カテゴリー「1976年の作品」の15件の記事

2023年1月 7日 (土)

DAVID BOWIE『STATION TO STATION』(1976)

1976年1月23日にリリースされたデヴィッド・ボウイの10thアルバム。

前作『YOUNG AMERICANS』(1975年)でブラックミュージックからの影響をストレートに表現したボウイでしたが、改めて「白人の自分がブラックミュージックを表現すること」と真摯に向き合い始めます。その結果、ストレートにブラックミュージックを演奏するのではなく、ヨーロッパ人である自分の感性を通過させることが今作のテーマへとつながっていきます。

前作の制作にも携わったハリー・マスリンを共同プロデューサーに、カルロス・アロマー(G)やアール・スリック(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)、ロイ・ビタン(Key)といった名うてのセッションミュージシャンをレコーディングに迎えてLAにて制作。その結果、ヨーロッパ特有の翳りやひんやりとした空気感を孕んだ独自のソウルミュージックを構築することに成功しています。

オープニングを飾るタイトルトラック「Station To Station」は10分以上におよぶ、プログレッシヴな大作。文字通りのプログロックというよりは初期KRAFTWERKにも通ずるテイストが感じられ、続く『LOW』(1977年)以降に取り組む電子音楽への片鱗も見え隠れします。まさにこの1曲に本作のすべてが集約されてる……というのは過言でしょうか。そういった意味では、『YOUNG AMERICANS』と『LOW』をつなぐ過渡期的1枚なのかもしれません。

もちろん、前作の延長線上にある「Golden Years」のような曲もあるし、その流れを汲みつつ次作以降の香りを漂わせる「TVC15」や「Stay」みたいな曲もある。さらに、80年代以降のアダルト路線を先取りしたような「Wild Is The Wind」(ニーナ・シナモンのカバーでお馴染みの1曲)まで存在し、一定のトーンを保ちながらも実は意外といろんなことにトライしているという、非常に面白い1枚だったりします。

自身が“プラスティックソウル”と呼んだ『YOUNG AMERICANS』がどこかユルさを孕んだ“迷い”の1枚だとしたら、その“迷い”がひとつのスタイルへと結実していく予兆を示したのがこの『STATION TO STATION』だったのかな。そういった意味では、実は70年代の諸作品においてもっとも重要なアルバムかもしれません。

 


▼DAVID BOWIE『STATION TO STATION』
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2022年11月10日 (木)

AC/DC『DIRTY DEEDS DONE DIRT CHEAP』(1976)

1976年9月20日に本国オーストラリアでリリースされた、AC/DCの3rdアルバム。

海外では同年11月12日に、ヒプノシスが手がけた現行のジャケットに差し替えて、『HIGH VOLTAGE』(1976年)に続く2作目として発表されました。ただ、アメリカでは当時発売されておらず、ボン・スコット(Vo)の死去をきっかけに1981年に入ってから発売され、『BACK IN BLACK』(1980年)の大ヒット(全米4位)に続いて最高3位を記録しています。

オーストラリア盤とインターナショナル盤とでは収録内容が一部異なりますが、ここでは現行のインターナショナル盤について話を進めていきます。

ボン・スコット、アンガス・ヤング(G)、マルコム・ヤング(G)、マーク・エヴァンス(B)、フィル・ラッド(Dr)という初期のメンバーがようやく安定したタイミングで、楽曲の勢いや充実度も一気に高まったのが本作。ライブには絶対に欠かせない、多くのアーティストによってカバーし続けられているタイトルトラックや、「Rocker」「Problem Child」といった以降のライブでの定番曲を複数含み、ハードロックならではの派手なサウンドとパンクロックにも通ずる精神性が表れた歌詞などが、当時の若者に支持されたのも理解できる、とにかく大音量で楽しみたい内容です。

