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2003年10月13日 (月)

ENUFF Z'NUFF『ANIMALS WITH HUMAN INTELLIGENCE』(1993)

アメリカのハードロック/パワーポップ/グラムロック・バンド、ENUFF Z'NUFFが1993年春にリリースした、通算3作目となるオリジナルアルバム。前2作をリリースしていた「Atlantic/Atco」レーベルから契約解除され(1stアルバム『ENUFF Z'NUFF』に比べ、2nd『STRENGETH』はまったくといっていい程ヒットしなかった)、新たに「Arista/BMG」と契約。前作から約2年振り、満を持してのリリースとなるはずが、出鼻を挫かれるような出来事が起きます。

それはデビュー時から参加していたドラムのヴィッキー・フォックスの脱退です。レコーディングには参加しているものの、丁度この頃から元MOTLEY CRUE(当時)のシンガー、ヴィンス・ニールと活動を共にし始め、結局ENUFF Z'NUFFを脱退し、ヴィンス・バンドに加入することになるのです。そういうこともあって当時のアルバムジャケットにはメンバーが3人しかいないのです。が、ジャケット撮影終了後に無事、リッキー・ペアレントという人物の加入が決まります(その後、現在に至るまで彼はバンドに在籍しています)。

更に、ギタリストのデレク・フリーゴにもレコーディング中に脱退騒動が持ち上がります。実際、一時期バンドを離れたようです。レコーディングには初期のバンドに関わっていたジーノ・マルティノが参加したものの最終的には復帰、ツアーにも参加しています(が、このアルバムのツアー終了後に正式脱退)。

そして、レコーディングに入る前に、シンガー/ギタリストのドニー・ヴィがドラッグ問題で入院~リハビリのため、数ヶ月バンドを離脱する事件も起きています。2ndアルバム『STRENGETH』がデビュー作以上にダークでヘヴィな作風だったのは、ソングライターであるドニーのドラッグ癖が影響していたのだ、と後に自身が語っています。

レコード契約を失ったりメンバー個人の問題や脱退騒動等、バンドとしてはどん底といっていい状態だった彼等ですが、心機一転、このアルバムではこれまでとは違ったアプローチで新たな側面を見せてくれています。

まずこのアルバムのレコーディング・セッションは2度行われています。HEARTや復活後のCHEAP TRICKPOISONBAD ENGLISHといったハードロック/産業ロックを多く手掛けてきたリッチー・ズィトーをプロデューサーに迎えた7曲(「Right By Your Side」「These Daze」「Innocence」「One Step Closer To You」「Takin' A Ride」「The Love Train」「Mary Anne Lost Her Baby」)と、ドニー&チップ・ズナフ&フィル・ボナーノという布陣でプロデュースされた5曲(「Superstitious」「Black Rain」「Master Of Pain」「Bring It On Home」「Rock N World」)に分かれるのですが、こうやってレコーディング時期毎に分けてまとめて聴いてみると前者と後者とで作風が若干違うことに気づきます。

リッチー・ズィトーが手掛けたということもあってか、前作までにあったビートルズ的なポップな側面を更にシュガーコーティングしたかのような人工的なサウンドエフェクトをあしらった前者に対して、1993年という時代背景(産業ハードロックの後退~グランジ/ヘヴィロックの台頭)を踏まえた上でそういった要素を取り込んで自己流に表現しようとする新たな側面を見せてくれる後者は、確かに前作までの「ヘヴィ」とは違ったヘヴィさを表現してるように感じます。内面的ヘヴィさを強調した『STRENGETH』とは違った、単純に装飾としてのヘヴィさ。楽曲の持つメロディ自体はそれまでと何ら変わっておらず、むしろそのポップなメロディセンスは更に磨きがかかっているようにも感じられます。

確かに「時流に乗って便乗しようとしてる」と非難することも出来るでしょうし、「完全に消化しきれていない」という声もあるでしょう。けど、個人的な趣味からいえば初期3枚のメジャーレーベルからのアルバムの中では、これが一番聴きやすいと思うんですよね。保守的ながらもメロの冴えは抜群なリッチー・ズィトーが手掛けた楽曲群といい、時流に乗ったアレンジを持つヘヴィなセルフ・プロデュース作といい、とにかく聴きやすい。ハードロックの範疇でのサウンドですが、これはこれで素晴らしい1枚だと思いますよ。

とにかく名曲揃いなんですよ。後にガールズ・ポップバンドであるTUESDAY GIRLS(後にTUESDAYSに改名)はENUFF Z'NUFFの曲を幾つかカバーしてるんですが、特にこのアルバムからのリードシングルにもなった「Right By Your Side」は出色の出来で、Z'NUFFバージョンは勿論、TUESDAY GIRLSバージョンもまた良いんですよね。他にも名バラード「Innocence」や、やはりメロの冴えが異常に優れている「Mary Anne Lost Her Baby」等、印象に残る曲は沢山あります。

しかし、いくら1曲1曲が優れているからといっても、アルバムのトータルバランスとしてはちょっと……という気もしたりして。プロデューサーが2チームあったり、レコーディング時期やアプローチがそれぞれ異なっていたり等、いろんな事情が絡んでくるんですが、それらは全てバンドの意思ではなくレコード会社の指示だったことも、彼等の弁護のために記しておきます。その後、そういったメジャーレーベルのやり方に嫌気が差した彼等は、インディーレーベルで地道に活動していくことになります。

そうそう。このアルバムはリリース後、暫くして廃盤になってしまうんですが(唯一日本盤のみ入手可能でしたが、非常に品薄で手に入りにくかったのも事実)、このアルバムの権利を「BMG」から買い取り、2000年秋にインディーレーベルから再発されています。ジャケットが2種類あるのはそのためです。また、当初は日本盤にのみボーナストラックとして収録されていた「Fingertips」というバラードも、再発盤に無事追加収録され、現在では世界共通の全13曲入りとなっています。その他、再発時にバラされた事実として、当時GUNS N' ROSESのメンバーだったスラッシュが1曲、「The Love Train」でギターを弾いているというのも、新たな魅力となっているのではないでしょうか(ま、言われるまで気づかなかったし、言われても「そんな気がする」程度なわけですが)。



▼ENUFF Z'NUFF『ANIMALS WITH HUMAN INTELLIGENCE』
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投稿: 2003 10 13 06:41 午後 [1993年の作品, Enuff Z' Nuff, Slash] | 固定リンク