当サイトではかつて『1991 in HR/HM & Alternative Rock』というエントリーを公開しています。これは過去数年メインストリームだったHR/HMがグランジと入れ替わる絶妙なタイミングとなった1991年の音楽を、当時の世相とともに振り返りながらサブスクで聴いていくという内容でした。で、これと同じようなエントリーを1994年版で作ろうかと思っていたのですが、まとめながら歴史的観点(音楽以外を含む)ではそこまで大きくないような気がしまして……。
アレンジ自体は『ACHTUNG BABY』以降のエレクトロ路線なんですが、良い意味で“抜け”感が強く、そのおかげで情報量が若干抑え気味。また、楽曲の方向性的には80年代の彼らを思わせるものも多く、「Babyface」や「Lemon」などはアレンジこそ90年代的ですが軸のメロディラインは往年の彼らそのもの。シングルカットもされた「Stay (Faraway, So Close!)」や「The First Time」なんて80年代後半の彼らまんまですしね。
そんな中、ジ・エッジの振り切り具合が最高潮に達した「Numb」や「Daddy's Gonna Pay For Your Crashed Car」、ジョニー・キャッシュをフィーチャーした「The Wanderer」にはブライアン・イーノとのコラボ作『ORIGINAL SOUNDTRACKS 1』(1995年/PASSENGERS名義)や次作『POP』(1997年)への布石も見え隠れします。溢れ出るアイデアを短い時間(本作の制作はたった2ヶ月とのこと)で形にするという点においても、『POP』の習作とも言える過渡期的1枚だったのかな。
実験色が相当強い内容にも関わらず、本作は全米&全英1位を獲得。セールス的には『ACHTUNG BABY』には遥か及ばなかったものの、「Stay (Faraway, So Close!)」がヴィム・ヴェンダース監督の映画『時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!』の主題歌に起用されたことでシングルヒット(全米61位/全英4位)しています。そして、結果としてこのアルバムを携える形で1993年12月、U2は三度目のジャパンツアー(東京ドーム2DAYS公演)を実現させるのでした。
前作『YOUNG GODS』(1991年)が全英17位と、本国でスマッシュヒットを記録。また、同作からは「Boneyard」(33位)、「Product Of The Working Class」(40位)、「Young Gods」(34位)、「I Ain't Gonna Cry」(26位)とTOP40入りシングルが4作も生まれ、着実に知名度を高めていきます。
過去作で見受けられたブラスをフィーチャーするスタイルは、リードシングル「Too Much Too Young」(全英22位)を筆頭に本作でも積極的に取り入れられています。しかもこの曲、コーラスでかのブライアン・アダムスもゲスト参加。コーラスというより、もはやサブボーカルと言ったほうがぴったりな目立ち具合なんですけどね。
このほかにも、適度な枯れ具合が心地よいミディアムチューン「Soapbox」(同33位)、ヒップホップ以降のファンキーさが活かされた「Don't Confuse Sex With Love」、ビートルズ調のサイケナンバー「Womankind」(同12位)、アコースティック色の強いバラード「The Colour Of Love」や「Sail Away」(同45位)、泣きメロっぽい湿り気がたまらないストレートなロック「I Was Not Wrong」、パワフルなギターリフとビートが気持ちよく響く「Tired Of Waiting For You」など、とにかく佳曲揃い。前作ほどのハード&ヘヴィさは皆無ながらも、ブラスを要所要所にフィーチャーした豪快なポップロックの数々で、最後まで飽きさせることなく楽しませてくれます。
グランジ全盛かつブリットポップ前夜の過渡期的時期に、こういった正統派サウンドで1位を獲ったこと自体奇跡的ですし、その成功もあって今作を携えたツアーではVAN HALENやBON JOVIのサポートで本国を回るなど、名実ともにトップバンドの仲間入りを果たそうとします。が、1位を獲得したものの、セールス的には期待以上の成績を収めることができず、彼らは続くベストアルバム『A LITTLE OF THE PAST』(1994年/全英20位)をもってメジャーのPolydor Recordsと契約終了。解散の道を選ぶこととなるのでした。
