カテゴリー「1975年の作品」の11件の記事

2023年1月 6日 (金)

DAVID BOWIE『YOUNG AMERICANS』(1975)

1975年3月7日にリリースされたデヴィッド・ボウイの9thアルバム。

前作『DIAMOND DOGS』(1974年)でグラムロック期からなんとか抜け出そうと踠き続けたボウイ。同作を携えたツアーでもその兆候は見受けられ、ツアー後半ではソウルミュージックに接近したサウンド/パフォーマンスを見せ始めます。そこに活路を見つけたのか、次作のレコーディングをフィラデルフィア・ソウルの本拠地といえるSigma Sound Studiosにて実施。プロデューサーには盟友トニー・ヴィスコンティを迎え、カルロス・アロマー(G)やアール・スリック(G)、ウィリー・ウィークス(B)、アンディ・ニューマーク(Dr/SLY AND THE FAMILY STONEなど)、マイク・ガーソン(Key)、デヴィッド・サンボーン(Sax)といった名手たちのほか、ジョン・レノン(G, Vo)やルーサー・ヴァンドロス(Vo)など豪華ゲストも参加した、非常にゴージャスな“プラスティック”ソウルアルバムに仕上がっています(「プラスティックソウル」という呼称は、ボウイ自身の発言より)。

タイトルトラック「Young Americans」の緩やかさに度肝を抜かれるオープニングから、ボウイのセクシーな低音が見事に活かされたソウルバラード「Win」、分厚いコーラスがカッコいいルーサー・ヴァンドロスとの共作「Fascination」、楽曲自体は従来のボウイらしさに満ち溢れているのにアレンジによってユルユルのソウルチューンへと生まれ変わった「Right」と、グラムロックのグの字すら見つけられないその内容は、衝撃以外の何ものでもありません。初めてアルバムを通して聴いたときの驚き、今でもよく覚えています。

ただ、80年代の「Let's Dance」がリアルタイム組の筆者にとっては、驚きと同時に納得できるものも正直あったわけで。70年代半ばのリアルタム組とは違った驚きだったことだけは、しっかり付け加えておきます。そりゃあ、バリバリのグラムロックが数枚続いたあとにいきなりこれを聴かされたら、驚かないほうが不思議でしょ。

ロック中心の時代と比べて全体的にテンポダウンした楽曲が多いこともあってか、1曲1曲の尺が長いのも本作の特徴。全体的に5分前後の楽曲中心で、「Somebody Up There Likes Me」に至っては6分半。なもんだから全8曲で40分という、それまでの彼のアルバムの中では曲数の少なさが特徴的です。

その「Somebody Up There Likes Me」から始まるアルバム後半、続く「Across The Universe」はお馴染みジョン・レノンによるTHE BEATLES時代の名曲。これをバンドアレンジでソウルフルに歌い上げるという荒技は、「Fame」の制作にジョンが協力してくれたことに対するお礼もあるのでしょうか。原曲の印象が強いこともあり、最初は違和感バリバリでしたが、これはこれで良いんじゃないかな。で、同じテンポ感の「Can You Hear Me」を経て、最後は自身初の全米1位を獲得したファンクチューン「Fame」で締めくくり。宮沢りえのカバーでもお馴染みの1曲です。実は筆者、最初にこの曲に触れたのは1990年のリメイクバージョンからだったので、当初はこの曲の魅力に気付けずにいました。なので、あとからオリジナルバージョンを聴いてそのカッコよさを再認識した次第です。

ここで会得したスタイルが、その後の『LET'S DANCE』(1983年)へとつながっていくことを考えると、一見気の迷いのように見えるこの経験も非常に重要だったことが理解できるはず。若干のユルさは気になりますが、忘れた頃に聴きたくなる1枚でもあります。

 


▼DAVID BOWIE『YOUNG AMERICANS』
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2021年1月14日 (木)

IAN HUTER『IAN HUNTER』(1975)

1975年4月にリリースされたイアン・ハンターの初ソロアルバム。

1974年末にMOTT THE HOOPLEを脱退したイアンは、同時にバンドを離れたミック・ロンソン(G)とともにソロ活動を開始。MOTT在籍時はスタジオ作品に参加することのなかったロンソンでしたが、ここからハンター/ロンソンのタッグが長きにわたり続いていくことになります。

プロデュースはハンター/ロンソンが担当し、レコーディングにはのちにFOREIGNERに加わるデニス・エリオット(Dr)、ミックの古い友人ジェフ・アップルビー(B)などが参加。イアンはボーカルやピアノのみならず、ギターも担当し、ミックもリードギターのほかオルガンやメロトロン、ベースなども弾いているようです。