かと思えば、アナログB面(M-6以降)は「There's Gonna Be Some Rockin'」みたいなノリノリのブギー、7分近くにもおよぶパンク抒情詩のようなドラマチックなロックンロール「Ain't No Fun (Waiting Round To Be A Millionaire)」、地味ながらも味わい深いスローブルース「Ride On」、黒っぽいノリを持つグルーヴィーなロックンロール「Squealer」と変化球揃い。前半(M-1〜5のアナログA面)のストロングスタイルと比較すると、バンドとして創作意欲がかなり高まったことか若干の迷いも見せていることが窺える。ここでいろいろ試した結果が、続く『LET THERE BE ROCK』(1977年)での開き直りにつながるのかもしれません。

ハードロックとはいっても、本作まではロックンロール色のほうがまだまだ濃厚。バンドとしてより強靭なアンサンブルを次作で獲得することで、一気に化けていくと考えると、この充実ぶり/前のめり感が過渡期のようにも映るわけです。もちろん、良い意味でですけどね。

日本では『悪事と地獄』の邦題で親しまれてきた本作。ほかのヒット作と比較すると、どうしても地味な印象がありますが(ヒプノシスによる新たなアートワークの影響も強いのかな)、アメリカでは現在までに600万枚以上を売り上げ、『BACK IN BLACK』の2,500万枚、『HIGHWAY TO HELL』(1979年)の700万枚に続くセールスを誇る代表作のひとつとして愛され続けています。

 


▼AC/DC『DIRTY DEEDS DONE DIRT CHEAP』
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2022年3月 2日 (水)

SCORPIONS『VIRGIN KILLER』(1976)

1976年秋に発表されたSCORPIONSの4thアルバム。日本では『狂熱の蠍団〜ヴァージン・キラー』の邦題で知られる1枚です。

当時のメンバーはクラウス・マイネ(Vo)、ルドルフ・シェンカー(G)、ウリ・ジョン・ロート(G, Vo)、フランシス・ブッフホルツ(B)、ルディ・レナーズ(Dr)。前作『IN TRANCE』(1975年)を携えた初のイギリス公演も成功を収め、本国・西ドイツ(当時)以外にも確実にその名を広め始めたタイミングに、その人気を決定づける1枚を完成させます。

アルバムのオープニングナンバー「Pictured Life」は、哀愁味を帯びたマイナートーンのメロディライン含め、初期の彼らを代表する1曲。初期の彼らのスタイルがひとつ完成したと言っても過言ではないでしょう。かと思えば、「Catch Your Train」「Virgin Killer」のように爆発力の強い疾走チューンもこの時期の彼らの特徴的な楽曲で、特に後者はガナるようなクライス・マイネの歌唱スタイルと相まってどことなくパンキッシュさも伝わってきます。

かと思えば、ブルージーなミディアムスローナンバー「In Your Park」、LED ZEPPELIN的なスタイルの「Backstage Queen」といった70年代的な楽曲も存在。そしてなにより、ウリがボーカルを担当する「Hell-Cat」や「Polar Nights」の存在。これが非常に大きい。特に前者の放つ独特の空気感は今のSCORPIONSには存在しないもので、ウリが影響を受けたジミ・ヘンドリクス色が濃厚。その個性的なギタープレイ含め、最初に耳にしたときはなかなか受け付けがたかったですが、今となっては良いアクセントとして受け止めています。

そのほか、クラウスの伸びやかな歌声とブルージーなウリのギタープレイが絶妙なハーモニーを生み出す「Crying Days」や「Yellow Raven」といったスローナンバーも聴きどころのひとつ。マティアス・ヤプス(G)以降のポップ路線には存在しない、アダルトな香りはこの編成ならでは。この時期のほうが好きという初期にこだわるファンが少なくない理由も、わからないでもありません。それくらい唯一無二の空気感が、ここには存在するのですから。

初期SCORPIONSの大まかなスタイルはこのアルバムでほぼ完成。続く『TAKEN BY FORCE』(1977年)がダメ押しとなり、翌1978年春にはついに初来日公演まで実現し、かの名ライブアルバム『TOKYO TAPES』(1978年)へとつながっていくのでした。

