カテゴリー「1996年の作品」の62件の記事

2024年5月 9日 (木)

POISON『CRACK A SMILE... AND MORE!』(2000)

2000年3月14日にリリースされたPOISONの5thアルバム。日本盤は同年6月28日発売。

本作は4thアルバム『NATIVE TONGUE』(1993年)に続くスタジオアルバムとして、脱退したリッチー・コッツェン(G)に代わりブルース・サラセノ(G)を迎え1994〜95年にかけてレコーディングされた『CRACK A SMILE』をベースにした内容。この時期、ブレット・マイケルズ(Vo, G)が交通事故(1994年5月)で重傷を負ったことから制作が長期にわたり、またその間に音楽シーンがグランジやヒップホップ中心に移行したこともあり、当初は1996年のリリースに向けてプロモ盤も制作されたもののレーベル側が難色を示し、最終的にアルバムのリリースは棚上げとなります。

結局、レーベル(Capitol Records)は契約消化作として1996年にベストアルバム『POISON'S GREATEST HITS 1986-1996』(1996年)を発表。そこに5thアルバムセッションで制作された「Sexual Thing」「Lay Your Body Down」の2曲を収録するにとどまります。しかし、1999年にC.C.デヴィル(G)がバンドに復帰し、黄金期のメンバーが復活。その後のツアーが大成功を収めたことを受け、約5年の歳月を経てついに日の目を見ることとなりました。

ジョン・パーデル&デュエイン・バーロン(アリス・クーパーDREAM THEATERL.A. GUNSオジー・オズボーンなど)をプロデューサーに迎え制作された本作は、1996年時点では全12曲入りアルバムとなる予定でした。が、『AND MORE!』という副題が付けられた2000年リリース作にアルバムアルバム本編にアウトテイク3曲(「One More For The Bone」「Set You Free」「Crack A Smile」)、2ndアルバム『OPEN UP AND SAY...AHH!』(1988年)制作時のアウトテイク「Face The Hangman」、さらに1990年の『MTV Unplugged』出演時に録音されたアコースティックライブ音源4曲を加えた、全20曲入りとなっています。

『CRACK A SMILE』本編自体はベスト盤で先行公開されていた「Sexual Thing」や「Lay Your Body Down」で何となく想像できていたように、3rdアルバム『FLESH & BLOOD』(1990年)や前作『NATIVE TONGUE』の延長線上にある、非常に練り込まれよく作り込まれたハードロックアルバムと言えるでしょう。なので、その2作を楽しめる耳をお持ちでしたら難なく受け入れられることでしょう。ブルース・サラセノのギタープレイもバンドのカラーに合わせた、そつないもので収まっているので、彼のソロキャリアと同等のものを期待すると若干肩透かしを喰らうかもしれません。

90年代半ばのシーンを意識してか、ヒップホップ的テイストをほんのりと散りばめた「Shut Up, Make Love」や「No Ring, No Gets」、DR. HOOK & THE MEDICINE SHOWのカバー「Cover Of The Rolling Stone」もスパイスとして存在感を発揮していますし、そのほかのオリジナル楽曲もいかにも彼ららしいものばかり。これが『NATIVE TONGUE』と同時代に1リリースされていたら、それなりのヒットを記録していたことでしょう。しかし、1996年といったらニューメタル全盛期。そりゃあメジャーでこれを大々的に売り出そうとは思わないか……残念ですが。

時代が何周も回った2024年だったら、本作を純粋に良質なハードロックアルバムとして、あるいは歴史の一部として受け入れることもできるでしょう。そういう意味では良い時代になりましたね。

なお、アルバム終盤の5曲(「Face The Hangman」以降)が急に別のギタリスト(C.C.デヴィル)に変わるので、ちょっとした違和感を覚えるかもしれませんが、そこはご愛嬌ということで(サブスクだと『MTV Unplugged』の4曲は未配信なので、そこまで『CRACK A SMILE』の世界観を崩すことはないですけどね)。

 


▼POISON『CRACK A SMILE... AND MORE!』
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2023年1月18日 (水)

CARCASS『SWANSONG』(1996)