ソングライティング面では1曲(「Boy」)のみハンター/ロンソンの共作ですが、それ以外はすべてイアン単独で書かれたもの。MOTT THE HOOPLEっぽさもあれば、ミックのソロやグラムロック期のデヴィッド・ボウイっぽさもある楽曲/サウンドは、グラムロックというよりは無駄を削ぎ落としたシンプルなロックという印象が強いものかもしれません。オープニングを飾る「Once Bitten, Twice Shy」なんてグラムを通り越した王道ロックンロールの風格が漂っていますしね。続く「Who Do You Love」も、どこかMOTTっぽさはあるものの、やっぱりもっとソリッドなロックンロールという印象かな。

かと思えば、ミックの本領発揮と言いたくなる9分近い大作「Boy」はグラム前夜のボウイを彷彿とさせるし、続く完全アコースティックナンバー「3,000 Miles From Here」はそのボウイも憧れたボブ・ディランっぽさすら感じさせる。そして、生き生きとしたミックのギターを堪能できるハードチューン「The Truth, The Whole Truth, Nuthin' But The Truth」……結局、どれも2人が過去に在籍したバンドの色を漂わせるも、実はオリジナリティの強いものばかりという事実を再認識させられます。

イアン・ハンターのボーカルもバンド時代以上に“太さ”を感じさせるし、ミック・ロンソンのギターに関しては……この人は自分が中心になるよりも、カリスマ的フロントマンの隣に立ってこそ本領を発揮するんだってことに気づかせてくれる。イアンの1stソロアルバムではあるものの、実は本作ってハンター/ロンソンというデュオによる鮮烈なデビューアルバムと呼ぶほうが正しいんじゃないんでしょうか。

なお、本作は本国イギリスで21位、アメリカでも最高50位を記録。シングルカットされた「Once Bitten, Twice Shy」は全英14位まで上昇しますが、実はこの曲ってGREAT WHITEが1989年にカバーしたバージョンのほうが原曲よりヒットしているんですよね(GREAT WHITEバージョンは全米5位という、キャリア最大のヒットを記録)。カバーからこの曲を知ったというリスナーも、実は多いかもしれませんね。

ボウイが好き、MOTTが好きってリスナーなら確実に気に入るであろう本作。そんなライトな気持ちで触れてみたら、僕のようにその深みにどっぷりハマってしまった……きっと本作の魅力に気づいてもらえるはずです。

 


▼IAN HUTER『IAN HUNTER』
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2021年1月13日 (水)

SWEET『DESOLATION BOULEVARD』(1974)

1974年11月にイギリスで発売されたSWEETの3rdアルバム。アメリカでは翌1975年7月にリリースされています。

本国イギリスではシングルヒットこと連発させていたものの、アルバムとしては前作『SEET FANNY ADAMS』(1974年)が最高27位まで上昇したものの、以降ランクインせず。ところが、本作に関してはアメリカで最高25位を記録し、50万枚以上ものヒットにつながりました。

実は本作、本国UK盤(RCA盤)とUS盤や日本盤(Capitol盤)とでは一部収録曲が異なります。現在ストリーミングサービスで流通しているのは後者で、僕が慣れ親しんだのも後者なので、今回はわかりやすい選曲の後者について触れていきます。

いわゆるグラムロックと呼ばれるジャンルが衰退し始めた1974年前後、これと代わるようにイギリスではQUEENが人気を獲得し始めます。骨太なハードロックサウンドにグラマラスな要素を乗せることで、それ以前の旧世代ハードロックにはなかった斬新さを確立させたわけですが、このSWEETのサウンド/楽曲もその延長線上にあると言えるでしょう。

本作には「Ballroom Blitz」(全英2位/全米5位)や「Fox On The Run」(全英2位/全米5位)、「The Six Teens」(全英9位)などのシングルヒットが含まれているほか、「Sweet F.A.」や「Set Me Free」などハードロック系アーティストにカバーされる機会の多い楽曲が多数含まれています。「Ballroom Blitz」や「Sweet F.A.」なんて完全にハードロックのそれですし、「Set Me Free」の疾走感もハードロックのそれ、「Fox On The Run」なんてポップソングと呼んでも差し支えのないキャッチーさが備わっていますし。そりゃ売れますわな。

しかも、「The Six Teens」や「Sweet F.A.」などで耳にすることができる多重コーラスや、複雑なアレンジを持つ楽曲展開などはQUEENの影響下にあると言えるもの。「Into The Night」のギターオーケストレーションも、ブライアン・メイのそれですしね。サウンド的にはこれをグラムロック的と括ることはできませんが、もし初期のQUEENを(ビジュアルのみならず)グラムロックの枠に収めるのならば、このSWEETも確実にそっち側に属するということになるんでしょう。

