カテゴリー「1981年の作品」の27件の記事

2024年11月10日 (日)

サブスクに存在する音源を通して1980年〜1994年のHR/HM(およびそれに付随するハード&ヘヴィな音楽)の歴史的推移を見る

当サイトではかつて『1991 in HR/HM & Alternative Rock』というエントリーを公開しています。これは過去数年メインストリームだったHR/HMがグランジと入れ替わる絶妙なタイミングとなった1991年の音楽を、当時の世相とともに振り返りながらサブスクで聴いていくという内容でした。で、これと同じようなエントリーを1994年版で作ろうかと思っていたのですが、まとめながら歴史的観点(音楽以外を含む)ではそこまで大きくないような気がしまして……。

で、同じタイミングにこちらのイベントのためにプレイリストを共同制作していたのですが、その流れで「これを年代別に作ってみたいな」と思うようになり。だったら先の1994年までを年間プレイリストで辿っていくのはどうかな、という考えに至ったわけです。

ちゃんと始めるなら何年からがいいのかな……と熟考したところ、やはりNWOBHMが勃発したと言われる1980年から1年区切りで辿っていくのがいいんじゃないか、ということで、ここ数ヶ月ちまちまと作業しておりました。で、先ほど最後の1年となる1994年のプレイリストを完成させたので、こうしてエントリーとしてまとめるに至りました。

ぶっちゃけ、考察もなにもないです。これらを年代順に聴いていくことでそれぞれ見えてくるもの、気づくことは間違いなくあるでしょう。僕から「これがこうだから、こうなった」なんて細かいことはあえて言いませんが、もし何か付け加えるとしたら……意外とサブスク上に存在しない重要作品や楽曲が欠けているという事実と、HR/HMというジャンルが80年代後半からどんどん拡大していき、リリースアイテムも格段と増えたこと。例えば100曲でまとめる際、1980年と1994年とではその数に差がかなり出てしまったこと(1980年はHR/HMの絶対数が少なく、本来なら取り上げたいNWOBHMの名曲もサブスク上に存在せず、結果として無理やりパンクからの派生や1アーティストから2曲選んだりしている。一方で1994年のアイテムは国内外含め200曲近く集まり、そこから削っていくのにひと苦労した)。かつ、ジャンルとしてもどんどん洗練されていき、主流となるサウンドの方向性もどんどん変化していることにも気づくはず(結局言ってるし)。あと、90年代以降の音楽は今聴いても古さを感じないけど、80年代前半はまだ70年代の延長にあるんだなと再認識させられました。いろいろ面白かった。

ということで、ここから1年単位で作ったプレイリスト(各100曲)。それぞれ7〜8時間とかなり長尺ですが、暇なときにでもダダ流ししながらお楽しみいただけると幸いです。

 

■1980年

 

■1981年

 

■1982年

 

■1983年

 

■1984年

 

■1985年

 

■1986年

 

■1987年

 

■1988年

 

■1989年

 

■1990年

 

■1991年

 

■1992年

 

■1993年

 

■1994年

2023年2月23日 (木)

U2『OCTOBER』(1981)

1981年10月12日にリリースされたU2の2ndアルバム。日本盤は『アイリッシュ・オクトーバー』の邦題で、翌1982年発売。

初のフルアルバム『BOY』(1980年)から1年ぶりに発表されたオリジナルアルバム。「Fire」(英35位/アイルランド4位)、「Gloria」(英55位/アイルランド10位)というシングルヒットも手伝い、アルバム自体もイギリスでは前作の52位を上回る最高11位を記録(本国では前作13位とほぼ同等の最高17位)。しかし、アメリカでは前作のトップ100入り(63位)には及ばず、最高104位止まりでした。

プロデューサーには前作から引き続きスティーヴ・リリーホワイト(XTC、THE ROLLING STONESSIMPLE MINDSなど)を起用。次作『WAR』(1983年)で極める独創的な音作りは、今作の時点でほぼ完成の域に達しており、あとは楽曲のクオリティでどこまでB級感から抜け出すかが課題でした。

本作ではアイルランド出身というバンドのルールが随所に反映された、前作以上に内向的なテイストでまとめられています。オープニングを飾る名曲「Gloria」では、曲の後半に賛美歌を彷彿とさせるコーラスを採用することで、のちの『THE JOSHUA TREE』(1987年)への布石を早くも打ち出しているほか、アイルランドの民族楽器イリアンパイプスをフィーチャーした「Tomorrow」、ジ・エッジ(G)のピアノ伴奏によるミニマルなアレンジが印象的なタイトルトラック「October」など、前作以上に独自性が強まっています。