オープニングの「Dancin' With The Angels」はアップテンポで攻めの姿勢が感じられる1曲。スライドギターのフレーズがどことなくAEROSMITHの「Let The Music Do The Talking」に似ていますが(楽曲のテンポもね)、気にしないことにします。続くリード曲「Nothin' To Lose」はRATTの延長線上にあるミディアムテンポの地味なハードロック。このダークさは当時の時代を反映していると言えなくもないけど、根本にある方向性は80年代のヘアメタルそのもの。うん、何も変わってない(笑)。
いかにもなパワーバラード「Cry No More」、モロにRATTな「Screamin' S.O.S.」やブルージーな「Messed Up World」など、全体を通して似たようなテンポ感で攻める姿勢はRATTそのものですが、どの曲も似たり寄ったりで平均的な仕上がり。元CINDERELLAのメンバーが在籍するもののドラマーということもあり、ソングライティングや演奏面でそこまでCINDERELLAのカラーも見えないですし、そもそもギタリスト2人の色が薄味ということで、突出した個性が見受けられない。完全にスティーヴンの独り相撲といったところでしょうか。
アルバム後半に進むと、アグレッシヴなアップチューン「All Shook Up」、ピアノとアコギを用いたメロウなバラード「So Good... So Bad...」、初期RATTナンバーの焼き直し「Mother Blues」(のちにRATTのリメイクアルバム『COLLAGE』(1997年)で再録)など耳に残る曲もなくはないですが、前半の煮え切らなさが災いし、そこまで大きなインパクトを残すことなくアルバムは終了。リリース当時、数回聴いてCDラックの奥のほうにしまってしまったこと、今でも忘れません。
そういった印象は、リリースから30年近く経った今もそう大きく変わることはなく、やはり耳に残る曲はここに上げたようなものばかり。あとは「Calm Before The Storm」やラストの「Reckless」あたりかな。まあ全13曲の半分くらいは悪くないと思えるのですから、決して駄作ではないのでしょう。ただ、これがデビュー作と言われると……先が思いやられますよね?(苦笑)
本作はランディ・ローズ(G/1982年没)在籍時の海外未発売音源や本邦初公開となる未発表曲を含む、レアトラック集。多くの楽曲にはリミックスが施されているほか、未発表曲「Force Of Habit」以外のボーカルトラックはケヴィン・ダブロウ(Vo)によって再レコーディングされています。なので、日本限定発売の1stアルバム『QUIET ROIT』(1978年)および2ndアルバム『QUIET RIOT II』(1978年)のオリジナル音源とも異なるテイクを楽しむことができます。
全10曲中、『QUIET ROIT』から3曲(うち1曲はバージョン違い)、『QUIET ROIT II』からは3曲(うち1曲がバージョン違い)、それ以外の4曲は未発表曲となっています。『QUIET ROIT』収録曲「Mama's Little Angels」の別バージョンとなる「Last Call For Rock 'N' Roll」は新たに歌詞が書き直されており、『QUIET ROIT II』からの「Afterglow (Of Your Love)」(SMALL FACESカバー)はリズム隊を排除したアコースティックバージョンで収録(終盤にちょっとだけリズム隊が加わります)。「Mama's Little Angels」はドラムトラックもリメイクされており、完全に80年代以降のQUIET RIOTの音そのものに進化。また、後者はアコギの音色がオジー・オズボーンの『BLIZZARD OF OZZ』(1980年)でのランディの音色に近づけられており、そのあたりからもバンド側のランディに対する敬意や愛情が伝わります。
実際、本作収録の多くの楽曲におけるギターサウンドは、新たにカルロス・カヴァーゾ(G)所有のマーシャルアンプを介して再生されるなどして、チープだったオリジナル音源にふくよかさを加えることに成功しています。また、1977年のライブ音源「Laughing Gas」にフィーチャーされた長尺のギターソロは、別々で演奏された複数のギターソロを繋ぎ合わせたもので、その中にはのちの「Dee」や「Goodbye To Romance」などで耳馴染みのあるプレイ/フレーズも登場します。
