カテゴリー「1974年の作品」の17件の記事

2023年1月 5日 (木)

DAVID BOWIE『DIAMOND DOGS』(1974)

1974年5月24日にリリースされたデヴィッド・ボウイの8thアルバム。初出時の邦題は『ダイアモンドの犬』。

『THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS』(1972年)『ALADDIN SANE』(1973年)で架空のロックスター“ジギー・スターダスト”を演じ続けたボウイは、強く根付いてしまったイメージから脱却するために1973年7月3日、イギリスでの最終公演にて“引退”を宣言。カバーアルバム『PIN UPS』(1974年)でティーンエイジャーの頃の気持ちを取り戻しつつ、次に向けたステップの一環としてバックバンドTHE SPIDERS FROM MARSを解散させます。

そうした流れの中で出会ったジョージ・オーウェルのSF小説『1984年』に感銘を受けたボウイは、同作からインスパイアされたアルバム制作に取り掛かります。しかし、オーウェルの遺族から『1984年』を使った作品作りを拒否されることに。同じ頃にウィリアム・バロウズが一躍有名にした“カットアップ”手法(ひとつの文章を切り刻み、ランダムに並べ直して新たな文章を作り上げる技法)を用いた作詞術に興味を持ち、新作に取り入れることに。結果として『1984年』とは異なる、「半人半獣の主人公が退廃した未来を予言する」という新たなコンセプトを立ち上げ、『DIAMOND DOGS』というアルバムを完成させます。

ボウイ自身がプロデュースを手がけ、ストリングスのみ旧友トニー・ヴィスコンティが担当。レコーディングではボウイ自身が大半のギターを演奏し、マイク・ガーソン(Key)やエインズレー・ダンバー(Dr)といった前作からのメンバーやハービー・フラワーズ(B)、トニー・ニューマン(Dr)、アラン・パーカー(G/「1984」のみ)、アール・スリック(「Rock'N Roll With Me」のみ)といった面々が脇を固めます。

音楽的には「Diamond Dogs」や「Rebel Rebel」などを筆頭に、グラマラスなロックンロールが中心。過去2枚のオリジナルアルバムの延長線上にある1枚と言えるでしょう。しかし、先にも書いたように作詞の手法が変わったことにより、言葉から受けるイメージに変化が生じていたり、オープニングのSE的トラック「Future Legend」からM-6「Rebel Rebel」まで続くコンセプチュアルな作風などもあり、単なるグラムロックとは異なる印象を受けます。

後半もその作風は踏襲されているのですが、徐々にダークさや穏やかさが強まっていきまず。そんな中、ファンキーなギターストロークとストリングスを大々的にフィーチャーしたスリリングな「1984」(あれ、しっかり使っちゃってるし。笑)や「Big Brother」など、ソウルフィーリングが強まった楽曲も見つけることができ、ボウイなっりに試行錯誤していることも伺えます。

アルバムとしてのインパクトは過去2作には及ばず、やはり過渡期という印象は拭えませんが、本作が続く『YOUNG AMERICANS』(1975年)で迎える新たな変革期への序章になるとは、リリース当時は誰も予想できなかったのではないでしょうか。

 


▼DAVID BOWIE『DIAMOND DOGS』
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2021年5月 7日 (金)

RONNIE WOOD『I'VE GOT MY OWN ALBUM TO DO』(1974)

1974年9月13日に発売されたロニー・ウッドの1stソロアルバム。

当時FACESのギタリストだったロニーにとってキャリア初となるソロアルバムは、そのFACESのメンバーでもあるロッド・スチュワート(Vo)やイアン・マクレガン(Key)のほか、のちに加入することになるTHE ROLLING STONESミック・ジャガー(Vo)、キース・リチャーズ(G, Vo)、ミック・テイラー(G, B)、さらにはジョージ・ハリスン(G, Vo)なども参加する、まさに邦題の『俺と仲間』どおりの内容となっています。

