カテゴリー「1988年の作品」の71件の記事

2023年1月 2日 (月)

DURAN DURAN『BIG THING』(1988)

1988年10月18日にリリースされたDURAN DURANの5thアルバム。日本盤は同年10月16日発売。

ロジャー・テイラー(Dr)、アイディ・テイラー(G)が相次いで脱退し、サイモン・ル・ボン(Vo)、ジョン・テイラー(B)、ニック・ローズ(Key)の3人体制で発表した前作『NOTORIOUS』(1986年)から約2年ぶりの新作。ナイル・ロジャース(マドンナデヴィッド・ボウイミック・ジャガーなど)を全面的に起用してファンクロックに接近した前作から一転、今作では初期のシンセポップに当時流行していたハウスミュージックのテイストをミックスしたモダンな作風へとシフトしています。

もともとニューウェイヴの流れからハウスへと移行するアーティストは当時少なくなかったですし、彼らもその流行に沿ったと捉えるのが正しいのかもしれません。が、流行りとはいえこのテイストが彼らの下世話なポップ感と妙にマッチし、結果として「I Don't Want Your Love」(全米4位/全英14位)や「All She Wants Is」(全米22位/全英9位)というヒットにつなげることに成功しています。アルバム自体も全米24位(ゴールドディスク獲得)、全英15位とそれなりの数字を残しますが、セールス的には若干落とす結果に。ただ、日本では初の東京ドーム公演を実現させ、人気的には黄金期終盤に差し掛かることになります。

固定ドラマーがいないからこそ、すべての曲で生ドラムを使用する必要がないわけですが、レコーディングでは生ドラムと打ち込みをうまいことミックスすることで人工的な味わいを強めている。スティーヴ・フェローンやスターリング・キャンベルといったドラマーをレコーディングに迎え、ギタリストに関してはフランク・ザッパ門下生のウォーレン・ククロロを中心に、一部楽曲でチェスター・ケイメンもプレイ。このレコーディングでの手応えもあって、本作収録曲のMVにはウォーレンが参加し、のちにスターリングとともにバンドの正式メンバーとして迎えられます。

スタジアムロック調のヘヴィなミドルナンバー「Big Thing」からスタートするオープニングは、過去の彼らのアルバムからすると異色に聞こえますが、「I Don't Want Your Love」「All She Wants Is」といったポップな楽曲、穏やかなソウルチューン「Too Late Marlene」、前作の流れを汲むファンキーな「Drug (It's Just A State Of Mind)」が続くことで、従来のリスナーを安心させます。ハウス風味が強いこともあってか、比較的地味めだった前作をさらに渋くさせたテイストは、初期の派手な路線とは相反するものかもしれません。事実、リリース当時はその内容から否定的な声も少なくなかったですしね。

90年代の彼らにも通ずるダーク&ムーディな「Do You Believe In Shame?」(全米72位/全英30位)から始まる後半は、続く「Palomino」でさらにダークなムードを強めていきます。そして2つのインタールードに挟まれた6分調の「Land」もその傾向は強く、本作が地味と評される所以を強めていくことに。結局、その後も「The Edge Of America」「Lake Shore Driving」で前半のような路線に復調することなく、アルバムはダウナーな空気のまま幕を下ろします。

前半で前作の路線を引き継ぎながら良い感じでハウス路線をミックスさせ、後半ではアシッドテイストをどんどん強めてダウナー路線を強く打ち出す。ある意味実験的な作風ではありますが、これはバンドとして長生きするための新たな活路を見出すための試行錯誤のひとつだった……今ならそう解釈できるのではないでしょうか。

 


▼DURAN DURAN『BIG THING』
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2022年12月 4日 (日)

KISSのベストアルバムを総括する(2022年版)

ブライアン・アダムスAEROSMITHに続く「ベストアルバムを総括する」シリーズ第3弾(シリーズだったのか……)はKISS。まあとにかくベスト盤やコンピ盤、ボックスセットが多い方々ですが、今回は数あるベスト盤の中からレーベル主導で制作された『MILLENNIUM COLLECTION』シリーズを除く、バンド側の公式リリースに絞ってセレクトしております。中には新曲やレアトラックなど含まないもの、現在廃盤でサブスクでも配信されていないものも含まれていますが、あえて掲載してみます。

とにかく非常に長いエントリーなので、心してお読みください……(苦笑)。

 

 

『DOUBLE PLATINUM』(1978)

 

1978年4月2日にリリースされたKISS初のグレイテストヒッツアルバム。アナログ2枚組、CD1枚もの。

リリース当時のメンバーはポール・スタンレー(Vo, G)、ジーン・シモンズ(Vo, B)、エース・フレーリー(G, Vo)、ピーター・クリス(Dr, Vo)のオリジナル編成。新曲こそ皆無ですが、既存楽曲に加え「Strutter」のリテイクバージョン「Strutter '78」やリミックステイクなどが豊富。サブスクではApple Musicはフルで楽しめますが、Spotifyでは「Calling Dr. Love」と「Black Diamond」が歯抜け状態。Amazon Musicでは配信すらされていないようなので、どうにかしていただきたいものです。

