DURAN DURAN『BIG THING』(1988)
1988年10月18日にリリースされたDURAN DURANの5thアルバム。日本盤は同年10月16日発売。
ロジャー・テイラー(Dr)、アイディ・テイラー(G)が相次いで脱退し、サイモン・ル・ボン(Vo)、ジョン・テイラー(B)、ニック・ローズ(Key)の3人体制で発表した前作『NOTORIOUS』(1986年)から約2年ぶりの新作。ナイル・ロジャース(マドンナ、デヴィッド・ボウイ、ミック・ジャガーなど)を全面的に起用してファンクロックに接近した前作から一転、今作では初期のシンセポップに当時流行していたハウスミュージックのテイストをミックスしたモダンな作風へとシフトしています。
もともとニューウェイヴの流れからハウスへと移行するアーティストは当時少なくなかったですし、彼らもその流行に沿ったと捉えるのが正しいのかもしれません。が、流行りとはいえこのテイストが彼らの下世話なポップ感と妙にマッチし、結果として「I Don't Want Your Love」(全米4位/全英14位)や「All She Wants Is」(全米22位/全英9位)というヒットにつなげることに成功しています。アルバム自体も全米24位(ゴールドディスク獲得)、全英15位とそれなりの数字を残しますが、セールス的には若干落とす結果に。ただ、日本では初の東京ドーム公演を実現させ、人気的には黄金期終盤に差し掛かることになります。
固定ドラマーがいないからこそ、すべての曲で生ドラムを使用する必要がないわけですが、レコーディングでは生ドラムと打ち込みをうまいことミックスすることで人工的な味わいを強めている。スティーヴ・フェローンやスターリング・キャンベルといったドラマーをレコーディングに迎え、ギタリストに関してはフランク・ザッパ門下生のウォーレン・ククロロを中心に、一部楽曲でチェスター・ケイメンもプレイ。このレコーディングでの手応えもあって、本作収録曲のMVにはウォーレンが参加し、のちにスターリングとともにバンドの正式メンバーとして迎えられます。
スタジアムロック調のヘヴィなミドルナンバー「Big Thing」からスタートするオープニングは、過去の彼らのアルバムからすると異色に聞こえますが、「I Don't Want Your Love」「All She Wants Is」といったポップな楽曲、穏やかなソウルチューン「Too Late Marlene」、前作の流れを汲むファンキーな「Drug (It's Just A State Of Mind)」が続くことで、従来のリスナーを安心させます。ハウス風味が強いこともあってか、比較的地味めだった前作をさらに渋くさせたテイストは、初期の派手な路線とは相反するものかもしれません。事実、リリース当時はその内容から否定的な声も少なくなかったですしね。
90年代の彼らにも通ずるダーク&ムーディな「Do You Believe In Shame?」(全米72位/全英30位)から始まる後半は、続く「Palomino」でさらにダークなムードを強めていきます。そして2つのインタールードに挟まれた6分調の「Land」もその傾向は強く、本作が地味と評される所以を強めていくことに。結局、その後も「The Edge Of America」「Lake Shore Driving」で前半のような路線に復調することなく、アルバムはダウナーな空気のまま幕を下ろします。
前半で前作の路線を引き継ぎながら良い感じでハウス路線をミックスさせ、後半ではアシッドテイストをどんどん強めてダウナー路線を強く打ち出す。ある意味実験的な作風ではありますが、これはバンドとして長生きするための新たな活路を見出すための試行錯誤のひとつだった……今ならそう解釈できるのではないでしょうか。
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