FACESはもちろん、ストーンズの血が濃く混じっていることもあり、本作は両バンドの個性をロニーなりに消化したルーズなロックンロール&ソウルを存分に堪能することができます。ジャガー&リチャーズ書き下ろし曲「Act Together」「Sure The One You Need」や、ジョージとロニーの共作曲「Far East Man」、のちにイジー・ストラドリン(ex. GUNS N' ROSES)が本家ロニーをゲストに迎えてカバーする「Take A Look At The Guy」、ミックのボーカルもしっかりフィーチャーされた「I Can Feel The Fire」など、とにかく印象的な楽曲が多いのですが、どの曲もロニー以上にゲストミュージシャンの主張が強く(苦笑)、そういったところにロニーの人柄が表れているような気がしないでもないです。

だって、「Am I Grooving You」なんてミック・ジャガーとキース・リチャーズの掛け合いボーカルの印象が強いですし、「Far East Man」もジョージ・ハリスンのスライドギターが主役みたいなものですし(なんなら曲自体もジョージのそれだし)。いくら『I'VE GOT MY OWN ALBUM TO DO』とタイトルに掲げていても、「俺が俺が」の性格ではないことが良くも悪くも“フロントマン=ロニー・ウッド”の影を薄くしてしまっている。もっと言えば、迎え入れたゲストのアクが強すぎるんです。初のソロ作、ご祝儀がわりにゲストが豪華なのはよろしいのですが、もうちょっと考えたほうがいいんじゃないの?とこちらが心配になるという(苦笑)。

でも、アルバムとしてのまとまりや個々の楽曲の完成度は非常に高く、1枚のロックンロールアルバムとしてはかなりクオリティが高い。正直、個人的には同時期に制作されたFACESのアルバムよりもダントツに好きなんですよね、こっちのほうが。それは別にロッドがダメとかじゃなくて、単純にフィーリングの問題。本当は比べようがないんですが、趣味的にこっちのほうがど真ん中というだけの話です。

あと、このアルバムを聴いたあとにストーンズの『IT'S ONLY ROCK 'N ROLL』(1974年)を聴くと、非常に納得するものがあるという……ああ、そうか。単に自分がストーンズ側の人間なだけか。納得です。

ストーンズ・ワークスとしては先の『IT'S ONLY ROCK 'N ROLL』と、ロニー加入後の『BLACK AND BLUE』(1976年)の間にある1枚。実は両作をつなぐ上でも重要な作品ではないかと思うのですが、いかがでしょう。

 


▼RONNIE WOOD『I'VE GOT MY OWN ALBUM TO DO』
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2021年1月13日 (水)

SWEET『DESOLATION BOULEVARD』(1974)

1974年11月にイギリスで発売されたSWEETの3rdアルバム。アメリカでは翌1975年7月にリリースされています。

本国イギリスではシングルヒットこと連発させていたものの、アルバムとしては前作『SEET FANNY ADAMS』(1974年)が最高27位まで上昇したものの、以降ランクインせず。ところが、本作に関してはアメリカで最高25位を記録し、50万枚以上ものヒットにつながりました。

実は本作、本国UK盤(RCA盤)とUS盤や日本盤(Capitol盤)とでは一部収録曲が異なります。現在ストリーミングサービスで流通しているのは後者で、僕が慣れ親しんだのも後者なので、今回はわかりやすい選曲の後者について触れていきます。

いわゆるグラムロックと呼ばれるジャンルが衰退し始めた1974年前後、これと代わるようにイギリスではQUEENが人気を獲得し始めます。骨太なハードロックサウンドにグラマラスな要素を乗せることで、それ以前の旧世代ハードロックにはなかった斬新さを確立させたわけですが、このSWEETのサウンド/楽曲もその延長線上にあると言えるでしょう。

本作には「Ballroom Blitz」(全英2位/全米5位)や「Fox On The Run」(全英2位/全米5位)、「The Six Teens」(全英9位)などのシングルヒットが含まれているほか、「Sweet F.A.」や「Set Me Free」などハードロック系アーティストにカバーされる機会の多い楽曲が多数含まれています。「Ballroom Blitz」や「Sweet F.A.」なんて完全にハードロックのそれですし、「Set Me Free」の疾走感もハードロックのそれ、「Fox On The Run」なんてポップソングと呼んでも差し支えのないキャッチーさが備わっていますし。そりゃ売れますわな。