にしても本作、その内容以上に初期のアートワークのほうが話題になりすぎて、正当な評価が下しにくくなっているような気がしてなりません。今所持していたら児ポにひっかかりそうなあのジャケット、以前CDで所持していたものの、ある時期を境に手放したことを付け加えておきます。さすがにあれが今突然目の前に現れたら、気が気じゃないですものね(苦笑)。

 


▼SCORPIONS『VIRGIN KILLER』
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2021年6月20日 (日)

KISS『ROCK AND ROLL OVER』(1976)

1976年11月にリリースされたKISSの5thアルバム。

ライブアルバム『ALIVE!』(1975年)およびシングルカットされた「Rock And Roll All Nite」がスマッシュヒットを記録(前者が全米9位、後者が同12位)。続くスタジオアルバム『DESTROYER』(1976年)も全米11位まで上昇し、シングルカットされ「Beth」が最高7位を記録するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いだった当時のKISSは、前作から8ヶ月という短いスパンで次作を届けます。そういう時代だったとはいえ、この頃のKISSの創作意欲(というか創作能力)には相当なものがあったように感じます。

ボブ・エズリンをプロデューサーに迎え、鉄壁なスタジオワークでまとめあげた『DESTROYER』での反動からか、続く今作ではプロデューサーに『ALIVE!』を手掛けたエディ・クレイマー(ジミ・ヘンドリクスデヴィッド・ボウイLED ZEPPELINなど)を迎え、ライブ的な生々しさと躍動感を重視した作風で仕上げられています。そのレコーディングも通常のレコーディングスタジオではなく、ニューヨークの劇場を借り切って行われたとのこと。KISSが本作に何を求めていたかがよくわかるエピソードではないでしょうか。

前作に見受けられたシアトリカルな要素はここでは払拭され、ポップさはそのままに、初期のシンプルなスタイルによりハードさを加えたサウンドに進化。楽曲のキャッチーさ、RAMONESが“パンクロック版BEACH BOYS”だとしたら、本作はそのハードロック版と言えなくもないかな。それくらい1曲1曲の個が立っており、歌、コーラスワーク、演奏どれもが無駄のないアレンジで固められている。だけど、そこには作り込まれた感は皆無で、程よいラフさがライブバンドらしさを見事に表現しているわけです。

シングルカットされた「Calling Dr. Love」(全米16位/ジーン・シモンズ歌唱)や「Hard Luck Woman」(同15位/ピーター・クリス歌唱)のほか、「I Want You」や「Makin' Love」(ともにポール・スタンレー歌唱)などのライブ映えする代表曲、「Take Me」や「Ladies Room」「Love 'Em And Leave 'Em」「Mr. Speed」など隠れた名曲も多く、全編を通してダレることが一切ない完璧な1枚。アイコン的なアートワーク含め、1stアルバム『KISS』(1974年)や前作『DESTROYER』同様、入門者に最適な1枚ではないでしょうか。

実は筆者も、70年代のKISSオリジナルアルバムで最初に手にしたのが、このアルバムでした。自分に中での「初期のKISSらしさ」がもっとも感じられる1枚はこれなのかな……なんて、最近聴き返すたびに感じています。

 


▼KISS『ROCK AND ROLL OVER』
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2021年1月15日 (金)

RAMONES『RAMONES』(1976)

1976年4月発売の、RAMONESの1stアルバム。日本盤は『ラモーンズの激情』という邦題で知られています。

Wikipediaによると、「ニューヨーク・パンクのシーンにおいてはパティ・スミスに続きレコード契約を得たアーティスト」と記されています。このRAMONESのアンダーグラウンドシーンでの台頭が、ロンドンパンクのSEX PISTOLS誕生の引き金となったなんて言われていますが、本作を聴くとそれも納得の内容/仕上がりだと断言できるでしょう。

すべての楽曲が1〜2分台というコンパクトなショートチューンで、シンプルな3コードをベースにしたアップテンポのロックンロールが中心。全14曲で約29分という潔い内容は、のちのパンクロック作品に大きな影響を与えることになります。パンクロックといっても、のちのハードコア的な攻撃性やハードさ、タフさはあまり感じられず、むしろGREEN DAY以降のポップパンクの下地と言えるようなキャッチーさが備わった楽曲がずらりと並びます。