詳しくはこちらのエントリーを参照のこと。

 


▼KISS『DOUBLE PLATINUM』
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『KILLERS』(1982)

 

1982年6月15日にリリースされた、KISSにとって2作目の公式コンピレーションアルバム。アナログ/CDともに1枚もの。

当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、エース・フレーリー、エリック・カー(Dr, Vo)。日本やオーストラリアなどアメリカ以外の諸国で先行発売。当時はここでしか聴くことができなかった新曲4曲(「I'm A Legend Tonight」「Down On Your Knees」「Nowhere To Run」「Partners In Crime」)がかなり話題となりました。ジャケットにエースの姿はあるものの、当時はすでにバンドから脱退しており、新曲のレコーディングにはのちにバンドに加入するブルース・キューリック(G)の実兄ボブ・キューリック(G)がリードギターとして参加しています。

詳しくはこちらのエントリーを参照ください。

 


▼KISS『KILLERS』
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『CHIKARA』(1988)

 

1988年5月25日に日本限定でリリースされたコンピレーションアルバム。CD1枚もの。

当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、ブルース・キューリック、エリック・カー。この年の春に10年ぶり(ノンメイクアップ時代としては初めて)の来日公演が決定したことを受け、それにあわせて日本のみ10万枚限定で制作されたレアアイテム。今となっては10万枚も刷ったのか!って驚きですけどね。内容は「Rock And Roll All Nite」や「Love Gun」などの70年代ヒットよりも、「Creatures Of The Night」や「Lick It Up」「Heaven's On Fire」「Tears Are Falling」などの80'sヘアメタル期が中心。主にシングルカット/MV制作された楽曲が中心で、そんな中に「I Was Made For Lovin' You」のリミックスバージョンという初CD化レア音源が含まれているのが売りかな(のちに「Psycho Circus」シングルのカップリングで世界的にCD化されました)。

枚数限定生産ということで、現在は廃盤。ただ、中古盤ショップを回れば意外と簡単に見つけられるはず。値段もそこまで張っていないので(Amazonは論外!)、気になる方はぜひチェックしてみてください。

 


▼KISS『CHIKARA』
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『SMASHES, THRASHES & HITS』(1988)

 

1988年11月15日にリリースされた、KISSにとって3作目の公式コンピレーションアルバム。CD1枚もの。

当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、ブルース・キューリック、エリック・カー。日本では『CHIKARA』から間を空けずに発表されることになりましたが、『KILLERS』未発売だった北米などの海外諸国では『DOUBLE PLATINUM』以来10年ぶりのベスト盤。考えてみたら「I Was Made For Lovin' You」はもちろん、80年代の楽曲をまとめたコンピが10年も出ていなかった事実に驚かされます。

内容は「Let's Put The X In Sex」「(You Make Me) Rock Hard」の新曲2曲や、一部楽曲のリミックス、そしてエリック・カーが歌唱した「Beth」など、単なるベスト盤では片付けられない楽曲が多数。北米盤ではなぜか直近の新作『CRAZY NIGHTS』(1987年)からの楽曲が含まれていません(ヨーロッパ盤には「Crazy Crazy Nights」「Reason To Live」収録)。とはいえ、ヘアメタル期のヒットシングルが簡単におさらいできるので、実はもっとも手軽に楽しめる入門盤かもしれません。

詳しくはこちらのエントリーを参照ください。

 


▼KISS『SMASHES, THRASHES & HITS』
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『GREATEST KISS』(1997)

 

1997年4月8日にリリースされたKISSの公式コンピレーションアルバム第4弾。日本盤は1997年1月の来日公演にあわせて、1996年12月9日発売。CD1枚もの。

リリース当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、エース・フレーリー、ピーター・クリス(Dr, Vo)。オリジナル編成およびメイクアップ期へと回帰した彼らのワールドツアーにあわせて制作されたもので、北米、ヨーロッパ、日本とそれぞれ収録曲が一部異なるのが特徴。

これまでのコンピのように新曲やリミックス曲は皆無で、既発曲がリマスタリングされている程度。ただ、それだけでは売りがなさすぎるので、1996年6月28日のデトロイト公演から「Shout It Out Loud」のライブ音源を追加。こちらは当時MVも制作されています。

オリメン時代にこだわった選曲なので、『SMASHES, THRASHES & HITS』以降に生まれたヒット曲「Hide Your Heart」「Forever」「Unholy」などは未収録。ただ、北米盤以外では「God Gave Rock 'N' Roll To You II」が選出されているのが謎かも。なお、日本盤のみ海外盤未収録の「C'mon And Love Me」「Rock Bottom」がセレクトされております。このへん、いかにもですね。

サブスクでも聴くことができますが、Apple Musicでは日本盤バージョンで配信、Spotifyはヨーロッパバージョンでの配信のようです。

 