ブライアン・アダムスの最新オリジナルアルバム『SO HAPPY IT HURTS』(2022年)、素晴らしい内容でしたね。この新作を機に、ぜひ若い世代にも彼の名作たちに触れていただきたい(そのためのサブスクリプションサービスですしね)。しかし、数あるオリジナルアルバムのどれから手を出したらいいのか、せっかくならオイシイとこ取りして手軽に楽しみたい! そういう方のために、このエントリーでは複数制作されている彼のベストアルバム/グレイテストヒッツアルバムを簡単に紹介していきたいと思います。
『CUTS LIKE A KNIFE』『RECKLESS』からのヒットシングルは網羅されていますが、『INTO THE FIRE』からは「Hearts On Fire」(全米26位/全英57位)、「Victim Of Love」(全米32位/全英68位)の2曲、『WAKING UP THE NEIGHBOURS』からは「There Will Never Be Another Tonight」(全米31位/全英32位)、「Thought I'd Died And Gone To Heaven」(全米13位/全英8位)、「All I Want Is You」(全英22位)あたりのシングル曲が選外に。かつ、このアルバムと同時期にリリースされ大ヒット中だった、映画『三銃士』の主題歌として制作されたロッド・スチュワート、スティングとのコラボ曲「All For Love」(全米1位/全英2位)も未収録となっています。
『WAKING UP THE NEIGHBOURS』が引き続きロングヒット中だった時期の1枚ということもあり、80年代のブライアンをおさらいするに最適な内容。ブレイク前の1stアルバム『BRYAN ADAMS』(1980年)、2ndアルバム『YOU WANT IT YOU GOT IT』(1981年)は気持ち良いくらいにスルーされているのも納得です。非シングル曲の「Kids Wanna Rock」(『RECKLESS』収録曲)も選ばれていることもあり、本作と『WAKING UP THE NEIGHBOURS』を持っていれば、この時点でのブライアン・アダムズはほぼ網羅できるといったところでしょうか。
全16曲の収録曲のうち『SO FAR SO GOOD』との被りは5曲と意外に少なめで、その内訳は4thアルバム『RECKLESS』から2曲(「Summer Of '69」「Run To You」と地味なセレクト)、6thアルバム『WAKING UP THE NEIGHBOURS』から2曲(「Can't Stop This Thing We Started」「(Everything I Do) I Do It For You」)、1stベストアルバム『SO FAR SO GOOD』から当時の新曲「Please Forgive Me」、アルバム未収録だったブライアン&ロッド・スチュワート&スティングによる「All For Love」(1993年)、7thアルバム『18 'TIL I DIE』から4曲、8thアルバム『ON A DAY LIKE TODAY』から3曲(うち「Cloud Number Nine」は未発表リミックスバージョン)、そして1997年に発表されたライブアルバム『MTV UNPLUGGED』のみ収録の新曲2曲(「I'm Ready」「Back To You」)と、本作のために制作された新曲「The Best Of Me」。『SO FAR SO GOOD』が80年代のUSヒットに寄せたものだとしたら、本作は90年代以降のUKヒットを総括した内容といったところでしょうか。
上記のように『SO FAR SO GOOD』との被りが比較的少ないこともあり、1993年以降の90年代を振り返る意味では非常に手軽な内容と言えます。とはいえ、本作も泣く泣くカットされた90年代のヒット曲が少なくないので、『SO FAR SO GOOD』同様にあくまでビギナー向けの1枚といったところでしょうか。
なお、本作も2022年2月までサブスク上で確認できたものの、気づけば『SO FAR SO GOOD』とともに消えてしまいました。
▼BRYAN ADAMS『THE BEST OF ME』 (amazon:国内盤CD / 海外盤CD / MP3)
THE POLICE時代を彷彿とさせる大きなノリのポップロック「If I Ever Lose My Faith In You」を筆頭に、そのタイトルからもわかるようにマカロニウェスタンをパロったカントリーロック「Love Is Stronger Than Justice (The Munificent Seven)」と、頭2曲だけでも過去3作とは異なるテイストであることが伝わります。特にジャズに系統した初期2作からは想像もできないポップさは、ある意味THE POLICE時代からの続きが描かれているようにも映ります。
