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2002/12/06

DEF LEPPARD『X』(2002)

DEF LEPPARDの21世紀最初を飾るアルバムは、デビューから22年目にして10作目となる「X」。文字通り「エックス」と読むことも出来れば、ローマ数字での「10」を意味するものでもある。しかもジャケットにはロゴマークは控えめに、全体にでっかく筆書きされたような「X」が。白地に黒。インパクトからいえばバッチリだよね。その昔、プリンスが無題・クレジットなし・ジャケットその他も全て真っ黒という通称「BLACK ALBUM」ってのを作ったり、METALLICAが黒地にロゴと蛇のイラストというセルフタイトルアルバムをリリースしたことがあったけど、それに匹敵するものがある。つうかこれ、過去のLEPPSのイメージを覆すために用いられたような気が‥‥

ご存じの通り、'83~'90年代初頭の彼等の勢いは本当に凄いものがありました。今の10代のファンは知らないだろうけど、当時マイケル・ジャクソンの「THRILLER」によって1位を取ることが出来なかった「PYROMANIA」が600万枚(当時)、4年振りに発表された「HYSTERIA」はリリースから1年経ってからアメリカで1位を取って、結果1,000万枚近いセールスを記録。グランジが席巻していた'92年、「ADRENALIZE」は全米初登場1位を記録。ドラムのリック・アレンが交通事故によって左腕切断という事故に遭ったり、メインソングライターでありギタリストであったスティーヴ・クラークがアルコール依存が原因で亡くなったり等、悲劇と引き替えに彼等は天文学的な成功を手にしてきたわけですが、「ADRENALIZE」以降‥‥現在のメンバー(ジョー・エリオット、フィル・コリン、リック・サヴェージ、リック・アレン、ヴィヴィアン・キャンベル)になってからは結構順調にリリースを重ねている割には、どんどんセールスを落としているんですよね。ここ3作、全米ではアルバムがトップ10入りすることもなく、大きなシングルヒットもなし。BON JOVIが初登場2位という逆転劇を繰り広げた2002年、何故LEPPSは過去のような成功を収めることが出来ないのでしょうか?

理由は幾つかあると思いますが、一番大きな理由はズバリ、彼等がアメリカ人ではないという点でしょう。えっ、だって彼等は'80年代はバカ売れだったんでしょ?何で今更!?とお思いでしょう。そう、確かに彼等は過去異常なほどに売れていた。しかしそれは純粋に楽曲が評価されたのと、丁度大きな波が押し寄せていたHM/HRムーブメントに思いっきり乗ることができたから。しかし'90年代以降、ハードロックが'80年代以上の成功を収めたでしょうか? それ以前にグランジ以降、アメリカではロックが市民権を得るのに相当苦しんでいたのです。R&Bやヒップホップがチャートの上位を占め、過去ヘヴィメタルと呼ばれていたジャンルのバンドは、新たにヒップホップ的要素やラップボーカルを取り入れ、メタルのようでメタルでない「ロックみたいなヒップホップ」としてチャートを席巻したのでした。

しかし、時代は少しだけ動きつつあります。そう、CREEDやNICKELBACK、TRAIN等といった純粋に楽曲で勝負するロックバンドが再び脚光を浴びるようになったのです。BON JOVIなんて正にここに入れてもおかしくない存在ですよね?

'90年代後半のLEPPSは非常に振り幅の大きい作品をふたつ発表しています。グランジムーブメントを彼等なりに消化し、これまでになく生々しくダークな「SLANG」と、'80年代の彼等を踏まえた上での集大成と呼べる「EUPHORIA」です。そういう極端な作風のアルバムが2作連続で過去のセールスの三分の一にも及ばなかったのです。そこで彼等はバケーション中、各自ソロ活動を行ったりしました。特にジョーとフィルによるCYBERNAUTSはデヴィッド・ボウイのカヴァーバンドであるにも関わらずアルバムもリリースし、来日公演まで行いました。その後、再びバンドは集結し、この記念すべき10作目のアルバムについてミーティングを重ねたそうです。そこでは「ポップの定義」だったり「コマーシャル性」について話し合われたそうです。そして5人の意見が一致し、『「HYSTERIA」みたいな全曲シングルカットできるようなポップでコマーシャル性の高い曲が詰まったアルバム』を想定して、ソングライティング~レコーディングに挑んだそうです。

