当サイトではかつて『1991 in HR/HM & Alternative Rock』というエントリーを公開しています。これは過去数年メインストリームだったHR/HMがグランジと入れ替わる絶妙なタイミングとなった1991年の音楽を、当時の世相とともに振り返りながらサブスクで聴いていくという内容でした。で、これと同じようなエントリーを1994年版で作ろうかと思っていたのですが、まとめながら歴史的観点(音楽以外を含む)ではそこまで大きくないような気がしまして……。
もともとニューウェイヴの流れからハウスへと移行するアーティストは当時少なくなかったですし、彼らもその流行に沿ったと捉えるのが正しいのかもしれません。が、流行りとはいえこのテイストが彼らの下世話なポップ感と妙にマッチし、結果として「I Don't Want Your Love」(全米4位/全英14位)や「All She Wants Is」(全米22位/全英9位)というヒットにつなげることに成功しています。アルバム自体も全米24位(ゴールドディスク獲得)、全英15位とそれなりの数字を残しますが、セールス的には若干落とす結果に。ただ、日本では初の東京ドーム公演を実現させ、人気的には黄金期終盤に差し掛かることになります。
スタジアムロック調のヘヴィなミドルナンバー「Big Thing」からスタートするオープニングは、過去の彼らのアルバムからすると異色に聞こえますが、「I Don't Want Your Love」「All She Wants Is」といったポップな楽曲、穏やかなソウルチューン「Too Late Marlene」、前作の流れを汲むファンキーな「Drug (It's Just A State Of Mind)」が続くことで、従来のリスナーを安心させます。ハウス風味が強いこともあってか、比較的地味めだった前作をさらに渋くさせたテイストは、初期の派手な路線とは相反するものかもしれません。事実、リリース当時はその内容から否定的な声も少なくなかったですしね。
90年代の彼らにも通ずるダーク&ムーディな「Do You Believe In Shame?」(全米72位/全英30位)から始まる後半は、続く「Palomino」でさらにダークなムードを強めていきます。そして2つのインタールードに挟まれた6分調の「Land」もその傾向は強く、本作が地味と評される所以を強めていくことに。結局、その後も「The Edge Of America」「Lake Shore Driving」で前半のような路線に復調することなく、アルバムはダウナーな空気のまま幕を下ろします。
当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、エース・フレーリー、エリック・カー(Dr, Vo)。日本やオーストラリアなどアメリカ以外の諸国で先行発売。当時はここでしか聴くことができなかった新曲4曲(「I'm A Legend Tonight」「Down On Your Knees」「Nowhere To Run」「Partners In Crime」)がかなり話題となりました。ジャケットにエースの姿はあるものの、当時はすでにバンドから脱退しており、新曲のレコーディングにはのちにバンドに加入するブルース・キューリック(G)の実兄ボブ・キューリック(G)がリードギターとして参加しています。
当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、ブルース・キューリック、エリック・カー。この年の春に10年ぶり(ノンメイクアップ時代としては初めて)の来日公演が決定したことを受け、それにあわせて日本のみ10万枚限定で制作されたレアアイテム。今となっては10万枚も刷ったのか!って驚きですけどね。内容は「Rock And Roll All Nite」や「Love Gun」などの70年代ヒットよりも、「Creatures Of The Night」や「Lick It Up」「Heaven's On Fire」「Tears Are Falling」などの80'sヘアメタル期が中心。主にシングルカット/MV制作された楽曲が中心で、そんな中に「I Was Made For Lovin' You」のリミックスバージョンという初CD化レア音源が含まれているのが売りかな(のちに「Psycho Circus」シングルのカップリングで世界的にCD化されました)。
当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、ブルース・キューリック、エリック・カー。日本では『CHIKARA』から間を空けずに発表されることになりましたが、『KILLERS』未発売だった北米などの海外諸国では『DOUBLE PLATINUM』以来10年ぶりのベスト盤。考えてみたら「I Was Made For Lovin' You」はもちろん、80年代の楽曲をまとめたコンピが10年も出ていなかった事実に驚かされます。
