カテゴリー「1997年の作品」の61件の記事

2022年12月 4日 (日)

KISSのベストアルバムを総括する(2022年版)

ブライアン・アダムスAEROSMITHに続く「ベストアルバムを総括する」シリーズ第3弾(シリーズだったのか……)はKISS。まあとにかくベスト盤やコンピ盤、ボックスセットが多い方々ですが、今回は数あるベスト盤の中からレーベル主導で制作された『MILLENNIUM COLLECTION』シリーズを除く、バンド側の公式リリースに絞ってセレクトしております。中には新曲やレアトラックなど含まないもの、現在廃盤でサブスクでも配信されていないものも含まれていますが、あえて掲載してみます。

とにかく非常に長いエントリーなので、心してお読みください……(苦笑)。

 

 

『DOUBLE PLATINUM』(1978)

 

1978年4月2日にリリースされたKISS初のグレイテストヒッツアルバム。アナログ2枚組、CD1枚もの。

リリース当時のメンバーはポール・スタンレー(Vo, G)、ジーン・シモンズ(Vo, B)、エース・フレーリー(G, Vo)、ピーター・クリス(Dr, Vo)のオリジナル編成。新曲こそ皆無ですが、既存楽曲に加え「Strutter」のリテイクバージョン「Strutter '78」やリミックステイクなどが豊富。サブスクではApple Musicはフルで楽しめますが、Spotifyでは「Calling Dr. Love」と「Black Diamond」が歯抜け状態。Amazon Musicでは配信すらされていないようなので、どうにかしていただきたいものです。

詳しくはこちらのエントリーを参照のこと。

 


▼KISS『DOUBLE PLATINUM』
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『KILLERS』(1982)

 

1982年6月15日にリリースされた、KISSにとって2作目の公式コンピレーションアルバム。アナログ/CDともに1枚もの。

当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、エース・フレーリー、エリック・カー(Dr, Vo)。日本やオーストラリアなどアメリカ以外の諸国で先行発売。当時はここでしか聴くことができなかった新曲4曲(「I'm A Legend Tonight」「Down On Your Knees」「Nowhere To Run」「Partners In Crime」)がかなり話題となりました。ジャケットにエースの姿はあるものの、当時はすでにバンドから脱退しており、新曲のレコーディングにはのちにバンドに加入するブルース・キューリック(G)の実兄ボブ・キューリック(G)がリードギターとして参加しています。

詳しくはこちらのエントリーを参照ください。

 


▼KISS『KILLERS』
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『CHIKARA』(1988)

 

1988年5月25日に日本限定でリリースされたコンピレーションアルバム。CD1枚もの。

当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、ブルース・キューリック、エリック・カー。この年の春に10年ぶり(ノンメイクアップ時代としては初めて)の来日公演が決定したことを受け、それにあわせて日本のみ10万枚限定で制作されたレアアイテム。今となっては10万枚も刷ったのか!って驚きですけどね。内容は「Rock And Roll All Nite」や「Love Gun」などの70年代ヒットよりも、「Creatures Of The Night」や「Lick It Up」「Heaven's On Fire」「Tears Are Falling」などの80'sヘアメタル期が中心。主にシングルカット/MV制作された楽曲が中心で、そんな中に「I Was Made For Lovin' You」のリミックスバージョンという初CD化レア音源が含まれているのが売りかな(のちに「Psycho Circus」シングルのカップリングで世界的にCD化されました)。

枚数限定生産ということで、現在は廃盤。ただ、中古盤ショップを回れば意外と簡単に見つけられるはず。値段もそこまで張っていないので(Amazonは論外!)、気になる方はぜひチェックしてみてください。

 


▼KISS『CHIKARA』
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『SMASHES, THRASHES & HITS』(1988)

 

1988年11月15日にリリースされた、KISSにとって3作目の公式コンピレーションアルバム。CD1枚もの。

当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、ブルース・キューリック、エリック・カー。日本では『CHIKARA』から間を空けずに発表されることになりましたが、『KILLERS』未発売だった北米などの海外諸国では『DOUBLE PLATINUM』以来10年ぶりのベスト盤。考えてみたら「I Was Made For Lovin' You」はもちろん、80年代の楽曲をまとめたコンピが10年も出ていなかった事実に驚かされます。

内容は「Let's Put The X In Sex」「(You Make Me) Rock Hard」の新曲2曲や、一部楽曲のリミックス、そしてエリック・カーが歌唱した「Beth」など、単なるベスト盤では片付けられない楽曲が多数。北米盤ではなぜか直近の新作『CRAZY NIGHTS』(1987年)からの楽曲が含まれていません(ヨーロッパ盤には「Crazy Crazy Nights」「Reason To Live」収録)。とはいえ、ヘアメタル期のヒットシングルが簡単におさらいできるので、実はもっとも手軽に楽しめる入門盤かもしれません。

詳しくはこちらのエントリーを参照ください。

 