でもね、初めて彼らの音に触れた高校生時代の自分はこのアルバムのこと、グラムロックという認識ではなくて「QUEENに影響を受けたブリティッシュハードロックバンド」と捉えていたんです。いや、もっと言えば「THE WHO始まり、QUEEN経由の英国ハードロックバンド」という認識かな。だって、そういう音じゃなですか。当時はバンドの背景とか、そのへんよく知りませんでしたもものね。今ならインターネットですぐ調べられるし、こういう個人サイトもあるし(笑)。本当便利な世の中になりましたね。

でも、それと同時にカテゴライズがより複雑になっているのも事実。やれグラムロックだ、やれハードロックだ、やれバブルガムポップだ……ぶっちゃけ、そんなのどうでもいいんですよ。聴いた人にとってどう思ったかが正解。現在の僕にとってのSWEETやこのアルバムは「グラムロックの延長線上にいるハードロックバンド」くらいの存在。それで十分ですし、だからといってこのアルバムへの評価が揺らぐことはないですからね。

SWEETの入門編としては、ベストアルバムが一番いいと思うんです(笑)。だって、ここに収録されてない(DEF LEPPARDなどのカバーでおなじみの)「Action」や、POISONカバーした「Little Willy」、MOTLEY CRUEのあの曲の元ネタなんてささやかれた「Hell Raiser」など、名曲満載ですからね。それで気に入ったら、オリジナルアルバムとしては本作から入るのが妥当かなと思います。

 


▼SWEET『DESOLATION BOULEVARD』
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2020年8月16日 (日)

KISS『DRESSED TO KILL』(1975)

昨日のSHARPTOOTHのレビューで触れた「そもそもロック黎明期はそれくらい(アルバムは10数曲で30分前後)のトータルランニングが当たり前」という話題から、今日はKISSが1975年3月にリリースした3rdアルバムについて紹介したいと思います。

……え、もう45年も前のアルバムなの?(笑) ほぼ半世紀前じゃん! 初めてこのアルバムに触れたタイミングが、オリジナル盤リリースから10数年後だったことを考えると、自分がいかに歳取ったかを思いしらされます(苦笑)。

ビートルズをハードロック化させたかのような1stアルバム『KISS』(1974年)、ヘヴィさに比重を置くも録音状態のせいでのちのグランジロック的な不思議な仕上がりになった2nd『HOTTER THAN HELL』(1974年)を経て、半年という短いスパンで届けられた今作は、KISSにとって大きなターニングポイントとなった1枚。なにせ、本作からは「Rock And Roll All Nite」(全米68位)というヒットシングルを生み出し、その効果もあってアルバム自体も初のTOP40入り(全米32位)を果たしたわけですから。ちなみに「Rock And Roll All Nite」は、続くライブアルバム『ALIVE!』(1975年)からシングルカットされたライブテイクがさらなるヒット(全米12位)を記録しており、ファンにはこちらのバージョンのほうが有名かもしれません。

さて、本作ですが基本的には1stアルバムをより軽やか、かつしなやかにバージョンアップさせた内容と言えるでしょう。いかにもKISSらしいドラマチックなイントロを持つ「Rock Bottom」や、どこか泣きメロ的にも聞こえてくる名曲「C'mon And Love Me」、過去2作で見せたヘヴィさを強調させた「She」などの楽曲が印象に残るものの、やはり今作は「Room Service」や「Anything For My Baby」「Love Her All I Can」、そして「Rock And Roll All Nite」に見られるシンプル&ストレートなロックンロールナンバーが聴きどころではないでしょうか。この軽やかさは過去2作にはなかったものだと思いますし、この勢いがのちの『ALIVE!』へとつながっていくわけですから、KISSの成功を語る上でも本作での進化は特筆すべきポイントだと思っています。

とにかく、どの曲もコンパクトでシングルライクなものばかり。このへんの作りからも、当時の彼らが起死回生の一撃を狙っていたことが伺えるのではないでしょうか。ポール・スタンレー(Vo, G)が5曲、ジーン・シモンズ(Vo, B)が3曲、ピーター・クリス(Vo, Dr)が1曲、そしてポール&ジーン&ピーターで歌い分ける1曲というボーカルバランスも絶妙ですしね(そんな作品から、ジーンVo曲の「Rock And Roll All Nite」がシングルヒットするというのも興味深いですし)。

