ENUFF Z'NUFF『STRENGTH』(1991)
1989年にデビューしたENUFF Z'NUFF。デビュー時の奇抜なビジュアル・イメージからグラム系と思われたりもしたけど、シングル「Fly High Michelle」は中ヒット、1stアルバム『ENUFF Z'NUFF』はビルボードのトップ100入り(74位)を果たしました。しかしながら、そのビジュアルが災いして結構非難を浴びる機会も。それが原因だったのか、彼等は1stアルバムに伴うツアーの途中から、ビジュアル・イメージを一新し、ナチュラルな方向へと移行していきました。サイケデリックなのは音楽だけで十分だ、これからは楽曲で勝負する。そういう心構えが何となく見え隠れする出来事ですね。
そうして出来上がったのが、この『STRENGTH』という2ndアルバム。1991年春に全米でリリースされました。今作からボーカル&ギターのドニー・ヴィとベースのチップ・ズナフが、前作でエンジニアを務めたポール・ラニと共にプロデューサーとしてクレジットされています。アーティスト自身がプロデュースに関われるようになれたということは、レコード会社からもそれなりに認められたということなんでしょう。実際、その内容もファーストを更に押し進めた、非常に濃い作品となっています。
ファーストではメタル・バブルを引きずりながら、ちょっとビッグプロダクション気味だったサウンドも、今回はかなり抑え気味に、「まず楽曲ありき」というテーマでもあったのか、その楽曲を引き立てるようなサウンドとアレンジになっています。つまり、前作よりも楽曲の完成度が更に高くなっているんです。1曲目「Heaven Or Hell」からして、もう名曲。前作では弾きすぎた感のあるデレク・フリーゴ(G)も、今作では少しだけ抑え気味に、けどソロでは一気に爆発するというように、あくまでバンドの一員としての成長を見せています。
また、前作ではルーツミュージック的なものとしてブルーズを引き合いに出しましたが、今作からいよいよドニーとチップの本当のルーツであるビートルズやCHEAP TRICKからの影響が色濃く表れ始めています。ジョン・レノン的な「Holly Wood Ya」や「Goodbye」といった楽曲は、前作にはなかった色合いではないでしょうか。また、アルバムラストを飾る「Time To Let You Go」に関しては非常に初期のビートルズ的で、この曲のみ録音がアナログ(モノラル)的なんですね。余計な音を極力削り、隙間だらけのサウンドなんだけど、実はこの曲が一番温かみを持っているという。ロビン・ザンダー(CHEAP TRICK)やジンジャー(THE WiLDHEARTS)がこの曲を気に入ってカヴァーしたくらい人気が高い楽曲です。
勿論、それ以外の楽曲も非常に優れたものばかりなのですが、前作にあった「陽」の面が今作では若干後退し、ちょっとダークな面が強調されているように感じます。シンプルなロックンロール「Long Way To Go」や如何にも彼等らしいサイケナンバー「Mother's Eyes」(アルバムからのファーストシングル。これも名曲ですね)、タフでグラムな"Heaven Or Hell"といった「陽」を感じさせる楽曲もあるにはありますが、例えば前作にあったような、如何にもアメリカのバンドといったような脳天気さはここにはありません。どちらかといえば、よりブリティッシュ寄りになったというか。それは先にも挙げたビートルズやCHEAP TRICK(彼等は同じボストンのバンドですが、やはりブリティッシュ寄りでしょう)からの影響をそのまま形にしたから余計にそう感じるんでしょうね。
後に判ったことですが、この時期のドニーはヘロインまみれで、相当酷い状態だったそうです。そんな状態の中作った「Missing You」や「Strength」等は彼等にしてはダークでヘヴィな側面を持った楽曲ではないでしょうか。前作にもブルースフィーリングを感じさせる楽曲はありましたが、「Missing You」は同じようなリズムを持ちながらも、もっとドロドロしたような印象を受けますし(サイケなコーラスのせいもあるんでしょうけど)、何よりもシンガーとしてのドニーの成長によって、よりそういう側面が強調されてしまったのも大きいと思います。
自分も始めてこのアルバムを聴いた当時、「Heaven Or Hell」といった超名曲からスタートして「これは凄いアルバムかも!?」と期待させておいて、「Missing You」~「Strength」というヘヴィでサイケでディープな曲が連続する流れに絶句してしまったという。ENUFF Z'NUFFというバンドのパブリックイメージを1stアルバムで作ってしまっていた俺が、新作でショックを受けた、という意味でですよ。今聴くと、これよりもヘヴィなアルバムはその後の彼等は作っていたりするので別にそこまで重いとは感じないのですが、やはりそういうエピソード(ドニーのドラッグ癖)を聞いた後に改めて接すると、聞こえ方もまた違ってくるような気が。偏見でしょうか?