その考えは「Field Of Gol」や「Seven Days」などといったポップ色の強い楽曲で、さらに確信へと変わります。かと思えば、初期作の延長線上にあるアレンジの「Heavy Cloud No Rain」もあるのですが、楽曲のスタイル自体はロックンロールのフォーマットにあり、このあたりからもスティングが本作で何を示したかったのかがご理解いただけるはずです。
ブギー調の「She's Too Good For Me」、変拍子を用いた「Saint Augustine In Hell」などは“もしTHE POLICEが90年代まで続いていたら”なんて想像してしまいたくなる作風だし、「Everybody Laughed But You」はTHE POLICEからソロを経て再びバンドに戻ったら……なんてこともイメージしたくなる仕上がり。さらに、アルバムのエンドロール的な「Epilogue (Nothing 'Bout Me)」の軽やかさ含め、本当に終始聴きやすいアルバムなんですよね。
また、本作には映画関連の楽曲が2曲含まれており、それもあって認知度がある程度高い作品かもしれません。その中でも「Shape Of My Heart」は映画『レオン』のエンディングで印象的な使われ方をしたこともあり、特に日本のリスナーの中にはこのアルバムがお気に入りという方が少なくないはずです。
ソロ1作目『THE DREAM OF THE BLUE TURTLES』(1985年)に若干の敷居の高さを覚え、なおかつTHE POLICE時代のテイストを求めるのであれば、本作は入門編としてうってつけの1枚だと断言します。スティングのソロキャリアにおいても、もっとも間口が広くて奥がドロドロ(笑)な1枚ですしね。
デビューアルバム『A BITTER OF WHAT YOU FANCY』(1990年)が全英2位という好記録を樹立し、「7 O'Clock」(同36位)、「Hey You」(同14位)、「I Don't Love You Anymore」(同24位)、「There She Goes Again」(同37位)を複数のヒットシングルも生み出したTHE QUIREBOYS。さらにライブアルバム『LIVE (RECORDED AROUND THE WORLD)』(1990年)も発表するなど、デビューから1年でトップバンドの仲間入りを果たすことになります。
重めのミドルナンバーと疾走感の強い楽曲が交互に並ぶ序盤の構成は、過去2作のスラッシュメタルの影響下にある作風とは異なるものが感じられ、特にジェリー・カントレル(G/ALICE IN CHAINS)がリードギターで参加したオープニング曲「Gods Of Second Chance」や、BメロがJUDAS PRIEST的なアップチューン「Losers In The Game」(この2曲のタイトルの素晴らしさよ)、前作を経たことで生まれたシャッフル調のヘヴィチューン「Hypnotized」、当時のツアーでオープニングを飾った「No Friend Of Mine」、いかにも彼ららしいヘヴィバラード「Waiting For A Savior」という前半の流れは完璧に近いものがあります。
後半もBUDGIE「Breadfan」を彷彿とさせるイントロの「Conductor」から始まり、アメリカ人目線で原爆について歌われた「Little Boy」(コーラスでジョーン・ジェットもゲスト参加)、ザクザク刻むギターリフが気持ち良い「Down To The River」、緩急に富んだアコースティックギターの使い方が絶品な「End Of The Age」、終盤に向けての小休止的インスト「Lovers And Madmen」を経て突入するパワフルなミドルチューン「A Subtle War」という構成で締め括り。特に後半は7〜8分台の長尺曲「Little Boy」「End Of The Age」で魅せる構築美にうっとり。その合間に入るアップチューンがそれぞれタイプが異なることと相まって、前作とは異なる色彩美で聴き手を魅了します。
もうひとつの1989年の映像は、もともと商品化を予定していなかったこともあり、質はイマイチ。ですが、当時オフィシャルで現存する『...AND JUSTICE FOR ALL』期のライブ映像はこれだけだったので、特にブラックアルバム以降ファンになった方々にはうれしい逸品だったはずです。正直、僕は1992年のほうよりこっちばかりリピートしたなあ……それこそVHSテープが擦り切れるほどに(誇張なし)。