1996年6月10日にリリースされたCARCASSの5thアルバム。日本盤は同年6月1日発売。

前作『HEARTWORK』(1993年)でメロディックデスメタル路線が見事に開花し、新たな活路を見出したCARCASS。同作はメジャーのColumbia Recordsを通じて、北米でも1994年1月に発表され好評を博しました。しかし、同作を持ってマイケル・アモット(G)が脱退。ツアーメンバーにマイク・ヒッキー(G)を迎えツアーを乗り切り、1994年5月には待望の初来日公演も実現させました(筆者も川﨑クラブチッタに足を運んだひとりです)。

その後、マイク・ヒッキーは正式メンバーになることなくバンドを離れ、新たにカルロ・レガダス(G)が正式加入。1995年初頭から続くニューアルバムの制作に取り掛かります。プロデュースは過去3作から引き続きコリン・リチャードソン(FEAR FACTORYNAPALM DEATHBULLET FOR MY VALENTINEなど)が担当。曲作りに関してはジェフ・ウォーカー(Vo, B)&ビル・スティアー(G)が中心ですが、「Black Star」「Polarized」「Firm Hand」にはカルロが早くも名を連ねています。

基本路線は前作でのメロデススタイルが下地になっていますが、全体的にハードロック色が強まった印象。リードトラック「Keep On Rotting In The Free World」(タイトルはニール・ヤング「Rockin' In The Free World」のオマージュか)で聴ける方向性はメタルというよりもハードロック的ですものね。ほかにも「Cross My Heart」など、チューニングやリフの刻み方こそ当時のモダンメタル以降の流れにあるものの、やろうとしていることは『HEARTWORK』とは若干異なることに気付くはずです。

かと思えば、「Black Star」や「Room 101」ではグルーヴメタル的な側面も感じられ、実は前作から推し進めた新たな方向性に迷いが生じているのでは?という印象も。メジャー配給などの影響もあり、レーベル側からもいろんな横槍が入ったんでしょうね……。実際、本作は1995年中にはリリースされる予定でしたが、レーベル側が難色を示し、Columbia Recordsは契約を解除してしまいましたし。そういった現実を目の当たりにし、ビルは本作発売前に脱退。バンドもリリースから間もなくして解散を発表してしまいます。

THIN LIZZY的ツインリードがひたすらカッコいい「Keep On Rotting In The Free World」、BLACK SABBATHがプログレッシヴなグルーヴメタルに挑戦したような「Childs Play」、IRON MAIDEN直系のメロディックなパワーメタル味がある「R**k The Vote」など突出した楽曲も少なくないですが、前作までの『HEARTWORK』ほどの評価を得られず、どちらかというと失敗作と捉えられている本作。解散を前提として名付けられた『SWANSONG』というタイトルもあり、しばらくはネガティブな印象が強かったものの、今聴くとそこまで悪いとは感じません。

確かに過去数作と比べたらランクは落ちるかもしれませんが、逆に本作での経験がなかったら実は最新作『TORN ARTERIES』(2021年)は生まれなかったのではないか。そんな気もしています。過渡期の1枚ではあるものの、CARCASS史においては実は影の重要作だった……というのは言い過ぎでしょうか。

 


▼CARCASS『SWANSONG』
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2022年12月 2日 (金)

KISS『YOU WANTED THE BEST, YOU GOT THE BEST!!』(1996)

1996年6月25日にリリースされたKISSのライブ・コンピレーションアルバム。日本盤は『ベスト・オブ・ベスト~KISS アライヴ』の邦題で、同年7月3日発売。

本作は同年6月15日からスタートしたオリジナルラインナップ(ポール・スタンレージーン・シモンズエース・フレーリー、ピーター・クリス)の全米ツアーに合わせて制作された、オリメン時代のライブ音源のみで構成されたライブベストアルバム。全12曲中4曲が未発表音源で、それ以外は『ALIVE!』(1975年)『ALIVE II』(1977年)から各4曲ずつピックアップされています。また、CDには17分にもおよぶKISSの最新インタビュー音源、日本盤CDおよびUSアナログ盤にのみエース歌唱の「New York Groove」(ドラムはエリック・カー)が追加されております。

