カテゴリー「1979年の作品」の20件の記事

2023年1月 9日 (月)

DAVID BOWIE『LODGER』(1979)

1979年5月18日にリリースされたデヴィッド・ボウイの13thアルバム。当時の邦題は『ロジャー(間借人)』。

『LOW』(1977年)『"HEROES"』(1977年)と続いた“ベルリン三部作”の最終作。ただし、レコーディング自体はスイス・モントルーで行われており、制作にトニー・ヴィスコンティ(プロデュース)やブライアン・イーノ(Synth)らが参加していることから三部作のひとつと捉えられています。

レコーディングにはこのほか、カルロス・アロマー(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)と過去2作の布陣に加え、エイドリアン・ブリュー(G/のちのKING CRIMSONに加入)、ロジャー・パウエル(Synth/当時UTOPIA)、サイモン・ハウス(Mandolin, Violin/当時HAWKWIND)が参加。作風的には『"HEROES"』の流れを汲むエモーショナルでソウルフルなロックサウンドと、ニューウェイヴにも通ずる多国籍感の強いポップチューンで構成された、過去2作とも若干異なる世界観が展開されています。

前作の延長線上にある「Fantastic Voyage」からスタートする本作は、アフリカンミュージック的ビートとコーラスワークを取り入れた「African Night Flight」、レゲエテイストと東欧的エキゾチックさを包括する「Yassassin」、浮遊感の強いプラスティックソウル「D.J.」など、かつてないほどのバラエティ豊かさを見せます。こういった作風が当時勃発し始めていたニューウェイヴ=アフター・パンクとも自然と重なり、改めてボウイがやろうとしていたことが時代と呼応していたという事実に驚かされることになります。

その後もパワフルさとエモーショナルさに満ち溢れた「Look Back In Anger」、80年代のスタイルとも重なる「Boys Keep Swinging」、イギー・ポップに提供した「Sister Midnight」(アルバム『THE IDIOT』収録)の別バージョン「Red Money」など、統一感よりも拡散方向を意識した楽曲が続きます。ジャーマンロック/クラウトロックにワールドミュージックを掛け合わせることで、さらに新たなジャンルを作り上げようとする攻めの姿勢は過去2作同様。ただ、その実験的な側面がより大衆性なものへとシフトし始めている印象も少なからず見受けられます。

そういった考えが、続く『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』(1980年)へとつながっていくのかなと考えると、実は“ベルリン三部作”のピークは2作目『"HEROES"』であり、すでにこの『LODGER』は次のステップへの過渡期に突入していたんだと気付かされます。本当にここまでのボウイの試行錯誤の繰り返しは、聴いていて面白くてたまりませんね。

 


▼DAVID BOWIE『LODGER』
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2022年12月31日 (土)

マイケル・ジャクソンの黄金期をオリジナルアルバムで振り返る(1979〜1991年)

2022年のうちに振り返っておきたいと思ったのが、マイケル・ジャクソン最大のヒット作にしてポップミュージック界における歴史的名盤『THRILLER』(1982年)について。自分は世代的に『THRILLER』バカ売れ期の末端にギリギリ触れており、当時のMTV(地上波時代ね)や『ベストヒットUSA』、『SONY MUSIC TV』を録画して「Thriller」のショートフィルムや「Beat It」「Billie Jean」のMVを何度もリピートしたものです。

なもんですから、原体験としては続く『BAD』(1987年)のほうがリアルタイム感が濃厚で、初来日となった後楽園球場公演をはじめさまざまな記憶がよみがえってきます(初めて&唯一生で観たのは1992年12月の『Dangerous Tour』でしたが)。

そんなこんなで、今年で『THRILLER』リリースから40年。アニバーサリー盤も発売されましたが、個人的には25周年盤のときの盛り上がりと比べるとやや気持ちが劣りますが(そりゃあマイケル生前でしたからね、25周年のタイミングは)、周年タイミングに取り上げておかなくちゃなと思いながらも、年末に向けての繁忙期でまったく触れる機会がなく、気づけば大晦日。時間も多少できたので、やるなら徹底したいなと思い、マイケルのソロキャリア黄金期の始まりといえる『OFF THE WALL』(1979年)から『DANGEROUS』(1991年)までの(個人的思い入れの強い)4作品について、コンパクトな形で触れていこうかなと思います。

 

 

『OFF THE WALL』(1979)

 