▼KISS『SMASHES, THRASHES & HITS』
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『GREATEST KISS』(1997)

 

1997年4月8日にリリースされたKISSの公式コンピレーションアルバム第4弾。日本盤は1997年1月の来日公演にあわせて、1996年12月9日発売。CD1枚もの。

リリース当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、エース・フレーリー、ピーター・クリス(Dr, Vo)。オリジナル編成およびメイクアップ期へと回帰した彼らのワールドツアーにあわせて制作されたもので、北米、ヨーロッパ、日本とそれぞれ収録曲が一部異なるのが特徴。

これまでのコンピのように新曲やリミックス曲は皆無で、既発曲がリマスタリングされている程度。ただ、それだけでは売りがなさすぎるので、1996年6月28日のデトロイト公演から「Shout It Out Loud」のライブ音源を追加。こちらは当時MVも制作されています。

オリメン時代にこだわった選曲なので、『SMASHES, THRASHES & HITS』以降に生まれたヒット曲「Hide Your Heart」「Forever」「Unholy」などは未収録。ただ、北米盤以外では「God Gave Rock 'N' Roll To You II」が選出されているのが謎かも。なお、日本盤のみ海外盤未収録の「C'mon And Love Me」「Rock Bottom」がセレクトされております。このへん、いかにもですね。

サブスクでも聴くことができますが、Apple Musicでは日本盤バージョンで配信、Spotifyはヨーロッパバージョンでの配信のようです。

 


▼KISS『GREATEST KISS』
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2022年11月 3日 (木)

RATT『COLLAGE』(1997)

1997年7月22日にリリースされたRATTのコンピレーション/リテイクアルバム。日本盤は同年7月2日先行発売。

本作は同年に再結成を果たしたRATTが、70年代後半から80年代にかけて残した未発表曲の数々をリリース当時のメンバー……スティーヴン・パーシー(Vo)、ウォーレン・デマルティーニ(G)、ボビー・ブロッツァー(Dr)、ロビー・クレイン(B)という布陣で際レコーディングしたもの。一部楽曲にはデモ制作当時の音源もそのまま使用されており、ロビン・クロスビー(G)やホアン・クルーシェ(B)のプレイも耳にすることができます。文字通り、コラージュ的内容なわけですね。

再結成したものの、とりあえず次のオリジナルアルバムを制作する前に肩慣らしとして(あるいは新たなメジャー契約のためのサンプルとして)、何か音源を出す必要があったのかもしれませんね。そういった意味では、これまで存在の知られていた初期の楽曲を含む本作は、RATTというバンドの原点をメンバーが振り返るという意味でも良い習作だったのかもしれません。

「Dr. Rock」「Ratt Madness」「Take It Anyway」、そして5thアルバム『DETONATOR』(1990年)でも取り上げられた「Top Secret」など大半の楽曲は70年代のMICKY RATT時代のもので、インディーズ時代のEP『RATT EP』(1983年)よりも方向性が固まる前とあって、どこか若々しさが伝わってくる。特にこの時期の楽曲はウォーレン加入前のものなので、そりゃそうですわな。「Top Secret」は『DETONATOR』バージョンに慣れてしまうと、こちらのオリジナルバージョンは安っぽい印象も受けますが、何度も聴いているとこれはこれで悪くないと思えてきます。

で、ウォーレンがソングライティングにも関わるようになってからの楽曲(「Steel River」「Diamond Time Again」「Hold Tight」)には『OUT OF THE CELLAR』(1984年)以降との共通点も見受けられ、なるほどと納得できるものがある。ロビンが制作に関わった「I Want It All」も同じくですね。あと、スティーヴンがのちのARCADEの1stアルバム『ARCADE』(1993年)で取り上げた「Mother Blues」の原曲も含まれています。

全体的にデモ音源を元にしていることもあってか、サウンド面では少々チープさが目立ちます。特にギターサウンドの迫力のなさに顕著で、いかにも低予算で制作されましたというのが見え見え。80年代の華やかなRATT 'N' ROLLサウンドに慣れ親しんでいる耳には少々物足りないかもしれませんね。

というのも、90年代の楽曲から唯一採用された「Lovin' You's A Dirty Job」のリミックス音源との落差が異常に激しいものでして。尺稼ぎとしか思えないくらいに不必要なこの曲、完全に蛇足ですよね(苦笑)。

このアルバムがきっかけとなりRATTはSony系列のPortrait Recordsと契約し、1999年に9年ぶりのオリジナルアルバム『RATT』を手がけることとなるのですから、結果的には作っておいてよかったのかもしれません。とはいえ、現時点では本作は廃盤状態で、サブスクでも未解禁なのですが(苦笑)。

ちなみに、日本盤のみボーナストラックとして「She's Got Everything」を追加収録。こちらもいかにも80年代のアウトテイクといった仕上がりですが、興味がある方はぜひチェックしてみてください。

 


▼RATT『COLLAGE』
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2022年4月12日 (火)

