カテゴリー「1990年の作品」の52件の記事

2019年4月23日 (火)

INXS『X』(1990)

1990年9月(日本は同年10月)に発表された、INXS通算7作目のオリジナルアルバム。「Suicide Blonde」(全米9位)、「Disappear」(同8位)、「Bitter Tears」(同46位)というヒットシングルが生まれ、アルバム自体も全米5位、200万枚以上を売り上げるヒット作となりました。

6thアルバム『KICK』(1987年)のメガヒット(「Need You Tonight」の全米1位、およびアルバムの600万枚を超えるセールス)を経て、バンドは大々的なワールドツアーを展開。結果として、次作発表までに3年もの月日を要することとなってしまいました。

プロデューサーには『LISTEN LIKE THIEVES』(1985年)、『KICK』という英米でのブレイクを作ったクリス・トーマス(PINK FLOYDROXY MUSICSEX PISTOLSU2など)が三度担当。ダンサブルな側面を見せつつもロックバンド然とした佇まいや骨格が強みだった前作や前々作から一転、本作ではロック色は残しつつもそれ以上にダンスミュージックやブラックミュージックからの影響が余すところなく表現され、当時流行していたクラブミュージックのフレイバーを散りばめられたグルーヴィーな1枚となっています。

ひたすらファンキーでダンサブルな「Suicide Blonde」を筆頭に、『LISTEN LIKE THIEVES』より前のこのバンドのカラーが見え隠れする「The Stairs」や「Faith In Each Other」からは単なる焼き直しではない、大人になった彼ららしいセクシーさ、ダンディズムみたいなものが伝わってきます。

かと思えば、前作の延長線上にあるブルージーかつエモーショナルなソウルバラード「By My Side」や黒っぽいロック「Bitter Tears」、若干のダークさが見え隠れするダンスロック「Lately」、余裕すら感じられる大人のロック「On My Way」や「Hear That Sound」も残されている。『KICK』にあった豪快さや奔放さは後退したものの、このアダルト感は彼らにとって新たな武器になったことは間違いありません。実際、時代もそういった方向にシフトしつつありましたしね。

特にアメリカでは、セールス面でのピークは本作まで。シーン的にもグランジやヒップホップ主流の時代に突入していくことで、彼らのようなロックバンドは苦戦を強いられることになります。が、作品の充実度でいえば、次作『WELCOME TO WHEREVER YOU ARE』(1992年)での覚醒が控えているだけに、本作は『KICK』との狭間で若干インパクトが弱く感じてしまうかもしれません。そういった過渡期の1枚だからこそ、実はいろんな実験やチャレンジが見え隠れする、絶対に聴いておきたい作品なんですけどね。

 


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2019年4月19日 (金)

DEATH ANGEL『ACT III』(1990)

1990年4月(日本では5月)にリリースされた、DEATH ANGELの3rdアルバム。過去2作をインディーズ(メジャー流通)のEnigma Recordsから発表してきた彼らでしたが、本作はメジャーのGeffen Recordsから発表。それもこれも、前作『FROLIC THROUGH THE PARK』(1998年)の全米143位という数字と、「Bored」がMTVでヘヴィローテーションされたことが大きかったんでしょうね。ですが、何を間違ったか今作『ACT III』はBillboard 200にランクインせず。えーっ。

プロデューサーにかのマックス・ノーマン(オジー・オズボーンMEGADETHLOUDNESSなど)を迎えて制作した本作。かなり緻密に作り込まれており、なおかつ彼らの新たな魅力が感じられる意欲作に仕上げられています。

全10曲で45分というコンパクトさ(前作は60分近い内容)といい、オープニングを飾るスラッシーな「Seemingly Endless Time」からテンポよく進む構成といい、とにかく聴きやすい。“これぞベイエリア・クランチ!”と言いたくなるようなロブ・キャヴェスタニィ(G)&ガス・ペパ(G)によるリフの刻み・組み立て方がとにかく個性的。かつ、ロブのギターソロが味わい深く、同時期に活動していた他のスラッシュバンドとは異なる色が感じられます。その色は、アコースティックベースの「Veil Of Deception」や「A Room With A View」あたりに濃厚に表れているのではないでしょうか。