思えば、前作は良くも悪くもパンク/ニューウェイヴの延長線上にある衝動性の強い作風でしたが、そこから一歩踏み出した本作は完全なるオリジナリティを獲得するための習作という意味合いも強いのかな。実際、楽曲のクオリティはA級レベルにあと一歩といったものが多く、そのためかアルバム全体の印象もちょっとぼんやりしたものがある。その霞がかった音像/空気が本作最大の魅力とも言えますが、『WAR』以降の大躍進を考えるとやはり過渡期かなと言わざるを得ません。

ロックバンドにとって2ndアルバムは勝負作になるわけですが、バンドの軸を確立させたという点では成功しているものの、大衆を圧倒させるという意味では失敗に終わった。そんなモヤモヤが良くも悪くもU2らしくて、僕はこのアルバムが嫌いになれません。のちのベストアルバム『THE BEST OF 1980-1990』(1998年)に1曲も選出されていないという点では、バンドにとって大きな意味を持つアルバムではないのかもしれませんが、それでも「October」を隠しトラックとして忍ばせるあたりに彼らの「それでも捨て切れない」という思いも伝わる。実は、バンドの個性を確立させる上ではもっとも重要な1枚ではないでしょうか。

 


▼U2『OCTOBER』
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2023年2月 7日 (火)

BLACK SABBATH『MOB RULES』(1981)

1981年11月4日にリリースされたBLACK SABBATHの10thアルバム。邦題は『悪魔の掟』。

トニー・アイオミ(G)、ギーザー・バトラー(B)、ビル・ワード(Dr)のオリジナル編成にロニー・ジェイムズ・ディオ(Vo/ex. RAINBOW)が加入して制作された前作『HEAVEN AND HELL』(1980年)が、本国イギリスで最高9位、アメリカでも最高28位とヒットを飛ばし、辛うじて低迷期を脱したBLACK SABBATH。しかし、その成功も束の間、『HEAVEN AND HELL』を携えたツアー途中でビルが脱退してしまいます。

しかし、そのツアーを支えたのが、リック・デリンジャーなどと活動をともにしてきたヴィニー・アピス(Dr)。バンドはそのままヴィニーを正式メンバーに迎え、ジェフ・ニコルズ(Key)をレコーディングメンバーに迎えて、再びマーティン・バーチ(IRON MAIDENWHITESNAKEDEEP PURPLEなど)とスタジオ入りします。

ロニー、トニー、ギーザーの3頭体制で制作された楽曲の数々は、『HEAVEN AND HELL』の雰囲気を引き継ぎつつも若干オジー・オズボーン期のテイストも復調。それもあってか、前作ほど様式美を追求した方向性というわけでもなく、「Neon Knights」をより陽気にさせたアップチューン「Turn Up The Night」やひたすらヘヴィさに振り切ったミドルナンバー「The Sign Of The Southern Cross」、豪快さが増した「The Mob Rules」、オジーが歌っても何ら違和感のない「Country Girl」など比較的バラエティ豊かな楽曲群はどこか軸を失ったようにも映り、聴き手に散漫な印象を与えます。

1曲1曲の仕上がりは非常に高く、トニーのギターワークもオジー時代のおどろおどろしさ&ヘヴィさ、そして『HEAVEN AND HELL』で得たメロディアスなスタイルの両面を発揮しており、アーティスト/プレイヤーとしての成長を強く感じさせる。しかし、それがアルバムのトータル面に直結したかといえばそうでもなく、残念ながら1枚のまとまったアルバムとしての完成度は前作より劣っていると言わざるを得ません。

ロニーの持ち味を見事に活かした「Falling Off The Edge Of The World」のような名曲も存在するものの、この方向でひっぱり切ったらもっと成功できたんじゃないか……そんなもどかしさを伴う1枚です。個人的には嫌いになりきれない魅力もしっかり感じているんですけどね。結局、本作での活動を経て1982年にロニーとヴィニーがバンドを脱退し、そのまま新バンドDIOを結成。その後、サバスは意外なシンガーをリクルートすることになります。

 