アルバム冒頭に収録された未発表テイクの「Room Service」「Two Timer」「Let Me Know」は1975年録音で、かなりクリアな音質。もともと『ALIVE!』用にストックされていたものだったのでしょうか。全体の流れ的にも、アルバムタイトルにも用いられたライブ開始前のお決まりの合図「You wanted the best, you,got the best. The hardest band in the world, KISS!」からの引用で、当然このライブアルバムの冒頭にもこの前口上が用意されています。

もうひとつの未発表音源「Take Me」は1977年録音で、こちらも時期的に『ALIVE II』制作中のストックでしょう。たった1曲とは少ないですし、もっとほかにも発表できそうなテイクがあるような気がするのですが……この小出し感こそ商売上手なKISSらしいと言いますか(笑)。

ライブの定番曲といえる代表曲/シングル曲が少ない、裏ベスト的な選曲にも非難が集まりましたし、それ以上に未発表テイク4曲で集金しようとする愚かさも当時かなり叩かれた記憶があります。ただでさえオリメンツアーは集金ツアーにも受け取れるのに、CDでも……。まあ、当時は素直に買いましたけどね。翌1997年1月に決定したジャパンツアーへと、期待に胸を膨らませて。けど、来日公演までの半年で数回しか再生しませんでしたが(苦笑)。

ぶっちゃけ、ライブベストだからといって『ALIVE!』や『ALIVE II』より先に聴くべき作品だと思いませんし、希少価値も先の未発表音源4曲(「New York Groove」を含めると5曲か)程度しかありませんし。マニアだけが楽しむべき1枚だと断言しておきます。

 


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KISS『MTV UNPLUGGED』(1996)

1996年3月12日にリリースされたKISSのライブアルバム。日本盤は『停電(地獄の再会)~MTVアンプラグド』の邦題で、同年3月2日に先行発売。

本作は1995年8月9日に収録された『MTV Unplugged』の模様を音源化したもの。ライブ作品としては本作と同じくポール・スタンレー(Vo, G)、ジーン・シモンズ(Vo, B)、ブルース・キューリック(G)、エリック・シンガー(Dr, Vo)という布陣で制作された『ALIVE III』(1993年)から4年ぶり、通算4作目となります。

文字通りアンプラグド(アコースティック)形態で演奏されたこの日のライブでは、「Comin' Home」「Goin' Blind」「Do You Love Me」など初期の楽曲から「Sure Know Something」「I Still Love You」といった中期楽曲、そして「Domino」「Every Time I Look At You」という最新楽曲まで幅広くセレクト。中には「A World Without Heroes」といったレア曲も含まれており、この特別な機会をバンド側も楽しんでいる様子が伺えます。

アレンジは基本的に原曲から大きく変わることなく、シンプルにエレキからアコースティックに持ち替えただけといった印象。しかし、これが異様にカッコいい。アンプラグドだからといって変にレイドバックすることなく、楽曲の持つシンプル&キャッチーさがより浮き彫りになり、かつバンドの巧みなコーラスワークの魅力にも改めて気づかせてくれる。正直、「KISSみたいにギミック満載のバンドがアンプラグドってどうなの?」と当時は疑問に思いましたが、こうして音源として聴くことでバンドの軸にある重要なポイントを再確認できたという意味では、この企画は大成功といっていいでしょう。

加えて、本企画最大のサプライズとしてオリジナルメンバーのエース・フレーリー(G, Vo)とピーター・クリス(Dr, Vo)のゲスト参加が挙げられます。2人はTHE ROLLING STONESのカバー「2,000 Man」(エースVo曲)、「Beth」(ピーターVo曲)、そして「Nothin' To Lose」「Rock And Roll All Nite」で当時のメンバーである4人と共演を繰り広げています。特に「Nothin' To Lose」ではピーターとエリックのツインボーカル、「Rock And Roll All Nite」ではオリメン4人のソロ歌唱パートも設けられ、このお祭りにふさわしい饗宴を楽しむことができます。

ここでの共演がきっかけだったのか、あるいはこの時点ですでに決定していたのか(おそらく後者でしょう)、彼らはこのアルバム発売後の1996年4月にオリジナルラインナップでのワールドツアーを発表。と同時に、12年もの長期にわたりKISSを支え続けたブルース、および急逝したエリック・カー(Dr, Vo)に代わりバンドを5年間サポートしたエリック・シンガーとのコラボレーションも解消されることとなります。エリックはその後、ピーターの再脱退によりバンドに再合流することになりますが、ブルースが参加したライブ音源としては本作が最後となってしまいます(スタジオ音源では、のちに発表される『CARNIVAL OF SOULS』(1997年)がラストですが)。

