カテゴリー「1985年の作品」の45件の記事

2026年7月 7日 (火)

「#プリンス三昧」プリンス全スタジオアルバム解説②(1984〜1990年)

このエントリーは今年1月から6月にかけて筆者のインスタアカウントで不定期連載してきた、ハッシュタグ「#プリンス三昧」付きのプリンス全スタジオアルバム(一部関連作品やコンピ盤、リミックス盤なども含む)55回分の投稿を、時系列(リリース年月)順に再構成してまとめたものです。第1回はこちらからご覧ください。

第2回はセールス/内容ともに黄金期と呼べる1984年以降、1990年までの7作品についてです。

 

 

PRINCE & THE REVOLUTION『PURPLE RAIN』(1984)

アメリカ本国で1984年6月25日発売の6thアルバム。個人的にはプリンスへの入り口となった1枚です。

殿下の自伝的同名映画のサウンドトラックの役割も果たした作品で、前作『1999』(1982年)でのロング&大ヒットも手伝って初の全米1位を獲得。アルバム自体、アメリカだけで1000万枚を超えるメガヒットに。本作からは「When Doves Cry」「Let's Go Crazy」が1位、「Purple Rain」が2位、「I Would Die 4 U」が8位、「Take Me With U」が25位とヒットシングルも多数生まれました。

初めてPRINCE & THE REVOLUTION名義で発売された本作は、バンド録音中心ということもあってか全体的にロック色が濃厚。パーティ感の強いハードロックな「Let's Go Crazy」、泣きのロックバラード「Purple Rain」を筆頭にとにかく聴きやすい。加えて前作での大作志向が減退し、どれも4分前後とコンパクトかつキャッチー(タイトルトラックのみ約9分もありますが)。なので、どれをシングルカットしたとしてもそれなりのヒットが約束されたようなもの。ノリにノるってこういうことなんですよね。だってMTV(いや、『ベストヒットUSA』かも)で「When Doves Cry」のMVを観て(曲を聴いて)、最初こそあのビジュアルにたじろいだ自分が「それでも聴きたい」と思ってしまうほどの魅力を放っていたんですから。

今ではそこまで聴くアルバムではないけど、この入門編があったからハマれたのだから大きな意味がある。前作『1999』とあわせて聴くと、より当時の状況を理解してもらえるかも。

なお、本作に関しては過去により深く触れておりますので、こちらも合わせてチェックいただけるとありがたいです。

 


▼PRINCE & THE REVOLUTION『PURPLE RAIN』
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PRINCE & THE REVOLUTION『AROUND THE WORLD IN A DAY』(1985)

1985年4月22日リリースの7thアルバム。前作『PURPLE RAIN』のメガヒット(現在アメリカのみで1000万枚超)を受けて、10ヶ月という短いスパンで届けられたTHE REVOLUTIONとの2作目。

実は、レコーディング自体は『PURPLE RAIN』とほぼ同時期に行われたものが多数なんだとか。サウンドのテイスト的には共通するものが多いものの、曲調はポップでロックだった前作とは異なり、いわゆるサイケデリックロック/ポップが中心。冒頭のタイトルトラックなんて、中近東の民族音楽テイストですからね。

もちろん「Paisley Park」や「Raspberry Beret」みたいなポップチューンもあるけど、それもサイケ味が散りばめられていてストレートだった前作とは異なる印象。しかし、これが非常にクセになるんですよね。そんな中で異彩を放つ「Tamborine」「America」あたりのハードファンク、次作への布石とも言える「Condition Of The Heart」や「Temptation」でのジャズ風味が非常にいい味を出しています。

本作は自分がプリンスにハマるきっかけの1枚。彼の全キャリアの中でトップ3クラスで好きなアルバム。

 


▼PRINCE & THE REVOLUTION『AROUND THE WORLD IN A DAY』
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PRINCE & THE REVOLUTION『PARADE』(1986)

1986年3月31日リリースの8thアルバム。殿下が手がける主演映画『アンダー・ザ・チェリー・ムーン』のサントラ的立ち位置の、THE REVOLUTION名義での3作目にしてラスト作。

全米1位を記録した名曲「Kiss」や無機質ファンク「Girls & Boys」、前作の流れを汲むサイケソウル「Mountains」(全米23位)といった個性的なシングル曲を含むも、全体的には前作でのサイケ色にジャズサウンドを散りばめた大人なテイスト。音のおもちゃ箱的側面もあった前作や前々作とは異なり、音数も意識的に減らしている印象もあり(「Kiss」なんてその最もたるや)、初めて聴いたときは子供ながらに地味に映ったものです。が、ある程度大人になってから触れてみると……気持ちいいのなんの。組曲的に進む冒頭から緩急に飛んだ中盤、そして感動的なジャズバラード「Sometimes It Snows In April」で締めくくる流れは完璧の一言。

『1999』から始まった快進撃といいますか、ここらへんの流れは本当に神がかってる。映画は思い切りコケたけんだけどね(実際に観たのは20年以上経ってから)。

なお、本作に関しては過去により深く触れておりますので、こちらも合わせてチェックいただけるとありがたいです。

 


