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2000/10/08

Cocco@日本武道館(2000年10月6日)

  久し振りの武道館。3年振り。しかもその久し振りの武道館には、初めてのCoccoのライヴ。ライヴ自体を殆どやらないアーティストだけに、これは貴重だ。前回の5本に引き続き、今回は11公演。東京に限っては数百人相手のクアトロと、ここ武道館のみ。どんなに頑張っても1万5千人だ。アルバムが100万枚近く売れるアーティストに対して、これだけの人しか「生Cocco」を拝むことが出来ないのだから、そりゃチケット争奪戦になるわな。心から愛するコアなファンよりもにわかファンがチケットを握りしめてたりするんだろうな、きっと。(苦笑)まぁそんなもんだろうけど‥‥

  Coccoは音楽をやる理由/歌を作る理由/唄う理由を「復讐」だと言った。そしてその必要がなくなった時、自分は歌を辞めて沖縄に帰ると言った。アルバムを3枚リリースし、それぞれのアルバムに伴うライヴはこれまでに20回にも満たない。それぞれのライヴを目撃した人間、それを伝聞した人間はそのライヴを「伝説」に祭り立て上げ、話題が話題を呼んでアーティストとして神格化されていくCocco。その矛盾を常に抱えながら彼女は自分の心の中身を吐露してきた。そしてそれを受け止める我々‥‥ライヴを見終えた後、俺は何を思うだろう?

  武道館は超満員。俺は同行した方と一緒に1階席南西(正面向かってちょっと左、角度がちょっとついた位の位置)の座席に座り、開演を待った。19時を少し回った頃だろうか、会場が暗転し、いよいよスタートだ。音が大きくなったS.E.に合わせてバンドメンバーがひとり、またひとりとステージに現れる。そしてギターのフィードバック音が会場を切り裂くかのように悲鳴をあげた。新作「ラプンツェル」同様、ライヴは"けもの道"でスタートした。曲のスタートに合わせてCoccoがステージへと走って登場。身体全体を使った大きなヘッドバンギングをする彼女。髪が長いから、余計に大きくみえる。あれだけ暴れたにも関わらず、歌は完璧に近い。彼女の歌唱力が抜群なのはファンのみならず知っていると思うが、この日のステージでは最後までそれが乱れる事がなかった。終盤確かに疲れは感じられたが、それも気になる程ではなかった。

  選曲はやはり新作を中心に置き、そこにこれまでの2枚のアルバムからの曲を差し込む形だろうと思っていたが、ここぞという箇所に未発表の新曲を披露していたのには驚きだった。ある新聞でのライヴレポートではこれらの新曲を"風化風葬"(「あなたは私を忘れるから~」というサビが印象的な、あの曲だ)と"荊"と紹介していたそうだが、一番最後に演奏された楽曲はツアー後半から登場した曲らしく、まだタイトルすら正式にはアナウンスされていない。今回のライヴは新作をフォローアップする為のものにも関わらず、明らかにこれらの新曲が核となっていた。そういえば、前回のツアー('98年8~9月)でも最後の武道館では、当時まだ未発表だった"雲路の果て"がいち早く披露されたそうだから、これらの新曲も今後発表されるのだろう。あれだけの力作を発表した後にも関わらず、今のCoccoは精力的に作品を発表している。アルバム発表後も既に2枚のシングル("けもの道"には2曲のアルバム未収録曲を、"星に願いを"もアルバム未収録だ)をリリースしているし。

  ライヴの内容は非の打ち所のない、完璧なものだったと思う。バックにはプロ中のプロと呼べるサポートミュージシャンが揃っていたし(ドラムにはレコーディングにも参加している、現レッド・ウォーリアーズの向山テツ、ベース&ギターには奥田民生でもお馴染みのDr.Strangeloveの根岸&長田だ)、何よりも音が良かったと思う。そう、武道館にも関わらず生々しい音をしていたのだ。変にエフェクトされていない‥‥まるで小さなライヴハウスで聴く、生音混じりのあの感触。決して爆音と呼べる程の大音量ではなかったが、嫌みのないサウンドだったと思う。観ている最中に、ふと「ライヴハウス武道館へようこそ!」という、あの氷室京介のボウイ時代の名セリフを思い出した程だ。武道館でこんなに生々しい体験をしたのは、5年前のPEARL JAM初来日公演以来だと思う。いや、どう考えてもその2回以外には思い浮かばない。それくらい素晴らしいサウンド・プロダクションだったと思う。
  選曲は先に述べた通り、俺的には「グレイテスト・ヒッツ」と呼べる内容だった。何もヒット曲を全部やったからといって、それが本当にグレイテスト・ヒッツと呼べるのだろうか? 確かに今回"雲路の果て"や"Raining"は演奏されなかった。しかし、逆に考えればそれ以外のヒット曲は全て演奏されているのだし、単にCoccoが今回の選曲や心境に合わないと思っただけなのだろう。ライヴの機会が少ないだけに、確かにこれらの曲を聴きたいと思う。けど、それらを全部やればいいというわけでもない。まぁ人それぞれ思い入れとかいろいろあるだろうから、この辺は仕方ない事だが‥‥俺としては、未だに"カウントダウン"や"遺書。"のみならず、"強く儚い者たち"がライヴで聴けるってだけで、十分なのだが‥‥(もし自分が彼女のようなスタンスをとるアーティストで、彼女と同じ立場だったらきっと、これらの過去の曲はやらないだろうし。もっとも俺は彼女ではないので、これは勝手な思い込みでしかないが)

