カテゴリー「1977年の作品」の17件の記事

2023年1月11日 (水)

IGGY POP『THE IDIOT』(1977)

1977年3月18日にリリースされたイギー・ポップの1stソロアルバム。

THE STOOGES解散後にデヴィッド・ボウイと出会い、彼のバックアップでIGGY & THE STOOGESとして再始動。『RAW POWER』(1973年)を完成させるも、活動がままならずままバンドは空中分解し、イギーは重度の薬物依存状態に陥ります。そんなイギーに再び手を差し伸べたのがボウイ。アメリカからベルリンへと彼を引き込むと、当時ボウイが興味を持っていたジャーマンロック/クラウトロックに興味を持ち始めます。

その流れから、2人のコラボレーションがスタート。ベーシックトラックをある程度固めたところで、トニー・ヴィスコンティが介入。カルロス・アロマー(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)といったボウイ『LOW』(1977年)の参加メンバーが追加レコーディングを行なって、アルバムを完成に導きます。

ちなみに、『LOW』のリリースは1977年年1月で、追ってこの『THE IDIOT』がリリースされていますが、実際の制作期間は『THE IDIOT』が1976年7〜8月で、『LOW』は同年9〜11月。つまり、『THE IDIOT』は『LOW』の習作ともいえる1枚であり、2作は兄弟のような存在であることが伺えます。あとは、ブライアン・イーノがいるかいないかの違いか。そこはかなり大きいですものね。

イギーは本作について「a cross between James Brown and Kraftwerkと表現していますが、なるほど納得の例えです。THE STOOGESにおけるダウナーな部分を強調させた楽曲群と、適度に取り入れられたエレクトロの要素、パンクというよりはのちのポストパンク的にも映るその方向性は、ある意味では“早すぎた1枚”と言えるかもしれません。しかし、これがあったからのちのJOY DIVISIONへとつながり、さらにはDEPECHE MODENINE INCH NAILSへと続いていった……というのは大袈裟でしょうか。

イギーらしい躍動感は次作『LUST FOR LIFE』(1977年)に譲るものの、アート性や実験性の豊かさにおいては本作のほうが優っており、そこも含めてボウイの色が強く出てしまった感は否めません。のちにボウイ自身が『LODGER』(1979年)で歌詞とタイトルを改め「Red Money」と題してセルフカバーした「Sister Midnight」、メガヒット作『LET'S DANCE』(1983年)で取り上げた「China Girl」など、彼自身の思いれが強い楽曲が並んでいるのかもしれません。

長尺で実験性の強い「Dum Dum Boys」や「Mass Production」、ボウイのサックスが煌びやかさを生み出す「Tiny Girls」、そして映画『トレインスポッティング』で「Lust For Life」とともに印象的なシーンで使用された「Nightclubbing」など、聴きどころ満載。イギーのヘロヘロボーカルも妙にマッチしていて、気持ちよく楽しめる1枚です。

 


▼IGGY POP『THE IDIOT』
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2023年1月 8日 (日)

DAVID BOWIE『"HEROES"』(1977)

1977年10月14日にリリースされたデヴィッド・ボウイの12thアルバム。当時の邦題は『英雄夢語り(ヒーローズ)』。

前作『LOW』(1977年)からそれほど間を置かずに制作/リリースされたこともあり、テイストや作風は『LOW』を踏襲したもの。プロデュースもトニー・ヴィスコンティが携わり、レコーディングもブライアン・イーノ(Synth)やカルロス・アロマー(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)と前作と同じ布陣で臨んでいますが、ここに元KING CRIMSON(当時)のロバート・フリップ(G)が加わることで、より個性的なサウンドを生み出すことに成功しています。

歌モノ中心の前半(アナログA面)、実験的なインスト中心の後半(アナログB面)という構成は前作同様ですが、前作よりもロック色が強まっているのが今作の特徴か。また、前作の楽曲が『STATION TO STATION』(1976年)から引き継ぐヒンヤリ感でまとめられていたのに対し、今作は70年代前半のボウイが持っていたエモーショナルさが復調しており、実験性やアバンギャルドさを上回る王道感を高めることに成功しています。

特に前半パートはタイトルトラック「"Heroes"」をハイライトに、「Beauty And The Beast」「Joe The Lion」など、近作で会得したスタイルをより良い形に昇華。「"Heroes"」に関しては、ロバート・フリップのギターがいい味を出しており、楽曲自体がもつアンセム感をより強調させています。