1979年8月10日にリリースされたマイケル・ジャクソンの5thアルバム。

古巣Motown Recordsを離れ、Epic Recordsへ移籍しての第1弾アルバム。意外にも全米チャートでは最高3位と1位を獲得していませんが、「Don't Stop 'Til You Get Enough」「Rock with You」とシングル2作連続全米1位を獲得し、ほかにも「Off The Wall」(同10位)、「She's Out Of My Life」(同10位)とヒット曲を連発し、アルバム自体は現在までにアメリカで900万枚以上、全世界で2000万枚以上の売り上げを記録しました。

初めてマイケル主導で制作されたアルバムであり、プロデューサーにはクインシー・ジョーンズを起用。ソングライター陣もポール・マッカートニー(「Girlfriend」)やスティーヴィー・ワンダー(「I Can't Help It」)、デヴィット・フォスター(「It's The Falling In Love」)などソウル/R&Bに捉われない幅広い人選で自身の表現の幅を広げています。

大ヒットした「Don't Stop 'Til You Get Enough」「Rock with You」のようなソウル/ディスコをベースにした楽曲はもちろんのこと、全体を通してポップフィールドでも通用する曲作りが徹底され始めたのがこの時期なのかな。ただ、続く『THRILLER』以降と比べると全体の統一感が強いことから、まだまだ“ブラックミュージックの範疇”というイメージが強いかもしれません。だからこそ、より気持ちよく楽しめる“アルバム”という印象が、彼の作品中もっとも強いのですが(以降の作品は良くも悪くも“プレイリスト”的なのかなと)。

ポップスとしての強度は『THRILLER』や『BAD』ほどではないものの、アルバムとしてのまとまりや完成度は同2作よりも数歩上。“キング・オブ・ポップ”の快進撃がここから始まったという点では、絶対に欠かすことのできない傑作第1号です。

 


▼MICHAEL JACKSON『OFF THE WALL』
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『THRILLER』(1982)

 

1982年11月29日にリリースされたマイケル・ジャクソンの6thアルバム。

前作から引き続きクインシー・ジョーンズを共同プロデューサーに起用。ソングライターに前作から引き続きのロッド・テンパートンに加え、スティーヴ・ポーカロ(TOTO)&ジョン・ベティス(「Human Nature」)やジェイムズ・イングラム(「P.Y.T. (Pretty Young Thing)」)などを起用。また、アルバムから漏れたアウトテイクの中にはマイケル・センベロが関わった「Carousel」や、Yellow Magic Orchestraの楽曲に新たに歌詞を付けた「Behind The Mask」などが含まれていたことも話題になりました。

また、ゲストアーティストのメンツも多彩で、「The Girl Is Mine」ではポール・マッカートニーとのデュエットを展開(同時期にポール側が発表した「Say Say Say」でも2人のデュエットを披露)。「Beat It」のギターソロではエディ・ヴァン・ヘイレン(VAN HALEN)をフィーチャー(かつ、リードギターをTOTOのスティーヴ・ルカサーが担当、ドラムもTOTOのジェフ・ポーカロがプレイ)したことでも話題となりました。

本作からは「The Girl Is Mine」(全米2位)、「Billie Jean」(同1位)、「Beat It」(同1位)、「Wanna Be Startin' Somethin'」(同5位)、「Human Nature」(同7位)、「P.Y.T. (Pretty Young Thing)」(同10位)、「Thriller」(同4位)とアルバム収録曲9曲中7曲がシングルヒット。オリジナルアルバムながらもグレイテストヒッツ的側面も強く、そういった意味でも(結果的に)プレイリストの先駆け的な1枚と言えるのではないでしょうか。

音楽的にも前作『OFF THE WALL』での方向性を推し進めつつ、ポップ色をより強めた「The Girl Is Mine」、ハードロックギターを採用した「Beat It」(さらに、アルバム未収録ながらもテクノ色を取り入れた「Behind The Mask」)など、“ポップ”を軸足により幅広いフィールドで戦おうという前向きさが伝わります。また、当時主流となり始めたミュージックビデオ制作にも果敢に取り組み、約14分にもおよぶ当時としては異例の大作「Thriller」が大反響を呼ぶなど、今や当たり前となった“音楽への映像の積極的導入”における先駆者的作品とも言えます。

全9曲と最近のアルバムと比べたら短い印象もありますが、1曲1曲の個が強いことから何度聴いても飽きがこない。リリースから40年経った今聴いても懐かしさと同時に新鮮さも常に見つけられる、「これぞ歴史的名盤」と言える1枚。いまだ超えることのできない壁(アメリカだけで3400万枚超、全世界で7000万枚超のセールス)を打ち立てた、ポップミュージック界のマスターピースです。

 


