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2004/01/19

AEROSMITH『NINE LIVES』(1997)

AEROSMITHが97年3月に発表した、通算12作目のオリジナルアルバム『NINE LIVES』。前作『GET A GRIP』から約4年振りだったんだけど、この間に大規模なワールドツアーがあったり(ここ日本だけでも武道館クラスを10回近く埋めたんだからね)、Geffen Records移籍以降のヒット曲を収めたベスト盤『BIG ONES』(1994年)があったり、それなりに話題は欠かなかったわけです。しかも、この『NINE LIVES』というアルバムは、古巣であるColumbia/Sonyへの再移籍後第一作目となる記念すべき1枚。当然大掛かりなプロモーションが行われ(アルバムのリスニング・パーティーのためだけに来日したり、生放送の歌番組に出演したり等、以前では考えられなかったような展開が繰り広げられたのでした)、アルバムは前作に続き全米ナンバー1を記録。ここ日本でもCMソングとして収録曲の「Nine Lives」が起用されたり等の効果もあり、50万枚近いヒットを記録しました。

けどね、このアルバム最大のヒット理由‥‥それはこのアルバムの数ヶ月後に発表された「I Don't Want To Miss A Thing」という楽曲によるものが大きいのです。ご存知の通り、映画「アルマゲドン」の為に録音されたこの曲、『NINE LIVES』には収録されていません。が、この曲はあれよあれよという間にチャートを駆け上り、同年夏には遂に全米ナンバー1を獲得してしまうのです。アルバムからのシングルだった「Falling In Love (Is Hard On The Knees)」や「Hole In My Soul」、「Pink」等はトップ10にも届かなかったのにね‥‥皮肉といえば皮肉です。けど、そういった思わぬシングルヒットのお陰で、ここ日本でもアルバムは大ヒットしたわけですから、ありがたや「アルマゲドン」様‥‥といったところでしょうか?

プロデューサーは、後にTHE BLACK CROWESやDREAM THEATER、IRON MAIDEN等を手掛けることになる新鋭エンジニア、ケヴィン・シャーリーが初めて手掛けています。最初はグレン・バラッド(アラニス・モリセットを手掛けたことで一躍有名になったソングライター兼プロデューサー)と作業していたものの、メンバーが納得いかなかったため、新たにケヴィンを迎えて作り直されたという話があります(実際「Pink」等はグレンのテイクをそのまま使用していますしね)。また、陰度のドンと言われるジョン・カロドナーとの確執、マネージメントとの不和等、とにかく音楽的な不安要素以上に外的不安要素が多かった、難産の末に生まれた1枚だったようです。

いろいろなところで「『GET A GRIP』程の作品じゃない」とか「『PERMANENT VACATION』以降のアルバムでは一番の駄作」なんて声も聞こえてくるこのアルバム、果たして本当にそんなに酷い作品なのか‥‥全曲解説しながら追っていきましょうか‥‥


●M-1:Nine Lives
スティーヴン・タイラーとジョー・ペリー、そして職業ライターとしても有名なマーティ・フレデリクセンとの共作。アルバム1曲目を飾るに相応しいストレートなアッパーチューン。イントロでのジョーのギターと猫の鳴き声のようなスティーヴンのスクリームに鳥肌を立て、そこから雪崩のように突入するバンドサウンドは圧巻。エレクトリック・シタールのような音色のインドっぽいフレーズが挿入されたりするのが印象的。とにかく「4年間待たせたな!」と言わんばかりの攻撃的な1曲。

●M-2:Falling In Love (Is Hard On The Knees)
アルバムからの第1弾シングルとなった、80年代「復活後」エアロの延長線上にある1曲。スティーヴンとジョー、そしてグレン・バラッドによる共作。ブラスやピアノの音が気持ちいい1曲で、途中で訪れる転調等はさすがと言わざるを得ないでしょう。ギター2本の組み合わせ(違ったバッキングが被さる)もさすがだし。けどこの曲の良さはそのものズバリ、歌メロにあるのではないでしょうか。大したことないと思われがちの曲ですが、50~60年代のポップスにも通ずるポップセンスは、前作での「Cryin'」や「Crazy」等でも伺えましたが、ここで一気に開花したといった印象。そしてその究極の形が、後に誕生する「Jaded」なんですよね‥‥

