THE WiLDHEARTS『ENDLESS, NAMELESS』(1997)
THE WiLDHEARTSのオリジナル・フル・アルバムとしては3作目にしてラストアルバムとなったこの「ENDLESS, NAMELESS」。彼等はこのアルバムの発売を待たずに'97年10月に活動停止(事実上の解散)をしてしまったため、期待された程の成功を収める事は出来なかった。
またセールスとは別に、このアルバムの内容についても当時(いや、今もか)議論になった。それまでの彼等のトレードマークともいえる「覚えやすいポップな歌メロに、心地よいコーラス、ヘヴィなリフ」のうちの最初の2つがこのアルバムには見当たらないというのだ。強調されたヘヴィ・リフ、そして出来上がったアルバムをオンボロ・ラジオを通して聴いているかのような、全体を覆うディストーション・サウンド。ドラムサウンドもエフェクトされているし、ギターは歪みまくり、ボーカルも歌詞が聞き取れないくらい『音の壁』と同化してしまっている。こりゃ、驚くわな普通。もし彼等の噂を耳にして「アルバムを聴いてみよう」と思ったワイハー初心者がいきなりこのアルバムから買ってしまったとしたら、取り返しがつかないかもしれない。(苦笑)「話が違うじゃないか! う~、訴えてやるっ!」ってダチョウ倶楽部の竜ちゃん並に怒るかもしれない。(笑)でも、好きな人にはこれ以上のものはないんだよね、本当に。
このアルバムが完成する半年以上も前に、ジンジャーはインタビューで「次のアルバムは音的な面で挑戦的なものになる。凄く聴き辛いものになる」と既に言っていた。この時点で内容をある程度想像する事も出来た。それでは、何故彼はこの時期にこういう作風のアルバムを作ったのか、いや、作らなければならなかったのか?
まずひとつ考えられるのは、彼の親友のひとりであるSTRAPPING YOUNG LAD(以下S.Y.L.と略)のリーダー、デヴィン・タウンゼントからの影響、そして憧れ。デヴィンは一時期THE WiLDHEARTSに助っ人ギタリストとして参加した事があり、この時を切っ掛けにジンジャーはデヴィンに入れ込むようになった。デヴィンはS.Y.L.だけでなく、OCEAN MACHINEやPUNKY BRUSTER、そしてINFINITY(その後、彼のソロプロジェクトに移行)等、曲のタイプやコンセプトによってユニットを使い分けている。それだけ多才な人間なのだ。そんな超天才に対して、天才はジェラシーを覚えたのだ。実際、S.Y.L.のセカンドアルバム「CITY」('97)を聴くといい。その音像・音圧はまさに「ENDLESS, NAMELESS」と紙一重である。俺は自分の中でこれら2枚を『兄弟作』と捉えるようにしている(そしてそれに続く、一部ジンジャーとデヴィンとの共同作業で作られたデヴィンのソロも)。
第2の切っ掛けは、'96~7年にかけて、WiLDHEARTSの兄弟的バンドや元メンバーの作ったバンドが乱立するようになったこと。元ドラマーのスティディはWHATEVERを、元ギターのCJと(今でもつるんでいるようだが)元サポートキーボーディストのウィリーは一緒にHONEYCRACKというバンドをそれぞれ結成し、この頃デビューしている。また、ベースのダニーの弟、クリスが在籍するバンド、3 COULORS REDもこの頃のデビューだ。それぞれWiLDHEARTSを通過した、ポップな歌メロに心地よいコーラスワーク、適度にヘヴィで疾走感のあるサウンドを持ち合わせていた。更にこの他にも「WiLDHEARTSに影響を受けました」というようなバンドが数多く登場している。実際、'97年の来日時にはSTRAWBERRY SLAUGHTERHOUSEやHYBRID CHILDRENといったフォロワー達を引き連れてライヴを行っている。また、よく共演する機会が多かったレーベルメイトのBABY CHAOS(現在のDECKARD)もそのひとつといえる。これだけ多くの「似たり寄ったり」のバンドが登場すれば、シーンは必ず飽和状態に達する。いくら「俺達がオリジナルだ!」と叫んでも、聴き手にはそれは通用しない。自分が気に入ってしまえば、オリジナルだろうがフォロワーだろうが関係ないのだ。そこでジンジャーは更に一歩踏み込んだ音楽を作ろうとしたのではないだろうか?