▼MICHAEL JACKSON『THRILLER』
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2021年1月18日 (月)

THE DAMNED『MACHINE GUN ETIQUETTE』(1979)

1979年11月に発売されたTHE DAMNEDの3rdアルバム。

前作『MUSIC FOR PLEASURE』(1977年)はチャートインすることなく、ラット・スキャビーズ(Dr)の脱退を経てTHE DAMNEDは1978年春に一度解散。しかし、同年夏にはキャプテン・センシブル(B)とラット、デイヴ・ヴァニアン(Vo)が再集結し、ブライアン・ジェイムス(G)に代わりキャプテンがギターへとスイッチし、新たにアルジー・ワード(B)を迎えた新体制で再結成することになります。

その再結成第1弾アルバムが本作。それまでのメインソングライターだったブライアンが抜けたことで、楽曲の方向性も少し変化。アルバム冒頭を飾る「Love Song」「Machine Gun Etiquette」やシングルカットもされた「Smash It Up」、MC5のカバー「Looking At You」のような疾走パンクチューンも存在するものの、全体的にはそれまで以上にキャッチーさ、ポップさが強まっています。そういった意味では、すでにデビューアルバム『DAMNED DAMNED DAMNED』(1977年)のTHE DAMNEDとは別モノなのかもしれませんね。

その象徴的な楽曲が、「I Just Can't Be Happy Today」や「Anti-Pope」などといったところでしょうか。さらに「These Hands」あたりでは60年代のガレージ・サイケのようなテイストも見受けられ、のちのゴシックロック路線へと通ずるヒントがこの時点で見つけることができます。特に「Plan 9 Channel 7」あたりは、そのプロトタイプと言えなくもないのかなと。オルガンを随所にフィーチャーすることで、不思議とサイケデリック感が強まっているような印象も受けますが、実はこの音色こそ本作のポップ度を高める隠し味になっているのではないでしょうか。

前のめりなパンクチューン「Noise, Noise, Noise」にはTHE CLASHからジョー・ストラマー&トッパー・ヒードンがコーラスで参加。さらに「Machine Gun Etiquette」ではジョー&ポール・シムノンがハンドクラップで華を添えています。思えばTHE CLASHもこの頃は『LONDON CALLING』(1979年)にて、純粋なパンクロックから脱却し始めた時期。SEX PISTOLSを除くオリジナルパンク勢がブームの鎮火を経て、新たなステージへと進む過程がそれぞれ感じられる作品をそれぞれ発表していたことを考えると、非常に興味深いものがあります。こと、イギリスに関してはパンクロックに取って代わるように、アンダーグラウンドからは新たなメタルの波が押し寄せようとしていたタイミングですしね。

今聴いても冒頭2曲のメドレー風つなぎはカッコいい。話題は逸れますが、かのマイケル・モンローがライブでこの2曲を間髪入れずに続けて演奏していましたが、あのメドレー風構成こそが本作の掴みにおける醍醐味。気になる方はぜひマイケル・モンローのライブアルバム『ANOTHER NIGHT IN THE SUN: LIVE IN HELSINKI』(2010年)にて確認してみてください。

 


▼THE DAMNED『MACHINE GUN ETIQUETTE』
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2020年8月 5日 (水)

RAINBOW『DOWN TO EARTH』(1979)

1979年7月にリリースされたRAINBOWの4thアルバム。

過去3作でフロントを務めたロニー・ジェイムズ・ディオ(Vo)が脱退し、新たに加入したのがTHE MARBLESなどロック/ポップスやR&Bなどのシーンで活動していたグラハム・ボネット。リッチー・ブラックモア(G)はこのTHE MARBLESの「Only One Woman」を聴いてグラハム加入を決めたそうですが、当時は短髪&オールバック、白スーツ姿というグラハムの風貌にファンから批判的な声が多かったそうです。

しかし、そのパワフルな歌声はロニーのそれとはタイプが異なるものの非常にメタリックで、かつ中音域の色気は随一。また、これまでさまざまなタイプの楽曲を歌ってきたこともあり、典型的様式美のハードロックからポップチューンやノリ一発のロックンロールまで歌いこなせる、RAINBOWにとって新たな武器として機能することになります。

実際、前作『LONG LIVE ROCK 'N' ROLL』(1978年)で垣間見られたポップな作風は本作で一気に開花し、「Since You Been Gone」(全米57位/全英6位)、「All Night Long」(全米110位/全英5位)というヒットシングルを生み出すことに成功します。これを受けて、アルバム自体も全米66位、全英6位まで上昇。シンガー交代は良い方向へと作用するのでした。