●M-3:Hole In My Soul
アルバムからの第2弾シングルとしてリカットされた、パワーバラード系の1曲。スティーヴン&ジョー、そしてお馴染みデズモンド・チャイルド(エアロ復活後の一連のヒット曲や、BON JOVIの大ヒット曲等を手掛けてきたソングライター/プロデューサー)との共作。ジョーのスライドギターがとにかく印象的な曲で、イントロやアウトロ、中盤のソロで聴けるプレイは一聴の価値あり。ストリングスも導入された過剰な演出は、後の「I Don't Want To Miss A Thing」にも通ずるものがあります。が‥‥こっちは大きなヒットにはならず。この曲を聴くと‥‥特にBメロからサビにかけての盛り上げ方/メロディの運び方が80年代的‥‥例えばNIGHT RANGERやBAD ENGLISHといった産業ロック系のパワーバラードに共通する色を感じるんですが、如何でしょうか?

●M-4:Taste Of India
スティーヴン&ジョーとグレン・バラッドによる共作。タイトル通り、インドテイストを強く表現したヘヴィチューン。シタールっぽい音色やストリングスが効果的に使われていて、ちょっとLED ZEPPELINの「Kashmir」を彷彿させますが、単なる亜流に終わっておらずちゃんと「エアロ流」になってます。というか、どこからどう聴いてもエアロ以外の何者でもないんですけどね。実は曲としては単調なんですけど、演奏でそこを見事にカバーしてる感が強いですね。そういえばこの曲、アルバムにはケヴィン・シャーリー版が収録されていますが、以前何かのシングルに収録されたものなのか、ラジオでグレン・バラードのプロデュース版を聴いたことがあります。こっちのバージョンはドラムがジョーイ・クレイマーではなくて、セッション・ドラマーが叩いたテイクなんですが‥‥正直、マニア以外は聴かない方がいいと思いますよ。全然覇気が感じられないテイクでしたから。

●M-5:Full Circle
アルバムからの第4弾シングルとしてリカットされた、カントリーテイストの強いバラード系ナンバー。スティーヴンと職業ライターのテイラー・ローズとの共作。タイプとしては「What It Takes」(アルバム『PUMP』収録)の流れにある1曲なのですが、もっとポップス色が強く、はっきりと「GET A GRIP」からの流れを意識してるのが読み取れます。悪い曲ではないですが、『NINE LIVES』にはこのタイプの楽曲が他にも沢山入ってるので、正直‥‥ただ、バンドとしてのパフォーマンスはさすがとしか言いようがありません。

●M-6:Something's Gotta Give
スティーヴン&ジョーとマーティ・フレデリクセンによる共作。「Nine Lives」にも通ずるストレートなアッパーチューン。イントロでのインダストリアル・ノイズに一瞬ハッとさせられますが、その後は良く言えば「いつものエアロらしい」、悪く言えば「何の代わり映えもしない」1曲。このアルバムの弱点を挙げるとするならば、それは楽曲のバリエーションがそんなに広くなく(=『GET A GRIP』のラインを狙い過ぎ)、尚かつ似たり寄ったりなアレンジの曲が多過ぎるということ。アッパー系の2曲が同じようなタイプだったり(ハーモニカを用いるところまで一緒だし)、バラード系もね‥‥多過ぎるんですよね。勿論、楽曲自体は悪いとは思わないし、演奏は素晴らしいものなんですが‥‥。

●M-7:Ain't That A Bitch
METALLICAにも似たようなタイトルの楽曲がありますが、全く別の曲。スティーヴン&ジョーとデズモンドによる共作。ここで初めてこれまでになかったタイプの楽曲が登場。ちょっとブルージー且つジャズっぽいテイストのスローチューンで、まぁバラードとも呼べなくもないけど、ちょっと違うかな。スティーヴンのボーカルがとにかくセクシー。あまり指摘されないけど、この曲でのリズム隊による「歌を盛り上げる」ためのプレイは圧巻だと思います。後半に登場するストリングスが個人的には余計かな?という気もするんですが‥‥シングルやライヴには向かないけど、アルバム用としては十分に機能するアクセント的1曲。

