カテゴリー「1989年の作品」の82件の記事

2024年11月10日 (日)

サブスクに存在する音源を通して1980年〜1994年のHR/HM(およびそれに付随するハード&ヘヴィな音楽)の歴史的推移を見る

当サイトではかつて『1991 in HR/HM & Alternative Rock』というエントリーを公開しています。これは過去数年メインストリームだったHR/HMがグランジと入れ替わる絶妙なタイミングとなった1991年の音楽を、当時の世相とともに振り返りながらサブスクで聴いていくという内容でした。で、これと同じようなエントリーを1994年版で作ろうかと思っていたのですが、まとめながら歴史的観点(音楽以外を含む)ではそこまで大きくないような気がしまして……。

で、同じタイミングにこちらのイベントのためにプレイリストを共同制作していたのですが、その流れで「これを年代別に作ってみたいな」と思うようになり。だったら先の1994年までを年間プレイリストで辿っていくのはどうかな、という考えに至ったわけです。

ちゃんと始めるなら何年からがいいのかな……と熟考したところ、やはりNWOBHMが勃発したと言われる1980年から1年区切りで辿っていくのがいいんじゃないか、ということで、ここ数ヶ月ちまちまと作業しておりました。で、先ほど最後の1年となる1994年のプレイリストを完成させたので、こうしてエントリーとしてまとめるに至りました。

ぶっちゃけ、考察もなにもないです。これらを年代順に聴いていくことでそれぞれ見えてくるもの、気づくことは間違いなくあるでしょう。僕から「これがこうだから、こうなった」なんて細かいことはあえて言いませんが、もし何か付け加えるとしたら……意外とサブスク上に存在しない重要作品や楽曲が欠けているという事実と、HR/HMというジャンルが80年代後半からどんどん拡大していき、リリースアイテムも格段と増えたこと。例えば100曲でまとめる際、1980年と1994年とではその数に差がかなり出てしまったこと(1980年はHR/HMの絶対数が少なく、本来なら取り上げたいNWOBHMの名曲もサブスク上に存在せず、結果として無理やりパンクからの派生や1アーティストから2曲選んだりしている。一方で1994年のアイテムは国内外含め200曲近く集まり、そこから削っていくのにひと苦労した)。かつ、ジャンルとしてもどんどん洗練されていき、主流となるサウンドの方向性もどんどん変化していることにも気づくはず(結局言ってるし)。あと、90年代以降の音楽は今聴いても古さを感じないけど、80年代前半はまだ70年代の延長にあるんだなと再認識させられました。いろいろ面白かった。

ということで、ここから1年単位で作ったプレイリスト(各100曲)。それぞれ7〜8時間とかなり長尺ですが、暇なときにでもダダ流ししながらお楽しみいただけると幸いです。

 

■1980年

 

■1981年

 

■1982年

 

■1983年

 

■1984年

 

■1985年

 

■1986年

 

■1987年

 

■1988年

 

■1989年

 

■1990年

 

■1991年

 

■1992年

 

■1993年

 

■1994年

2023年1月27日 (金)

THE ALMIGHTY『BLOOD, FIRE & LOVE』(1989)、『BLOOD, FIRE & LIVE』(1990)

『BLOOD, FIRE & LOVE』は1989年10月20日にリリースされたTHE ALMIGHTYの1stアルバム。日本盤は翌1990年3月25日発売。

THE ALMIGHTYはリッキー・ウォリック(Vo, G)、タントラム(G)、フロイド・ロンドン(B)、スタンプ・モンロー(Dr)という布陣で1988年に結成された、グラスゴー出身のハードロックバンド。パンクロックを通過した荒々しいサウンドは“GUNS N' ROSES以降”のそれと捉えることもできますが、彼らの場合はさらにその祖先であるMOTÖRHEADから派生したワイルド&スリージーなハードロックといった印象も強く、デビューからしばらくしてから「MOTÖRHEADよりMOTÖRHEADらしい」なんて評価も飛び交ったほどでした。

メジャーのPolydor Records(現在のUniversal)から発表された本作は、同時期にメジャーデビューしたTHUNDERTHE QUIREBOYSLITTLE ANGELSなどとともに“ブリティッシュハードロックの次世代を担う新人”が放つ良作として高評価を獲得。チャート的にもイギリスで最高62位という数字を残したほか、「Power」(全英82位)、「Wild And Wonderful」(同50位)というシングルヒットも記録。本作を携えAC/DCTHE CULT、そしてMOTÖRHEADらとツアーを回ることで、さらに知名度を高めていきました。