しかも、「The Six Teens」や「Sweet F.A.」などで耳にすることができる多重コーラスや、複雑なアレンジを持つ楽曲展開などはQUEENの影響下にあると言えるもの。「Into The Night」のギターオーケストレーションも、ブライアン・メイのそれですしね。サウンド的にはこれをグラムロック的と括ることはできませんが、もし初期のQUEENを(ビジュアルのみならず)グラムロックの枠に収めるのならば、このSWEETも確実にそっち側に属するということになるんでしょう。

でもね、初めて彼らの音に触れた高校生時代の自分はこのアルバムのこと、グラムロックという認識ではなくて「QUEENに影響を受けたブリティッシュハードロックバンド」と捉えていたんです。いや、もっと言えば「THE WHO始まり、QUEEN経由の英国ハードロックバンド」という認識かな。だって、そういう音じゃなですか。当時はバンドの背景とか、そのへんよく知りませんでしたもものね。今ならインターネットですぐ調べられるし、こういう個人サイトもあるし(笑)。本当便利な世の中になりましたね。

でも、それと同時にカテゴライズがより複雑になっているのも事実。やれグラムロックだ、やれハードロックだ、やれバブルガムポップだ……ぶっちゃけ、そんなのどうでもいいんですよ。聴いた人にとってどう思ったかが正解。現在の僕にとってのSWEETやこのアルバムは「グラムロックの延長線上にいるハードロックバンド」くらいの存在。それで十分ですし、だからといってこのアルバムへの評価が揺らぐことはないですからね。

SWEETの入門編としては、ベストアルバムが一番いいと思うんです(笑)。だって、ここに収録されてない(DEF LEPPARDなどのカバーでおなじみの)「Action」や、POISONカバーした「Little Willy」、MOTLEY CRUEのあの曲の元ネタなんてささやかれた「Hell Raiser」など、名曲満載ですからね。それで気に入ったら、オリジナルアルバムとしては本作から入るのが妥当かなと思います。

 


▼SWEET『DESOLATION BOULEVARD』
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2021年1月12日 (火)

MICK RONSON『SLAUGHTER ON 10TH AVENUE』(1974)

1974年2月リリースの、ミック・ロンソン初のソロアルバム。

70年代初頭のデヴィッド・ボウイの相方として知名度を上げ、以降はMOTT THE HOOPLEやイアン・ハンターなどと活動をともにしたミック・ロンソンですが、本作はボウイがジギー・スターダストとしての活動に終止符を打ったあと、本格的に着手した「自分のため」の1枚。プロデュースはロンソン自身が手がけています。

レコーディグにはTHE SPIDERS FORM MARSでの盟友トレヴァー・ボルダー(B)やマイク・ガーソン(Piano)のほか、のちにJOURNEYなどにも参加するエインズレー・ダンバー(Dr)などが参加。収録された全7曲のうち4曲がカバー曲で、さらに1曲はボウイ作詞・作曲ナンバー。残り2曲のオリジナルナンバーも、うち1曲にはボウイの名前がクレジットされていることから、グラムロック期のデヴィッド・ボウイの延長線上で楽しむことができる1枚と言えるかもしれません。

実際、その内容も70年代初頭……それこそロンソンが関わるようになった諸作品との関連性が多数見いだせる内容となっており、カバーのセレクトやアレンジ含め、非常に“ボウイ的”と言えるでしょう。と同時に、このカラーはボウイひとりのものではなく、ある意味ではロンソンの色でもあった……というのは言い過ぎでしょうか。

エルヴィス・プレスリーの名曲「Love Me Tender」を独自の解釈でアレンジしたオープニングから穏やか、かつ仰々しくスタートするオープニングといい、いかにもボウイな「Growing Up And I'm Fine」といい、まるで“当時日の目を見なかったボウイの未発表アルバム”を聴いているような錯覚に陥るほど、サウンドそのものは初期ボウイそのもの。かつ、ロンソンのボーカルも中音域から高音域にかけて、非常にボウイっぽい。似せているのか、それとも自然と似てしまったのか。このへんも面白いですね。