オープニングを飾る「Blitzkrieg Bop」のシンガロング、親しみやすいメロディはバブルガムポップのそれに通ずるものがあるし、「I Wanna Be Your Boyfriend」の流麗な歌メロ、「Chain Saw」で耳にする“ウーワー”コーラスなんて60年代のポップソングのそれですしね。曲冒頭での「1、2、3、4!」ってカウントや、ハードロックのそれとも異なるパワフルなギターリフやパワーコードにこそパンクロックの無軌道な勢いを強く感じますが、実は楽曲自体は非常によく作り込まれた王道ポップチューンという事実。これこそが、RAMONESが(音楽的にも)長きいわたり愛され続ける要因かもしれません。

USパンクの第1世代と言えるイギー・ポップ率いるTHE STOOGESというよりは、同じく50〜60年代のポップスを下地にしたグラマラスなNEW YORK DOLLSにより近い存在。それがRAMONESのスタートだったのではないでしょうか。このシンプルでキャッチーなロックンロールスタイルを最後まで崩さなかったからこそ、彼らは信頼され、愛され続けた。それがよくわかる原点の1枚だと思います。

RAMONESの真の凄みを味わいたければ、スタジオアルバムではなくてライブアルバムから入るのがベストですが、楽曲の良さをじっくり堪能したければ、まずはこのデビュー作から聴くのが一番。基本的にはどのアルバムも一緒っちゃあ一緒ですが(アルバムを重ねるごとに進化するポイントも生まれますが)、だからこそまずはこの1stアルバムから聴くのが正しいのかな。そんな気がします。

結局RAMONESは90年代前半に数回観たっきりでしたが、それでもあの凄さを毎回クラブチッタクラスのハコで味わえたのは、今となってはいい思い出です。

 


▼RAMONES『RAMONES』
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2020年9月30日 (水)

BLACK SABBATH『TECHNICAL ECSTASY』(1976)

1976年9月に発売されたBLACK SABBATHの7thアルバム。

前々作『SABBATH BLOODY SABBATH』(1973年)を経て、前作『SABOTAGE』(1975年)にて初期のスタイルからの脱却および転換期を迎えたBLACK SABBATH。音楽シーン的にはパンクやニューウェイヴなど新しいムーブメントがアンダーグラウンドで沸々と盛り上がり始めていたタイミングであり、サバスのようなバンドはオールドウェイヴ扱いされ出していた時期でもあります。

そんな中、バンドは『SABOTAGE』でうっすら見せていたプログレ路線やシンセを前面に打ち出したニューウェイヴ路線をさらに強め始めます。本作ではジェラルド・ウッドラフをキーボーディストとして前面的にフィーチャー。さらに、アートワークではPINK FLOYDLED ZEPPELINなどでおなじみのヒプノシスを迎え、それまでのおどろおどろしいイメージを払拭する施策に取り組みます。

オープニングを飾る「Back Street Kids」のニューウェイヴ風味を散りばめた豪快なハードロック、続く「You Won't Change Me」でのプログレタッチなハードロックは、前作での作風をさらに強調したもので、一瞬ギョッとされられるものの、今の耳で聴けば全然「あり」。ただ、BLACK SABBATHのイメージで接すると若干に違和感は否めません。当時はそれこそ、オジー・オズボーン(Vo)がこういう曲を歌うことに対してメタルファンは拒否反応を示したのでしょうか。今やメタルシンガーとしてもポップシンガーとしても受け入られているオジーですから、リリースから44年経った2020年なら普通に楽しめる楽曲群だと思います。

また、本作にはビル・ワード(Dr)がまるまる1曲歌う「It's Alright」も収録。ピアノを軸にしたバラードで、トニー・アイオミ(G)のアコースティックギターも良い味を出しています。この曲は90年代初頭、アクセル・ローズがGUNS N' ROSESのライブで「November Rain」を歌う前にピアノで弾き語りしていたことでおなじみですよね(ライブアルバム『LIVE ERA '87〜'93』にも収録されています)。さらに、ドラマチックな作風の「Gypsy」はのちのオジーソロ(特に90年代の『NO MORE TEARS』以降)にも通ずるテイストがあり、それも踏まえて今の耳では当たり前のように受け入られるはずです。