▼BLACK SABBATH『MOB RULES』
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2022年11月10日 (木)

AC/DC『DIRTY DEEDS DONE DIRT CHEAP』(1976)

1976年9月20日に本国オーストラリアでリリースされた、AC/DCの3rdアルバム。

海外では同年11月12日に、ヒプノシスが手がけた現行のジャケットに差し替えて、『HIGH VOLTAGE』(1976年)に続く2作目として発表されました。ただ、アメリカでは当時発売されておらず、ボン・スコット(Vo)の死去をきっかけに1981年に入ってから発売され、『BACK IN BLACK』(1980年)の大ヒット(全米4位)に続いて最高3位を記録しています。

オーストラリア盤とインターナショナル盤とでは収録内容が一部異なりますが、ここでは現行のインターナショナル盤について話を進めていきます。

ボン・スコット、アンガス・ヤング(G)、マルコム・ヤング(G)、マーク・エヴァンス(B)、フィル・ラッド(Dr)という初期のメンバーがようやく安定したタイミングで、楽曲の勢いや充実度も一気に高まったのが本作。ライブには絶対に欠かせない、多くのアーティストによってカバーし続けられているタイトルトラックや、「Rocker」「Problem Child」といった以降のライブでの定番曲を複数含み、ハードロックならではの派手なサウンドとパンクロックにも通ずる精神性が表れた歌詞などが、当時の若者に支持されたのも理解できる、とにかく大音量で楽しみたい内容です。

かと思えば、アナログB面(M-6以降)は「There's Gonna Be Some Rockin'」みたいなノリノリのブギー、7分近くにもおよぶパンク抒情詩のようなドラマチックなロックンロール「Ain't No Fun (Waiting Round To Be A Millionaire)」、地味ながらも味わい深いスローブルース「Ride On」、黒っぽいノリを持つグルーヴィーなロックンロール「Squealer」と変化球揃い。前半(M-1〜5のアナログA面)のストロングスタイルと比較すると、バンドとして創作意欲がかなり高まったことか若干の迷いも見せていることが窺える。ここでいろいろ試した結果が、続く『LET THERE BE ROCK』(1977年)での開き直りにつながるのかもしれません。

ハードロックとはいっても、本作まではロックンロール色のほうがまだまだ濃厚。バンドとしてより強靭なアンサンブルを次作で獲得することで、一気に化けていくと考えると、この充実ぶり/前のめり感が過渡期のようにも映るわけです。もちろん、良い意味でですけどね。

日本では『悪事と地獄』の邦題で親しまれてきた本作。ほかのヒット作と比較すると、どうしても地味な印象がありますが(ヒプノシスによる新たなアートワークの影響も強いのかな)、アメリカでは現在までに600万枚以上を売り上げ、『BACK IN BLACK』の2,500万枚、『HIGHWAY TO HELL』(1979年)の700万枚に続くセールスを誇る代表作のひとつとして愛され続けています。

 


▼AC/DC『DIRTY DEEDS DONE DIRT CHEAP』
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2022年11月 2日 (水)

DOKKEN『BREAKING THE CHAINS』(1981 / 1983)

DOKKENのデビューアルバム。もともとは1981年、フランスのレーベル・Carrere Recordsから『BREAKIN' THE CHAINS』のタイトルで発表されたものでしたが、Elektra Recordsからのワールドワイドデビューに際してリミックス&曲順変更、そしてタイトルを現在の『BREAKING THE CHAINS』に変更し、1983年9月18日にアメリカにて発売されています。なお、本稿では原稿のElektra版について触れていきます。

ドイツでレコーディングされた本作の制作メンバーは、ドン・ドッケン(Vo, G)、ジョージ・リンチ(G)、ミック・ブラウン(Dr)、ホアン・クルーシェ(B)という布陣。1983年のメジャーデビュー時点にはホアンはRATT加入のため脱退しており、アートワークやMVにはのちの黄金期メンバーのひとりであるジェフ・ピルソンが参加しています。

タイトルトラック「Breaking The Chains」やコンピ盤などにもたびたび収録されるファストナンバー「Paris Is Burning」など、その後のDOKKENにも通ずる原石のような楽曲も多数存在するものの、全体を通して聴くと若干のB級感は否めません。いわゆる“LAメタル/ヘアメタル”の範疇で語られることの多い彼らですが、ドイツレコーディングや当時ACCEPTなどで名を上げていたマイケル・ワグナーのプロデュースなども影響を、アメリカンな音よりも欧州メタルに接近した湿り気のあるメロディ/サウンドが特徴的で、同時期に台頭したMOTLEY CRUEやRATTとは一線を画する特殊な存在であったことは本作からもおわかりいただけることでしょう。