これは過去、最も難しい挑戦・実験だったのかもしれません。ハードロックバンドとしてデビューし、「ポップなハードロックバンド」として成功し、'90年代にはそれが足枷となっていろいろな実験をするものの、最終的には「ファンが最も望むLEPPS」を現代的にアレンジしたアルバムを制作してきた彼等が、ある意味ロックであることに拘らず、ひたすら「ポップ」なものを作る。一歩間違えば過去のファンを的に回すことになり得るこの挑戦。まず、「ポップ」とは何かという命題と戦わなければなりません。BACKSTREET BOYSのようなアイドルソングをポップと呼ぶのか、LIMP BIZKITのようなファンキーで親しみやすいラップメタルもポップと呼べるのか、それとも‥‥彼等が出した結論は、このアルバムの13曲で表現されています。

先に挙げたようなCREEDやNICKELBACK的イメージを彷彿させるトップナンバー "Now" からアルバムはスタートします。これはポップというよりも、かなりヘヴィな作風ではないでしょうか? 過去、こういったミディアムヘヴィチューンからスタートするアルバムが2枚あります。ひとつは「HYSTERIA」であり、もうひとつは「SLANG」。もっとも「SLANG」の方はヘヴィといっても、インダストリアルサウンドによるヘヴィさが強かったので、ここではどちらかというと「HYSTERIA」に近いのかも。けど、あそこまでヘヴィメタリックな硬質感は皆無。どちらかというと、もっと柔らかくて自然体。これまでみたいな長くて速弾きしまくりのギターソロは皆無(それはアルバム全体に言えることですが)。

続く "Unbelievable" は2曲目にしていきなりバラード。しかもLEPPSのメンバーが作詞・曲の全く絡んでいない‥‥過去そんなことが考えられたでしょうか? これも「ポップ」であることへの挑戦なのでしょうね。3曲目 "You're So Beautiful" は過去の "Animal" や "Promises" にも通ずるタイプ。こういう曲をファーストシングルにすればよかったのにね(ちなみにファーストシングルは "Now")。続く "Everyday" も過去のLEPPSをイメージさせるタイプ(偶然にもBON JOVIの新曲も同タイトルでしたね)。そして2曲目のバラード "Long Long Way To Go" はストリングスを取り入れた哀愁系。'80年代の "Bringin' On A Heartbreak" や "Love Bites" みたいに絡みつくような情熱系ではなく、もっとサラリと聴ける曲。

ポップソング的なナンバーが続く前半、6曲目にして過去のハードロックチューンにも引けを取らない "Four Letter Word" が登場。モロにAC/DCだよね、これ。グラムなAC/DCって印象。サビになると相変わらずLEPPSしてるんだよね。これも彼等なりの「ポップ」なのか、それとも「ロックバンド」としての拘りなのか。ライヴで盛り上がる1曲。続く "Torn To Shreds" もヘヴィなイントロを持った曲なんだけど、歌に入るとちょっと穏やかに。で、サビでまた爆発というタイプ。そのまま風変わりな "Love Don't Lie" へ。ループを取り入れてるけど、「SLANG」時代程あざとくなく、ごく自然に取り入れられてて、全然気にならない。この辺の曲の並びはちょっとロック色が強めかな。

9曲目は "Gravity" もシーケンスサウンドが入った、ちょっと軽めに始まってサビでロックするタイプ。サビのバンドサウンドがなかったら、完全にその辺のポップソングかも。要するに曲(メロ)さえしっかりしてれば、後はアレンジ次第でどうにでもなるってことか? 続く "Cry" はLEPPS的なヘヴィリフを持ったサイケ調ナンバー。リズムパターン(ベースの刻み方やギターとベースのシンコペーション)が、モロに過去のLEPPSしてて、安心して聴ける1曲。つうかこれは完全にポップソングじゃないでしょ? 前作や「ADRENALIZE」に入ってたとしても違和感ないもん。11曲目は "Girl Like You"。曲がポップな割りには、実はバックのバンドサウンドは結構ヘヴィだという、その対比が面白い。しかもリフはサンプリングされたものなのかな? 面白い曲だと思います。