●M-8:The Farm
ちょっとBEATLESの「I Am The Walrus」に似たイメージのへヴィチューン。スティーヴン&ジョーとマーク・ハドソン他による共作。「不思議の国のアリス」をモチーフにした楽曲で、実際同名映画でのセリフをそのまま挿入したりして、「I Am The Walrus」っぽいサイケさを強調しています。ストリングスやブラスが被さって更に重厚なイメージを作っていますが、メロディ自体は如何にもBEATLES好きなエアロらしいシンプルなもの。アイディアの割には曲が‥‥という印象もなきにしもあらず。ちょっと空回りし過ぎかな? ま、この辺の課題は次作にまで持ち越されるわけですが‥‥。

●M-9:Crash
エアロ版パンクソングといったイメージの強いファストチューン。スティーヴン&ジョーとマーク・ハドソン他による共作。イントロ部分でうっすらと「Toys In The Attic」が聞こえていたり、曲全体の印象が「Rats In The Celler」に似ていたり等、過去の名曲の路線を踏まえた内容なのですが、演奏が若々しいこともあってか、非常にパンキッシュな印象を受けます。考えてみればこのアルバム自体、時代に逆行したという意味ではパンキッシュな1枚なんですけどね(ヒップホップやヘヴィロックが蔓延する中、従来のエアロらしさを固持している点はさすがとしか言いようがないですしね)。ギターの暴れ具合も素晴らしく、そこに絡んでくるハーモニカといい、ボトムをしっかり支えるリズム隊といい、とにかく文句なし。まるでガレージに集まって「いっせーのーせー」で演奏してるかのようですね。

●M-10:Kiss Your Past Good-Bye
スティーヴンとマーク・ハドソンによる共作。カントリーやサイケの色合いを持つミドルチューン。BEATLESっぽさを感じさせるという意味では、前作での「Livin' On The Edge」等の流れにあるといっていいでしょう。演奏は意外とヘヴィなんですけど‥‥あまり印象に残らないのも確か。悪い曲ではないんですが‥‥途中、歌詞が「Kiss your past good-bye」から「Kiss your ass good-bye」に変わってる辺りはさすがと思いますけどね。

●M-11:Pink
スティーヴンとグレン・バラード、そしてリッチー・スパによる共作。アルバムからの第3弾シングルとしてリカットされ、何故かその後のライヴでもずっと演奏されている謎の1曲。正直、ライヴで聴くと退屈極まりない曲なんですけどね‥‥ラジオ向けという印象の、アコースティック色の強いカントリー調ポップソング。

●M-12:Falling Off
日本盤及びヨーロッパ盤にボーナストラックとして追加収録された1曲。ジョー&スティーヴンとマーティによる共作で、ジョーがリードボーカルを取るROLLING STONES風のアーシーなロックンロール。イントロでのリフを聴くと、70年代の‥‥『DRAW THE LINE』辺りの彼らを思い出します。けど歌メロやアレンジは「80年代復活後」の彼らなんですよね。個人的には悪い曲だとは思わないし、まぁアルバムに1曲はあってもいいかな?というタイプ。ただ、完成度だけでいうなら前作の「Walk On Down」(同じくジョーがボーカルを取る曲)の方が上だったけどね。

●M-13:Fall Together
日本盤のみに追加収録されたボーナストラック。スティーヴンとマーク・ハドソン等による共作。これもちょっと70年代的な色合いを持つ、シンプルなミドルテンポのロックンロール。悪い曲ではないけど、正直このアルバムの色には合わない気が。ま、だから本編から外されたわけだけど(だったらそんな曲をボーナストラックとはいえ、アルバム本編の中に挿入するな!って話もありますが)。こういう曲を喜んで聴くのは、多分ハードコアなエアロのファンか、初期のシンプルなロックンロールをやってた頃のエアロが好きだったオールドファンか、単純に今のエアロが気に食わない人達くらいじゃないでしょうか。ま、あってもなくてもいい曲ですね。嫌いじゃないけどさ。