多くのリスナーにとってのTHE ALMIGHTYのイメージは全英5位という最高記録を打ち立てた3rdアルバム『POWERTRIPPIN'』(1993年)や最高傑作の4th『CRANK』(1994年)での“グランジ以降のオルタナ感を飲み込んだ、パンキッシュなグルーヴメタル”かもしれません。そういった意味では、本作や続く2ndアルバム『SOUL DESTRUCTION』(1991年)で展開される音楽性は少々オールドスクールに映ることでしょう。特にこの1stアルバムで聴くことができる楽曲群は、1989年という次世代への過渡期を思わせる前時代的なハードロックが中心。オープニングを飾る「Resurrection Mutha」での仰々しいアレンジは、まさに80年代そのものといったところで、多少恥ずかしさを覚えるかもしれません。

しかし、続く「Destroyed」や彼らの代表曲「Wild And Wonderful」、そして「Power」といった男臭いハードロックチューンの数々からは、リッキーが近年活動の母体としているBLACK STAR RIDERSの片鱗を見つけることもでき、彼にとってのルーツはここにあるのだと気づかされます。

中〜後期とは異なる魅力を放つ本作は、BLACK STAR RIDERSから入ったリスナーにこそ受け取ってもらいたい作品のひとつです。

 


▼THE ALMIGHTY『BLOOD, FIRE & LOVE』
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このデビューアルバムを携えたツアーの様子は、1990年10月8日にリリースされたライブアルバム『BLOOD, FIRE & LIVE』で確認することができます。日本盤は1992年7月10日発売。

1990年7月にエジンバラとノッティンガムで録音された本作は、1stアルバム『BLOOD, FIRE & LOVE』からの楽曲7曲にBACKMAN-TURNER OVERDRIVEのカバー「You Ain't Seen Nothin' Yet」を加えた、全8曲/約36分とライブ作品としてはややコンパクトな内容。ですが、「スタジオ作品よりもライブが魅力」だと言われ続けてきた彼らの魅力が、『BLOOD, FIRE & LOVE』よりもわかりやすい形で伝わる良盤ではないでしょうか。

ライブ映えする「Full Force Lovin' Machine」からスタートする構成といい、オーディエンスとの交流を含む8分近くにおよぶライブのハイライト「Wild And Wonderful」、終盤に持ってくることでドラマチックさが倍増する「Resurrection Mutha」などは、スタジオ盤だけではわからないバンドの個性をより感じることができるはずです。

日本盤は本国から2年近く遅れて発売されたのですが、「Wild Angel」「Detroit」「Crucify」と次作『SOUL DESTRUCTION』からの楽曲を含む3曲を追加収録。これは1992年12月に予定されていた彼らの初来日公演を前に、ライブバンドとしての彼らの真髄を知ってもらおうと企画されたものでしたが、『SOUL DESTRUCTION』からの楽曲を含むことでアルバム本来の軸がちょっとブレてしまったような気がしないでもありません。こういうの、一長一短ありますね。

なお、2013年11月18日にはスタジオアルバム『BLOOD, FIRE & LOVE』とライブアルバム『BLOOD, FIRE & LIVE』、および同2作発売周辺に録音されたシングルC/W曲やライブ音源をまとめたボーナスディスクで構成された3枚組作品『BLOOD, FIRE & LOVE & LIVE』がリリース。こちらはサブスク配信も最近スタートしたので、気になる方はこちらからチェックすることをオススメします。

 


▼THE ALMIGHTY『BLOOD, FIRE & LOVE & LIVE』
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2022年11月24日 (木)

QUEEN『THE MIRACLE: COLLECTOR'S EDITION』(2022)

2022年11月18日にリリースされた、QUEENの13thアルバムのリイシュー&ボックスセット。

本作は、1989年5月に発表されたアルバム『THE MIRACLE』の最新リマスター盤(2011年バージョン)のほか、同作制作時のセッション音源とアルバム未収録曲およびデモ音源集『THE MIRACLE: SESSIONS』、シングルのみに収録されたカップリング曲やリミックス音源をまとめた『ALTERNATIVE MIRACLE』、メンバー4人が一緒に行った最後のインタビューなどをまとめた『THE MIRACLE: RADIO INTERVIEWS』、アルバム収録曲のインストバージョンやバッキングトラックをまとめた『MIRAC-MENTALS: INSTRUMENTAL & BACKING TRACKS』のCD5枚に、当時制作されたMVとドキュメンタリー映像をまとめたBlu-ray/DVD『THE MIRACLE: VIDEO』、そして5曲目に「Too Much Love Will Kill You」を配置するという当初計画していた『THE MIRACLE』の“Long Lost Original LP Cut”のアナログ盤が付属した、非常にボリューミーな内容。「Too Much Love Will Kill You」はフレディ・マーキュリー(Vo, Piano)死後に完成させた『MADE IN HEAVEN』(1995年)収録バージョンがそのまま用いられています。

