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2003年8月16日 (土)

NINE INCH NAILS『LIVE : AND ALL THAT COULD HAVE BEEN』(2002)

トレント・レズナー率いる‥‥というか、彼自身の別名だといっても過言ではないNINE INCH NAILSの、デビューから12年以上経って初めて発表されるライヴアルバム、それがこの「LIVE : AND ALL THAT COULD HAVE BEEN」。'99年に発表された2枚組アルバム「THE FRAGILE」に伴うツアー(同年冬、ヨーロッパからスタート)で'00年1月に初来日を果たしたNIN。その後『FRAGILITY V2.O TOUR』とバージョンアップした形で行われたUSツアーからのテイクを収めたのがこのアルバム。CD1枚ものということで残念ながら1本のライヴを丸々収録したものではないが(同時期にリリースされたDVDも然り)、そこはかの奇才、トレント・レズナーのこと。ライヴでの臨場感はそのままに、スタジオ作品とは違ったアプローチでひとつの『完成された作品集』に昇華してるように感じられます。多分、細部に渡っていろいろと手直しが加えられたと思うのですが、ちゃんと「ライヴアルバムらしさ」を損なわずにそれを成し得ているのですから、さすがとしか言いようがないでしょう。そういえばこのアルバム、当初はもっと早くに出る予定だったもんなぁ‥‥ツアー終了から1年半近く経ってからのリリース、ツアー終了後多少の休憩はあったものの、如何にこのアルバム(及びライヴDVD)に時間を割いたかが伺えるポイントではないでしょうか? っつうか、この「アルバム1枚に3~4年平気でかける」男が(まぁ素材は揃っていたとはいえ)たったの1年ちょっとでこれをリリースに踏み切ったのですから、それだけでも快挙といえるんじゃないでしょうか?

収録されている楽曲は、やはり「THE FRAGILE」リリース後のツアーということもあり、同アルバムからの曲が多く、それ以外は各アルバムから(とは言ってもそれ以前には2枚のフルアルバムと1枚のミニアルバムしか出てないわけですが)代表曲と呼べるであろう名曲群が満遍なく収められています。アルバムの流れも実際のライヴに倣って、同じように配置されています。NINのライヴでは定番といえる映像を駆使したビジュアル要素がない分、こういう風に割り切って1枚のアルバムに再構成したのは個人的には大成功だと思ってます。そういった要素が体験できないのだから、ライヴでの「アッパーなパート」を強調するのは自然な流れかと。中盤及びエンディングに「静のパート」を挿入していますが、これは約75分の流れを考えればごく自然ですし、特にダレることはないと思います。1本のフルライヴから削れるパートを可能な限り削り、それでいて実際のフルライヴの流れを壊すことなく見事に疑似体験させてくれているんだから‥‥うん、ホントよく出来たライヴアルバムだと思います。

このライヴアルバム、他のアーティストの通常のライヴ盤とはちょっと変わったポイントがあるんですね。それはアルバム1曲目"Terrible Lie"の曲頭と、ラスト"Hurt"の一番最後。それぞれフェイドインもフェイドアウトもせずに、いきなり音のブッタ切り状態でスタート/終わるんです。通常のライヴ盤って、曲がスタートする前に‥‥例えばオープニングのS.E.や客の歓声がドンドン大きくなっていって曲に入る、所謂「フェイドイン」してから曲がスタートすると思うんですね。逆にエンディングも曲が完全に終わって、客の大歓声の中ドンドン音が小さくなっていく、「フェイドアウト」して終わるはずなんですよ。それが『定番』なわけですが、このアルバムの場合はそういったセオリーを一切無視し、ブートレッグの如く音のブッタ切り。いきなりドラムのフィルインからスタートする。これから始まるぞ‥‥といった高揚感を一切味わうことのない状態‥‥あるいは「既に始まっている」状態なのかもしれません。同様にエンディングもギターのフィードバックやエフェクト音が延々と流れ、それも途中でいきなりブッタ切られるような形で終了。ライヴの余韻を一切味わう間もなく、一方的に終わるわけです。

これを「ライヴ盤というよりも『1枚の作品集』だから」といった見方をすれば、確かにそれもアリなのかなと思えますが、俺はむしろ「つまりトレントにとって、これは『日常の断片』でしかないんだな」と感じました。ライヴというと通常「日常の煩わしさを忘れさせ、現実逃避させてくれる空間」だったりするわけですが、このアルバムはそういった要素を他人とは共有しない、トレントと仲間達(バンドメンバー)との『ツアーの記録』であり、即ち『日常の断片』であると。それを加工して『1枚の作品集』として完成させただけなのかもしれませんね。まぁそうはいいながらも、しっかり歓声や大合唱も結構な音量で入ってるんですから‥‥単なるエフェクト音としてなのか、あるいは「トレントと仲間達(バンドメンバーとオーディエンス」と解釈しているのか‥‥それはトレント本人に聞かない限り判りませんが‥‥

最後に。現在はこのアルバム、ライヴ盤のみの1枚モノとして流通してますが、リリース当初は限定盤として上記のジャケットを用いた2枚組仕様でリリースされました。ディスク1に今回紹介したライヴ盤、そして過去のアコースティック風にリアレンジしたものに加え、シングルでしか聴けなかったアルバム未収録のアコースティックナンバーを1枚にまとめた「STILL」というタイトルの作品集がディスク2として付属されています。以前、「THE FRAGILE」制作時に「ピアノに向かって曲作りをしていた」ことがあったそうで、これはある意味その片鱗と言えなくもないでしょう。「動」の要素がないNIN、ライヴ盤のみを持ってる人も、これだけの為にこの限定盤を買うべきだと思いますね。



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