かと思うと、リズム隊もまた個性的でして、スラップを取り入れたデニス・ペパ(B)のベースプレイや、当時まだ10代後半だったアンディ・ギャレオン(Dr)のパーカッシヴなプレイもできる高度なドラミングは、確実に他のスラッシュメタルバンドとは一線を画するものでした。すでにレッチリなどは存在したとはいえ、KORNが登場する4年も前に彼らは「Discontinued」のようなファンキーなメタルに挑戦していたのですから……。

もちろん、ボーカルのマーク・オセグエダ(Vo)も良い仕事をしていて、しっかり“歌おう”とする姿勢は“がなる”のが基本になりつつあったスラッシュシーンにおいて異彩を放っています。また、歌い上げるタイプのANTHRAXあたりとも違うスタイルで、実はのちのオルタナメタルやグランジとの親和性も高かったんじゃないか。そんな気すらします。

スラッシュメタルとしては飛び道具的な楽曲も含むもののトータルのバランスは過去イチで、より王道なヘヴィメタルへと近づいた本作。間違いなくこの時点での最高傑作だと思います。ですが、最初に書いたようにセールス的には惨敗しており、ここから続けていけば1991年以降のシーンの変化にも対応できたんじゃないか?と思うのですが……。

(以下、余談)本作のツアー中にアンディがツアーバスの事故に巻き込まれ、頭部損傷。バンドは活動休止に追い込まれてしまいました。そしてアンディが復帰した1993年には、今度はマークが脱退。残された4人はバンド名をTHE ORGANIZATIONと変え、ロブ&アンディがボーカルを担当することに。サウンド的にはスラッシュ色を排除してオルタナ色を強めた、ある意味では『ACT III』の“その先”のようなスタイルでした。まあ、時代的には迷走と言わざるを得ませんが……(余談、ここまで)。

なお、本作は日本でのデジタル配信およびストリーミングなし。こんな名盤がスルーされているなんて、勿体ないったらありゃしない!

 


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2019年2月28日 (木)

HEART『BRIGADE』(1990)

1990年3月に発表された、HEART通算10作目のオリジナルアルバム。再ブレイクのきっかけとなったメガヒット作『HEART』(1985年)、それをフォローアップする『BAD ANIMALS』(1987年)の流れを汲む“80’s路線”の最終作で、全米3位まで上昇し200万枚を超えるヒット作となりました。また、本作からは「All I Wanna Do Is Make Love To You」(全米2位)という代表曲が生まれたほか、「I Didn't Want To Need You」(同23位)、「Stranded」(同13位)、「Secret」(同64位)がシングルカットされています。

過去2作を手がけたロン・ネヴィソン(オジー・オスボーン、http://www.tmq-web.com/europe/index.html、KISS、SURVIVORなど)から離れ、今作ではリッチー・ズィトー(CHEAP TRICKBAD ENGLISHPOISONMR. BIGなど)がプロデュースを担当。前作『BAD ANIMALS』以上にツルツルにブラッシュアップした産業ロックサウンドで構築された、非常に高品質なロック/ポップアルバムに仕上げられています。

また、恒例となった外部ソングライターの起用もさらに強化され、DEF LEPPARDブライアン・アダムスで知られるジョン・マット・ラングを筆頭に、ホリー・ナイトやアルバート・ハモンド、ダイアン・ウォーレン、トム・ケリー、ビリー・スタインバーグなどそうそうたるメンツが参加。さらに、HEART初期作品からおなじみのスー・アニスにくわえ、メンバーのデニー・カーマッシ(Dr)のMONTROSE時代の盟友であるサミー・ヘイガー(当時はVAN HELEN在籍)や、そのサミーのソロバンドのメンバーであるジェシ・ハームズなどの名前もクレジットに見つけることができます。

先に「非常に高品質なロック/ポップアルバム」と書きましたが、もちろんハードロック的側面を持つ楽曲も残っています。それはオープニングの「Wild Child」やブラスサウンドをフィーチャーした「Talk, Dark Handsome Stranger」、ヘヴィなミドルナンバー「The Night」あたりから感じることができるでしょう。しかし、それも“80年代のAEROSMITH”的範疇に収まるもの、と言えばなんとなくご理解いただけるのではないでしょうか。その“適度さ”や“程よさ”はある一定の枠からはみ出しておらず、そこに物足りなさを感じるリスナーもいるかもしれません。