本作でもっとも特筆すべきなのが、CD DISC-2の『THE MIRACLE: SESSIONS』でしょう。アルバム制作時のセッションの模様がダイレクトに伝わってくる内容で、未発表曲はもちろんなんですが、特にアルバム収録曲が完成に至る経緯が垣間見えてきて、非常に興味深い内容なんです。

例えば、『HOT SPACE』(1982年)の流れを汲む打ち込みダンスポップ路線を取り込んだ「Party」や「The Invisible Man」は、生々しさが残されており、よりスタジオセッション色が強い。良い意味でほかのハードエッジな楽曲群との整合性が取れており、この形で収録されていたら全体的にもっとロックテイストの強い内容になっていたのかなと感じました。しかし、そうしないのがQUEEN。このおもちゃ箱的バラエティ豊かさこそが80年代の彼らなわけで、改めて完成版の魅力にも気づくことができました。

あと、「Breakthru」の冒頭スローパートが、デモ版では「When Love Break Up」と題した2分に満たないスローバラードでまとめられていたり、当の「Breakthru」はリズムセクションが打ち込みではなくて生ドラム&生ベースを残したテイクを楽しむことができる。冒頭のアレンジも完成版とは異なる形で、これも興味深い。リリース当時は「これ、打ち込みじゃなくて生のリズム隊バージョンで聴きたかった」なんて贅沢なことを考えたりもしましたが、結果やはり完成版のクオリティの高さは格別であったことに30数年経って気づかされたのでした。

さらに、本作には先の「When Love Break Up」や先行リリースされた「Face It Alone」を含む未発表曲を6曲用意。「You Know You Belong To Me」はブライアン・メイ(G, Vo)による弾き語り風小楽曲。アルバム後半のつなぎとして用意されたような1曲かな。「I Cuess We're All Falling Out」は1980年前後のフレディらしいゴスペルチックなピアノバラード、「Dog With A Bone」はロジャー・テイラー(Dr, Vo)のコーラス&ハーモニーが良いテイストを醸し出しているヘヴィ&グルーヴィーな1曲。「Water」は2分前後のスペーシーなスローナンバーで、これもブライアン中心で固められているのかな。完成された1曲というよりは、ここから展開していくというネタ程度の小楽曲なんでしょうね。そして、今回のリイシューに際してリードトラックとして配信された「Face It Alone」は、アルバムに入れるにはかなり地味な仕上がり。アルバムの入れるにしてもインパクトが弱すぎて、シングルのカップリング向けのおまけ程度のクオリティかな。方向性的には『THE MIRACLE』というよりは、シームレスで制作に入った次作『INNUENDO』(1991年)のテイストに近い気がするので、そういった意味では『THE MIRACLE』と『INNUENDO』をつなぐ過渡期的楽曲とも言えるでしょう。

この時期のアルバム未収録曲は比較的多く、CD DISC-3『ALTERNATIVE MIRACLE』には当時シングルのカップリング曲として発表された「Hang On In There」「Stealin'」「Hijack My Heart」「Chinese Torture」、そしてのちに『MADE IN HEAVEN』でリメイクされる「My Life Has Been Saved」と、かなり豊富なアウトテイクが残されていることに気づきます。実際にシングルのカップリングで発表された楽曲は、アルバム本編に入れるには至らないものの、先のデモテイクよりはクオリティも高めであることにも気づかされる。と同時に、やはり『THE MIRACLE』って非常に練り込まれた完成度の高い1枚なんだなと実感させられます。

ここに「Too Much Love Will Kill You」が当時ならではのアレンジで収録されていたら、どうなっていたのか……実際にプレイリストで再現してみましたが(もちろん『MADE IN HEAVEN』版のアレンジなので、当初想定していたものとは異なるかもしれませんが)、これはこれで良い流れなんですよね。どうせなら、CDでもこのバージョンを再現してほしかったなあ。

というわけで、フレディの命日にQUEEN関連のアイテムを紹介するのは昨年の30周年で一区切りかなと思っていましたが、こんな素敵なプロダクツが制作された以上は取り上げないわけにはいかない。今年もこのボリューミーなボックスセットにしっかり浸りながら、フレディに思いを馳せたいと思います。

 


▼QUEEN『THE MIRACLE: COLLECTOR'S EDITION』
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2022年7月27日 (水)

McAULEY SCHENKER GROUP『SAVE YOURSELF』(1989)