▼PRINCE & THE REVOLUTION『PARADE』
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PRINCE『SIGN O' THE TIMES』(1987)

1987年3月20日リリースの9thアルバム。再びソロ名義に戻ったかと思えば、いきなりアナログ/CDともに2枚組でやりたい放題(『1999』はCDではギリ1枚に収録)。

しかも『1999』とは異なり、今作は全16曲入りで含まれる楽曲のジャンルもバラバラ。『AROUND THE WORLD IN A DAY』がビートルズにおけるサージェント・ペパーズだとすると、本作はホワイト・アルバムか。ただ、ビートルズと違って殿下はこれをたったひとりで作り上げてしまったところが恐るべし。

だって、ミニマルサウンドの無機質ファンクなタイトルトラックから始まり、ゴージャスなパーティロック、クールなラップ、不穏なソウル、サイケポップ、王道ロック&ポップ、セクシャルなR&B、さらにはシリアスなハードロックまで入ってるんだから。当時はびっくりしたけど、いろんなジャンルが詰まってるからこそ一番好きなのかも。殿下のアルバムはそれまでレンタルで済ませてきたけど、初めてCDで購入した作品がこれでした。

なお、本作に関しては過去により深く触れておりますので、こちらも合わせてチェックいただけるとありがたいです。

 


▼PRINCE『SIGN O' THE TIMES』
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PRINCE『LOVESEXY』(1988)

1988年5月10日発売の10thアルバム。前作『SIGN O' THE TIMES』から半年強で、『BLACK ALBUM』と題された謎の新作リリースがアナウンスされるも突如中止に。地元のショップでも予約告知してたからよく覚えてる。

で、その代わりに前作から1年後にこの問題作が登場(内容はまったく問題作じゃない)。先行の8センチCDシングルは2トラック入りだったけど、CDアルバムは9曲1トラック(意味わかりますか? 9曲分が40数分のひとつのトラックとして収録されていたということです)。初めての経験に戸惑いながらも、当時は編集点を見つけてカセットにダビングしてそっちばかり聴いてた(笑)。10年くらい前にサブスク配信が始まった当初はまだ1トラックだった記憶があるけど、気づいたら9トラックに分割されたバージョンも出回るように。作品の良し悪しには関係ないかもしれないけど、ある意味一番インパクトのあったCDかも。

あ、内容的には前作『SIGN O' THE TIMES』ほどの実験性はなく、軸が絞れている印象。『BLACK ALBUM』収録予定だった楽曲もいくつか含まれておりますが、それを抜きにしても非常にポップで楽しい1枚。自分的黄金期はここまでかな。

なお、本作に関しては過去により深く触れておりますので、こちらも合わせてチェックいただけるとありがたいです。

 


▼PRINCE『LOVESEXY』
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PRINCE『BATMAN』(1989)

1989年6月20日リリースの11thアルバム。実写/イラスト含め殿下本人の欠片すら存在しないジャケットはこれが初めてか。

それもそのはず、本作はティム・バートン監督の同名映画のサントラ的立ち位置なのだから。が、実際には劇中で使われた曲は少なく、どちらかというとイメージアルバム的な1枚。そういう意味では『PURPLE RAIN』に近しいものがあるかな(ロックとヒップホップ寄りという違いはありますが)。全米1位を記録した「Batdance」は歌モノではないサウンドコラージュ的ダンスチューンだし、そのほかの歌モノもスルッと聴けてしまうくらい薄味。映画の相乗効果もあって『AROUND THE WORLD IN A DAY』以来の1位に輝いたけど、前作までの好調ぶりを考えると肩すかすを喰らうかも。

そこも含めて好き嫌い分かれそうだけど、当時10代後半の自分は『LOVESEXY』からの流れでよく聴いた記憶が。ただ、バットマン効果とはいえ、日本人の感覚だとなぜそこまでヒットしたのか当時は謎でした(笑)。

なお、本作に関しては過去により深く触れておりますので、こちらも合わせてチェックいただけるとありがたいです。

 


▼PRINCE『BATMAN』
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PRINCE『GRAFFITI BRIDGE』(1990)

1990年8月20日リリースの12thアルバム。またもや映画のサントラ。しかし、今回は殿下自身が手がける同名映画のサントラ的1枚なので、前作『BATMAN』とはちょっと意味合いが異なるか。

今作は自身の歌唱曲のみならず、THE TIMEなどプリンスファミリーの楽曲(制作には殿下が関与)、テヴィン・キャンベルやジョージ・クリントンとのコラボ曲も多数含まれていて、最初こそ「?」でしかなかった。そりゃサントラなんだから、こういう作風もあるわなと今ならスッと理解できるけど、これまで全部自作自演してきたのになんで?と思わずにはいられなかった。かつ、約70分と非常に長尺。それらの理由もあって、当時もそこまで聴き込まず、敬遠した記憶も。

が、今聴くとそこまで悪いわけでもなく、なんなら前作よりも好き。とはいえ1曲1曲のインパクトは相当薄く、アルバムとしてあまり印象に残らないのも事実。

 


▼PRINCE『GRAFFITI BRIDGE』
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2025年7月12日 (土)