とはいえ良曲目白押しなので、そういった点では貶しようが一切なし。アン・ウィルソン(Vo)の圧倒的な歌声も健在だし、「All I Wanna Do Is Make Love To You」みたいにロック/ポップス両サイドで完全無敵な存在感を示す1曲も存在する。完全にやり切った感の強い1枚なんじゃないでしょうか。そういった意味では(タイミング的なものもありますが)、僕的にはAEROSMITHの『PUMP』(1989年)と並ぶ傑作だと思っています。



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2018年8月14日 (火)

QUEENSRYCHE『EMPIRE』(1990)

1990年9月にリリースされたQUEENSRYCHEの4thアルバム。前作『OPERATION: MINDCRIME』(1988年)が全米50位止まりながらも、「I Don't Believe In Love」や「Eyes Of A Stranger」のラジオヒットを受けて100万枚をヒット作となり、満を持して発表された次作『EMPIRE』は全米7位、300万枚以上もの好セールスを記録しました。また、本作からは「Silent Lucidity」(全米9位)というヒットシングルも生まれ、ほかにも「Empire」「Jet City Woman」などがラジオヒットとなりました。

プログレッシヴロックの影響下にあるテクニカルなヘヴィメタル。QUEENSRYCHEにはそういったイメージがありましたが、特に『OPERATION: MINDCRIME』はコンセプトアルバムだったこともあり、そのイメージがさらに強まったと思います。そんな彼らが、これに続く『EMPIRE』で示したのは、良い意味での“ヘヴィメタルバンドからの脱却”だったのではないでしょうか。

もちろん、聴けばHR/HMの範疇にあるサウンドなのですが、そのひんやりとしていてモダンなスタイルは、ヘヴィメタルというよりはハードロックと呼ぶほうがぴったり合うのではないでしょうか。彼らは続く『PROMISED LAND』(1994年)、『HEAR IN THE NOW FRONTIER』(1997年)でグランジやオルタナティヴロックのテイストを強めていき、完全にヘヴィメタルバンドからの脱却に成功しますが、この『EMPIRE』はその間にある過渡期的1枚と言えるかもしれません。

しかし、過渡期とは言うもののその内容・完成度には目を見張るものがあり、ある意味では前作『OPERATION: MINDCRIME』以上のクオリティと言えるでしょう。RUSHほどテクニカルではなく、DREAM THEATERほどメタリック、ドラマチックではない。その適度さがこのアルバムの魅力であり、HR/HMブームとグランジブームの間(はざま)を象徴するような作風と言えるのではないでしょうか。

個人的には「Della Brown」や「Anybody Listening?」といったスローナンバー、エモーショナルさが本作の中でも際立つ「Jet City Woman」「Another Rainy Day (Without You)」、そしてひんやりとしたヘヴィロック「Empire」あたりがお気に入り。もちろん、シングルヒットしたバラード「Silent Lucidity」も嫌いじゃありません。

『OPERATION: MINDCRIME』はストーリー性が強いせいもあり、頭から最後まで通して聴かなくちゃ……的な使命感が強い1枚でしたが、この『EMPIRE』は個々の曲にストーリーがあるものの(しかもその物語が、銃規制や環境問題などシリアスなものが多い)、単曲で気楽に楽しめる作品集ではないかなと。とはいえ、作風のシリアスさもあって、そこまで気楽に楽しめるといった感じでもないんですけどね。



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2018年7月26日 (木)

DEPECHE MODE『VIOLATOR』(1990)

1990年3月にリリースされたDEPECHE MODE通算7枚目のスタジオアルバム。前作『MUSIC FOR THE MASSES』(1987年)がアメリカでウケたこともあり、同作のワールドツアーは大成功のうちに幕を下ろし、そのライブの音源を収めた2枚組ライブアルバム『101』(1989年)もスマッシュヒットに。

続く新作に先駆けて、バンドは1989年夏に新作シングル「Personal Jesus」を発表。この曲が全英13位、全米28位という好成績の残し、翌年春発売のアルバム『VIOLATOR』は全英2位、全米7位という大ヒットを記録しました。また、同作からは「Enjoy The Silence」(全英6位、全米8位)、「Policy Of Truth」(全英16位、全米15位)、「World In My Eyes」(全英17位、全米52位)といったヒットシングルも次々に生まれ、アルバム自体もアメリカで300万枚以上を売り上げる最大のヒット作となりました。

