1990年10月にシングル「She's So High」(全英48位)でデビューを果たしたBLUR。続く1991年4月発売の2ndシングル「There's No Other Way」(同8位)、7月発売の3rdシングル「Bang」(同24位)とスマッシュヒットを連発し、アルバム自体も最高7位という新人としては上出来な成績を残しています。
以降も長きにわたりタッグを組むスティーヴン・ストリート(THE SMITHS、モリッシー、THE CRAMBERRIESなど)が全体像をまとめる役割を果たした本作は、次作『MODERN LIFE IS RUBBISH』(1993年)以降に色濃く表れる王道ブリティッシュロック色&ストレンジなポップ感こそ完全開花してはいないものの、それでも独自性が随所に見受けられる良質な1枚。今聴くとBLURの王道からは若干逸れるかもしれませんが、これはこれとして楽しめる内容ではないでしょうか。
サイケデリックさと浮遊感が同居する「She's So High」や「Bad Day」、ダンサブルなビートが心地よい「Bang」や「There's No Other Way」あたりからは、当時ブレイクしていたTHE STONE ROSES以降の流れを汲むスタイルで、その後の彼らとは多少色が異なるかな。また「Slow Down」を筆頭に、MY BLOODY VALENTINEなどシューゲイザー影響下にあるオルタナ感も1991年という時代ならではか。こういった曲を聴くと、まだまだ彼ららしい個性が掴みきれていなかったんだなと再認識させられます。
2022年のうちに振り返っておきたいと思ったのが、マイケル・ジャクソン最大のヒット作にしてポップミュージック界における歴史的名盤『THRILLER』(1982年)について。自分は世代的に『THRILLER』バカ売れ期の末端にギリギリ触れており、当時のMTV(地上波時代ね)や『ベストヒットUSA』、『SONY MUSIC TV』を録画して「Thriller」のショートフィルムや「Beat It」「Billie Jean」のMVを何度もリピートしたものです。
そんなこんなで、今年で『THRILLER』リリースから40年。アニバーサリー盤も発売されましたが、個人的には25周年盤のときの盛り上がりと比べるとやや気持ちが劣りますが(そりゃあマイケル生前でしたからね、25周年のタイミングは)、周年タイミングに取り上げておかなくちゃなと思いながらも、年末に向けての繁忙期でまったく触れる機会がなく、気づけば大晦日。時間も多少できたので、やるなら徹底したいなと思い、マイケルのソロキャリア黄金期の始まりといえる『OFF THE WALL』(1979年)から『DANGEROUS』(1991年)までの(個人的思い入れの強い)4作品について、コンパクトな形で触れていこうかなと思います。
古巣Motown Recordsを離れ、Epic Recordsへ移籍しての第1弾アルバム。意外にも全米チャートでは最高3位と1位を獲得していませんが、「Don't Stop 'Til You Get Enough」「Rock with You」とシングル2作連続全米1位を獲得し、ほかにも「Off The Wall」(同10位)、「She's Out Of My Life」(同10位)とヒット曲を連発し、アルバム自体は現在までにアメリカで900万枚以上、全世界で2000万枚以上の売り上げを記録しました。
初めてマイケル主導で制作されたアルバムであり、プロデューサーにはクインシー・ジョーンズを起用。ソングライター陣もポール・マッカートニー(「Girlfriend」)やスティーヴィー・ワンダー(「I Can't Help It」)、デヴィット・フォスター(「It's The Falling In Love」)などソウル/R&Bに捉われない幅広い人選で自身の表現の幅を広げています。
大ヒットした「Don't Stop 'Til You Get Enough」「Rock with You」のようなソウル/ディスコをベースにした楽曲はもちろんのこと、全体を通してポップフィールドでも通用する曲作りが徹底され始めたのがこの時期なのかな。ただ、続く『THRILLER』以降と比べると全体の統一感が強いことから、まだまだ“ブラックミュージックの範疇”というイメージが強いかもしれません。だからこそ、より気持ちよく楽しめる“アルバム”という印象が、彼の作品中もっとも強いのですが(以降の作品は良くも悪くも“プレイリスト”的なのかなと)。