AEROSMITHのベストアルバムを総括する(2024年改訂版)

先日ブライアン・アダムスで試してみた、いちアーティストの公式ベストアルバム/コンピレーションアルバムをひとつのエントリーの中で総括する記事AEROSMITH版です。

AEROSMITHは1973年のデビュー以降、Columbia Records(1973〜1984)→Geffen Records(1985〜1997)→Columbia(1997〜2021)→Universal(2021〜)と移籍を繰り返してきましたが、現在は全カタログの権利をUniversalが取得したことで、今後Columbia/Sony時代の音源もUniversalからフィジカル再発/デジタル配信されることになりそうです。

そういった意味では、ここに記す代表的なコンピレーションアルバムのいくつかは今後、姿を消すことになるかもしれません。それでもこの機会に改めて、ひとつの記録として記事を残しておくのはアリかなと思い、今回の執筆に至りました。

選出したベストアルバムは、レーベル主導によるシリーズ企画(Universalの『THE MILLENNIUM COLLECION』など)を除く、新曲やレア曲などを含む9 10作品。中には廃盤になっていたりサブスクで聴けないものも含まれていますが、ご了承ください。また、すでに単独エントリーで公開済みの作品もありますが、その場合は該当記事のリンクを貼っておきますのでご参考ください。(※2024年8月5日、新たに2023年発売の『GREATEST HITS』を追加した改訂版となります)

 

 

『AEROSMITH'S GREATEST HITS』(1980)

 

1980年11月にリリースされた、バンド初のベストアルバム。

そのタイトルどおり、収録内容はシングル曲を中心にしたもので、アナログ時代ということで全10曲/約38分というコンパクトな内容でまとめられています。また、構成的にもリリース順に並べられているので、いきなり「Dream On」から始まるという曲順はロックバンド的にどうなのかな?という疑問も残ります。

収録曲のうち、「Same Old Song And Dance」「Sweet Emotion」「Kings And Queens」はイントロを短くした“シングル・エディット”バージョンで収録。「Walk This Way」もアルバムバージョンより10秒近く短い形にエディットされています。オリジナルバージョンに勝るものはありませんが、本作リリース当時は70年代の代表的シングル曲をひとまとめに楽しめるアルバムとして、非常に重宝されましたし、80年代後半の本格的復帰以降も『PERMANENT VACATION』(1987年)『PUMP』(1989年)とともにこのアルバムを愛聴したファンは少なくなかったはずです(注:Apple Musicなど一部ストリーミング配信版は各シングルエディットがアルバムバージョンに差し替えられているのでご注意を)。

また、映画サントラに提供したビートルズのカバー「Come Together」が収録されている点も注目ポイントかな。『LIVE! BOOTLEG』(1978年)ではライブバージョンを先に聴くことができましたが、スタジオテイクがエアロのアルバムに収録されるのはこれが初めて。そこも本作が長く愛された要因のひとつかなと。

なお、本作がリリースされた頃にはすでにバンドの人気も低迷期に突入しており、チャート的には大きな成功を収めることはありませんでしたが、そこから数年後の再ブレイクも手伝い、セールス的には現在までに1000万枚を超えるメガヒット作となっています。

 


▼AEROSMITH『AEROSMITH'S GREATEST HITS』
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『GEMS』(1988)

 

1988年11月にリリースされたAEROSMITHのコンピレーションアルバム。

『PERMANENT VACATION』(1987年)の大ヒットを受けて、前レーベルのColumbia Recordsが企画したコンピ版で、シングル曲中心でまとめられた前作『AEROSMITH'S GREATEST HITS』と比べるとその内容はかなり地味なもの。ただ、ライブで演奏される機会の多い「Mama Kin」や「Lord Of The Thighs」「Train Kept A-Rollin'」なども含まれていることから、“裏ベスト”的側面の強い1枚かなと。

本作最大の注目ポイントは、『LIVE! BOOTLEG』(1978年)のみで聴くことができた「Chip Away The Stone」の未発表スタジオテイクが収録されていること。この1曲のために当時本作を購入したというファンも少なくなかったはずです。実際、この曲は本作からシングルカットもされ(既存ライブ映像を使用したMVも制作)、ラジオヒットも記録しています。

今のようにサブクスやYouTubeも存在せず、過去のスタジオアルバムにまで手を出せなかった当時の中高生には本作に収録された「Rats In The Celler」や「Nobody's Fault」「Round And Round」「Jailbait」などはかなりカッコよく響いたものです。ここから『ROCKS』(1976年)『TOYS IN THE ATTIC』(1975年)にも手を伸ばしていったビギナーは80年代後半、かなりの数存在していたはずですから。

コアなファンの中には、先述の『AEROSMITH'S GREATEST HITS』より本作のほうが好きという方も、意外と多かったりして。かくいう僕も本作、大好物ですからね。

 


▼AEROSMITH『GEMS』
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2022年3月19日 (土)

V.A.『SPAWN: THE ALBUM』(1997)

