カテゴリー「1987年の作品」の63件の記事

2020年1月15日 (水)

PINK FLOYD『A MOMENTARY LAPSE OF REASON』(1987)

1987年9月にリリースされたPINK FLOYDの13thアルバム。日本盤は1ヶ月遅れの同年10月に発売されています。って、今思えばRUSH『HOLD YOUR FIRE』(1987年)とほぼ同タイミングにリリースされたんですね。それで同じような印象を持ったのかしら。

自分が洋楽ロックを聴き始めて、最初に接したPINK FLOYDの新譜がこれでした。当時高校1年生だった僕は「これがPINK FLOYDか……」と胸をワクワクさせながら、本作と向き合った記憶があります。なにせ、『狂気(THE DARK SIDE OF THE MOON)』(1973年)や『THE WALL』(1979年)といった名作に触れるのは、そのもっとあとになってからですからね。

すでにMTVや『ベストヒットUSA』といった洋楽番組でリードトラック「Learning To Fly」のMVを目にしていたので、そのサウンドがどんな感じかは理解していました。この1曲を聴いた限りでは「あれ、プログレっていうかもっと小難しいと思ってた。めっちゃソフトじゃん」という感想。今思えば、完全にAORと同じ感覚でした。

で、アルバムをレンタルして聴くわけですが(当時、アナログ盤も発売されていたと思いますが、ここはいい音で……という短絡的な理由でCDを借りることに)……「これ、プログレ?」と疑問を感じるわけです。ロジャー・ウォーターズがいない、デイヴ・ギルモア主導だとかCDの解説にも書いてあったと思いますが、ほぼ初心者の僕からすればそういった要素は二の次なわけで、ここで鳴らされている音楽こそがすべて。「なんだか16歳の自分には難しいな……」と思ったのでしょうね。カセットテープにダビングして2〜3回聴いて、放ったらかしにしたと思います。

結局、90年代に入って上京して、自分のお金でCDを自由に購入できるようになってから再びこのアルバムと向き合い、その魅力に気づいたわけです。

HR/HMがメインストリームに躍り出た時代だったからか、質感的には重厚さこそ感じられるものの、本作はプログレッシヴロックというよりはAOR的要素の強い1枚だと思います。要所要所に短尺のインタールードを挟むことでコンセプチュアルな雰囲気を醸し出していますが、ストーリーとしてのトータル性はあまり感じられない。“コンセプチュアルな雰囲気”、これこそがすべての1枚かなと。

歌詞やタイトル(特にアナログM-1〜5のA面)においては、ロジャーなきあと新たに手がけることになった元SLAPP HAPPYのアンソニー・ムーアの手腕によるものが大きいと思います。ニック・メイソン(Dr)&リチャード・ライト(Key)も制作に貢献しているものの、基本的にはギルモアがPINK FLOYDを立て直そうとほぼソロ体制で作り上げた、そんな1枚かもしれません。

だからなのか、『鬱』という邦題のわりにはピースフルでポジティブな空気に満ちている気がします。サウンドのファット感はハードロックやAORが主流だった80年代半ばならではといえばそれまでですが、かなり聴きやすいもので、先鋭的だったプログレの香りは薄いかも。そんな中、デイヴのギターはかなり魅力的なフレーズ/プレイ満載で、「On The Turning Away」や「Sorrow」といった楽曲での“地味なのに印象に残る味わい深い”フレージングはさすがの一言。まあ、そこには高校生の頃はまったく耳が行きませんでしたが(派手さしか求めていなかったので。笑)。

ちなみに今作、全英/全米3位を記録。全米だけでも400万枚以上を売り上げる大ヒット作となり、バンドの健在ぶりをアピールすることに成功しています。よかったね、ギルモアさん。

時代に呼応した“アリーナロック化したPINK FLOYD”と言ってしまえばそれまでですが、これはこれで良いと思うんです。これがあったから、末期の傑作『THE DIVISION BELL』(1994年)が生まれたわけですから。

 


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2020年1月14日 (火)

RUSH『HOLD YOUR FIRE』(1987)

