カテゴリー「1982年の作品」の34件の記事

2023年3月19日 (日)

HANOI ROCKS『ORIENTAL BEAT - THE 40TH ANNIVERSARY RE(AL)MIX』(2023)

2023年3月17日にリリースされた、HANOI ROCKSの2ndアルバム『ORIENTAL BEAT』(1982年)の40周年記念リミックスアルバム。

もともとは1982年1月に本国フィンランドで発売され、日本でも追って1983年1月に初来日記念盤として発表された代表作のひとつ。本作制作時のメンバーはマイケル・モンロー(Vo, Sax)、アンディ・マッコイ(G, Vo)、ナスティ・スーサイド(G)、サミ・ヤッファ(B)、ジップ・カジノ(Dr)で、のちの黄金期を支えるラズル(Dr)加入前最後のオリジナル作品となります。

本リミックス盤に付属のマイケル・モンローによる解説によると、当初の『ORIENTAL BEAT』のミックスにまったく納得していなかったとのことで、90年代にGUNS N' ROSES経由でUzi Suicide Recordsから再発される際にリミックスを希望したんだとか。しかし、当時はオリジナルのマルチトラックが行方不明になったと聞かされ、泣く泣く断念。しかし、数年前にUniversal Musicの倉庫で本作のマルチトラックが発見され、マイケルを中心に新たな形で本作が生まれ変わることになったのでした。

今回のリミックスに際し、曲順も一部変更。例えばオリジナル盤では8曲目に収録のタイトルトラックが、このリミックス盤では1曲目に配置されていたり、本来は2曲目の「Don't Follow Me」が新たに8曲目に変更されていたりと、聴き慣れたものから若干違和感も残る形に。ただ、これも2、3回と通して聴き返すと慣れてくるので、特に問題はないかな。

で、気になるのがリミックス効果。確かにギターのバランスが良くなったり、リズム体のチープさが少々払拭されたかな。全体的によりモダンなバランス感に調整されていて、80年代に初めて聴いたときとはまた違った心地よさが伝わる内容に生まれ変わっています。80年代にはあのB級感のあるチープなミックスが合っていたし、そこに惹かれたところもあったんだけど、これからHANOI ROCKSに触れるリスナーには確かに少々厳しいと言わざるを得ないかな。そういった点では、今回の改訂はマイケル・モンローが当初イメージしていた音というよりも、今の耳で聴いても耐え得るミックスに調整し直したというのが正しいのかもしれませんね。

また、「Oriental Beat」に顕著だけど、オリジナルバージョンを何百回と聴いてきた耳にも「……あれ?」と感じるボーカルが数ヶ所存在します。これは、マルチトラックに残っていた未使用のボーカルトラックを新たに採用したとのことで、「Oriental Beat」以外にも数曲で新規採用されているようなので、もうちょっと聴き込んで違いを見極めてみたいと思います。

もはやニューアルバムは期待できないと思っていたHANOI ROCKSですが、昨年の1日限りの再結成ライブに続きこのリミックスアルバムの発売など、メンバーが元気でいる限りはこうしたサプライズもまだまだあるのかもそれませんね。

 


▼HANOI ROCKS『ORIENTAL BEAT - THE 40TH ANNIVERSARY RE(AL)MIX』
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2022年12月31日 (土)

マイケル・ジャクソンの黄金期をオリジナルアルバムで振り返る(1979〜1991年)

2022年のうちに振り返っておきたいと思ったのが、マイケル・ジャクソン最大のヒット作にしてポップミュージック界における歴史的名盤『THRILLER』(1982年)について。自分は世代的に『THRILLER』バカ売れ期の末端にギリギリ触れており、当時のMTV(地上波時代ね)や『ベストヒットUSA』、『SONY MUSIC TV』を録画して「Thriller」のショートフィルムや「Beat It」「Billie Jean」のMVを何度もリピートしたものです。

なもんですから、原体験としては続く『BAD』(1987年)のほうがリアルタイム感が濃厚で、初来日となった後楽園球場公演をはじめさまざまな記憶がよみがえってきます(初めて&唯一生で観たのは1992年12月の『Dangerous Tour』でしたが)。

そんなこんなで、今年で『THRILLER』リリースから40年。アニバーサリー盤も発売されましたが、個人的には25周年盤のときの盛り上がりと比べるとやや気持ちが劣りますが(そりゃあマイケル生前でしたからね、25周年のタイミングは)、周年タイミングに取り上げておかなくちゃなと思いながらも、年末に向けての繁忙期でまったく触れる機会がなく、気づけば大晦日。時間も多少できたので、やるなら徹底したいなと思い、マイケルのソロキャリア黄金期の始まりといえる『OFF THE WALL』(1979年)から『DANGEROUS』(1991年)までの(個人的思い入れの強い)4作品について、コンパクトな形で触れていこうかなと思います。

 

 

『OFF THE WALL』(1979)

 

1979年8月10日にリリースされたマイケル・ジャクソンの5thアルバム。

古巣Motown Recordsを離れ、Epic Recordsへ移籍しての第1弾アルバム。意外にも全米チャートでは最高3位と1位を獲得していませんが、「Don't Stop 'Til You Get Enough」「Rock with You」とシングル2作連続全米1位を獲得し、ほかにも「Off The Wall」(同10位)、「She's Out Of My Life」(同10位)とヒット曲を連発し、アルバム自体は現在までにアメリカで900万枚以上、全世界で2000万枚以上の売り上げを記録しました。