『ALIVE!』で一区切りをつけたKISSは、4作目のスタジオアルバム『DESTROYER』(1976年)でロックンロールバンド的なラフさよりも「作品」を「作り込む」作風へとシフトしますが、そういった意味ではバンド初期の勢いがストレートに感じられるスタジオアルバムは本作までと言ってもいいかもしれません。

 


▼KISS『DRESSED TO KILL』
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2020年6月20日 (土)

BLACK SABBATH『SABOTAGE』(1975)

1975年7月に発表されたBLACK SABBATHの6thアルバム。

『VOL.4』(1972年)までの初期4作で音楽的にピークを迎え、前作『SABBATH BLOODY SABBATH』(1973年)では臨界点に達し新たなスタイルを模索し始めたサバス。その試行錯誤は本作でも続いているように感じます。

オープニングを飾る「Hole In The Sky」の破天荒さは「これぞオジー・オズボーン(Vo)」と言いたくなるくらい“らしい”仕上がりで、文句なしの1曲だと思います。そこから1分にも満たないインタールード「Don't Start (Too Late)」を挟んで、スラッシーなギターリフが印象的な名曲「Sympton Of The Universe」へとつなぐ構成はさすがの一言。サバスの勢いはまったく衰えていないように感じます。

しかし、この「Symptom Of The Universe」という曲がなかなかの曲者でして。メタリックな序盤の印象から一変、後半はジャジーなフレージングとトニー・アイオミ(G)のアコギを大々的にフィーチャーした展開に。このサイケデリック感も彼らの持ち味ではあるものの、1曲の中で前半/後半と分断される雰囲気の変化には若干煮詰まりも感じずにはいられません。フェードアウトで終わるアレンジといい、もうちょっと作り込んだらドラマチックな1曲に仕上げられたんじゃないかと思うんですよね。

で、アナログ盤だと前半のクライマックス(早い。実質3曲目じゃん。笑)となる10分近い大作「Megalomania」へ。序盤のドゥーミーさと中盤での曲展開、ピアノを用いたアレンジなど従来の“らしさ”と新しさを求める“らしくなさ”の間で揺れ動く、どうにも評価の難しい1曲なんですよね。アイオミのリフワークは相変わらずの一言だし、オジーのボーカルもそのヒステリックさ含め最高にカッコいい。だけど、どうにもすべてがベストな形でかみ合っていると言い切れないのがもどかしいところ。ぶっちゃけ10分はキツいので、6分くらいコンパクトにまとめていたらもっと締まりのある楽曲になったんじゃないかな。そこだけが残念でなりません。

後半はドゥーミーさよりもサイケさが際立つ「The Thrill Of It All」(ギターが相変わらずカッコいい)、クワイアをフィーチャーしたドラマチックなインスト「Supertzar」、シンセを前面に打ち出したニューウェイヴっぽい「Am I Going Insane? (Radio)」と雑多な曲が並び、最後に再び9分近い長尺の「The Writ」で締めくくり。この曲も、もうちょっと煮詰めたらコンパクトでインパクトの強い楽曲に仕上がったんじゃないかなと思うんですよ(歌メロは良いしね)。そこが本当に勿体ない。

初期の邪悪さやダークさは完全に薄れ、アートワーク含め普通のハードロックバンドになってしまった……と書くとネガティブな印象を与えてしまいますが、ポジティブに解釈すると数年後に始まるオジーのソロ活動への布石と受け取ることもできます。本作で実践している雑食性って、要は今のオジーそのものですからね。バンドとしては完全に過渡期ですが、長い歴史を振り返ると「そりゃこういうのもあるよね」と不思議と許せてしまう。それは単に、僕がオジーの歌声が好きだからというのも大きいのでしょう。だって、基本的にオジー・サバスにハズレなし!と思ってますから(なので、中途半端ながらもこれはこれでアリと受け止めています)。

万人向けではないですが、サバス初期5作からオジーのソロをある程度まで聴き終えたら、ここに足を踏み入れてもいいのかな。そういう、ある種マニア向けの1枚。

 


▼BLACK SABBATH『SABOTAGE』
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2019年2月18日 (月)

LED ZEPPELIN『PHYSICAL GRAFFITI』(1975)

1975年2月に発表された、LED ZEPPELIN通算6作目のスタジオアルバム。前作『HOUSES OF THE HOLY』(1973年)から2年ぶりと、それまでの彼らのキャリア中最長のスパンを経て発表された、初にして唯一の2枚組オリジナルバムです。