LIZZY BORDEN『LOVE YOU TO PIECES』(1985)

1985年7月にリリースされたLIZZY BORDENの1stアルバム。日本盤(アナログ)は同年10月21日発売。

LIZZY BORDENはフロントマンにして中心人物のリジー・ボーデン(Vo)を中心に1983年に結成されたヘアメタル/グラムメタルバンド。バンド名の由来は19世紀末に殺人容疑で告発され、無罪放免となった悪名高い女性リジー・ボーデン(Lizzie Borden)から名付けられたとのこと(Wikipedia情報)。当時設立されたばかりのインディーズレーベルMetal Blade Recordsと契約し、1984年に発表したEP『GIVE 'EM THE AXE』が好評を博すこととなり、以後しばらくは同レーベルの看板バンドとして活躍します。

本アルバム制作時のメンバーはリジーのほかジーン・アレン(G)、トニー・マトゥザック(G)、マイケル・デイヴィス(B/のちにHALFORDへ加入)、ジョーイ・スコット(Dr)。プロデュースはバンド名(もしくはリジー個人)が記されており、エンジニアをランディ・バーンズ(MEGADETH、NUCLEAR ASSAULT、KREATORなど)が手がけています。

ロスで結成されたこと、そのケバケバしいヴィジュアルから、先に触れたように彼らをヘアメタル/グラムメタルの枠で語りがちですが、実のところはアリス・クーパー直系のショックロックだったり、BLACK SABBATHJUDAS PRIESTIRON MAIDENなどの正統派ブリティッシュヘヴィメタルからの影響が強いサウンドが特徴。そういう意味では、同時代にメジャーで活躍したW.A.S.P.との共通点も見え隠れします(W.A.S.P.のジェネリック、もしくは“よりダークに”互換したバンドと言ったら怒られそうですが)。

アメリカっぽいカラッとした質感皆無で、全体的に湿り気の強いサウンドはどちらかというとヨーロッパ寄り。ジェフ・テイト(ex. QUEENSRYCHE)を下品にした(笑)ようなリジーの圧倒的なボーカルと、IRON MAIDENを彷彿とさせるギターワークとバンドアレンジ、いい意味でB級感を保ったまま突っ走る全体の空気といい、1980年代半ばの“メジャーとアンダーグラウンドの狭間”感がしっかりと感じ取れる内容ではないでしょうか。

楽曲の1つひとつの出来もさすがの一言で、まだまだラフさが目立ったEP『GIVE 'EM THE AXE』から短期間でよくぞここまで仕上げてきたなと驚かされます。もちろん、適度な荒々しさは随所に残されているので、新人らしいフレッシュさもしっかり伝わる。と同時に、当時の(一部の)インディーズメタルシーンのレベルの高さも感じ取ることができる。なにより、アルバムのど真ん中に配置されたのが「American Metal」ですからね。この曲のみならず、先に挙げたような王道ブリティッシュメタルへのLAからの回答と捉えると、いろいろ透けて見えてくるものもあるのではないでしょうか。

実は、筆者自身は本作をはじめとする80年代の諸作品をリアルタイムでは聴いていなくて。というのも、1stアルバムからしてこのジャケットじゃないですか(笑)。しかも、雑誌などで目にするヴィジュアルの印象もアレですし……なので、だいぶ時間が経ってから本作を聴いて「騙された!」と悔やみましたからね。僕のように、このいかがわしいジャケットのイメージに惑わされることなく(笑)、広く届いてほしいアメリカンメタルの名盤のひとつだと断言しておきます。

 


▼LIZZY BORDEN『LOVE YOU TO PIECES』
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2025年7月10日 (木)

KING KOBRA『READY TO STRIKE』(1985)

1985年2月28日にリリースされたKING KOBRAの1stアルバム。日本盤(アナログ)は同年3月30日発売。

KING KOBRAは当時オジー・オズボーンのバンドを離れたカーマイン・アピス(Dr)が、1983年に結成したヘアメタル/グラムメタルバンド。60年代から今日に至るまでVANILLA FUDGEやBLUE MURDERなど数々の著名バンドや、ロッド・スチュワートなどのサポートワークで名を馳せてきたカーマインの新バンドということもあり、結成から間もなくしてメジャーのCaptol Recordsと契約します。

デビュー時のメンバーはカーマインのほかマーク・フリー(Vo/のちにUNRULY CHILDなどに参加)、デヴィッド・マイケル・フィリップス(G/のちにLIZZY BORDENに参加)、ミック・スウェダ(G/のちにBULLETBOYSに参加)、ジョニー・ロッド(B/のちにW.A.S.P.に参加)の5人。KING KOBRA脱退後の各メンバーのキャリアからも、KING KOBRAというバンドが“LAメタル”界隈に存在していたことが窺えるのではないでしょうか。

ですが、そのサウンドは一般的なグラムメタルとは異なり、意外と硬派な印象が強い。プロデュースを手がけたのは、QUIET RIOTのメガヒット作『METAL HEALTH』(1983年)で一躍時の人となったスペンサー・プロファー(CHEAP TRICKHEART、W.A.S.P.など)。確かに、この全体的に硬質で特徴的なリバーブをかけたサウンドは『METAL HEALTH』的でもあります。これが80年代半ば前後の、ひとつのトレンドだったのでしょう。