  MCでの彼女は、唄っている時の「アーティスト・Cocco」とはまた別の、それこそ本人が言うところの「ただの沖縄の女」に戻ってしまう。(笑)彼女のMCの爆裂振り?は有名で、今回も「最近のアイドルは唄って踊れなくてはいけない。アイドルとしてあっちゃん(彼女は自分を呼ぶとき、こう呼ぶ)も挑戦してみるので黙って観てくれ」とか、初めて携帯電話を持たされた話などで場を和ませた。
  しかし、今回の山場、いや、一番の衝撃はラスト前‥‥"かがり火"の後のMCだろう。ここで彼女はこう言った。


「自分は今までのツアーでも、バンドのメンバーやスタッフと仲良くしないようにしてきた。仲良くなってしまうと別れたくなくなるし別れが辛くなるし、情が移ってしまうし。捨てるのは嫌だし、捨てられたくないし‥‥でも今回のツアーでみんなと仲良くなってしまった‥‥(ここでCocco、泣く)ステージ上で見えている人の100万倍以上の人が働いてくれて、あっちにもこっちにも(とステージの左右を指す)あそこにも(正面のサウンドボードや照明を指す)スタッフがいて、あっちゃんを支えてくれている。
  こんなことをここで話すのはずるいかもしれないが、あと数分でステージを降りてしまうとメンバーも家に帰らなければならないし、スタッフも後かたづけをしていてあっちゃんの話を聞いてもらえないし。あっちゃんもただの沖縄の女に戻ってしまうので、姫でいられる間に言っておこうと思った。
  今回のツアーでみんなとも仲良くなり、ライヴも好きではないけど楽しかった。今まであっちゃんは独りで唄っていたと思っていたけど、バンドのメンバーやスタッフに後ろから支えられていられたから唄ってこれたんだと思う。」


  そして彼女は「本当にありがとう。さようなら」と泣きながら言い、最後の2曲を精一杯唄った。俺はここで感極まり、一緒に泣きそうになったが、周りの女性客の鼻をすすり泣く音や「あっちゃん、頑張って~」の声援にはと我に返った。危ない、危ない。(苦笑)けど、途中から("'Twas on my Birthday night"辺りからだろうか?)座ってじっくりと歌に耳を向けて聴き始めてからは、何度も涙しそうになっていたが。
  もしかしたら、彼女はもうステージには立たないかもしれない。曲を作らないかもしれない。下手をしたら、本当に「ただの沖縄の女」に戻ってしまうのかもしれない、そう単純に思った。新曲の歌詞を聴き取り、今回のMCを聞いた後、俺はそう感じた。最初に書いた通り、彼女が唄う理由は「復讐」だった。けど、自分はひとりじゃない、みんなが支えてくれているから今までやってこれたんだという事実に気付いた今、彼女の中で何かが弾け、何かが終わったような気がする。もし次があるのなら‥‥俺はこの日の武道館を「第1期Cocco」の終焉の日と呼びたい。そう、本当に次があるのなら‥‥今回の新曲を発表する機会があるのなら、彼女は間違いなく音楽を続けるだろう。支えてくれた「みんな」の為にも。

  彼女が唄うのは、誰のためでもない、自分自身のためだ。けど、CDをリリースし、コンサートをするという行為を通過する事によって、少なからず聴き手のために唄う事にもなる。彼女はそういうごく当たり前なプロセスを見て見ぬ振りをしてきた。自分ひとりでやってるんだ、外野なんて知ったこっちゃないと。しかし、今でもこうやって唄ってられるのはバンドのメンバーやレコード会社やツアースタッフ、そしてCDを買ってくれた、コンサートに来てくれた人達の支えがあったからだという事に気付いた。自分を捨てた人、裏切った人への「復讐」の為に唄っていたのに、それは間違っていたのかもしれない。みんなが暖かく見守っていてくれたから、自分はここにいるんだ。そういう事実を全て受け入れてしまったから、彼女は最後にステージでそう発言したのかもしれない。勿論これは俺の勝手な想像だが‥‥

  今回のライヴが本当の意味で凄かったのは、バンドやスタッフが本当にプロの仕事をしたにも関わらず、それに応えるだけの実力を持ったCoccoがごく自然に、自分の立場やその場にいる理由を理解していなかった事。そしてそういう偶然が上手く噛み合ったから、あんなに印象的な、素晴らしいものになったのかもしれない。だからこそ、本当の意味での「アーティスト・Cocco」のスタートラインは、この次なのかもしれない。ここで一度フラットな状態に戻り、そういう事実を受け止めた上で出来た楽曲を引っ提げて再びステージに戻った時、一体彼女はどうなっているのだろう? 本当にその日が来るのだろうか? 現時点ではどちらとも言えないだろうが、俺はその日をいつまでも待っているだろう。いろいろなものを搾取された彼女がそこにいるのか、それとも更に強くなった彼女がいるのか‥‥何も変わっていないのか。今は誰にも判らない。けど、絶対に何かが変わるはずだ。


[SET LIST]
01. けもの道
02. 濡れた揺籃(ゆりかご)
03. 水鏡
04. 熟れた罪
05. 風化風葬(未発表新曲)
06. 樹海の糸
07. 海原の人魚
08. 'Twas on my Birthday night
09. ポロメリア
10. 白い狂気
11. 強く儚い者たち
12. Sweet Berry Kiss
13. 遺書。
14. 荊(未発表新曲)
15. カウントダウン
16. 星に願いを
17. 眠れる森の王子様 ~春・夏・秋・冬~
18. かがり火
19. しなやかな腕の祈り
20. 羽根-lay down my arms-(未発表新曲)



▼Cocco『ラプンツェル』
(amazon:国内盤CD

投稿: 2000 10 08 12:00 午前 [2000年のライブ, Cocco] | 固定リンク