1997年7月29日にリリースされた、映画『スポーン』のサウンドトラックアルバム。日本盤は同年9月10日発売(日本盤はオリジナルアートワークを採用)。

本作は『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』(1993年)のように、当時旬のロック/メタルバンドと先鋭的なクラブミュージックアーティストを組み合わせた、コラボ曲のみで構成されたコンピレーションアルバムで、純粋なサウンドトラック盤とは異なる仕様となっています。また、『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』がメタル/グランジ系バンドとヒップホップアーティストとのコラボレーションが中心だったのに対し、この『SPAWN: THE ALBUM』ではメタル/グランジ/オルタナティヴロック/ニューメタル勢とエレクトロニカ/テクノ系アーティストとのコラボで構成されています。

楽曲の大半はジャンルの異なる2組との共作で制作されたものですが、中にはMETALLICA「For Whom The Bell Tolls」をDJスプーキーがリミックスしたテイクや、ORBITALの1990年のヒット曲「Satan」をカーク・ハメット(G/METALLICA)がギタリストとして参加した形での再録バージョンも含まれており、すべてが純粋な新曲とは言えません。ですが、いろんな変遷を経た2022年の耳で聴くとどれも非常に親しみやすいテイクばかりで、リリース当時よりも今のほうがフィットするような印象を受けます。

ロック系からの参加アーティストはFILTERMARILYN MANSON、カーク・ハメット、KORN、BUTTHOLE SURFERS、METALLICA、STABBING WESTWARD、MANSUNトム・モレロRAGE AGAINST THE MACHINE)、SILVERCHAIR、ヘンリー・ロリンズ、INCUBUSSLAYER、SOUL COUGHING。テクノ系からはTHE CRYSTAL METHOD、SNEAKER PIMPS、ORBITAL、THE DUST BROTHERS、モービー、DJスプーキー、ジョシュ・ウィンク、808 STATE、THE PRODIGY、ヴィトロ、ゴールディ、DJグレイボーイ、ATARI TEENAGE RIOT、ロニ・サイズとかなりバラエティに富んだ面々が揃っています。

FILTER×THE CRYSTAL METHOD「(Can't You) Trip Like I Do」やマンソン×SNEAKER PIMPS「Long Hard Road Out Of Hell」、KORN×THE DUST BROTHERS「Kick The P.A.」などはそれぞれのバンドのカラーが強く、このままオリジナルアルバムに入っていたとしても不識じゃない仕上がり。ドラムンベース調に味付けされたMETALLICA×DJスプーキー「For Whom The Bell Tolls (The Irony Of It All)」も当時は「……へっ?」と困惑したものの、今聴くと全然アリに思えるから不思議。当時全米1位を記録したノリノリのTHE PRODIGYは「One Man Army」でトム・モレロをギターに迎えたことで、非常にロック色濃厚なトラックを楽しむことができます。

かと思えば、当時はまだブレイク前だったINCUBUSは、早くも独特のテイストを持つ「Familiar」で個性を発揮しまくっているし、SLAYER×ATARI TEENAGE RIOTという最強&最狂の組み合わせによる「No Remorse (I Wanna Die)」では前のめりなアゲアゲドラムンベースを堪能できる。曲によって出来のまちまちはあるものの、全体を通して非常に気持ちよく“踊れる”ラウドロックアルバムではないかと思っています。

とはいえ、リリース当時は『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』ほどのインパクトは与えられず、かつメタル寄りリスナーからはあまり歓迎された記憶もなかったかな。チャート的にはBillboard 200(全米アルバムチャート)で最高7位まで上昇し、50万枚以上のヒットになっているので、ここ日本では“早すぎた”1枚だったのかもしれません。

現在のミクスチャーロック的スタンスを考えると、90年代に映画のサウンドトラックとして制作された『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』とこの『SPAWN: THE ALBUM』って、実は非常に重要な役割を果たした作品集だと思うんですよね。日本では評価は低いのかもしれないけど、このタイミングだからこそ改めて触れておきたい重要作だと断言しておきます。

 


▼V.A.『SPAWN: THE ALBUM』
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2021年9月13日 (月)

DEPECHE MODE『ULTRA』(1997)

1997年4月14日にリリースされたDEPECHE MODEの9thアルバム。日本盤は同年4月10日発売。

全米&全英1位を獲得した前作『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』(1993年)から4年ぶりの新作。バンドは同作を携えたワールドツアー「DEVOTIONAL TOUR」を1993〜94年にかけて14ヶ月にわたり敢行し、大成功を収めました。また、同アルバム収録曲のライブテイクをオリジナルアルバムと同じ曲順で収めたキャリア2作目のライブアルバム『SONGS OF FAITH AND DEVOTION LIVE』(1993年)も発表。こちらはオリジナルアルバムほどの成功は記録できませんでしたが(全英46位、全米193位)、バンドの人気はピークに達したのではないでしょうか。