アルバムのオープニングを飾るタイトルトラック「Ready To Strike」の様式美を意識した仰々しい正統派メタルは、その派手で煌びやかなヴィジュアルからは想像もできないはず。冒頭のマーク・フリーの凄みを効かせたフェイクで心を鷲掴みにされる「Hunger」、カーマインのパワフルなドラミングや厚みのあるギターリフなどからタイトさが伝わる「Shadow Rider」、哀愁味のあるメロディとストレートなサウンドが心地よい「Shake Up」、疾走感たっぷりのファストナンバー「Attention」など、どの曲もマイナーキーをベースにした美メロメタルに仕上がっています。

後半も前のめりなアップチューン「Breakin' Out」からヘヴィなメタルバラード調の「Piece Of The Rock」まで、どれも平均点の高い良曲ばかり。デヴィッド・マイケル・フィリップスとミック・スウェダのギタープレイは、誰がどれを弾いているかの判断こそ難しいものの、歪みとクリーンを巧みに使い分けた、緩急を効かせた演奏で聴き手を飽きさせないし、マーク・フリーの暑苦しすぎないギリギリのラインを攻めていて、こちらも聴いていて心地よい。全体的にもかなり良質なHR/HMアルバムだと断言できます。

ただ、これがデビュー作と言われるとあまり新人っぽくなくて、妙に小慣れた感も強くフレッシュさや次への可能性があまり伝わってこない。このへんはカーマイン主導というのも大きいのでしょうね。個人的にはROUGH CUTTの1stと同じ枠に入る、「A級になりきれない地味さがあるけど内容は絶品」な1枚です。

 


▼KING KOBRA『READY TO STRIKE』
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2025年7月 8日 (火)

ROUGH CUTT『ROUGH CUTT』(1985)

1985年2月11日にリリースされたROUGH CUTTの1stアルバム。日本盤(アナログ)は同年3月25日発売。

ROUGH CUTTアメリカ・カリフォルニア州サンディエゴで結成され、当初はジェイク・E・リー(G/OZZY OSBOURNEBADLANDSRED DRAGON CARTELなど)やクレイグ・ゴールディ(G/GIUFFRIA、DIOなど)が在籍していたことで知られる、“LAメタル(ヘアメタル、グラムメタル)”界隈の5人組バンド。1984年にメジャーのWarner Bro. Recordsと契約し、プロデューサーにトム・アロム(JUDAS PRIESTDEF LEPPARDKIXなど)を迎えてこのアルバムでデビューを果たします。本作制作時のメンバーはポール・ショーティノ(Vo)、アミア・デラク(G/のちにORGYなどで活躍)、クリス・ヘイガー(G)、マット・ソーア(B)、デイヴ・アルフォード(Dr)。

全10曲中カバーが2曲収録されており、かつそのうちの1曲がジャニス・ジョプリンなどで知られる「Piece Of My Heart」ということもあり、このバンドに対してはこのカバーのイメージが妙に強かったりするんですよね。もう1曲のカバー「Never Gonna Die」(オリジナルはTHE CHOIRBOYS)も妙に陽気で、いかにも当時のヘアメタルバンドが取り上げそうな曲調/アレンジですし。

でも、そのまやかしに騙されることなくアルバムにしっかり触れてみると、アルバムの幕開けを飾るキャッチーなミドルナンバー「Take Her」(クレジットに前任メンバーのクレイグと、その彼が当時活動をともにしたロニー・ジェイムズ・ディオの名前も見つけられます。これはROUGH CUTTが当時、ディオの妻ウェンディがマネジメントを担当していたためでしょう)、マイナー調のメタルバラード「Dreamin' Again」(この曲をはじめ、数曲にウェンディの名前もクレジットされています)、攻撃的なアップチューン「Cutt Your Heart Out」とかなりメタリックな作風であることに気付きます。ホント、カバーはまやかしですよ(笑)。

とにかくこのアルバム、ポール・ショーティノのハスキーで渋みのある、玄人ウケしそうな声が絶品。先のカバー「Piece Of My Heart」も彼の歌唱だからこそ成立しているところが大きいし、「Dreamin' Again」の色気や「Cutt Your Heart Out」の刺々しさ、アルバム後半の冒頭に置かれたヘヴィなミドルチューン「Black Widow」での圧倒的ボーカルなど、80年代らしい派手なサウンドプロダクションにまったく負けていない。これはいい意味で“メタルボーカルアルバム”ですよ。

そんな彼の魅力を全面に打ち出そうとするためか、中盤にミディアム〜スローナンバーを多めに固めてしまったのは本作を地味に感じさせてしまう要因のひとつかな。そこだけは非常に勿体ない。いい曲も多いだけに、もうちょっとバランスを取ってものかったのではないでしょうか。