▼KISS『GREATEST KISS』
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2022年10月29日 (土)

STRYPER『IN GOD WE TRUST』(1988)

1988年6月28日にリリースされたSTRYPERの3rdフルアルバム。日本盤は同年7月10日発売。

「Honestly」のシングルヒット(全米23位)も手伝い、アルバム自体も最高32位/100万枚突破という好成績を残した前作『TO HELL WITH THE DEVIL』(1986年)から約1年8ヶ月ぶりの新作。バンドとの共同プロデューサーとしてポップス系のマイケル・ロイド(ベリンダ・カーライル、THE MONKEES、エリック・カルメンなど)を迎えた、ソフトサイドが強調された1枚に仕上がっています。

アルバム冒頭を飾る疾走メタルチューン「In God We Trust」や「The Writing On The Wall」、オズ・フォックス(G)が手がけたファストナンバー「The Reign」など攻撃的な楽曲も用意されているものの、本作の軸となっているのはリードシングル「Always There For You」はメロウなスローバラード「I Believe In You」などのメロディアスで親しみやすいポップナンバー。「Honestly」のヒットを受け、レーベル側からのテコ入れがあったのではないかと察します(プロデューサーの人選にもその思惑が見え隠れしますし)。

ミックス自体もマイケル・ロイドが関わっているためか、本作におけるドラムサウンドの軽さは当時から疑問視されてきました。特にスネアの軽さはメタルとは程遠いもので、「Always There For You」のような楽曲にはフィットするものの、「In God We Trust」みたいなメタル寄りの楽曲には難が生じてしまう。現在市場に出回っているCDやサブスクで耳にすることができる音源は、おそらくリマスタリングが施されたものだとは思うのですが、1988年の初出時と比べたらいくらかドラムの質感が調整されているようで、昔聴いていたときよりも聴きやすいバランスになっている印象を受けました。

ただ、それでも「It's Up 2 U」みたいなメタルバラード(パワーバラード)になると、ポップス調の「I Believe In You」ほどの調和は感じられない。楽曲スタイルにより一長一短のあるミックスかもしれませんね。

先の疾走チューン以外は全体的に似通ったトーンで統一された楽曲たちは、「Always There For You」以外はそれほど突出した印象が感じられず。「Keep The Fire Burning」あたりはいい線いってますが、無駄にキラキラした「Come To The Everlife」(ピコピコしたシンセの影響もあるんでしょうね)あたりには「ん?」と感じてしまうかも。あと、バラードタイプの楽曲が多いのも本作の特徴で、これもレーベルが“「Honestly」の二番煎じ”を狙わせた結果なのでしょうか。ただ、上に挙げた「I Believe In You」や「It's Up 2 U」よりも哀愁味の強い泣きのバラード「Lonely」が、予想外によい出来なんですよね。個人的にはシングル曲以外だと、タイトルトラックとこの曲、そしてラストの「The Reign」のために聴くといった印象かな。

激しさと優しさ、両サイドに振り切った曲はそれぞれよいものの、アルバムとしてはそれらをつなぐミディアムテンポのハード&メロウな楽曲(前作でいうところの「Free」のような曲)が存在しないことで、全体的にまとまりのない仕上がりになってしまった印象。ミックス的な欠点もあり、いろいろな意味で勿体ない1枚です。

……とはいえ、個人的には本作を携えて行われた日本武道館公演(1989年3月かな)に足を運び、初めて彼らを生で目撃できたという点で、忘れられない1枚なんですけどね。

 


▼STRYPER『IN GOD WE TRUST』
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2022年4月12日 (火)

AEROSMITHのベストアルバムを総括する(2024年改訂版)

先日ブライアン・アダムスで試してみた、いちアーティストの公式ベストアルバム/コンピレーションアルバムをひとつのエントリーの中で総括する記事AEROSMITH版です。

AEROSMITHは1973年のデビュー以降、Columbia Records(1973〜1984)→Geffen Records(1985〜1997)→Columbia(1997〜2021)→Universal(2021〜)と移籍を繰り返してきましたが、現在は全カタログの権利をUniversalが取得したことで、今後Columbia/Sony時代の音源もUniversalからフィジカル再発/デジタル配信されることになりそうです。

そういった意味では、ここに記す代表的なコンピレーションアルバムのいくつかは今後、姿を消すことになるかもしれません。それでもこの機会に改めて、ひとつの記録として記事を残しておくのはアリかなと思い、今回の執筆に至りました。

選出したベストアルバムは、レーベル主導によるシリーズ企画(Universalの『THE MILLENNIUM COLLECION』など)を除く、新曲やレア曲などを含む9 10作品。中には廃盤になっていたりサブスクで聴けないものも含まれていますが、ご了承ください。また、すでに単独エントリーで公開済みの作品もありますが、その場合は該当記事のリンクを貼っておきますのでご参考ください。(※2024年8月5日、新たに2023年発売の『GREATEST HITS』を追加した改訂版となります)

 

 

『AEROSMITH'S GREATEST HITS』(1980)