内容は「Let's Put The X In Sex」「(You Make Me) Rock Hard」の新曲2曲や、一部楽曲のリミックス、そしてエリック・カーが歌唱した「Beth」など、単なるベスト盤では片付けられない楽曲が多数。北米盤ではなぜか直近の新作『CRAZY NIGHTS』(1987年)からの楽曲が含まれていません(ヨーロッパ盤には「Crazy Crazy Nights」「Reason To Live」収録)。とはいえ、ヘアメタル期のヒットシングルが簡単におさらいできるので、実はもっとも手軽に楽しめる入門盤かもしれません。
これまでのコンピのように新曲やリミックス曲は皆無で、既発曲がリマスタリングされている程度。ただ、それだけでは売りがなさすぎるので、1996年6月28日のデトロイト公演から「Shout It Out Loud」のライブ音源を追加。こちらは当時MVも制作されています。
オリメン時代にこだわった選曲なので、『SMASHES, THRASHES & HITS』以降に生まれたヒット曲「Hide Your Heart」「Forever」「Unholy」などは未収録。ただ、北米盤以外では「God Gave Rock 'N' Roll To You II」が選出されているのが謎かも。なお、日本盤のみ海外盤未収録の「C'mon And Love Me」「Rock Bottom」がセレクトされております。このへん、いかにもですね。
「Honestly」のシングルヒット(全米23位)も手伝い、アルバム自体も最高32位/100万枚突破という好成績を残した前作『TO HELL WITH THE DEVIL』(1986年)から約1年8ヶ月ぶりの新作。バンドとの共同プロデューサーとしてポップス系のマイケル・ロイド(ベリンダ・カーライル、THE MONKEES、エリック・カルメンなど)を迎えた、ソフトサイドが強調された1枚に仕上がっています。
アルバム冒頭を飾る疾走メタルチューン「In God We Trust」や「The Writing On The Wall」、オズ・フォックス(G)が手がけたファストナンバー「The Reign」など攻撃的な楽曲も用意されているものの、本作の軸となっているのはリードシングル「Always There For You」はメロウなスローバラード「I Believe In You」などのメロディアスで親しみやすいポップナンバー。「Honestly」のヒットを受け、レーベル側からのテコ入れがあったのではないかと察します(プロデューサーの人選にもその思惑が見え隠れしますし)。
ミックス自体もマイケル・ロイドが関わっているためか、本作におけるドラムサウンドの軽さは当時から疑問視されてきました。特にスネアの軽さはメタルとは程遠いもので、「Always There For You」のような楽曲にはフィットするものの、「In God We Trust」みたいなメタル寄りの楽曲には難が生じてしまう。現在市場に出回っているCDやサブスクで耳にすることができる音源は、おそらくリマスタリングが施されたものだとは思うのですが、1988年の初出時と比べたらいくらかドラムの質感が調整されているようで、昔聴いていたときよりも聴きやすいバランスになっている印象を受けました。
ただ、それでも「It's Up 2 U」みたいなメタルバラード(パワーバラード)になると、ポップス調の「I Believe In You」ほどの調和は感じられない。楽曲スタイルにより一長一短のあるミックスかもしれませんね。
先の疾走チューン以外は全体的に似通ったトーンで統一された楽曲たちは、「Always There For You」以外はそれほど突出した印象が感じられず。「Keep The Fire Burning」あたりはいい線いってますが、無駄にキラキラした「Come To The Everlife」(ピコピコしたシンセの影響もあるんでしょうね)あたりには「ん?」と感じてしまうかも。あと、バラードタイプの楽曲が多いのも本作の特徴で、これもレーベルが“「Honestly」の二番煎じ”を狙わせた結果なのでしょうか。ただ、上に挙げた「I Believe In You」や「It's Up 2 U」よりも哀愁味の強い泣きのバラード「Lonely」が、予想外によい出来なんですよね。個人的にはシングル曲以外だと、タイトルトラックとこの曲、そしてラストの「The Reign」のために聴くといった印象かな。
収録曲のうち、「Same Old Song And Dance」「Sweet Emotion」「Kings And Queens」はイントロを短くした“シングル・エディット”バージョンで収録。「Walk This Way」もアルバムバージョンより10秒近く短い形にエディットされています。オリジナルバージョンに勝るものはありませんが、本作リリース当時は70年代の代表的シングル曲をひとまとめに楽しめるアルバムとして、非常に重宝されましたし、80年代後半の本格的復帰以降も『PERMANENT VACATION』(1987年)や『PUMP』(1989年)とともにこのアルバムを愛聴したファンは少なくなかったはずです(注:Apple Musicなど一部ストリーミング配信版は各シングルエディットがアルバムバージョンに差し替えられているのでご注意を)。