後半に入ると、若干ソウルやブルースのフィーリングが復調しているものの味付けは本作のテイストという「All Moving Parts (Stand Still)」(中盤での展開がサバスらしいような、らしくないような)、のちのオジーソロにもつながるような軽快なアメリカンロック「Rock 'N' Roll Doctor」、ストリングスを大々的にフィーチャーした、オジー『DIARY OF A MADMAN』(1981年)の世界観に通ずるバラード「She's Gone」、そしてプログレッシヴな展開&アレンジがサバスの未来(ロニー・ジェイムズ・ディオ加入後)を髣髴とさせる「Dirty Women」と、前半以上に粒ぞろいな楽曲がずらりと並びます。全体的にポップ色が強まっており、そういった意味ではソロに移行してからのオジーの習作と言えなくもないかな。

本作リリース後にはオジーがバンドを一時脱退するハプニングもありましたが、1978年にはもう1枚『NEVER SAY DIE!』も制作しています。サバスとしては本作と次作『NEVER SAY DIE!』はディオ加入後にあまりつながらなかったかもしれませんが、オジー自身にとってはソロへ移行する上での良きレッスンになったようです。そういった耳で触れると、非常に聴きどころの多い“隠れた名盤”かもしれません。

 


▼BLACK SABBATH『TECHNICAL ECSTASY』
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2020年7月10日 (金)

LED ZEPPELIN『THE SONG REMAINS THE SAME』(1976/2007)

1976年10月にリリースされたLED ZEPPELIN初のライブアルバム。

同作はアルバム発売と同タイミングに劇場公開された映画『レッド・ツェッペリン狂熱のライヴ(THE SONG REMAINS THE SAME)』のサウンドトラック的立ち位置の2枚組作品で、1976年3月発売の7thアルバム『PRESENCE』から約半年という短いスパンでリリースされたにも関わらず同作以上の売り上げを記録しました(全英1位、全米2位)。

映画のほうは1973年7月末に行われたマディソン・スクエア・ガーデンでのライブ映像を軸に、メンバー4人のイメージ映像などがフィーチャーされたサイケデリックさを併せ持つ内容。80年代前半にVHSにて販売され、当時は唯一手に入れることができる「ツェッペリンの公式ライブ映像」としてかなり重宝しました。と同時に、このライブアルバムもスタジオワークとは異なる、生々しい演奏と歌を味わうことができるという点で、オリジナルアルバム以上にリピートしたというリスナーも少なくなかったと思います(筆者も含む)。

サントラとはいえ、収録曲の曲順は映画の流れに沿ったものではなく、中には映画で使用されていない「Celebration Day」も含まれている。かつ、映画にはアルバムには未収録の「Black Dog」「Since I've Been Loving You」「Heartbreaker」も(フルではないものの)収録されている。つまり、どちらも実際のライブをフル収録したものではないことが伺えます。とはいえ、1973年当時(時期的には5thアルバム『HOUSES OF THE HOLEY』リリース後)のベスト選曲的なライブ音源を楽しむことができるし(選曲は5枚目に偏ってますけどね)、なによりも「弾けているようで弾けていないジミー・ペイジ」や「どんどん高音域が出なくなっているため初期の楽曲をうまくごまかしながら歌うロバート・プラント」「ライブでキーボード主体の曲を演奏するときは、ベースはフットペダルで対応するジョン・ポール・ジョーンズ」「どんなときでもすごいジョン・ボーナム」という奇跡の4人(笑)の実力を思う存分堪能できるので、90年代半ばまではかなり重要な作品だったと言えます。