 

1980年11月にリリースされた、バンド初のベストアルバム。

そのタイトルどおり、収録内容はシングル曲を中心にしたもので、アナログ時代ということで全10曲/約38分というコンパクトな内容でまとめられています。また、構成的にもリリース順に並べられているので、いきなり「Dream On」から始まるという曲順はロックバンド的にどうなのかな?という疑問も残ります。

収録曲のうち、「Same Old Song And Dance」「Sweet Emotion」「Kings And Queens」はイントロを短くした“シングル・エディット”バージョンで収録。「Walk This Way」もアルバムバージョンより10秒近く短い形にエディットされています。オリジナルバージョンに勝るものはありませんが、本作リリース当時は70年代の代表的シングル曲をひとまとめに楽しめるアルバムとして、非常に重宝されましたし、80年代後半の本格的復帰以降も『PERMANENT VACATION』(1987年)『PUMP』(1989年)とともにこのアルバムを愛聴したファンは少なくなかったはずです(注:Apple Musicなど一部ストリーミング配信版は各シングルエディットがアルバムバージョンに差し替えられているのでご注意を)。

また、映画サントラに提供したビートルズのカバー「Come Together」が収録されている点も注目ポイントかな。『LIVE! BOOTLEG』(1978年)ではライブバージョンを先に聴くことができましたが、スタジオテイクがエアロのアルバムに収録されるのはこれが初めて。そこも本作が長く愛された要因のひとつかなと。

なお、本作がリリースされた頃にはすでにバンドの人気も低迷期に突入しており、チャート的には大きな成功を収めることはありませんでしたが、そこから数年後の再ブレイクも手伝い、セールス的には現在までに1000万枚を超えるメガヒット作となっています。

 


▼AEROSMITH『AEROSMITH'S GREATEST HITS』
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『GEMS』(1988)

 

1988年11月にリリースされたAEROSMITHのコンピレーションアルバム。

『PERMANENT VACATION』(1987年)の大ヒットを受けて、前レーベルのColumbia Recordsが企画したコンピ版で、シングル曲中心でまとめられた前作『AEROSMITH'S GREATEST HITS』と比べるとその内容はかなり地味なもの。ただ、ライブで演奏される機会の多い「Mama Kin」や「Lord Of The Thighs」「Train Kept A-Rollin'」なども含まれていることから、“裏ベスト”的側面の強い1枚かなと。

本作最大の注目ポイントは、『LIVE! BOOTLEG』(1978年)のみで聴くことができた「Chip Away The Stone」の未発表スタジオテイクが収録されていること。この1曲のために当時本作を購入したというファンも少なくなかったはずです。実際、この曲は本作からシングルカットもされ(既存ライブ映像を使用したMVも制作)、ラジオヒットも記録しています。

今のようにサブクスやYouTubeも存在せず、過去のスタジオアルバムにまで手を出せなかった当時の中高生には本作に収録された「Rats In The Celler」や「Nobody's Fault」「Round And Round」「Jailbait」などはかなりカッコよく響いたものです。ここから『ROCKS』(1976年)『TOYS IN THE ATTIC』(1975年)にも手を伸ばしていったビギナーは80年代後半、かなりの数存在していたはずですから。

コアなファンの中には、先述の『AEROSMITH'S GREATEST HITS』より本作のほうが好きという方も、意外と多かったりして。かくいう僕も本作、大好物ですからね。

 


▼AEROSMITH『GEMS』
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2022年3月 1日 (火)

SCORPIONS『SAVAGE AMUSEMENT』(1988)

1988年4月18日にリリースされたSCORPIOSの10thアルバム。日本盤は同年5月25日発売。

キャリア2作目のライブアルバム『WORLD WIDE LIVE』(1985年)を挟み、前作『LOVE AT FIRST STING』(1984年)から約4年ぶりに発表されたスタジオアルバム。前作が全米6位(セールス300万枚超え)を記録、さらに「Rock You Like A Hurricane」(全米25位)、「Still Loving You」(同64位)というヒットシングルも生まれ、アメリカでの本格的大成功を収めたことで、続く今作もさらに北米向けのサウンドメイキングが進むことになります。

プロデュース&ミックスは3作目『IN TRANCE』(1975年)から引き続きディーター・ダークス(ACCEPTTWISTED SISTER、BLACK 'N BLUEなど)が担当しているものの、一部楽曲(シングルカットされた「Rhythm Of Love」「Believe In Love」ではマイク・シプリー(DEF LEPPARDTHE CARSCHEAP TRICKなど)がミックスを手がけています。音の質感的には前作の延長線上にある、アメリカでのヒットを意識したビッグプロダクションなのですが、本作ではその傾向がさらに激化。中でもゲートリバーブを強めにかけた独特のドラムサウンドが特徴的で、古くからのファンには賛否分かれるものがあるのではないでしょうか。