メジャーから華々しくデビュー!と調子よくいきたかったところでしょうけど、本作はチャート上では大きな成功を収めることができず。この前後に勃発するUSメタルブームの波に乗ることができませんでした。B級色の強いバンドかもしれませんが、いわゆるLAメタルムーブメントから登場したバンドの作品群においては比較的クオリティの高い1枚だと断言しておきます。

 


▼ROUGH CUTT『ROUGH CUTT』
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2024年11月10日 (日)

サブスクに存在する音源を通して1980年〜1994年のHR/HM(およびそれに付随するハード&ヘヴィな音楽)の歴史的推移を見る

当サイトではかつて『1991 in HR/HM & Alternative Rock』というエントリーを公開しています。これは過去数年メインストリームだったHR/HMがグランジと入れ替わる絶妙なタイミングとなった1991年の音楽を、当時の世相とともに振り返りながらサブスクで聴いていくという内容でした。で、これと同じようなエントリーを1994年版で作ろうかと思っていたのですが、まとめながら歴史的観点(音楽以外を含む)ではそこまで大きくないような気がしまして……。

で、同じタイミングにこちらのイベントのためにプレイリストを共同制作していたのですが、その流れで「これを年代別に作ってみたいな」と思うようになり。だったら先の1994年までを年間プレイリストで辿っていくのはどうかな、という考えに至ったわけです。

ちゃんと始めるなら何年からがいいのかな……と熟考したところ、やはりNWOBHMが勃発したと言われる1980年から1年区切りで辿っていくのがいいんじゃないか、ということで、ここ数ヶ月ちまちまと作業しておりました。で、先ほど最後の1年となる1994年のプレイリストを完成させたので、こうしてエントリーとしてまとめるに至りました。

ぶっちゃけ、考察もなにもないです。これらを年代順に聴いていくことでそれぞれ見えてくるもの、気づくことは間違いなくあるでしょう。僕から「これがこうだから、こうなった」なんて細かいことはあえて言いませんが、もし何か付け加えるとしたら……意外とサブスク上に存在しない重要作品や楽曲が欠けているという事実と、HR/HMというジャンルが80年代後半からどんどん拡大していき、リリースアイテムも格段と増えたこと。例えば100曲でまとめる際、1980年と1994年とではその数に差がかなり出てしまったこと(1980年はHR/HMの絶対数が少なく、本来なら取り上げたいNWOBHMの名曲もサブスク上に存在せず、結果として無理やりパンクからの派生や1アーティストから2曲選んだりしている。一方で1994年のアイテムは国内外含め200曲近く集まり、そこから削っていくのにひと苦労した)。かつ、ジャンルとしてもどんどん洗練されていき、主流となるサウンドの方向性もどんどん変化していることにも気づくはず(結局言ってるし)。あと、90年代以降の音楽は今聴いても古さを感じないけど、80年代前半はまだ70年代の延長にあるんだなと再認識させられました。いろいろ面白かった。

ということで、ここから1年単位で作ったプレイリスト(各100曲)。それぞれ7〜8時間とかなり長尺ですが、暇なときにでもダダ流ししながらお楽しみいただけると幸いです。

 

■1980年

 

■1981年

 

■1982年

 

■1983年

 

■1984年

 

■1985年

 

■1986年

 

■1987年

 

■1988年

 

■1989年

 

■1990年

 

■1991年

 

■1992年

 

■1993年

 

■1994年

2024年3月 4日 (月)

ROBERT PALMER『RIPTIDE』(1985)

1985年11月にリリースされたロバート・パーマーの8thアルバム。

1985年、ロバートは当時DURAN DURANのメンバーだったアンディ・テイラー(G, Vo)&ジョン・テイラー(B)とCHICのトニー・トンプソン(Dr)とともに、“スーパーバンド”THE POWER STATIONとしてアルバム『THE POWER STATION』(米6位/英12位)やシングル「Some Like It Hot」(米6位/英14位)、「Get It On」(米9位/英22位)などをヒットさせたばかり。本来ならそのままツアーに臨む予定でしたが、ロバートはこの良い流れから自身のソロ活動へと移行し、バンドから離脱します。

こう聞くとバンドとの関係性が悪かったのではと邪推してしまいますが、1985年夏に制作された本作のプロデュースを手掛けたのはTHE POWER STATIONから引き続きバーナード・エドワーズ(CHICのベーシスト)。かつ、レコーディングにはアンディやトニーも参加しており、決して喧嘩別れしたわけではなかったことがわかります。

それまでのR&Bやソウル、ニューウェイヴ色の強かった作風から、本作ではTHE POWER STATIONで得た手応えをそのまま反映させたハードロックテイストで統一。自身最大のヒット曲となった「Addicted To Love」(米1位/英5位)を筆頭に、「Hyperactive」(米33位)や「Discipline Of Love」(米82位/英95位)、JAM & LEWISが手掛けたシェレールのデビューヒット「I Didn't Mean To Turn You On」のカバー(米2位/英9位)といったヒットシングルも多数生まれ、アルバム自体も米8位(200万枚)/英5位と好セールスを記録しました。