それこそ、よく言われる「ライブだとインプロヴィゼーションが加わり、1曲の長さがどんどん延びていく」という現象も「Dazed And Confused」や「Moby Dick」「Whole Lotta Love」で存分に理解できるはず。「Dazed And Confused」なんて27分にもおよぶ熱演で(それでも編集されて若干短くなっているわけですが)、アナログ盤では片面で1曲使うほどでしたからね(笑)。

さて、そんな本作ですが、2007年11月にはリリース30周年を記念したリミックス/リマスター/再編集盤を発表。こちらは映画でのみ聴くことができた3曲のフルバージョンと、2003年発売のDVD『LED ZEPPELIN DVD』で初公開された「Misty Mountain Hop」「The Ocean」と、これまで未公開だった「Over The Hills And Far Away」の6曲が追加された全15曲入り作品としてリパッケージされたもので、2020年現在流通しているのはこちらのバージョンとなります。つまり、旧オリジナルバージョンは現時点では廃盤状態というわけです(まあ中古で簡単に手に入りますけどね)。

リマスタリングされたのは非常にありがたいのですが、ペイジお得意のリミックス(音の足し引き・編集)が随所に発揮されており、「Dazed And Confused」のように30分近くにまで引き延ばされた(実際の演奏に近づけた)ものもあれば、「No Quarter」や「Moby Dick」「Whole Lotta Love」みたいにオリジナル盤から1〜2分ほど短く編集されたものもあるので、オリジナル盤を数十年にわたり聴きまくった耳には違和感が残ります(それ以上に、リミックスによる違和感が大きいわけですが)。

さらに、オリジナル盤に未収録だった6曲が加わったことで、曲順も再構成。もともとは序盤に収められていた「The Rain Song」や「Dazed And Confused」が終盤に置かれているなどの変化に、リマスター盤発売から13年経った今も追いつけていません(苦笑)。そりゃあ一長一短ありますわな。

現在各種ストリーミングサービスで聴くことができるのは、この2007年バージョンのほうのみ。なので、このバージョンから触れたというリスナーには逆に1976年盤は耳馴染みの悪い内容なんでしょうね。まあ、あれです。要は両方聴いてくれと。今でこそ公式リリースされたライブCDや映像作品が複数存在しますが、活動現役期間は本作しかなかったわけですから。バンドが意図してリリースした、唯一のライブ作品としていろんな楽しみ方をしてみては如何でしょう。

 


▼LED ZEPPELIN『THE SONG REMAINS THE SAME』
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2019年7月15日 (月)

KISS『DESTROYER』(1976)/『DESTROYER: RESURRECTED』(2012)

1976年3月にリリースされた、KISS通算4作目のオリジナルアルバム。

前作『DRESSED TO KILL』(1975年)から1年ぶりの新作に当たりますが、同作が初の全米TOP40入り(最高32位)。続いて発表されたライブアルバム『ALIVE!』(1975年)がさらに全米10位という高記録を残したことで、このオリジナルアルバム『DESTROYER』に対する期待も高く、最高11位まで上昇(アメリカのみで200万枚以上の売り上げを記録)。「Shout It Out Loud」(全米31位)、「Flaming Youth」(同74位)、「Beth」(同7位)とヒットシングルも多数生まれました。

本作ではアリス・クーパーAEROSMITHルー・リード、Dr.ジョンなどとの仕事で名を上げてきたボブ・エズリンが初めてプロデュースを担当。それまでのシンプルで小気味良いロックンロールスタイルから一歩踏み出し、非常に手の込んだ楽曲が増えています。

例えばアルバムオープニングの「Detroit Rock City」ですが、冒頭のSE(車に乗ってカーステでKISSを聴き始める)から曲に入っていく構成、そして同曲の重厚なアレンジ、ラストに事故を起こしてエンド→そのまま「King Of The Night Time World」へと続いていく流れは圧巻の一言。2曲ともドラマチックなツインリードソロが入っているのも印象的で、思わずコピーしたくなるフレーズが満載なんですよね。

ジーン・シモンズ(Vo, B)の魔王感がハンパないミディアムヘヴィの「God Of Thunder」(もともとはこの曲、アップテンポだったんですよね。そのデモ音源は2000年代前半にリリースされたボックスセットで試聴可能)、そのジーンが続けて歌うストリングスと児童合唱団をフィーチャーした「Great Expectations」と、とにかくバラエティ豊か。