一方で、アルバム後半は前作における「Speed Of Life」にあたる「V-2 Schneider」を導入に、続く「Sense Of Doubt」でより深みのあるダークなサウンドを展開。ジャーマンプログレ/テクノの影響下にあるダウナーなアレンジは、前半のエモさと対極にあり、この対比/緩急含め聴き応えのある構成を作り上げています。

そして、アルバムラストを歌モノ「The Secret Life Of Arabia」で締めくくるのもなお良し。実験性の強いインストのみで固めるのではなく、最後に再びセクシーなボーカルなナンバーを置くからこそ、単に「前半/後半と色の違うアルバム」だけでは終わらなかった。そこを含め、トータルバランスに優れた1枚ではないでしょうか。『LOW』と甲乙つけ難い完成度の傑作です。

 


▼DAVID BOWIE『"HEROES"』
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DAVID BOWIE『LOW』(1977)

1977年1月14日にリリースされたデヴィッド・ボウイの11thアルバム。

『YOUNG AMERICANS』(1975年)『STATION TO STATION』(1976年)と立て続けにアメリカでアルバム制作を続けたボウイは、この頃ドラッグまみれで心身ともに疲弊状態。ここから抜け出そうとベルリンへと身を移し、プロデューサーに盟友トニー・ヴィスコンティを迎えて新たな創作活動を開始します。

レコーディングにはROXY MUSICの初期メンバーであるブライアン・イーノ(Key)が全面的に参加。また、カルロス・アロマー(G)やジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)といった前作からの面々もベルリンまで飛び、さらには当時ボウイとの交流が復活し始めていたイギー・ポップもコーラスで加わっています。ここでの共演は、のちのイギーのアルバム『IDIOT』(1977年)や『LUST FOR LIFE』(1977年)まで続いていくことになります。

のちに“ベルリン三部作”と呼ばれる連作の第1弾となる今作は、前作『STATION TO STATION』でもその片鱗を見せ始めていたKRAFTWERKなど実験的なジャーマンロックからの影響が表出。アナログA面にあたる冒頭7曲のうち5曲(M-2「Breaking Glass」からM-6「Be My Wife」)が歌モノ楽曲で、アナログB面(M-8「Warszawa」以降)がインストゥルメンタルナンバー中心という異色の構成となっています。特に、「Warszawa」以降の4曲は前衛的なエレクトロニック/アンビエントミュージックを独自の解釈で表現しており、ブライアン・イーノから受けた影響がより濃く表れたスタイルと言えるでしょう。

一方、歌モノ楽曲で表現されるのは、『STATION TO STATION』で試みた独自のホワイトファンク/プラスティックソウルをよりヨーロピアンテイストで進化させたものばかり。イーノらしい電子音が随所に加わることで、その良い意味でのノイジーさが心地よく感じられ、『YOUNG AMERICANS』から、いやもっと言えば『DIAMOND DOGS』からの試行錯誤がようやく結実したと言っても過言ではありません。

母国イギリスではパンクロックが新たなムーブメントを生み出そうとする中、喧騒から離れベルリンで新たな形を完成させたボウイ。一見別々の道を歩んでいるように映りますが、ここで生み出した方向性がのちのニューウェイヴで交差することになるのですから、なんとも面白いものです。

 


▼DAVID BOWIE『LOW』
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2022年5月14日 (土)

THE ROLLING STONES『LOVE YOU LIVE』(1977)

1977年9月23日にリリースされたTHE ROLLING STONES通算2作目のライブアルバム(アメリカ限定の擬似ライブ盤『GET LIFE IF YOU WANT IT!』を含めると3作目)。

Decca Records / London Records時代に発表した『GET YER YA-YA'S OUT!』(1970年)に続くライブ作品は、アナログ/(のちの)CDともに2枚組とボリューミーな内容。ロニー・ウッド(G)が参加して初のツアーとなった1975年の全米ツアー、および翌1976年の欧州ツアー、そして1977年3月にカナダ・トロントのクラブEl Mocamboで実施された限定公演からの音源を含む全18トラック(オープニングSEを除けば全17トラック)を楽しむことができます。