前年1974年に初めてツアーを行わなかった彼らですが、その間にはジョン・ポール・ジョーンズ(B, Key)の脱退騒ぎがあり(当時は噂レベルですが、のちに本人が認めています)、結局バンドにとどまることとなったジョンはメンバーとともに1974年春からレコーディングに突入。8曲の新曲を完成させますが、長さ的には当時のアルバム1枚半分近いボリュームとなり、全部リリースしたかった彼らは「だったら」とそれまでの未発表音源を掘り起こし、7曲を追加する形で正式リリースへとこぎつけました。

未発表曲は古いもので3rdアルバム『LED ZEPPELIN III』(1970年)制作時のアウトテイク「Bron-Yr-Aur」(この頃の彼ららしい、トラッドミュージック風のアコースティックインスト)、それ以外は4thアルバム『LED ZEPPELIN IV』(1971年)から3曲、前作から3曲という内訳。前作のタイトルトラックとなる予定だった「Houses Of The Holy」や「The Rover」など、なんでこれが本編から漏れたの?という曲も多く、寄せ集め感が皆無なところはこのバンドらしいといいますか。とにかくそのボリュームと内容の濃さに驚かされるばかりです。

若い頃は派手な「Custard Pie」や王道ブルースハードロック「In My Time Of Dying」、かの日本のバンドも元ネタにしたファンクロック「Trampled Under Foot」、名曲中の名曲「Kashmir」などがまとまったDISC 1ばかり聴いていましたが、実はこのアルバムの本筋はDISC 2にこそあるんじゃないか……最近聴き返してそんな気がしていました。

シンセサイザーを導入した長尺の「In The Light」や、後半からの展開に続々するムーディーなロック「Down By The Seaside」、前作で見せた新境地をさらに突き詰めた「Ten Years Gone」、『LED ZEPPELIN IV』のアウトテイクながらも軽快かつ大らかなノリの「Night Flight」、スリリングなギターリフがカッコいい「The Wanton Song」、“ストーンズ第6のメンバー”ことイアン・スチュワート(Piano)をフィーチャーしたノリノリのロックンロール「Boogie With Stu」、『LED ZEPPELIN III』の路線を進化させた「Black Country Woman」、そしてツェッペリンらしい王道ハードロック「Sick Again」と非常にバラエティに富んだ楽曲が並んでいる。ぶっちゃけ、統一感がないっちゃあないんですが、そんな不満を言わせないくらい圧倒感が上回っている。そこに“ザ・王道”なDISC 1が加わるわけですから、確かに最強なんですよね。

このアルバムがもっとも好きという声が多いというのも頷ける話。事実、アメリカでは当時6週連続1位を記録。2枚組にも関わらず1600万枚(800万セット)以上も売り上げている事実がすべても物語っていると思います。1作目から5作目までの集大成的内容でもあるので、中〜後期ツェッペリンの入門編としてもオススメです。



▼LED ZEPPELIN『PHYSICAL GRAFFITI』
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2017年4月 5日 (水)

AEROSMITH『TOYS IN THE ATTIC』(1975)

Geffen Records移籍以降の全スタジオ作品は紹介しておきながら、70年代のアルバムは2nd『GET YOUR WINGS』(1974年)止まりだったことに改めて気づいた今日この頃。スティーヴン・タイラーのソロ来日公演も近づいておりますし、ここらでひとつAEROSMITHの全アルバムレビューを完成させたほうがいいのではないかという気がしております。

ということで、手始めに1975年の出世作『TOYS IN THE ATTIC』から取り上げていきましょう。本作はAEROSMITH通算3作目のオリジナルアルバムで、「Sweet Emotion」(全米36位)、「Walk This Way」(全米10位)というヒットシングルを生み出しています。また、本作のヒットに導かれるように、1stアルバムからのシングル「Dream On」も再発されて全米6位というヒット曲になりました。

ミディアムテンポのヘヴィでサイケなロックンロールが中心だった前作『GET YOUR WINGS』から一変、本作では非常に軽やかかつハードなロックンロールを聞かせてくれます。オープニングのアップチューン「Toys In The Attic」の時点で、その違いは一聴瞭然。続く「Uncle Salty」は前作の流れにあるサイケデリックな香りのするロックナンバーですが、前作までとは違って“もったり”感が消え、より軽やかさが増している。それは3曲目「Adam's Apple」にも言えることで、この2曲は前作に入っていても不思議じゃないのにどこか違う次元に思えてしまう。プロデューサーも前作から引き続きジャック・ダグラスが務めているのに、どこか違って聞こえるのだから不思議なものです。

