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2001/04/10

MANIC STREET PREACHERS『KNOW YOUR ENEMY』(2001)

「まさかこんなに(リリースまでに)時間がかかるとは思わなかった」という思いと「もう1枚聴く事ができた」という喜びとが交差する、MANIC STREET PREACHERS通算6枚目、約2年半振りのアルバムである。「己の敵を知れ」というシンプルなタイトルから、何となく内容が攻撃的なものなのでは?と想像できるし、それ以前にリリースされた限定シングル"The Masses Against The Classes"(日本盤にボーナストラックとして追加収録)からも「新作はこれまで以上にパンキッシュ路線になるのでは?」と先読みする事もできた。レコーディング最中から既に「今度のアルバムは初期の(パンク)路線に回帰する」という噂が広まり、前作や前々作にがっかりしていたオールドファンは期待に胸を膨らませ、4人編成時代を知らない新たなファンは初めてリアルタイムで観る/聴くであろうアグレッシヴ・モードのマニックスに興奮していた(とはちょっと大袈裟か!?)。

そして2001年2月にアルバムからの先行シングルを2枚同時リリース("So Why So Sad"と"Found That Soul")という、ここ日本では某ビジュアル系バンド等で知られている手法をイギリスで初めて実施。チャート上位初登場が予想されたが、実際には8位と9位。更に3月にはアルバム。残念ながら3作連続1位ならず(初登場2位)。それでもロックが売れない時代に、こんなにアグレッシヴ且つバラエティー豊かな作品がチャート上位に食い込んだのだから、快挙と言えるだろう。

さて、この新作。ここ2作のソフト路線からファンになったという人には不評のようだ。「メロディーが魅力的ではない」「ニッキー(・ワイヤー/Bass)がリードボーカルの曲が邪魔」「作品としての統一感がない」「曲が多すぎて内容が散漫」等々‥‥あら探しをしようと思えばいくらでも出来るわけだ。しかし‥‥が、しかしである!そんなに酷いアルバムだろうか? そんなに前作や前々作よりも劣る内容だろうか?

「メロディーが魅力的ではない」だって!? 確かに3人として再スタートを切った4作目「EVERYTHING MUST GO」('96年)や、その延長線上にある大ヒット作「THIS IS MY TRUTH TELL ME YOURS」('98年)の楽曲と比べれば、ここに収録されている楽曲達はそれ程メロウではないかもしれない。その理由として考えられるのは、作曲の方法が前作と新作とでは違うという点だ。簡単に言ってしまえば、前作や前々作は曲を書こうとして生まれたもの、そして新作はバンドとしてジャムセッションしていく中から生まれたもの。これは大きな違いだ。モーニング娘。とストーンズくらいの違いがある。現に前作までは作詞と作曲は分担作業制で、歌詞はニッキー(とリッチー)、メロディーはジェームズとショーンとなっていたが、この新作では全て「ALL SONGS BY MANIC STREET PREACHERS」となっている。ジェームズが歌詞を書いたものもあれば、ニッキーがメロディーを書いたものもあるはずなのだ(特に彼が唄う曲はそうだろう)

ちょっと余談になるが、これまでのマニックスの作風の流れを見てみると、ハードな作品の次にはメロディアスな作品を、甘ったるい作品の後にはその反動からアグレッシヴな作品を、というように常に「押し」と「引き」を交互に出してきた。ただ、マニックス史上最もアグレッシヴな3作目「THE HOLY BIBLE」('94年)から「EVERYTHING MUST GO」への流れはそれまでとは事情が違う。リッチー失踪から活動休止、再び3人で「暫定的」活動再開したものの、やはりそれまでのようなスタイルで続ける事は不可能に近かった。最近のマニックスしか知らない人にとっては判りにくいかもしれないが、如何に初期マニックスの原動力がリッチーという男から生まれていたかが、ここからも何となく判るんじゃないだろうか?

というわけで、前作~前々作というのは「望んで(望まれて)生んだ」作品とは純粋には言えないと俺は考えている。「EVERYTHING MUST GO」にはリッチーが残した詩を元に作った楽曲が存在するし、「THIS IS MY TRUTH~」も前作からの流れや空気を受け継いで作ったものだ(そう、彼らが似たような作風で続けるのはこれが初めてなのだ)。このままマニックスはアート路線へと進むのか‥‥誰もがそう思ったに違いない。相変わらずライヴはアグレッシヴなのに‥‥そしてこの路線で大成功を収めてしまい、4人時代には味わう事のなかったシングル/アルバム1位を獲得し、イギリスを代表する国民的バンドへと祭り立て上げられる。

リッチーの不在から5年。ここで3人は本当の意味で初めて「本気でマニックスの音楽に取り組む」事を決意する。全員が納得できる作品、「世界に憎まれるバンド」を再び演じる事、それら全てを引き受ける覚悟が出来たのだ。リッチー不在の影響はこんなにも長く尾を引いてしまったのか‥‥

