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2003/03/27

HONEYCRACK『PROZAIC』(1996)

現THE WiLDHEARTSのギタリスト/ボーカリストとして活躍しているCJ。彼は勿論初期のワイハーのメンバーでもあるわけですが、基本的に解散前のワイハーはジンジャーが全ての曲を書き、彼が中心となってバンドを突き動かしてきた、と言っても過言ではないでしょう。それくらい'90年代のワイハーはジンジャーのイメージが強いバンドだったわけです。が、今のワイハーはどうでしょう。ジンジャー、ダニー、スティディ、そしてCJ‥‥そのどれもが強いキャラクターと的確な演奏力、そしてミュージシャンとしてのアビリティを備えています。そして現在ではジンジャーのワンマンバンドというイメージは覆され、バンドとして作曲したり、ツインボーカル的な楽曲があったり等、それぞれのメンバーがバンドの外での活動で得てきたものを血と化し肉と化し、それをワイハーに貢献しているといえます。

現在のワイハーにて、ジンジャーの次にソングライティングの貢献度が高いのは、間違いなくCJでしょう。その彼がワイハー脱退('94年7月)後に結成したのが、今回紹介するHONEYCRACKというバンド。そのHONEYCRACKが存命中唯一リリースした公式アルバムが、この「PROZAIC」です。

同じくTHE WiLDHEARTSにキーボーディストとして参加した経験を持つウィリーを迎えたことによって、「元WiLDHEARTS組」というレッテルを貼られることも多かったと思うんですが、ワイハー時代はCJもウィリーもソングライティングには殆どタッチしていなかったので、ここで聴けるのは「ワイハーにいたメンバーが新たに作った全く別のバンド」といったタイプの音楽。勿論、所々には如何にも彼ららしいフレーズが出てくるし、ジンジャーが歌ったら面白いだろうなぁ‥‥と思える曲も見受けられますが、ここはちょっと視点を変えて話を進めていきたいと思います。

このアルバムがリリースされたのが'96年初夏。イギリスではブリットポップ・ムーブメントが下火になりつつある頃。HONEYCRACK自体は'95年6月にはシングルデビューしており、その直前にはWEEZERの英国ツアーにてサポートアクトを務めています。そう、このバンドはイギリスから登場したものの、そういったブリットポップという表現よりも、むしろWEEZER的なパワーポップという表現の方がしっくりくるのです。元々ワイハーにもそういった要素はあるわけですが、HONEYCRACKのそれはもっとシュガーコーティングされた、アクが強過ぎなくて耳に馴染みやすい色を持っています。ボーカルはCJとウィリーのツインボーカルが殆どで、ギターが3本も入っていながらうるさすぎず、それでいて軽すぎない。パンキッシュでザクザクしたヘヴィな側面も持ちつつ、バブルガムポップ的な甘さが全体を包む。ワイハーのガッツィーな路線が好みの人にはちょっと物足りないかもしれませんが、GREEN DAYやWEEZERといったバンド、そしてパワーポップといったキーワードにピクリときた人にはピンとくるアルバムでしょうね。

1曲1曲が非常にコンパクトで(その殆どの曲が2~3分)、パンキッシュでストレートな疾走ナンバーもあれば、ポップでいて複雑怪奇な展開をする曲まであるという点は、ワイハーに近いものを感じますが、あのバンドみたいにハードロックやモダンロックの色を感じさせるものではなく、どちらかというともっとパンキッシュな色が強いですね。ワイハーがそういったモダンなアレンジを取り入れつつも、実はかなり伝統的なサウンドを持った王道路線なのに、HONEYCRACKの方がもっと現代的でモダンなんですよ。例えばワイハーは「BURRN!」的だけど、HONEYCRACKはもっと「rockin'on」寄りというような感じ。何となく伝わるでしょうか?

常にハーモニーが綺麗なツインボーカルは後にCJが結成したTHE JELLYSでも引き継がれ、最近のワイハーでもその要素を用いています。CJがここまで歌えるギタリストだとは正直思ってもみなかったし(まぁあれだけ素晴らしいコーラスが取れたんだから、歌えて当たり前なんですけど)、更にウィリーもこれだけの実力を持ったシンガーだとは思ってもみなかったですよね。しかも、これだけ優れた楽曲を作れるだけの能力まで持っていたとは‥‥全てがワイハー時代にスタートしていたわけですが、あのバンドでは開花することはなく、その後こういう形でブレイクするとは‥‥皮肉なもんですね。

全英チャートでもそこそこの成功を果たし、アルバムリリース後には来日公演も果たしたにも関わらず、その後あっけなく解散してしまう辺りは、さすが元ワイハー一派というか‥‥解散後、ウィリーが未発表曲やデモを編集した企画盤をインディーズからリリースしていますが、基本的にはこのアルバム1枚と数枚のシングルをメジャーのエピックからしただけで、実質3年程度しか活動していない、ある意味幻のバンド。それがこのHONEYCRACKです。

とにかく、名曲中の名曲"Go Away"を聴いて涙してください。ワイハーでの "I Wanna Go Where The People Go" 、WEEZERの "Buddy Holy" や "Across The Sea"、"The Good Life" にも匹敵する程の、出色の出来ですから。更に"Sitting At Home"なんてGREEN DAYの "Basket Case" 級の名曲ですからね。勿論、その他の曲も全て素晴らしい、捨て曲なしの「パワーポップの名盤」ですからね(決して「ブリットポップの隠れた名盤」ではないでしょうね)。一時はブリットポップの文脈で語られることも多かったようですが、「ああ、その辺のバンドかぁ~」といって切り捨ててしまうと痛い目を見ますよ?

先にも書いたように、CJはこのバンドをポシャッた後に、同じく元WiLDHEARTSのドラマー、スティディらと共にTHE JELLYSというトリオバンドを結成し、オリジナルアルバム2枚とライヴ盤1枚をリリースした後に、再結成ワイハーに加わることとなります。で、その後の活躍は皆さんご存じの通り。CJのミュージシャンとしてのキャリアはワイハー以前からあるわけですが、真の意味でのスタート地点はこのアルバムからだった、と言っても間違いじゃないでしょうね。ま、スタートが一番大きなブレイクだったという、実に皮肉なオチまで付いて回りましたけどね。



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投稿: 2003 03 27 04:43 午前 [1996年の作品, Honeycrack, Wildhearts, The] | 固定リンク