1989年10月10日にリリースされたMcAULEY SCHENKER GROUPの2ndアルバム。日本盤は同年11月1日発売。

元GRAND PRIX、FAR CORPORATIONのロビン・マッコーリー(Vo)というそこそこ知名度のあるシンガーを迎え、MICHAEL SCHENKER GROUPというワンマングループ名からマイケル&ロビンの名前を冠したMcAULEY SCHENKER GROUPとして80年代後半に再始動したマイケル・シェンカー。1作目『PERFECT TIMING』(1987年)は前年から大きくなり始めたHR/HMブームの波に片足だけ乗り(笑)、全米95位という小ヒットを記録。リードシングル「Gimme Your Love」も初めて全米TOP40入り(Billboard Mainstream Rockチャート)を果たし、それなりの成功を収めたと言えるでしょう。

そこから2年のインターバルを経て届けられた2作目では、ロビン&マイケルとロッキー・ニュートン(B)、ボド・ショプフ(Dr)に加え、前作にゲスト参加していたスティーヴ・マン(G, Key)が正式加入する形で制作。プロデューサーには新たにフランク・フィリペッティ(FOREIGNERSURVIVOR、ジョン・ウェイトなど)を迎え、アメリカナイズされながらも前作以上に“尖った”1枚に仕上がっています。

このアルバムはまず、オープニングを飾る6分強のタイトルトラック「Save Yourself」がすべてでしょう。若干ドンシャリ感が強く、産業ハードロック的なテイストでまとめられた前作から一変し、エネルギッシュなギターソロとタフで疾走感の強いバンドサウンド、ロビンのパワフルなボーカルとすべてのピースが合致した、「マイケル・シェンカー復活!」を宣言するような名曲なのです。冒頭のみならず、中盤もかなり長尺でフィーチャーされたギターソロも聴きどころで、前作で若干肩を落とした感のあったオールド層をも引き込む1曲ではないでyそうか。

しかし、そういったテイストの楽曲はこれのみで(笑)、あとは『PERFECT TIMING』を良き形でバージョンアップさせたアメリカンHRが中心。「Bad Boys」や「Get Down To Bizness」あたりで聴ける豪快なロックンロールは、ある意味では初期MSGとの共通点も見つけられるけど、それよりもWHITESNAKEの全米制覇に影響を受けているんじゃないかという気も。悪くないですけどね。

もちろん、「Anytime」のようなエモいパワーバラードも用意されていますし、マイケル&スティーヴのツインリードがカッコいい「Destiny」といったマイナーキーの疾走ナンバー、「Take Me Back」みたいな哀愁味の強いミディアムナンバーも含まれているので、ご心配なく。なんだかんだで、どの曲も80年代後半という時代性が反映された高クオリティなものばかりで、今聴いても意外とアリなものが多いのではないでしょうか。

旧MSGのイメージで本作に触れると、すべては受け入れられないかもしれませんが、それでも要所要所に“らしさ”も見つけられるので、偏見を捨てて一度触れてみることをオススメします。

なお、本作は前作を超える全米92位を記録。「Anytime」に関してはBillboard Mainstream Rockチャートで最高5位、Hot 100(総合シングルチャート)で69位という過去最高記録を残しています。数字的なことを除外しても、本作はMcAULEY SCHENKER GROUP名義での最高傑作であり、マイケル・シェンカーのキャリアにおいても記憶に残る1枚だと断言しておきます。

 


▼McAULEY SCHENKER GROUP『SAVE YOURSELF』
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2022年5月31日 (火)

DEPECHE MODE『101』(1989)

1989年3月13日にリリースされたDEPECHE MODE初のライブアルバム。日本盤は同年3月10日先行発売。

本作は1987年秋に発表された6thアルバム『MUSIC FOR THE MASSES』を携え、1987〜88年に開催されたワールドツアーから、101本目にして最終公演に当たる1988年6月18日の米・カリフォルニア州パサディナRose Bowlでのスタジアムライブの模様を収めたもの。アナログ盤は2枚組/全17曲、CDは2枚組/全20曲と収録容量の違いで差ができてしまっています(アナログ盤でカットされたのは「Sacred」「Nothing」「A Question of Lust」)。

当時、このライブ盤を聴いて驚いたのは、その歓声の凄まじさとデイヴ・ガーン(Vo)のアッパーさ。SE的な「Pimpf」を経てスタートする「Behind The Wheel」での熱狂的な歓迎されっぷりは、当時日本でMTVを通じてでしかDEPECHE MODEを知らなかった自分にとってかなり衝撃なものでした。実際、スタジアムでライブをできるほどの人気をアメリカで獲得していたことを考えると、この大歓声が仕込みでもなんでもないことに気付かされるわけですが。