KISSのライブ作品中もっとも肩の力を抜いて聴くことができる本作は、しばらくサブスク未解禁でしたが、つい最近日本でも聴けるようになりました。日本盤CDにのみボーナストラックとして追加収録された「Got To Choose」は未収録ですが、ライブアルバムとしては非常にコンパクト(全15曲/56分)なのでその内容同様、リラックスして楽しんでほしい1枚です。

 


▼KISS『MTV UNPLUGGED』
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2022年3月 2日 (水)

SCORPIONS『PURE INSTINCT』(1996)

1996年5月21日にリリースされたSCORPIONSの13thアルバム。日本盤は『ピュア・インスティンクト〜蠍の本能』の邦題で、同年5月20日発売。

ラルフ・リーカーマン(B)を新メンバーに迎え制作した前作『FACE THE HEAT』(1993年)から2年8ヶ月ぶりの新作。その間にはスタジオ新曲を含む通算3作目のライブアルバム『LIVE BITES』(1995年)のリリースもありましたが、同作発売直前には70年代からのメンバーであるハーマン・ラレベル(Dr)が脱退と、90年代に入ってからメンバーチェンジが続くことになります。

さらに、この時期にバンドはレーベルとマネジメントも一新。長きにわたり在籍したVertigo RecordsからAtlantic Recrods(北米のみ)およびEast West Records(それ以外)へと移籍し、アーウィン・ムスパー(CHICAGO、BON JOVIVAN HALENなど)とキース・オルセン(WHITESNAKEEUROPEHEARTなど)を共同プロデューサーに迎え新作を完成させます。

アルバム完成後に新メンバーとしてジェイムズ・コタック(Dr/ex. KINGDOM COME、ex. WARRANTなど)が加入しますが、レコーディングにはセッションドラマーのカート・クレスが参加。全体的な作風は『CRAZY WORLD』(1990年)の延長線上にあるポップロック/バラード中心のソフトな内容となっています。

バグパイプをフィーチャーしたオープニング曲「Wild Child」こそ王道のハードロック感が伝わりますが、3曲目にして早くもバラード「Does Anyone Know」が登場。その後もM-7「When You Came Into My Life」、M-9「Time Will Call Your Name」、M-10「You And I」、M-11「Are You The One?」とバラードタイプの楽曲が全11曲中5曲と約半数を占める結果に。

また、M-2「But The Best For You」はメロウなロックチューンながらも、ラテン調のアコギをフィーチャー。M-4「Stone In My Shoe」は爽快感の強いメジャーキーのポップロック、M-5「Soul Behind The Face」やM-8「Where The River Flows」は穏やかなトーンのAORナンバーと、全体を通じてHR/HM色を抑えたテイストでまとめられています。時代に呼応したハードエッジな作風だった前作『FACE THE HEAT』からの反動といえばそれまでですが、SCORPIONSにハードロックを求める層には若干厳しい内容と言わざるを得ません。

ですが、1曲1曲のクオリティの高さは問答無用なだけに、駄作と切り捨てることもできない。「Wind Of Change」路線を求めるライト層にはリーチする良作ではあるものの、コアなHR/HMリスナーには“軽すぎる”1枚ではないでしょうか。

たまに聴くと本当に良いアルバムだなと思うし、何か作業をしている横で流しっぱなしにする分には文句なしの良アルバム。聴くタイミングや気分を選ぶ1枚かもしれませんね。

なお、本作は2022年3月現在、日本のみならず海外でもストリーミング未配信。このタイミングにぜひとも解禁していただきたいものです。

 


▼SCORPIONS『PURE INSTINCT』
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2021年11月21日 (日)

BRYAN ADAMS『18 'TIL I DIE』(1996)