タイミング的には『BLACK AND BLUE』(1976年)リリースを挟む時期のツアー音源となり、同作からは「Hot Stuff」がセレクトされたのみ。むしろ、その前作にあたる『IT'S ONLY ROCK 'N ROLL』(1974年)から3曲(「If You Can't Rock Me」「Fingerprint File」「It's Only Rock 'N' Roll (But I Like It)」)選ばれているあたり、同作のツアーが実現しなかった鬱憤が晴らされているような気がしてなりません(実際のツアーでは「Fool To Cry」や「Crazy Mama」あたりもセレクトされていますが)。

『GET YER YA-YA'S OUT!』でのダークな危うさこそ感じられませんが、全体を通して伝わる躍動感はこの時期ならでは。ミック・ジャガー(Vo)もキース・リチャーズ(G, Vo)も脂の乗ったパフォーマンスを展開しています。特にキースに関してはドーピングの結果とは言いませんが(苦笑)、そのテンションの高さはダウナーだった1970年前後と比較すると完全に別モノ。一概に比較はできませんが、どっちもストーンズらしいと思いますし、少なくとも80年代からストーンズに入っていった僕にとっては『LOVE YOU LIVE』でのストーンズがもっともパブリックイメージに近かったような記憶があります。事実、1990年2月の初来日時は『GET YER YA-YA'S OUT!』よりも『LOVE YOU LIVE』ばかりリピートしていましたしね(選曲的にもこちらのほうが近いですし)。

「Hot Stuff」や「Tumbling Dice」からじわじわ伝わる熱量、「Star Star」や『IT'S ONLY ROCK 'N ROLL』収録曲から伝わる爆発力、そして「Brown Sugar」から「Jumpin' Jack Flash」へと続きラストの「Sympathy For The Devil」へと到達するクライマックス感は、本作でしか味わえないものではないでしょうか。もちろん、「Fingerprint File」や「You Gotta Move」みたいに地味めな曲から伝わるファンキーさもたまりません。

そして、本作でもっとも注目すべきなのがDISC 2冒頭から4曲目まで(アナログC面)の、El Mocamboでの音源。すでにアリーナクラスのバンドだったストーンズが、300名収容のクラブで演奏するという貴重な機会というだけでなく、「Mannish Boy」「Crackin' Up」「Little Red Rooster」「Around and Around」と、ある種原点回帰と言える規模感でルーツとなるブルース/R&Rをカバー/選曲するあたりに、バンドのこだわりが見え隠れします。

ストーンズが次にライブアルバムをリリースするのは、1982年になってから。その『STILL LIFE』ではスタジアムでライブをするようになったストーンズの様子がコンパクトにまとめられています。続く『FLASHPOINT』(1991年)もスタジアムツアーの模様を収めたものですが、約10年の間にどれだけテクノロジーが進化したのかも確認でき、資料価値としても非常に高いものがあるので、そのへんも意識して楽しんでみてください

 


▼THE ROLLING STONES『LOVE YOU LIVE』
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2022年3月14日 (月)

KISS『LOVE GUN』(1977)/『LOVE GUN: DELUXE EDITION』(2014)

1977年6月にリリースされたKISSの6thアルバム。

全米11位を記録し、「Hard Luck Woman」(同15位)や「Calling Dr. Love」(同16位)というヒットシングルを生み出した前作『ROCK AND ROLL OVER』(1976年)から約7ヶ月という短いスパンで届けられたスタジオアルバム。1974年2月のデビュー以降、3年強の短期間でスタジオアルバム6枚、2枚組ライブアルバム1作という多作ぶりのKISSですが、本作はついに最高4位と(スタジオアルバムとしては初めて)全米TOP10入りを果たし、「Christine Sixteen」(全米25位)、「Love Gun」(同61位)などのヒットシングルも続出します。

前作から引き続きエディ・クレイマー(ジミ・ヘンドリクスデヴィッド・ボウイLED ZEPPELINなど)を共同プロデューサーに迎えたこともあり、サウンドの方向性的には前作の延長線上にあるタフなハードロック路線。よりライブを意識したドライブ感の強い楽曲が並び、特にオープニングを飾る「I Stole Your Love」の疾走感は、ライブの幕開けにもぴったりな仕上がり。ポール・スタンレー(Vo, G)によると、この曲は「Makin' Love」や「C'mon And Love Me」を下地にしながらも、DEEP PURPLEの名曲「Burn」から多大な影響を受けたそう。そう知ると、なるほどと納得するものがあります。