そして、本作がこれまでとは大きく違っていることを決定付けるのが「Walk This Way」「Sweet Emotion」、さらに「You See Me Crying」といった楽曲群です。「Walk This Way」でのファンキーなプレイ&サウンドは、のちのエアロにとって重要な要素になり、80年代にはヒップホップとの邂逅へと導く礎となります。「Sweet Emotion」でのサイケデリックな味付けは前作とはまた違ったものがあり、サイケさの中にも重心の低いゴリゴリしたサウンドが存在しており、バンドの体質がここまで変化したかと驚かされます。さらに「You See Me Crying」のような美しいピアノバラードが加わったことは、このバンドの楽曲の幅を一気に広げていくひとつのきっかけになるわけです。とはいえ、この曲を作った頃にはその20数年後に他人が書いたバラードで全米1位を獲得するとは、夢にも思ってないでしょうけどね。

この他にも軽快なブギー「Big Ten Inch Records」、イントロのアルペジオが印象的なポップロック「No More No More」、次作への片鱗を感じさせるヘヴィな「Round And Round」と楽曲のバラエティさが一気に加速していることが伺えます。完全に確変したことが伺えるし、そりゃヒットするわなと思わずにはいられない傑作。ここからエアロにとって最初の快進撃がスタートするわけです。



▼AEROSMITH『TOYS IN THE ATTIC』
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2004年12月 6日 (月)

QUEEN『A NIGHT AT THE OPERA』(1975)

「とみ宮」時代に執筆しておきながら、アップするチャンスがないまま現在に至る、というレビューが幾つかあるんですね。そして、「とみ宮」終了後に次サイト……まだこういう形で再開しようと決める前に、とりあえず書いていたレビューも少々あるんですわ。で、そういう浮かばれないレビューを紹介しようじゃないか、と。特にQUEENAEROSMITHTHE WiLDHEARTS関係のレビューに多いんです。

そのままアップできるものはそのまま、中には時間が経ち過ぎて多少手を加えたくなるものもあるので、そういうのは書き直したりして。そんな感じで時々アップしてこうかと思います。

というわけで、最初はQUEENのこの名盤から……。

QUEENが1975年にリリースした通算4作目のオリジナルアルバム。日本では『オペラ座の夜』という邦題で馴染みがあるかと思います。

一般的にQUEENのオリジナルアルバムでまず最初に手が伸びそうなのが、このへんのアルバムなのかな? 最近では某ドラマの影響で「I Was Born To Love You」がもてはやされてますが、やはりQUEENといえば「Bohemian Rhapsody」だ、というのは今も昔も変わらないですよね。良くも悪くも、QUEENというバンドのパブリック・イメージを決定づけた1曲。その名曲中の名曲を含むオリジナル作という以上に、彼らの音楽的キャパシティの広さ、クオリティの高さにただただ息を呑むり……そんなアルバムです。

1曲1曲を取り上げれば、ホントにいろんなタイプの楽曲が存在するんですよ。ストレートなハードロックだったり、アコースティックバラードだったり、ポール・マッカートニーを彷彿とさせるポップナンバーだったり、ボードビルっぽいオシャレな曲だったり、オペラ調の大作だったり。メンバー4人がみな、独立したソングライターというのもあるし、ベースのジョン・ディーコンを除く3人がリードボーカルを取れるという強みもある。そういう意味では非常にビートルズKISS的なんだけど、音楽面には本当に幅広い、いや、広過ぎる。ロックにこだわらない貪欲なミュージシャンシップとでもいいましょうか。それが時として仇になる場合もあるんですが、ハマッてしまえばもうこっちのもの。二度と抜けられないんですよね、この世界から。

ストレートなハードロック色が強かった1stアルバム『QUEEN』(1973年)、トータル性を重視したコンセプトアルバムだった2ndアルバム『QUEEN II』(1974年)、そこからさらに一歩踏み込んだ3rdアルバム『SHEER HEART ATTACK』(1974年)ときて、この4作目でQUEENはひとつの完成型を生み出すわけです。いや、それまでの完成型であるにも関わらず、さらに高みを目指そうとしてるんじゃないか。改めて個々の楽曲を聴くと、そう思えてなりません。だってアルバム1枚を通して表現してきた世界観を、1曲の中にすべて詰め込むことに成功してるんですから。

個人的には“「Bohemian Rhapsody」が入ってるオリジナル作”というよりも、“「You're My Best Friend」と「Love Of My Life」が入ってるアルバム”という認識のほうが強いかな。だって、「Bohemian Rhapsody」はベストやライヴ盤を買えば必ずといっていいほど入ってるしね。ま、それら全部をまとめて聴けて、さらに「Death On Two Legs」や「I'm In Love With My Car」といったハードロック・チューン、「The Prophet's Song」といった壮大なオペラチューンも聴ける。というか、散漫なようで非常に練られていて、アルバムとしてすんなり聴けちゃう1枚なんですよね。曲間が殆どない箇所が多いから、アナログだったらどこからどこまでが1曲なのか判らないこともあったんじゃないかしら?