楽曲の方向性も前作までに存在した湿り気の強いメロディの楽曲が減退し、ドラマチックで派手なスタイルを特化させたものが複数存在。序盤4曲(Don't Stop At The Top」「Rhythm Of Love」「Passion Rules The Game」「Media Overkill」)でのミドルテンポを中心とした作風も、明らかに前作での「Rock You Like A Hurricane」のヒットを受けてという印象が強い。また、「Media Overkill」ではトーキングモジュレーター(マウスワウ)を用いたギタープレイも採用されており、このへんは直近の大ヒット曲であるBON JOVI「Livin' On A Prayer」の二番煎じも否めない。良くも悪くもアメリカでのヒットに振り回された作風というのが、本作の評価かもしれません。

また、本作は全9曲中バラードが2曲(「Walking On The Edge」「Believe In Love」)というバランス感も特徴的で、前者はマイナーキーを用いた従来の路線に近いもので、後者はメジャーキーのパワーバラードといった印象。シングルカットもされた「Believe In Love」は明らかにアメリカ向けに書かれたものではあるものの、ここでの経験が次作『CRAZY WORLD』(1990年)での「Wind Of Change」につながったと考えると、興味深いものがあるのではないでしょうか。

そんな賛否両論ある本作ですが、アルバム後半には「We Let It Rock... You Let It Rol」や「Love On The Run」といった攻撃的なメタルチューンも用意されており、中でも「Love On The Run」の疾走感は今聴いてもたまらないカッコよさがあります。ここに「We Let It Rock... You Let It Rol」と「Love On The Run」の中間にあるロックンロール調のアップチューンがもうひとつ用意され、かつ曲順をさらに吟味していればさらに良い作品として受け入れられていたのでないか……と思うのですが、いかがでしょう?

個人的にはリアルタイムで初めて触れたSCORPIONSの新作がこれなので、内容はともかく思い入れは一際強い作品かもしれません(『LOVE AT FIRST STING』はちょっとだけ後追いだったので)。実際、当時は「Rhythm Of Love」を筆頭にアルバム冒頭の3曲はかなりリピートした記憶がありますしね。

なお、本作の現行盤(バンド結成50周年を記念して2015年に制作されたバージョン)には本作制作時のアウトテイク(すべてデモ音源)が複数用意されているほか、チャリティアルバム『STAIRWAY TO HEAVEN / HIGHWAY TO HELL』(1989年)およびバンドのコンピレーションアルバム『BEST OF ROCKERS 'N' BALLADS』(1989年)のために制作されたTHE WHOのカバー「I Can't Explain」が追加収録されています。このカバーでブルース・フェアバーン(BON JOVI、AEROSMITHAC/DCなど)と初共演しており、これが続く『CRAZY WORLD』への布石となり、90年代へと向けた新たなステップにつながっていくわけです。

 


▼SCORPIONS『SAVAGE AMUSEMENT』
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2021年11月24日 (水)

KISS『SMASHES, THRASHES & HITS』(1988)

1988年11月15日にリリースされたKISS通算3作目のコンピレーションアルバム。日本盤は海外から少し遅れ、翌1989年1月25日発売。

公式コンピレーションアルバムとしては『KILLERS』(1982年)以来7年ぶりですが、同作は本国アメリカでは未発売だったこともあり、アメリカでは『DOUBLE PLATINUM』(1978年)以来10年ぶりのベスト盤ということになります。また、日本では1988年5月に来日記念盤として10万枚限定でリリースされた日本限定ベスト盤『CHIKARA』というベスト盤も存在。こちらは80年代の楽曲中心のレアアイテムとなっています(現在は中古屋にて安価で入手可能かと)。

さて、今作の注目ポイントはポール・スタンレー(Vo, G)主導の新曲2曲と、エリック・カー(Dr, Vo)が初めてリードボーカルを担当した「Beth」(もともとはピーター・クリス歌唱曲)、そして70年代〜80年代初頭の楽曲に新たなリミックスが施されている点でしょうか。全15曲で約52分というコンパクトさもあり、かつグラムメタル期の楽曲も複数含まれていることから、80年代のKISSをリアルで感じられる1枚と言えるでしょう。

「Let's Put The X In Sex」「(You Make Me) Rock Hard」の新曲2曲はどちらもポール歌唱曲で、ソングライティングにはポール&デズモンド・チャイルド(後者のみダイアン・ウォーレンも)が関わっています。陽気な前者とマイナーキーの後者、どちらも“KISSのポール・スタンレー”のパブリックイメージどおりの仕上がりで、ヘアメタル期の彼らの平均的な楽曲と言えるでしょう。

また、リミックスバージョンは『DOUBLE PLATINUM』の延長にあるような仕掛けが用意されているものもあり、「Love Gun」なんて終盤のポールのシャウトがカットされてストリングスが強調されていたり、「Shout It Out Loud」のエンディングがカットアウトだったり、「Deuce」など初期曲のドラムに変なリミックスが施されていたり、「Rock And Roll All Nite」なんて別モノ感半端なかったりと、ベスト盤というよりはお遊びの過ぎる魔改造アルバムといったところでしょうか(笑)。