●M-14:Attitude Adjustment
スティーヴン&ジョーとマーティによる共作。ヘヴィ且つグルーヴィーなミドルチューンで、個人的にはアルバムの中でも1,2を争う程好きな曲。シングル向きではないけど、アルバムの中ではいいアクセントになるナンバー。多分ライヴでやっても盛り上がらないだろうけどさ‥‥適度なポップさを保ちつつしっかりヘヴィ。当時多くのバンドがヘヴィの意味を履き違えていた中、本家といえる彼らは何らスタイルを変えることなく、平然とこういうことをやってのけたのだから‥‥さすがだね。

●M-15:Fallen Angels
アルバムラストを飾るサイケなバラードナンバーは、スティーヴン&ジョーとリッチー・スパによる共作。前作でいうところの「Amazing」のラインを狙ったんだろうけど、完全に違ったものとして完成しましたね。前作では悲壮感の中にも一筋の光が見えるような希望を持った1曲でしたが、今回は‥‥アルバム全体がどことなく「ダーク」で「サイケ」な色合いを持っているためか、ちょっとひねくれた印象を受けます。何もない所にお花畑が見えちゃうような‥‥ズバリ言っちゃえば「トリップ感」を味わえる1曲とでもいいましょうか。そういえばこの頃、以前所属していたマネージメントから「彼ら(エアロのメンバー)は再びドラッグに手を出し始めた」なんて難癖を付けられましたが、それはこの作風を指して言っていたのかもしれませんね。もしかしたら‥‥実際にやってたのかもしれませんけど。まぁ個人的にはドラッグやろうがやるまいがそんなに気にしないんですが‥‥このアルバム全体を覆う「一枚幕を被せたかのようなこもり具合」が、確かにそれっぽいんですよねぇ‥‥真相は本人達にしか判らないわけですが‥‥エンディングで延々続くアシッドテイストの演奏も、如何にもそれっぽいし。ま、個人的にはラスト2曲の流れは大好きなんですけどね。エアロのアルバム中、最も好きな流れかも。


●総評
とまぁ長々と解説してきましたが‥‥何故このアルバムが駄作呼ばわりされるのか、途中で何度か欠点を挙げていますが‥‥とにかくね、曲数が多い(日本盤はオリジナルよりも2曲多い)/収録時間が長い(日本盤はトータルで70分超)/似たようなタイプの楽曲が多い(特にバラード系ね)等々。楽曲単位でいえば前作よりも平均的に完成度が高いと思うんですが、例えば前作にあったような決定的名曲が存在しない。「Livin' On The Edge」や「Eat The Rich」、「Amazing」みたいなのがね。あと、タイミングも悪かった。「I Don't Want To Miss A Thing」がすぐ後に出て、そっちが爆発的にヒットしちゃったでしょ。その影響で印象が薄らいだってのもあるよね、残念ながら‥‥だからなのか、このアルバムからシングルカットされた楽曲ってバラードタイプばかりで、ロック色の強い曲ってリカットされてないんですよね。その辺りが、従来のエアロを愛するファンから敬遠された理由なのかもしれません。ま、シングル云々は蛇足ですけどね。

個人的にもこのアルバム、そんなに好きな作品ではなかったんですが‥‥改めて聴いてみたら、意外といいと思えたんですよ。少なくとも、リリース当時よりも好きですよ。でね、俺はこう解釈します。前作「GET A GRIP」リリース時のインタビューで、スティーヴンは「これこそエアロ版『SGT.PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND』だ!」と発言してるんですよ。というのを受けて‥‥俺はこの『NINE LIVES』を「エアロ版『MAGICAL MYSTERY TOUR』」と呼びたいと思います。じゃあ『JUST PUSH PLAY』は『ホワイト・アルバム』か!?と突っ込まれそうですが‥‥とにかく『GET A GRIP』から『JUST PUSH PLAY』の3枚は、一直線上に並ぶ作品だという事実だけは、間違いないと思います。



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投稿: 2004 01 19 12:00 午前 [1997年の作品, Aerosmith] | 固定リンク