その後、ジーン・シモンズ(Vo, B)歌唱曲が2曲(「Christine Sixteen」「Got Love For Sale」)続き、さらにエース・フレーリー(G, Vo)歌唱の「Shock Me」が並ぶ構成は、過去数作からすると若干異質に映るのではないでしょうか。とはいえ、「Christine Sixteen」といい「Shock Me」といい当時の、そして以降のライブ定番曲が並ぶという点では本作がいかにライブに特化した取り組みから生まれたものだったかが伺えます。

グラマラスでキャッチーなメロディ&サウンドの「Tomorrow And Tonight」(ポール歌唱)でアナログA面を締めくくると、B面はタイトルトラック「Love Gun」からスタート。CDやサブスクの時代ではA面/B面の価値観がないので、ここでポール歌唱曲が2曲続くと思えば序盤のジーン歌唱連続も納得いくのでは。この「Love Gun」も現在までライブに欠かせない1曲ですし、ここまでの流れは満足感が強いものがあります。

その後、ピーター・クリス(Dr, Vo)歌唱の「Hooligan」あたりから若干トーンダウン気味に。ジーンが歌う「Almost Human」はコンガを強調したリズミカルなダークチューンで、同じくジーン歌唱の「Plaster Caster」も少々地味めな仕上がり。前半の華やかさを思えば、この3曲の流れには息切れ感を覚えずにいられません。そして、アルバムラストを締めくくるのはTHE CRYSTALS「Then He Kissed Me」の改名カバー「Then She Kissed Me」。オールディーズテイストのシンプルなアレンジのこの曲を、ポールが穏やかめなトーンで歌いしっとりとアルバムのラストを飾ります。「Christeen Sixteen」の作風も同系統なのもあり、世界観的には全然アリ。ただ、「Love Gun」で迎えたピークを再度超えることなく終わることで消化不良を起こすかもしれません。

単に時間が足りなかったのか、アイデア切れだったのか。完成度としては『ROCK AND ROLL OVER』よりも劣る結果となってしまいましたが、前半6曲が非常に良い出来だけに失敗作と切り捨てることもできない。特に本作はタイトルトラックが収録されていることで擁護されてる感が強い1愛かもしれませんね。

 


▼KISS『LOVE GUN』
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なお、本作は2014年10月28日にリマスタリング&ボーナスディスクを追加したデラックス・エディションが発売されています。気になるDISC 2にはアルバム本編収録曲(「Plaster Caster」「Love Gun」「Tomorrow And Tonight」)のデモ音源に加え、未収録曲「Much Too Soon」「Reputation」「I Know Who You Are」のデモ(すべてジーン制作&歌唱曲)、1977年当時のジーンの電話インタビュー(約7分)、そして「Love Gun」「Christine Sixteen」「Shock Me」の1977年当時のライブ音源を収録。未発表曲はアルバム本編のカラーとは若干異なるものがありますが、アルバム後半のノリに近いタッチなのでこういう方向性も当時持っていたということが垣間見えます。

また、ポールによる「Love Gun」のコード進行/リフの流れを伝える“Teaching Demo”も収録。きっとメンバー(主にエース)に向けて制作されたものだと思いますが、ギターを弾く人ならポールがこんなに丁寧に教えてくれる音源は貴重に感じられるはず。そこを経て「Love Gun」のデモ音源を続けて聴くと、曲の構成をより深く理解することができることでしょう。なお、この「Love Gun」のデモ音源にはエディ・クレイマーによりシンセも被せてある状態なので、ほぼ完成版に近い仕上がりです。

ライブ音源3曲は大会場で収録されたものがわかるミキシングで、演奏/パフォーマンスの出来は最高とは言い難いものの、編集されまくった『ALIVE II』(1977年)よりも生々しさが伝わる録音は個人的に好み。そういった意味では、現在の“OFF THE SOUNDBOARD”に通ずるものがあるのではないでしょうか。

 


▼KISS『LOVE GUN: DELUXE EDITION』
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2022年1月22日 (土)

MEAT LOAF『BAT OUT OF HELL』(1977)

1977年10月21日にリリースされたミートローフ(MEAT LOAF)の1stアルバム。

言わずと知れたロック界のレジェンド的アルバムにして、現在までに世界中で4000万枚以上のセールスを記録し、「人類史上5番目のセールスを記録する不朽の名盤」(日本盤CD帯より)。日本では『地獄のロック・ライダー』の邦題でお馴染みの本作はリリースから45年経った今も愛され続け、アメリカだけでも1400万枚以上を売り上げているそうですが、実はチャート的には最高14位止まり(イギリスでも最高9位)。ちょっと意外な数字ですが、続編アルバム『BAT OUT OF HELL II: BACK INTO HELL』(1993年)が初の全米&全英1位を獲得するのは本作がロングヒットを続けていた結果でもあるわけです。