1987年9月にリリースされたRUSHの12thアルバム。日本盤は1ヶ月遅れの同年10月に発売されています。

『MOVING PICTURES』(1981年)から本格化した“ラジオ・ライク”なショートチューン路線。シーケンサーを導入したシンセサウンドが加わったことで、それ以前のプログレッシヴロック的な作風からニューウェイヴ的スタイルへと移行したことで、RUSHはよりポップで親しみやすい作品を極めていくことになります。

本作はその“80年代のシンセポップ路線”の集大成といえるような内容で、ドラムのカラフル&メロディアスなタムタムの音色や、ギターよりもシンセが際立つアレンジ、どこか憂いの感じられる切ないメロディからは、職人技ともいえる極みが感じられます。

時代的にもYESが「Owner Of A Lonely Heart」で全米1位を獲得し(1983年)、GENESISは「Invisible Touch」という極上のポップソングで全米No.1に輝いた(1986年)あとに、RUSHもついに究極のポップ路線を完成させた。上記の流れを顧みると、この進化は非常に納得いくものがあるのではないでしょうか。

ただ、残念ながらRUSHの場合こういった試みがシングルヒットにまでは結びつかず、さらにアルバム自体も『MOVING PICTURES』を最後にセールスが失速。本作はしばらく続いた全米TOP10入りを逃し(最高13位)、売り上げも50万枚止まり。思えばこのバンドの場合、歌詞を書いているのはニール・パート(Dr)ですものね。知的すぎたのかな……そりゃフィル・コリンズとは違いますよ。

まあ冗談はさておき。どの曲も非常によく作り込まれており、ぶっちゃけ隙が見つからない。かといって、それが息苦しさを与えるのかというとそんなこともなく、一流のポップソングとしても成立している。なのに、よく聴き込むと各々のプレイ/アレンジが非常にテクニカルで凝っている(だから「隙が見つからない」んですけどね)。しかも今作は、「Time Stand Still」と「Prime Mover」にコ・リードボーカルとしてエイミー・マンが参加しているのも大きな特徴。RUSHのアルバムに女性シンガーがフィーチャーされるのはこれが初めてだったんじゃないかな。ドラムやシンセの音色/エフェクトに時代を感じてしまうものの、楽曲の質は80年代の作品で最高のものと言えるでしょう。

RUSHはこの傑作のあと、ポップ路線のまとめとしてライブアルバム『A SHOW OF HANDS』(1989年)をリリース。その後、さらなる混沌への入り口として13thアルバム『PRESTO』を1989年11月に発表します。ギリギリ80年代の作品ではあるものの、すでにここで『COUNTERPARTS』(1993年)への布石が感じられるのですが、それについてはまた別の機会に。

 


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2019年4月22日 (月)

TERENCE TRENT D'ARBY『INTRODUCING THE HARDLING ACCORDING TO TERENCE TRENT D'ARBY』(1987)

1987年夏にリリースされた、テレンス・トレント・ダービーのデビューアルバム。デビューシングル「If You Let Me Stay」が全英7位/全米68位という好スタートを飾ると、続く「Wishing Well」が全英4位/全米1位を記録。その後も「Dance Little Sister」(全英20位/全米30位)、「Sign Your Name」(全英2位/全米4位)とシングルを続発し、アルバム自体も全英1位(5xプラチナム)/全米4位(ダブルプラチナム)の大ヒットとなりました。

デビュー当時は“マイケル・ジャクソン的ポピュラリティの高い、汎用性プリンス”的なポジションで受け入れられていた記憶が。マイケルの部分は納得するものの、プリンスとの比較はすべての楽曲を自作自演するという点と黒人というルーツ的な部分が重なることで、この比較が始まったのかな。確かにこの頃のプリンスといったら、ソロ名義でどんどんマニアックな方向に突き進んでいましたし(けど、楽曲自体はポップなものが多かったんですけどね。ただ、わかりやすさという点では80年代前半と比べて弱かったかもしれないというだけで)、そう言われてしまっても仕方なかったのかな。

ロック、ファンク、R&Bをベースにしながらも、ポップミュージックとしての完成度も非常に高い楽曲ばかり。ヒットシングルはどれも耳馴染みが良く、なおかつ一度聴いたら忘れられないキャッチーさが備わっている。「If You Let Me Stay」のサビの突き抜け感といったら、ねえ。

