DAVID BOWIE『PIN UPS』(1973)
1973年10月19日にリリースされたデヴィッド・ボウイの7thアルバム。
『THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS』(1972年)、『ALADDIN SANE』(1973年)の成功でグラムロックスターのイメージが強く付きまとうようになったボウイが、原点回帰を目指して制作した全編カバー曲による1枚。ボウイの生前発表されたアルバムの中では、唯一のカバーアルバムとなります。
プロデュースは『HUNKY DORY』(1971年)以降のアルバムを手がけるケン・スコットが担当。レコーディングはボウイのレコーディングやツアーを支えるTHE SPIDERS FROM MARSの面々が担当するのですが、ドラマーがウッディー・ウッドマンジーからエインズレー・ダンバー(のちにJOURNEYやWHITESNAKEに参加)に交代しています。また、ボウイの右腕であるミック・ロンソン(G)は本作を最後にボウイのもとを離れることになります。
取り上げられたカバー曲はすべて60年代のもので、PRETTY THINGSやTHEM、THE YARDBIRDS、PINK FLOYD、THE MOJOS、THE WHO、THE EASYBEATS、THE MERSEYS、THE KINKSと今となってはロッククラシックの教科書的面々の楽曲ばかり。PRETTY THINGS、THE YARDBIRDS、THE WHOのみ2曲ずつ取り上げられており、こういった楽曲群が当時のボウイサウンドにリアレンジされています。
前作『ALADDIN SANE』にTHE ROLLING STONESのヒット曲「Let's Spend The Night Together」のパンキッシュなカバーが収録されていましたが、今思うとあそこからすべては始まっていたのかもしれませんね。「Don't Bring Me Down」やのちにゲイリー・ムーアーがカバーする「Friday On My Mind」あたりは、その流れを汲むテイストですし。ただ、全体的にその方向性かというと、すべてがそうというわけではありません。
もちろん、全体的に当時のボウイらしいロックスタイルが展開されていますが、そこに彼ならではの工夫も見え隠れする。例えばTHE WHOの「I Can't Explain」なんてスローテンポにアレンジされ、サックスを加えることでグラマラスさが増幅されている。その一方で、シド・バレット時代の名曲であるPINK FLOYD「See Emily Play」はサイケデリック&アバンギャルド感が増しており、70年代後半の彼の活動につながっている。その一方で、初期のアーシーなテイストと印象が重なる「Sorrow」のような楽曲もあり、ここを起点にいろいろなボウイのスタイルへと分岐していく、その根っこのような1枚なのかなという気がしています。そういう意味では、原点回帰という目標を果たしつつ、次へ進むための過渡期的な役割も果たす1枚でもあったのかな。
ここで一度ガス抜きを経験し、ジョージ・オーウェル『1984年』やウィリアム・バロウズとの出会いを経ることで、続く『DIAMOND DOGS』(1974年)へとつながっていくわけですが、そこからさらに劇的な変化を果たすことになるとは、まさかこの頃は誰も想像できなかったでしょうね。
▼DAVID BOWIE『PIN UPS』
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