1996年6月4日にリリースされたブライアン・アダムスの7thアルバム。日本盤は同年6月1日に先行発売。

「(Everything I Do) I Do It For You」という世紀のメガヒット曲を生み出した前作『WAKING UP THE NEIGHBOURS』(1991年)からは計6曲ものヒットシングルが生まれ、2年近くにわたるロングヒット作となりました。また、1993年にはこのヒットを受けて初のベストアルバム『SO FAR SO GOOD』も発表され、同作からの新曲「Please Forgive Me」も大ヒット。さらに映画のために制作されたロッド・スチュワートスティングとのコラボ曲「All For Love」も各国で1位を獲得するなど、しばらくは話題に事欠かないブライアンなのでした。

1995年に入ると、再び映画のために新曲「Have You Ever Really Loved A Woman?」を制作。この曲も世界各国で1位という大記録を樹立。そこから1年を経て、ついに届けられた5年ぶりのアルバムが“死ぬまで18歳(=青春)”と題されたいかにも彼らしい1枚でした。

プロデューサーには前作から制作に加わったジョン・マット・ラングを再起用。ソングライティングでもジョンとがっつりタッグを組み、前作ではジム・ヴァランスなど外部ライターも複数曲で関わっていたところを今作ではほぼブライアン&ジョンの2人で制作しています。

前作はモロにジョン・マット・ラングらしい音(=DEF LEPPARD的の機械的な硬さ)でしたが、今作はそれ以前のラフで軽やかなロックンロールを軸にしており、前作がなんとなく苦手だったというリスナーも本作のナチュラルさにホッとするのではないでしょうか。

一方で、楽曲面に目を向けると前作から5年という歳月の重みが強く伝わる、非常に落ち着いたトーンの楽曲が中心。リードシングル「The Only Thing That Looks Good On Me Is You」やタイトルトラック「18 Til I Die」「We're Gonna Win」「It Ain't A Party... If You Can't Come 'Round」のようにアンセミックなロックチューンも複数含まれているものの、「Let's Make A Night To Remember」や「Star」「I Think About You」「You're Still Beautiful To Me」などのように穏やかなミディアム/スローナンバーも数多く用意されている。しかも、これらの楽曲を覆う空気感がみずみずしさというよりは大人のほろ苦さといったアダルトなもので、“死ぬまで青春”と言いながらも若さ全開というわけではなく、大人になったブライアンが青春時代を振り返りつつこのまま前進していくというスタイルに近いのかな。そう考えると、ロックンロールナンバーの多くが若干大人びているトーンなのも納得がいきます。

今作をリリースした時点ですでに37歳。人生折り返しに近づいてきたブライアンが掲げる“生涯青春宣言”的ロックアルバム。グランジやヒップホップ主導の1996年においては前作ほど響くものではなく、第二の故郷であるイギリスでは1位を獲得したものの、本国カナダでは4位、アメリカにおいては31位止まり。シングルに関しても「The Only Thing That Looks Good On Me Is You」(全米52位/全英6位/カナダ1位)、「Let's Make A Night To Remember」(全米24位/全英10位/カナダ1位)、「Star」(全英13位)、「18 Til I Die」(全英22位/カナダ21位)と中ヒットで終わっています。が、本作発表後にリリースしたバーブラ・ストライサンドとのデュエット曲「I Finally Found Someone」は全米8位、全英10位という好成績を残しているので、まだまだ人気が下火というわけでもなさそうですね。

70分以上の長尺作だった前作と比べると、今作は全13曲で52分と比較的コンパクト。それもあってか、当時はドライブなど含め移動のお供として重宝した1枚でした。

 


▼BRYAN ADAMS『18 'TIL I DIE』
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2021年10月31日 (日)

R.E.M.『NEW ADVENTURES IN HI-FI』(1996)

1996年9月9日にリリースされたR.E.M.の10thアルバム。日本盤は同年9月25日発売。

前作『MONSTER』(1994年)から2年ぶりに発表された本作は、同作を携えたUSツアーの最中訪れた各地でレコーディングを実施。プロデューサーにはブレイク作『DOCUMENT』(1987年)からタッグを組むスコット・リット(INCUBUSNIRVANAHOLEなど)を迎えています。