かと思えば、「Wishing Well」みたいなプリンス直系のダークファンクもあるし、小気味良いテンポ感&リズムのポップチューン「I'll Never Turn My Back on You (Father's Words)」もあるし、アカペラのみで構成された「As Yet Untitles」もあるし、フロアを賑わすダンスチューン「Dance Little Sister」もある。この曲なんて、のちのジャズファンクにも通ずる要素が垣間見られるし、スモーキー・ロビンソン率いるTHE MIRACLESのカバー「Who's Lovin' You」では自身のルーツもしっかり提示している。そして、ミニマル感のあるセクシーなバラード「Sign Your Name」もこの時代ならではといいますか。本当に捨て曲なしの1枚です。

プリンスのみならず、例えばINXSのようにファンクやR&Bをベースにしたロックバンドにも通ずるカラーが至るところから感じられる本作。リリースから30年近く経っていますが、サウンドやアレンジ的な前時代感は否めないものの、それでも楽曲の良さはあの頃となんら変わらず、いつ聴いても気持ちよく楽しめる内容ではないでしょうか。この方、1989年にデビューするレニー・クラヴィッツと先代であるプリンスをつなぐ、貴重な存在だと思うんですけどね。

現在もサナンダ・マイトレイヤ名義で音楽活動を継続中。日本では4thアルバム『VIBRATOR』(1995年)までのイメージが強い彼ですが、まずはこのデビュー作から触れてみることをオススメします。

 


▼TERENCE TRENT D'ARBY『INTRODUCING THE HARDLING ACCORDING TO TERENCE TRENT D'ARBY』
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2019年4月18日 (木)

SACRED REICH『IGNORANCE』(1987)

アメリカ・アリゾナ州フェニックス出身の4人組スラッシュメタルバンド、SACRED REICHが1987年にリリースした1stアルバム。同作は今や名門メタルレーベルでおなじみ、Metal Blade Recordsから発表された1枚で、続く2ndアルバム『THE AMERICAN WAY』(1990年)とあわせて彼らの代表作として高く評価されています。

サウンド的にはテクニカルな展開を組み込みつつも、ハードコア的な色合いが強いスラッシュメタルが特徴。全9曲(うち1曲はインスト)で32分強というトータルランニングからは、この手のスラッシュメタルとしてはかなりコンパクトな印象を受けます。

また、唐突かつ複雑怪奇なアレンジと、フィル・ラインド(Vo, B)の吐き捨てるようなハードコア調ボーカルが相まって、かなり攻撃的なイメージが強いのも彼らの個性かな。この展開に展開を重ねるアレンジ、本作ではまだ荒削りで、作品を重ねるごとに洗練されていくのですが、ここで聴ける荒々しさも勢いがあって嫌いじゃない。曲によっては若干初期のデスメタル風でもあったりして、そこもまた面白い。実は知的に計算しているようでヤケクソっぽく聴こえるというあたりが初期のSLAYERっぽくもあって、個人的にポイントが高いというのもあるのですが。

また、彼らは社会派といいますか、政治的な歌詞が多いのも特徴。METALLICAANTHRAXあたりは比喩的表現でそのへんを歌った楽曲も少なくないですが、彼らの場合はかなり直接的な楽曲が多いような気がします。そういった雰囲気は、本作含めアルバムジャケットからも伝わってきますよね。ぶっちゃけ僕、最初はこのアルバムをDEAD KENNEDYSのようなバンドの作品だと勘違いしていたくらいですから。

そして、ギターリフに視点を置くと、かなり西海岸(ベイエリア・クランチ)の香りがしてきます。このザクザク感がぶっきらぼうな曲展開をより聴きやすくしている気がするし、気持ち良さの要因のひとつになっていることは間違いないと思います。