全体的に激しさや感情の揺さぶりが少ない作風で、終始ダークで穏やかな雰囲気の中進行していくものの、メロディ自体は非常にポップ。何度か聴いているうちに口ずさめてしまう楽曲ばかりで、それが上記のシングルヒットに結びついたことは想像に難しくありません。

また、楽曲自体はダークでもサウンドはどこか温かみのあるもので、完全なるデジタルというよりはアナログシンセなどのふくよかさが好影響を及ぼしているようです。「Personal Jesus」などで用いたギターサウンドも、その一因と言えるでしょう。

こういった要素は、のちに始まるオルタナロック/グランジの最盛期にもつながっていき、バンドはより大きな人気を獲得することになります。

そして、デイヴ・ガーン(Vo)の歌声もより艶を増し、いよいよ本格的なカリスマ化が進みます。これも彼らに人気に拍車をかけることになり、単なる“イギリスのエレポッップバンド”から“世界を代表するアリーナバンド”へと成長していくわけです。前作で提示した“大衆のための音楽”(=『MUSIC FOR THE MASSES』)が、ここでついに現実のものとなったのです。

リリースから30年近く経った今聴き返しても、サウンドに古臭さを感じることもなく、楽曲自体がどれも優れている。この手の音楽ってテクノロジーの進化とともに時代的劣化が否めないところもあるのですが、このアルバムと続く『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』(1993年)にそれを感じないのは“ロック的”だからなのかもしれません。



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2018年7月16日 (月)

TESLA『FIVE MAN ACOUSTICAL JAM』(1990)

海外で1990年11月に、日本では1991年7月にリリースされたTESLAのアコースティックライブアルバム。2ndアルバム『THE GREAT RADIO CONTROVERSY』(1989年)が全米だけで200万枚を超えるヒット作となり、同作からのバラード「Love Song」がシングルとして全米10位を記録。また、アコースティックギターを効果的に用いた「Heaven's Trail (No Way Out)」もラジオヒットしていたし、それ以前にもアコースティックギターを前面に打ち出した「Little Suzi」がシングルヒット(全米91位)と、なんとなくTESLAというバンドの印象の中にアコースティック楽器が存在していました。

そして、『MTV UNPLUGGED』のスタートと同時にアコースティック主体のアレンジが支持を集め始める(これはBON JOVIの「Wanted Dead Or Alive」のヒットが大きいと言われています)。バンドのスタイルと時代が見事合致したわけです……そりゃあアコースティックライブ、やりますよね? やらないほうがおかしい。というわけで、バンドは1990年7月にアコースティックツアーを小箱中心に敢行。自身のオリジナル曲のみならず、バンドのルーツとなるカバー曲もたっぷり披露されました。

まず驚かされるのが、オープニングの「Comin' Atcha Live / Truckin'」。自身のオリジナルナンバーとGRATEFUL DEADカバーのメドレーなのですが、ライブのオープニングで披露されることの多い前者が完全に別モノに生まれ変わっている。このアレンジ力にまず圧倒されるし、そこからGRATEFUL DEADへとつなげるアイデアもさすが(きっとこちらに合わせてアレンジしたんでしょうね)。

本作ではほかにも、シングルカットされ全米8位のヒットとなった「Signs」(原曲はFIVE MAN ELECTRIC BAND。本アルバムタイトルの元ネタですね)や、THE BEATLESの「We Can Work It Out」、THE ROLLING STONESの「Mother's Little Helper」、CCRの「Lodi」といったカバーも披露されています。いわゆるHR/HM的な楽曲は皆無で、このセレクトからもTESLAというバンドがどういう流れで生まれたのかが伺えるのではないでしょうか。

もちろん、オリジナル曲のアコースティックアレンジも新鮮かつ斬新なものが多く、聴きごたえバッチリ。ハードロックバラード的なドラマチックさを持つ原曲とは異なる趣の「Paradise」、王道ハードロック的代表曲をアコギのみで表現した「Modern Day Cowboy」、途中からエレキギターソロが加わる10分近くにもおよぶ名演を楽しめる「Love Song」……やっぱり元となる楽曲のメロディがいかに優れているか、それがすべてなわけですよ。なんでもかんでもアコギでやればいいってわけではないのです。