アコースティックやカントリーのテイストを強めた『OUT OF TIME』(1991年)『AUTOMATIC FOR THE PEOPLE』(1992年)、生々しいロックを取り戻した『MONSTER』と、ここ数作は作品ごとに趣向を凝らしてきた彼らでしたが、今作は録音した土地によって曲調やスタイルも異なることもあり、土着的な音楽とハードなオルタナティヴロックが交互に並ぶようなハイブリッドな作品に仕上がっています。例えば、オープニングを飾る「How The West Was Won And Where It Got Us」は『AUTOMATIC FOR THE PEOPLE』からの流れを汲む内省的な楽曲だとしたら、続く「The Wake-Up Bomb」は『MONSTER』の延長線上にあるガレージロック。以降もカントリーやフォーキーな楽曲とグランジ以降の流れにあるロックチューンが無作為に並びます。

“無作為に”と表現したのは、そこにストーリー性などドラマチックな構成が感じられないから。むしろ淡々とした流れがいかにも彼ららしく、制作過程なども踏まえるとどこかドキュメンタリータッチのロードムービーのようにも感じられます。アートワークといい、アルバムタイトルといい、本作における「旅」というキーワードは切っても切れないものがあるはずです。

作為的なドラマチックさがないぶん、アルバムは山を迎えることもなければ極端にダークな深みにハマることもない。全14曲がスルスルと、淡々に進行していき、気づけば65分というバンド史上最長のアルバムは終了している。そういう構成もあって、初めて聴いたときは特に印象に残らず、メジャーデビュー作『GREEN』(1988年)以降ではもっとも薄味なアルバムと認識していました。『AUTOMATIC FOR THE PEOPLE』や『MONSTER』という圧倒的な傑作のあとだけに、ここまでインパクトが薄いとそりゃそう感じてしまいますよ。

ところが、1曲1曲を取り上げると非常にクオリティの高い良曲が並んでいることに気付かされる。パティ・スミスをゲストに迎えた「E-Bow The Letter」や、『MONSTER』の進化系といえる「Leave」「Departure」、王道のR.E.M.流ロック「Bittersweet Me」「Electrolite」など、本当に粒揃い。結局、曲数が多くて尺が長すぎるのが災いして、かつ淡々とした作り/構成も影響して薄味に感じてしまうのかもしれません。これ、もう2曲くらい減らしたらまた違ったのかな(正直、10曲でもちょうどいいくらいかもしれない)。

作品というよりは記録(=Record)という色の強い本作ですが、このアルバム発売から1年後にオリジナルメンバーのビル・ベリー(Dr)が脱退。以降、R.E.M.はマイケル・スタイプ(Vo)、ピーター・バック(G)マイク・ミルズ(B)の3人にサポートメンバーを加える形で活動を継続。スコット・リットとも袂を分かち、次作『UP』(1998年)以降新たなプロデューサーを迎えることとなります。

本作発売から25年後の2021年10月29日には、リリース25周年記念2枚組エディションも発売。アルバム本編にはリマスタリングを施し、ライブ音源やリミックス、アルバム未収録のアウトテイクや別バージョンなどが収録されたボーナスディスクが付属しています。ただでさえ長尺なのに、曲数倍くらいになってるし(苦笑)。まあ、この機会に本作と改めて向き合ってみてもいいんじゃないでしょうか。

 


▼R.E.M.『NEW ADVENTURES IN HI-FI』
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2021年7月25日 (日)

RIDE『TARANTULA』(1996)

1996年3月11日にリリースされたRIDEの4thアルバム。日本盤は同年4月10日発売。

前作『CARNIVAL OF LIGHT』(1994年)ではマーク・ガードナー(Vo, G)とアンディ・ベル(Vo, G)が半々ずつ曲を書き、かつそのバランス感も非常に優れたものであり、一介のシューゲイザーバンドから普遍性の強いロックバンドへと脱却する契機を作る成功を得ました。しかし、この頃からマークとアンディの均等なバランスが崩れ始め、続く今作ではアンディ主体でアルバム制作が進められます。

これはアンディのエゴが爆発したと受け取ることもできますが、裏を返せばマークがバンド(および音楽活動)に以前ほど熱を感じられなくなっていたとも言えるのかなと。事実、この『TARANTULA』というアルバムにはマークの楽曲は全12曲中2曲(うち1曲はスティーヴ・ケラルト&ローレンス・コルバートとの共作)と非常に少ない。となると、必然的にアンディが頑張るしかなかったと受け取ることもできます。