そう考えると、80年代後半に登場した彼らって(結成は1985年)、初期スラッシュメタルバンドのいいとこ取り、ハイブリッド的存在なのかなと。次作以降、彼らならではのオリジナリティが確立されていくので、そういった意味ではこのアルバムで聴けるサウンドってそのハイブリッド感含め、実はかなり奇跡的な内容なんじゃないかという気がしてきました。当時はそんなこと、微塵も思わなかったけど(苦笑)。

個人的には時流に乗ったグルーヴメタル色を取り入れた3rdアルバム『INDEPENDENT』(1993年)までの3枚は非常にお気に入り。ぜひ機会があったら他の作品も聴いてみてください。なお、本作のストリーミング版はJUDAS PRIEST「Rapid Fire」やBLACK SABBATH「Sweet Leaf」などのカバーを加えたDISC 1と、1988年のEP『SURF NICARAGUA』にボーナストラックを加えたDISC 2からなる2枚組バージョンとなっているので、彼らのルーツとともに進化の過程も追えるんじゃないかしら。必聴です。

 


▼SACRED REICH『IGNORANCE』
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2019年3月25日 (月)

E・Z・O『E・Z・O』(1987)

1987年4月発売の、E・Z・Oのデビューアルバム。このバンド、もともとはFLATBACKERとして日本国内で2枚のアルバムを発表しており、渡米と同時にバンド名を変更。ジーン・シモンズKISS)とヴァル・ギャレイのプロデュースにより、海外ではGeffen Recordsから、国内はFLATBACKER時代同様ビクターからリリースされました。国内ではオリコン6位、アメリカでも150位まで上昇するなど、日本の新人バンドとしてはなかなかの成績を残したのではないでしょうか。

FLATBACKER時代は日本語詞、スラッシュメタルやハードコアからの影響が強いサウンドが特徴だった彼らですが、このE・Z・Oの1stアルバムはHR/HM色の強い作品に仕上げられています。楽曲によってはFLATBACKERの名残(「House Of 1,000 Pleasures」のメインリフ)も感じられますが、もちろんここではまったく別モノに変化。テンポ的にもFLATBACKER時代は前のめりのファストチューンが多かったところ、本作ではミドルテンポのヘヴィチューンが中心に。このへん、LOUDNESS『THUNDER IN THE EAST』(1985年)で試みた路線に近いものを感じます。

全9曲中7曲がバンドと外部ライターとの共作で、2曲が職業ライターの手によるもの。MVも制作された「Flashback Heart Attack」にはHOUSE OF LORDSなどで知られるジェイムズ・クリスチャン(Vo)、「House Of 1,000 Pleasures」や「Mr. Midnight」ではBLACK 'N BLUEのジェイミー・セント・ジョーンズ(Vo)、そして「Here It Comes」や「Kiss Of Fire」などではKISSとの共作でおなじみのアダム・ミッチェルの名前を見つけることができます。このへんは確実にジーン・シモンズの手腕によるものですね(バンド名変更や歌舞伎の隈取メイクも確実にジーンの発案だろうし)。

とにかく、どの曲も非常にキャッチー。シングルカットされた「Here It Comes」のみ毛色が異なりますが、そのほかは基本的に豪快でメロディアスなハードロック。ちょうどBON JOVIがブレイクし、ここからWHITESNAKEが当たりGUNS N' ROSESがデビューするという絶妙なタイミングだったこともあり(E・Z・Oとガンズはアメリカでのレーベルメイトですしね)、本作も海外で高い評価を獲得したようです。セバスチャン・バック(ex. SKID ROW)の口からもE・Z・Oの名前が飛び出すこともありましたしね。

ドラムサウンドに時代を感じるものの、Shoyo(G)のギターワークやMasaki(Vo)のディストーションボイスは今聴いても凄みというか恐ろしさを覚えます。特にMasakiはダサダサ日本語詞のFLATBACKER時代を忘れさせるだけの実力を発揮しており、そこから90年代のLOUDNESS加入につながるわけです。

今でこそサブスクで手軽に聴くことができる本作。実はCDはしばらく廃盤状態でした(紙ジャケ化含め、何度か再発されてきましたが)。ホント、良い時代になりましたね。80年代後半のHR/HMブームにおける(世界的には)隠れた名盤、そしてジャパニーズメタルの歴史に名を残す傑作、ぜひこの機会に触れてみてください。