リッチー、グラハム、コージー・パウエル(Dr)に加え、元DEEP PURPLEのロジャー・グローヴァー(B)、ドン・エイリー(Key)という豪華な布陣で制作された本作。アルバム全体を見渡すと、コージーのパワフルなドラムを最大限にフィーチャーしたスリリングな「Lost In Hollywood」や、前作までのプログレッシヴな路線を引き継ぐ「Eyes Of The World」や「Danger Zone」のような様式美的楽曲は少なく、ポップな「All Night Long」「Since You Been Gone」やロックンロール調の「No Time To Lose」、R&Bやソウルの香りすら感じる「Makin' Love」など、全体的にコンパクトな楽曲が多く、前作『LONG LIVE ROCK 'N' ROLL』と次作『DEFFICULT TO CURE』(1981年)との橋渡し的な内容と言えるでしょう。ロニーが歌っても不思議じゃない「Love's No Friend」みたいな曲もありますが、基本的にはグラハムが歌ってこそという印象が強いかな。

本作があったから、80年代以降のRAINBOWの成功があるわけで、もっと言えばそれ以降のDEEP PURPLE再結成にもつながっていくわけです。さらに、グラハムもハードロック・シンガーとしての道を歩み続けることになる大きなターニングポイントにもなりましたし、いろんな人の人生を変えた、良くも悪くも罪作りな1枚と言えなくもありません。もちろん、内容が素晴らしいからそうなってしまったわけですが。

残念ながら、本作をもってコージーとグラハムはバンドを脱退。リッチーはサイドバンドを立て直し、ジョー・リン・ターナー(Vo)という新たな才能を発掘することになります。

 


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2020年4月18日 (土)

VAN HALEN『VAN HALEN II』(1979)

1979年3月リリースの、VAN HALENの2ndアルバム。

全米19位とデビュー作ながらも大健闘となった『VAN HALEN』(1978年)から1年1ヶ月とハイペースで届けられた本作は、そのヒット作を踏襲しつつも、オリジナル曲のバリエーションを少しずつ広げようとする努力が垣間見れる意欲的内容。

前作では2曲用意されたカバー曲(デビューヒットとなったTHE KINKS「You Really Got Me」含む)は、オープニングの「You're No Good」のみに抑え、バンドとしてのアイデンティティを自作曲に見出してもらおうとする意欲も伺え、実は前作よりも粒ぞろいな1枚という印象を受けます。実際、本作からは「Dance The Night Away」(全米15位)という初のシングルTOP20入りも実現。同曲をはじめ「Somebody Get Me A Doctor」や「Beautiful Girls」(全米84位)など、キャッチーさが際立ちます。

かと思えば、「Bottoms Up!」や「Light Up The Sky」のような攻めの楽曲も用意。エディ・ヴァン・ヘイレン(G)のギターテクを存分に味わえる短尺インスト「Spanish Fly」もあり、実は本作と前作の2枚で初期VAN HALENのベースは固まったと断言できます。

チャートアクション的にも、前作を上回る全米6位と好成績を残していますし、セールス面でも現在までに500万枚を超える売り上げ、キャリア的にはデビュー作、『1984』(1984年)『5150』(1986年)に次ぐヒットアルバムになっています。

 


▼VAN HALEN『VAN HALEN II』
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2020年3月22日 (日)

DEF LEPPARD『THE EARLY YEARS 79-81』(2020)

2020年3月下旬にリリースされたDEF LEPPARDの最新ボックスセット。

今年2020年にアルバムデビュー40周年を迎えたDEF LEPAPRDがこれを記念して、デビュー前夜の1979年から世界的メガヒット目前の1981年までの3年間に焦点を当てた5枚組ボックスセットを制作。1stアルバム『ON THROUGH THE NIGHT』(1980年)、2ndアルバム『HIGH 'N' DRY』(1981年)のリマスター音源に加え、1980年4月26日のオックスフォード公演を収めた未公開ライブアルバム『WHEN THE WALLS CAME TUMBLING DOWN - LIVE IN OXFORD』(DISC 3)、インディーズから発表した『THE DEF LEPPARD E.P.』(1979年)を筆頭に同時期のシングル収録音源(カップリング曲含む)や未公開だったデモ音源を含むDISC 4『TOO MANY JITTERBUGS - B-SIDES AND RARITIES』、1980年のレディング・フェス出演のライブテイクやBBC Radio Oneで放送されたスタジオ・ライブ音源をまとめたDISC 5『RAW - EARLY BBC RECORDINGS』という貴重な音源/楽曲をたっぷり楽しむことができます。