本作はアルバム自体も全米12位まで上昇し、ミリオンセールスを記録。海外でのヒットをよそに、ここ日本ではリリースが半年以上遅れたわけですが……これは国内配給元の変更などが災いしたわけで……ちゃんとプロモーションしてほしかったですね。1990年って、HR/HMシーンにとっては本当に重要な1年だったので。ここ日本においてはそれだけが残念でなりません。



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2018年7月14日 (土)

CINDERELLA『HEARTBREAK STATION』(1990)

1990年11月に発表されたCINDERELLA通算3作目のスタジオアルバム。トム・キーファー(Vo, G)とジョン・ジャンセン(BANG TANGO、LOVE/HATE、BRITNY FOX、FASTER PUSSYCATなど)との共同プロデュースで制作された本作は、前作『LONG COLD WINTER』(1988年)で垣間見せたレイドバック路線をより推し進めた、ルーツミュージック色の強い作風に仕上がっています。

オープニングを飾る「The More Things Change」や「Love's Got Me Doin' Time」ではブラスをフィーチャーしており、ギタープレイもHR/HMのそれとは異なるアーシーなスタイル。ボーカルさえ違えば、例えばTHE BLACK CROWES周辺のバンドと言われても不思議じゃないくらい。もはやデビュー作『NIGHT SONGS』(1986年)とは別モノになってしまった印象すらあります。

さらにアルバムでは、シングルカットされた「Shelter Me」(全米36位)や「Heartbreak Station」(全米44位)などでサザンロックやブルースロック的な側面も提示。特に「Shelter Me」ではサックスがソロを取ったり女性コーラス隊をフィーチャーすることで、完全にハードロックの枠から飛び抜けることに成功しています。「Sick For The Cure」のオープニングなんて、完全にストーンズの「Honky Tonk Women」ですものね。

また、トム・キーファーも前作のオープニング曲「Bad Seamstress Blues」で少しだけ聴かせてくれた“地声”での歌唱を、本作中でも「Heartbreak Station」や「One For Rock & Roll」「Dead Man's Road」「Electric Love」「Winds Of Change」(名曲!)といった楽曲でフィーチャー。ジャニス・ジョプリン並みに暑苦しいハイトーンが減ったことで、また作風的にもアコースティックテイストが増したことで、過去2作以上にリラックスして楽しむことができます。トムの地声、僕は好きなんですけどね。

ちょうど本作リリースと前後して、先に名前を挙げたTHE BLACK CROWESがデビューアルバム『SHAKE YOUR MONEY MAKER』(1990年)で大ブレイクしたり、イギリスからはTHE QUIREBOYSが登場したり、また音楽シーン的にも『MTV UNPLUGGED』がヒットしたりと、時代がより“生音”を求める方向にシフトしていたこともあり、チャート的には全米19位、100万枚のヒットと過去2作には及ばなかったものの、それでも好意的に受け入れられた印象が強い1枚なのです。

個人的ベストは、『NIGHT SONGS』と本作の中間に位置する2ndアルバム『LONG COLD WINTER』ですが、この『HEARTBREAK STATION』も非常に好みの作品です。

あ、最後に。過去2枚では散々な扱いを受けてきたドラマーのフレッド・コウリー、本作では初めてすべてのドラムパートを担当しております。おめでとう!(これが最初で最後でしたが。苦笑)



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2018年7月13日 (金)

WARRANT『CHERRY PIE』(1990)

1990年9月にリリースされたWARRANTの2ndアルバム。前年1月に発売されたデビューアルバム『DIRTY ROTTEN FILTHY STINKING RICH』(1989年)が全米10位、200万枚を超えるヒット作となり、シングルカットされた「Heaven」も全米2位という大ヒットを記録。これを受けて早くも制作された次作では、引き続きボー・ヒル(RATTWINGEREUROPEなど)をプロデューサーに迎え、よりタフになったサウンドを聴かせてくれます。

日本盤には『いけないチェリー・パイ』というLAメタル/ヘアメタルらしい“いかにも”なタイトルが付けられています。実際、このアートワークを目にしたら、まあそういうアルバムなんだろうなと思われてしまうでしょう。