ここまでがアナログA面で、B面は軽快でキャッチーな「Flaming Youth」「Sweet Pain」で初期3作をアップデートさせた感を提示し、ポール・スタンレー(Vo, G)&ジーンのツインボーカルが最高な「Shout It Out Loud」で最高のキャッチーさを見せつける。

そこからピーター・クリス(Dr, Vo)がリードボーカルを担当したドラマチックなバラード「Beth」、シンプルでキャッチーなロックチューン「Do You Love Me」でクライマックスへ。さらにシークレットトラックとして、「Great Expectations」使ったリフレイン「Rock An Roll Party」で締めくくり。トータルで34分少々と今の感覚だと短いように思いますが、非常に濃厚な1枚なんですよね。

どの曲もボブ・エズリンが曲作りに関与しており、その結果バンドとしてひと皮剥けたのは間違いないでしょう。このアルバムをKISSの代表作として挙げる人も多いんじゃないでしょうか。事実、僕も本作と1stアルバム『KISS』(1974年)の2枚を「最初に聴くべきKISSの名盤」としてプッシュするでしょうし。

 


▼KISS『DESTROYER』
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2019年4月28日 (日)

LED ZEPPELIN『PRESENCE』(1976)

1976年3月にイギリスで、4月にアメリカで発売されたLED ZEPPELINの7thアルバム。前作『PHYSICAL GRAFFITI』(1975年)から1年というスパンで完成した本作は、発売直後に全米&全英1位を記録。メガヒットとなった過去作と比べると300万枚程度にとどまっていますが、それでもアメリカではまだまだ人気バンドであることが伺える数字だと思います。

前年8月にロバート・プラント(Vo)が交通事故に遭い、その後予定されていた全米ツアーをキャンセル。そこからスタジオ入りして本作の曲作り、レコーディングに突入します。

ツアーの中止やプラントの怪我、さらにはメンバー全員が長期間家族と離れて生活していたなどのフラストレーションが、本作の制作にぶつけられた……といっても過言ではないくらい、本作では全体を通じて緊張感に満ちたサウンドを耳にすることができます。

まず、オープニングの「Achilles Last Stand」からして10分を超えるスリリングなナンバーですし、その後も「For Your Life」「Nobody's Fault But Mine」「Tea For One」など長尺の楽曲が並びます。中には3分にも満たないファンキーな「Royal Orleans」も含まれていますが、基本的にはバンドが膝を突き合わせて短期間で行なった鬼気迫るジャムセッションを軸に固められていった大作が、1枚にまとめられたという印象が強いです。

また、本作はキーボードを使った楽曲が1曲も含まれていないのも大きな特徴。本作はツェッペリン史上唯一のキーボードレス作品とのことで、その反動から次作『IN THROUGH THE OUT DOOR』(1979年)が生まれたのではと思えるほど。

そういうこともあって、ジミー・ペイジ(G)主導で制作されたこのアルバム。結果、ハードロックバンドの側面をとことん追求した、ある種のいびつさを持つ内容になっています。だからなのか、不思議と評価が二分するアルバムでもあるんですよね。「Achilles Last Stand」や「Nobody's Fault But Mine」あたりの評価は高いような気がしますが、それ以外は別に……みたいに。

確かにバラエティに富んだ過去のアルバムと比べると、本作はよりモノトーンな作風というイメージですし、ツェッペリンビギナーが触れるには敷居の高さは否めません。ですが、4人組バンドとしてやれることにとことん向き合った、(結果としては)最後のアルバムでもあるんですよね。セールス的なピークは前作までだったとしても、バンドとして追求すべき道のピークは本作だったのでは……3年後に発表される『IN THROUGH THE OUT DOOR』が“その先”への入り口だったことを思えば、おのずとそうなるわけです。

ある時期、このアルバムのツェッペリンのベストアルバムだ!と言いまくっていた僕ですが、今では『PHYSICAL GRAFFITI』のような作品のほうが好きだったりします。が、『PHYSICAL GRAFFITI』からの流れでここにたどり着いたという点においては、実はこの2枚は一緒に語るべき作品なのでは……と思ったりするのですが、いかがでしょう?