「Only After Dark」は90年代にDEF LEPPARDがカバーしていたので、これは知っているというハードロックファンも少なくないことでしょう。原曲はパーカッションを強調することで、どこかT. REXっぽくもあるのが印象的。さらに、イタリアのシンガーソングライター、ルーチォ・バッティスティの楽曲をボウイが英訳詞を乗せた「Music Is Lethal」や、8分以上におよぶ(マイク・ガーソンの流麗なピアノ含め、これこそボウイそのものな)組曲「Pleasure Man / Hey Ma Get Papa」など、ボーカルにおいてもギターにおいても、とにかく聴きどころ満載の1枚と言えるでしょう。

そんなアルバムのラストを締めくくるのが、タイトルトラック「Slaughter On Tenth Avenue」。1930年代のブロードウェイ・ミュージカル『オン・ユア・トウズ』の劇中曲(インスト)であり、60年代にはVENTURESのカバーヒットでも知られる楽曲ですが、ロンソン版ではドラマチックなアレンジと物悲しさ漂うギタープレイでじっくり浸らせてくれます。やっぱりマイク・ガーソンのピアノが加わることで、非常に味わい深いものになりますね。

現行盤にはボーナストラックとしていくつかのライブトラックを追加収録。こちらのロンソンのギターも素晴らしく、ボウイがロンソンのことを「僕のジェフ・ベック」と称した意味がより理解できるのではないでしょうか。

 


▼MICK RONSON『SLAUGHTER ON 10TH AVENUE』
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2020年8月17日 (月)

THE ROLLING STONES『IT'S ONLY ROCK 'N ROLL』(1974)

1974年10月にリリースされたTHE ROLLING STONESの12thアルバム(イギリスにて。アメリカでは14作目)。

ジャマイカで制作された前作『GOATS HEAD SOUP』(1973年)は破天荒さが際立った前々作『EXILE ON MAIN ST.』(1972年)とはある種真逆の、ダークさと穏やかさがミックスされた出色の1枚となり、セールス的にも大成功を収めました。続く今作ではその『GOATS HEAD SOUP』とも、さらにはそれ以前のアメリカ南部に傾倒した作風からも飛び出した、新機軸のロックンロールが展開されています。

ミック・ジャガーキース・リチャーズの匿名ユニット・THE GLIMMER TWINSによる初のプロデュース作品である本作は、特に80年代以降へとつながっていくソリッドかつストレートなストロングスタイルのロックンロールが展開されており、そのタイト&ファットな音像からハードロック的な志向も見え隠れします。また、近作で大活躍だったブラスセクションを排除することで、バンドの5人+ピアノというシンプルな編成で構築されたバンドアンサンブルを思う存分に味わうことができます。

まあなにより、本作はオープニングを飾る「If You Can't Rock Me」でのハードな音像&プレイに、いきなり度肝を抜かれるのではないでしょうか。THE TEMPTATIONSのカバー「Ain't Too Proud To Beg」で若干落ち着きを見せるも、本作のタイトルトラックである「It's Only Rock 'N Roll (But I Like It)」でロックバンドならではのタフさが再熱。アップテンポなライブバージョンに慣れ親しんでいると、この落ち着いたテンポの中でじわじわと熱量が高まっていくアレンジは新鮮に映るかもしれませんね。ちなみにこの曲、のちに加入することになるロン・ウッドが12弦アコースティックギターとコーラスでゲスト参加しています。

アルバム中盤の大きな聴きどころとなるのが、6分半を超える大作「Time Waits For No One」。本作を最後にバンドを去るミック・テイラーの素晴らしい長尺ギターソロと、ニッキー・ホプキンスによるドラマチックなピアノプレイをたっぷり楽しめる名曲です。さらに後半も、ノリ一発で攻めまくるハードなロックンロール「Dance Little Sister」、美しいバラード「If You Really Want To Be My Friend」、イワン・スチュアートの軽やかなピアノが耳に残る「Short And Curlies」、「Miss You」などのディスコ路線にも通ずる「Fingerprint File」など個性的な楽曲が目白押し。

そのわりに全体的には地味に映ってしまう本作、商業的には前作ほどの成功を収めることができず、イギリスでは4作連続1位記録も途絶え(最高2位)、アメリカでもかろうじて1位を記録するものの、売り上げ的にはギリギリ100万枚に届くか届かないか(80年代に入ってからミリオン突破)。シングルも「It's Only Rock 'N Roll (But I Like It)」(全英10位/全米16位)、「Ain't Too Proud To Beg」(全米17位)、「Dance Little Sister」(チャートインせず)とあまり大きなヒットに結びつきませんでした。