アルバムジャケットの一番下に「SONGS BY JIM STEINMAN」(一部CDやデジタル版はアーティスト名のすぐ下)と記されているように、本作はミートローフのアルバムであると同時に、ジム・スタインマンのアルバムでもあることがおわかりいただけるはず。プロデュースこそかのトッド・ラングレンが手がけていますが(レコーディングにはトッドや彼のバンドUTOPIAの面々、エドガー・ウィンターなども参加)、本作のメガヒットの功績は間違いなくジムのソングライティング力とミートローフの圧倒的な歌唱力/表現力によるものが大きいのではないでしょうか。

僕はリアルタムで『BAT OUT OF HELL II: BACK INTO HELL』からミートローフに触れた世代で、第1弾となる本作は完全に後追いでした。なもんで、1977年という時代の音が凝縮された本作は90年代前半の耳には「スカスカで薄っぺらい」というのが第1印象で、いわゆるハードロック度も低めかなという評価(その頃の自分は『BAT OUT OF HELL II: BACK INTO HELL』をハードロックアルバムのひとつとして受け取っていたので)。しかし、楽曲の完成度やアレンジ力、ミートローフの若々しい歌声(リリース当時は30歳!)の素晴らしさに気づくには、そう時間はかかりませんでした。

ハードロックというよりは当時のプログレッシヴロック的な側面の強い演奏/アレンジと、アルバム全体を通してひとつの戯曲を表現したかのような構成と、その1つひとつの楽章が軽やかなロックンロールや変幻自在なオペラチューンで構築された濃度の高い楽曲。例えばQUEEN「Bohemian Rhapsody」と接するような感覚で触れたら、このアルバムの凄みがより理解できるのではないでしょうか。オープニングを飾る「Bat Out Of Hell」の10分近くにわたるドラマチックな演奏と構成は、これぞ名演と呼べるもの。このハードロックとプログレを掛け合わせたようなスタイルは、同時期にデビューしたBOSTONとの共通点も見出せるはずです。

かと思えば、映画のようなナレーションを冒頭に挿入したきらびやかなバブルガムポップ風ロックチューン「You Took The Words Right Out Of My Mouth (Hot Summer Night)」(全米39位)や、ひたすら美しいピアノバラード「Heaven Can Wait」、サックスの音色が軽快さを強調する「All Revved Up With No Place to Go」(終盤の転調も最高です)、ミートローフの透明感の強い歌声に惹きつけられる名バラード「Two Out Of Three Ain't Bad」(全米11位)、ブギウギからファンク、ストレートなロックンロールと次々に変化を続けるバンドアンサンブルが特徴的な大作「Paradise By The Dashboard Light」(全米39位)、そして本作のクライマックスと呼ぶにふさわしい約9分にわたるオペラバラード「For Crying Out Loud」……全7曲/47分という程よい尺の長さも手伝い、濃厚な内容ながらもさらりと聴くことができるのも本作の良い点でしょう。

あえてアナログ2枚組の大作にせず、当時のアナログ盤のフォーマットに沿った45分前後のトータルランニングでコンパクトにまとまったのも功を奏し、一切中弛みすることなく楽しめ。かつ、捨て曲がまったく存在しないクオリティの高さと、歌や演奏における表現力の高さも相まって、完璧な1枚に仕上がった本作。発売から45年後の2022年に聴いてもまったく色褪せることなく、むしろこれを超える良作がほかにどれだけ存在するのか?と気になるほど。1993年の自分、聞いてるか?(苦笑)

2021年4月にジム・スタインマンがこの世を去り、これに続くかのように2022年1月21日(現地時間20日)にミートローフも亡くなったことが発表されました。近年は体調不良に悩まされ、ライブ中に何度か倒れることもあったそうですが、できることなら一度は『BAT OUT OF HELL』完全再現ライブを生で体験したかったものです。

改めて、故人のご冥福をお祈りいたします。

 


▼MEAT LOAF『BAT OUT OF HELL』
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2021年11月15日 (月)

THE HEARTBREAKERS『L.A.M.F.』(1977/2021)