「I Can't See You」や「Seven Thunders」を今聴くと恥ずかしくなるようなポップさが含まれていますが、その一方で「Live To Rock (Rock To Live)」や「Nightrider」での前のめりな攻めの姿勢は次作『TOOTH AND NAIL』(1984年)への習作と受け取ることもできる。かと思えば、「Young Girls」が若干RATTっぽいリフワークなのも興味深い。ジョージ・リンチのギタープレイは派手さはあるものの、以降と比べるとこの時点ではまだ開花前といった印象も。

ところが、Elektra版に収録された「Paris Is Burning」は1983年12月のベルリン公演をベースにしていることから、1981年に録音した『BREAKIN' THE CHAINS』以降の音源/プレイ。フランス版のアルバムをレコーディングしたあとにライブを重ねることで、ジョージ自身の個性もさらに固まっていき、このElektra版「Paris Is Burning」では『TOOTH AND NAIL』でのプレイスタイルが早くも垣間見える結果となったわけですね。次作における「Tooth And Nail」でのフラッシーさにもつながる冒頭のソロプレイは、本作における最大のハイライトではないでしょうか。

なお、本作収録の「Felony」は初期のデモ音源をまとめたアルバム『THE LOST SONGS: 1978-1981』(2020年)にも収録されているので、完成版と聴き比べてみるのもいいかもしれません。

 


▼DOKKEN『BREAKING THE CHAINS』
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2022年2月 3日 (木)

JOURNEY『ESCAPE』(1981)

1981年7月17日にリリースされたJOURNEYの7thアルバム。

前作『DEPARTURE』(1980年)が初の全米TOP10入り(最高8位)を記録し、「Any Way You Want It」(全米23位)、「Walks Like a Lady」(同32位)、「Good Morning Girl / Stay Awhile」(同55位/両A面)といったヒットシングルを輩出。1980年12月には日本映画『夢・夢のあと』のために制作されたサウンドトラックアルバム『DREAM, AFTER DREAM』、1981年1月には初のライブアルバム『CAPTURED』も連発し、こちらも全米9位まで上昇、さらに同作からは「The Party's Over (Hopelessly in Love)」(同34位)というスマッシュヒットシングルも生まれました。

この勢いを途絶えさせないようにと、スタジオ作としては1年5ヶ月という短いスパンで届けられた今作。「Who's Crying Now」(全米4位)、「Don't Stop Believin'」(同9位)、「Open Arms」(同2位)、「Still They Ride」(同19位)とシングルヒットを連発させ、アルバム自体も初の全米1位を獲得。現在までに1000万枚以上を売り上げる、オリジナルアルバムとしてはキャリア最大のヒット作となりました(バンド最大のヒット作は1988年に発表したベスト盤『GREATEST HITS』で、アメリカのみで1500万枚超)。

ハードロックバンドとしての魅力は次作『FRONTIERS』(1983年)に譲るものの、アメリカンロックの大らかさとポップスとして通用するソフト感のバランスにもっとも優れているのが本作の特徴でしょうか。今作はグレッグ・ローリー(Key)から元THE BABYSのジョナサン・ケインへとメンバーチェンジして初のアルバムで、ジョナサンは早くもソングライティング面で大貢献しており、全10曲すべてに携わっています。

「Who's Crying Now」や「Don't Stop Believin'」といったバラードヒットの印象が強い本作(およびJOURNEYというバンドのパブリックイメージ)ですが、「Stone In Love」や「Keep On Runnin'」「Escape」をはじめとする楽曲では70年代から引き継ぐアメリカンハードロックバンドとしての矜持が伝わる、随所にテクニカルな演奏/アレンジがフィーチャーされています。特に、「Keep On Runnin'」や「Dead Or Alive」で味わえる疾走感や「Escape」で楽しめるプレイヤー陣の奇才ぶりは、本作における真の意味での醍醐味ではないでしょうか。ニール・ショーン(G)のギタリストとしての才能は本作の随所から伝わってきますし、「Mother, Father」でのリフワークのカッコ良さに関しては特筆しておくべきポイントだと断言しておきます。