ミック・テイラーの脱退、新たなギタリスト・オーディションなどもあり、本作を携えたライブツアーはすぐには実現せず、結果ロン・ウッド参加(当時はFACES活動中だったためサポートメンバー)が発表されたあとの1975年6月から北米ツアーを行うのでした。ストーンズ的には、この頃はある種の低迷期だったのかもしれませんね。

 


▼THE ROLLING STONES『IT'S ONLY ROCK 'N ROLL』
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2020年1月21日 (火)

RUSH『RUSH』(1974)

1974年3月にリリースされたRUSHの1stアルバム。日本盤は発売日時こそ不明ですが、当時のマーキュリー・レコード(日本フォノグラム)から『閃光のラッシュ』の邦題で1975年に発売されたようです(解説の執筆日付が1975年1月なので、発売は同年3月以降かなと。となると、海外でのオリジナル盤発売から1年のタイムラグがあったことがわかります)。

当時はニール・パート(Dr)加入前で、メンバーはゲディ・リー(Vo, B)、アレックス・ライフソン(G)、ジョン・ラトジー(Dr)の3人。音楽性もニール加入後のプログレッシヴロック路線とは異なり、ゲディのハイトーンボーカルを前面に打ち出した、ギターリフ主体のハードロックが中心です。

オープニングの「Finding My Way」からして、我々の知るRUSHとは異なり……「あれ、LED ZEPPELINのCDと間違えた?」と勘違いしてしまうほど、ストレートなブルースロック/ハードロックが展開されています。ただ、ツェッペリンほどアレンジに凝った様子もなく、若干ストレートさが目立つかなと。それを「デビュー作らしい直球さ」と受け取るか「ツェッペリンやCREAMの亜流」と受け取るかで、判断は大きく異なるのではないでしょうか。

8曲中7曲がゲディ&アレックスによるもの(「In The Mood」のみゲディ単独)。なので、歌詞もこの2人によるものなので、次作『FLY BY NIGHT』(1975年)以降の作風とは大きく異なります。つまり、“我々が知るRUSH”という視点では、次作こそがRUSH本来のデビューアルバムと受け取ることもできるのかなと。

となると、本作の存在って……いやいや、これはこれで素晴らしいんですよ。「In The Mood」みたいな能天気なロックンロールはさすがに微笑ましいけど、先の「Finding My Way」や「What You're Doing」「Before And After」のハードロックぶりや、アルバムラストを飾る「Working Man」のカッコよさは以降のRUSHにはないものだと思いますし、比較してどっちが優れているとかそういう話ではない魅力が感じられますし。

ニール・パート逝去以降、RUSHのカタログをずっと聴き漁っていましたが、20年ぶりくらいに聴いたこのアルバム、やっぱり良いんです。何を差し置いても先に聴くべき1枚とまでは言いませんが、RUSHというバンドにハードロックの香りを感じて、そのルーツって何だろう?と疑問に思った人にはぜひ触れてもらいたい1枚。90年代以降のモダンはハードロック感とはまた異なる、剥き出しな表現がここで感じられるはずなので。

「Working Man」は、活動後期にも演奏されていたのがいいですよね。しかも、ちゃんと“この3人”らしく味付けされて。本当、生で観たかったです……。

にしても、上に挙げた「Finding My Way」「What You're Doing」「Before And After」は本当に格別ですね。これ、ツェッペリンあたりだけじゃなくて、初期BLACK SABBATHを好むリスナーにも手を伸ばしてほしい名盤かもしれません。

 


▼RUSH『RUSH』
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2019年9月10日 (火)

UFO『PHENOMENON』(1974)

1974年5月リリースの、UFO通算3作目のオリジナルアルバム。Chrysalis Records移籍第1弾アルバムであり、初めてアメリカでチャートイン(202位)を果たした、バンドにとって本格的な第一歩となった1枚です。

本作からギターがミック・ボルトンから、ドイツ出身のマイケル・シェンカーに交代。ドイツではSCORPIONSの1stアルバム『LONSOME CROW』(1972年)でレコードデビューを果たしていたものの、世界的にみれば完全に無名の新人だったシェンカー。当時はまだ19歳と早熟でしたが、本作では早くもその才能とセンスをソングライティング&ギタープレイ面で発揮しております。