こうして彼らは1年近くスタジオに籠もり、ジャムセッションを繰り返す。バンドとしてジャムしながら曲を作り上げていくという作業は随分久し振りの事だったらしい。そういえば4人時代はリッチーとニッキーが書く歌詞が最初に出来てからメロをつけるなんて話も聞いた事があった。もしかしたらメジャーデビュー後初めての試みかもしれない。初期を思わせるパンキッシュな曲もあればディスコ調もある。トラッドフォーク調、大合唱したくなるアンセムソング、フィル・スペクターを彷彿させる「WALL OF SOUND」コーラスのポップソング、サンプリングを駆使した曲、そして勿論前作や前々作にも通ずるようなメロディアスな楽曲も存在する。成功した作品の延長線上にある曲だけではなくて、いろんなタイプの曲が詰まっている。そういう意味で「統一感がない」とか言われるのだろう。確かにファースト以外はどのアルバムも統一感があったし。いや、考え方を変えればファーストは既にこういう作風だったわけだ。パンクあり、メタルあり、ヒップホップあり、トラッドあり、ポップスあり‥‥それがマニックスの「持ち味」だったはずなのだ。つまり‥‥乱暴な言い方になってしまうが、これは再び3人で暴れる為に必要な「手法」だったのだと思う。やりたい事を全て詰め込んだファースト「GENERATION TERRORISTS」('92年)と、再びあの頃の役割を引き受ける事を決意した新作。この新作を最初聴いた時、ファーストがリンクしたのはそういう事だったのかもしれない。だから「曲が多すぎて内容が散漫」と言われても仕方ないのだ。だってそれはマニックスが本来持っていたものなのだから。前作だってボーナストラックを含めて15曲も入っていたのに‥‥

今のマニックスがそれまでのような「必要以上にメロディアス」なものを欲していないのは一聴瞭然だろう。シンプル且つアグレッシヴ。今の彼らが必要としていたのはこれなのかもしれない。だからどの楽曲もコンパクトだし(3分台の楽曲が殆どだ)、アレンジも必要以上に盛り上げようとしていない(そう、"A Design For Life"におけるストリングスのように)。どの曲にもキーボード類は入っているものの、無愛想と言える程目立っていない。バラエティー豊かな曲調なのに、どこかモノトーンなイメージを受けるのは、この為だろう。それに更に拍車をかけるニッキーのリードボーカル&コーラス。殆どジェームズとユニゾンなので、ツインボーカルと言ってもおかしくない曲も幾つかある。ニッキーが唄うという事は、つまりニッキーはその気だ、という事なのだろう。その気になったニッキー。これはちょっと目が離せない。そう、必要だと思ったから唄うのだ。けど、ここでの役割はストーンズやエアロにおけるキース・リチャーズやジョー・ペリーのそれとは意味合いがかなり違う。だって‥‥ニッキーがその気なんだから(どういう意味か判らない人は、きっと今度のライヴを観れば嫌という程判ると思う。俺はそう実感したからそう書いているのだ)。

どの曲が前作までの流れの曲で、どの曲が初期を思わせるパンクナンバーで、というような解説とは違って、かなり抽象的なものになってしまったが、結局俺がマニックスを語るとこうなってしまうのだ。現在ギターロックにそれ程魅力を感じなくなってしまった俺が、それでも信用する事ができるのがこのアルバムであり、マニックスという存在なのだ。新作の歌詞の重みについても書いてみたかったけど、それはまたの機会にでも。とにかく、こんな冒険‥‥というか、馬鹿げたマネをするのは世界中を探してみても彼らだけかもしれない。きっと世界中のどこかでこのアルバムを耳にしたリッチーはニヤニヤしてるんだろうな‥‥あ、いいなぁ、って。で、それを想像してまた俺もニヤニヤしてしまう、そんな事を思わせるアルバムなのだ、これは。「マニックスに捨て作品なし」の格言(?)通り、唯一無二の、無敵な作品なのである。

一番最初に戻って‥‥それにしても前作からここまでたどり着くのに(間にシングルがあったものの)2年半もかかってしまうとは思ってもみなかった。もう半年早く聴けると思ってた。けどタイミング的にはバッチリだった気がするな。そして‥‥確かマニックスはデビュー時、アルバム5枚分の契約をしていると言っていたはず。あるインタビューで「ファーストで解散したら、残り4枚の契約はどうやって消化するの?」という問いに、リッチーだったかジェームズだったか忘れたが「そうだな‥‥KISSみたいに4人同時にソロアルバムを出すのもいいかも」と答えていたっけ(あれ、もしかしたらインタビュアーがそう提案したんだっけ!?)。前作辺りから「次はないかも‥‥」って不安が常につきまとっていたので、正直また新曲が聴けて‥‥しかもこんなに自分が望んだ形の作品がもう1枚聴けて、ホントに嬉しかった。信じられる音楽が少なくなってきた今だからこそ、本当にありがたいし救われる。次はグレイテスト・ヒッツだ、と言われているが‥‥これで終わってしまったとしても、俺は後悔しないだろう。正直ガッカリはするだろうけど。でも、もう1枚聴けるなら‥‥それがどういう作風であろうと‥‥ありがたいに越した事はない。だって「あら探しをして理不尽な理由で」新作をダメだという人と同じように、「無茶苦茶な理由付けで」そのアルバムを大絶賛するだろうから。



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投稿: 2001 04 10 10:10 午後 [2001年の作品, Manic Street Preachers] | 固定リンク