RADIOHEAD OK COMPUTER TOUR 1998@赤坂BLITZ(1998年1月17日)
この時期に改めてRADIOHEADの、しかも3年前の前回来日公演をレビューするというのもどうかと思ったが、やはり9~10月の来日に備えて、一度ちゃんと彼らのライヴについて書いておきたかったのだ。偶然にも俺が観に行った日のセットリストを入手できたので(ここがインターネットの素晴らしい所かも)、それに目を通しながら、当時の記憶を辿ってみたいと思う。3年という月日が経っているので、もしかしたら自身の勘違いや事実誤認などが多少あるかもしれないが、その時はツッコミをお願いしたい。
=====
1998年1月、俺はこのライヴの数日後に約8年生活した東京を後にする事となっていた。という事で、東京在住時最後のライヴがこのRADIOHEADだった。当初、もう2公演分(国際フォーラムとツアーラストのブリッツ)取っていたのだが、引っ越しの準備やらで東京~銚子間を行ったり来たりしていた為、確実に行けるこの17日分だけを残して友人に売却した。
今思うと、この'98年は1月のRADIOHEADと10月のTHE WiLDHEARTSの2公演しか観ていない。そして翌年2月にはMANIC STREET PREACHERSという、ここ5~6年の俺を支えてきたアーティストのライヴを立て続けに観ることとなった。その最初がレディヘなわけだが‥‥いろいろ考えさせられたライヴだった。いや、悪かったとかいう意味ではない。俺が想像していた以上の手応えを感じたし、それに今まで感じたことのない「何か」をこの全身で感じることが出来たのだ。
この日、俺はブリッツ初の2階席を予約していた。フロアで一体になって肌で感じることも出来たが、やはり初めてのレディヘを、椅子付き席で、肌だけではなく頭でも感じたかったのだ。覚醒する感覚‥‥アルバム「OK COMPUTER」で感じることの出来た覚醒感を、果たしてライヴではどのように表現するのか? そして過去の楽曲群と、どのように組み合わせてライヴを構成するのか? この2点がずっと気になっていたのだ。彼らのライヴはビデオやテレビの中でしか知らなかった。このライヴの直前にも'97年6月頃のフランスでのライヴ映像を観ていたが‥‥野外で、何万人もの前で演奏しているにも関わらず、独特な冷たい感覚に襲われた。
俺はこの日のライヴの間中、身体の中に何かが入り込んで居座っているような「異物感」を、常に感じていた‥‥正直な話、フロアにいる方々と一緒になって踊ったり暴れたりするなんてこと、出来そうになかった。こんなライヴ、初めてだった‥‥それが俺にとっての生レディヘ初体験。
新作「OK COMPUTER」同様、"Airbag" からスタートした。トム・ヨークもエレキを抱えていて、ステージにはギタリストが3人。三者三様のリフを弾き、それが見事に調和されている。もの凄く計算されたプレイだ。そしてトムはいつものように首を左右にグラグラ揺すりながら、情緒不安定な声で、囁くように、時にヒステリックに唄う。時々、彼のことを「根暗」とか「病気」なんて表現する人もいるが、逆にそれが彼の持ち味であって、こんなフロントマンには滅多にお目にかかれない。逆に、今後こういうシンガーが続々現れたら、それは間違いなくトムのフォロワーだ、誰が何と言おうと。
ライヴは「OK COMPUTER」を中心にして、前作「THE BENDS」からの代表曲、シングルのカップリング曲を挟んで進められていく。個人的に最初のピークとなったのは、5曲目に登場した、"Exit Music (For A Film)" だろう。殆どトムの独壇場といえる楽曲で、アコギ1本で唄う彼の歌声‥‥時に声にならない声‥‥後半登場するジョニーの効果音的ギタープレイが絶妙な入り方をして、その瞬間鳥肌が‥‥もう本当、泣きそうになる俺。たまらない‥‥
アルバムの中にいろいろな楽器や音を詰め込んだ「OK COMPUTER」の楽曲を再現するにあたり、トムやジョニーはギター以外にもキーボードやオルガン、グロッケン等もプレイしていた。トムは殆どの曲でエレキやアコギを抱えていて、手ぶらで唄ったのはほんの2~3曲だったと記憶している。