当時はアラン・ワイルダーを含む4人編成で、ライブも1990年代以降のサポートメンバーを迎えた大編成とは異なるもの。だからこその(良くも悪くも80年代的な)音数の少ないエレクトロニックサウンドが、スタジアムという大会場でどんな音量で鳴らされていたのか、非常に気になります。「Something To Do」みたいな80年代前半の楽曲は特にね。

ちなみに本作、同名の映像作品を制作されており、音源よりも尺は長いものの、披露されている楽曲数はかなり少ないです。ライブ映像を含むドキュメンタリー作品的なテイストなので、あくまで1988年当時の熱狂ぶりを補足するためのアイテムとして捉えていただけると。2021年12月にはリマスタリングされた映像版と、CDも同梱したボックスセットもリリースされたので、そのクリアな映像と合わせてお楽しみいただくのも一興かと。

選曲的にはもちろん『MUSIC FOR THE MASSES』からの楽曲が中心で、そこに『BLACK CELEBRATION』(1986年)や『SOME GREAT REWARD』(1984年)といったアメリカでのブレイク作を交えた内容といったところでしょうか。さすがに「Leave In Silence」や「See You」は選出されていませんが、ラストに「Just Can't Get Enough」「Everything Counts」という初期楽曲が用意されているあたりは微笑ましかったりします。

ここのツアーで得た経験が次作『VIOLATOR』(1990年)や次々作『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』(1993年)でのアメリカナイズにつながったことは、間違いでしょう。それくらい、このツアーでの成功はバンドに良くも悪くも影響を与えたはずですから。

このライブアルバムと当時の最新作『VIOLATOR』をじっくり聴き込んで、浪人中にもかかわらず日本武道館公演(1990年9月)に足を運んだんだよなあ。思えば、あれが最初で最後の“生”DEPECHE MODEだったし、以降32年も来日していないんですよね。そして、アンディ・フレッチャーを生で観た最初で最後のライブでもあったわけですが……。

近作ではツアーごとにライブアルバム/映像作品を毎回リリースしてくれている彼らですが、できることなら『VIOLATOR』〜『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』期のライブフル映像(音源でも可)を体験したいものです。

最後になりましたが、アンディ・フレッチャーのご冥福をお祈りいたします。

 


▼DEPECHE MODE『101』
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2021年11月21日 (日)

CHARLIE SEXTON『CHARLIE SEXTON』(1989)

1989年初頭にリリースされたチャーリー・セクストンの2ndアルバム。日本盤はリード曲から用いられた『ドント・ルック・バック』という邦題で、同年1月25日発売。

1985年前半にシングル「Beat's So Lonely」およびアルバム『PICTURES FOR PLEASURE』でメジャーデビューした、当時弱冠16歳だったチャーリー。そのルックスで本国のみならずここ日本でもアイドル的な人気を博し、1作目から全米TOP20入りするなど成功を収めました。しかし、そのギタリストとしての実力やソングライターとしての才能が霞むほどにアイドル視されることから少し距離を起くことに。結果、続く2ndアルバムが届けられるまでに4年もの歳月を要することになります。

前作はビリー・アイドルでおなじみのキース・フォーシーがプロデューサーを担当しましたが、今作では名手ボブ・クリアマウンテンと、ピーター・ガブリエルやSQUEEZEなどを手がけたトニー・バーグが参加。ティーンポップ的な色合いも含まれていたデビュー作から、さらに大人になった楽曲/サウンドが詰め込まれた1枚に仕上がりました。

当時20歳になろうとしていたチャーリーですが、前作にあった背伸び感は今作には皆無。リラックスしつつも締めるところは締めるという、等身大の都会的ロックを中心とした楽曲が並びます。オープニングを飾る「Don't Look Back」などは前作の延長線上にあるものの、若干落ち着いた印象を受けるのではないでしょうか。この曲、ボブ・クリアマウンテン絡みでブライアン・アダムスがコーラスで参加。よく聴けばそれとわかるしゃがれ声のハモリを見つけることができます。

かと思えば、「I Can't Cry」や「While You Sleep」のような大人びた楽曲も用意。後者のようにスペーシーなサウンドメイキングを施した楽曲は前作にも含まれていたものの、今作では人口甘味料を排除したビターな仕上がりに。個人的には「I Can't Cry」での歌やギターに、のちの彼の片鱗が見つけられたことが久しぶりに聴いた収穫かな。

全体的に落ち着いたトーン、おおらかなノリで統一されているのは、なんとなく前年にリリースされた氷室京介の1stソロアルバム『FLOWERS for ALGERNON』(1988年)と通ずるものがあるような気もします。というのも、チャーリーは同作のレコーディングやライブにゲスト参加しており、異国のトップアーティストから受けた影響も少なからずあったのではないかと。「Question This」みたいなミディアムチューンを聴くと、そんな想像をしたくなってしまうんですよね(笑)。