▼E・Z・O『E・Z・O』
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2019年1月12日 (土)

THE CURE『KISS ME, KISS ME, KISS ME』(1987)

THE CUREが1987年春にリリースした、通算7枚目のスタジオアルバム。初の2枚組作品(アナログ盤のみ。CDは1枚にまとたもの)で、全18曲入りという非常にボリューミーな大作となっています。が、初出時のCDは当時の容量の問題で、「Hey You!!!」がカットされた17曲入りでした。「Hey You!!!」を含めた全18曲で74分強なので、今となっては問題なく完全収録できるのですが、CDというものが出始めた頃の技術では70分強が最長収録時間だったようです。

実は、僕が初めて聴いたTHE CUREのアルバムが本作なんです。意外と遅かったんですよね。たぶんラジオかMTVで「Why Can't I Be You?」(全英21位/全米54位)を聴いて気になって、友人に「THE CUREって知ってる?」と聞いたらこのアルバムをダビングしてくれた。そんなことをよく覚えています。

まあ、まずオープニングの「The Kiss」で驚くわけですよね。6分強あるこの曲、歌が入るのが4分近くになってからですから。それまで、ひたすら浮遊感の強いサイケデリック調のインストが続くわけですし、正直ハードル高いな……と思ったものです。

が、このアルバムにある世界観はぶっちゃけ嫌いじゃなかったし、むしろ好みでした。ロバート・スミスのボーカルもクセは強いものの、決して苦手ではなかったし、何よりも歌メロがキャッチーで入っていきやすい。あとになって「これがゴスっていうのかぁ」なんてわかったふりをしたり(苦笑)、まあとにかく、自分にとっていろんなとっかかりとなった1枚でもあります。

とにかく、「The Kiss」や「Snakepit」などのサイケデリックでドロドロした楽曲がありつつ、先の「Why Can't I Be You?」、「Just Like Heaven」(全英29位/全米40位)、「Catch」(全英27位)といったシングル曲や「Perfect Girl」といった親しみやすいポップチューンもある。かと思えば、ゴージャス感のある「Hey You!!!」やファンキーな「Hot Hot Hot!!!」(全英45位/全米68位)、のちのV系にも通ずる前のめりな「Shiver And Shake」もあったりと、収録されている楽曲の幅がとにかく広い。

これはあとになって気づくことですが、このアルバムがバンドにとって大きなターニングポイントになっているんですよね。ここでの解放が、続く原点回帰的な『DISINTEGRATION』(1989年)へと続くと。で、『KISS ME, KISS ME, KISS ME』はチャート的にも初めて大きな成功を得ることができ(全英6位のみならず、全米35位で初のトップ40も記録)、これが機になり次作でのミリオンヒットにつながるわけですから。そう思うと、自分のようなビギナーがひっかかったのも理解できる気がします。

ほかにも良いアルバムはたくさんあるものの、思い入れという意味ではいまだに本作が一番かもしれません。



▼THE CURE『KISS ME, KISS ME, KISS ME』
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2019年1月 3日 (木)

STING『...NOTHING LIKE THE SUN』(1987)

スティングが1987年秋に発表した、通算2作目のスタジオソロアルバム。本作からは「We'll Be Together」(全米7位/全英41位)、「Be Still My Beating Heart」(全米15位)、「Englishman In New York」(全米84位/全英51位)、「Fragile」(全英70位)、「They Dance Alone」(全英94位)などのシングルヒットが生まれ、アルバム自体も全米9位、全英1位という好成績に恵まれました。特に「We'll Be Together」「Englishman In New York」が当時ビールやビデオテープのCMソングに使用されたこともあり、日本のファンの間でも馴染み深いアルバムの1枚と言えるでしょう。

前作『THE DREAM OF THE BLUE TURTLES』(1985年)THE POLICE時代の恩恵もあり大ヒットを記録。そういう意味では続く今作でソロアーティストとしてのスティングの真価が問われるわけですが、そういった外野からの声を完全に無視するかのように、このアルバムではジャズを軸にした独自の世界観が展開されています。

