カテゴリー「1992年の作品」の76件の記事

2026年7月 9日 (木)

「#プリンス三昧」プリンス全スタジオアルバム解説③(1991〜1995年)

このエントリーは今年1月から6月にかけて筆者のインスタアカウントで不定期連載してきた、ハッシュタグ「#プリンス三昧」付きのプリンス全スタジオアルバム(一部関連作品やコンピ盤、リミックス盤なども含む)55回分の投稿を、時系列(リリース年月)順に再構成してまとめたものです。第1回はこちら第2回はこちらからご覧ください。

第3回はレーベルとの関係がこじれた最初の過渡期である1991年〜1995年に発表した10作品についてです。

 

 

PRINCE & THE NEW POWER GENERATION『DIAMONDS AND PEARLS』(1991)

1991年10月1日リリースの13thアルバム。前作の一部でお披露目されていたTHE NEW POWER GENERATIONを携えての1作目。

過去2作での過渡期を経て新時代に突入した感の強い、ポップで開放的な楽曲多数。それもあってか本作からは生前最後のシングル1位を獲得した「Cream」を筆頭に「Diamonds And Perls」(3位)、「Gett Off」(21位)、「Money Don't Matter 2 Night」(23位)、「Insatiable」(77位)と久しぶりにヒット曲を量産。アルバム自体も最高3位、200万枚以上を売り上げる、新たなディケイドの幕開けに相応しい1枚となりました。

刺激は少ないかもしれないけど気づくと手を伸ばしている良盤。『PURPLE RAIN』同様の入門編的作品かな。

 


▼PRINCE & THE NEW POWER GENERATION『DIAMONDS AND PEARLS』
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PRINCE & THE NEW POWER GENERATION『LOVE SYMBOL』(1992)

1992年10月13日リリースの14thアルバム。正式タイトルはジャケットにデカデカと掲載されている記号なので表記できず。一般的には「LOVE SYMBOL」などと呼ばれており、日本盤も『ラヴ・シンボル』と銘打って発売されました。

THE NEW POWER GENERATIONを携えての2作目となりますが、前作と比べたら大衆性は薄いのですが、だがそこがいい。だってオープニングからある種のジャイアニズム炸裂の「My Name Is Prince」(36位)、2曲目が「Sex MF」(66位。MFはもちろんMother Fxxkerのこと)ですからね(笑)。嫌いになる要素がまったくない。大衆性が薄いものの、しっかりと「7」(7位)というポピュラリティの高いヒット曲もしっかり用意されている。全体的にノリで気持ちよく楽しめる1枚ではないでしょうか。

しかし、これ以降再び模索の時期に入るんですよね。1年に新作1枚ペースはひとまずここまで。

 


▼PRINCE & THE NEW POWER GENERATION『LOVE SYMBOL』
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THE NEW POWER GENERATION『GOLD NIGGA』(1993)

1993年8月31日リリースの、THE NEW POWER GENERATION名義の1stアルバム。当時、ライブ会場などで限定販売されたレアな作品。

この年、プリンスはデビューから所属してきたワーナーとの関係を終え、6月には「シンボルマーク(The Artist Formerly Known as Prince)」を新たな名前として掲げます。『LOVE SYMBOL』と前後して制作されたものの、リリースは1年後。ということは、タイミング的にプリンスという名前を一時的に捨てていた頃。PRINCE & THE NEW POWER GENERATION名義ではないので、本作では殿下の名前はクレジットされていませんが、楽曲はほぼ殿下が手がけたものでギターやコーラスなどのレコーディングにも参加しています。

空気感的には先の『LOVE SYMBOL』やその前作『DIAMONDS AND PEARLS』の延長線上にあるジャズファンク/ヒップホップサウンドなので、殿下ファンはもちろんこの頃の彼の作品が好きな方なら安心して楽しめる内容。ただ、殿下のあの声あってこそと感じる方には物足りなさもあるかも。THE TIMEなどファミリー作品として触れるのが一番かな。

ちなみに本作はサブスク配信なし。CD自体も廃盤状態で、殿下の関連作品ではもっとも入手困難な1枚と言われています。

 


▼THE NEW POWER GENERATION『GOLD NIGGA』
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PRINCE『THE HITS / THE B-SIDES』(1993)

1993年9月14日にリリースされた、プリンス初のベストアルバム。

その一方で、ワーナー側は契約消化の意味も兼ねて1978年から1992年までのプリンスのキャリアを総括する、『THE HITS 1』『THE HITS 2』と題した2枚のベスト盤を制作。それぞれにヒット曲を振り分けつつ、各アルバムに未発表曲/テイクを2曲ずつ収録。また、その2枚をまとめた『THE HITS / THE B-SIDES』はシングルでしか聴けなかったアルバム未収録曲をまとめ、さらに未発表を2曲を追加したボーナスディスク付きCD3枚組仕様。要は3枚組を買えってことですねわかります(笑)。プリンス本人が望んでないベストであることは当時から理解できていたけど、やはりB面集欲しさに買っちゃいますよね。

本作の目玉はようやく世に出た本人歌唱の「Nothing Compares 2 U」(ライブバージョンだけど)。これだけで十分です。シングル曲は「Kiss」のシングルバージョン(フェードアウトするやつ)が初収録なのが嬉しいくらいで、あとは無駄に短縮されたエディットにイライラするので無理して聴かなくてもいいかな。部屋で流しっぱなしにする分にはちょうどいいアルバムですが。

 