初めてマイケル主導で制作されたアルバムであり、プロデューサーにはクインシー・ジョーンズを起用。ソングライター陣もポール・マッカートニー(「Girlfriend」)やスティーヴィー・ワンダー(「I Can't Help It」)、デヴィット・フォスター(「It's The Falling In Love」)などソウル/R&Bに捉われない幅広い人選で自身の表現の幅を広げています。

大ヒットした「Don't Stop 'Til You Get Enough」「Rock with You」のようなソウル/ディスコをベースにした楽曲はもちろんのこと、全体を通してポップフィールドでも通用する曲作りが徹底され始めたのがこの時期なのかな。ただ、続く『THRILLER』以降と比べると全体の統一感が強いことから、まだまだ“ブラックミュージックの範疇”というイメージが強いかもしれません。だからこそ、より気持ちよく楽しめる“アルバム”という印象が、彼の作品中もっとも強いのですが(以降の作品は良くも悪くも“プレイリスト”的なのかなと)。

ポップスとしての強度は『THRILLER』や『BAD』ほどではないものの、アルバムとしてのまとまりや完成度は同2作よりも数歩上。“キング・オブ・ポップ”の快進撃がここから始まったという点では、絶対に欠かすことのできない傑作第1号です。

 


▼MICHAEL JACKSON『OFF THE WALL』
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『THRILLER』(1982)

 

1982年11月29日にリリースされたマイケル・ジャクソンの6thアルバム。

前作から引き続きクインシー・ジョーンズを共同プロデューサーに起用。ソングライターに前作から引き続きのロッド・テンパートンに加え、スティーヴ・ポーカロ(TOTO)&ジョン・ベティス(「Human Nature」)やジェイムズ・イングラム(「P.Y.T. (Pretty Young Thing)」)などを起用。また、アルバムから漏れたアウトテイクの中にはマイケル・センベロが関わった「Carousel」や、Yellow Magic Orchestraの楽曲に新たに歌詞を付けた「Behind The Mask」などが含まれていたことも話題になりました。

また、ゲストアーティストのメンツも多彩で、「The Girl Is Mine」ではポール・マッカートニーとのデュエットを展開(同時期にポール側が発表した「Say Say Say」でも2人のデュエットを披露)。「Beat It」のギターソロではエディ・ヴァン・ヘイレン(VAN HALEN)をフィーチャー(かつ、リードギターをTOTOのスティーヴ・ルカサーが担当、ドラムもTOTOのジェフ・ポーカロがプレイ)したことでも話題となりました。

本作からは「The Girl Is Mine」(全米2位)、「Billie Jean」(同1位)、「Beat It」(同1位)、「Wanna Be Startin' Somethin'」(同5位)、「Human Nature」(同7位)、「P.Y.T. (Pretty Young Thing)」(同10位)、「Thriller」(同4位)とアルバム収録曲9曲中7曲がシングルヒット。オリジナルアルバムながらもグレイテストヒッツ的側面も強く、そういった意味でも(結果的に)プレイリストの先駆け的な1枚と言えるのではないでしょうか。

音楽的にも前作『OFF THE WALL』での方向性を推し進めつつ、ポップ色をより強めた「The Girl Is Mine」、ハードロックギターを採用した「Beat It」(さらに、アルバム未収録ながらもテクノ色を取り入れた「Behind The Mask」)など、“ポップ”を軸足により幅広いフィールドで戦おうという前向きさが伝わります。また、当時主流となり始めたミュージックビデオ制作にも果敢に取り組み、約14分にもおよぶ当時としては異例の大作「Thriller」が大反響を呼ぶなど、今や当たり前となった“音楽への映像の積極的導入”における先駆者的作品とも言えます。

全9曲と最近のアルバムと比べたら短い印象もありますが、1曲1曲の個が強いことから何度聴いても飽きがこない。リリースから40年経った今聴いても懐かしさと同時に新鮮さも常に見つけられる、「これぞ歴史的名盤」と言える1枚。いまだ超えることのできない壁(アメリカだけで3400万枚超、全世界で7000万枚超のセールス)を打ち立てた、ポップミュージック界のマスターピースです。

 


▼MICHAEL JACKSON『THRILLER』
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2022年12月25日 (日)

MOTÖRHEAD『IRON FIST』(1982)

1982年4月17日にリリースされたMOTÖRHEADの5thアルバム。

1980年晩秋に発表された『ACE OF SPADES』 が、本国で勃発していた新たなヘヴィメタルの波(NWOBHM=New Wave Of British Heavy Metal)に見事に乗り全英4位を記録。続くライブアルバム『NO SLEEP 'TIL HAMMERSMITH』(1981年)に関しては勢い余って初(かつキャリア唯一)の全英1位を獲得したことで、名実ともにトップバンドの仲間入りを果たしました。

しかし、バンドにとってはそんな数字は単なる飾りでしかなく、約1年半ぶりに届けられたこの新作スタジオアルバムでもマイペースぶりを発揮。HR/HMの範疇で語られることの多い彼らですが、パンクロック的側面を随所に散りばめたスピード感に満ち溢れた良作で、前作に次ぐ全英6位という好成績を残しています。