アルバムのオープニングを飾る「The Lazarus Heart」のジャズやフュージョンを彷彿とさせるノリ、「Englishman In New York」でのレゲエとジャズをミックスしたテイストは、まさにスティングならではと言えるでしょう。また、「They Dance Alone」後半の展開や、ジミ・ヘンドリクスのカバー「Little Wing」に感じられるインプロ的緊張感は、本作に到るまでに彼が経験したソロツアーが大きく反映されているのではないでしょうか。

そういえば、本作は参加メンバーもそうそうたるもので、ルーベン・ブラデス(Vo, G)、ハイラム・ブロック(G)、エリック・クラプトン(G)、マーク・ノップラー(G)、アンディ・サマーズ(G)、マーク・イーガン(B)、ケンウッド・デナード(Dr)、マヌ・カチェ(Dr)、アンディ・ニューマーク(Dr)、ケニー・カークランド(Key)、ブランフォード・マルサリス(Sax)、ギル・エヴァンス(オーケストラ指揮)、GIL EVANS ORCHESTRAなど、ジャズやフュージョン、ブラックミュージック、ロックなどさまざまなジャンルからトップアーティストが勢揃い。ギル・エヴァンスが参加してるというのが、そもそもポップス/ロック界的には当時、相当衝撃的だったような記憶があります。

『THE DREAM OF THE BLUE TURTLES』と比較すると全体的に穏やかで、ロックやポップスのジャンルにおいてはかなり地味な部類に入る作品だと思います。事実、当時高校生だった自分にはかなり大人な内容で、正直すぐに気に入ったかと言われると微妙でしたし。が、中にはグッとくる楽曲も多かったですし、スティングが活動を重ねアルバムを重ねていくごとに、振り返ってこの作品を聴くと「これ、ものすごいアルバムなんじゃないか……」と少しずつ気づくという。そんな濃さと奥深さを持つ傑作のひとつだと思います。

ですが本作、実はかなり闇の深い1枚でもあります。本作の制作に向かう過程で、スティングは最愛の母親を亡くしています。また、ツアーで訪れた南米で触れた、現地の内戦などでの犠牲者たち……こういった出来事から受けた死生観が、歌詞に落とし込まれている。それがアルバム全体を多く「明るくなりきれない」空気につながっているのではないでしょうか。

また、本作は当時としては破格のフル・デジタル・レコーディング作品。そんな触れ込みもあって、当時のCDとしてはかなり音が良かった記憶が。もちろん、現在はもっと音の良い作品は山ほどあるので、今となってはどうってことのないトピックですが。



▼STING『...NOTHING LIKE THE SUN』
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2018年11月26日 (月)

GARY MOORE『WILD FRONTIER』(1987)

1987年3月にリリースされた、ゲイリー・ムーア通算6作目のスタジオアルバム。前作『RUN FOR COVER』(1985年)はゲイリーのほか、グレン・ヒューズ(B, Vo)、フィル・ライノット(B, Vo)とシンガーが3人混在する形で制作され、アルバムとしての内容は良かったものの統一性が若干薄いような印象を受けました。とはいえ、フィルとのデュエット曲「Out In The Fields」のヒットや、本作リリース後にフィルが急逝したこともあって、ファンの間では忘れられない1枚になったのもまた事実です。

そんな、多くのミュージシャンが参加した前作から一変、今作はゲイリーのほかニール・カーター(Key)、ボブ・デイズリー(B)という旧友たちの3人でスタジオ入り。ドラムトラックはすべて打ち込みで臨み、同郷のヒーローであったフィル・ライノットを追悼するかのように故郷・北アイルランドと向き合った、“ルーツ回帰”的な1枚に仕上がりました。

前作でのメロウさがより強まった本作は、そこにケルト民謡などアイリッシュであることのアイデンティティが加わることで、それまでの作品とは一風変わったスタイルが築き上げられています。オープニングの「Over The Hills And Far Away」のメインフレーズなんて、まさにそれですよね。続く「Wild Frontier」のギターフレーズもエモーショナルさが増し、より日本人の琴線に触れるものがあったのではないでしょうか。事実、僕もリリース当時この2曲を聴いて完全にノックアウトされたひとりですから。

