DAVID BOWIE『YOUNG AMERICANS』(1975)
1975年3月7日にリリースされたデヴィッド・ボウイの9thアルバム。
前作『DIAMOND DOGS』(1974年)でグラムロック期からなんとか抜け出そうと踠き続けたボウイ。同作を携えたツアーでもその兆候は見受けられ、ツアー後半ではソウルミュージックに接近したサウンド/パフォーマンスを見せ始めます。そこに活路を見つけたのか、次作のレコーディングをフィラデルフィア・ソウルの本拠地といえるSigma Sound Studiosにて実施。プロデューサーには盟友トニー・ヴィスコンティを迎え、カルロス・アロマー(G)やアール・スリック(G)、ウィリー・ウィークス(B)、アンディ・ニューマーク(Dr/SLY AND THE FAMILY STONEなど)、マイク・ガーソン(Key)、デヴィッド・サンボーン(Sax)といった名手たちのほか、ジョン・レノン(G, Vo)やルーサー・ヴァンドロス(Vo)など豪華ゲストも参加した、非常にゴージャスな“プラスティック”ソウルアルバムに仕上がっています(「プラスティックソウル」という呼称は、ボウイ自身の発言より)。
タイトルトラック「Young Americans」の緩やかさに度肝を抜かれるオープニングから、ボウイのセクシーな低音が見事に活かされたソウルバラード「Win」、分厚いコーラスがカッコいいルーサー・ヴァンドロスとの共作「Fascination」、楽曲自体は従来のボウイらしさに満ち溢れているのにアレンジによってユルユルのソウルチューンへと生まれ変わった「Right」と、グラムロックのグの字すら見つけられないその内容は、衝撃以外の何ものでもありません。初めてアルバムを通して聴いたときの驚き、今でもよく覚えています。
ただ、80年代の「Let's Dance」がリアルタイム組の筆者にとっては、驚きと同時に納得できるものも正直あったわけで。70年代半ばのリアルタム組とは違った驚きだったことだけは、しっかり付け加えておきます。そりゃあ、バリバリのグラムロックが数枚続いたあとにいきなりこれを聴かされたら、驚かないほうが不思議でしょ。
ロック中心の時代と比べて全体的にテンポダウンした楽曲が多いこともあってか、1曲1曲の尺が長いのも本作の特徴。全体的に5分前後の楽曲中心で、「Somebody Up There Likes Me」に至っては6分半。なもんだから全8曲で40分という、それまでの彼のアルバムの中では曲数の少なさが特徴的です。
その「Somebody Up There Likes Me」から始まるアルバム後半、続く「Across The Universe」はお馴染みジョン・レノンによるTHE BEATLES時代の名曲。これをバンドアレンジでソウルフルに歌い上げるという荒技は、「Fame」の制作にジョンが協力してくれたことに対するお礼もあるのでしょうか。原曲の印象が強いこともあり、最初は違和感バリバリでしたが、これはこれで良いんじゃないかな。で、同じテンポ感の「Can You Hear Me」を経て、最後は自身初の全米1位を獲得したファンクチューン「Fame」で締めくくり。宮沢りえのカバーでもお馴染みの1曲です。実は筆者、最初にこの曲に触れたのは1990年のリメイクバージョンからだったので、当初はこの曲の魅力に気付けずにいました。なので、あとからオリジナルバージョンを聴いてそのカッコよさを再認識した次第です。
ここで会得したスタイルが、その後の『LET'S DANCE』(1983年)へとつながっていくことを考えると、一見気の迷いのように見えるこの経験も非常に重要だったことが理解できるはず。若干のユルさは気になりますが、忘れた頃に聴きたくなる1枚でもあります。
▼DAVID BOWIE『YOUNG AMERICANS』
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