しかし、アルバムのオープニングを飾るタイトルトラック「Cherry Pie」の、前作までのキャッチーさを兼ね備えつつもよりハードになったそのスタイルに驚かされるのではないでしょうか。QUEENの「We Will Rock You」やDEF LEPPARDの大ヒット曲「Pour Some Sugar On Me」を彷彿とさせるリズムとテイストは、まさにスタジアムロックと呼ぶにふさわしい仕上がりで、この曲自体も全米10位のヒットシングルとなります。

アルバムはその後も枯れたギターフレーズと激しくタイトなアンサンブルな単純にカッコいい「Uncle Tom's Cabin」(全米78位)、アコギとピアノの相性も抜群の大人びたバラード「I Saw Red」(全米10位)と、前作にあったパーティロック感が薄らいでいることを感じさせる作風が続きます。

かと思えば、ポップなメロディが印象に残るストレートな「Bed Of Roses」、アップテンポのハードロック「Sure Feels Good on Me」、前作の延長線上にあるパーティチューン「Love In Stereo」など、1stアルバムをイメージさせる楽曲も混在。そういった従来のカラーと、渋みの増したバラード「Blind Faith」(全米88位)などが共存することで、前作までのファンを維持しつつ、WARRANTにネガティブな印象を持つリスナーを“音楽的に”取り込もうとする新境地も見せる。バンドとしても今後の生き残りを賭けて、「ただ楽しいだけじゃない」側面をしっかりここでアピールしているわけです。それが、本作を覆うクールな空気感なわけです(ラストの「Ode To Tipper Gore」は完全に蛇足ですけどね。自己満足でしかないし、我々はこれをあなたたちには求めていないのに、って伝えたい)。

思えば本作より数ヶ月先に発表されたPOISONの新作『FLESH & BLOOD』もそういう作風でしたし、パーティに明け暮れた80年代を終え、あの時代を華やかに彩ったHR/HMバンドたちが次の10年を駆け抜けるために次のステップに向かった……その足がかりだったんでしょうね。

しかし、時代は80年代の生き残りよりも新たなヒーローを求めた。それが“アンチ・ヒロイズム”的なグランジシーンへとつながったわけですから……クールやシリアスまでは正解だったんだけど。うん、残念でしたね。

にしてもこのアルバム、本当によく考えられています。デビューアルバムの完成度の高さも策士ジェイニー・レイン(Vo)によるものが大きかった気がしますが、本作の方向性も彼のアイデアだったんですかね。だとしたら、いい線行ってたわけですよ。彼らの登場ももう5年早かったら、その後の結果もまた違ったのかもしれませんが……。

とはいえ、本作は前作を上回る全米7位まで上昇し、200万枚を超えるセールスを達成しています。時代の変化もあり、彼らの全盛期は本作までということになるのでしょうか。あ、大きなヒットにはならなかった次作『DOG EAT DOG』(1992年)もなかなかの力作ですよ。機会があったら、こちらもぜひ。



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2018年7月11日 (水)

SCORPIONS『CRAZY WORLD』(1990)

1990年11月にリリースされた、SCORPIONS通算11枚目のオリジナルアルバム。それまで同郷のエンジニアであるディーター・ダークスとともに制作を進めてきたバンドが、初めてアメリカのプロデューサーであるキース・オルセン(オジー・オズボーンWHITESNAKEEUROPEなど)を迎えて完成させた1枚です。

サウンドや楽曲の質感は、大成功を収めた『LOVE AT FIRST STING』(1984年)と、それに続く『SAVAGE AMUSEMENT』(1988年)の延長線上にあるもの。ですが、本作では過去2作に残っていたヘヴィメタル的側面を極力排除し、「良質なメロディに重点を置いたハードロック」という点に注力した内容になっています。もしかしたらポップでメロウな楽曲を好むものの『LOVE AT FIRST STING』路線が好きだったというリスナーには、若干“軽く”感じるかもしれません。

楽曲制作面では、ブライアン・アダムスHEARTなどで知られるジム・ヴァランスを迎えています。そう知ると「なるほど」と納得できるものがあるかもしれません。実際、僕はジム・ヴァランスが参加していることを知らずに本作を聴いて、「なんだかHEARTみたいになってきたなぁ」と思ったものですから……彼らの中にそういった意図があったかどうかはわかりませんけど。