とにかく。オープニングからラストのイギリス国歌「God Save The Queen」まで、じっくり味わってください。こんな優雅なアルバム、今の時代にはほとんどどお目にかかれないでしょうからね。



▼QUEEN『A NIGHT AT THE OPERA』
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2004年9月 5日 (日)

とみぃ洋楽100番勝負(17)

●第17回:「Bohemian Rhapsody」 QUEEN('75)

 これまたベタですが。QUEENとの出逢いはMTVで観た "Radio Ga Ga" や "I Want To Break Free" のPV。ポップだし面白いとは思ったけど、決して「ロック」的なカタルシスは感じなかったのね。その後、"One Vision" って曲で初めてリアルタイムでQUEENのカッコ良さに気づいて、「KIND OF MAGIC」ってアルバムにやられて。多分、このアルバムから入ったから、俺は'70年代の王道ハードロック路線も、'80年代の王道ポップ路線も、同時に好きになれたんだと思う。

 で、当時の新作を聴いてQUEENに興味を持った俺は、当然過去の作品に遡るわけですよ、レンタル屋に行って。ひとつ前のアルバム「THE WORKS」には前述の2曲も入ってるし確かに馴染みはあったんだけど、俺はここで「GREATEST HITS」を手にしたわけ。当然でしょうね、普通はベスト盤に手が伸びるもの。

 ご存知の通り、この "Bohemian Rhapsody" は「GREATEST HITS」の1曲目に収録されてるんですね。で、当然のようにその世界観にやられてしまうわけ。この6分近くある長尺の1曲の中に、ロックの「起承転結」全てが凝縮されてるだけでなく、他ジャンル‥‥クラシックやオペラといった、およそロックとは結びつかないようなジャンルまでも取り込んでるわけですよ。もうね、ロックを大して知らない俺は感動しちゃったわけですよ、「これは新しい!」って。既に10年も前の曲なのにね、その時点で。

 俺、カラオケに行って気分がいいと必ずこの曲を歌うんですよ、ひとりで。中盤のオペラパートもアホみたいにひとりで全部こなして。ホント、ただのアホですよ。つーことは、それを披露した時に居合わせたあなたは、俺が気を許した「仲間」のひとりってわけですよ。ま、最近では滅多に披露しませんけどね(疲れるし)。

 一度だけ、この曲をライヴで聴いたことがあるんですよ。あ、QUEENは当然生で観たことないので、カバーなわけですが。昔「LIVE UFO」ってイベントがあったでしょ、ミスチルと桑田が過去の洋楽名曲をカバーする、あれ。俺、2回くらい観に行ったんですが、そこで桜井が歌うわけですよ、この曲を‥‥正直、「勝った!」って思ったね。年季が違うもん、この曲に関しては(この曲だけな!)。

 ‥‥嘘です。多分負けてます。いや、負けということにしといてあげるよ!(何故そんなに強気!?)



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2004年5月19日 (水)

LOU REED『METAL MACHINE MUSIC』(1975)

なんつーかね、すっげーイライラしてるんですよ。「何に?」だって!? あれですよ、『FUJI ROCK FESTIVA '04』に出演が決まった、ルー・リードに対するみんなのリアクションにですよ! ホント、なんかね……久し振りにネット上の(一部の)音楽ファンを見てて、悲しくなった‥‥というか、ぶっちゃけ頭にきたね。本気で。

誰々がよくて、ルー・リードはトリの器じゃない、とかさ。トリにはもっとメジャー級を持ってこいとかさ。「○○(ヒットチャート上でも成功を収めている若手バンド)の方がいい」とかさ‥‥バカじゃねーの??

なんかね、もうそういう人っていくら「フジロックには誰が来ても行く!」とか言ってても、結局は「ひとつふたつは超売れっ子を観て帰らないと満足しない!」っていうような感じなんでしょうね。まぁさ、そんなもんだとは判っていてもね……ルー・リードが貶されてるのを見ると、さすがにさ‥‥何がロックファンだよ!?って話ですよ。

久し振りにフォント弄りする程怒り狂っている俺ですが‥‥そんな今の心境にピッタリのアルバムを今日は紹介します。ルー・リードといえばこれ!とは決して言い難い1枚ですが、間違いなくその後の歴史を変えた作品ですよね。