『PERMANENT VACATION』(1987年)の大ヒットを受けて、前レーベルのColumbia Recordsが企画したコンピ版で、シングル曲中心でまとめられた前作『AEROSMITH'S GREATEST HITS』と比べるとその内容はかなり地味なもの。ただ、ライブで演奏される機会の多い「Mama Kin」や「Lord Of The Thighs」「Train Kept A-Rollin'」なども含まれていることから、“裏ベスト”的側面の強い1枚かなと。
本作最大の注目ポイントは、『LIVE! BOOTLEG』(1978年)のみで聴くことができた「Chip Away The Stone」の未発表スタジオテイクが収録されていること。この1曲のために当時本作を購入したというファンも少なくなかったはずです。実際、この曲は本作からシングルカットもされ(既存ライブ映像を使用したMVも制作)、ラジオヒットも記録しています。
今のようにサブクスやYouTubeも存在せず、過去のスタジオアルバムにまで手を出せなかった当時の中高生には本作に収録された「Rats In The Celler」や「Nobody's Fault」「Round And Round」「Jailbait」などはかなりカッコよく響いたものです。ここから『ROCKS』(1976年)や『TOYS IN THE ATTIC』(1975年)にも手を伸ばしていったビギナーは80年代後半、かなりの数存在していたはずですから。
キャリア2作目のライブアルバム『WORLD WIDE LIVE』(1985年)を挟み、前作『LOVE AT FIRST STING』(1984年)から約4年ぶりに発表されたスタジオアルバム。前作が全米6位(セールス300万枚超え)を記録、さらに「Rock You Like A Hurricane」(全米25位)、「Still Loving You」(同64位)というヒットシングルも生まれ、アメリカでの本格的大成功を収めたことで、続く今作もさらに北米向けのサウンドメイキングが進むことになります。
プロデュース&ミックスは3作目『IN TRANCE』(1975年)から引き続きディーター・ダークス(ACCEPT、TWISTED SISTER、BLACK 'N BLUEなど)が担当しているものの、一部楽曲(シングルカットされた「Rhythm Of Love」「Believe In Love」ではマイク・シプリー(DEF LEPPARD、THE CARS、CHEAP TRICKなど)がミックスを手がけています。音の質感的には前作の延長線上にある、アメリカでのヒットを意識したビッグプロダクションなのですが、本作ではその傾向がさらに激化。中でもゲートリバーブを強めにかけた独特のドラムサウンドが特徴的で、古くからのファンには賛否分かれるものがあるのではないでしょうか。
楽曲の方向性も前作までに存在した湿り気の強いメロディの楽曲が減退し、ドラマチックで派手なスタイルを特化させたものが複数存在。序盤4曲(Don't Stop At The Top」「Rhythm Of Love」「Passion Rules The Game」「Media Overkill」)でのミドルテンポを中心とした作風も、明らかに前作での「Rock You Like A Hurricane」のヒットを受けてという印象が強い。また、「Media Overkill」ではトーキングモジュレーター(マウスワウ)を用いたギタープレイも採用されており、このへんは直近の大ヒット曲であるBON JOVI「Livin' On A Prayer」の二番煎じも否めない。良くも悪くもアメリカでのヒットに振り回された作風というのが、本作の評価かもしれません。
また、本作は全9曲中バラードが2曲(「Walking On The Edge」「Believe In Love」)というバランス感も特徴的で、前者はマイナーキーを用いた従来の路線に近いもので、後者はメジャーキーのパワーバラードといった印象。シングルカットもされた「Believe In Love」は明らかにアメリカ向けに書かれたものではあるものの、ここでの経験が次作『CRAZY WORLD』(1990年)での「Wind Of Change」につながったと考えると、興味深いものがあるのではないでしょうか。
そんな賛否両論ある本作ですが、アルバム後半には「We Let It Rock... You Let It Rol」や「Love On The Run」といった攻撃的なメタルチューンも用意されており、中でも「Love On The Run」の疾走感は今聴いてもたまらないカッコよさがあります。ここに「We Let It Rock... You Let It Rol」と「Love On The Run」の中間にあるロックンロール調のアップチューンがもうひとつ用意され、かつ曲順をさらに吟味していればさらに良い作品として受け入れられていたのでないか……と思うのですが、いかがでしょう?