しかし、こういったバンドの好調ぶりと相反し、メンバーは肉体的・精神的に疲弊していきます。デイヴ・ガーン(Vo)は薬物に溺れ、マーティン・ゴア(G, Key)もアルコール中毒に悩まされます。そんなメンバーの不安定ぶりに見切りをつけ、1995年にアラン・ワイルダー(Key, Piano, Dr)はバンドを脱退。この頃、デイヴは家庭内不破も一因となり自殺未遂やオーバードーズにより意識不明に陥ったりと、生死を彷徨うことになります。

1996年に入り、ひとまずデイヴ抜きでマーティンとアンディ・フレッチャー(Key)は新作レコーディングを開始。アランが抜けた穴を新規プロデューサーとして起用したティム・シムノン(BOMB THE BASS)とともに曲作り/トラック制作を進めます。途中からデイヴも合流しますが、まだまだ復調にまで至っていなかったこともあり、このときに録音したボーカルで使用できたものはごくわずか。しかし、それでも根気強くスタジオワークを続け、1997年2月にようやく完成にまで漕ぎ着けます。

当時、リードトラック「Barrel Of A Gun」を最初に聴いたときは、デイヴのどこか覇気のないボーカル(しかもじゃっかん歪む)を含めそのダークさに若干引きました。いや、これまでの作品だって、それこそ前作『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』だってダークでした。しかし、この「Barrel Of A Gun」とそれに続くアルバム『ULTRA』のダークさはどこか別方向からのもの……生理的な嫌悪感を覚えるくらいのダークさだったのです。例えば、それ以前の作品が自身の宗教観など信仰から生まれるものだったとしたら、今作はそういった信仰すらあてにならないという絶望の底から生まれたものという気がしてならないのです。

だからなのか、本作リリース当時はあまりポジティブに受け入れることができず、生理的拒否反応を示すのです。特に1997年当時はTHE CHEMICAL BROTHERSTHE PRODIGYのようなアッパー、かつサイケデリックなダンス/エレクトロニックミュージックがブレイクしており、僕自身もそういった方向性に興味を示していたので、しばらくは『ULTRA』という作品の魅力に気づくことはできませんでした。

しかし、あれから20数年経った今、僕自身もいろんな経験を積んだこともあってなのか、それとも時代がそういうダークさを求めているのか、『ULTRA』という作品とフラットに向き合うことができるようになりました。自然とこういうダークさを欲する自分がいることに気づき、触れ合い続けるとそのさらに奥底にある“癒し”や“赦し”の要素を見つけることができたのです。

ティム・シムノンの果たした役割(時代を反映したヒップホップ以降のダンスミュージックを反映させたトラックメイキング)は、それ以前のDEPECHE MODEから思えば斬新なものですし、そこにゴシック色の強いテイストが乗ることで唯一無二の世界観が繰り広げられる。こんなの、クセにならないほうがおかしい。過去2、3作ほどのわかりやすさは薄いかもしれませんが、それだからこそ一度魅力に気づいてしまったあとの中毒性は随一だと思います。これぞ至高の1枚。

 


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2021年9月 8日 (水)

ENUFF Z'NUFF『SEVEN』(1997)

1997年2月18日に海外でリリースされたENUFF Z'NUFFの7thアルバム。日本では1994年9月30日にCHIP & DONNIE名義で、『BROTHERS』というタイトルにて発表されました。

制作時期が『TWEAKED』(1995年)と重なること、特に日本では同作と同時期(1994年11月末)発売ということで、表裏一体の2枚であることが伺えます。ヘヴィ&ダークな『TWEAKED』と比べると、CHIP & DONNIE名義で発表されることとなった今作はよりパワーポップ色の強い、カラフルさと穏やかさが同居した意欲作に仕上がっています。

レコーディングメンバーはドニー・ヴィ(Vo, G, Key)、チップ・ズナフ(B, G, Vo)、ジョニー・モナコ(G)、リッキー・ペアレント(Dr)という布陣で、アディショナル・プレイヤーとしてデレク・フリーゴ(G)が3曲ほど参加。『TWEAKED』がドニー、チップ、リッキーにジーノ・マルティノ(G)という布陣だったことを考えると、この『SEVEN』および『BROTHERS』が最新ラインナップだったということになるのでしょうか(続く『PARAPHERNALIA』も同編成で制作されていますしね)。

上記のように日本では当初、バンドとは別名義の、あくまでドニーとチップによる“レノンマッカートニー”的作品集として発表されたこともあり、「やけにパワーポップ側に振り切ったアルバムだな」と感じながら聴いた記憶があります。しかし後年、海外では “ENUFF Z'NUFFの7作目”としてカウントされるようになったことで、素直に“バンドの一部”と捉えられるようになったんじゃないでしょうか。特に海外では、本作のあとに『PARAPHERNALIA』が続くという流れも自然ですし、『TWEAKED』と本作との間にレアトラック集『PEACH FUZZ』(1996年)を挟んでいることも効果的ですよね。

