CHEAP TRICK『NEXT POSITION PLEASE』(1983)
1983年8月15日にリリースされたCHEAP TRICKの7thアルバム。
ロイ・トーマス・ベイカーをプロデューサーに迎えニューウェイヴ寄りの作風へとシフトさせた前作『ONE BY ONE』(1982年)から1年4ヶ月ぶりの新作。今回はかのトッド・ラングレンと、以降も彼らの作品にたびたび関わることになるイアン・テイラーがプロデュースを担当し、2ndアルバム『IN COLOR』(1977年)の時期に立ち返ったかのようなパワーポップ節全開の1枚を完成させます。
オープニングトラック「I Can't Take It」は4thアルバム『DREAM POLICE』(1979年)制作時にはデモが存在したようですが、ここまで完成することなく残されてきた1曲。バンドアンサンブルこそニューウェイヴ通過後の色合いを感じさせますが、この溌剌としたテイストは間違いなく“あの”CHEAP TRICKが帰ってきた!と言いたくなる仕上がりです。
以降も、前作での経験を散りばめつつ初期の青臭いパワーポップに回帰した楽曲を連発。かと思えば、大人になった表現が印象的な「Younger Girl」や「3-D」、初期のテイストをバージョンアップさせたような「Don't make Our Love A Crime」や「You Talk Too Much」など良質なポップチューンが並びます。中にはTHE WHO「My Generation」のイントロを遊びでフィーチャーした「Invaders Of The Heart」のような楽曲も存在し、そのボリュームのわりに1曲1曲の濃さが際立つ仕上がりです。
そんな中、70年代後半に活躍したUKパワーポップバンドTHE MOTORSのカバー「Dancing The Night Away」(原曲のプロデュースはかのジョン・マット・ラング)、トッド・ラングレンが提供した「Heaven's Falling」といった変わり種も収録。どちらもバンドのカラーに則しており、良質なカバーといえるでしょう。
バンドメンバーの多くは本作のことを好きな作品として挙げる機会も多いですが、海外では90年代以降しばらく廃盤状態。2006年にはバンドの希望により一部楽曲を差し替え&追加した全16曲仕様(もともとアナログは12曲、CD/カセットは14曲入り)の“The Authorized Version”として最初されています。サブスクなどで聴ける現行バージョンはこちらとなっているので、旧バージョンが聴きたい方は中古ショップを探してみてはいかがでしょう。
バンドの高評価に相反して、本国では最高61位とゴールドディスク獲得を逃しています。シングルヒットも1曲も生まれておらず、まさにバンド低迷期を代表する1枚と言えるでしょう。が、「I Can't Take It」は今でもライブで頻繁に披露されるので、この曲をきっかけに隠れた良曲揃いの本作にも触れてみることをオススメします。
▼CHEAP TRICK『NEXT POSITION PLEASE』
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