▼PRINCE『THE HITS / THE B-SIDES』
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PRINCE『THE BEAUTIFUL EXPERIENCE』(1994)

1994年5月17日にリリースされたEP。番外編的な1枚。サブスク未配信。

ワーナーと揉めまくってるタイミングの1994年は、真の意味での過渡期。プリンス名義ではなくあの変な記号(笑)名義で自身のレーベルから発表されたこのEPは、当時のヒット曲「The Most Beautiful Girl In The World」(3位)をネタにいろんなバージョンを作って1枚にまとめたもの。サビの名フレーズだけは共通しているものの、どれもらしいアレンジが施された似て非なるものに仕上がっていて、かつシームレスな構成なのでちょっとしたコンセプトアルバムのようにも聞こえる。なので最後にオリジナルバージョン(シングルと同テイク)がくると、なぜかホッとするという。全7トラックで33分というトータルランニングもちょうどいい。

日本盤は当時(確か)エイベックスから出ていて、さらに2曲追加されて44分くらいの尺なので、もはやフルアルバム並み。ただ、追加されたテイクは蛇足気味の内容かな。

そもそもこの曲、盗作疑惑でしばらくデジタル配信されてなかったんですよね(現在は解決済み)。それもあって本作は現在も復刻企画やサブスク配信をスルーされてるのかな。まあそこまで重要な1枚ではないという判断もあったんだろうけどね。

 


▼PRINCE『THE BEAUTIFUL EXPERIENCE』
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V.A.『1-800-NEW-FUNK』(1994)

1994年8月12日にリリースされたコンピレーションアルバム。サブスク未配信。

殿下がシンボルマークへ改名した際に立ち上げたNPG Recordsのカタログ的コンピ。当時は日本盤もリリースされました(海外盤にリミックス数曲追加した仕様)。プリンス名義の楽曲は当然ながら未収録で、ジョージ・クリントンやマイテ、メイヴィス・ステイプルズのほか、殿下が携わるTHE NEW POWER GENERATIONやMADHOUSEの楽曲、さらにはMINNEAPOLISという謎のユニットの新曲も収録。実はこのMINNEAPOLIS、殿下や彼と関わりの深いメンバーたちによる覆面ユニットだったりします。

あと、「Love Sign」はノーナ・ゲイと殿下のデュエットソングですし、それ以外にも多くの楽曲を殿下が執筆しているので、90年代半ばの殿下(とその仲間たち)の空気に触れるという意味では副読本として役立つかも。必聴盤とは言い難いものの、全オリジナルアルバムを網羅し、なおも殿下を掘り起こしたいという方にはオススメしてもいいのかな。なお、例によって本作も国内サブスク未配信。海外でもTidalでしか確認できないですが、CD自体は中古盤屋をこまめに回れば意外と簡単に(かつ安価で)見つけられるはずです。

 


▼V.A.『1-800-NEW-FUNK』
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PRINCE『COME』(1994)

1994年8月16日にリリースされた15thアルバム。

オリジナルアルバムとしては『LOVE SYMBOL』から2年振りですが、プリンス名義で発表された本作はジャケットにある「1958 / 1993」の表記が示すように、ある種の遺作(契約消化のための1枚)。実際、内容はかなりダーク&エロティシズム全開で、当時は「あれっ?」と思った記憶が。ただ、今聴くと11分超のオープニングトラック「Come」からしてシビれる展開。殿下がリアルタイムでやりたい・表現したいものとは乖離していたのかもしれないけど、時間が経過して何周もしたことで不思議とジャストで響いているような気が。今回の全作振り返りで一番の収穫でした。

 


▼PRINCE『COME』
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PRINCE『THE BLACK ALBUM』(1987 / 1994)

1994年11月22日にリリースされた16thアルバム。サブスク未配信。

1987年末発売予定だった幻の1枚が、『COME』の3ヶ月後にようやくリリースに。とはいえ、これも先のワーナーとの契約消化によって正式リリースが実現したのかなと。実際、当初の発売スケジュールから7年も経っていたため、1994年当時すでに若干の古臭さもあったし、散々騒がれたもののそこまで名盤か?という疑問もあったなあ。そういう意味では、あえて限定リリースにしたのは納得かも。

とはいえ、昨今の再発ムーブの中に本作が含まれていないのは如何なものかと。早くサブスクでも聴けるようにして、西新宿を回って海賊盤を探した90年代初頭の記憶を決していただきたい(笑)。

 


▼PRINCE『THE BLACK ALBUM』
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THE NEW POWER GENERATION『EXODUS』(1995)

1995年3月27日にリリースされた、THE NEW POWER GENERATION名義での2ndアルバム。サブスク未配信。

全21トラックと一見ボリューミーながらも、歌モノは10曲(残りはインタールード)。発売は半年近く早いものの、制作は『THE GOLD EXPERIENCE』と並行して実施されており、それもあってか音的にはオーソドックスなファンクやソウルが中心。殿下の名前は再びクレジットされていないものの、全曲のソングライティングとベース(さらに一部楽曲の加工ボーカル)で参加しています。当たり前だけど、どれも殿下が歌っても成立する曲ばかりで、前作ほどの弾けっぷりは感じられないこともあり、聴きやすさは前作以上。ということもあり、前作が気に入った方には少々物足りないかも。

前作同様、今作も一般流通しなかったので現在は入手も非常に困難。そろそろここへんのワークスも配信解禁してほしいんだけどねえ。

 