その一方で、スティーヴ・ペリー(Vo)の声の存在感もさすがの一言で、ぶっちゃけシンガーとしての絶直期は今作や続く『FRONTIERS』、そしてソロアルバム『STREET TALK』(1984年)あたりではないかと思うほど。先に触れた「Mother, Father」はニールのギターのみならず、スティーヴのボーカルワークも絶品で、数々のシングルヒットを差し置いて真っ先にオススメしたい1曲でもあります。このドラマチックなハードロックチューンがあるからこそ、続くラストナンバー「Open Arms」がより輝くわけです。

音の質感的には70年代の延長線上にあるため、今聴くと若干の古臭さを感じずにはいられませんが(特に、80年代的な質感の『FRONTIERS』のあとに聴くと余計に感じるかも)、内容の充実度はキャリア最高峰。個人的にはベストアルバムよりも真っ先に聴くべき1枚だと思っています。

にしても、1981年7月というタイミングに本作とFOREIGNERの4thアルバム『4』がリリースされているという事実、非常に興味深いです。ハードロック界隈的には新興勢力が現れ始めた時期ですが、70年代からシーンを牽引してきたバンドたちによる奮起がもっとも伝わる2枚かもしれませんね。

 


▼JOURNEY『ESCAPE』
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2022年2月 2日 (水)

FOREIGNER『4』(1981)

1981年7月2日にリリースされたFOREIGNERの4thアルバム。

1977年にアルバム『FOREIGNER』でデビューして以降、リリースした3作のアルバムすべてがアメリカでマルチプラチナム(1stと3rdアルバム『HEAD GAMES』は現在までともに500万枚、2ndアルバム『DOUBLE VISION』は700万枚)という快挙を成し遂げたFOREIGNER。80年代に突入して最初のアルバムとなる本作では、チャート的にも初の全米1位を獲得したほか、「Urgent」(全米4位)、「Waiting For A Girl Like You」(同2位)、「Juke Box Hero」(同26位)、「Break It Up」(同26位)、「Luanne」(同75位)とヒットシングルを連発します。

このうち「Waiting For A Girl Like You」は10週連続2位という快挙なのか不名誉なのかわからない記録を樹立し、1982年の全米年間チャートで19位にランクインしました(ちなみに、このタイミングの1位はオリヴィア・ニュートン・ジョン「Physical」とHALL & OATESの「I Can't Go For That (No Can Do)」でした)。こういったヒットもあり、アルバム自体も全米で600万枚以上を売り上げる、キャリア2番目のセールスを誇る代表作となりました。

前作でのロイ・トーマス・ベイカーから、新たにプロデューサーにロバート・ジョン・マット・ラングを迎えて制作された本作。すでにマット・ラングはAC/DC『HIGHWAY TO HELL』(1979年)『BACK IN BLACK』(1980年)で名声を得ており、このFOREIGNERのアルバムと同タイミングにはDEF LEPPARDの2ndアルバム『HIGH 'N' DRY』(1981年)も発売されています。要は、プロデューサーとしてノリにノッた時期の1枚ということです。それもあってなのか、本作のサウンド面はバンドとして非常に脂の乗った演奏/アレンジを楽しむことができるのです。

しかし、バンドとしては初期メンバーのイアン・マクドナルド(G, Sax)とアル・グリーンウッド(Key)が脱退し、ルー・グラム(Vo)、ミック・ジョーンズ(G, Key)、リック・ウィルス(B)、デニス・エリオット(Dr)の4人編成になってしまったタイミング。そんなタイミングにトーマス・ドルビー(Synth)をはじめとするゲストプレイヤーを多数迎えることで、核となる4人で作り上げる“ロックバンドFOREIGNER”の真骨頂と、トーマス・ドルビーのシンセプレイ/アレンジを全面に打ち出した当時の最新テクノロジーを駆使することで、“(1981年当時の)ロックの未来”が味わえる1枚が完成したわけです。