リマスター化された『ON THROUGH THE NIGHT』と『HIGH 'N' DRY』に関しては、2018年に発表された最初のボックスセット『THE COLLECTION: VOLUME ONE』で使用された音源と同じものかなと。初期のCD音源と比較すれば格段に音が良くなっており、ともに迫力の違いが感じられるはずです。

ここで特に注目しておきたいのがDISC 3のオックスフォード公演のライブアルバムでしょう。今やさまざまな時期のライブ音源/アルバムが手に入るDEF LEPPARDですが、デビュー初期のライブアルバムがこういう形で正式リリースされるのはこれが初めてのこと。聴いてもらえばご理解いただけると思いますが、こんなに綺麗な形で録音された音源がなぜ今まで正式に発表されることがなかったのか、本気で理解に苦しみます(笑)。ぶっちゃけ、あとから録音し直したんじゃないの?ってくらい今の耳で聴いてもそのクリアさ、迫力は商品化にふさわしい内容だと思いました。

公演時期(1stアルバム発売から1ヶ月後)からもおわかりのように、演奏されている楽曲は『ON THROUGH THE NIGHT』収録曲が中心。というか、全収録曲(11曲)がすべて披露されております。ですが、このライブCDに収められているのは16曲。つまり、5曲が『ON THROUGH THE NIGHT』未収録曲ということになります。その内訳は、『THE DEF LEPPARD E.P.』のみに収録された「Ride Into The Sun」、シングル「Hello America」のカップリング曲「Good Morning Freedom」といった既発曲に加え、翌年発売の『HIGH 'N' DRY』に収録されることになる「Lady Strange」、本作で初公開となる「Medicine Man」「When The Rain Falls」……後者3曲は、当時ライブでしか聴くことができなかった貴重な楽曲ということになるわけです。

「Lady Strange」は大まかなアレンジはほぼアルバムテイクと同様ですが、コーラスが入らないところなどスタジオテイクとの細かな違いを見つけることができるはずです。で、問題なのが「Medicine Man」「When The Rain Falls」の2曲。これ、聴いてもらえばわかると思いますが、前者が「Rock! Rock! (Till You Drop)」(3rdアルバム『PYROMANIA』収録)、後者が「Let It Go」(2ndアルバム『HIGH 'N' DRY』収録曲)の元ネタなのです。ぶっちゃけギターリフ以外は完全に別モノなので、のちの新作時にメンバー発かプロデューサー発でボツにされ、リフだけを生かして別の曲を作ったということなんでしょう。歌メロは完全に初期のDEF LEPPARDそのものなのですが、のちの完成版と比べるとメロディの抑揚やキーなどの違いに驚くはずです。個人的には「Medicine Man」のイントロ〜メインリフのもっさり加減がツボだったりします(笑)。

DISC 4にはシングルのみで発売された「Wasted」「Hello America」のニック・タウバー・プロデュース版、同じくニック・タウバーが手がけた「Rock Brigade」と「Glad I'm Alive」のアーリー・バージョン(後者は未発表曲かな)という貴重なテイクを収録。「Let It Go」や「Switch 625」「Bringin' On The Heartbreak」の各シングル・エディットというレア・テイクも楽しむことができます。

さらに、DISC 5のBBC音源集も1979年6月および同年10月という、1stアルバム制作前のスタジオ・ライブ音源を聴くことができるので、のちのスタジオ盤やライブ音源と聴き比べてみると面白いのではないでしょうか。さらに、1980年8月のレディング・フェスの音源も聴きどころのひとつ。ここでも「Medicine Man」や「Lady Strange」といった当時の未発表曲が披露されているので、この頃のバンドにとっては気合いの入った新曲だったのかもしれませんね。

『PYROMANIA』以降のレア音源はCD再発時のデラックス盤や『HYSTERIA』(1987年)ボックスセットなどで小出しにされてきたので、あれ以上のものは出てこないと思うので、こういった“作品として楽しめる”ボックスセットはこれが最初で最後かもしれませんね。あとは……ライブ音源か。これはもっとありそうな気がするので、忘れた頃にリリースしてくれるとうれしいかも(笑)。

 


▼DEF LEPPARD『THE EARLY YEARS 79-81』
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2020年3月 9日 (月)

WHITESNAKE『LOVEHUNTER』(1979)

1979年10月にリリースされたWHITESNAKEの2ndアルバム。日本盤は同年9月に予定されていた初来日公演にあわせて、海外より1ヶ月早く発売されたようです(が、結果的にそのジャパンツアー自体が中止に。あれ、どこかで似たような話題が。苦笑)。