▼THE NEW POWER GENERATION『EXODUS』
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PRINCE『THE GOLD EXPERIENCE』(1995)

1995年9月26日にリリースされた17thアルバム。

本人が望んだ純粋なオリジナルアルバムとしては『LOVE SYMBOL』l以来3年振りか。ということもあって、かなりバランスに優れた内容でキャッチーな良曲満載。ダーク期をようやく抜けた印象もあるんだけど、まだ前レーベルからの流通とあってか全力全開にまでは至ってないかな。

前年のヒット曲「The Most Beautiful Girl In The World」(3位)が正式にアルバム収録されたほか、「Eye Hate U」(12位)や「Gold」(88位)といったヒットシングルも含まれており、比較的聴きやすい内容にも関わらず大きなヒットに繋がらなかったのは、一連の揉め事も影響したか。ただ、日本では「Endorphinmachine」が某格闘技中継で使用されたこともあって。それなりに売れた記憶が。

 


▼PRINCE『THE GOLD EXPERIENCE』
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2024年11月10日 (日)

サブスクに存在する音源を通して1980年〜1994年のHR/HM(およびそれに付随するハード&ヘヴィな音楽)の歴史的推移を見る

当サイトではかつて『1991 in HR/HM & Alternative Rock』というエントリーを公開しています。これは過去数年メインストリームだったHR/HMがグランジと入れ替わる絶妙なタイミングとなった1991年の音楽を、当時の世相とともに振り返りながらサブスクで聴いていくという内容でした。で、これと同じようなエントリーを1994年版で作ろうかと思っていたのですが、まとめながら歴史的観点(音楽以外を含む)ではそこまで大きくないような気がしまして……。

で、同じタイミングにこちらのイベントのためにプレイリストを共同制作していたのですが、その流れで「これを年代別に作ってみたいな」と思うようになり。だったら先の1994年までを年間プレイリストで辿っていくのはどうかな、という考えに至ったわけです。

ちゃんと始めるなら何年からがいいのかな……と熟考したところ、やはりNWOBHMが勃発したと言われる1980年から1年区切りで辿っていくのがいいんじゃないか、ということで、ここ数ヶ月ちまちまと作業しておりました。で、先ほど最後の1年となる1994年のプレイリストを完成させたので、こうしてエントリーとしてまとめるに至りました。

ぶっちゃけ、考察もなにもないです。これらを年代順に聴いていくことでそれぞれ見えてくるもの、気づくことは間違いなくあるでしょう。僕から「これがこうだから、こうなった」なんて細かいことはあえて言いませんが、もし何か付け加えるとしたら……意外とサブスク上に存在しない重要作品や楽曲が欠けているという事実と、HR/HMというジャンルが80年代後半からどんどん拡大していき、リリースアイテムも格段と増えたこと。例えば100曲でまとめる際、1980年と1994年とではその数に差がかなり出てしまったこと(1980年はHR/HMの絶対数が少なく、本来なら取り上げたいNWOBHMの名曲もサブスク上に存在せず、結果として無理やりパンクからの派生や1アーティストから2曲選んだりしている。一方で1994年のアイテムは国内外含め200曲近く集まり、そこから削っていくのにひと苦労した)。かつ、ジャンルとしてもどんどん洗練されていき、主流となるサウンドの方向性もどんどん変化していることにも気づくはず(結局言ってるし)。あと、90年代以降の音楽は今聴いても古さを感じないけど、80年代前半はまだ70年代の延長にあるんだなと再認識させられました。いろいろ面白かった。

ということで、ここから1年単位で作ったプレイリスト(各100曲)。それぞれ7〜8時間とかなり長尺ですが、暇なときにでもダダ流ししながらお楽しみいただけると幸いです。

 

■1980年

 

■1981年

 

■1982年

 

■1983年

 

■1984年

 

■1985年

 

■1986年

 

■1987年

 

■1988年

 

■1989年

 

■1990年

 

■1991年

 

■1992年

 

■1993年

 

■1994年

2023年3月 9日 (木)

MR. BIG『MR. BIG LIVE』(1992)

1992年11月4日にリリースされた、MR.BIG初の公式ライブアルバム。日本盤は同年10月25日発売(本作は輸入盤のほうが先にリリース/国内流通していた記憶があるのですが、僕の記憶違いでしょうか)。

「MR.BIG初の公式ライブアルバム」と謳っているものの、ここ日本ではバンド公認のライブEPが先に2枚発表されています。それが『LIVE! RAW LIKE SUSHI』(1990年)と『RAW LIKE SUSHI II』(1992年)です。前者は6曲入り/30分強、後者は7曲入り/約54分という代物で、フルアルバム並みのボリュームには満たないものの選曲の被りがないこともあり、当時は2枚合わせてフルスケールのライブ感覚で楽しんだものです。

そんな中、ここ日本では『RAW LIKE SUSHI II』のリリースから約半年後に届けられた今作。当時「え、またライブ盤?」と食傷気味になりましたが、『RAW LIKE SUSHI II』が1991年9月の日本公演からに対し、『MR. BIG LIVE』は1992年3月下旬のサンフランシスコ公演を収録したものになります。つまり、今作はバンドが「To Be With You」で全米1位を獲得したあとの、凱旋公演なのです。