内容に関しては、文句なしの高品質さを誇り、ビートルズ・ライクな側面やCHEAP TRICKを彷彿とさせるカラー、90年代初頭のオルタナティヴロック的なテイストも随所に散りばめられており、曲によってはハードロック度が高いものもあり。『TWEAKED』から毒気を抜くとこうなるんじゃないか?とも感じられる部分が豊富にあるので、やはり今作は『TWEAKED』と地続きであり、一緒に語るべき重要な1枚ではないでしょうか。

『PARAPHERNALIA』以降のZNUFFが好きなら、間違いなく気に入るであろう1枚。いや、むしろ『TWEAKED』という“アク抜き”を含めて本作が好きな人なら、以降の活動は間違いなく受け入れられずはず。バンドにとって分岐点となった1枚ではないでしょうか。

なお、本作は海外での正式リリースに伴い3曲のボーナストラックが追加されています。うち1曲は『BROTHERS』にも収められたジョン・レノン「Jealous Guy」のカバー。残りの2曲はオリジナル曲の「For Your Girl」と「I Won't Let You Go」で、後者はサックスをフィーチャーしたアレンジがなかなかです。

 


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2021年7月 2日 (金)

DOKKEN『SHADOWLIFE』(1997)

1997年4月15日にリリースされたDOKKENの6thアルバム。日本盤は同年4月9日に先行発売。

当初はドン・ドッケン(Vo)が元メンバーのジェフ・ピルソン(B)&ミック・ブラウン(Dr)を迎えて制作したソロアルバムが元となり、最終的にジョージ・リンチ(G)が加わる形で完成した再結成DOKKEN第1弾アルバム『DYSFUNCTIONAL』(1995年)。ソングライティング面でジョージがあまり関わっていないこともあって、非常にイビツな形でしたが、続く今作ではドン/ジョージ/ジェフ/ミックの黄金期体制が完全復活。のちにQUEENSRYCHEに加入するケリー・グレイ(CANDLEBOX、BROTEHR CAIN、NEVERMOREなど)をプロデューサーに迎え……結果として前作以上にイビツな内容の迷作を完成させることになります。

前作はグランジ影響下というよりも、そのルーツにあるロッククラシックからの影響をモダンに昇華させた作風でしたが、今作は真逆の方向性……つまり、グランジやモダンヘヴィネスをDOKKEN流に消化したゴリゴリの1枚なのです。ソングライティングのクレジットはすべて4人連名となっていますが、明らかにジョージの色が強まっていることはその曲調やプレイスタイルからも窺えるはずです。

『DYSFUNCTIONAL』での作風を気に入っている人なら、この新たなスタイルも違和感なく受け入れられるのではないでしょうか。ただ、これをDOKKENの名でプレイするにはちょっと時期早々だったかな。だって、解散から6、7年しか経っていないわけで、まだ「In My Dreams」「Into The Fire」のイメージが完全に払拭できていませんからね。あの時代をリアルタイムで通過してしまったリスナー、DOKKENの功績を後追いしたビギナーにとって本作の内容は衝撃以外の何ものでもなく、そりゃ酷評されても仕方ないですよね。

でも、リリースから25年近く経った今、特にその後のジョージが関わった作品を考えると、ここでの変化は非常に筋が通っているというか、今さら驚くものではないんですよね(笑)。まあすべて後付けの意見でしかないですけど、これはこれで全然悪くない。ドン・ドッケンの念仏ボーカルもこういったモノトーンの楽曲にピッタリですし(苦笑)。ALICE IN CHAINSSTONE TEMPLE PILOTSと同時代に活躍した旧世代バンドとしては、なかなかの検討ぶりじゃないでしょうか(良くも悪くも)。前作にあった不協和音寄りのハーモニーに頼らなかったことだけは、褒めてあげるべきではないでしょうか。

ちなみに、M-8「Here I Stand」でボーカルを担当するのはジェフ・ピルソン。無理矢理ドンの歌唱に寄せている気がしないでもないですが、これはこれで味わい深い。「Hello」や「I Don't Mind」のグルーヴ感なんてこの楽器隊ならではの最高のものですし、ちゃんと聴き込めば発見の多い1枚じゃないかな。残念ながら、本作はすでに廃盤状態。日本ではデジタル配信もストリーミング配信もなしなので、中古ショップで安価で入手することをオススメします。

少なくとも、僕は本作以降の回帰路線よりも気に入っています(なんだかんだジョージ・リンチ派ですしね)。

 


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2021年4月13日 (火)

QUEENSRYCH『HEAR IN THE NOW FRONTIER』(1997)

1997年3月25日にリリースされたQUEENSRYCHEの6thアルバム。日本盤は同年3月26日発売。

大成功を果たした『EMPIRE』(1990年)でのRUSH的なモダンさをさらに推し進め、時代の流れに沿ったオルタナ路線を大々的に取り入れた前作『PROMISED LAND』(1994年)は、グランジが台頭しメタルが時代遅れになった1994年においても全米3位、100万枚以上を売り上げる成功を収めることに。そのスタイルをさらに特化させたのが、この『HEAR IN THE NOW FRONTIER』という(ある意味での)問題作です。