TEN YEARS AFTERのベーシストだったレオ・ライオンズをプロデューサーに迎えた本作。大半の楽曲をシェンカーとフィル・モグ(Vo)が手がけており、それもあってか、過去2作の雰囲気とは異なるものへと変化・進化しています。オープニング2曲(「Too Young To Know」「Crystal Light」)でこそサザンロック調の緩やかなロックが奏でられていますが(ちなみに「Too Young To Know」はピート・ウェイ(B)とフィルのよるもの)、3曲目「Doctor Doctor」で空気が一変。哀愁漂うスローなイントロから、最高にカッコいいハードロックサウンドとメロディアスなギターフレーズでドラマチックな展開を作り上げていきます。やっぱり何度聴いてもシビれるわ、この曲は。

単なるブルースロックとは一線を画するスローな「Space Child」を経て、アナログA面ラストを飾る「Rock Bottom」で一気にテンション爆上げ。シンプルなギターリフですが、だからこそのカッコよさがあるわけで、そこにフィル&アンディ・パーカー(Dr)のスリリングなリズムが絡む。緩急の付け方も絶妙ですし、短いフレージングの中でもしっかり“泣いて”いるシェンカーのソロプレイも最高の一言。曲が進むにつれて高揚感も増していくアレンジ含め、文句なしの1曲です。

「Doctor Doctor」と「Rock Bottom」という突出した2曲に目が行きがちな本作ですが、後半(アナログB面)も聴きどころが多いんですよ。メンバー4人の曲作による「Oh My」のタイトさ、シェンカーのアコースティックギターを堪能できる「Time On My Hands」、ハウリン・ウルフなどで知られるウィリー・ディクソン作「Built For Comfort」のヘヴィなカバーバージョン、シェンカーのメロウなプレイを思う存分に味わえるインスト「Lipstick Traces」、シェンカーのギターはもちろんですがピートのベースプレイにも注目な「Queen Of The Deep」と、前半以上にバラエティに富んだ良曲が揃っているのですから。

単なるブルースロック/ハードロックとも異なる“泣き”の要素は、ジミー・ペイジLED ZEPPELIN)ともリッチー・ブラックモア(DEEP PURPLE)とも異なるもの。これがシェンカーのドイツというルーツによるものなのかはわかりませんが(いや、そうなんだろうけど)、間違いなくシェンカーの加入がバンドを良い方向に導き始めたことだけは理解できると思います。ライブ作品やベスト盤ではなくスタジオ作品からちゃんと追いたいというリスナーは、まず本作を入門編として手に取ってみてはいかがでしょう。

 


▼UFO『PHENOMENON』
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2019年7月21日 (日)

NEW YORK DOLLS『TOO MUCH TOO SOON』(1974)

1974年5月に発表された、NEW YORK DOLLSの2ndアルバム。

セルフタイトルアルバムで華々しいデビューを飾った……ものの、そのヴィジュアルやチープな演奏により“まがいもの”扱いされていた彼ら。トッド・ラングレンのプロデュースも今でこそトピックとなり得ますが、当時はどこまでの話題性があったのか……。

で、前作から10ヶ月というスパンで発表された本作ですが、ここで一気に確変が起こるんです。不思議なことに。

全10曲中カバーが4曲。前作では1曲のみだったので、急にカバーが増えたことに不安を覚えますが、ここでは気にしないことにします。だって、どれも出来が良いんですから。

このアルバム、とにかくリズムがヘヴィなんです。70年代のグラムロックというとリズム隊のサウンドがチープで、今の耳で聴くと「もうちょっとどうにかならんかったのか?」と思わずにはいられないのですが、このアルバムに関してはそういった心配はゼロ。だってこれ、グラムロックというよりもハードロックのそれですからね、音の太さでいったら。

で、そのヘヴィさはギターにも言えることでして。1stアルバムのサウンドプロダクション、あれはあれで悪くなかったんですけど、本作を聴いてしまうと物足りなさを感じてしまうところもあります。