コージー・パウエルのアルバムに収録されていた「The Loner」のカバーでは、ゲイリーの濃厚なギタープレイを思う存分堪能できますし、EASYBEATSのカバー「Friday On My Mind」は本作の中でも比較的ポップな作風でちょっと浮いてる感があるものの、これはこれとして楽しめるのではないでしょうか。

ケルティックなカラーを内包しつつもエネルギッシュなハードロックが展開される「Thunder Rising」、「Out In The Fields」の流れを汲むアップチューン「Take A Little Time」といったメタリックな楽曲もありつつ、アルバムを締めくくるのは「Over The Hills And Far Away」とともにこのアルバムを象徴するようなスローナンバー「Johnny Boy」。これまでのゲイリーの作風を考えると異色であることは間違いないのですが、アーティストとしてここで再スタートを切れた……そういう受け取り方もできるのではないでしょうか。ここからブルース路線へと傾倒していくことを考えると、その起点は間違いなく本作だったと言うことができるはずです。

とはいえ、この名盤中の名盤にも欠点があります。それは、1曲1曲の録音レベル(音圧)がバラバラなこと。「Over The Hills And Far Away」や「Thunder Rising」の音圧の低さといったら……そこだけが残念でなりません。

なお、本作は何度かの再発を経て、現行のCDには「Over The Hills And Far Away」や「Wild Frontier」の12インチバージョンも追加収録。これらでは、原曲にはないギタープレイも含まれているので必聴かと。かつ、本作リリース当時に本田美奈子に提供した「the Cross -愛の十字架-」のセルフカバー「Crying In The Shadows」も収録されており、ゲイリーらしい泣きメロを楽しめるはず。本田美奈子バージョンと聴き比べてみるのもよいかと。

ちなみに本作、イギリスでは初のTOP10入り(最高8位)を記録。シングルも「Over The Hills And Far Away」(全英20位)を筆頭に、「Wild Frontier」(同35位)、「Friday On My Mind」(同26位)、「The Loner」(同53位)、「Take A Little Time」(同75位)と計5曲のヒットが生まれており、名実ともに代表作と言える1枚ではないかと思います。



▼GARY MOORE『WILD FRONTIER』
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2018年8月22日 (水)

CHUCK BERRY『HAIL! HAIL! ROCK'N'ROLL』(1987)

1987年に制作・公開されたライブ/ドキュメンタリー映画『ヘイル!ヘイル!ロックンロール』のサウンドトラック的ポジションにあたる、チャック・ベリーのライブアルバム。ちゃんと音源を聴いたことがない人でも、チャック・ベリー=「Johnny B. Goode」の人、という構図は自然と浮かんでくるはず。僕もそのひとりで、さらに「ビートルズストーンズが初期にカバーした人」といった程度の知識で、実はこのアルバムを通して初めてチャック・ベリーという人にちゃんと触れ、映画(というかビデオ)で初めて動く姿を目にしたのでした。

この映画は、チャック60歳の誕生日をお祝いするライブイベントを、彼を敬愛するキース・リチャーズがプロデュースしていく流れが収められたもので、さてどんなレジェンドの一挙手一投足が見られるのか、と楽しみにしていると……その期待が木っ端微塵に打ち砕かれます。

なんだよ、ただの偏屈ジジイじゃねえか、と(笑)。

リハーサルにもちゃんと参加しない、キースがうまく進めようとするといちゃもんをつけるチャックの姿は、ダックウォークでギターをプレイする伝説的な姿とは真逆にあるもので、チャックの前ではあのキースも子供に見えてしまうのですから、本当に面白いものです。ぜひアルバムと同時に、この映画のほうもチェックしていただきたいです。良くも悪くも、ロック史に残る名ドキュメント作品ですので。