実は今作、同時期に発売された映像作品『LIVE IN SAN FRANCISCO』(邦題『サンフランシスコ・ライブ』)からの抜粋音源で、映像盤に収録されていた「Voodoo Kiss」「Rock & Roll Over」と「Take A Walk」およびパット・トーピー(Dr)のドラムソロ、「Road To Ruin」後のポール・ギルバート(G)の長尺ギターソロ、「CDFF - Lucky This Time」後のビリー・シーン(B)の長尺ベースソロがカットされています。当時のCD収録容量的にはあと2曲は入れられた気がするのですが、全12曲/約60分と比較的コンパクトにまとめたかったのでしょうかね(下記の映像盤には「CDFF - Lucky This Time」後、「Addicted To That Rush」前にフィーチャーされたビリーの長尺ソロもしっかり収録されています)。

内容的には当時の最新作『LEAN INTO IT』(1991年)からの楽曲中心で、1stアルバム『MR. BIG』(1989年)からは「Addicted To That Rush」とカバー曲「30 Days In The Hole」のみ。加えて、デビュー時からカバーされてきたTALASの名曲「Shyboy」と、当時のツアーではラストに披露されていたTHE WHO「Baba O'Riley」の各カバーも収録されています。「Shyboy」「Baba O'Riley」は先の『RAW LIKE SUSHI II』にも収録されていたので、そこまでありがたみはないかな。

音質的には『RAW LIKE SUSHI II』ほどクリアではなく、ライブビデオから流用したまま。特にCD向けにリマスタリングなどが施された様子は見受けられず。CDで聴いていた頃は『RAW LIKE SUSHI II』の質感が好みだったのですが、配信されているものを現在の環境で聴く限りでは意外と『MR. BIG LIVE』ほうが聴きやすかったりして、その違いに驚かされました。

1992年当時はフルスケールに近いMR. BIGのライブアルバムはこれのみだったのでだいぶ重宝しましたが、現在はサブスクで『RAW LIKE SUSHI』シリーズも全世界に配信されているので、このアルバムのありがたみは半減。とはいえ、全米1位獲得後のバンドとオーディエンスの熱量を追体験するという意味では貴重な記録なのかもしれません。

あ、演奏に関しては文句なし。エリック・マーティン(Vo)もそれなりに歌えているのでご安心を。

MR. BIGは現在までにスタジオアルバムの数以上にライブ作品を発表しているので、いずれサブスクで聴ける作品を中心にカタログ記事を作ってみたいと思います。

 


▼MR. BIG『MR. BIG LIVE』
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2023年2月 3日 (金)

THE CURE『WISH』(1992)

1992年4月21日にリリースされたTHE CUREの9thアルバム。日本盤は同年4月22日発売。

全米2位の大ヒットを記録した「Lovesong」を含む前作アルバム『DISINTEGRATION』(1989年)が、全英3位/全米12位(200万枚以上の売り上げ)という好成績を残し、前々作『KISS ME, KISS ME, KISS ME』(1987年)からいい流れを築き上げてきたTHE CURE。その数字的な成績という点で、続く今作では初の全英1位、アメリカでも最高2位と過去最高記録を打ち立てます。

過去2作でゴシックロック路線よりもUSオルタナティヴロック寄りのサウンド/アレンジへとシフトしてきた彼らでしたが、今作ではその振り切り方がより強くなった印象を受けます。それは、世の中的にグランジのようなオルタナロックが受け入れられていたことも大きく作用したのでしょう。「Apart」のような楽曲では従来のゴシックテイストに、グランジ的なダークさが見事な形でミックスされており、いろんな意味でステージがひとつ上がった印象を受けます。

もちろん冒頭を飾る「Open」を筆頭に、「High」(全英8位/全米42位)や「Friday I'm In Love」(全英6位/全米18位)といったヒットシングルなど、キャッチーさも絶妙なバランスで保ち続けている。かつ、「From The Edge Of The Deep Gree Sea」ではダークなドリームポップ的な側面も見え隠れし、「Trust」では耽美さをより強調したスローアレンジが楽しめる。従来のらしさをよりモダンにシフトさせた「A Letter To Elise」、ダンサブルなビートにシューゲイズ的色合いを加えた「Cut」など、どの曲も非常にクセが強いのに親しみやすい。約66分と非常にボリューミーな内容ながらも最後まで飽きずに楽しめる、黄金期にふさわし1枚です。

THE CUREは以降も良質な作品を発表し続けていますが、個人的にもっとも興味を持って触れていた彼らの新譜はここまでかな。80年代後半から90年代初頭の、多感な時期に触れた3作品(『KISS ME, KISS ME, KISS ME』、『DISINTEGRATION』、そして本作)に対する思いは、今でもかなり強いものがあります(もちろん初期の作品も、後期の作品も好きという前提です)。

なお、2022年11月25日には本作のリリース30周年を記念した最新リマスター盤と、未発表音源集を付属した3枚組デラックスエディションが同時発売。2018年にはすでに編集作業は完了していたようですが、非常にクリアで音の分離が素晴らしいリマスター盤は必聴ですし、完成形へと至るまでの苦心が見えるアルバム収録曲のデモ音源や、1993年に発表されたインスト中心の『LOST WISHES EP』収録音源なども、『WISH』という傑作を振り返る上では非常に重要なアイテムと言えるでしょう。まずはリマスタリングされた本編をじっくり楽しんでから、その魅力を補強する形でボーナストラックに触れてみてください。

 


▼THE CURE『WISH』
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2022年8月 4日 (木)

RAMONES『MONDO BIZARRO』(1992)