プロデューサーにバンドの代表作『OPERATION: MINDCRIME』(1988年)、『EMPIRE』を手がけたピーター・コリンズ(RUSH、BON JOVIアリス・クーパーなど)を再度迎えた本作。楽曲に関しては全14曲中半数近い6曲をクリス・デガーモ(G)が単独で手がけ、5曲でクリス&ジェフ・テイト(Vo)が共作。さらに、クリスとエディ・ジャクソン(B)、クリス/エディ/ジェフ、ジェフ&マイケル・ウィルトン(G)共作がそれぞれ1曲ずつと、アルバムの9割近くがクリスの関わる楽曲で締められています。ここまでクリスの色が強いアルバムというのも、QUEENSRYCHE史上珍しいのではないでしょうか。

実は、こうなった裏にはジェフの燃え尽き症候群(『PROMISED LAND』制作前に発した「もうメタルは歌いたくない」宣言)、およびそのジェフにお伺いを立てるように他メンバーが楽曲を提示し、ジェフが気に入ったものを仕上げていくという手法が取られたという話があったようです。クリスもそういったジェフに対してのお伺い立てに嫌気が差していたのでしょうか。あるいは、『EMPIRE』『PROMISED LAND』を経て手に入れた自身の新たな作曲スタイルを推し進めていくと、それは初期のメタリックな作風とは異なるものだった、そういった新たなスタイルに自身の活路を見出していたのかもしれません。

そういった楽曲を前にしたピーター・コリンズのサウンドプロダクションも、非常に生々しくて華の感じられないもの。これは、ミキシングエンジニアのトビー・ライト(ALICE IN CHAINSKORNSLAYERなど)の手腕によるものが大きいのでしょう。90年代半ばのメインストリームって、こういう質感が流行りでしたものね。で、実際このアルバムで鳴らされている音や楽曲にマッチしているんですよね。

「Sign Of The Times」「Saved」といったグランジ寄りの楽曲や、「Cuckoo's Nest」や「Hero」「Miles Away」のようなサイケポップ風の楽曲は確かにQUEENSRYCHEの枠から外れるものかもしれないけど、楽曲としては“あの頃”の空気感を見事に体現している。逆に、従来のQUEENSRYCHEらしさをモダンに昇華させた「You」に違和感を覚えるくらい(いや、これもアルバムの流れで聴くと「ん?」と思うものの、よくできた楽曲だと思います)。グランジを通過したオルタナメタル作品としては、個人的にはかなり良くできたアルバムだと思っており、振り切れ具合でいえば前作以上の出来だと断言したいくらい。

ただ、それをQUEENSRYCHEがやっているという事実がすべてを帳消しにしてしまうんですよね。そこだけが残念でなりません。

なお、本作は全米19位、アメリカだけでも30万枚以上を売り上げるなど、時代を考えればかなり善戦した1枚なのですが、ツアー途中でレーベルが破綻。ネガティブなトピックが続いた結果、ついにクリスがバンドを離れてしまい、黄金期を飾るオリジナルラインナップはここで終焉を迎えます。

 


▼QUEENSRYCH『HEAR IN THE NOW FRONTIER』
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2021年1月11日 (月)

IGGY & THE STOOGES『RAW POWER』(1973)

1973年5月にリリースされたTHE STOOGES(IGGY & THE STOOGES名義)の3rdアルバム。日本盤は初出時、『淫力魔人』の邦題のもとリリースされています。

前作『FUN HOUSE』(1970年)発表後、デイヴ・アレクサンダー(B)がアルコール中毒でバンドから解雇。イギー・ポップ(Vo)を筆頭に他メンバーもドラッグ問題に陥り、バンドは活動休止状態に陥ります。そんなタイミングに、イギーはデヴィッド・ボウイと出会い、ボウイがイギーをサポートすることに。イギーはTHE STOOGEを再生させようと、ジェーウズ・ウィリアムソン(G)とともに音楽活動を再開させます。新たなリズム隊を探すものの、なかなか良いメンツに恵まれず、結果として旧THE STOOGESからロン(G)&スコット(Dr)のアシュトン兄弟を呼び戻し、ロンがベースにスイッチすることで新生THE STOOGESとしての活動が始まるわけです。

すべての楽曲をイギーとジェームズで制作し、プロデュースをイギーが担当、ボウイがミックスを手がけた『RAW POWER』では、初期のアートロック的なテイストが完全に払拭され、ガレージロック色をさらに強めた初期パンク的な作風を確立。以降に続くイギーのパブリックイメージを定着される上でも、非常に重要な1枚となりました。また、オープニングを飾る「Search And Destroy」やタイトルトラック「Raw Power」などは、現在まで多くのアーティストたちにカバーされる人気ナンバーで、イギーもソロになってからも演奏する機会を多く持ちました。