前作までの流れを汲む豪快なハードロック「Night Life」から始まる本作。同曲や「Juke Box Hero」「Luanne」「I'm Gonna Win」など陽気なアメリカンロック的側面を強調した楽曲がある一方で、欧州風の湿り気が感じられる憂いのハードロック「Break It Up」「Girl On The Moon」、シンセを前面に打ち出したバラード「Waiting For A Girl Like You」、ニューウェイヴの延長線上にありながらもハードロック的色合いを維持した良曲「Urgent」など、とにかくヒットチャートに優しい耳馴染みの良い“産業ハードロック”がズラリと並びます。どれも完成度の高い楽曲ばかりなので、そりゃ当時ラジオでかかりまくるわけで、それがセールスにもつながるのも納得。

2022年の耳で接すると、トーマス・ドルビーの奏でるシンセの音色は時代を感じずにはいられませんが、少なくとも80年代前半の耳にはこれこそが最新かつ未来の音であり、ハードロックバンドがこうしたテクノロジーを率先して取り入れたことは衝撃だったのではないでしょうか。この数年後にVAN HALEN「Jump」という名曲でチープなシンセサウンドを導入したことで、また時代は変化するのですが(あれはあれで大発明なんですけどね)、この時代にリアルタイムでこのアルバムに触れていたら間違いなく僕も「……未来見えた!」と興奮していたことでしょう。残念ながら、僕が本作に触れずのは80年代半ばのこと。3、4年でテクノロジーが次々と進化するタイミングだったので、この時期に聴いてもすでに若干の古さがありましたが。

ちなみに、現在流通しているCDおよびストリーミング版の本作にはボーナストラックとして、「Juke Box Hero」「Waiting For A Girl Like You」の“Nearly unplugged version”と称したアコースティックバージョンを追加収録。こちらは1999年に録音されたものなので、ルー・グラムの声の老いを感じずにはいられません(涙)。

 


▼FOREIGNER『4』
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2021年11月24日 (水)

KISS『MUSIC FROM "THE ELDER"』(1981)

1981年11月10日にリリースされたKISSの9thアルバム。

ディスコやソウルに傾倒した異色作『DYNASTY』(1979年)、『UNMASKED』(1980年)を経て届けられたのは、KISS初のコンセプトアルバム。当初、ジーン・シモンズ(Vo, B)原案の『THE ELDER』という映画が計画され、その映画のために楽曲制作を行なっていたのですが、映画が頓挫してしまい音楽だけが残った。そこでジーン(とバンドのマネージャー)は残った曲をどうにか生かそうということで、ほかのメンバーの反対を押し切ってアルバムを制作/発表することになった。これがKISS史上もっとも異色なアルバムの成り立ちです。

出世作『DESTROYER』(1976年)を手がけたボブ・エズリン(ALICE COOPERPINK FLOYDHANOI ROCKSなど)を再度プロデューサーに迎えたは、アルバムの冒頭&エンディングや曲間にインストゥルメンタル曲を挟むなどして、ストーリー性を重視したシームレスな作風に仕上げられています。ジーンが再度ボブ・エズリンを起用した理由は、『DESTROYER』でボブが施したファンタジー色の強いドラマチックなアレンジを求めたから。実際、このアルバムではそういったドラマ性が随所から感じられ、バンド本来がもつハードロックテイストと見事にマッチしているように映ります。

ただ、そのハードロックテイストは我々がイメージする“豪快なアメリカンロック”からはほど遠く、繊細さが色濃く表れた、どちらかというとヨーロピアンなテイストかなと。そういう意味では初期のロックンロールとも、『DESTROYER』以降のハードロック路線とも、そして直近のソウル/ポップ路線とも大きくことなる。そりゃあファンは「こんなのKISSじゃない!」と騒ぐわけです。

ただ、完全後追いの我々世代は前情報でイメージが出来上がってしまい、聴くのを躊躇していたものの、こうやって改めて耳を傾けると……意外に良いんです。こういうKISSも悪くない、と素直に思えます。ただ、ジーンがノリノリな一方で、ポール・スタンレー(Vo, G)は影が薄い気がします。

初出時のアナログ盤と現行のCDや配信版とでは、曲順や(短尺のインストを続く歌モノとくっつけてカウントするなどして)曲数が少し異なります。現行版は全11曲でインスト2曲、ジーン歌唱曲が3曲、ポール歌唱曲3曲、エース・フレーリー(G, Vo)歌唱曲1曲、ジーン&ポール歌唱曲2曲という内訳。こうやって数字で見ると均等なんですけど、不思議とジーンの印象が強いのはなぜでしょうね(ポールが声を張り上げず、抑え気味のトーンで歌っている曲が序盤に続くも大きいのかな)。