そのアンディ主導の楽曲ですが、前作で得た成功および自信が悪い方向に動いてしまった感があります。『CARNIVAL OF LIGHT』の延長線上にある楽曲も少なくありませんが、それ以上にアルバムを覆うのが当時にブリットポップ的な方向性。本作が制作された1995年というと、イギリスではOASIS vs BLURでメディアが盛り上がっていた頃。チャート上にもブリットポップ・ムーブメントの影響下から登場したバンドたちがその名を連ね、RIDEのようなバンドは早くもひと世代前の存在へと追いやられていたわけです。

そんな中で、アンディが「俺たちにだってそれくらいできる」と起死回生を狙ってアクションを起こしたのかどうかはわかりませんが、実際本作で聴くことができる楽曲群の多くが本来のRIDEらしさを見失った、ブリットポップ・ムーブメントに惑わされたどっちつかずの佳作ばかり。マークの携わった曲も『CARNIVAL OF LIGHT』の延長線上にあるものの精彩さに欠け、アンディの曲の影に隠れてしまっている。結果、完成したアルバムを聴いて愕然としたのではないでしょうか。

アンディはこのアルバムが発売される前にバンドからの脱退を発表。本作から唯一のシングル「Black Nite Crash」は全英67位と低調に終わり、アルバム自体も最高21位と過去イチ低い数字を残しています。そして本作発売から間もなくして、RIDEは解散を正式発表。1988年の結成から8年という短い命を終えることになります。

 


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2021年6月20日 (日)

ENUFF Z'NUFF『PEACH FUZZ』(1996)

1996年1月19日にリリースされたENUFF Z'NUFFの6thアルバム。

当初は完全新作と謳われていた本作、実は以前発売された『1985』(1994年)同様に、過去にレコーディングされながらもアルバム未収録だった楽曲を集めた、いわゆる寄せ集めコンピレーションアルバム。「Let It Go」や「Kitty」あたりは2ndアルバム『STRENGTH』(1991年)からのシングルC/W曲として発表済みなので、そういった事情もディープなファンは承知だったのでしょうね。

とはいえ、常にクオリティの高い楽曲を増産し続ける彼らのこと。本作には“残りもの”感は一切なく、言われなければ3rdアルバム『ANIMALS WITH HUMAN INTELLIGENCE』(1993年)の延長線上にある1枚として受け取るのではないでしょうか。事実、当時の僕もそう感じながら聴いていましたから。

レコーディングクレジットの参加メンバーから各曲の制作時期はなんとなく想像できますが、おそらく大半は『ANIMALS WITH HUMAN INTELLIGENCE』前後に録音したものなのかな。ジーノ・マルティノ(G)やジョニー・モナコ(G)の名前がないことから、80年代後半〜90年代初頭の楽曲が中心なんでしょうね。全体の音の質感やドラムの音色、楽曲の方向性的にも初期3作と重なるものがありますしね(中にはデモトラックっぽいクオリティの音源も含まれていますが)。そういった意味では、ハードロック色の強い時期のズナフがお気に入りというリスナーにはうってつけの1枚かもしれません。

本当に今聴き返しても、オリジナルアルバムとして純粋に通用するクオリティの1枚。アルバムとしてのまとまりは過去作ほど強くはないかもしれませんが、「Message Of Love」や「So Long」あたりは以降の作風にも通ずるものが感じられるので、90年代後半に『PARAPHERNALIA』(1999年)で本格的に復調するまでのつなぎとしても存分に機能する佳作かなと。個人的にはドニー・ヴィ(Vo, G)が歌ってくれさえすればオールOKです。

なお、本作は初出時、日本盤と海外盤とで収録内容/曲順およびアートワークがまったく異なるものでした(海外盤は日本盤より2曲少ない全10曲。実は隠しトラックとして「Kitty」が収録されているので、本当は11曲入り)。日本盤は90年代以降一度も最初されていませんが、海外では2008年の再発以降、日本盤と同じ収録内容/曲順に新たなアートワークが施されたものが流通しています。現在ストリーミングサービスで耳にすることができるバージョンもこちらなので、ご安心を。