オープニングとエンディングを飾るルース・エッティング(1920〜30年代に活躍した米歌手・女優)のカバー「Riptide」や本作唯一のロバート単独作詞作曲楽曲「Get It Through Your Heart」こそ穏やかなスローチューンですが、ブルースシンガー&ギタリストのアール・キング「Trick Bag」のカバー含め、デジタル色の強いハードロックは大人の色気を強くにじませたロバートのボーカルに見事フィット。ただ、THE POWER STATIONのようにド派手なギター要素は少なめなので、そっち方面を重視するリスナーには少しだけもの足りないかもしれません。

とはいえ、ロバート・パーマーという稀代のシンガーによる名演の数々は、80’sロック&ポップスファンなら必聴もの。当時、MTVでヘヴィロテされたMVの数々と合わせて(むしろ、そういったヴィジュアル重視で)お楽しみください。

 


▼ROBERT PALMER『RIPTIDE』
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2022年12月27日 (火)

JOHN COUGAR MELLENCAMP『SCARECROW』(1985)

1985年8月5日にリリースされたジョン・メレンキャンプ(当時はジョン・クーガー・メレンキャンプ名義)の8thアルバム。日本盤は同年9月21日発売。

全米9位を記録した前作『UH-HUH』(1983年)から約2年ぶりの新作。「Lonely Ol' Night」や「Small Town」(ともに全米6位)、「R.O.C.K. In The U.S.A. (A Salute To '60s Rock)」(同2位)などのTOP10ヒットを複数生み出し、アルバム自体も全米2位/500万枚というメガヒット作となっています。このアルバムで初めて彼の曲に増えたアラフィフ世代も少なくないのではないでしょうか。

ドン・ゲーマン(ニール・ヤング、R.E.M.、HOOTIE & THE BLOWFISHなど)をプロデューサーに迎え、ラリー・クレイン(G)、マイク・ワンチック(G)、トビー・マイヤーズ(B)、ケニー・アロノフ(Dr)という気心知れたバンドメンバーとともに制作。リッキー・リー・ジョーンズ(Vo)やライ・クーダー(Slide G)といったゲストアーティストに加え、ジョン自身の祖母ローラ・メレンキャンプも歌唱で参加しています。

世代的にはちょうど中学生の頃にヒットした本作。その後手に取って再生する機会はあまりなかったのですが、今年11月4日に最新ミックスが施されたアルバム本編にアルバム未収録曲やデモ音源、別ミックスなどをまとめたボーナスディスクを同梱したデラックス盤が発売されたので、数10年ぶりに聴いてみた次第です。

最新ミックスは2022年の耳で聴いてもまったく古臭く感じられず(そもそも、元々の音源/楽曲がタイムレスな内容だったことも大きいですが)、ケニー・アロノフによるハイの効いたドラミングと適度な歪み具合のギター、そして(ヘッドフォンなどで聴くと)生々しいまでに耳元で歌い上げるメレンキャンプのボーカルのバランス感が非常に良好。ガキの頃にアナログ盤からカセットテープにダビングして何度も再生した楽曲たちが、40年近くの歳月を経てもクリアに鳴り続けている事実に、ただ驚くばかりです。

時代的にちょうどブルース・スプリングスティーンの名盤『BORN IN THE U.S.A.』(1984年)と重なることもあり、当時は身の回りで「スプリングスティーン派か、メレンキャンプ派か?」で意見が分かれたりもしましたが、僕自身は完全にメレンキャンプ派だったんですよね。たぶん、自分が育った環境が彼の曲から透けて見える景色と重なったことが大きかったのかな。「Small Town」や「Lonely Ol' Night」あたりを聴くと、一瞬にして中2〜3の鬱屈した日常生活がフラッシュバックしてくるような(笑)。で、そんな鬱屈を「Rain On The Scarecrow」や「R.O.C.K. In The U.S.A. (A Salute To '60s Rock)」を大音量で聴いて吹っ飛ばすという。そうそう、こんな感じだったなあと懐かしくなります。そんな、自身の少年時代とも不思議とリンクする1枚。色褪せない名盤です。

なお、2022年版デラックスエディションにはTHE DRIFTERS「Under The Boardwalk」を筆頭としたカバー曲、アルバム未収録のオリジナル曲「Carolina Shag」「Smart Guys」など全11曲を収録。また、アルバム本編の最後にはボーナストラックとして「Small Town」のアコースティックバージョンも追加されており、アコギとフィドルのみで構成されるミニマルな演奏がまたいい味出しているんですよ。個人的には本編は「R.O.C.K. In The U.S.A. (A Salute To '60s Rock)」で終わる形がベストですが(当時からCDのみに収録されていた「The Kind Of Fella I Am」もできればないほうがいい)、余韻を残して終わるこのアコースティックバージョンを含む形も悪くありませんね。

 


▼JOHN COUGAR MELLENCAMP『SCARECROW』
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2022年11月 9日 (水)

KIX『MIDNITE DYNAMITE』(1985)/『MIDNITE DYNAMITE: RE-LIT』(2020)

KIX『MIDNITE DYNAMITE』(1985)

 

1985年8月6日にリリースされたKIXの3rdアルバム。当時日本盤は未発売で、次作『BLOW MY FUSE』(1988年)のヒット&初来日(1989年9〜10月)にあわせて廉価版CDが1989年9月10日に発売されています。