1992年9月1日にリリースされたRAMONESの12thアルバム。日本盤は『モンド・ビザーロ(狂った世界)』の邦題で、同年10月7日発売。

ディー・ディー・ラモーン(B)が1989年に脱退し、他メンバーよりひとまわり以上若いC.J.ラモーン(B, Vo)を新たに加えた編成で制作。また、デビュー以来在籍してきたSire Recordsを離れ、Radioactive Recordsに移籍して最初のオリジナルアルバムでもあります。

映画『ペットセメタリー』のテーマソング「Pet Sematary」を生み出した前作『BRAIN DRAIN』(1989年)から約3年半ぶりという、それまでの彼らのキャリアでもっとも長いスパンを経て届けられた本作。プロデューサーにエド・スタシアム(MOTÖRHEADLIVING COLOUR、BIOHAZARDなど)を迎えており、その関係もあってかヴァーノン・リード(G/LIVING COLOUR)が「Cabbies On Crack」にゲスト参加しています。

80年代的なサウンドから脱却し、非常に硬質でタイトなサウンドプロダクションが施された本作は、さながら“RAMONES流ハードロック”といったところでしょうか。楽曲自体はどれもキャッチーで、従来の彼ららしさも随所から感じ取ることができるものの、C.J.の加入も手伝ってかフレッシュに生まれ変わった印象も強い。また、全13曲中C.J.がリードボーカルをとる曲も2つ(「Strength To Endure」「Main Man」)も存在し、活動後期に突入し大きな変革期を迎えたことも伺えます。

「Pet Sematary」の流れを汲む「Poison Heart」や、当時のアメリカでの検閲文化に対するアンチテーゼと言える「Censorshit」、BEACH BOYS風コーラスにセンスを感じるポップパンク「Touring」というキャッチーな楽曲があるかと思えば、「Anxiety」を筆頭としたハードコア路線の楽曲もしっかり用意されている。さらに、本作にはTHE DOORSのカバー「Take It As It Comes」なんていう異色曲もあり、ここでの経験が続くカバーアルバム『ACID EATERS』(1993年)へとつながっていきます。

長く続くパンクロックバンドが方向転換することなく、ひとつのスタイルを貫きながらどう“老いて”いくか。このアルバムにはその答えがあるような気がしてなりません。のちにジョーイ・ラモーン(Vo)やジョニー・ラモーン(G)は本作に対して否定的な意見を残していますが、僕は初めて聴いた30年前も今も本作のことが大好きで、常に楽しい気持ちにさせてくれる良作だと信じてやみません。というのも、初めて生で観たRAMONESが本作を携えたツアーだったから、当時の楽しい思い出がそうさせているのかもしれませんね。

なお、RAMONESはその活動を終了させるまでに14枚のスタジオアルバム(うち1枚はカバーアルバム)を残していますが、なぜか本作のみ日本でのストリーミング配信が実現していません。それだけが本当に残念でならないのですが……どうにかならないもんですかね?

 


▼RAMONES『MONDO BIZARRO』
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2022年7月19日 (火)

DAMN YANKEES『DON'T TREAD』(1992)

1992年8月11日にリリースされたDAMN YANKEESの2ndアルバム。日本盤は同年9月25日発売。

DAMN YANKEESはジャック・ブレイズ(Vo, B/当時ex. NIGHT RANGER)、トミー・ショウ(Vo, G/ex. STYX)、テッド・ニュージェント(Vo, G)、マイケル・カーテロン(Dr/LYNYRD SKYNYRDなど)という70〜80年代に一世を風靡したバンドのメンバーで構成された“スーパーグループ”。デビューアルバム『DAMN YANKEES』(1990年)は「Coming Of Age」(全米60位)、「High Enough」(同3位)、「Come Again」(同50位)のヒットも手伝い、最高13位/ダブルプラチナム(200万枚)の大ヒットを記録しました。

前作から2年半ぶりに届けられた2作目は、基本的にデビューアルバムの延長線上にある作風。引き続きロン・ネヴィソン(HEARTSURVIVOREUROPEなど)がプロデュースを手がけた、非常に高品質なアメリカンハードロックアルバムに仕上がっています。ただ、前作が80年代の空気を孕んだ質感だったのに対し、今作は若干ヘヴィネスさが強調された90年代らしい方向性と言えなくもありません。

例えば、オープニングを飾るグルーヴチューン「Don't Tread」や続く「Fifteen Minutes Of Fame」のように、同系統のミドルチューンを冒頭に並べるあたりも、時代と言えなくもないのかなと。また、どちらの曲も5分前後と比較的長めで、演奏面に特化したアレンジが施されている(テッド・ニュージェントによるギターソロも大々的にフィーチャーされていますしね)。

また、前作でパワーバラード「High Enough」が大成功を収めたこともあり、全11曲中2曲(「Where You Goin' Now」「Silence Is Broken」)、もっと言えば「Someone To Believe」もバラード寄りなので3曲とカウントできなくもない(まあ「Someone To Believe」は「Come Again」タイプですけどね)。当時のレコード会社の意向なのか、なんだかNIGHT RANGERと同じ道を進みそうな気がして、当時はヒヤヒヤしたことを覚えています。

「Firefly」や「Uprising」のようなアップチューンも含まれているものの、やはり全体的には上記の「Don't Tread」を筆頭としたミドルチューンとバラード調楽曲の印象が強く、もうちょっとバランス感が良かったデビューアルバムと比べてしまうと若干のマンネリ感も否めない。個々のエゴが強まったぶん、バンドとしての調和が以前ほど取れなくなってきた結果が、このアンバランスさにつながったのかもしれません。