前作から引き続きクインシー・ジョーンズを共同プロデューサーに起用。ソングライターに前作から引き続きのロッド・テンパートンに加え、スティーヴ・ポーカロ(TOTO)&ジョン・ベティス(「Human Nature」)やジェイムズ・イングラム(「P.Y.T. (Pretty Young Thing)」)などを起用。また、アルバムから漏れたアウトテイクの中にはマイケル・センベロが関わった「Carousel」や、Yellow Magic Orchestraの楽曲に新たに歌詞を付けた「Behind The Mask」などが含まれていたことも話題になりました。
また、ゲストアーティストのメンツも多彩で、「The Girl Is Mine」ではポール・マッカートニーとのデュエットを展開(同時期にポール側が発表した「Say Say Say」でも2人のデュエットを披露)。「Beat It」のギターソロではエディ・ヴァン・ヘイレン(VAN HALEN)をフィーチャー(かつ、リードギターをTOTOのスティーヴ・ルカサーが担当、ドラムもTOTOのジェフ・ポーカロがプレイ)したことでも話題となりました。
本作からは「The Girl Is Mine」(全米2位)、「Billie Jean」(同1位)、「Beat It」(同1位)、「Wanna Be Startin' Somethin'」(同5位)、「Human Nature」(同7位)、「P.Y.T. (Pretty Young Thing)」(同10位)、「Thriller」(同4位)とアルバム収録曲9曲中7曲がシングルヒット。オリジナルアルバムながらもグレイテストヒッツ的側面も強く、そういった意味でも(結果的に)プレイリストの先駆け的な1枚と言えるのではないでしょうか。
音楽的にも前作『OFF THE WALL』での方向性を推し進めつつ、ポップ色をより強めた「The Girl Is Mine」、ハードロックギターを採用した「Beat It」(さらに、アルバム未収録ながらもテクノ色を取り入れた「Behind The Mask」)など、“ポップ”を軸足により幅広いフィールドで戦おうという前向きさが伝わります。また、当時主流となり始めたミュージックビデオ制作にも果敢に取り組み、約14分にもおよぶ当時としては異例の大作「Thriller」が大反響を呼ぶなど、今や当たり前となった“音楽への映像の積極的導入”における先駆者的作品とも言えます。
正直、サザンロックの範疇から若干はみ出しているような印象も受け、それが聴きやすさにもつながっており、自分のようなサザンロックに苦手意識を持っていた若輩リスナーには触れやすかった記憶があります。オープニングを飾る「Smokestack Lightning」のアップテンポ感は完全にアメリカンハードロック寄りですし、「Southern Women」や「Backstreet Crawle」におけるファンキーなノリ、「Pure & Simple」でのレイドバックしたバラード感は同時期にブレイクしていたTHE BLACK CROWESとも通ずるものがあり、その流れから本作に触れたら非常に入っていきやすいと思うんです。
もっと言えば、『DONE WITH MIRRORS』(1985年)あたりのAEROSMITHっぽさもあったりする。要するに……野暮ったくて地味、という意味なんですが(笑)。メジャー感の強い派手さこそないものの、アリーナロック級のノリは確実に擁している。先の「Smokestack Lightning」や「Good Thing」「It's A Killer」あたりは完全にそっち側の楽曲ですものね。
そうそう、本作がリリースされた時期ってちょうどTESLAがアコースティックライブアルバム『FIVE MAN ACOUSTICAL JAM』(1990年)をヒットさせたタイミングとも重なり、そのへんとの共通点も少なくない。というわけで、ここまでに名前を挙げてきたバンドや作品に興味がある方なら、少なからず引っかかる1枚だと思うので、騙されたと思って手にしてみることをオススメします。特に70年代の諸作品はちょっとユルすぎると感じるHR/HM寄りのリスナーは、本作から入門してみてはどうでしょう。