前作『ACE OF SPADES』ではスピード感に頼りすぎることなく、緩急に満ちた構成で聴き手を飽きさせませんでしたが、今作は冒頭のタイトルトラック「Iron Fist」から4曲連続で疾走系の楽曲で固められています。「Ace Of Spades」の成功に味をしめて……なんてことはまったくないとは思いますが、ここまで突っ走りまくりなのは、メタルの範疇で語られることに対する彼らなりのアンチテーゼだったのかな……なんて解釈するのはお門違いでしょうか。スピードメタルの元祖とも言われるものの、ここでのしなやかなファストナンバー群は間違いなくパンク直系のそれ(なにせ「Speedfreak」なてストレートなタイトルの曲まであるくらいですから)。ギターソロこそハードロックの影響下にあると受け取ることができますが、全体的にはやはりパンクが軸になっていることは間違いないと思います。

そんな中で、ミドルテンポ寄りのグルーヴィーなM-5「Loser」やM-7「America」は全体の中で非常に良いフック に。スピード感が強調されたアルバムの中だからこそ、より映える仕上がりと言えるでしょう。また、アルバム終盤にも「(Don't Let 'Em) Grind Ya Down」「(Don't Need) Religiion」とミドルナンバーが2曲配置されておりますが、前半が突っ走り気味だっただけに終盤ちょっとトーンダウンしてしまった印象もなきにしもあらず。このへんは曲順でもうひと工夫あったら、最初から最後まで熱量を落とすことなく楽しませられたのではという気もします。本作唯一の欠点はそこだけかな。

あとは、全12曲どれも純度200%のMOTÖRHEAD節炸裂。結果としてレミー・キルミスター(Vo, B/2015年12月没)、“ファスト”・エディ・クラーク(G/2018年1月没)、フィルシー・“アニマル”・テイラー(Dr/ 2015年11月没)の黄金期トリオによる最後の作品となってしまいましたが、『ACE OF SPADES』とこの『IRON FIST』でバンドとして臨界点を迎えたという意味では、この布陣が崩れてしまったのは仕方ないことかなと、40年経った今になって実感しています。

なお、本作は1996年以降のCDリイシューに際して、さまざまな“ボーナストラック付きエディション”や“周年デラックスエディション”が制作されてきましたが、2022年9月23日にはその最新版として“40TH ANNIVERSARY EDITION”がフィジカル(CD、アナログ)とデジタルでリリースされています。CDは豪華ブックスタイルのパッケージに2枚のCDが同梱され、DISC 1に最新リマスタリングが施されたアルバム本編にシングルカップリング曲「Remember Me, I'm Gone」、“Jackson's Studio Demo”と題したアルバム収録曲のデモ音源や未発表テイクを追加。DISC 2には1982年3月18日にグラスゴーで収録された未発表ライブ音源が19曲にわたり収録されています。『IRON FIST』リリース1ヶ月前ながらも、同作からも7曲ほど先行披露。音質的にベストとは言い難いものの黄金期の生々しさを追体験することができます。かつてリリースされていた2枚組デラックス盤(Sancuary Recordsバージョン)はDISC-2に1982年5月のトロン公演の模様が収められていたので(こちらも音質的に難あり)、そちらを所有している方にもオススメの最新バージョンではないでしょうか。

 


▼MOTÖRHEAD『IRON FIST』
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2005年デラックス盤も貼っておきますね。

 

2022年12月 4日 (日)

KISSのベストアルバムを総括する(2022年版)

ブライアン・アダムスAEROSMITHに続く「ベストアルバムを総括する」シリーズ第3弾(シリーズだったのか……)はKISS。まあとにかくベスト盤やコンピ盤、ボックスセットが多い方々ですが、今回は数あるベスト盤の中からレーベル主導で制作された『MILLENNIUM COLLECTION』シリーズを除く、バンド側の公式リリースに絞ってセレクトしております。中には新曲やレアトラックなど含まないもの、現在廃盤でサブスクでも配信されていないものも含まれていますが、あえて掲載してみます。

とにかく非常に長いエントリーなので、心してお読みください……(苦笑)。

 

 

『DOUBLE PLATINUM』(1978)

 

1978年4月2日にリリースされたKISS初のグレイテストヒッツアルバム。アナログ2枚組、CD1枚もの。

リリース当時のメンバーはポール・スタンレー(Vo, G)、ジーン・シモンズ(Vo, B)、エース・フレーリー(G, Vo)、ピーター・クリス(Dr, Vo)のオリジナル編成。新曲こそ皆無ですが、既存楽曲に加え「Strutter」のリテイクバージョン「Strutter '78」やリミックステイクなどが豊富。サブスクではApple Musicはフルで楽しめますが、Spotifyでは「Calling Dr. Love」と「Black Diamond」が歯抜け状態。Amazon Musicでは配信すらされていないようなので、どうにかしていただきたいものです。

詳しくはこちらのエントリーを参照のこと。

 


▼KISS『DOUBLE PLATINUM』
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『KILLERS』(1982)

 

