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2003/05/10

METALLICA『...AND JUSTICE FOR ALL』(1988)

1988年夏にリリースされた、ジェイソン・ニューステッドを含む新体制での1作目(通算4作目)となるオリジナルアルバム『...AND JUSTICE FOR ALL』。メインソングライターのひとりであった前任ベーシスト、クリフ・バートン(1985年9月没)を欠き、いよいよジェイムズ・ヘットフィールド&ラーズ・ウルリッヒ体制へと移行していった過渡期的内容といえる1枚になっています。

まず、これまでとの大きな違い。全9曲(日本盤ボーナストラック除く)中、7曲が6分超、7分以上が4曲、10分近い曲が2曲という非常に大作指向の内容となっています。勿論これまでもそういった指向はあったのですが、特に今回はそれが顕著に表れている作りになっていて、尚かつ過去の彼等に必ず存在していた様式美性が減退、いや、殆ど見当たりません。非常に無機質・無感情といえるような渇いたサウンドと、乱暴な変拍子、ザクザクしながらも非常に渇いたギターサウンド、そこから生み出されるリフに次ぐリフ。ギターソロもどこか感情を押し殺したかのようなメロディになっています。勿論、そこに載るメロディは過去同様判りやすいものが多いのですが。

このアルバム、リリース当時は「問題作」として叩かれることが多かったように記憶しています。10分近くあるような楽曲でも「起承転結がない」とか、METALLICAらしい速い曲が殆どないとか(ラストの「Dyers Eve」程度でしょうか)、亡くなったクリフが残したメモを元に作られたインスト曲「To Live Is To Die」も垂れ流しに近い駄曲だとか(クリフのメモをジェームズが朗読するといった内容)……確かに前作『MASTER OF PUPPETS』と比べれば雲泥の差なのかもしれません。しかし、クリフを失いジェイソンという新しい才能を手に入れたバンドが、新しい地平へと向かう為に試行錯誤しているのは明らかに伺えるし、実際今聴くとそこまで悪くないと思います。恐らくそれは、今聴けば続く次作『METALLCIA』アルバムへの布石として捉えることが出来るからでしょう。

実際、このアルバムではミドルテンポのヘヴィでグルーヴィーな楽曲が中心になっているといえます。3曲目「Eye Of The Beholder」(ヨーロッパでのシングル第1弾)や6曲目「Harvester Of Sorrow」(同じくセカンドシングル)がその代表例でしょう。実際、その後のツアーでもこれらの楽曲はライヴで演奏される機会が多かったですし。アルバムトップの変拍子ナンバー「Blackened」にしろ、普通なら「速い曲」と認識されるんでしょうけど、中間部でのミドルテンポになるパートのインパクトが強いこともあって、一筋縄ではいかないようになってますし、それは「The Shortest Straw」や「The Frayed Ends Of Sanity」にしても同じかもしれません。

そういう面からこのアルバムを「駄作」と見下す人が多かった中、ある1曲が全てを変えてしまいます。そう、今や最重要曲のひとつといえる「One」。この曲がその後のMETALLICAの全てを変えてしまいます。

まず、1989年に入り彼等はこの楽曲でバンド史上初となるプロモーションビデオを制作するのです。これは当時かなり大きな話題になりました。今や当たり前となっているPVを、当初は敬遠していたMETALLICAがとうとう……といた感じで。そしてほぼ同時期、1989年2月に行われた米・グラミー賞会場で彼等はこの曲を生演奏するのです。それを観た「それまでMETALLICAに興味を示さなかった」人達から「あれは何だ?」「なんていう曲だ!?」という声が多く挙がり、アメリカでの最初のシングルとなったこの曲はチャートを上層、最終的にトップ50に入る大成功を手に入れるのです。シングルヒットのお陰で、チャートから落ちていたアルバムも再びヒットし、最終的には6位まで上昇し、200万枚近いセールスを記録するのでした。

一介のスラッシュメタルバンドだった彼等が、約6年の歳月をかけて「アンダーグラウンドの帝王」から一般的な成功を手に入れるようにまで成長したのです。結果、これ以降のスラッシュバンドはこのアルバムでのMETALLICAをお手本として「脱・スラッシュ」方向へと移行していくのです。

「ヤケクソ気味で大袈裟な80年代のMETALLICA」から「グルーヴ感を大切にした重いサウンドを信条とする90年代のMETALLICA」への橋渡し的作品として、非常に重要な作品であるのは確か。実際、クリフを失った彼等はよく頑張ったと思います。

しかし、この作品には最大の欠点があるのです。それは「ベースサウンドが全くといっていい程聞こえない」こと。この頃からハードロック/ヘヴィメタルの世界にも「5弦/6弦ベース」が広まりだします。それまでは比較的ジャズやフュージョンの世界で活用されることの多かった楽器ですが、どうしても「E」(ギターの6弦、ベースの4弦の開放音。ヘヴィメタルの世界ではEキーで作られる楽曲が多い)よりも低い低音を鳴らしたい、しかしチューニングを下げると上手いニュアンスが表現出来ない。そういった理由でジェイソンも当時から5弦ベースを使うことが多かったようです。しかし、これはミックスした人間が悪かったのか、まだHM/HRの世界で一般的でなかったからなのか、上手く活かし切れていない、ミックスし切れていないのです。ギターの低周波と被ってしまい、しかもベースが控え目にミックスされてることもあり、ちょっと聴いただけではベースの音を見つけることが出来ない……これって新人イジメかよ!?と当時話題になりましたよね(そういえば、同時期にリリースされたDOKKENの「BACK FOR THE ATTACK」での5弦ベースが使われ、やはり同じようにEより低い音が殆ど聞き取れなかったですよね)。

今みたいに5弦以上のベース、7弦ギターが当たり前のラウドロック界では考えられない事かもしれませんが、そういった先人達の苦労があって今があるということなんでしょう。願わくば、今後旧譜をリマスターする機会があったなら、是非このアルバムに関してはリミックスを施してベース音量をもっと上げてくださいね。そうすると、全く違った印象を得ることができるはずですから(ホント、このアルバムの曲を耳コピする時、すっげー苦労したんだから)。



▼METALLICA『...AND JUSTICE FOR ALL』
(amazon:国内盤

投稿: 2003 05 10 03:55 午前 [1988年の作品, Metallica] | 固定リンク