楽曲中心……という印象を受けます。爆発力という点においては、このデビュー作におけるQUEENはまだ先輩たちには及ばない点も確かに存在し、それがマイナスと受け取られてしまった。それがこのデビューアルバムが発売当時にウケなかった理由ではないか、と推測します。

ですが、派手さや豪快なロック感こそ少ないものの(いや、あるんですよ? 「Modern Time Rock 'N Roll」の勢いや「Son And Daughter」のブルースフィーリングは先輩たちにも負けてないし)、1曲1曲の“気品の高さ”や丁寧な作り込みは先人たちとは若干カラーが異なりますし、結局そこに活路を見出したQUEENは次作『QUEEN II』以降で本格的な成功を手にするわけですから。結局は、誰かの代わりとか“第二の○○”みたいな目で見ようとすると、本質を見失うってことなんでしょうね。だから、当時イギリスのメディアから「これが売れるなら、帽子でも食ってやるよ」なんて酷評も挙がったわけですから。

同じ頃、JUDAS PRIESTも二番煎じ呼ばわりされ成功からは程遠いポジションにいましたが、結局そういったバンドたちがのちのシーンを大きく変えていったのですから、わからないものです。

以下、QUEENファンとして。正直、のちの名作群と比べると本作の印象が薄いのは確か。1曲1曲はよくできているし、「Great King Rat」や「Liar」「Son And Daughter」「Jesus」あたりは本当に気に入っているんだけど、アルバムとしてまとまったときのインパクトの弱さは間違いなくあるなと。それだけ、以降のアルバムのクオリティが異常だってことでもあるんですけどね。それに、本作での挫折がなければ次の『QUEEN II』は生まれなかったかもしれないわけですから。



▼QUEEN『QUEEN』
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2004年11月25日 (木)

とみぃ洋楽100番勝負(99)

●第99回:「Search And Destroy」 IGGY & THE STOOGES ('73)

 

遅咲きです。後追いです。この人に関しては、知れば知る程惹かれてしまうという‥‥

 中学の時かな、「BLAH BLAH BLAH」ってアルバムで復活して。その時は「単発でガラガラ声のオッサン」くらいにしか思わなくて。ところがその2年後に出た「INSTINCT」ってアルバムでいきなりやさぐれて。髪は伸びるし、音も荒っぽいし。しかもその時のツアーギタリストが大好きなHANOI ROCKSのアンディ・マッコイだったという‥‥来日したのに行けなかったんだよね。ま、その時はまだイギーの本質がイマイチよく判ってなくてね。

 結局その次に来日した時かな。チッタかどこかで観て‥‥そこで一目惚れしたんだわ。なんだこのオッチャン、俺の親くらいの世代なのにチンコ出すか出さないかギリギリのラインまで革パン下げて、マイクスタンド投げ倒すわ、持ってるマイクでゴンゴン頭叩いたり‥‥ホント、ただのアホじゃんか!って。笑うのを通り越して感動すらしたもの。

 そしてSTOOGESの1st〜2ndアルバムが再発されて。2枚の落差(方やドゥーミーでダウナー、方やパンクでサイケ)に驚きつつも、俺がライヴで最も感動したパンクナンバーが入っていないことに気づくわけですが‥‥それが "Raw Power" や "Search & Destory" といった一連のナンバー。

 イギーはソロで2度、そのチッタ公演と去年のフジロックでのステージを観てて。けど個人的にはやはり間近で観ることができた今年3月のSTOOGESとしての来日公演@MAGIC ROCK OUTが忘れられなくて。あれはいろんな意味で、今年の俺を象徴するライヴだったな、と。改めて自分がどこから来て、今どこにいて、そしてこれからどこへ向かっていくのか。それを気づかせてくれた一夜だったな、と。

 自分はメタル出身だとかパンクの出ですとか、そんな括りだけはしたくない。ただひとつ言えるのは、常に「怒り」を忘れちゃ駄目だってこと。疑問を持つこと、他人と考え方が違うってことを恐れちゃ駄目だってこと。そして‥‥どこまでも「ロック」して「ロール」し続けるんだってこと。あの身体中傷だらけの死に損ないパンク親父は、無言のうちにそんな大事なことを「FUCK」一言の中に詰め込んでいるのです‥‥んなわきゃないか。

 今日も愛してますぜ、親父。(愛を込めて)早くくたばれっ!



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2004年10月15日 (金)

とみぃ洋楽100番勝負(57)

●第57回:「All The Way To Memphis」 MOTT THE HOOPLE ('73)

 高校の頃になるとさ。さすがに同時代のバンドだけに飽き足りず、それらのバンドが幼少の頃に好んでいたアーティスト、影響を受けたバンド、そして彼等がカバーした原曲等にまで手が伸びるようになり、ホントに小遣いは全て音楽につぎ込むような時代に突入してったわけ。ま、今と大して変わらないんだけど。

 HANOI ROCKSを通過することで、このMOTT THE HOOPLEというバンドに出会うわけですよ。ハノイの「BACK TO THE MYSTERY CITY」やライヴ盤「ALL THOSE WASTED YEARS...」のプロデュースをMOTTのリズム隊が手掛けていたり、「TWO STEPS FROM THE MOVE」にてイアン・ハンターと共作していたり(その後バンド解散後もソロで絡んでいたり)することから、自然と流れて行くわけですよ。その他にもデヴィッド・ボウイで馴染み深いミック・ロンソンも参加していたことを知ったり、そのボウイが "All The Young Dudes" という大ヒット曲を書いていたり、等々‥‥

 兎に角当時、MOTTのアルバムは日本で廃盤状態でして。当然CD化なんてされてなかったわけですよ。ところが、友人のひとりが東京からMOTTのベスト盤を入手してきて。それが当時の音楽仲間全員の手元に回ってきたわけ。一番最初が俺だったのかな、そいつと一番仲良かったから。

 もうね‥‥1曲目の "All The Way To Memphis" イントロのピアノだけでイチコロ状態ですよ。何だこれ、めちゃめちゃ端正なサウンドじゃんか、めちゃめちゃブリティッシュじゃねぇか、と。これのどこがロックンロール・アニマルなんだよ!?なんて思ったりもしましたが(それは他の曲や別のライヴ盤を聴いて納得できたけど)、とにかく自分が求めるサウンドの原点がここにあるのかな、と。すっげー聴き込んだんですよ。

 そういえば、この曲を初めて聴いてから1年近く経ってから、「Very British」な音を出す凄く大好きな日本のバンドが似たようなアレンジを施した楽曲をリリースしたんですよね‥‥"欲望のドア" っていう、如何にもなタイトルを付けてさ‥‥



▼MOTT THE HOOPLE「GREATEST HITS」 (amazon

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