そして更に、レコード会社との関係悪化によるストレスもあると思う。それまで在籍したEAST WEST U.K.を前年('96年)に離れ、本気で解散を考えた時にMUSHROOMというオーストラリアを拠点とするレーベルと出会うことになる。GARBAGE等が在籍する、現在ではBMGと提携しているレーベルである。ここと契約するまでの間に書いた曲には、それ相当の怒りや憤りを詰め込んだ楽曲が多かったのではないだろうか? このレーベルとの契約には、音楽面での干渉はしないというのがあったようなので、ここまでの実験が許されたのだと思う。
さて、これだけの必然性の中から生まれたアルバム、本当にそんなに酷いものなのか? 俺がジンジャーを愛するが故、贔屓目で見てしまうのは仕方ないとしても‥‥当時、やはり最初は面喰らった。既にライヴで"Anthem", "Nurse Maximum", "Urge"等は耳にしていたので、それなりの覚悟は出来ていたのだが、内容はそれを絶するものだった。まず、音の録音レベルが1曲1曲違う。特に1曲目"Junkenstein"なんて、最初すごく小さい音なのでボリュームを上げると、1コーラス毎に少しずつレベルが上がっていき、1分少々のその曲が終ると、更に音のデカい2曲目"Nurse Maximum"に突入する。(笑)決して聞き流せないつくりになっている(もっとも、こんな音の壁を聞き流す方が困難だが/苦笑)。1回目通して聴き終えた後、もの凄く疲れたのをよ~く覚えている。しかも夜中にヘッドフォンで聴いたもんだから、耳鳴りと頭痛を伴った。しかし、何度も聴きたくなる。(笑)そして繰り返し聴いているうちに‥‥巷で騒がれている程、ポップ度が低いとは思わなくなった。バックの音像に潰されがちだが、やはり歌メロはポップなのだ。綺麗なコーラスはここにはないが、ジンジャーが言っていた程にはヘヴィだとは思わなかった(後にジンジャーは「今の俺は、できるだけメロディックじゃない曲を書こうと努力してる。でもどうやらそれを完璧にやろうとするのは俺には無理らしい。このアルバムが俺の"non-melodic"、非メロディの限界だ」とこぼしている)。
たしかにここにはみんなの求めるWiLDHEARTSの姿はない。しかし、ミュージシャンとして、バンドとして前進しようとしたWiLDHEARTSの‥‥ほんの一瞬ではあったが‥‥底力をこれでもか?って程に見せつけられた、それが「ENDLESS, NAMELESS」というアルバムではなかったのではないだろうか? 事実、このアルバムにはダニーやジェフの唄う曲もあるし、シングルのカップリングではリッチもボーカルを取っている。それまでジンジャーが全楽曲を手掛けてきたのに対し、彼はこの時期他のメンバーにチャンスを与え、結果バンドとして作った曲やリッチの曲等が作品として発表されている。バンドは間違いなく充実期に突入しようとしていたのだ。しかし、彼等のような「力vs力」「個性vs個性」でメンバー同士を刺激するバンドには、結局それは長続きしなかったのだ。燃え尽きる前に‥‥誰かが取り返しがつかなくなる前に、戻れなくなる前に、ジンジャーはストップをかけた。もしかしたら、この状態を維持できれば次はもっと凄い楽曲/アルバムが生まれていたかもしれない。けど、このバンドに「もし~」なんて言葉は似合わない。何時だって、我々ファンの期待とは逆の方向に進んできたバンドなのだから。(笑)
これを読んで、バンドには興味がなくてもこういう音に興味がある人なら、意外と気に入ってくれるだろう。ただ、やはりバンドに興味を持った人間‥‥アルバムとしては最後の頃に手を出してもらいたい。ハードコアなファン向けの、「表面的には」本当に聴く人を選ぶ作りだから。きっと、暫くこれらの曲はジンジャーのソロでは演奏される事はないだろうが、それでも彼等が最後にこれを残した事に意味があるのだ。
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