1982年6月15日にリリースされた、KISSにとって2作目の公式コンピレーションアルバム。アナログ/CDともに1枚もの。

当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、エース・フレーリー、エリック・カー(Dr, Vo)。日本やオーストラリアなどアメリカ以外の諸国で先行発売。当時はここでしか聴くことができなかった新曲4曲(「I'm A Legend Tonight」「Down On Your Knees」「Nowhere To Run」「Partners In Crime」)がかなり話題となりました。ジャケットにエースの姿はあるものの、当時はすでにバンドから脱退しており、新曲のレコーディングにはのちにバンドに加入するブルース・キューリック(G)の実兄ボブ・キューリック(G)がリードギターとして参加しています。

詳しくはこちらのエントリーを参照ください。

 


▼KISS『KILLERS』
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『CHIKARA』(1988)

 

1988年5月25日に日本限定でリリースされたコンピレーションアルバム。CD1枚もの。

当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、ブルース・キューリック、エリック・カー。この年の春に10年ぶり(ノンメイクアップ時代としては初めて)の来日公演が決定したことを受け、それにあわせて日本のみ10万枚限定で制作されたレアアイテム。今となっては10万枚も刷ったのか!って驚きですけどね。内容は「Rock And Roll All Nite」や「Love Gun」などの70年代ヒットよりも、「Creatures Of The Night」や「Lick It Up」「Heaven's On Fire」「Tears Are Falling」などの80'sヘアメタル期が中心。主にシングルカット/MV制作された楽曲が中心で、そんな中に「I Was Made For Lovin' You」のリミックスバージョンという初CD化レア音源が含まれているのが売りかな(のちに「Psycho Circus」シングルのカップリングで世界的にCD化されました)。

枚数限定生産ということで、現在は廃盤。ただ、中古盤ショップを回れば意外と簡単に見つけられるはず。値段もそこまで張っていないので(Amazonは論外!)、気になる方はぜひチェックしてみてください。

 


▼KISS『CHIKARA』
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『SMASHES, THRASHES & HITS』(1988)

 

1988年11月15日にリリースされた、KISSにとって3作目の公式コンピレーションアルバム。CD1枚もの。

当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、ブルース・キューリック、エリック・カー。日本では『CHIKARA』から間を空けずに発表されることになりましたが、『KILLERS』未発売だった北米などの海外諸国では『DOUBLE PLATINUM』以来10年ぶりのベスト盤。考えてみたら「I Was Made For Lovin' You」はもちろん、80年代の楽曲をまとめたコンピが10年も出ていなかった事実に驚かされます。

内容は「Let's Put The X In Sex」「(You Make Me) Rock Hard」の新曲2曲や、一部楽曲のリミックス、そしてエリック・カーが歌唱した「Beth」など、単なるベスト盤では片付けられない楽曲が多数。北米盤ではなぜか直近の新作『CRAZY NIGHTS』(1987年)からの楽曲が含まれていません(ヨーロッパ盤には「Crazy Crazy Nights」「Reason To Live」収録)。とはいえ、ヘアメタル期のヒットシングルが簡単におさらいできるので、実はもっとも手軽に楽しめる入門盤かもしれません。

詳しくはこちらのエントリーを参照ください。

 


▼KISS『SMASHES, THRASHES & HITS』
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『GREATEST KISS』(1997)

 

1997年4月8日にリリースされたKISSの公式コンピレーションアルバム第4弾。日本盤は1997年1月の来日公演にあわせて、1996年12月9日発売。CD1枚もの。

リリース当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、エース・フレーリー、ピーター・クリス(Dr, Vo)。オリジナル編成およびメイクアップ期へと回帰した彼らのワールドツアーにあわせて制作されたもので、北米、ヨーロッパ、日本とそれぞれ収録曲が一部異なるのが特徴。

これまでのコンピのように新曲やリミックス曲は皆無で、既発曲がリマスタリングされている程度。ただ、それだけでは売りがなさすぎるので、1996年6月28日のデトロイト公演から「Shout It Out Loud」のライブ音源を追加。こちらは当時MVも制作されています。

オリメン時代にこだわった選曲なので、『SMASHES, THRASHES & HITS』以降に生まれたヒット曲「Hide Your Heart」「Forever」「Unholy」などは未収録。ただ、北米盤以外では「God Gave Rock 'N' Roll To You II」が選出されているのが謎かも。なお、日本盤のみ海外盤未収録の「C'mon And Love Me」「Rock Bottom」がセレクトされております。このへん、いかにもですね。

サブスクでも聴くことができますが、Apple Musicでは日本盤バージョンで配信、Spotifyはヨーロッパバージョンでの配信のようです。

 


▼KISS『GREATEST KISS』
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2022年12月 1日 (木)

KISS『CREATURES OF THE NIGHT: 40TH ANNIVERSARY EDITION』(2022)

2022年11月18日にリリースされた、KISSの10thアルバム『CREATURES OF THE NIGHT』(1982年)40周年記念エディション。

本作は最新リマスタリングが施された1CD/アナログ盤のほか、未発表テイクを豊富に納めたボーナスディスク付き2CDデラックス・エディション、5CD+1Blu-ray(Blu-rai Audio)で構成されたボックスセット(スーパー・デラックス・エディション)を用意。日本盤は1CDと2CDデラックス・エディションが用意され、スーパー・デラックス・エディションは輸入盤およびデジタルのみの販売となります。