CD6枚組+Blu-ray2枚組のスーパー・デラックス盤と同時発売された本作は、先に紹介した『USE YOUR ILLUSION I』(1991年)のデラックス盤(2022年)同様、最新リマスタリングを施した『USE YOUR ILLUSION II』アルバム本編に、1991〜2年のワールドツアーから抜粋されたライブベストのCD2枚組エディション。アルバム本編はスーパー・デラックス盤と同内容ですが、DISC-2には本作でしか聴くことができない初出音源も含まれた、ファン泣かせの1作となっています。
全13曲収めらたライブ音源のうち、スーパー・デラックス盤との被りは5曲。録音状態や音質はまちまちで、1枚のライブアルバムとして楽しむのは少々難あり。ですが、これまで海賊盤やYouTubeでのイリーガルな映像でしか耳にすることができなかった貴重なテイクも含まれており、おまけと呼ぶにはちょっと豪華すぎる内容ではないでしょうか(ここまで、『USE YOUR ILLUSION I』デラックス盤レビューからのほぼコピペです。笑)。
スーパー・デラックス盤未収録音源の主な録音会場は以下のとおり。
・1991年1月20日:リオデジャネイロ『Rock In Rio』(「Only Women Bleed / Knockin' On Heaven's Door」) ・1991年8月31日:ロンドン・Wembley Studiam(「14 Years」) ・1992年6月6日:パリ(「Drum Solo」「Slash Solo」「Speak Softly, Love (Love Theme From The Godfather)」「Sail Away Sweet Sister」「Mama Kin」「Train Kept A Rollin'」)
セレクトされた3公演はすべて『USE YOUR ILLUSION I』デラックス盤と一緒。要するにテレビやラジオで放送されたライブということで、そこそこの状態で録音された音源が残っていたライブがこれくらいってことなんでしょうね。
その流れで、アクセルのアカペラで歌唱されるQUEEN「Sail Away Sweet Sister」をここに持ってくるのもどうかと。これだって、続く「Sweet Child O' Mine」あってこそ。ここだけ抜き取られてもねえ……それなら、リオ公演から初披露の「Dead Horse」とか、もっとあったろうに。
そんな中、本作でもっとも価値が高いのがAEROSMITHからスティーヴン・タイラー(Vo)&ジョー・ペリー(G, Vo)をゲストに迎えた「Mama Kin」と「Train Kept A Rollin'」の2曲。同公演ではレニー・クラヴィッツもゲスト参加しており、そちらのコラボ音源は『USE YOUR ILLUSION I』デラックス盤に収録。こっちはエアロなんですね。「Mama Kin」ではアクセル・ローズ(Vo)以上にハイテンションなスティーヴンのボーカル(半音下げバージョン)を楽しめます。一方、「Train Kept A Rollin'」はだいぶテンポ抑えめで、普段のエアロバージョンに慣れた耳だとユルく聞こえてしまうかも。30年前のガンズ、もっと頑張れ(今さらですが)。
なお、日本盤には1992年2月の来日公演(おそらく映像化された公演)から「Pretty Tied Up」「You Could Be Mine」を、ボーナストラックとして追加。2曲とも1991年のRitz公演の音源と被る選曲で、時期や会場は異なるとしても同じライブ曲のライブ音源が2度(しかも、スタジオ音源含めれば3度)続くのはいかがなものかと。これしか許諾が降りなかったんでしょうかね。残念です。
・1991年1月23日:リオデジャネイロ『Rock In Rio』(「Bad Apples」) ・1991年8月31日:ロンドン・Wembley Studiam(「Perfect Crime」「Dust N' Bones」「Double Talkn' Jave」) ・1992年6月6日:パリ(「Always On The Run」「Attitude」「It's Alright / November Rain」「Wild Horses」)
そして、1992年6月のパリ公演はゲストとしてレニー・クラヴィッツが参加したファンにはお馴染みのライブ。「Always On The Run」はスタジオ音源同様、スラッシュ(G)が彼らしさ満載のソロを聴かせてくれます。また、ストーンズのカバー「Wild Horses」は基本インストですが、ここではギルビー・クラーク(G, Vo)のギターワークを中心にしつつ、後半ではアクセルのボーカルもフィーチャーされています。