1977年10月にリリースされた、ジョニー・サンダース(Vo, G/ex. NEW YORK DOLLS)率いるTHE HEARTBREAKERSの1stアルバムにして唯一のスタジオ作品。

1975年にNEW YORK DOLLSを脱退したジョニーとジェリー・ノーラン(Dr)。2人はウォルター・ルー(Vo, G)、リチャード・ヘル(B/ex. TELEVISION)の4人でこのTHE HEARTBREAKERSを結成します。のちにリチャードからビリー・ラスへとベーシストが交代。1977年初頭にロンドンで今作のレコーディングに突入します。

楽曲自体はNEW YORK DOLLSの延長線上にあるパンキッシュなロックンロールが主体。ただ、DOLLSがデヴィッド・ヨハンセン(Vo)の華のあるボーカルや煌びやかな味付けによってグラマラスさが強かったところを、THE HEARTBREAKERSではジョニー&ウォルターが歌うこと、シンプルなアンサンブルにより(また時代的なものもあり)パンクロック度が上昇。ともにガレージロックが下地にあるバンドですが、演者によってこうも変わるのかと納得させられるものがあります。

楽曲の1つひとつに関しては文句なしの仕上がり。今やパンクロックのクラシックといえる「Born To Lose」や「I Wanna Be Loved」、のちにRAMONESも取り上げた「Chinese Rocks」を筆頭に、どれもが最高の輝きを放っています。リリース時期もほぼ一緒だし、時代的にSEX PISTOLS唯一のアルバム『NEVER MIND THE BOLLOCKS HERE'S THE SEX PISTOLS』(1977年)と双璧を成すパンクロックのマスターピースと断言できる作品……になるはずでした。

実はこのアルバム、現在までに複数のミックスが存在していることはご承知かと思います。というのも、オリジナル盤のレコード(アナログ盤)のミックスが酷く、曲や演奏の素晴らしさのわりに高評価を獲得することができなかったのです(同じ作品のカセット版は音質が良好だったこともあり、アナログ盤のプレスに問題があったなどの説もあります)。その後、オリジナルのマスターテープ紛失により、同セッションからの別テイクをリミックス&追加レコーディングした『L.A.M.F. REVISITED』や『L.A.M.F.: THE LOST '77 MIXES』、『L.A.M.F.: DEFINITIVE EDITION』といった別バージョンが複数出回ることになります。

筆者がこのアルバムに初めて触れたのは90年代以降、おそらく『L.A.M.F.: THE LOST '77 MIXES』あたりが初めてだったかと思います。その後、新たなバージョンが発表されるたびにCDを購入してきましたが、そもそもオリジナル版を耳にしたことがなかったので、元々の音の悪さを知らないわけです。今ならそのへんの音もYouTubeなどで確認することができますが、もはや別モノといった印象すらあります。

ところが昨年、マスターテープのコピーが発見され、2021年11月5日(日本盤は11月10日)に『L.A.M.F.』が本来の形で再発。『L.A.M.F.: THE FOUND '77 MASTERS』と題されたこのアルバム、確かに音質/音圧含め良質なものかと感じます。ただ、複数の別バージョンでそこそこ音質の良い『L.A.M.F.』を耳にしてきた身にとっては、本来の形と謳われる今バージョンも現存する別バージョンのひとつにしか思えないんですよね。だって、後追い組からすればどれが“ホンモノ”なのか判別がつかないわけですから。

まあ、そうはいっても最高の曲と最高のプレイを最良の音で、アーティストやプロデューサーが本来想定していた形で聴くことができるようになったのは良いことかと。メンバー全員がすでにこの世に存在しない今、これらの作品の印税がどこに行くのかなど気になることもありますが、本来なら1977年のパンクシーンを代表するはずだった名盤を、今は爆音で浴びたいと思います。

なお、『L.A.M.F.: THE FOUND '77 MASTERS』のフィジカル版はCD2枚組仕様で、DISC 1にはアルバム本編(M1〜12)に「Can't Keep My Eyes On You」「Do You Love Me」を追加。DISC 2は「Born To Lose」「Chinese Rocks
」のシングルミックスと、アルバムレコーディングまでに複数実施されたデモセッションの音源がまとめられています。こちらにはリチャード・ヘル在籍時の音源も含まれているので、気になる方はぜひチェックしてみてください。

 


▼THE HEARTBREAKERS『L.A.M.F.: THE FOUND '77 MASTERS』
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2021年1月16日 (土)