『暗黒の神話』の邦題で知られる本作ですが、オリジナル盤発表から3年後の1985年に当時のメンバーであるブルース・キューリック(G)を含むノン・メイクアップの4人をアートワークに使用、一部楽曲にリミックスを施したバージョンも発売されています。僕が最初に聴いたのはこっちの新バージョンだったので、本作がメイクアップ時代最後のアルバムと言われてもあまり実感がなかったんですよ。それはサウンド的にも同様で、すでにこの時点で80年代半ばのヘアメタル風サウンドに近いハード&ヘヴィな作風に生まれ変わっていますしね。

さて、最新のリマスタリング効果ですが、やはり40年前の作品ということもあり、だいぶ印象も異なる気がします。もともとダイナミズムのある作品でしたが、今回の最新リマスタリングによりそのへんのメリハリがより付いたのではないでしょうか。これくらいダイナミックなHR/HMサウンドですから、メリハリは極端に付いていたほうが聴き応えもあるというもの。2022年の耳で楽しむという点においても合格点が与えられる仕上がりだと思います。

続いて、気になる特典ディスクの内容。ここではスーパー・デラックス・エディションの内容に沿って触れていきます。まずDISC 2&3には同タイミング(本作発売前)に制作されたコンピ盤『KILLERS』(1982年)に収められた新曲4曲や、当時の未発表デモ音源を多数収録。このデモには「Nowhere To Run」や「I'm A Legend Tonight」など『KILLERS』収録曲のほか、「Deadly Weapon」「Betrayed」などその後制作された楽曲と共通するタイトルの未発表曲も含まれています(タイトルこそほぼ同一ですが、のちに発表された楽曲とは別モノです)。未発表曲の多くはのちのスタジオアルバムに収録されたとしても不思議ではない内容で、ちゃんとレコーディングしていたらしっかりリリースできたものばかり。

DISC 4&5には1982〜83年にかけて実施された、『CREATURES OF THE NIGHT』を携えた全米ツアーからのライブ音源に加え、ツアーで使用されたサンドエフェクト6テイクも収録。当時日本公演が叶わなかった本ツアーの断片を、こういった音源の数々から追体験できるなんて、よい時代になったものです。ライブ音源はひとつの曲に対して収録地が異なる複数テイクが含まれているので、ライブアルバムという観点ではなく“記録”として触れるのがベストかと。ヴィニー・ヴィンセント(G)がプレイするKISSクラシックナンバーの数々を楽しめるという点では、希少価値の高い内容ではないでしょうか。

70年代の諸作品においてもデラックス盤を近年発表しているKISSですが、ここまで素材が多いのも80年代ならではといいますか。かつ、本作での再起に賭ける思いの強さが至るところから伝わってくる素材の数々を前に、時代背景を踏まえつつ「なぜ本作で本格的な再ブレイクが叶わなかったのか」を考察してみるのも面白いかもしれませんね。

『MONSTER』(2012年)を最後に新作スタジオアルバムに着手することを断念したKISS。最後の来日公演を終え、彼らはここからあと何年にわたり“過去の遺産”を掘り起こして小金を稼ぎ続けるのか。引き続き注目していきたいと思います。

 


▼KISS『CREATURES OF THE NIGHT: 40TH ANNIVERSARY EDITION』
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2022年11月16日 (水)

CHEAP TRICK『ONE ON ONE』(1982)

1982年4月30日にリリースされたCHEAP TRICKの6thアルバム。

プロデューサーにジョージ・マーティン、レコーディングエンジニアにはジェフ・エメリックというビートルズでお馴染みの布陣を迎えて制作された前作『ALL SHOOK UP』(1980年)から1年半ぶりの新作。アルバム完成後にオリジナルメンバーのトム・ピーターソン(B)が脱退してしまい、ピート・コミタを新メンバーに迎えツアーを続けるものの、彼も1年少々でバンドを離れてしまいます。

その後、トムが復帰するまでバンドをサポートすることになるジョン・ブラントが正式加入。QUEENの初期作やJOURNEYTHE CARSなどで知られるロイ・トーマス・ベイカーをプロデューサーに迎え完成させたのが本作です。

自身の影響やファン心がそのまま作品につながった『ALL SHOOK UP』が大きな成功を収めることができなかった事実に対して、続く今作では時代の流れを捉えてニューウェイヴ的な側面も積極的に取り入れられています(それがTHE CARSでヒットを飛ばしていたロイを迎えた理由のひとつでしょう)。

基本的な楽曲作りは名作『DREAM POLICE』(1979年)や『ALL SHOOK UP』の流れを汲むものですが、味付けや質感はニューウェイヴ直下にあるもの。オープニングトラック「I Want You」や「Oo La La La」「Saturday At Midnight」「I Want Be Man」あたりは完全にその延長線上の楽曲と言えるでしょう。

その一方で、ポップでキャッチーなミディアムバラード「If You Want My Love」、ハードロックとグラムロックをミックスしたような「Lookin' Out For Number One」、シングルカットもされた「She's Tight」など従来の彼らのイメージを踏襲した楽曲も存在。とはいえ、「She's Tight」あたりはちょっとした味付けにニューウェイヴ風味も加わっており、時代を感じさせます。