80年代半ば、チャーリーに夢中になったお嬢様方は現在の彼の活躍をどこまで知っているのでしょうか。往年のソロ公演は一度も観たことがなかった僕ですが、2000年代に入ってからボブ・ディランのライブで何度も彼のプレイを目に耳にすることができるなんて、中高生の頃は想像できなかったなあ……。

 


▼CHARLIE SEXTON『CHARLIE SEXTON』
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2021年10月20日 (水)

TEARS FOR FEARS『THE SEEDS OF LOVE』(1989)

1989年9月25日にリリースされたTEARS FOR FEARSの3rdアルバム。

「Shout」「Everybody Wants to Rule The World」という2つの全米No.1ソングを輩出し、アルバム自体も全米1位獲得、500万枚超えのセールスを記録した前作『SONGS FROM THE BIG CHAIR』(1985年)から4年半ぶりの新作。同作での大成功がもたらしたローランド・オーザバル(Vo, G)とカート・スミス(Vo, B)の不和により、しばらく活動が停滞していましたが、オリータ・アダムス(Vo)との出会いにより受けた刺激から、それまでのスタイル/サウンドからの脱却を図ります。

過去2作を手がけたクリス・ヒューズから新たにデイヴ・バスコム(DEPECHE MODEGENESIS、トム・ヴァーラインなど)をプロデューサーに迎え、3年にもわたる難産の末に完成した本作は、前作で垣間見えたジャズからの影響に加え、ソウルやブルース、中期ビートルズ的なサイケデリックロックの色合いが散りばめられた、非常に音楽的幅の広がった1枚に。ニューウェイヴの流れから誕生したTEARS FOR FEARSですが、作品を重ねるごとにスタート地点からどんどんと離れていき、この3作目からはジャンルにとらわれずに“音楽”を心底楽しんでいる様子が伝わってきます。

また、1stアルバム『THE HURTING』(1983年)時点ですべての楽曲をローランドが手がけていたものの、リードボーカルに関してはローランドとカートが半々だったボーカル体制も、今作ではほぼローランドのソロプロジェクト体制に(前作の時点でその予兆はありましたが)。カートは「Sowing The Seeds Of Love」での一部パート、および「Advice For The Young At Heart」でその透明感の強い歌声を聴けるのみ。オリータが加わったことで前作にはなかった多様性も少々増えていますが、基本的にはローランドのシンガーとしての成長や表現力の向上を存分に味わえる作品集なのかな。そう考えると、次作以降のカート脱退/ローランドのソロプロジェクト化も頷けるものがあります。

全体を通して前作以上に大人びた印象が強く、ワールドミュージック的な側面もありつつ、視点を変えるとプログレッシヴロック的にも聴こえてくる、そんな多彩さ/多面性を持つ傑作。ひとつのバンドが短い期間で急成長を遂げ、ひとつの頂点に到達した瞬間を克明に記録した、奇跡的な1枚と言えるでしょう。その結果、ローランド/カート体制はここで燃え尽きてしまうわけですが。そこから10数年を経て、ローランドがバンドに復帰したものの、2021年10月時点では初期3作に匹敵する作品は生み出せていません。

しかし、2022年2月25日に約17年ぶりのニューアルバム『THE TIPPING POINT』のリリースが決定。現在タイトルトラックが先行公開されており、初期2作の作風を現代的にブラッシュアップさせたような良曲ですが、これ1曲ではなんとも判断が難しいところ。ぜひともTFF本格復活!と声高に宣言したくなるような1枚に期待したいところです。

なお、本作からは日本でもさまざまなCMソングに起用された「Sowing The Seeds Of Love」(全米2位/全英5位)のほか、「Woman In Chains」(全米36位/全英26位)、「Advice For The Young At Heart」(全米89位/全英36位)、「Famous Last Words」(全英83位)といった個性的かつ斬新なヒットシングルが生まれています。シングル曲以外の4曲(本作のオリジナル仕様は全8曲と非常にコンパクト)も個性的な良曲ばかりなので、ぜひアルバムを通してじっくり向き合ってほしいところです。

 


▼TEARS FOR FEARS『THE SEEDS OF LOVE』
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2021年9月 5日 (日)

MOTLEY CRUE『DR. FEELGOOD (40TH ANNIVERSARY REMASTERED)』(2021)

2021年9月3日にリリースされた、MOTLEY CRUEの5thアルバム『DR. FEELGOOD』(1989年)最新リマスター盤。現時点ではフィジカルなしの、デジタル限定作品のようです。