スーパー・デラックス盤に収められた1991年5月のRitz公演、1992年1月のラスベガス公演のようにライブをまるまる1本完全収録したものとは違い、こちらは寄せ集めの「ライブベスト」的な内容。しかも、セレクトされた楽曲はすべて『USE YOUR ILLUSION I』および『USE YOUR ILLUSION II』収録曲(とレアなカバー曲)なので、満足度はかなり低いかもしれません。ファンはまずスーパー・デラックス盤のフルライブ2本を心の底から満喫し、余裕があったらレアテイク含むこちらに手を出してみてはどうでしょう。
なお、日本盤には1992年2月の来日公演(おそらく映像化された公演)から「Live And Let Die」「Don't Cry」を、ボーナストラックとして追加。2曲とも1991年のRitz公演の音源と被る選曲ですが、これはどうにかならなかったんでしょうかね。時期や会場は異なるとしても、同じライブ曲のライブ音源が2度(しかも、スタジオ音源含めれば3度)続くのはねえ……。(『USE YOUR ILLUSION II: DELUXE EDITION』に続く)
▼GUNS N' ROSES『USE YOUR ILLUSION I: DELUXE EDITION』 (amazon:国内盤2CD / 海外盤2CD / 海外盤アナログ / MP3)
本作は1991年9月に同時リリースされた、GUNS N' ROSESのオリジナルアルバム『USE YOUR ILLUSION I』および『USE YOUR ILLUSION II』に最新リマスタリングを施し、未発表ライブ音源&映像を大量に詰め込んだアニバーサリー作品。本当なら発売30周年の昨年2021年に発表予定でしたが、コロナ禍などが影響しここまで大幅にズレ込んだようです。
最新リマスタリング盤に1991〜93年にかけて開催された『Use Your Illusion World Tour』から抜粋されたボーナスライブディスク(『I』『II』それぞれ内容異なる)付きデラックス仕様の『USE YOUR ILLUSION I』『USE YOUR ILLUSION II』も同時発売されていますが、本稿ではCD6枚組+Blu-ray2枚組仕様のスーパー・デラックス仕様について触れていきます。
さて、本作のハイライトといえるのが未発表ライブ音源&映像でしょうか。今回は1991年5月16日のニューホーク・Ritz Theater公演と、1992年1月25日のラスベガス・Thomas & Mack Center公演がそれぞれCD(DISC-3&4、5&6)とBlu-ray(DISC-7、8)に音源&映像収録されています。前者は『Use Your Illusion Tour』本編開始前に実施された3本のシークレットギグの3本目、当然アルバム発売前であり、イジー・ストラドリン(G,Vo)の姿も確認できます(なもんですから、セトリにはイジー歌唱の「Dust N' Bones」も含まれています)。また、この日のライブは2ヶ月後に発売されるシングル「You Could Be Mine」のMV用に映像収録もされていたので、残されたBlu-ray映像もかなりクリア。なぜ今までお蔵入りしていたんだと言いたくなるほどの代物です。
ライブの出来自体はかなりラフで、「Right Next Door To Hell」や当の「You Could Be Mine」など、要所要所で演奏ミスも目立ちますし、アクセル・ローズ(Vo)のボーカルの出来も決して褒められたものではありません。セトリも「Paradise City」が7曲目に披露されていたり、ラストが「Welcome To The Jungle」だったりと、今ではあまり想像できない構成。そういった衝動性の強さおよび計画性のなさ(笑)が伝わる内容からは、1991年というギリギリの危うさで保たれていたバンドの空気が伝わるのではないでしょうか。なお、「Don't Cry」や「You Aint't The First」には当時メジャーデビュー前のBLINE MELONからシャノン・フーン(Vo)がゲスト参加しています。