ハードロックやパワーポップ直径のストレートなロックサウンドを前面に打ち出した初期3作を好むリスナーからは、この変化は真正面から受け止めることができなかったかもしれません。ただ、結果論としてはこの音楽的冒険や日和見主義もCHEAP TRICKというバンドの歴史上では切っても切り離せないものであり、このへんの作品が後続たちに与えた影響も少なくないと思うんです。

彼らのカタログの中では、そこまで上位にくるような1枚ではないかもしれませんが、前作『ALL SHOOK UP』同様に聴けば聴くほどに深みが感じられる隠れた良作ではないでよすか。意外と今の自分のモードにも合っていて、ここ最近はかなりの頻度でリピートしています。

 


▼CHEAP TRICK『ONE ON ONE』
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2022年2月11日 (金)

BLACK SABBATH『LIVE EVIL』(1982)

1982年12月14日にアメリカでリリースされたBLACK SABBATH初のライブアルバム。本国イギリスでは翌1983年1月18日発売。

オジー・オズボーン(Vo)在籍時はライブアルバムを1枚も制作することもなく、オジー脱退後に1973年の音源がバンドの許諾なしに『LIVE AT LAST』(1980年)と題して発表されたのみ。バンド公認のライブアルバムはこのロニー・ジェイムズ・ディオ(Vo)在籍時の音源が最初の正式リリースとなるわけです。

本作はディオ加入後2作目のスタジオアルバム『MOB RULES』(1981年)を携えて、1982年4〜5月に実施されたUSツアーからセレクトされたもの。当時のメンバーはトニー・アイオミ(G)、ギーザー・バトラー(B)のオリジナルメンバーにディオ、『MOB RULES』から参加のヴィニー・アピス(Dr)、そしてツアーメンバーのジェフ・ニコルス(Key)という布陣。『HEAVEN AND HELL』(1980年)や『MOB RULES』からの楽曲をライブで再現するにはキーボードは欠かせませんものね。

アルバムのキモとなるのは、もちろんディオ加入後の楽曲……「Neon Knights」や「Children Of The 」シー「Heave And Hell」といった『HEAVEN AND HELL』収録曲や、「Voodoo」「The Mob Rules」「The Sign Of The Southern Cross」をはじめとする『MOB RULES』収録曲。スタジオ音源以上に生々しくワイルドなディオのボーカルと、ライブならではのフリーキーさも織り交ぜたアイオミのギタープレイは聴き応え満点で、個人的にはスタジオテイク以上にお気に入りです。特に長尺ギターソロをフィーチャーした12分にもおよぶ「Heave And Hell」と、続く「The Sign Of The Southern Cross」からメドレー形式で「Heave And Hell」へと戻っていく構成では、ライブならではの醍醐味を堪能できるはずです。

一方で、ディオが歌うオジー時代のサバス曲も味わい深くて、これはこれでアリと思わされるものばかり。「N.I.B.」なんて完全に自分のモノにしてしまっていますし、暑苦しいまでに歌い上げる「Black Sabbath」なんてオジーバージョンとは異なる黒魔術感が伝わる、別モノとして楽しめるのではないでしょうか。それもこれも、アイオミとギーザーがプレイしている点、そしてヴィニーのハードヒットなドラミングがマッチしているからこそ。「War Pigs」のドラマチックさも全然アリですよね。

ですが、「Iron Man」や「Paranoid」といったシンプルな楽曲に関しては、どうしてもオジーの印象が強すぎて「ちょっとこれは……」と思ってしまうかも。演奏自体は非常に素晴らしいのですが、気合入れて力みすぎなディオの「Iron Man」は最初なかなか馴染めなかったものです。しかし、90年代に制作された『DEHUMANIZER』(1992年)を通過したあとに振り返ると、「まあ、これはこれで……」と寛大な気持ちで接することができるように。あのアルバム、今となっては非常に重要な役割を果たしていたんですね……。

ちなみにサバスが初めて日本に訪れるのは、1980年のこと。つまり、『HEAVEN AND HELL』リリース後のディオサバスだったわけです。そう考えると、当時のリスナーにとってはこの『LIVE EVIL』という作品は初来日公演を追体験するに最適なアルバムだったのかな。

なお、本作はアナログ盤(2枚組)やデジタル版(ストリーミング含む)では全14トラック/約84分の収録内容ですが、CDに関しては複数のバージョンが存在するのでご注意を。特に初期のCDは「War Pigs」がカットされた全13トラック/1枚もので流通しており、のちに「War Pigs」を追加した全14トラック/CD1枚ものが再発。しかし、こちらは収録容量の関係でMCなどがカットされた不完全版で、デラックス・エディションと題したCD2枚組バージョンこそが当初のアナログ盤(と現行のデジタル版)と同内容となっています。紛らわしいったらありゃしない(苦笑)。

 


▼BLACK SABBATH『LIVE EVIL』
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OZZY OSBOURNE『SPEAK OF THE DEVIL』(1982)