1曲1曲を取り出せば良い曲も多く、NIGHT RANGERを筆頭とするAORや産業ロック寄りの音が好みのリスナーならスッと入っていける作品ではないでしょうか。あと、前作以上にクリアでダイナミックなサウンド/音質は特筆しておきたいなと。このへんはミックスを手がけたクリス・ロード-アルジ(マドンナプリンスMY CHEMICAL ROMANCEMUSEなど)の手腕によるものが大きいのでしょう。良い意味で時代を感じさせない質感なので、今の耳にも合っている気がします。

残念ながら、このアルバムを最後にバンドは活動休止。その後何度かスポット的に復活していますが、継続的な活動は望めず、今のところ本作がラストアルバムとなっています。

 


▼DAMN YANKEES『DON'T TREAD』
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2022年7月18日 (月)

WARRANT『DOG EAT DOG』(1992)

1992年8月25日にリリースされたWARRANTの3rdアルバム。

デビューアルバム『DIRTY ROTTEN FILTHY STINKING RICK』(1989年)から引き続き、前作『CHERRY PIE』(1990年)も全米7位/ダブルプラチナム(200万枚)という好成績を残し、「Cherry Pie」(全米10位)や「I Saw Red」(同10位)、「Uncle Tom's Cabin」(同78位)、「Blind Faith」(同88位)とヒットシングルを連発させたWARRANT。1992年に入ると映画『ファイティング・キッズ(原題:GLADIATOR)』の主題歌としてQUEENの名曲「We Will Rock You」(同83位)と、グランジ全盛の中も健闘を続けました。

『CHERRY PIE』から約2年ぶりに届けられた本作では、プロデューサーを過去2作を手がけたボー・ヒル(RATTWINGERKIXなど)からマイケル・ワグナー(SKID ROWDOKKENMETALLICAなど)に交代。音を聴けばその理由も納得のいく、非常にストイックなHR/HMアルバムに仕上がっています。

良くも悪くも「Cherry Pie」というパーティロックのイメージが強かったWARRANTだけに、本作を前にしたときは「え、WARRANTがダークでメタリックなアルバム?」と動揺したものです。グランジやグルーヴメタルが持て囃された時代だけに、彼らも流行りに乗ったか……そう思ったリスナーも少なくなかったはず。ですが、本作への布石はすでに前作『CHERRY PIE』で確認することもできました。それが「Uncle Tom's Cabin」の存在なのです。

「Uncle Tom's Cabin」は当時の彼らにしてはメタリックすぎて、特にオープニング曲「Cherry Pie」から空気が一変させる役割も強くて違和感を覚えた方もいらしたのではないでしょうか。彼らはすでにこの頃からパーティロックと正統派ハードロックの2軸を備えており、続く3作目では時代の空気も多少読みながら正統派ハードロック寄りへと全振りしたのではないか……今となってはそう感じています。だから、別に意味もなく時流に乗ったのではなく、自然なシフトだったんですよね。

オープニングを飾る「Machine Gun」のヘヴィ&タフさには、もはや過去2作のWARRANTの姿は見当たりません。続くミドルヘヴィの「The Hole In My Wall」や「April 2031」、そこからシームレスに続くマイナー調バラード「Andy Warhol Was Right」という流れは、今聴くと非常に練り込まれているなと感じるものの、1992年当時は若干早かったのかなという気も。特に「Andy Warhol Was Right」は前作での「Blind Faith」をよりハードにしたらこうなるのかな、という気がしないでもない。そは言い過ぎか(笑)。

全体を通して聴くと、同じマイケル・ワグナーが手がけたSKID ROWの2ndアルバム『SLAVE TO THE GRIND』(1991年)との共通点もゼロではないことに気づく。そうか、タフ路線の参考としてWARRANTは『SLAVE TO THE GRIND』を意識して、マイケルを起用したのか……そう気づいたのは、つい最近のこと(苦笑)。それまでは、ただひたすら「俺の思うWARRANTじゃない」という気持ちが強かったかな、完成度の高さのわりに。

ヘヴィバラード「The Bitter Pill」やストレートなハードロック「All My Bridges Are Burning」「Quicksand」、アーシーなピアノバラード「Let It Rain」、豪速球のスピードメタル「Inside Out」、肩の力が抜けた軽快なロックチューン「Sad Theresa」など、実は個性的で良曲揃いの本作。一度「Cherry Pie」のイメージを取っ払ってから接してみると、グランジ影響下のHR/HMとは一味違った魅力が見えてくるはずです。リリースから30年を経た今、ぜひ再評価してみてください。

なお、参考までに本作は全米25位/50万枚と過去2作に及ばない数字ながらも、それなりの成績を残しています。

 


▼WARRANT『DOG EAT DOG』
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2022年7月17日 (日)

FIREHOUSE『HOLD YOUR FIRE』(1992)

1992年6月16日にリリースされたFIREHOUSEの2ndアルバム。日本盤は同年6月13日に先行発売。

「Don't Treat Me Bad」(全米19位)、「Love Of A Lifetime」(同5位)、「All She Wrote」(同58位)といったヒットシングルを複数生み出し、アルバム自体も最高21位/ダブルプラチナム(200万枚)を記録したデビューアルバム『FIREHOUSE』(1990年)から1年10ヶ月ぶりの新作。世の中が湾岸戦争を機に不景気に突入し、それ以前はメインストリームにいたHR/HMからグランジなどのオルタナティヴロックへと注目が移る中、新人ハードロックバンドとしては大健闘したのではないでしょうか。