本作は1997年に国内初CD化されておりますが、実はこのバージョンは1973年のオリジナル盤とはミックスがまったく異なります。というのも、1997年バージョンはミックスをイギーがやり直しているのです。ボウイがミックスしたオリジナルバージョンはリズムトラック音圧が低く、ボーカルとギターのみが前に出過ぎていて、このバンドが本来持つ暴力性や狂気性を表現しきれていない気がします。

このミックスに対する不満の声が多かったことに対し、イギーは「どの曲も音が全部振り切れるくらいボリュームを上げて、すごい激しいミックスになったぜ!」とやりすぎってくらい高音圧で激しいリミックスバージョンを完成させます。のちに「スタッフが怖気づいておとなしいバージョンってのを作ったが、俺は聴くことさえ拒否した」とのことで(笑)、そちらの修正版の仕上がりも気になるところです。

内容に関しては文句なし。生々しいロックンロールをベースに、パンクやブルースを味付けに、時にはハードロックと言わんばかりのヘヴィさも表現された本作は、ボウイ版よりもイギー版のミックスで聴くことをオススメします。なお、ボウイ版ものちにCD化され、現在もストリーミングサービスで聴くことができるので、気になった方は聴き比べてみてはどうでしょう。その際、先にイギー版から聴いてしまうと、ボウイ版がペラペラに感じられること間違いなしなのでご注意を(苦笑)。

 


▼IGGY & THE STOOGES『RAW POWER』
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2020年8月 3日 (月)

DREAM THEATER『FALLING INTO INFINITY』(1997)

1997年9月にリリースされたDREAM THEATERの4thアルバム。

前作『AWAKE』(1994年)発表前後にケヴィン・ムーア(Key)が脱退し、新たにデレク・シェリニアン(現SONS OF APOLLO)が加入。1995年秋には23分にもおよぶ超大作タイトルトラックを含むEP『A CHANGE OF SEASONS』をリリースし、満を辞してこのフルアルバムに取り組みます。

新たなプロデューサーとしてケヴィン・シャーリー(AEROSMITHIRON MAIDENJOURNEYなど)を迎え制作した本作は、前作での作風をベースにしつつも楽曲1つひとつの完成度を高めることに注力し、なおかつそれらにDTらしいインタープレイを効果的に取り入れるという進化したバンドの姿を提示しています。メロディに関して言えば、前作がそのヘヴィな音像に合わせるかのようにモノトーン調だったのに対し、今作はより色彩豊かで耳に残る良メロを量産。『IMAGES AND WORDS』(1992年)のようにメタル的ハイトーンを多用したメロとは異なる、大人の落ち着きと、純粋に「ポップスとして成立する」メロディが多数用意されています。

また、楽曲の質感やジャンルの幅もかなり広がっており、一概にHR/HMの枠には収まりきらない楽曲も増え始めています。そのもっともたる例が「Hollow Years」や「Anna Lee」といったバラードでしょう。特に前者はリリース時期的にもスティング「Shape Of My Heart」(映画『レオン』でおなじみ)と重なる印象があり、間違いなくそのへんの層を意識した1曲なのでしょう。

かと思えば、難解なプレイが全面フィーチャーされた12分におよぶ「Lines In The Sand」ではソウルフルなフィーリングが強まることで曲が持つ緊張感が強まっているし(ゲスト参加のKING'S Xのフロントマン、ダグ・ピニックのボーカルパフォーマンスのさすがの一言)、モノトーンな前半からどんどんヘヴィさが増していく「Peruvian Skies」なんて90年代のMETALLICA的な色合いすら感じられる。「Hell's Kitchen」のような“らしい”インストナンバーがあったり、シングルカットできそうなポップなミディアムバラード「Take Away My Pain」、今でもライブではおなじみの「Just Let Me Breathe」もあり、アルバムラストには13分超の3部作「Trial Of Tears」も存在する。全体のバランスとしてはかなり緩急に富んだ1枚で、もしかしたら前作『AWAKE』でふるいにかけられた『IMAGES AND WORDS』からのHR/HMリスナーの中には、ここで離脱してしまったなんて人もいるのではないでしょうか。

良く言えばバンドとしての表現の幅が急速に広がった実験的意欲作、悪く言えば「売れる」ことを意識しすぎてメタルバンドとしての焦点がぼやけた不発作と言えなくもありません。しかし、ファンには馴染み深い良曲/人気曲も多く含まれていることから、決して駄作ではないはず。その後20年以上続くDTの歴史的にも評価の難しい1枚ですが、個人的には前作『AWAKE』から引き続き愛聴した“好み”の作品です。もしかしたら自分、このバンドに対してヘヴィメタル的な側面はそこまで求めていないのかもしれませんね(苦笑)。

 


▼DREAM THEATER『FALLING INTO INFINITY』
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