1982年11月27日にリリースされたオジー・オズボーン初のライブアルバム。日本盤は同年12月に、『悪魔の囁き』の邦題で発売。

1982年3月19日、バンドメンバーのランディ・ローズ(G)が飛行機事故で急逝し、失意のどん底に叩き落とされたオジー。ランディが亡くなる前からBLACK SABBATH時代の楽曲のみで構成されたライブアルバム制作は予定されていたそうですが、その後ランディの後任としてバーニー・トーメが一時的にライブでサポートしたのちに、当時NIGHT RANGERでのデビューを控えたブラッド・ギルスがバンドに加わり、1982年9月26、27日に本作の音源が収録されたニューヨークのThe Ritzでの公演が行われました。

バンドメンバーはオジー(Vo)、ブラッド(G)、ルディ・サーゾ(B)、トミー・アルドリッジ(Dr)という布陣。実際のライブではオジーのソロ曲も披露されていますが、アルバムには当初の計画どおりサバスナンバーのみが収められています。ランディ在籍時からオジーのライブではすでに「Iron Man」「Children Of The Grave」「Paranoid」といったサバス曲は披露済みで、その様子はのちに発表されたライブアルバム『TRIBUTE』(1987年)などでも確認できます。

プロデュースおよびミックスは直近のスタジオアルバム『DIARY OF A MADMAN』(1981年)を手がけたマックス・ノーマンが担当。質感的にはかなり近いものがありますが、オジーのソロ曲には合っているこのプロダクションもサバス曲にはちょっと軽すぎる印象も。というよりも、ルディ&トミーのリズム隊が軽すぎるのと、ブラッドのギターワークがメタリックではないことが、アルバム全体の軽さに影響を与えているような気がしてなりません。

ブラッドのギタープレイは原曲に忠実ながらも、随所にアーミングを多用した彼らしい“遊び”が取り入れられており、これはこれで面白いのですが、もうちょっと深く歪ませてもよかったんじゃないかなと(まあ、それじゃあブラッドらしくないという話もありますが)。この時点でNIGHT RANGERへ戻ることは間違いなかったので、彼は彼なりに仕事に徹しただけなんでしょう。そういった意味では及第点かなと思います。

ルディのベースも頑張ってはいるものの、はやり原曲を弾くギーザー・バトラーのプレイと比較してしまうと物足りなさを感じてしまう。そして、問題なのはトミーの軽やかなドラミング。これまでさまざまなバンドで彼らのパフォーマンスを観てきましたが、手数の多さで派手さを演出するタイプなのでサバスのようにシンプルなプレイで重さを表現する楽曲にはそもそも合っていないのかもしれません(オジーソロはヘヴィさもあるものの、楽曲自体がポップかつキャッチーなのでかろうじて適していたようですが)。

とはいえ、選曲自体はサバスの1stアルバム『BLACK SABBATH』(1970年)と2ndアルバム『PARANOID』(1970年)という代表作からの楽曲中心(メドレー含む全13曲中7曲)で、そこに「Sympton O The Universe」や「Snowblind」「Sweet Leaf」「Never Say Die」などオジーらしいセレクトが含まれており、これがオジーがイメージするBLACK SABBATH像なのかなと興味深いものがあります。本作発売から半月後にはロニー・ジェイムズ・ディオを加えた本家サバスも『LIVE EVIL』(1982年)というライブ作品を発表しており、そちらに含まれるオジー在籍時の楽曲がすべて『SPEAK OF THE DEVIL』にも含まれていることを考えると、オジー側とトニー・アイオミ(G)側の初期サバス像はほぼ一緒なのかもしれませんね。

なお、本作は1995年にリマスタリングされ、アートワークを一新した形で再発(下記ジャケ写がそちら)。しかし、2002年に新たなリマスター処理が施されたリイシュー企画の際には廃盤扱いとなり、以降もオフィシャルカタログ外扱いとなっています。日本盤もすでに廃盤状態で、1995年リマスターCDを輸入盤で購入することができるものの、デジタルリリースおよびストリーミング配信は国内では未実施。海外のストリーミングサービスを調べてみても、Spotifyでは引っかかるものの、Apple Musicでは未配信のようです。オジーが歌うサバス曲はサバス本家を聴けばいいわけですが、ブラッド・ギルスが弾くサバス曲はここでしか聴けないので、NIGHT RANGERファンと一部の奇特なリスナーの皆さんはぜひ輸入盤購入でチェックしてみてはどうでしょう。

 


▼OZZY OSBOURNE『SPEAK OF THE DEVIL』
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2022年2月 4日 (金)

SURVIVOR『EYE OF THE TIGER』(1982)

1982年6月8日にリリースされたSURVIVORの3rdアルバム。

アルバムからのリード曲にして、映画『ロッキー3』のテーマソングとしてシングル化されたタイトルトラック「Eye Of The Tiger」が6週連続全米1位(同年間チャート2位)を記録し、シングルのみで800万枚を超えるヒット曲に。さらに「American Heartbeat」(同17位)や「The One That Really Matters」(同74位)といったスマッシュヒットも生まれ、アルバム自体も全米2位まで上昇するミリオンヒット作となりました。

当時のメンバーはデイヴ・ビックラー(Vo)、フランキー・サリヴァン(G)、ジム・ピートリック(Key, G)、ステアン・エリス(B)、マーク・ドラウベイ(Dr)。プロデュースはメンバーのフランキーが担当し、レコーディングエンジニアにはフィル・ボナーノ(STYXCHEAP TRICKENUFF Z'NUFFなど)と、のちにGUNS N' ROSESのデビュー作『APPETITE FOR DESTRUCTION』(1987年)で名を上げるマイク・クリンクが参加という、実はロック史的には特筆しておくべきポイントを含む1枚でもあります。