個人的にはリアルタイムで初めて触れたSCORPIONSの新作がこれなので、内容はともかく思い入れは一際強い作品かもしれません(『LOVE AT FIRST STING』はちょっとだけ後追いだったので)。実際、当時は「Rhythm Of Love」を筆頭にアルバム冒頭の3曲はかなりリピートした記憶がありますしね。
なお、本作の現行盤(バンド結成50周年を記念して2015年に制作されたバージョン)には本作制作時のアウトテイク(すべてデモ音源)が複数用意されているほか、チャリティアルバム『STAIRWAY TO HEAVEN / HIGHWAY TO HELL』(1989年)およびバンドのコンピレーションアルバム『BEST OF ROCKERS 'N' BALLADS』(1989年)のために制作されたTHE WHOのカバー「I Can't Explain」が追加収録されています。このカバーでブルース・フェアバーン(BON JOVI、AEROSMITH、AC/DCなど)と初共演しており、これが続く『CRAZY WORLD』への布石となり、90年代へと向けた新たなステップにつながっていくわけです。
「Let's Put The X In Sex」「(You Make Me) Rock Hard」の新曲2曲はどちらもポール歌唱曲で、ソングライティングにはポール&デズモンド・チャイルド(後者のみダイアン・ウォーレンも)が関わっています。陽気な前者とマイナーキーの後者、どちらも“KISSのポール・スタンレー”のパブリックイメージどおりの仕上がりで、ヘアメタル期の彼らの平均的な楽曲と言えるでしょう。
また、リミックスバージョンは『DOUBLE PLATINUM』の延長にあるような仕掛けが用意されているものもあり、「Love Gun」なんて終盤のポールのシャウトがカットされてストリングスが強調されていたり、「Shout It Out Loud」のエンディングがカットアウトだったり、「Deuce」など初期曲のドラムに変なリミックスが施されていたり、「Rock And Roll All Nite」なんて別モノ感半端なかったりと、ベスト盤というよりはお遊びの過ぎる魔改造アルバムといったところでしょうか(笑)。
80年代のロッドは全米TOP10入りするヒットシングルはいくつか存在していたものの、アルバムとしては(70年代のヒット作と比較して)どこか印象が薄いものばかり。そんな彼が起死回生を狙ってパートナーに選んだのが、当時THE POWER STATIONでの大躍進を経てDURAN DURAN脱退〜ソロ活動を開始したばかりのアンディ・テイラーでした。
アルバム収録曲の多くをアンディと一緒に書き、さらにアンディはギタリスト&プロデューサーとしてもアルバムに参加。そのアンディとの関係もあり、プロデューサーにはCHICのバーナード・エドワーズも名を連ね、レコーディングにはバーナード(B)&トニー・トンプソン(Dr)のCHIC/THE POWER STATION組もプレイに加わっています。
すべての楽曲で彼らがプレイしているわけではありませんが(このほか、ギターではマイケル・ランドゥー、デヴィッド・リンドレー、ジム・クリーガンら、ベースにボブ・グラウブ、ドラムにBABYSのトニー・ブロックなどが参加)、ロッド&アンディが表現したかったことはわかりやすい形で表現された、クオリティの高いポップロック作に仕上がっています。全体的にはTHE POWER STATIONの1作目というよりは、それ以降のアンディのソロや彼がプロデュースするTHUNDERやTHE ALMIGHTYの諸作品をもっと落ち着いた作風にまとめた感じといいましょうか。ドラムのパワフルさからは、そういった作品との共通点を見つけられるはずです。
まあとにかく、どの曲もよく練り込まれた“時代を感じさせるもの”ばかりで、「Lost In You」(全英21位/全米12位)、「Forever Young」(全英57位/全米12位)、「My Heart Can't Tell You No」(全英49位/全米4位)、「Crazy About Her」(全米11位)など年またぎでヒットシングルが連発。さらにこのあと、ベストアルバムからの「This Old Heart Of Mine」(全英51位/全米10位)、「Downtown Train」(全英10位/全米3位)のヒットも続き、アルバム自体も全英11位/全米20位の好成績を記録。数字的には中途半端に見えますが、セールス面ではアメリカのみで200万枚を超えるヒット作となっており、10年ぶりのマルチプラチナムを達成しています。
ロッドのソロ作といえば、FACES以降の70年代のソロ作に注目が集まり気味ですが、このへんのAOR的ポップロックも意外と悪くないんですよ。特に本作に関してはTHE POWER STATION界隈のメンバーが勢揃いしていますしね。同時期、かのロバート・パーマーは独自のミクスチャーロック/ポップを追求した『HEAVY NOVA』(1988年)を制作していますし、そのへんを踏まえて聴くとまた違った見え方がするのではないでしょうか。