12曲目はこのアルバム3つ目のバラード "Let Me Be The One"。ここでもストリングスが導入されていて、かなり聴かせる曲になってます。考えてみれば、こういう感じのバラードってLEPPSに今までなかったような気が‥‥前出の2つのバラードは共にLEPPS以外のソングライターによるものなんだけど、この曲は完全なLEPPSオリジナル。なのに、前の2曲よりも過去のLEPPSっぽくないかも。いや、サビはLEPPSしてるんだけど。不思議な感じ。

本編最後には「スティーヴ・クラークのことを考えながら作った」という "Scar"。アルバム中、最も過去の彼等らしい長いギターソロが登場するのはこの曲だけ。イントロのフレーズとかソロが、ホントにスティーヴが弾いてるかのよう。コード使いやサビのコーラスなんて、モロに「HYSTERIA」に入ってそうなタイプだよね。いろいろ新しい試みをやっているものの(勿論、どれも好きという前提で)一番好きな曲は?と聞かれれば、迷わずこの曲を選んでしまいます‥‥悲しいかな、やはり俺はオールドタイプのLEPPSファンなんだよね(日本盤には他に2曲ボーナストラックが入ってるんだけど、アルバムの流れを考えてここでは割愛)。

確かに過去には考えられなかったような「ロック色が薄い」ポップソングもあれば、メンバーがソングライティングに全く携わっていない楽曲まであり、プロデューサーも曲毎に変えている。そういう意欲的な姿勢で制作されたこのアルバムだけど‥‥俺にとってはやっぱり、全然過去と変わらないDEF LEPPARDなんだよね。ま、だから好きっていうのもあるんだけど‥‥ちょっとだけ残念なのは、過去必要以上に拘っていた「英国色」‥‥ブリティッシュ・ロックへの拘りがちょっと薄らいだかな、と。非常に普遍的なポップソングに拘るのと引き替えに、「イギリス人らしさ」はこれまでで一番後退してるような気がします。それはアメリカで再び成功を手にする為なのか、それとも「一般的な普遍性」を意識した為なのか‥‥ま、ジョーは「全然そんなことない!どこを取ってもvery britishじゃないか!!」って否定するんでしょうけどね。

1曲1曲がコンパクトな為、アルバムのトータルランニングが50分にも満たない(ボーナストラックを除く)点はラジオでのエアプレイを意識してのことだろうけど、1曲くらいライヴを意識した6分7分あるようなプログレッシヴナンバー(過去でいえば "Gods Of War" や "White Lightning"、"Paper Sun" 等)があると「ロック」アルバムとしては引き締まったんだろうけど、ま、ポップというものに拘った結果がこれなら、上出来じゃないでしょうか? 過去の作品と比べれば決して傑作と呼べるような作品ではありませんが、それでも「今を生きるバンド」が時代性を意識して作った作品としては高品質で賞賛されるべき1枚だと思います。そして、もっと売れるべきです。

リリース後半年近くが立ちましたが、結局このアルバムはヒットには程遠いセールスしか残していません。レコード会社はロック以外のアーティストだったり、売れ線であるU2やBON JOVIの新作に力を入れ、LEPPSを無視しつつあります。それでも彼等は『「HYSTERIA」だってブレイクするまでに8ヶ月かかった。まだまだ勝算はある。だってこんなにいい曲ばかりなんだから』と言っています。11月に日本公演を終えた後、来年2月から再びアメリカツアーがスタートします。それに合わせてアルバムから新たにシングルをリカットする予定もあるとか。恐らくバラードで攻めるんでしょうけど、さぁこの「ヨーロッパ人達」がアメリカという国でどこまで善戦するか、これからが見物です。



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投稿: 2002 12 06 08:10 午前 [2002年の作品, Def Leppard] | 固定リンク