デビューアルバム『TROUBLE』(1978年)が本国イギリスで50位まで上昇、続く2ndアルバムに先駆けて発表されたリードシングル「Long Way From Home」もシングルとしては初めてチャートイン(最高55位)を記録するなど、バンドとしてどんどん良い状況を作り始めていた中、満を辞してリリースされた今作は全英29位という好成績を残しています。バンドとしてようやくシーンに認められたということでしょうかね。

現在だったらコンプライアンス的にありえないであろうジャケ写が、後追いで聴き始めた中高生時代の自分にはかなりハードルが高かった本作。内容的には前作の延長線上にあるものの、よりナチュラルなブルースロック/ソウルフルなハードロックを聴かせてくれます。

シングルヒットも果たした「Long Way From Home」のおおらかなノリは、前作のオープニングとは異なるもので、スルッとアルバムに入っていける空気を作ってくれます。続く代表曲のひとつ「Walking In The Shadow Of The Blues」のクールさ、レオン・ラッセルのカバー「Help Me Thro' The Day」のアダルトな世界観と、本作が前作以上に対象年齢を上げてきたことを冒頭3曲でアピール(しているように感じました)。とにかく「Help Me Thro' The Day」でのデヴィッド・カヴァーデイル(Vo)の歌がハンパないほどの表現力で、「Ain’t No Love In The Heart Of The City」といいこのバンドにカバーをやらせたらすごいものができることを実感させられます(この際「Day Tripper」は無視する。いや、あれもよかったけどね)。

中盤に入ると、軽快さを伴うロックンロール「You 'N' Me」やアップテンポなハードロック「Mean Business」が用意されており、前作からのリスナーを手厚く迎えてくれます。が、音の質感やアレンジが前作よりも手堅くなっている印象を受け、この1年で“バンド感”がより強まったことがこういった点に形となって表れているのかなと思わされました。

アルバムを象徴するようなタイトルトラック「Lovehunter」を経て、バーニー・マースデン(G, Vo)がリードボーカルをとるグルーヴィーな「Outlaw」が良いアクセントになったり、王道なロックンロールリフを持つ「Rock 'N' Roll Woman」でうまく聴き手をノせたと思うと、1分半程度の短さにも関わらずリスナーのハートを掴んで離さない名バラード「We Wish You Well」で締めくくり。前作の延長線上にありながらも、実は少しずつ楽曲の幅を広げ始めていることがこういったところからも伝わるのではないでしょうか。

バンドとしてはまだまだ垢抜けなさが残る本作ですが、続く傑作『READY AN' WILLING』(1980年)での本格的ブレイクを前にした“プロトタイプ”と考えると本作の残した功績は非常に大きなものがあるのではないかと思います。

なお、2006年のリマスター化に際し、本作のCDには4曲のボーナストラックを追加。デビューアルバムから「Belgian Tom's Hat Trick」「Love To Keep You Warm」「Trouble」、そして「Ain't No Love In The Heart Of The City」の「BBC Radio 1」でのスタジオライブ音源を楽しむことができます。観客の入ったライブのそれとはまた違った、スタジオ音源以上のスリリングさ、生々しさを味わえるこれらのテイクは単なるおまけ以上の価値ありです。

 


▼WHITESNAKE『LOVEHUNTER』
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2020年1月16日 (木)

LED ZEPPELIN『IN THROUGH THE OUT DOOR』(1979)

1979年8月にリリースされたLED ZEPPELINの8thアルバム。

前作『PRESENCE』(1976年)から3年5ヶ月という、もっとも長いスパンを経て届けられた本作。もちろんその間には2枚組ライブアルバム『THE SONG REMAINS THE SAME』(1976年)の発売もありましたが、1977年夏のツアー中にロバート・プラント(Vo)の息子が亡くなったり、ジョン・ボーナム(Dr)が暴行事件で逮捕されたりと災難が続き、ツアーも途中でキャンセルに。一時代を築いたロックバンドは長きに渡り沈黙することになります。

その合間にはイギリスでのパンク・ムーブメント勃発もあり、ツェッペリンは完全に「過去のもの」として見なされるように。しかし、約1年の休止期間を経てバンドは再集結し、今後の方針をミーティング。秋にはついにレコーディングに突入することになります。

ジミー・ペイジ(G)完全主導で制作されたキーボードレスの“ギターアルバム”『PRESENCE』に対して、本作ではジョン・ポール・ジョンズ(B, Key)が大活躍。当時の最新鋭シンセサイザーを導入するなど、全曲でジョンジーのピアノやキーボードがフィーチャーされています。

