DAVID BOWIE『REALITY』(2003)
ええ、今度の1月8日で57歳ですよ、デヴィッド・ボウイ翁は‥‥ったく、何なんだよ、このジイサマは‥‥通算26作目となるオリジナルアルバム『REALITY』。前作『HEATHEN』(2002年)リリースからたったの15ヶ月しか経ってないっていうんだから、驚きというか何というか‥‥70年代の“ベルリン3部作”と呼ばれるアルバムの内、『LOW』と『HEROES』(ともに1977年)の2枚がたった9ヶ月の間に作られたというのに何となく似てますよね。ただ大きな違いは、あの頃のボウイは30代で脂が乗りきった時期、そして今は還暦間近のジイサマという現実。ま、こればっかりはどうしようもないですけどね。特にこの2枚ってボウイのディスコグラフィーの中でも特殊且つ名盤と呼ばれることの多い作品ですし、それと比べること自体が間違ってるのは承知してるんですが、それでもこの「1年3ヶ月というインターバル」、しかも56歳のオヤジが成し遂げたという事実は称賛に値すると思うのですよ。
ご存じの通り、前作『HEATHEN』以降ボウイは再びトニー・ヴィスコンティと手を組んでアルバム制作に当たっています。当然今回の『REALITY』もヴィスコンティとの共同プロデュースなのですが‥‥これがね、悪くない。いや、いいんですよ。俺ね、周りの評価に反して'90年代の作品‥‥特にブライアン・イーノと共に制作した『OUTSIDE』(1995年)と、ボウイなりの「インダストリアル」アルバムである『EARTHLINK』の2枚、大好きなんですよ。この人って結局、如何に周りの期待を裏切り続けるか、そしてそれが上手く機能するのか?って人だったわけでしょ。'70年代、少なくとも'80年代初頭まではそうあり続けたわけですよ。ところが『LET'S DANCE』(1983年)での大成功以降、その成功を維持しようっていう魂胆が見え見えで、そういった冒険心が薄れていったように感じるんですね。確かに80年代末にTIN MACHINEというバンドを組んでみたものの、話題性は十分ながらもやってる音楽は『LET'S DANCE』以降の延長線上でしたよね、良くも悪くも。で、『BLACK TIE WHITE NOISE』(1993年)でちょっと持ち返しつつ、『OUTSIDE』と『EARTHLING』(1997年)で完全に吹っ切れた‥‥と俺は解釈してたんですね。だからこそ、1996年の来日公演も楽しめたわけですよ。
でも、多くのボウイ・ファンからすると、完全に逆みたいなんですね。特に古くからのファンだと論外らしく‥‥頭硬いんじゃねぇの!?とか神経を疑ったものの、まぁ気持ちも判らないでもないんだけどね。実際、俺も'70年代のボウイを最も愛しているわけだし、やはりあの頃の幻影を追ってしまうわけですよ(リアルタイムで体験してないから、余計にね)。
1999年にリリースされた『HOURS...』というアルバムは、そういう意味では従来のボウイ・ファンが唸りそうな「地味渋ボウイ」を再現した、非常にアーティスティックで深い作品だったと思うんですが、どうしても決定打に欠けた1枚だったように思うんですね(個人的には好きですよ。一般論としての話ですからね)。で、『HEATHEN』‥‥ここでも「あと一歩」という感じだったんじゃないですかね、古き良き時代のボウイを求めるファンからすると。
そして短期間で登場したこの『REALITY』。俺はこれ、本当にいい意味での「開き直り」が感じられる作品集だと思うんですよ。だけど、決して下世話な感じがしない。深さという意味では『HOURS...』よりも深い。だけど派手さという意味ではここ数作で一番なんですね。アッパーでウルサイ曲があるってのもあるんですが、徹底的にバンドサウンドに拘って鳴らされる「音」がちゃんと主張してる。そういう意味で「派手」だと思うわけですよ。多分これは前作を制作してツアーも一緒に回ったメンツでの制作というのも大いに影響してるんでしょうね。
それと楽曲の幅が前作よりも広がったという意味でも派手さを感じますね。シングルにもなった「New Killer Star」や「Looking For Water」「Reality」のような攻めの曲もあれば、ジャズかと錯覚する「The Loneliest Guy」や「Bring Me The Disco King」という地味目な曲もある。そして「Pablo Picasso」や「Try Some, Buy Some」というようなカバー曲まである(前者がジョナサン・リッチマン、後者がジョージ・ハリスンの曲。日本盤には更にTHE KINKSの「Waterloo Sunset」がボーナストラックとして追加収録されています。個人的にはアルバムの流れを断ち切るかのようで蛇足に感じるんですけどね)。『HOURS...』や『HEATHEN』が全体的に統一されたトーンのアルバムだったのに対し、この『REALITY』ってもっと多彩で、そして明るいトーンのアルバムに感じられるんですよね、サウンドだけ聴いてると。
ところが、歌詞を読んでしまうと印象が一変します。というのも、このアルバムで歌われている新曲の殆どが「9・11」以降に書かれた曲‥‥ニューヨークに住むボウイにとって、いや、例えニューヨークに住んでいなかったとしても彼が(意識的にだろうが無意識にだろうが)そういった現実から影響を受けるのは必然であり、それが直接的表現ではなくても聴き手の我々は彼の歌からいろいろと感じ取っていくわけです。そしてそれは『REALITY』というアルバムタイトルに端的に表れているのではないでしょうか。
そういったポリティカルな側面がこのアルバムをより「強い」ものにしてるのかもしれませんね。だからこそボウイの歌やひとつひとつの「音」が「派手」に鳴っている。そして我々は(その歌詞の意味が判ろうが判るまいが)新しいボウイに惹かれていく。取っ掛かりはそれで十分じゃないでしょうか?
いよいよ正式発表になったボウイ8年振りの来日公演。前回は布袋寅泰と武道館で共演したんだっけ。さてさて、今回はどういったステージを見せてくれるのか‥‥そしてこの新曲達をどんな風に鳴らすのか。非常に楽しみですね!
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