IGGY POP『LUST FOR LIFE』(1977)

1977年8月にリリースされたイギー・ポップの2ndアルバム。

THE STOOGES解散後、デヴィッド・ボウイのサポートを経て『THE IDIOT』(1977年)にてソロデビューへとこぎつけたイギー。同作から5ヶ月という短いスパンで発表されたソロ2作目は、当時の勢いをそのまま凝縮したかのような傑作に仕上がっています。

『THE IDIOT』はボウイの単独プロデュースだったものの、今作ではイギーもプロデューサーに名を連ねています。また、ソングライティング面でも前作は全曲ボウイ/イギーの共作としてクレジットされていましたが、今回は作詞の大半をイギーが、作曲では「Lust For Life」や「Tonight」をボウイが単独で、「Sixteen」ではイギーが単独で手がけており、リッキー・ガードナー(G)による「The Passenger」などあるものの、それ以外はボウイがほかのソングライターと共作したもので占められています。

前作ではダークさやダルさなどニューウェイヴ感が随所から感じられましたが、本作ではちょっと突き抜けた感が全体を覆っており、そのへんが当時のボウイのカラーだったのかなと。そういう意味では、イギーの持ち味とボウイの持ち味が程よい加減でミックスされた、奇跡的なバランス感の1枚と言えるでしょう。

とにかく、キャッチーな楽曲が多いのが本作の特徴。映画『トレインスポッティング』を機に、一気に知名度を高めたタイトルトラック「Lust For Life」のポップさ。あのモータウン調のドラムビート含め、すべてがキャッチーなんです。ほかにも、イギーのライブには欠かせない「The Passenger」や、「Lust For Life」にも匹敵するキャッチーさの「Some Weird Sin」に「Success」、のちにボウイが自身のアルバム『TONIGHT』(1984年)でセルフカバーする「Tonight」や「Neighborhood Threat」、豪快でカッコいいロックンロール「Sixteen」、ソウルフルさが際立つ「Turn Blue」「Fall In Love With Me」と捨て曲ゼロ。これを怪作『THE IDIOT』とほぼ同時期に仕上げてしまったイギーとボウイの創作欲たるや、お見事としか言いようがありません。

THE STOOGESの(当時の時点での)ラスト作となった『RAW POWER』(1973年)、初ソロ作『THE IDIOT』、そして本作と3作続けてボウイとのコラボレーションを続けたイギーですが、続くソロ3作目『NEW VALUES』(1979年)ではジェームス・ウィリアムソン(G/THE STOOGES)と再びタッグを組んで混沌とした世界へと舞い戻っていきます。以降もたびたびボウイとのコラボは実現していますが、本格的なプロデュースという点においては、ここから9年後の『BLAH-BLAH-BLAH』(1986年)まで待たねばなりません。そして、そのアルバムこそ自分がリアルタイムで初めて触れたイギーの作品。これが正しかったのか、間違っていたのかは今でもわかりませんが……。

 


▼IGGY POP『LUST FOR LIFE』
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2019年9月29日 (日)

CHEAP TRICK『IN COLOR』(1977)

1977年9月にリリースされた、CHEAP TRICKの2ndアルバム。

デビュー作『CHEAP TRICK』が1977年2月に発表されているので、約半年でアルバムをもう1枚完成させたことになりますね。しかも、彼らは続く3rdアルバム『HEAVEN TONIGHT』も1978年5月にリリースしているので、初期3作はものすごいペースで増産されたことになります。当時のリリースペースとしても異常に早すぎですし、それだけ創作意欲がハンパなかったという表れなんでしょうね。

プロデューサーをジャック・ダグラス(AEROSMITHNEW YORK DOLLSジョン・レノンなど)からトム・ワーマン(MOTLEY CRUEPOISONDOKKENなど)へと交代した本作では、基本的な路線は前作の延長線上にありながらも、楽曲のポップさ、キャッチーさはさらに増しているという冴えっぷりを発揮。1曲1曲がとにかくコンパクトで、オープニングのショートチューン「Hello There」こそ1分40秒程度ですが、そのほかの楽曲はどれも2〜3分程度。一番長い「Downed」ですら4分10秒程度ですからね。その結果、トータルで31分程度という聴きやすさ。最高です。