そして、エリック・カーが歌う「Beth」……エリックの歌声はここで初めて耳にするわけですが、本家ピーターとは異なる繊細さが伝わり、この甘さはこれで良しといったところ。僕は嫌いじゃないです。

ちなみにこのベストアルバム。北米および日本盤には直近の最新オリジナルアルバム『CRAZY NIGHTS』(1987年)からのヒット曲が皆無。さすがに「Crazy Crazy Nights」くらいは入れてほしかった……ところが、本作のUK盤は収録内容が一部異なり、「Deuce」がカットされ代わりに「Crazy Crazy Nights」と「Reason To Live」の最新ヒット2曲を追加した全16曲入り(北米・日本盤は全15曲)。特に「Crazy Crazy Nights」はイギリスで4位という好記録を残していますし、入れない理由はないですものね。

なお、ストリーミングサービスで配信されているバージョンですが、Apple Musicは北米・日本バージョン、SpotifyはUKバージョンとそれぞれ異なるのでご注意を。

 


▼KISS『SMASHES, THRASHES & HITS』
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2021年2月28日 (日)

ROD STEWART『OUT OF ORDER』(1988)

1988年5月23日にリリースされた、ロッド・スチュワートの15thアルバム。日本盤は同年6月25日発売。

80年代のロッドは全米TOP10入りするヒットシングルはいくつか存在していたものの、アルバムとしては(70年代のヒット作と比較して)どこか印象が薄いものばかり。そんな彼が起死回生を狙ってパートナーに選んだのが、当時THE POWER STATIONでの大躍進を経てDURAN DURAN脱退〜ソロ活動を開始したばかりのアンディ・テイラーでした。

アルバム収録曲の多くをアンディと一緒に書き、さらにアンディはギタリスト&プロデューサーとしてもアルバムに参加。そのアンディとの関係もあり、プロデューサーにはCHICのバーナード・エドワーズも名を連ね、レコーディングにはバーナード(B)&トニー・トンプソン(Dr)のCHIC/THE POWER STATION組もプレイに加わっています。

すべての楽曲で彼らがプレイしているわけではありませんが(このほか、ギターではマイケル・ランドゥー、デヴィッド・リンドレー、ジム・クリーガンら、ベースにボブ・グラウブ、ドラムにBABYSのトニー・ブロックなどが参加)、ロッド&アンディが表現したかったことはわかりやすい形で表現された、クオリティの高いポップロック作に仕上がっています。全体的にはTHE POWER STATIONの1作目というよりは、それ以降のアンディのソロや彼がプロデュースするTHUNDERTHE ALMIGHTYの諸作品をもっと落ち着いた作風にまとめた感じといいましょうか。ドラムのパワフルさからは、そういった作品との共通点を見つけられるはずです。

アンディも数曲でギターソロを披露していますが、あくまで主役はかのロッド・スチュワート。ロバート・パーマーと同じやり方では通用しないことがわかってか、ボーカルを立てた若干引き気味のミックスでギターを(それなりに)弾きまくっています。ちょうど自身のソロ作『THUNDER』(1987年)でやりたい放題したあとなだけに、この抑え方には思わずクスっとしてしまうものもあります。

まあとにかく、どの曲もよく練り込まれた“時代を感じさせるもの”ばかりで、「Lost In You」(全英21位/全米12位)、「Forever Young」(全英57位/全米12位)、「My Heart Can't Tell You No」(全英49位/全米4位)、「Crazy About Her」(全米11位)など年またぎでヒットシングルが連発。さらにこのあと、ベストアルバムからの「This Old Heart Of Mine」(全英51位/全米10位)、「Downtown Train」(全英10位/全米3位)のヒットも続き、アルバム自体も全英11位/全米20位の好成績を記録。数字的には中途半端に見えますが、セールス面ではアメリカのみで200万枚を超えるヒット作となっており、10年ぶりのマルチプラチナムを達成しています。

ロッドのソロ作といえば、FACES以降の70年代のソロ作に注目が集まり気味ですが、このへんのAOR的ポップロックも意外と悪くないんですよ。特に本作に関してはTHE POWER STATION界隈のメンバーが勢揃いしていますしね。同時期、かのロバート・パーマーは独自のミクスチャーロック/ポップを追求した『HEAVY NOVA』(1988年)を制作していますし、そのへんを踏まえて聴くとまた違った見え方がするのではないでしょうか。

本サイトでロッドの作品ってほぼ取り上げてこなかったので、これを機に今後も忘れた頃に紹介していこうと思います。

 


▼ROD STEWART『OUT OF ORDER』
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2021年2月26日 (金)

ROBERT PALMER『HEAVY NOVA』(1988)