実は僕、NEW YORK DOLLSの作品に触れたのはこの2ndアルバムからなんです。当時はあまりグラムロックという感覚がなく、「AEROSMITHの初期の作品みたいだな」と思っていたくらいですから。ですから、そこから数年後に1stを聴いたときは「……ん?」と思ったものです。

まあサウンドについてはここまでにしておいて。肝心の楽曲についてですが、オリジナル6曲の大半がデヴィッド・ヨハンセン(Vo)&ジョニー・サンダース(G)によるもの(4曲。ほかの2曲はジョニー単独とデヴィッド&シルヴェイン・シルヴェイン(G)によるものです)。で、どれも悪くないし、正直1stアルバム収録の名曲たちにも負けていない。オープニングの「Babylon」から、GUNS N' ROSESもカバーしたラストの「Human Being」まで捨て曲なし。そりゃカバー曲多いもんね、なんて嫌味は言わない(個人的には、ジョニーが歌う「Chatterbox」がお気に入りです)。

で、カバーが多いからなのかどうかは別として、とにかく楽曲の幅が前作以上に広がっている。グラマラスなロックンロールから前のめりなパンクロック、ハードロック、ポップ色の強いスタンダードナンバー……「Bad Detective」でアジアンテイストあふれるギターフレーズが飛び出せば、「Stranded In The Jungle」では文字通りのジャングルビートまで取り入れている。リズム面での遊びが増えたぶん、聴いていて本当に飽きないんです。そういった点を踏まえて、NEW YORK DOLLSで最初に聴くべきアルバムってこの『TOO MUCH TOO SOON』かもしれませんね。

そういえば、このアルバムを初めて触れたあとにリリースされたZIGGYの2ndアルバム『HOT LIPS』(1988年)を聴いたとき、その元ネタの数々に気づいて思わずニヤリとしたこと、今でもよく覚えています(笑)。

 


▼NEW YORK DOLLS『TOO MUCH TOO SOON』
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2019年7月 2日 (火)

BAD COMPANY『BAD COMPANY』(1974)

FREEポール・ロジャース(Vo)&サイモン・カーク(Dr)、元MOTT THE HOOPLEのミック・ラルフス(G)、元KING CRIMSONのボズ・バレル(B)によって結成されたBAD COMPANYによる、1974年6月発売のデビューアルバム。

今でいう“スーパーバンド”のはしりですよね、これ。しかも、リリース元はLED ZEPPELINが設立したSwan Song Recordsで、全米1位/全英3位まで上昇。アメリカでは500万枚を超えるセールスを記録し、「Can't Get Enough」(全米5位/全英15位)、「Movin' On」(全米19位)というヒットシングルも生まれている。どちらかというと、本国イギリスよりもアメリカでのウケが良かったんですね。

FREEではアメリカでもそこそこのヒットを飛ばしていたポール・ロジャースですが、このBAD COMPANYを通じてその歌唱力・表現力の高さを幅広い層にまで届けることに成功。彼のキャリアを通じても最大のヒット作となっているだけに、ポールを語る上では欠かせない1枚と言えるでしょう。

FREEのように楽器隊がテクニカルで主張が強いわけではない、あくまでキャッチーな楽曲をポールという稀代のシンガーが歌い、楽器隊はそれを前面に打ち出すためにバックに徹する。このアルバムにはそういう印象が付きまとっており、個人的には初めてきいた10代後半にはそこまで響かない作品でした。

その中でプレイヤー陣が強い主張を出していない、なんならシンガーもそこまで強く自身を誇示していない。そんなだから、一聴しただけでは曲が素晴らしいだけで終わってしまう。が、聴き込めば聴き込むほどにご理解いただけると思うのですが、実は1曲1曲に隙がないんですよね。無駄に完成度が高い。ソウルやブルースをベースにしたロック/ハードロックって、どうしても過剰に歌い上げたり、ギターが泣きまくったりすることが多いんですが、ここではそういった自己主張が皆無。とにかく曲の素晴らしさをアピールすることに専念している。このある意味でのクセのなさが、幅広い層にまで行き届く結果につながった……と考えることはできないでしょうか。