とは言いながらも、実はこの俺、何を隠そうこの『STRENGTH』が一番好きなアルバムだったりするんですよね。適度にヘヴィで適度にポップ。依然パワーポップというよりはハードロックの音ですが、これが1991年という時代にドロップされたという事に意義があるんじゃないでしょうか。そう、この半年後にMETALLICAがブラックアルバムを、GUNS N' ROSESが『YOUR ILLUSION I』と『YOUR ILLUSION II』を、そしてNIRVANAが『NEVERMIND』、PEARL JAMが『TEN』をリリースするんです。そう考えるとちょっと興味深くないですか?
俺の太鼓判押しでこのアルバムに興味を持ったあなた。今すぐCDショップにこのアルバムを求めに行っても無駄ですよ。だってこのアルバム、現在廃盤ですから。90年代半ばからずーっと国内外で、唯一このアルバムだけが廃盤状態です。最近、ようやく3rdアルバム『ANIMALS WITH HUMAN INTELLIGENCE』も海外で再発されましたが、何故かこのセカンドのみ廃盤状態が続いています。何か権利関係で揉めているのでしょうか? インディーズなら意外と簡単に再発できるんでしょうけど、メジャーとなると権利の買い取りとか、いろいろ難題が多いんでしょうね‥‥それとも、ダニーがこのアルバムの再発を拒んでいるんでしょうか?(方やバンドはこのアルバムを「ダーク過ぎる」「プライベートが酷い状態だったこともあって思い出したくもない」と嫌っている様子) 1stを気に入った人も、そして最近の彼等を気に入っている人も、意外とこのアルバムはいけるんじゃないかと思うんだけどなぁ。
« BUMP OF CHICKEN『ロストマン / sailing day』(2003) | トップページ | ROLLING STONES『FLASHPOINT』(1991) »
「Enuff Z' Nuff」カテゴリの記事
- CHIP Z'NUFF『PERFECTLY IMPERFECT』(2022)(2022.11.18)
- ENUFF Z'NUFF『FINER THAN SIN』(2022)(2022.11.15)
- ENUFF Z'NUFF『HARDROCK NITE』(2021)(2021.11.22)
- ENUFF Z'NUFF『SEVEN』(1997)(2021.09.08)
- ENUFF Z'NUFF『NEVER ENUFF: RARITIES & DEMOS』(2021)(2021.09.07)
「1991年の作品」カテゴリの記事
- サブスクに存在する音源を通して1980年〜1994年のHR/HM(およびそれに付随するハード&ヘヴィな音楽)の歴史的推移を見る(2024.11.10)
- BLUR『LEISURE』(1991)(2023.02.04)
- マイケル・ジャクソンの黄金期をオリジナルアルバムで振り返る(1979〜1991年)(2022.12.31)
- LYNYRD SKYNYRD『LYNYRD SKYNYRD 1991』(1991)(2022.12.28)
- GUNS N' ROSES『USE YOUR ILLUSION II: DELUXE EDITION』(2022)(2022.11.22)