1988年6月22日にリリースされたロバート・パーマーの9thアルバム。日本盤は同年6月24日に発売。

DURAN DURANアンディ・テイラー(当時)&ジョン・テイラー、CHICのトニー・トンプソンで結成したTHE POWER STATIONのアルバム『THE POWER STATION』(1985年)を経て発表されたソロ8thアルバム『RIPTIDE』(1985年)の大ヒット(全米8位/全英5位)と、同作からの「Addicted To Love」(全米1位/全英5位)、「I Didn't Mean To Turn You On」(全米2位/全英9位)などのシングルヒットを経て届けられた、2年半ぶりの新作。前作は『THE POWER STATION』からの流れでバーナード・エドワーズ(CHIC)がプロデュースを担当しましたが、今作ではロバートのセルフプロデュース作となっています。

タイトルの『HEAVY NOVA』はヘヴィメタルとボサノヴァをミックスした造語。前作でのシングル曲がハードロック色の強い楽曲だったこともあり、また彼自身が元来持ち合わせているR&Bやソウルなどのテイスト(本作では特にボサノヴァに特化)もそこに織り混ぜることで、彼ならではのミクスチャーロック/ポップスがここで確立されることになります。

アルバムのオープニングを飾る「Simply Irresistible」(全米2位/全英44位)は、「Addicted To Love」をより派手にバージョンアップさせたような豪快ハードロック。MVも完全にその流れにある作風ですしね。曲中に挿入される“シャキーン”という効果音が若干ギャグっぽくも聴こえますが、そこも彼ならではのユーモアといったところでしょうか。続く「More Than Ever」は翌年にデビューする布袋寅泰&吉川晃司のCOMPLEXの楽曲アイデアにもなっているであろう1曲だし、レゲエとポルカをミックスしたような「Change His Ways」もこの並びだと自然と入っていけるし、「Disturbing Behavior」はまさに“ヘヴィ・ノヴァ”を体現したかのようなハードで朗らかな内容に仕上がっている。

その後もTHE POWER STATION以降のロバートらしい「Early In The Morning」(全米19位)や、異色のジャズナンバー「If Could Happen To You」(ミュージカル映画楽曲のカバー)、キャッチーさの際立つソウルナンバー「She Makes My Day」(全英6位)、まんまボサノヴァな「Between Us」、民族音楽とハードロック、R&Bをミックスという少し早すぎた「Casting A Spell」、ジャーメイン・ジャクソンのカバー「Tell Me I'm Not Dreaming」(全米60位)とバラエティに富んだ楽曲が並びます。とっ散らかりっぷりは前作を遥かに超え、焦点がぼやけているようにも感じられますが、個人的にはロバート・パーマーというエンタテインメント色の強いシンガーらしい、強度が非常に高い1枚という印象すら受けます。

本作までを人気のピークに、次作『DON'T EXPLAIN』(1990年)以降はセールスを少しずつ落とし始め、2003年の『DRIVE』を最後に、彼はこの世を去ります(2006年9月)。前作でのアンディ・テイラー、次作でのスティーヴ・スティーヴンスのようなスタープレイヤーが本作に参加していたら、また話題性も違ったのかなという気もしますが、これはこれで好きなので問題なし。昨日取り上げたTHE POWER STATIONの2ndアルバム『LIVING IN FEAR』(1996年)が気に入った方は、まずは本作からロバートのソロに触れてみてはどうでしょう。

 


▼ROBERT PALMER『HEAVY NOVA』
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2021年1月27日 (水)

PIXIES『SURFER ROSA』(1988)

1988年3月にリリースされたPIXIESの1stフルアルバム。

前年10月に発表されたEP『COME ON PILGRIM』(1987年)から半年という短いスパンで届けられた本作は、かのスティーヴ・アルビニがレコーディングエンジニアを担当した、数年後にオーバーグラウンドへと本格浮上するUSオルタナティヴロックシーンの夜明けを宣言する記念碑的作品。極端な話、本作がなければNIRVANA『NEVERMIND』(1991年)『IN UTERO』(1993年)も誕生しなかったはず。

轟音ギターの分厚い壁と美しくポップなメロディ、強弱を効果的に取り入れることでバンドのダイナミズムを的確な形で表現したアレンジ、そしてブラック・フランシス(Vo, G)とキム・ディール(Vo, B)の男女ツインボーカル編成という……90年代以降のUSのみならず日本のオルタナティヴロックシーンにも多大な影響を与えたスタイルは、本作の時点でほぼ完成の域に達しています。きっと初めて本作を聴いた邦楽リスナーは、「あれ、この曲のここって○●に似てる!」とか「この音色って○●のあのアルバムじゃん!」と特定のバンド名を思い浮かべるかもしれません。そう、すべてはこのバンドがルーツと言っても過言ではないのです。

オープニングを飾る「Bone Machine」の、破天荒なんだか気が抜けてるんだか、その波が交互に押し寄せるアレンジといい、ちょっとコミカルなのに異常にカッコいい「Broken Face」といい、90年代以降のロックにおける“雛形”のひとつとなった「Where Is My Mind?」といい、名曲揃いな本作。キムがリードボーカルをとる「Gigantic」も、のちにデヴィッド・ボウイがカバーすることになる「Cactus」も、鬼気迫る「Vamos」「I'm Amazed」も、すべて色褪せていない。全13曲でトータル35分にも満たないトータルランニングといい、完璧の一言なのです。