要するに、純粋なポップソングと同じ域にまで到達させることができたという表れだと思うんですよね。ただ、一方でメンバーが過去に在籍したアクの強いバンド群との比較で、より地味に見えて/聴こえてしまった。デビュー作からの大成功はラッキーでしたが、と同時に最大の失態も犯してしまっていた。難しいですね。

先にも挙げたように、曲は文句なしに素晴らしいです。MOTT THE HOOPLEのカバーでもある「Ready For Love」、僕はバドカン・バージョンのほうが好きですし、シングルカットされた2曲や「Bad Company」、そしてソウルフルな「The Way I Choose」など、どれも出来が素晴らしい。で、ここでの経験を経てバンドらしさをより強く打ち出したのが、次作『STRAIGHT SHOOTER』(1975年)という最高傑作なのかなと思います。こちらの作品については、また別の機会に。

 


▼BAD COMPANY『BAD COMPANY』
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2019年5月27日 (月)

KING CRIMSON『RED』(1974)

1974年10月にリリースされた、KING CRIMSONの7thアルバム。ロバート・フリップ(G)、ジョン・ウェットン(Vo, B)、ビル・ブルーフォード(Dr)のトリオ編成を軸に、デヴィッド・クロス(Violin)、メル・コリンズ(Sax)、イアン・マクドナルド(Sax)などをゲストに迎えた、70年代クリムゾンのラスト作となります。

前作『STARLESS AND BIBLE BLACK』(1974年)から約半年という短いスパンで発表された本作ですが、リリース時点ですでに解散を発表済み。バンドの終焉を感じさせるメランコリックな楽曲(「Fallen Angel」「Starless」)も用意されているものの、本作で注目される機会が多いのはタイトルトラック「Red」や「One More Red Nightmare」といったヘヴィな作風の楽曲でした。

特に「Red」は歪みまくったギターサウンドを用いたヘヴィなリフを用いた、重厚感のあるミドルナンバーで、それまでのクリムソンとは一線を画する1曲と言えます。しかも、約6分半におよぶこの曲はボーカルなしのインストゥルメンタルナンバー。ドラマチックとは言い難い不穏な展開を含め、クリムゾンのメタルサイドなんて声もよく耳にします。そしてこの曲、90年代のクリムゾンサウンドの指針になっているはずで、これがなかったらあのダブルトリオ編成で奏でるメタリックなサウンドは生まれなかったのではないか、そう思っております。

また、「One More Red Nightmare」は「Red」にも通ずるヘヴィなリフを用いているものの、ボーカルが入ると急にキャッチーさが増す異色の1曲。プログレだとかメタルだとかカテゴライズが難しいものの、その後のロックに多大な影響を与えたことは間違いありません。

かと思えば、8分にもおよぶインプロビゼーションが繰り広げられる「Providence」という彼ららしい1曲も用意。この曲はライブテイクをそのまま使っているようで、バンドとデヴィッド・クロスのバイオリンとのセッションからはほかのスタジオテイクとは異なる緊張感を味わうことができます。

そして、叙情性の強い歌モノ2曲(「Fallen Angel」「Starless」)のうち、特に「Starless」は初期の「Epitaph」「The Court Of The Crimson King」(ともに1stアルバム『IN THE COURT OF THE CRIMSON KING』収録)にも匹敵する名曲。前半のドラマチックな泣メロと、後半の即興演奏を含む展開という12分にもおよぶ2部構成は、これぞクリムゾンと胸を張って言えるもの。ある種の集大成感も漂っております。

全5曲で約40分。6分以下の楽曲が皆無という“プログレあるある”作品の代表的な1枚ですが、1stアルバム同様に初心者も入っていきやすい内容ではないでしょうか。特に楽器の経験があるリスナーなら、ここで展開されているプレイは存分に楽しめるはず。聴けばこれが45年前のアルバムだなんて、とても信じられないと思いますよ。

ご存知のとおり、クリムゾンの諸作品はデジタル配信およびストリーミング配信がされておらず、まもなく海外ではサブスクリプションサービスでの配信がスタートするという話もあります。日本ではまだまだ先のようですが、こういった名盤が誰でも手軽に楽しめるようになると、今みたいなカルト的人気とはまた異なる広まり方もするのでは……なんて思うのですが、いかがでしょう。

 


▼KING CRIMSON『RED』
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