ですが、そんなチャックもライブ本番はきっちりこなすわけです。この、良い意味でのテキトーさが、長きにわたり愛され続けた所以……とは思いたくないですが、アルバムで聴けるロッククラシックの数々と、そのチャックを支えるキースを中心としたバンドたち(ドラムにスティーヴ・ジョーダン、キーボードにチャック・リーヴェルという布陣はアレサ・フランクリンのときと同じ)に加え、ゲストプレイヤーとしてエリック・クラプトン、ロバート・クレイ、ゲストボーカルでエタ・ジェイムズ、ジュリアン・レノン、リンダ・ロンシュタットが参加。リンダ・ロンシュタットの力強い歌声や、クラプトンらしいブルージーなギタープレイ、さらには父親ジョン・レノンそっくりな歌声で「Johnny B. Goode」を歌うジュリアンなど、聴きどころ満載です。

チャック・ベリーってどれから聴けばいいの?とお悩みのあなた。遺作となった『CHUCK』(2017年)でもベストアルバムでもいいですが、僕は単なる映画のサントラでは終わらない、ここでしか聴けない豪華なコラボ&名演が詰まった本作をオススメしたいと思います。後半の名リフ連発っぷりは、ただただアガりっぱなしですから。



▼CHUCK BERRY『HAIL! HAIL! ROCK'N'ROLL』
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2018年8月17日 (金)

NIGHT RANGER『BIG LIFE』(1987)

1987年春にリリースされたNIGHT RANGERの4thアルバム。前々作『MIDNIGHT MADNESS』(1983年)のミリオンヒットおよび「Sister Christian」(全米5位)や「When You Close Your Eyes」(全米14位)のシングルヒット、続く前作『7 WISHES』(1985年)のトップ10入り(全米10位)および「Sentimental Street」(全米8位)、「Four In The Morning」(全米19位)、「Goodbye」(全米17位)といったバラードシングルのヒットで、“産業ロック”やら“バラードバンド”やら揶揄され続けた彼ら。そんな彼らが「俺たちはれっきとしたロックバンド。次はハードにキメる!」と宣言してから制作に向かったのが本作『BIG LIFE』でした。

前3作を担当したパット・グラッサーから、全盛期のJOURNEYEUROPE『THE FINAL COUNTDOWN』(1986年)、のちにMR. BIGの諸作品を手がけるケヴィン・エルソンにプロデューサーを交替。さらに映画『摩天楼はバラ色に(原題:THE SECRET OF MY SUCCESS)』のサウンドトラックに提供した同タイトル曲「The Secret Of My Success」のみ、CHICAGOなどで知られるデヴィッド・フォスターとの共作&プロデュースで完成させた本作は、確かに“バラードバンド”の汚名を払拭させるくらい、ドラマチックでトータルバランスの取れたハードロックアルバムに仕上がっています。

が、そこまでハードなのか?と問われると、答えに困ってしまうのも事実。オープニングを飾る「Big Life」や続く「Color Of Your Smile」の持つ激しさからは確かにハードロックバンドらしさが感じられますが、と同時にやはり彼らはメロディアスでポップが信条のバンドであることも浮き彫りになっており、そこは生まれ持った性なのかな、消しようがないのかなと。けど、それこそが彼ら最大の個性にして魅力なのだから、ねえ。

そういった意味では、先にも書いたように本当にバランス感に優れているのですよ。正直、大ヒットした過去2作よりもそのバランス感は高いと思いますし、個々の楽曲も非常に考えて作り込まれたものばかり。バラードタイプの楽曲にしても、これまでのシングルヒットやラジオヒットを狙ったキャッチーでコンパクトなものから、「Rain Comes Chrashing Down」や「Hearts Away」みたいにハードロック特有のドラマ性を意識して制作されたものへとシフトチェンジ。それがこのアルバムに合っているんですよね。だからこそ嫌いになれないし、意外と聴く頻度の高い1枚だったりします。

シンセの使い方などに時代を感じるものの、ハードさ/ポップさのバランス感は随一。HR/HMとAORの良いとこ取りみたいな楽曲も多く、それでいて1987年というUS HR/HMブーム元年らしさも存在する。残念ながら全米28位でゴールドディスク(50万枚)と前作、前々作には及ばず、シングルも「The Secret Of My Success」の全米64位と「Hearts Away」の全米90位とヒットに恵まれず、本作をもってアラン・フィッツジェラルド(Key)はバンドを脱退してしまうのでした。



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