 


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2021年4月28日 (水)

THE ALMIGHTY『JUST ADD LIFE』(1996)

1996年3月にリリースされたTHE ALMIGHTYの5thアルバム。日本盤は同年3月13日、のちに単品発売されることになるライブアルバム『CRANK AND DECEIT: LIVE IN JAPAN』(1996年)を同梱した2枚組仕様で発売されました。

前作『CRANK』(1994年)ではクリス・シェルドン(PIXIESFOO FIGHTERSTHERAPY?など)をプロデューサーに迎え、3rdアルバム『POWERTRIPPIN'』(1993年)でのスタイルをよりスマートに特化させることに成功したTHE ALMIGHTY。再びクリスをプロデューサーに迎えた今作では、そのスタイルをさらに深化させ、普遍性の強いパンク/ハードロックアルバムを完成させます。

メタリックでモダンなスタイルが印象的だった前作と異なるのは、その質感でしょうか。『CRANK』が実に同時代的であったのに対し、今作ではその本質的な部分をより掘り下げることで音の質感や表現方法が若干レイドバックし。70年代末のオリジナルパンクや80年代初頭のポストパンクの手法も上手に取り入れたことで、鋭角的なメタルサウンドが丸みを帯び、全体に普遍性の強い空気感が強まっている。オープニングを飾る「Ongoing And Total」ひとつとっても、方向性自体は前作の延長線上にあるもののアプローチが異なることで、メタリックさよりもパンク的な側面が強まっているわけです。

そのアプローチのもっともたる好例が、シングルカットもされた「Do You Understand」や「All Sussed Out」でしょうか。前者には当時すでにアメリカでブレイクしていたメロディックパンクとの共通点が見受けられ、後者ではブラスセクションを大々的にフィーチャーすることでTHE CLASHと重なる部分も見つけやすくなった。リリース当時は「脱メタル」だの「寝返った」だのいろいろ言われましたが、時代性含めて自然な変化/深化だったのかなと、リリースから25年経った今ならそう受け取ることができるでしょう。

もちろん、前作までのスタイルも「How Real Is Real For You」や「360」のような楽曲に見出すことができる。けど、今作においてはそういったスタイルの楽曲が新規軸の引き立て役に回っていて、むしろ跳ねたビートのポップパンク「Dead Happy」やオルガンをフィーチャーしたソウルフルなロック「8 Day Depression」、ファンクロック的なアプローチの「Feed The Need」、ハードコアパンク的なショートチューン「Afraid Of Flying」のような楽曲に魅力を見出すことができるのですから、不思議なものです。

こういった変化は当時、もちろん全面的に受け入れられたわけではありません。チャート的には前々作の全英5位、前作の15位よりも劣る最高34位を記録。「All Sussed Out」(同28位)、「Do You Understand」(同38位)のシングルヒットこそあったものの、バンドはアルバム発表直後にメジャーのChrysalisからのサポートをまともに受けられず、レーベル離脱。同年5月に本作をインディーズから再リリースするものの、結局そのまま解散してしまいます。当時、解散の知らせを聞いたときは本当に驚いたし、ヘコんだことをよく覚えています。だって、このアルバムを携えたライブを観ることすら叶わなかったわけですから。本作での変化を好意的に受け止めていた僕としては、非常に大きな損失だったのです。

なお、本作をはじめとするTHE ALMIGHTYのスタジオアルバム全7作(再結成後の2枚含む)は、ここ日本ではデジタルリリースおよびストリーミング配信なし。ですが、『POWERTRIPPIN'』のデラックス盤や『CRANK』以降のスタジオアルバム4枚+ライブ盤『CRANK AND DECEIT: LIVE IN JAPAN』+アルバム未収録曲&テイクを収めたCD2枚からなる7枚組ボックスセット『WELCOME TO DEFIANCE: COMPLETE RECORDINGS 1994-2001』が2021年にリリースさればかりなので、これを機に日本でも解放していただきたいものです(『CRANK AND DECEIT: LIVE IN JAPAN』のみ、なぜか最近解禁されましたが)。

 


▼THE ALMIGHTY『JUST ADD LIFE』
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