ですが、楽曲の完成度やアルバムとしてのまとまりは非常に高いものがあります。「Tease Me Please Me」「Don't Believe Her」というオープニング2曲の軽やかさ、メロディアスさはさすがの一言だし、全米4位のみならず世界中で大ヒットした名バラード「Wind Of Change」もポップソングとして非常に優れた1曲ですし。かと思えばアップテンポなロックチューン「Kicks After Six」「Hit Between The Eyes」のような疾走感も兼ね備えている。メタリックなノリとは異なるロックンロールなノリだけど、これはこれで良いじゃないですか。で、ラストには“以前の”SCORPIONSらしさを引き継ぐ泣きメロバラード「Send Me An Angel」も用意されている。どの曲も過剰なドラマチックさは皆無だけど、幅広い層を取り込む求心力がたっぷり感じられる。そういった意味での“非の打ち所のなさ”は抜群すぎるものがあると思います。

正直言えば、リリース当時はそこまで好きなアルバムではありませんでした。が、ベルリンの壁崩壊をはじめとした世界情勢の大きな変動を踏まえた上で、なぜ「Wind Of Change」が世界中でヒットしたのか、そしてドイツのバンドである彼らがなぜこのアルバムに『CRAZY WORLD』というタイトルを冠したのか。そういったことを考えてから再び本作と接すると、また感じ方が変わってきたのも確か。90年代初頭という時代に産み落とされたからこそ意味のある、そんな1枚なのかもしれませんね。



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2018年7月10日 (火)

AC/DC『THE RAZORS EDGE』(1990)

サッカーW杯が始まってから、CMでよく耳にするAC/DC「Are You Ready」。HR/HMファンなら「えっ?」って振り返ってしまうと思うんです。事実、僕も何度このCMと直面しても「えっ?」って画面に釘付けになってしまいますから。これ、コカ・コーラFIFAワールドカップキャンペーン「Stock Up」編CMにて使用されているとのこと。YouTubeにもCM動画が公開されています。→W杯終了と同時に、動画は削除されたようです。

ということで今回はこの「Are You Ready」が収録されている、1990年9月リリースのAC/DC通算11作目(本国オーストラリアでは12作目)のスタジオアルバム『THE RAZORS EDGE』をピックアップしたいと思います。

前作『BLOW UP YOUR VIDEO』(1988年)で全米12位、全英2位と本格的に復活を果たしたAC/DCですが、続く『THE RAZORS EDGE』ではその人気をさらに確固たるものとします。プロデューサーに迎えたのはBON JOVIAEROSMITHなどでおなじみの“時の人”ブルース・フェアバーン。その組み合わせに最初こそ度肝を抜かれましたが、いざ完成したアルバムを聴くと「なるほど!」と思わずにはいられないキャッチーさ納得させられます。

おそらくブルースはかなりアレンジ面に口を挟んだんじゃないかと思うのです。例えばオープニングを飾る「Thunderstruck」にしても、リフ自体はアンガス・ヤング(G)の手癖的プレイの延長ですが、それをここまでシークエンスさせて引っ張るアレンジはブルースのアイデアだったのではないでしょうか。結果、それにより非常にモダンさが強まり、またドラマチックさを演出する上でもかなり効果的だったように思います。今やスポーツ観戦にも欠かせない1曲になりましたからね。

それ以外の楽曲も非常にポップでコンパクト。シングルヒットした「Moneytalks」(全米23位)や「Mistress For Christmas」、そして先の「Are You Ready」のような曲はもちろんのこと、アップテンポな「Fire Your Guns」やヘヴィな「The Razors Edge」ですらポップさを兼ね備えているのですから。

では、ポップになってことで彼らがヤワになったのか?と問われると、実はまったくそんなことはなく。名盤『BACK IN BLACK』(1980年)とは異なる質感のヘヴィさはしっかり表現されていると思います。

が、それ以上にポップさやキャッチーさが強く前面に打ち出されている。それが全米2位(500万枚以上のセールスを記録)、全英4位という数字に裏打ちされているのではないでしょうか。本作は「AC/DCはちょっと苦手……」というリスナーにも、もしかしたら受け入れてもらえる可能性の高い1枚かもしれません。



▼AC/DC『THE RAZORS EDGE』
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