また、前作制作にほとんど参加していなかったピーター・クリス(Dr, Vo)に代わり加入したエリック・カー(Dr)にとっては、本作が初めてのレコーディング作品。せっかく花形と言えるようなバンドに加入したのに、最初がこれっていうのも可哀想というか……。

シングルカットされた「A World Without Heroes」は『UNMASKED』からの流れを引き継いだテイストも感じられるし、ポールがらしさを発揮するハードロック路線「The Oath」は次作『CREATURES OF THE NIGHT』(1982年)への伏線にも受け取れる。エースが歌う「Dark Light」のヘロヘロぶりも相変わらずだし、インストながらもKISSらしいスリリングな演奏が楽しめる「Escape From The Island」、アルバムを豪快に締め括るラストナンバー「I」など、曲単位でピックアップすれば印象的なものも多い。KISSの名の下で楽しもうとすると変な意識が働いてしまうかもしれないけど、これはこれでよくできたアルバムではないでしょうか。

チャート的には「A World Without Heroes」が最高56位という成績を残してはいますが、アルバム自体は全米75位と惨敗。しかし、そういった記録とは関係なしに、リリースから40年を経た今こそ正当に評価されるべき隠れた良作だと思います

 


▼KISS『MUSIC FROM "THE ELDER"』
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2021年11月18日 (木)

MOTLEY CRUE『TOO FAST FOR LOVE (40TH ANNIVERSARY REMASTERED)』(2021)

2021年11月10日にリリースされた、MOTLEY CRUEの1stアルバム『TOO FAST FOR LOVE』(1981年)最新リマスター盤。現時点ではフィジカルでの発売なしの、デジタル限定作品となっています。

今年6月に4thアルバム『GIRLS, GIRLS, GIRLS』(1987年)と3rdアルバム『THEATRE OF PAIN』(1985年)、9月には5thアルバム『DR. FEELGOOD』(1989年)、そして10月に2ndアルバム『SHOUT AT THE DEVIL』(1983年)の最新リマスター盤を立て続けにリリースしたMOTLEY CRUE。これらはバンド結成40周年の記念企画の一環として制作されたもので、今春のRecord Store Dayではこれら5作品のカセットテープが限定販売され話題を集めたばかりです。

これにて初期作品の最新リマスター盤企画はひとまず完結かな。最後にこの1stアルバムが選ばれたのは、リリース日の11月10日が40年前に今作が初めてリリースされた日だから。つまり、真の意味での40周年企画クライマックスなわけです。

さて、その40年前の音源の2021年最新リマスターの効果についてです。今回リマスターされた音源は、1981年初出時のオリジナルLeathürバージョンではなく、1982年のメジャーデビューに際してロイ・トーマス・ベイカーがリミックスを施したElektraバージョン。そもそもLeathürバージョンはすでにマスターテープが存在していないようなので、こうなりますわな(なので、過去ボックスなどでCD化された際のLeathürバージョンは、アナログ盤から起こした音なのです)。

気になるリマスタリング効果ですが、過去に触れてきた4作品同様に“音量をできる限りあげてコンプをかけて均一化したようなバランス感”でまとめ上げられています。なので、オリジナル版やその後のリマスターバージョンほど、ギターの尖った感が抑えられており、耳障りはだいぶ良いのではないでしょうか。「Starry Eyes」あたりを聴くと、そのへんの効果がよりわかりやすい気がします。

一方で、ドラムの低音がかなり効いており、イマドキのサウンドメイクに寄せられている印象も。「Live Wire」冒頭のツーバスでドコドコ突進するパートや、「Come On And Dance」でのドラムはこの効果がもっとも強く表れているような気がします。

まあ1981年のラフな録音をその後の作品と違和感なく聴かせること自体困難を極める作業ですし、ましてや『DR. FEELGOOD』のように鉄壁なサウンドと比較されたらたまったものじゃない。そう、この頃の音はオリジナルのチープさこそが売りであって、そこをなかったことにして現代的にドーピングするのはちょっと違うんじゃないかと思うんです。

なもんで、個人的には最初のLeathürバージョンの音が一番好きなんですよ。もっとも、僕がこれまで聴いてきた同作の音はレコード起こしの海賊盤と、正規版ながらも同様の起こしで若干のミックスを加えたバージョン。もしかしたら、レコードを通じて響く音がお気に入りなのかもしれません。『SHOUT AT THE DEVIL』のときにも