また、作曲面でも全7曲中ジョンジーは6曲にクレジット。ペイジ&プラント単独で書かれたのは朗らかなカントリーロック「Hot Dog」のみ。全体的にもペイジのカラーは希薄で、初期〜中期のバンドが持っていた鋭角的なブルース・ハードロック色は完全に払拭されています。

それに取って代わったのが、サンバに加えて当時流行り始めていたテクノポップという、新境地的な要素。オープニングの「In The Evening」こそ多少エッジの効いたギターを楽しむことができますが、続く「South Bound Saurez」ではメインのリフを刻むのはピアノですし、続く「Fool In The Rain」もしかり。そこに先の「Hot Dog」が続くわけですから、緊張感みなぎる『PRESENCE』とはある種対極にある作風と言えるでしょう。

アルバム後半には10分を超えるテクノポップ的リフを持つ「Carouselambra」でバンドとしての新境地を見せつけ、プラントが亡き息子について歌ったバラード「All My Love」、ソウルフルなボーカル(特に終盤が圧巻!)が際立つ「I'm Gonna Crawl」と“大人になったツェッペリン”を全面的にアピール。パンク・ムーブメントと来たる新たなHR/HMムーブメントの間にこうした新機軸を打ち出したのは、バンドとしてもかなりの冒険だったのではないでしょうか。

結果的には翌年ボンゾが急逝したことで、本作が最後のオリジナルアルバムとなってしまいましたが、当時はここで終わるなんてこと誰も考えていなかったと思います。しかし、結果として「All My Love」や「I'm Gonna Crawl」のような“エモさ”で締めくくることになってしまった本作は、ボンゾの遺作という意味において冷静な判断を下し難い、非常に厄介な1枚となってしまいました。サウンド面での変化なども含めて、本作には手を出しにくいと思っている(いた)リスナー、少なくないんじゃないでしょうか(実際、僕もツェッペリンのカタログを聴き進める際、本作に手を伸ばしたのは本当に最後でしたから)。

正真正銘のラスト作として、数年後に未発表曲集『CODA』(1982年)を発表しているものの、やはりツェッペリンはここで終わった。本来ならジョンジーの新たな才能が開花した本作を経て、ここで抑えた分のペイジのアイデアも炸裂した、正真正銘の“LED ZEPPELIN第2章”が次作でスタートするはずだったんでしょうね……。たられば話を今さらしても後の祭りですが、実際どんな化学反応が起きたのか……我々の想像を絶するものになったかもしれないし、あるいは本作の延長でお茶を濁したのか。本当にどうなっていたんでしょうね?

 


▼LED ZEPPELIN『IN THROUGH THE OUT DOOR』
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2019年12月28日 (土)

MOTÖRHEAD『OVERKILL』(1979)

1979年3月にリリースされたMOTÖRHEADの2ndアルバム。Discogsで調べると、日本盤は1981年に初めてLPが発表されたようです(1980年の4thアルバム『ACE OF SPADES』のヒットを受けて国内盤発売ということなんでしょうかね)。

MOTÖRHEADは1979年に2枚のアルバムを発表しており、まず3月にこの『OVERKILL』を、10月には早くも3rdアルバム『BOMBER』を立て続けにリリース。前者は全英24位、後者は12位とアルバムを重ねるごとに順位を挙げており、それが続く『ACE OF SPADES』での全英4位、およびライブアルバム『NO SLEEP 'TIL HAMMERSMITH』(1981年)の全英1位につながるのでしょうね。そういった意味では、この『OVERKILL』はブレイクへのきっかけを作った重要な1作ということになります。

オリジナル盤には全10曲を収録。オープニングを飾るタイトルトラック「Overkill」はライブ終盤でお約束として演奏される重要ナンバーのひとつで、特に終盤何度も繰り返されるエンディング(繰り返すごとに、どんどん速くなっていくプレイ)はライブならではの醍醐味としてよく知られています。

このほかにも「Stay Clean」や「No Class」「Damage Case」「Metropolis」など、活動後期までライブで頻繁に演奏された楽曲が多く含まれており、ベストアルバムを除けば彼らのオリジナルアルバムでは入門編として最適な1枚と言えるのではないでしょうか。