そんなヒット作の恩恵を受け、まさに“二匹目のドジョウ”を狙い同じプロダクションで制作された2作目。プロデューサーも引き続きデヴィッド・プラッター(DREAM THEATERNIGHT RANGER、ARCADEなど)が担当し、このバンドらしい良質なUSハードロック感が追求されています。

例えば、「Don't Treat Me Bad」でのポップさは「Sleeping With You」(全米78位)に、「Love Of A Lifetime」での王道バラードは「When I Look Into Your Eyes」(同8位)、「All She Wrote」でのマイナー感が強い正統派ハードロック感は「Reach For The Sky」(同83位)へとアップデートされている。グランジ全盛期ということもあり、シングル的には前作ほどのヒットは叶いませんでしたが、それでも楽曲の良質さもあってこの時代のわりには好成績を残したのではないでしょうか。

アンセム感の強いアリーナロック「Rock You Tonight」、グルーヴィーなハードロック「You're Too Bad」や「Get In Touch」、パーティ感の強い「The Meaning Of Love」や「Mama Didn't Raise No Fool」、1992年という時代を考えると若干古臭さが否めない80's USハードロックな「Talk Of The Town」など、正統派で王道感の強いハードロックは、リリースがあと5年早かったらバカ売れしていたんだろうなと思わせるものばかり。ですが、これを1992年という“HR/HM暗黒時代”に発表したことに意味があったわけで、当時はNIRVANAPEARL JAMALICE IN CHAINSと並行して聴いていた記憶があります。グランジの「グ」の字も感じられないほどに清々しいサウンドは、気分転換にはちょうど良かったのかな。

そして、アルバムラストを飾るのが前作にはなかったタイプのマイナーバラード「Hold The Dream」。楽曲のタイプ的には「Reach For The Sky」や「Hold Your Fire」の流れを汲むものですが、その手の作風を泣きのバラードに置き換えることで、非常に新鮮な印象を受けたことをよく覚えています。この曲のおかげで、ちょっとだけダークでしっとり終えられたのは1992年という時代ならだったんでしょうかね。前作の延長線上にありながらも、ここで一捻りしてくれたおかげで単なる焼き直しで終わらずに済んだと思います。

DREAM THEATER『IMAGES AND WORDS』(1992年)同様、ここでもデヴィッド・プラッター特有のペタペタしたドラムサウンドが(よくも悪くも)クセの強さを発揮。若干好き嫌いが分かれてしまいそうな気もしますが、大きい音で聴くと意外としっくり来るものがあるので、スマホなどイヤホンで聴くよりもスピーカーを通じて爆音で聴いてみることをオススメします。

 


▼FIREHOUSE『HOLD YOUR FIRE』
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2022年6月23日 (木)

BODY COUNT『BODY COUNT』(1992)

1992年3月10日にリリースされたBODY COUNTの1stアルバム。日本盤は同年4月25日発売。

BODY COUNTは1990年、ラッパーとしてすでに高い知名度を獲得していたアイス-TがLAの高校時代の友人たちと結成したハードコアパンク/ミクスチャーロックバンド。現在までバンドに在籍するアーニー・C(G)が大半の楽曲を作曲し、アイス-Tがボーカルと作詞を担当しています。

このデビューアルバム発売時のメンバーはアイス-T、アニー・Cのほか、D-ロック・ジ・エクスキューショナー(G)、ムースマン(B)、ビートマスター・V(Dr)、ショーン・E・ショーン (Sampler)という編成。アルバムのプロデュースはアイス-T&アニー・Cが手がけています。なお、ビートマスター・Vは1996年に白血病で、ムースマンは2001年は銃撃で、D-ロック・ジ・エクスキューショナーは2004年に悪性リンパ腫でそれぞれ亡くなっています。

ラッパーの歌うメタリックなパンク……リリース当時はそんな捉え方をしていたと記憶します。いわゆる“メタル村”の人たちがヒップホップ側に歩み寄ろうとしていた90年代初頭の空気をはらみながら、本作では“村外”の人たちがメタルサイドに歩み寄ろうとする試みでもあったのかな。ハードコアパンクの人たちがスラッシュメタルを通じてメタルサイドに踏み込む“クロスオーバー・スラッシュ”にも似たテイストの作風は、メタル耳には若干シンプルすぎて味気ないように響き、人によっては退屈に聞こえるかもしれません。

しかし、タイトルトラック「Body Count」に忍ばせたジミー・ペイジ的アプローチや、「C Note」や「The Winner Loses」での叙情的なフレージング、「Body Count Anthem」でのドラマチックなアレンジなど、随所に散りばめられたメタル愛に気づくと、不思議と「なんだ、仲間か」と急に距離の近さを感じるのではないでしょうか。今でこそSICK OF IT ALLやBIOHAZARDのようなバンドも“こちら側”として受け入れるリスナーも少なくないことを考えると、リリースから30年経った今こそメタルサイドから正当な評価を下すべきなのかな。

あと、本作はリリース当時、ラストトラック「Cop Killer」の歌詞にばかりスポットが当てられてしまった結果、それこそヒップホップサイドやハードコア側からも正しく理解さえれたアルバムだったとは言い難いものがありました。その内容ゆえ、オリジナル盤リリースから数ヶ月後には「Cop Killer」を「Freedom Of Speech」に差し替えたバージョンで再発。日本でも1992年11月28日にリニューアル盤が発売されています。