以前、レギュラーで出演しているDJイベントで本作のアナログ(1983年当時の日本プレス盤)を大音量で回したのですが、そこで耳にした音がこれまで聴いてきた『SHOUT AT THE DEVIL』の中ではベストだった、という一言だけは付け加えておきます。

と書きましたが、本作に関しても同様のことが言えると思います。だってこれ、CDが存在していなかった時代の作品ですからね。

まあ、なにはともあれ。これからMOTLEY CRUEのカタログに手を出そうとしている奇特な方(笑)には、ぜひこのデビュー作から順を追って彼らの進化を追体験してみてください。

 


▼MOTLEY CRUE『TOO FAST FOR LOVE (40TH ANNIVERSARY REMASTERED)』
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2021年10月 8日 (金)

JUDAS PRIEST『POINT OF ENTRY』(1981)

1981年2月下旬にリリースされたJUDAS PRIESTの7thアルバム。リリース初出時、UK盤と日本盤およびUS盤はジャケットが異なりましたが、最近はUKオリジナル盤のアートワークに統一されています。あの遠近感含め意味不明な荒野&道路のジャケットの印象で覚えているリスナーも少なくないはずです(笑)。

前作『BRITISH STEEL』(1980年)が、ちょうど同時期にイギリスから勃発したNew Wave Of British Heavy Metal(=NWOBHM)ムーブメントとリンクし、全英4位/全米34位という過去最高順位を記録。また、同作から「Living After Midnight」(全英12位)、「Breaking The Law」(同12位)、「United」(同26位)といったヒットシングルが生まれたことも手伝い、本国イギリスではロニー・ジェイムズ・ディオが加入したBLACK SABBATH、パンクとハードロックを見事な形でミックスさせたMOTÖRHEADらとともに、新世代バンドたちと共闘することになります。

そして、そのメタルの新たな波はアメリカにも飛び火。『BRITISH STEEL』がアメリカでも高評価を得たことで、バンドは次のターゲットをアメリカのマーケットに定めます。

前作でのソリッドなスタイルはそのままに、シンプルなアレンジ/作風はさらに強調され、かつメロディの親しみやすさもより強めていく。アルバム冒頭を飾る3曲(「Heading Out To The Highway」「Don't Go」「Hot Rockin'」)はまさにその方向性を象徴するような楽曲ではないでしょうか。

その一方で、やたらとソフトな印象が強まった「Turning Circles」、ブルースロック的な方向性の「Desert Plains」など、アメリカナイズされた楽曲もしっかり用意。「Don't Go」「Hot Rockin'」のキャッチーさも今思えば、その方向性にある2曲なんですけどね。「Solar Angels」もイントロこそヘヴィさを醸し出していますが、歌メロのわかりやすさはこの一環といえるものでしょう。

ただ、本作の残念なところは、後半に進むにつれて印象に残る曲が少ないこと。序盤の力の入れようと比較すると、より明確かと思います。あと前作では「Rapid Fire」や「Steeler」のように、アルバムの冒頭とラストを疾走感の強いメタルチューンで固めていましたが、今作にはそれが足りない。それ以外の要素は比較的『BRITISH STEEL』の延長線上にあるものなんですが、そのモノ足りなさも本作の低評価につながってしまったのは、致し方ないのかな。本国ではアルバムが最高14位、シングルは「Don't Go」(全英51位)、「Hot Rockin'」(同60位)と低調気味でしたが、アメリカではアルバム最高39位と前作と同程度、シングルでは「Heading Out To The Highway」がBillboard Mainstream Rock Songs(当時はRock Albums & Top Tracks)で最高10位まで上昇と、それなりの成功を収めています。

こういった戦略が、続くアルバム『SCREAMING FOR VENGEANCE』(1982年)と、翌1983年アメリカで開催された歴史的野外フェス『US Festival』での成功につながるわけです。そういった意味では、本作は中継ぎとしてそれなりの役割を果たしたわけですね。その功績含め、たまには本作のことも思い出してあげてください。なにせ「Hot Rockin'」という名(迷)MVを生み出した歴史的価値の高い1枚なんですから……(笑)。

 


▼JUDAS PRIEST『POINT OF ENTRY』
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