今から30年近く前にリリースされた、この暴力的な2枚組アルバム(アナログでは2枚組ですが、CDでは1枚に全部収まってます)。俺がその存在を知ったのは、多分'90年代に入ってから。SONIC YOUTHの『GOO』というアルバムで彼らにハマり、その後彼らの作品を遡って聴いていくと、また彼らのことをいろいろ調べていくと、必ずといっていい程、「ルー・リードの『METAL MACHINE MUSIC』を発端に~」という壁にぶつかるわけ。当時、デヴィッド・ボウイ経由でTHE VELVET UNDERGROUNDやルー・リードのソロ作品は通過していたんですが、このアルバムのことは知らなかったのね。で、調べてみるとアナログ盤も暫く廃盤、CD化は未だされていないという話で‥‥噂が噂を呼んで俺の周りでも「どんなにスゲーアルバムなんだろう?」とにわかに盛り上がってね。

1991年初頭。多分六本木の「WAVE」だったと思うけど、そこで白っぽいジャケットにゴスメイクのルー・リードが写った、如何にもブートっぽい1枚のCDを見つけて。そのタイトルが『METAL MACHINE MUSIC』……へっ、これが!? けど、俺が以前雑誌で目にした黒っぽいジャケットとは違うじゃない!? けど店頭のポップ(店員の手書きによる推薦文)には「奇跡のCD化!」とか書いてあるし……う~ん、これ買おうかどうか……確か3,000円近くしたんですよ、当時このアルバム(これ、EU盤のみのCD化だったこともあって、余計に高かったんですよね)。まだ浪人生で金のなかった当時の俺は、結局同じ頃にリリースされたばかりのデヴィッド・リー・ロス新譜を買って帰ったんだよねぇ(だって、ジェイソン・ベッカーがギター弾いてるんだもん!)。

それから1年半近く経って、ルー・リードの旧譜(BMG/Arista盤)が日本で一斉に再発されてね。そこにはこの『METAL MACHINE MUSIC』も含まれていて。しかもオリジナル・ジャケットで! 当然買うわけですよ。

買ってから12年近く経つわけですが‥‥未だに通して聴いたのは数回のみというこのアルバム。ハッキリいって、万人にお勧めする内容ではありません。上に挙げたようにSONIC YOUTHだとか、所謂ノイズ系/インダストリアル系のルーツとして名前が挙がる1枚ですが、普通にロックアルバムと思って手を出すと痛い目をみます。

アナログ時代は2枚組、片面15~7分×4面。CDだと62分に渡る、全編エレクトリック・ノイズ。ギターのフィードバック音だったり電子ノイズだったり……そういったサウンドとも呼べないようなサウンドが、延々続くわけです。勿論そこにはルー・リードの歌なんて一切ない。リズムもなければメロディもない。かろうじて、ノイズとノイズがぶつかることによって生じる奇跡的なハーモニーがあるだけ。いや、それだって通常のハーモニーとは異なる種類のもの。音楽における三要素……リズム/メロディ/ハーモニー……これらがないと受け付けられない、って人には絶対にお勧めしない作品。それがこのアルバムなのです。

けど……今久し振りに引っ張り出して、爆音で聴いてるんだけど……スッゲー気持ちいい。何だろう、ムシャクシャしてた荒れた心が癒されるっていうの? いや、違うか。けど聴いてて無心になれるし、本当に気持ちよくなってくるのは確か。人によって「どこからどう聴いてもただのノイズじゃん」と切り捨てられるだろうし、実際そう感じる人が大半だと思うけど、何故か今日の俺にはしっくりくるアルバム。

一時期、BOREDOMSとかあの辺のジャンク・ミュージックというか、そういうノイジーなバンドが一部で流行ったことがあったけど、あれを聴くとやっぱりこのアルバムがあったからこそなのかな……なんて思えるし、その後のシューゲイザーとかグランジとかにもこういう側面があったし、それこそ最近のRADIOHEADなんかにも通ずるものを感じ取ったり。勿論、単なるこじつけと言われればそれまでだけど、やっぱりただのノイズアルバムでは済まされないんだよね、これ。

リリースから30年近く経った現在においても、ルー・リードは何故このアルバムを作ったのか、その理由を明確にしていません。きっと死ぬまでその理由は白状しないと思うけど。これが特異な作品だとは頭で判っていてもね。オマエの好きなロックがどないなもんじゃ!?って思うわけですよ。ホント、今日だけは言わせて。明日からまたいつも通りの更新に戻るから。

「けっ、ルー・リードかよ……
○○の方が良かったなぁ」とか言った奴ら。

 

 

 

 

お前等全員死刑。

 

▼LOU REED『METAL MACHINE MUSIC』
(amazon:海外盤CD

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