 


▼LED ZEPPELIN『PRESENCE』
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2019年1月11日 (金)

QUEEN『A DAY AT THE RACES』(1976)

1976年末にリリースされた、QUEEN通算5作目のスタジオアルバム。前作『A NIGHT AT THE OPERA』(1975年)の全英1位/全米4位獲得およびシングル「Bohemian Rhapsody」(全英1位/全米9位)の大ヒットにより、ついにトップアーティストの仲間入りを果たしたQUEEN。このへんは、現在もロングランで公開中の映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観た方ならご理解いただけるかと。そんな絶好調の彼らが続いて発表した本作も、全英1位、全米5位という好記録を残しております。

タイトルからも想像がつくかと思いますが、本作は前作『A NIGHT AT THE OPERA』と対になる印象の1枚。こう書くとヒット作の続編と受け取られがちですが、実は内容的には前作の延長線上にあるものという感じでもなく、あくまでQUEENらしさを追求した現在進行形の作品集と言えるでしょう。

興味深いのは、前作や前々作『SHEER HEART ATTACK』(1974年)にあったような組曲スタイルを排除していること。全10曲が単独した形を取っており、それが80年代以降の方向性にも通ずるものを感じさせます。

また、楽曲スタイル的にも次作『NEWS OF THE WORLD』(1977年)を彷彿とさせるものがあり、ここにパンクのスタイルをかけ合わせることであの方向性につながっていくのでは……なんてことも考えたり。そういう意味においては、実は大ヒット作2枚(『A NIGHT AT THE OPERA』と『NEWS OF THE WORLD』)に挟まれた過渡期的1枚と言えるかもしれません。事実、本作はチャート的には成功しましたが、セールス的には(特にアメリカでは)半分以下に落ちてますしね。

とはいえ、オープニングを飾るブライアン・メイ(G, Vo)のギターオーケストレーションからパワフルなハードロック「Tie Your Mother Down」(全英31位/全米49位)へと続く流れや、そこからメランコリックな「You Take My Brath Away」への流れ、ゴスペル調の名曲「Somebody To Love」(全英2位/全米13位)やシリアスかつヘヴィな「White Man」、美しくも軽やかな「Good Old-Fashioned Lover Boy」(全英17位)など、良曲目白押しな内容。音楽的にはより幅が広がった印象があります。

実は本作、初のセルフプロデュース作なんですよね。前作での成功を機に、バンドがやりたい邦題やってみました、というのもあったのかな。それにより、アルバムトータルとしては若干散漫さも目立つ結果となりましたが、これが調整されることによって80年代のQUEENにつながっていくという(そういう意味でも、やっぱり客観視できるプロデューサーは必要になるわけですが)。いろいろ難しいです。

でも、全10曲中8曲をフレディ・マーキュリー(Vo, Piano)が単独歌唱している(あ、「Good Old-Fashioned Lover Boy」ではエンジニアのマイク・ストーンも歌ってますが)ことで、何気に統一感が強いような。このへんも、80年代以降の彼らに通ずるものがありますね。

あ、最後に。本作のラストナンバー「Teo Torriatte (Let Us Cling Together)」に触れないわけにはいきませんよね。タイトルおよびサビの一部を日本語で書かれたこの曲は、1975年の初来日時に大歓迎してくれた日本のファンへの感謝の気持ちから、こういう形になったとのこと。今なら日本盤のみのボーナストラックになるんでしょうけど、これを世界共通盤に入れてしまう当時のQUEENの勢いと心意気。素敵すぎます。今から40数年前に、QUEENが日本人に対してここまでしてくれたことを忘れてはいけません。このアルバム、日本人として誇りに思ってもいいのではないでしょうか。そういう意味でも大切な1枚です。



▼QUEEN『A DAY AT THE RACES』(
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