のちに武道館でのライブテイクが全米TOP10入りするヒット曲となる「I Want You To Want Me」はライブバージョンとは異なる、非常に落ち着いた雰囲気の小洒落たポップチューンだし、かと思えば「Big Eyes」や「You're All Talk」みたいにハード&ヘヴィな楽曲もある。前作にもあったサイケ路線の「Downedや学校のチャイムをモチーフにしたギターリフ?が印象的な「Clock Strikes Ten」、口ずさみやすいキャッチーなロックナンバー「Come On, Come On」まである。とにかく、すべてにおいて捨て曲なしなんです。

1stアルバムがのちのオルタナティヴロックやグランジに大きな影響を及ぼしたとすると、本作はグランジはもちろんのこと、のちのパワーポップ勢にとっての教科書的1枚になったのではないでしょうか。本質的には1枚目も2枚目も何も変わっていないのですが、プロデューサーの手腕によるものが大きいのでしょうか、ジャック・ダグラスならではの生感覚とトム・ワーマンらしいシュガーコーティングが及ぼす影響が、そういった後続たちにとっての道しるべとなったのは、今となっては非常に興味深いところです。

ロビン・ザンダー(Vo)の歌唱法もあってか、ハードロックの範疇で語られることの多い彼らですが、実はそういった方向性に直接的に歩み寄ったのは80年代半ば以降のことなんじゃないでしょうか。だって、4人のあのファッションセンスは少なくともHR/HMのそれとはまったく異なるし、このアルバムに関しては(今でいうところの)パワーポップ以外の何物でもないわけですから。

 


▼CHEAP TRICK『IN COLOR』
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2019年4月29日 (月)

AC/DC『LET THERE BE ROCK』(1977)

本国オーストラリアで1977年3月、それ以外の国で同年7月に発表されたAC/DCの3rdアルバム(本国では4作目)。イギリスで初めてチャートインし、最高17位という好記録を残した、バンドにとって海外でブレイクするきっかけを作った重要な1枚です。

ボン・スコット(Vo)在籍時の初期作品の中では本作と『HIGHWAY TO HELL』(1979年)が初心者向けのスタジオアルバムと言えるぐらい、現在もライブで披露される機会の多い名曲が豊富な内容。タイトルトラックはもちろんのこと、GUNS N' ROSESもカバーした「Whole Lotta Rosie」、グルーヴィーな「Dog Eat Dog」やこれぞAC/DC!と言いたくなる「Bad Boy Boogie」や「Hell Ain't A Bad Place To Be」など、捨て曲一切なし。全8曲、40数分と決して長い内容ではないですが、その密度は曲数や収録時間の数倍濃いものとなっています。

……と、ここまで書いて、すでに本作について伝えたいことは全部伝えてしまったような気がします(笑)。ってくらい、「読む前に、まず聴け!」と断言したくなる1枚。AC/DCとはなんぞや?と問われたときに、まずはこれを差し出すぐらいの傑作だと思っています。

確かにブライアン・ジョンソン(Vo)以降のヘヴィメタル的な重さや鋭さは皆無ですし、ポップさという重要な要素もここではまだ弱い気がします。しかし、1977年というイギリスでパンクロックが勃発したタイミングに、本作が17位という好記録を残しているという事実。そこにこのアルバムが現在まで愛され続ける秘密か隠されている気がするのですが、どうでしょう?

パンクよりも密度が濃いし、なんなら旧時代然としたスタイルのサウンドです。だけども、パンクロックにも通ずる衝動性はしっかり体現されている。そういった「シンプルに、ただカッコいいことをデカイ音で鳴らす」という姿勢が、当時のキッズに受け入れられたのでしょうか。あるいは、パンクスの陰に隠れてしまったハードロックキッズたちが「これこそが俺たちが今求める音!」と無言の意思表示をした結果がこの数字だったのか。できることなら1977年のイギリスに行って、AC/DCのライブ会場を覗いてみたいものです。

ギターを弾く人にとっては、本作は名ギターリフの宝庫でもあるんじゃないかな。シンプルだけどインパクトが強いリフの数々と、アンガス&マルコムのヤング兄弟によるリフのユニゾンや微妙に異なるフレーズが重なったときの気持ち良さなど、楽器弾き観点でも聴きどころ満載な1枚。ヘッドフォンを付けて爆音で聴くのもいいですが、AC/DCに関してはとにかくスピーカーを通して、可能な限りデカイ音で聴いてほしいな。それが一番、魅力がダイレクトに伝わるはずなので。

 


▼AC/DC『LET THERE BE ROCK』
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