そのほかにも、曲と曲をつなぐスキット的役割として、「Patience」の前にはTHE ROLLING STONES「Wild Horses」、「Seet Child O' Mine」の前にはQUEEN「Sail Away Sweet Sister」、「Knockin' On Heaven's Door」の前にはアリス・クーパー「Only Women Bleed」などがフィーチャーされています。個人的にはこのへんのカバーの印象が強いツアーなので、このあたりも音源として正式に残されたのはうれしい限りです。
デビュー作『APPETITE FOR DESTRUCTION』(1987年)のスーパーデラックス盤(2018年)のように、未発表スタジオ音源やデモ音源も豊富にあったはずなのに、あえて録音状態よさげなライブ音源に全振りした今回のボックスセット。最初に未発表曲やデモテイクなしと知ったときはがっかりしたものの、あの時期を生で体験した世代としては当時の「危ういガンズ」から「完全無欠のガンズ」へと移行する過渡期を完全パッケージ化した本作品は「結果、これで正解!」と断言できるものでした。本当なら映像付きですべて楽しんでほしいですが、約5万円とかなり高価な代物ですので、音源だけでもいいって人はサブスクやダウンロード購入(5000円以下で入手可能)で済ませてもいいかもしれません。
収録曲のうち、「Same Old Song And Dance」「Sweet Emotion」「Kings And Queens」はイントロを短くした“シングル・エディット”バージョンで収録。「Walk This Way」もアルバムバージョンより10秒近く短い形にエディットされています。オリジナルバージョンに勝るものはありませんが、本作リリース当時は70年代の代表的シングル曲をひとまとめに楽しめるアルバムとして、非常に重宝されましたし、80年代後半の本格的復帰以降も『PERMANENT VACATION』(1987年)や『PUMP』(1989年)とともにこのアルバムを愛聴したファンは少なくなかったはずです(注:Apple Musicなど一部ストリーミング配信版は各シングルエディットがアルバムバージョンに差し替えられているのでご注意を)。
『PERMANENT VACATION』(1987年)の大ヒットを受けて、前レーベルのColumbia Recordsが企画したコンピ版で、シングル曲中心でまとめられた前作『AEROSMITH'S GREATEST HITS』と比べるとその内容はかなり地味なもの。ただ、ライブで演奏される機会の多い「Mama Kin」や「Lord Of The Thighs」「Train Kept A-Rollin'」なども含まれていることから、“裏ベスト”的側面の強い1枚かなと。
本作最大の注目ポイントは、『LIVE! BOOTLEG』(1978年)のみで聴くことができた「Chip Away The Stone」の未発表スタジオテイクが収録されていること。この1曲のために当時本作を購入したというファンも少なくなかったはずです。実際、この曲は本作からシングルカットもされ(既存ライブ映像を使用したMVも制作)、ラジオヒットも記録しています。
今のようにサブクスやYouTubeも存在せず、過去のスタジオアルバムにまで手を出せなかった当時の中高生には本作に収録された「Rats In The Celler」や「Nobody's Fault」「Round And Round」「Jailbait」などはかなりカッコよく響いたものです。ここから『ROCKS』(1976年)や『TOYS IN THE ATTIC』(1975年)にも手を伸ばしていったビギナーは80年代後半、かなりの数存在していたはずですから。
序盤は「End Of The Line」「Bad Rain」と比較的シンプルな楽曲で固められていますが、M-3「Nobody Knows」は彼ららしいインプロビゼーションをたっぷりフィーチャーした11分にもおよぶ大作。ディッキー・ベッツ(Vo, G)と再始動から加入したウォーレン・ヘインズ(G)の、それぞれの個性が際立つプレイは圧倒的の一言で、10分超の長尺にもかかわらずまったく飽きることなく、むしろゾクゾクした緊張感を保ちながら楽しむことができます。
一方、アルバム終盤に配置された「Kind Of Bird」はジャズミュージシャンのチャーリー・パーカー(Sax)に捧げられた、ジャズ的アプローチのインストゥルメンタルナンバー。パーカッシヴなリズムとフュージョンを彷彿とさせるギター&キーボードプレイの数々は、カントリーやブルースを通過した「Nobody Knows」とも異なる魅力を放っており、気持ちよく堪能できるはずです。