初めて全米チャートにランクイン(最高177位)を果たした『COOL KIDS』(1983年)から約2年半ぶりに届けられた本作デは、前作に参加したブラッド・ディヴェンス(G/WRATHCHILD AMERICA、SOULS AT ZERO)に代わりオリジナルメンバーのロニー・“10/10”・ヨンキンス(G)が復帰。新たなプロデューサーにボー・ヒル(RATTWINGERWARRANTなど)を迎えた、従来のらしさに“ボー・ヒル的サウンドプロダクション”が加えられた意欲作に仕上がっています。

今作ではソングライターにもテコ入れが施され、メインで曲を制作していたドニー・パーネル(B, Key)をサポートする形で職業作家のボブ・ハリガン・Jr.やジョン・パルンボ、当時ボー・ヒル門下生でアリス・クーパーをサポートし、のちにWINGERを結成するキップ・ウィンガーなどが共作者として名を連ねています。ボブは次作『BLOW MY FUSE』にも参加することになるので、ここでの相性がよほど良かったのでしょう。

実際、以降もライブの定番曲となるタイトルトラック「Midnite Dynamite」や「Layin' Rubber」「Scarlet Fever」などのミディアムテンポのロックンロールは、程よいキャッチーさと相まって気持ちよく楽しむことができます。また、タイトル曲や「Red Hot (Black & Blue)」「Bang Bang (Balls Of Fire)」にはボー・ヒルらしい音作りも見つけることができ、そのへんにちょっとした懐かしさも感じられたり……。あ、でもボー・ヒルというよりもマット・ラングっぽさも強かったりしますけどね。

そんな中、「Walkin' Away」や「Cry Baby」「Cold Shower」の味付けにはニューウェイヴっぽさも見つけることができ、散々“AC/DCフォロワーのワンパターン”と揶揄されてきた彼らがソングライティング面で一皮剥けようと頑張っている姿が見受けられます。個人的には「Cry Baby」「Cold Shower」の2連発は非常によいフックとなっている印象を受けるのですが、いかがでしょう。

かと思えば、終盤にはストロングスタイルの「Lie Like A Rug」「Sex」のパワーチューンが配置されており、やっぱり最後はこれでしょ?というドヤ顔も浮かんでくる(笑)。特に後者は本作で唯一のパーネル&スティーヴ・ホワイトマン(Vo)共作曲とあって、タイトル含め活き活きとした印象も(笑)。1985年という時代性も適度にミックスされた、ブレイク前夜の過渡期作と言えなくもないのかな。ですが、個人的には大好きな1枚です。

 


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『MIDNITE DYNAMITE: RE-LIT』(2020)

 

本作リリースから35年後の11月20日には、アルバム本編にリマスタリングを施し、ボーナストラックとしてデモトラックや初期ミックスなど未発表音源8曲を追加したデジタルアルバム『MIDNITE DYNAMITE: RE-LIT』も配信されています。

正直、1985年の音は今聴くと音圧含めてショボさを否めなかったので、このリマスタリングは非常にありがたいです。もともとダイナミックなアレンジを要する楽曲で固められた作品だけど、今回の新装版は『BLOW MY FUSE』の30周年盤『FUSE 30 REBLOWN (BLOW MY FUSE 30TH ANNIVERSARY SPECIAL EDITION)』(2018年)同様に好企画だと思いました。

デモ音源は派手な装飾が加わる前の、非常にシンプルな音使いで、これもこれで面白いんじゃないでしょうか。まあオマケ程度ではありますが、著名プロデューサーの腕にかかるとどう変化するのか、その過程も見えてきてファンなら面白がれる代物だと思いますよ。

 


▼KIX『MIDNITE DYNAMITE: RE-LIT』
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2021年11月24日 (水)

KISS『ASYLUM』(1985)

1985年9月16日にリリースされたKISSの13thアルバム。

前作『ANIMALIZE』(1984年)リリース後のツアー数公演でマーク・セント・ジョーンズ(G)がバンドを脱退。代役としてブルース・キューリックを迎えると、そのままブルースはバンドに正式加入しました。『CREATURES OF THE NIGHT』(1982年)以降安定しなかったギタリストの座が、ここでしばらく安定することになります。

メイクを落とした『LICK IT UP』(1983年)以降、時代に呼応したヘアメタル/グラムメタル的派手なハードロックサウンドを展開してきたKISSですが、今作もその延長線上にあるサウンド/楽曲が中心。ただ、方向性的には前作『ANIMALIZE』でひとつ完成した感があり、そこから1年という短いスパンで届けられた本作はちょっとばかりマンネリかな……と思わされる箇所も少なくありません。

全10曲中ポール・スタンレー(Vo, G)歌唱曲が6、ジーン・シモンズ(Vo, B)歌唱曲が4というポールに偏ったバランスは前作同様。ただ、前作はジーンが映画『未来警察』出演のため途中で制作から離れ1曲少なかったという経緯がありましたが、今回はそういうわけでもなさそうですね。