この「Freedom Of Speech」はジミ・ヘンドリクス的アプローチのギターリフを用いた、ヒップホップ寄りの1曲。DEAD KENNEDYSのジェロ・ビアフラ(Vo)のスポークンワーズをフィーチャーした、本作ではもっとも異色の仕上がりで、これもレーベル側が「Cop Killer」を引き下げたこと(および、のちの契約解消)に対するアジテーションでもあったのかな。そういうストーリーがわかっていないと、この曲だけ普通に浮いちゃうんですよね、残念ながら。

もちろん、シンプルに楽曲やサウンドのストレートさだけを楽しむのもアリですが、特にこのアルバムは当時の白人社会における黒人に対する差別や黒人社会の不条理などを理解してから触れると、そのメッセージの受け取り方も大きく変わるはず。このアルバム発売後の1992年4月にはLAで人種差別が発端となった大規模な暴動も起きており、そこも踏まえて「Cop Killer」含めて触れると、さらに深く理解できるのではないでしょうか。

 


▼BODY COUNT『BODY COUNT』
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2022年3月26日 (土)

KEITH RICHARDS『MAIN OFFENDER (DELUXE EDITION)』(2022)

2022年3月18日にリリースされた、キース・リチャーズの2ndソロアルバム『MAIN OFFENDER』のリマスター&デラックス・エディション。日本盤未発売。

『MAIN OFFENDER』のオリジナル盤は1992年10月に発売された、『TALK IS CHEAP』(1988年)から4年ぶりのソロアルバム。ミック・ジャガーがソロに熱心で、なかなかTHE ROLLING STONESを動かそうとしないことに痺れを切らしたキースが、当初制作するつもりではなかったソロアルバムに着手した、というのが前作の制作過程でしたが、この2作目は『STEEL WHEELS』(1989年)でストーンズが本格的復活、かつ長期にわたるワールドツアーを大成功させたあとのブレイクタイミングに作られたもので、向き合い方や作品への姿勢がまったく異なるものだったりします。それもあってなのか、『TALK IS CHEAP』が比較的わかりやすくてキャッチーなテイストなのに対し、この『MAIN OFFENDER』は完全にキースが趣味に走った“俺様”な内容と解釈することができます。

確かに、『TALK IS CHEAP』と比べたら地味ですし、キャッチーさも低い。しかし、聴いていてクセになるのは確実に『MAIN OFFENDER』のほうなんです。かつてのレビューにも書きましたが、『MAIN OFFENDER』って年齢を重ねれば重ねるほどその魅力に惹きつけられるといいますか、どんどん夢中になっていく不思議な引力が備わっているんです。無駄を一切削ぎ落としたそのいぶし銀の歌とギター、バンドアンサンブル(すべてのタイム感も含め)誰にも真似できないし、一生かかっても追いつけない孤高の存在感をこれでもかと味わえる。素材の持つ味だけで堪能する至高の料理みたいな1枚なのです。

そんな名作が最新リマスタリングされ、低音に若干ギアを入れたような質感に生まれ変わった。個人的にはオリジナルの音で十分すぎるのですが、リリースから30年経ったことでイマドキの味付けが施された逸品を、このタイミングに味わってみるのも悪くないかな、という感じでしょうか。

いやいや、このデラックス・エディション最大の聴きどころはそこじゃない。CDやアナログ・ボックスセット、デジタル版のために用意された“DISC 2”に注目していただきたいわけです。

『WINOS LIVE IN LONDON '92』と命名されたこのDISC 2には、1992年12月17、18日にロンドン・Town And Country Clubで行われたライブから12曲の未発表ライブ音源を収録。実際のライブでは両日とも18〜20曲程度披露されていますが、ライブアルバム化にあたり『TALK IS CHEAP』『MAIN OFFENDER』といったソロ作、そして「Gimme Shelter」「Before They Make Me Run」「Happy」などのストーンズクラシックをバランスよく交えた内容にまとめられています。

キース(Vo, G)と『MAIN OFFENDER』のプロデューサーでもあるスティーヴ・ジョーダン(Dr)、ワディ・ワクテル(G)、チャーリー・ドレイトン(B)、アイヴァン・ネヴィル(Key, G)、サラ・ダッシュ(Vo)、バビ・フロイド(Vo)といったレコーディングメンバーに、ストーンズでお馴染みのボビー・キーズ(Sax)を加えた編成=THE X-PENSIVE WINOSでのルーズながらもグルーヴ感の強いバンドサウンドは最高の一言で、キースが独自のメロディラインで歌う「Gimme Shelter」はミックの歌うそれとは異なる熱量(蒼い炎とでもいいましょうか)が伝わり、エンタメ色の強いストーンズ版との対比含め興味深く楽しめるはずです。

WINOSのライブ作品は『TALK IS CHEAP』を携えたツアーの模様を収めた『LIVE AT THE HOLLYWOOD PALLADIUM』(1991年)がすでに存在しますが、『MAIN OFFENDER』収録曲多めな今回の『WINOS LIVE IN LONDON '92』のほうが個人的には好みかな。とはいえ、ロックファンなら両方チェックしておいて損はないはずなので、スタジオ音源とあわせてすべて聴いてみることをオススメします。だって、ソロ作はスタジオアルバム3枚、ライブアルバムも(このデラックス版のおまけ含め)2枚だけなんですから。

 


▼KEITH RICHARDS『MAIN OFFENDER (DELUXE EDITION)』
(amazon:海外盤2CD / 海外盤アナログBOX / MP3

 

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