さらに、アルバムラストを飾るのはロバート・ジョンソンのカバー「Come On In My Kitchen」。ディッキー・ベッツ&ウォーレン・ヘインズによるスライドギタープレイのカッコよさといったら、たまらないものがあります。ブルージーなんだけどソウルフルというアレンジも完璧で、完全に自身のものとして成立させています。
バンドメンバーはボウイ(Vo, G)、リーヴス・ガブレルス(G)、トニー・セイルス(B)、ハント・セイルス(Dr)と前作と同様。プロデューサーには前作から引き続きティム・パルマー(TEARS FOR FEARS、オジー・オズボーン、U2など)が参加し、「One Shot」のみヒュー・パジャム(THE POLICE、GENESIS、ピーター・ガブリエルなど)がプロデュース&ミックスを手がけています。また、前作では全14曲中5曲がボウイ単独で書き下ろされた楽曲でしたが、今作はボウイ単独は「A Big Hurt」1曲のみ。「Sorry」に至ってはハント単独名義での楽曲ですし、この曲と「Stateside」ではハントがリードボーカル担当と、完全にボウイが4分の1に徹しようと務めていることが伺えます。
楽曲は前作よりもより産業ロック/ハードロック的な質感が増しており、ボウイのソロ作でいえば直近の『NEVER LET ME DOWN』(1987年)にもっとも近いんじゃないでしょうか。ただ、あのアルバムが80年代半ば的な音だったのに対し、こちらはより1990年前後の質感に近付いており、感触的にはそこまで悪い印象は受けません。
ただ、曲から“ボウイらしさ”が伝わらない。大半の楽曲はボウイとリーヴスの共作で、演奏もリーヴスの派手なギターが目立つアレンジ。ボウイはお膳立てされたトラックの上で好きに歌っている……といったところでしょうか。「Baby Universal」や「You Belong In Rock N' Roll」など、確かに今聴いても水準以上の仕上がりだと思います。だけど、ボウイがキャリアを総括する際にここからどの曲を選ぶかと言われると非常に困ってしまう。そんな歯痒い1枚とも言えるのです。
あと、個人的に一番グッときたのがROXY MUSICのカバー「If There Is Something」というのもどうかと思いました。ボウイ以外が歌うヌルいブルースロック「Stateside」や「Sorry」は、純度の高いボウイを求めて本作に触れるのならば蛇足以外の何ものでもないですし、やはり全体的に「無理して聴かなくていいかな」という空気が漂っているのは否めないかな。うん、ボウイのカタログで最後に聴くべき番外編だと思っておけば間違いありません。
そんなこと書いてますが、このアルバム。日本では現在廃盤状態。海外では2020年7月にMusic On CDを通じて最初されていますが、デジタル配信は現在まで未解禁。日本のみならず海外のSpotifyにもApple Musicでも聴くことができない状況です。これに関しては随分前から海外でも話題になっており、本作だけがISO/Parlophone(現在カタログを管理するレーベル)以外からのリリースであることなどがデジタル配信未解禁の理由ではないかと言われています。もしデジタル解禁するならリリース30周年の2021年に踏み切ったはずですが、そんな噂一切なかったですしね。この先、気軽に聴くことができる日が来るのかどうか……まあ中古CDなら安価で入手可能なので、気になる方はAmazonなりディスクユニオンなりで探してみてはどうでしょう。
ハードロックやヘヴィメタルにとって大きな転換期となった1991年。この年はMETALLICAやGUNS N' ROSESのビッグタイトルが発表されたほか、SKID ROWやVAN HALENがBillboardで初登場1位を記録する快挙を成し遂げた、HR/HMシーンにとってインパクトの強い1年でした。しかし、それと同時にNIRVANAやPEARL JAMがメジャーデビューを果たし、同年末から1992年にかけて全米チャートを席巻。彼らやALICE IN CHAINS、SOUNDGARDENなどシアトル中心バンドによるグランジ・ムーブメント勃発元年としても記憶されています。