アルバムはエリック・カー(Dr, Vo/もう30年ですか……改めてR.I.P.)の派手なドラムソロを冒頭にフィーチャーした「King Of The Mountain」からスタート。このオープニングは改めて今聴いてもカッコいいものがあります。ちなみにブルースは早くもこの曲でソングライターとして名を連ねています(ポール/ブルース/デスモンド・チャイルドの共作)。

続くジーン曲「Any Way You Slice It」は実に彼らしいロックンロール調のアップチューン。エンディングがいかにもなアレンジでニンマリです。シングルカットもされた「Who Wants To Be Lonely」はポールらしいメロウなミディアムナンバー。ジーン曲「Trial By Fire」は「Lick It Up」の流れを汲む1曲で、先のマンネリの要因のひとつかな。アナログA面ラストを締め括る「I'm Alive」は激しいドラミングとギターソロをフィーチャーしたメタリックなナンバー。こういう曲はジーンっぽい気がしたけど、何気にポール/ブルース/デズモンドの共作曲。

折り返しの1曲となる「Love's A Deadly Weapon」も、「I'm Alive」と同系統のアグレッシブチューン。ソングライターにはポール&ジーンが名を連ねていますが、こちらはジーンが歌っています。そうそう、このイメージなんですよね。続く「Tears Are Falling」はシングルヒットも記録した、80's KISSの代表曲のひとつ。現在もライブで頻繁に披露されているので、80年代をリアルタイムで通過していないリスナーも耳にしたことがあるのではないでしょうか。

ジーンが歌う「Secretly Cruel」はインパクトに欠ける、アルバムの穴埋めと思えてしまうありきたりな1曲。ポールによるミディアムヘヴィな「Radar For Love」も同様で、「Uh! All Night」までその中途半端な空気のままエンディングを迎えます。

序盤だってすべての曲がベストというわけではないですが、それにしても「Tears Are Falling」までで息切れしてしまうのはいかがなものかと。リアルタムで本作を聴いたときもA面とB面2曲、そしてラストの「Uh! All Night」の印象しかなくて、アルバムとして通して聴くことが少なかった記憶が。カセットで飛ばして聴いていたのか、もしくはお気に入りの曲だけをダビングしてオリジナルテープを作って聴いていたのか……どちらにせよ、80年代のKISSでは『HOT IN THE SHADE』(1989年)と同じくらい印象の薄い1枚かもしれません。

そのへんのインパクトの弱さはセールスにも影響を及ぼし、100万枚を突破した前2作とは相反し50万枚まで売り上げを落としてしまいます。それでも「Tears Are Falling」が全米51位まで上昇する小ヒットを記録しているので、かろうじて威厳を保つことができましたが……。

 


▼KISS『ASYLUM』
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2021年6月26日 (土)

MOTLEY CRUE『THEATRE OF PAIN (40TH ANNIVERSARY REMASTERED)』(2021)

2021年6月25日にリリースされたMOTLEY CRUEの3rdアルバム『THEATRE OF PAIN』(1985年)最新リマスター盤。現時点ではフィジカル発売なし、デジタルのみのようです。

タイトルに“40TH ANNIVERSARY REMASTERED”と銘打っていますが、これは『THEATRE OF PAIN』発売40周年というわけではなく、MOTLEY CRUEの結成40周年記念を意味するもの。そもそも『THEATRE OF PAIN』は1985年発売なので、現時点で36周年という中途半端なタイミングですしね。

アルバムの詳細なレビューに関しては4年前に執筆したものに譲るとして、ここではそのリマスター効果について記していきたいと思います。

1985年の作品ということで、ちょうどアナログとデジタルの間のタイミングに制作された音源。なので、リマスター効果はギリギリ表れるのかなという気がします。それはドラムサウンドに顕著で、「Smokin' In the Boys Room」や「Louder Than Hell」「Use It Or Lose It」「Save Our Souls」のようにリズムが強調された、あるいはドラムが目立つ曲だとその違いが明確かと思います。ぜひ一度、過去のバージョンや並行して配信されている以前のバージョンと聴き比べてみてください。

あと、過去のマスタリングは全体的に丸みのある音作りだったように感じていますが(それが80年代的な音だったんでしょうね)、今回のリマスタリングではよりエッジが効いた、メリハリの大きいマスタリングに変更されています。だからこそ、「Smokin' In the Boys Room」や「Home Sweet Home」のようにダイナミズムを強調したアレンジの楽曲ではリマスタリング効果が活きているんじゃないでしょうか。

リマスタリングによってイマドキの音っぽくなるケースも多々見受けられますが、本作に関してはオリジナル盤の魅力をそのまま残し、若干今風に整理した程度で、作品から受ける印象自体はあまり変わらないかな。ただ、今の耳にはすごくフィットしたマスタリングなんじゃないかという気はしています。

けど、改めて本作に触れる機会をくれたという意味では、これもアリかな。なにせ、僕個人として初めてMOTLEY CRUEに触れたアルバムですからね(ってことは、このバンドに出会ってもう36年ってことなんですね。ウケる。笑)。

 


▼MOTLEY CRUE『THEATRE OF PAIN (40TH ANNIVERSARY REMASTERED)』
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