DURAN DURANのアンディ・テイラー(当時)&ジョン・テイラー、CHICのトニー・トンプソンで結成したTHE POWER STATIONのアルバム『THE POWER STATION』(1985年)を経て発表されたソロ8thアルバム『RIPTIDE』(1985年)の大ヒット(全米8位/全英5位)と、同作からの「Addicted To Love」(全米1位/全英5位)、「I Didn't Mean To Turn You On」(全米2位/全英9位)などのシングルヒットを経て届けられた、2年半ぶりの新作。前作は『THE POWER STATION』からの流れでバーナード・エドワーズ(CHIC)がプロデュースを担当しましたが、今作ではロバートのセルフプロデュース作となっています。
アルバムのオープニングを飾る「Simply Irresistible」(全米2位/全英44位)は、「Addicted To Love」をより派手にバージョンアップさせたような豪快ハードロック。MVも完全にその流れにある作風ですしね。曲中に挿入される“シャキーン”という効果音が若干ギャグっぽくも聴こえますが、そこも彼ならではのユーモアといったところでしょうか。続く「More Than Ever」は翌年にデビューする布袋寅泰&吉川晃司のCOMPLEXの楽曲アイデアにもなっているであろう1曲だし、レゲエとポルカをミックスしたような「Change His Ways」もこの並びだと自然と入っていけるし、「Disturbing Behavior」はまさに“ヘヴィ・ノヴァ”を体現したかのようなハードで朗らかな内容に仕上がっている。
その後もTHE POWER STATION以降のロバートらしい「Early In The Morning」(全米19位)や、異色のジャズナンバー「If Could Happen To You」(ミュージカル映画楽曲のカバー)、キャッチーさの際立つソウルナンバー「She Makes My Day」(全英6位)、まんまボサノヴァな「Between Us」、民族音楽とハードロック、R&Bをミックスという少し早すぎた「Casting A Spell」、ジャーメイン・ジャクソンのカバー「Tell Me I'm Not Dreaming」(全米60位)とバラエティに富んだ楽曲が並びます。とっ散らかりっぷりは前作を遥かに超え、焦点がぼやけているようにも感じられますが、個人的にはロバート・パーマーというエンタテインメント色の強いシンガーらしい、強度が非常に高い1枚という印象すら受けます。
本作までを人気のピークに、次作『DON'T EXPLAIN』(1990年)以降はセールスを少しずつ落とし始め、2003年の『DRIVE』を最後に、彼はこの世を去ります(2006年9月)。前作でのアンディ・テイラー、次作でのスティーヴ・スティーヴンスのようなスタープレイヤーが本作に参加していたら、また話題性も違ったのかなという気もしますが、これはこれで好きなので問題なし。昨日取り上げたTHE POWER STATIONの2ndアルバム『LIVING IN FEAR』(1996年)が気に入った方は、まずは本作からロバートのソロに触れてみてはどうでしょう。
前年10月に発表されたEP『COME ON PILGRIM』(1987年)から半年という短いスパンで届けられた本作は、かのスティーヴ・アルビニがレコーディングエンジニアを担当した、数年後にオーバーグラウンドへと本格浮上するUSオルタナティヴロックシーンの夜明けを宣言する記念碑的作品。極端な話、本作がなければNIRVANAの『NEVERMIND』(1991年)も『IN UTERO』(1993年)も誕生しなかったはず。
オープニングを飾る「Bone Machine」の、破天荒なんだか気が抜けてるんだか、その波が交互に押し寄せるアレンジといい、ちょっとコミカルなのに異常にカッコいい「Broken Face」といい、90年代以降のロックにおける“雛形”のひとつとなった「Where Is My Mind?」といい、名曲揃いな本作。キムがリードボーカルをとる「Gigantic」も、のちにデヴィッド・ボウイがカバーすることになる「Cactus」も、鬼気迫る「Vamos」「I'm Amazed」も、すべて色褪せていない。全13曲でトータル35分にも満たないトータルランニングといい、完璧の一言なのです。
とはいっても、僕はリリース当時このアルバムに触れていながらも、そこまで心惹かれなかったんですよね。同じ学校にいた交換留学生のアメリカ人から勧められて聴いた記憶があるんですが、その頃はマッチョなメタル脳(笑)だったので、このナヨっとしたテイストが肌に合わず。ところが、数年後に上京してNIRVANAの『BLEACH』(1989年)に初めて触れ、かつその直後にリリースされた『NEVERMIND』に触れることで「あれ、このテイスト知ってるぞ?」と……PIXIESのことを思い出すわけです。そこから、自分が聴いていなかった時期に発売された『DOOLITTLE』(1989年)も『BOSSANOVA』(1990年)も、そして当時発売されたばかりの(結果的に最終作となった)『TROMPE LE MONDE』(1991年)も後追いで聴いたわけです。そういやあ、のちにWEEZERが登場したときも、PIXIESのことを思い出したっけ。あとは(以下キリがないので省略)。