今年6月に4th『GIRLS, GIRLS, GIRLS』(1987年)、3rd『THEATRE OF PAIN』(1985年)の最新リマスター盤を立て続けにリリースしたMOTLEY CRUEですが、今回もそれらの最新リマスター企画の一環として発表されたもの。バンド結成40周年を迎えた記念企画のようで、今年6月にはRecord Store Dayの一環で80年代の初期5作のカセットテープボックスセットを限定リリースしているので、今後は1st『TOO FAST FOR LOVE』(1981年)や2nd『SHOUT AT THE DEVIL』(1983年)の最新リマスターバージョンも配信されるかもしれませんね(追記:『SHOUT AT THE DEVIL』の最新リマスターが10月1日から配信とのことです)。

さて、これまで幾度となく再発されてきた本作。最後の再発/リイシューはリリース30周年(2019年)のタイミングでしたが、こちらの音源自体は2009年のリリース20周年記念エディションのものと一緒だった記憶があります。で、今回の最新リマスターですが、もともと尖った派手さが印象的だったボブ・ロックによるサウンドに、コンプを全体的にかけたような、1枚ベールで包んだような質感に変わっています。

今の耳で聴くと破裂音のようなドラムサウンドが派手すぎて、特にヘッドフォンやイヤフォンで聴く際に刺激が強すぎるように感じていたのですが、それが今風のバランス感でまとめられたことにより、だいぶ落ち着いて楽しめるような印象に変わりました。言ってしまえば、のちにニッキー・シックス(B)が嫉妬したという、同じボブ・ロックのプロデュースによるMETALLICAの5作目にして最大のヒット作『METALLICA』(1991年)のドラムサウンドに近づいたような感じでしょうか。

ただ、それでも今作が『METALLICA』にはなり得ない最大の特徴が、ミック・マーズによるギターサウンド。彼の特徴的なギターサウンドがジェイムズ・ヘットフィールド&カーク・ハメットのそれとは異なり、だいぶ人工甘味料の強いエフェクトがかけられた歪みのおかげで、MOTLEY CRUEらしい胡散臭さやいかがわしさが保てている……ような気がしてなりません。ミック・マーズ、偉大すぎます。

それでもオリジナルバージョンや前回、前々回のリマスターと比較しても全体のコンプのかかりかたがキツいのか、より平面的になって聴きやすくなったんじゃないかなと。スピーカーを通して大音量で聴く分には、過去のバージョンのほうがエッジが立っていてカッコいいと思うけど、イヤフォンで聴くことが増えた現在はこの最新バージョンが合っている。そういう「聴く環境の変化に合わせたバージョン選び」もできそうな気がしてきました。実際、各種ストリーミングサービスには旧バージョンも残っているので、自身の環境や耳に合った盤を選んでみてはいかがでしょう。

 


▼MOTLEY CRUE『DR. FEELGOOD (40TH ANNIVERSARY REMASTERED)』
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2021年1月28日 (木)

THE STONE ROSES『THE STONE ROSES』(1989)

1989年5月にリリースされたTHE STONE ROSESの1stアルバム。

国内盤初出時は『石と薔薇』の邦題だった記憶のある本作。本国ではこのアルバムより前に「Elephant Stone」(本作未収録)や「Made Of Stone」(全英90位)などのリリースが続き、アルバムからのリカットシングル「She Bangs The Drum」(同34位)や、アルバム未収録の新曲「Fools Gold」(同8位)や「One Love」(同4位)が立て続けにヒットしたことを受け、再発された「Elephant Stone」(同8位)、「Made Of Stone」(同20位)、「I Wanna Be Adored」(同20位)、新たに「Waterfall」(同27位)、「I Am The Resurrection」(同33位)がシングルカット。アルバム発売から2〜3年以上にわたり本作からの楽曲が何度も焼き増しされたこともあり、アルバム自体も全英5位/全米86位という数字を残しています。

このバンドもPIXIESのときに登場したアメリカからの友人が先にハマり、周りの“耳が早い”音楽ファンが続いてハマり、そこに巻き込まれる形で知ることになりました。カッコいいじゃないですか、STONEにROSESって完全に某“転がる石”某“銃と薔薇”をくっつけたようなイカした名前だし。どれだけ不良なんだよ!と喜んでダビングしてもらったカセット(笑)を再生したら……

 

 

 

 

 

 

 

 

え……このボーカル……これ、本気!?……本気出して歌ってる……!?