改めて聴き返すと、すでにこのアルバムの時点でいわゆる“MOTÖRHEADらしさ”は完成の域に達しています。レミー(Vo, B)の歪みまくったベースリフト“ファスト”・エディ・クラーク(G)の“アグレッシヴさとブルージーさを併せ持つ”ギタープレイの絡み、メタルというよりはパンクロックのような疾走感と破天荒さを持つフィルシー・“アニマル”・テイラー(Dr)のドラミングは奇跡と言わんばかりのバランス感で融合し、ひとつの集合体として成立している。この奇跡を味わいたいから、僕らはロックに夢を見て、ある種の盲信が進行していく……ここまで盲信されてくれる存在がすでに存在しないという事実、非常に悲しいです。

ヘヴィメタルやスラッシュメタルの元祖として消化されることの多い彼らですが、「Overkill」のようなファストナンバーを除けばその大半はロックンロールのマナーに乗っ取った非常にシンプルな構成の楽曲ばかり。その「Overkill」もアレンジこそメタリックですが、曲の構成自体はロックンロールそのまんまですからね。シンプルなものの強み、そしてシンプルな構成でいかに人を惹きつけることが難しいかを理解している彼らだからこそ、この音には説得力がそなわっているわけです。

……なんて書いたものの、やっぱり小難しいことを考えずに、爆音で流しつつ無心で楽しんでもらいたい。結局はそんなそんなシンプルな楽しみ方がお似合いな1枚です。

 


▼MOTÖRHEAD『OVERKILL』
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2019年6月10日 (月)

JOY DIVISION『UNKNOWN PLEASURES』(1979)

JOY DIVISIONが1979年6月に発表したデビューアルバム。メンバーはイアン・カーティス(Vo)、バーナード・サムナー(G, Key)、ピーター・フック(B, Vo)、スティーヴン・モリス(Dr)の4人。当時全英アルバムチャートで71位を記録しています。

「Disorder」のようにスカスカのリズムの間を空間系のエフェクトをかけたギターが埋め尽くしたりする曲もあるものの、基本的には隙間だらけの非常にシンプルなバンドアンサンブルの中にひねくれたベースラインがうねうね歌ったり、効果音的にシンセを用いたりなどしたチープなサウンド。今の感覚で聴くと非常にスカスカだし、いくらリマスタリングされた音源(最新版は2007年リマスター)でも、さすがにオリジナルは40年前のものですからね。それなりのものだと理解してから触れてもらえればと(しかし、このチープさが最終的にはクセになるんですけどね)。

パンクロックがひと段落し、そこから派生したニューウェイヴ/ポスト・パンクバンドのひとつと見なされているJOY DIVISIONですが、確かにこのアルバムにも“パンクロック以降”を匂わせる面影は残っています。「Shadowplay」や、本作で唯一ピーターがボーカルを執る「Interzone」なんてまさにそれですよね。

しかし、シンプルなリズムとリフ(ギターというよりもベースかな)が反復され、その上にイアンのエモーショナルになりすぎない歌声が乗ると不思議な空気感が出来上がる。オープニングの「Disorder」然り、エンディングの「I Remember Nothing」然り。暗黒という言葉がぴったりなこのダークさは、なかなか真似できるものではないと思います。

そういったスタイルのせいか、要所要所でTHE DOORSを思い浮かべることもあります。イアンの書く歌詞の歌詞の世界観によるものも大きいですが、ジム・モリソン(Vo)のように情熱的でセクシーな印象はまったく伝わってこない。むしろ、そういった感情の動きを排除しているとさえ思えてくるこのダウナーさ。そこにUKパンクムーブメント後の“祭りのあと”感が透けて見える気がします。

シンプルなリズムとリフの反復という点においては、ほかのポスト・パンクバンドにも通ずるものがあると思いますが、ほかのバンドがダブなどアフロ的な方向に突き進んだりする中、JOY DIVISIONにはそちら側の色は見受けられない。その後、NEW ORDERにてハウスなどのクラブミュージックへと接近していくことを考えると、この時点でその片鱗が散りばめられている、と受け取ることもできるのではないでしょうか。

とはいえ、実は僕自身「ここがすごいんだよ!」とはっきり言い切れないところがあるのも、このJOY DIVISIONというバンドの不思議な魅力と言いますか。クセになるんだけど、じゃあ何がすごいのかと言われると「う〜ん……」と唸ってしまう。特にこの1stアルバムは荒削りだったパンク上がりの下手くそバンドが、プロデューサーの手によって劇的な変化を遂げた転換期でもあっただけにね。

そういう意味では、このバンドの魅力って本作のデラックス盤の特典ディスクに収録されたライブ音源(アルバム発売後の1979年7月、マンチェスターで録音)と合わせて聴くことでようやく見えてくるんじゃないか。そんな気がします。

 


▼JOY DIVISION『UNKNOWN PLEASURES』
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