この日フロアにいた、がらの悪い外人客のヤジに対し、相当機嫌をそこねていたようなトム。外人客からは「"Creep" やれ、"Creep" をっ!」の声が。みんなそう思ってるよ、みんな。俺だって聴きたかったもの。けど、それを声高に言うことが如何にライヴをぶち壊しにすることか‥‥そういうコール&レスポンスが合ってるバンドならまだしも、レディヘにそれは似合わない。下手すりゃライヴ中断されちまいそうな勢いだ。
これに対して、トム「次は‥‥ "Creep" ‥‥じゃなくて‥‥」みたいにじらす。それを何度も繰り返す。相当頭にきてたようだ。結局、この外人客のヤジは最後まで続き、バンドは最後の最後まで "Creep" を演奏することはなかった。畜生、お前らのせいだからな!!(怒)
その怒りをヘヴィな楽曲にぶつけるトム。"Paraoid Android" や "Just" の演奏は、それまで聴いたどのライヴテイクよりも激しく、そして感情的だった。レディヘというと「感情を切り離した」イメージがあったりするが、いやいや、これは感情の塊だ。レディヘというバンド自体が「感情/情念の塊」であって、トムという人間のコンプレックスの塊みたいなもんだと思う。ライヴではその塊を一方的にぶつけてくる‥‥そうか、あの「異物感」って、これだったのか‥‥結局、それを無視するために皆、踊り狂ってるのか‥‥俺にはそう思えてならなかった。
椅子席で落ち着いて観てしまったが為に、彼らの感情をダイレクトに受け取ってしまった俺。ライヴ後も暫く立ち直れなかったしな。
ライヴ後半は、どちらかというと過去の楽曲の割合が高かった。アンコールでは唯一ファーストから "Lurgee" がプレイされ、1回目のアンコールは超名曲 "Street Spirits (Fade Out)" で終了。当然、アンコールを求める声はまだまだ続く。
再び現れたバンドは感情にまかせ、原曲よりも更に激しい "Electioneering" をぶつけてくる。あぁ、相当機嫌悪いな‥‥それが痛い程伝わってきた。ギターを床に倒してトムはステージを去り、フィードバック音だけがそこに残った。そして場内が明るくなる。約2時間に渡る「生レディヘ初体験」はあっけない終わり方で、その幕を閉じた。
=====
後で聞いた話では、ライヴの一番最後はアルバム通り "The Tourist" で終わることとなっているそうなのだが、やはりこの日は先に書いたように、そうとう感情的になっていたようだ。トムだけが怒っていたのか、それともバンドの全員が怒っていたのか、それともトムに触発される形でどんどん演奏が激しくなっていったのか。今となっては誰にも判らないが、ある意味、滅多に見れないRADIOHEADの姿を見たのではないだろうか、俺は。
結局、俺の人生を変えた1曲、 "Creep" は未だに生体験できていない。いよいよ今年の10月には約4年近く振りに再来日を果たす。今のところチケットは入手できていない。もしかしたら本当に行けないかもしれないし。聞くところによると、今の彼らのステージはこの頃のものとも全く違った、更に「バンドとしての機能を放棄した」楽曲を多く含んだライヴを行っているらしい。それは最新作「KID A」や「AMNESIAC」を聴けばよく判る。きっと、こんなにも情熱的で感情的なステージは、今の体制では観れないのかもしれない。そういう意味では、非常にいい時期に観れたな‥‥今ではそう思えるようになってきた。
[SETLIST]
01. Airbag
02. Karma Police
03. Talk Show Host
04. Planet Telex
05. Exit Music (For A Film)
06. My Iron Lung
07. Climbing Up The Walls
08. Subterranean Homesick
09. Paranoid Android
10. Lucky
11. No Surprises
12. Fake Plastic Trees
13. Pearly*
14. Bullet Proof...I Wish I Was
15. The Bends
16. Bishop's Robes
17. Bones
18. Just
---encore---
19. Let Down
20. Lurgee
21. Street Spirit (Fade Out)
---encore---
22. Electioneering