 

全然ハードロックじゃなかったし、なんなら不良の音でもない。過剰な期待をした自分が悪かったわけですけどね。

それでも頑張って最後まで聴きましたよ。オープニングの「I Wanna Be Adored」のバンドアンサンブルとジョン・スクワイア(G)のギタープレイには心を奪われましたし、続く「She Bangs The Drum」冒頭のマニ(B)のベースラインもカッコいい。「Waterfall」のサイケなポップ感も理解できるし、「Made Of Stone」や「I Am The Resurrection」のアレンジにはハードロック的な側面が感じられる。なんなら「I Am The Resurrection」は曲後半のインストパートこそ、このアルバムにおけるピークなんじゃないかと思えたほど。うん、“演奏は”最高にいいじゃないですか。

でもね、まだガキだった自分にはイアン・ブラウン(Vo)の超個性的なボーカルスタイルは受け入れられませんでした。リリース年に行われた初来日公演にも連れていかれましたが、パンパンのクラブチッタで聴くイアンの歌声は音源とは比べものにならないほどにフリースタイルすぎて、自分の理解の範疇を超えていたのです。結果、ライブ後半からフロアの外に出てしまった高校3年の自分(ファンの皆さんゴメンなさい。でもこれ事実なんです)。

本作リリースから5年後、契約のいざこざがありようやく完成した2ndアルバム『SECOND COMING』(1994年)の頃には、さすがに何度も聴き返していたこともあり、このボーカルに対する耐性も付き、さらにハードロック化したそのサウンドとともに素直に受け入れていた記憶はあります。が、そのポジティブさも、二度目の来日公演@日本武道館ですべて打ち砕かれることになるのですが(苦笑)。

ライブに関してはまったくいい思い出のないバンドではありますが、現在までに残された2枚のオリジナルアルバムは何だかんだいってお気に入りです。最初の腰砕けな思い出込みでね(笑)。

 


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2020年4月21日 (火)

JEFF BECK WITH TERRY BOZZIO AND TONY HYMAS『JEFF BECK'S GUITAR SHOP』(1989)

1989年10月にリリースされた、ジェフ・ベックのソロ名義で5作目のスタジオアルバム。JEFF BECK GROUPやBECK, BOGERT & APPICEでの活動も含めると、通算10作目のスタジオ作品となります。

僕自身が初めて手にしたジェフ・ベックのアルバムはこれでした。当時高校3年生、受験勉強の最中でしたが、よくアルバム(をダビングしたカセット)をリピートしていた記憶があります。インストものなので、言葉や歌が耳に入ってこないので、勉強が捗ったなぁ……(ウソ。個々のプレイに惹きつけられて、ギターを手にしてコピーにトライしていたような)。

テリー・ボジオ(Dr)、トニー・ハイマス(Key)というトリオ編成で制作された本作は、ジャケットやそのタイトルから想像できるような「ギターインストの改造工場」みたいな内容で、オープニングの「Guitar Shop」やCMソングにも起用された「Stand On It」のようにどこか機械的な印象を受けるクールなナンバーと、「Where Were You」みたいにベックのエモーショナルなギターを前面に打ち出したスローナンバー、「Savoy」や「Behind The Veil」での肉感的なアンサンブルなど、ギターサウンド/ギタープレイ/ギターインストを新たな次元へと昇華させようとする強い意思が感じ取れます。

そういった「従来のギターインスト・アルバムから離れよう」とする姿勢が、普段あまりその手の作品を聴いていなかった当時高校生の自分にもヒットしたんでしょうね。もちろん、そこは盟友トニー・ハイマスの手腕と、奇才テリー・ボジオのテクニック/アイデアが良い方向に作用したことも大きな要因ですし、なによりも最新のテクノロジーやサウンドと向き合うベックの好奇心旺盛なスタイルがあってこそ。僕自身がギターを弾く上では、テクニック的にまったくといっていいほど影響を受けていないジェフ・ベックですが、自分が音楽をする際にギタリストに求めるもの、あるいはリスナーとしてギタリストに求めるものとしては“ジェフ・ベック的なもの”の比重は非常に大きく、そのベースになっているのは確実にこの1枚だと確信しております。

だから、彼のアルバムの中でも格別に好きなのは『WHO ELSE!』(1999年)以降の作品ばかり。JEFF BECK GROUPを聴くのはコージー・パウエル(Dr)目当てですからね(苦笑)。

リリースから30年以上経過した今聴くと、すでにテクノロジー的にも前時代なものに感じますし、若干バブリーなサウンド面にも時の流れを感じずにはいられませんが、それでも“あのタイミングに、この3人にしか作り上げられなかった奇跡”であることには変わりありません。普段メタリックな音楽を愛聴しているリスナーにもストレートに響く、ギターインスト・アルバムの傑作のひとつです。

 


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