どうしても「Eye Of The Tiger」の印象が強い1枚ですが(だって、アルバムの1曲目)、実は本作が本領発揮するのは続く2曲目「Feels Like Love」以降。この軽やかで疾走感の強いアメリカンロックを筆頭に、AC/DCを彷彿とさせるミディアムナンバー「Hesitation Dance」、ノリの良いハードロックチューン「The One That Really Matters」、ピアノやシンセの音色が心地よいマイナーキーの「I'm Not That Man Anymore」と佳曲が続きます。この4曲だけでもだいぶバンドの印象が変わるのではないでしょうか。

アナログB面の冒頭を飾る6曲目「Children Of The Night」でのアコギを活用したダイナミックなアレンジ、バンドの繊細な部分を前面に打ち出したメロウなバラード「Ever Since The World Began」、個人的には「Eye Of The Tiger」以上の完成度を誇ると確信する名曲「American Heartbeat」と聴き応えのある楽曲が連発され、最後はパワーバラード調のミディアムナンバー「Silver Girl」で締め括り。非常によく練り込まれた、完成度の高いハードロック/産業ロックアルバムだと思います。

映画『ロッキー』関連の主題歌のイメージが付きまとい、ハードロックバンドとして正当な評価を受けにくい彼らですが、本作や2代目シンガーのジミ・ジェイミソン初参加の5thアルバム『VITAL SIGNS』(1984年)はアメリカンハードロック/産業ロック/AOR好きなら抑えておくべき名盤だと断言しておきます。

 


▼SURVIVOR『EYE OF THE TIGER』
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2022年1月13日 (木)

SCORPIONS『BLACKOUT』(1982)

1982年3月29日にリリースされたSCORPIONSの8thアルバム。日本盤は当時、『蠍魔宮〜ブラックアウト』という邦題で発売されました(蠍魔宮て)。

前作『ANIMAL MAGNETISM』(1980年)発売がちょうどイギリスでのNWOBHM(=New Wave Of British Heavy Metal)ムーブメント拡散期と重なったことで、RAINBOWJUDAS PRIESTらとともに人気を集め、その勢いのまま彼らは本格的にアメリカ進出。今作リリースがUSメタルブーム勃発期だったこともあり、同作は全米10位という大成功を収めます。本作のヒットが、続く『LOVE AT FIRST STING』(1984年)の爆発的ヒットにつながるわけですね。

バンドの代表作のひとつとして知られる本作ですが、ヘアメタルなどのキャッチーさが強まった『LOVE AT FIRST STING』路線のベースが今作の時点ですで完成していることに気付かされるかと思います。アグレッシヴさを強めた疾走チューン「Blackout」や「Now!」「Dynamite」あたりはNWOBHMムーブメントから受けた影響が表れた仕上がりですが、続く「Can't Live Without You」や「Arizona」でのポップさは以降の彼らの作品にも反映されていくことになるし、70年代から備えてきた憂いを満ちたマイナーキーの「No One Like You」や「You Give Me All I Need」もバンドの大きな武器として作用している。次作以降は後者のポップサイドが強調されていくことになるので、今作はSCORPIONSのヘヴィメタルサイドが強めに表出した初期〜中期最後の1枚と言えるかもしれません。

ギタリスト2人のコンビネーション/チームワークはメタルバンドとして最高潮を迎えており、ルドルフ・シェンカー(G)のリフワークが冴えまくっている点や、ウリ・ジョン・ロート(G)の後任として加入したマティアス・ヤプス(G)のソロワークにおける存在感の強さがより増していることは本作の聴きどころのひとつではないでしょうか。もちろん、クラウス・マイネ(Vo)のボーカルも絶頂期と呼ぶにふさわしいものですし、ゲンザイはバンドを離れているフランシス・ブッホルツ(B)&ハーマン・ラレベル(Dr)のリズム隊から生まれる躍動感も次作以降にはあまり感じられないものが含まれているわけですからね。

かつ、先に触れたポップサイド/メロウサイドの充実や、終盤に置かれたミドルヘヴィの「China White」や泣きのバラード「When The Smoke Is Going Down」含め、続く次作での“完璧な作品至上主義”へと到達する前の“ライブバンド然とした存在感”は80年代初頭というタイミングならではのもの。“80年代のSCORPIONS”のパブリックイメージが完成の域に達しつつあるという点でも、実は本作は『LOVE AT FIRST STING』以上に(バンドにとっても、HR/HMシーンにとっても)重要な1枚ではないでしょうか。

国内サブスクリプションでは、つい最近まで5thアルバム『TAKEN BY FORCE』(1977年)から10thアルバム『SAVAGE AMUSEMENT』(1988年)までのバンド充実期の名作たちが未配信でしたが、2021年12月に突然カタログに加わったことを確認。これも2022年2月22日にリリース予定の7年ぶり新作『ROCK FOREVER』へ向けての施策なんでしょうか。だとしたら、こうして代表作の数々が手軽に楽しめるようになった今回の配慮は非常にうれしい限りです。

 


▼SCORPIONS『BLACKOUT』
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