とはいっても、僕はリリース当時このアルバムに触れていながらも、そこまで心惹かれなかったんですよね。同じ学校にいた交換留学生のアメリカ人から勧められて聴いた記憶があるんですが、その頃はマッチョなメタル脳(笑)だったので、このナヨっとしたテイストが肌に合わず。ところが、数年後に上京してNIRVANAの『BLEACH』(1989年)に初めて触れ、かつその直後にリリースされた『NEVERMIND』に触れることで「あれ、このテイスト知ってるぞ?」と……PIXIESのことを思い出すわけです。そこから、自分が聴いていなかった時期に発売された『DOOLITTLE』(1989年)も『BOSSANOVA』(1990年)も、そして当時発売されたばかりの(結果的に最終作となった)『TROMPE LE MONDE』(1991年)も後追いで聴いたわけです。そういやあ、のちにWEEZERが登場したときも、PIXIESのことを思い出したっけ。あとは(以下キリがないので省略)。

ライブは再結成以降、何度も観ています。2004年のフジロックは、まさにこのアルバムの1曲目「Bone Machine」から始まったんでしたっけ(前半10数曲で東京事変に移動してしまったこともよく覚えています)。翌年末の単独来日にも行ったなあ(そのときも「Bone Machine」始まりでしたね)。そういった意味でも、本作は再結成以降により思い入れが強くなった1枚かもしれません。

 


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2020年12月17日 (木)

SOUNDGARDEN『ULTRAMEGA OK』(1988)

1988年10月31日にリリースされたSOUNDGARDENの1stアルバム。日本盤は1994年3月、バンドの初来日にあわせて初CD化されています。

オリジナル盤はSST Recordsからのリリースですが、2017年に発売されたジャック・エンディノによるリミックス&1987年録音のデモ音源追加によるリイシュー盤からはSub Pop Recordsから発売されています。特に日本盤はオリジナルのアートワークが採用されており、シャープになった音像とともにカッコ良さが増したような印象を受けます(インディーズバンドらしいチープなオリジナルジャケットも好きですけどね)。

メジャー進出第1弾となる次作『LOUDER THAN LOVE』(1989年)の1年前に発表された本作は、クリス・コーネル(Vo, G)、キム・セイル(G)、ヒロ・ヤマモト(B, Vo)、マット・キャメロン(Dr)という編成でレコーディング。初期の代表曲といえる「Flower」からヘヴィな音像でスタートし、アグレッシヴなアップチューン「All Your Lies」、重苦しいミドルチューン「Beyond The Wheel」など、のちに本格的開花する“SOUNDGARDENらしさ”はすでにこの時点でほぼ完成の域に達しつつあることが確認できます。

クリスのハイトーンボイスも終始絶好調。キムのギターもヒロ&マットのリズム隊が繰り出すサウンドもうねりまくっており、カッコいいったらありゃしない。でも、これを聴いて彼らを“グランジ”という枠で括るのはちょっと違和感がありゃしないか?と思うのは自分だけでしょうか。

確かに「Mood For Trouble」や「He Didn't」あたりにはその香りを感じるものの、ヒロがボーカルをとる「Circle Of Power」やハウリン・ウルフのヘヴィロック風カバー「Smokestack Lightning」、「Nazi Driver」「Head Injury」あたりからはグランジというよりはハードコアパンクからの影響が伝わってきます。もちろん、それらがグランジのルーツになっているのは間違いない事実ですが、どうにもこうにもクリスがハイトーンで歌う以上はハードロック的なものに聴こえてしまう。その個性、クセの強さがSOUNDGARDENを初期の時点で特別なものへと確立させていた、その事実を確認できるという意味において、本作の果たす役割は非常に大きなものがあるのではないでしょうか。

にしても、2017年リイシュー盤の音質のクリアさには改めて驚かされます。それもあってか、オリジナル盤の音圧やチープさに慣れてしまっていた自分にとって、このリイシュー盤は“ほぼ新作”みたいな感覚で接することができたんですよね。現在ストリーミングなどで耳にすることができるのはこちらのリイシュー盤なので、「オリジナル盤を知ってこそ真のファン!」なんていう奇特な方はぜひ中古でSST盤を探してみてください。その違いに驚くはずなので(笑)。

なお、リイシュー盤に収められたボーナストラック(1987年レコーディング)は本アルバムのレコーディングセッションからの初期バージョンのようで、「Incessant Mace」に関してはアルバム本編の完成版(6:20程度)に対してロングバージョンデモ(7:50)も用意されているので、聴き比べてみても面白いかもしれません。また、どの曲もアレンジを煮詰める前のスタジオライブ的な側面もあるので、バンド最初期のエネルギーに満ちた演奏を存分に楽しめるはずです。

 


▼SOUNDGARDEN『ULTRAMEGA OK』
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