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2004/03/08

DAVID BOWIE『'hours…’』(1999)

'90年代の、いや、'80年代後半からのデヴィッド・ボウイは、とことんツイてなかったと思う。'80年代前半、特にアルバム「LET'S DANCE」とそのツアー、映画「戦場のメリークリスマス」での成功がもたらしたもの、それはボウイをスーパースターの座に押し上げたのと同時に、'70年代に自分がしてきたことと対峙すること、そして新しい「ボウイ像」を作り上げる為の葛藤との戦いだったように思います。「TONIGHT」や「NEVER LET ME DOWN」といったアルバムが思った以上のセールスを挙げられなかったこと、TIN MACHINEというロックバンドを組んで初期衝動を取り戻そうとしたものの短命だったこと、新しいレーベルに移籍して「BLACK TIE WHITE NOISE」というアルバムをリリースするもののレーベルが倒産してしまったこと、「OUTSIDE」や「EARTHLING」という「攻め」の作品を発表したものの古くからのファンには好意的に受け入れられなかったこと、等々。そして映画の世界でも大成功を収めるような作品には巡り会えず、とにかく「自分vs自分」というあり得ない戦いを10年以上に渡って繰り広げてきたのでした。

しかし、時代が彼に再び傾き始めます。「ヴェルヴェット・ゴールドマイン」という'70年代のグラムロックをテーマにしたセミ・ドキュメンタリー映画にボウイの楽曲を使わせて欲しいという依頼があったのです。この映画は明らかに'70年代前半のボウイとイギー・ポップのことを題材にした映画でした(その映画タイトルからしてモロですしね)。が、ボウイはこれを拒否しました。自身が過去の自分を切り売り(=過去の作品のリイシューや度重なるベスト盤の連発)する分にはいい、けど他人がそれを食い物にするのは断固として拒否する‥‥真実はどうだったのか判りませんが、とにかくこの映画にボウイの楽曲が使われることはありませんでした。

その映画が公開された頃、ボウイはこの「'hours...'」という作品作りに没頭していたようです。一部では「トニー・ヴィスコンティ(初期ボウイの作品を手掛けた名プロデューサー)がプロデュースする」「「HUNKY DORY」の頃のような作品になる」といった噂が出回り、かなり期待されていたこの作品、いざ世に出てみると一部噂とは違っていたものの、ある意味期待以上のアルバムだったのでした。

とはいっても俺、このアルバムをちゃんと聴いたの、つい最近なんですよ‥‥自称「ボウイ大好き」なくせに‥‥どうにも印象が薄かったんですよね、当時聴いたシングル曲が(多分 "Survive" だったのかな。よく覚えてないや)メチャクチャ地味で、本当に記憶に残らないような曲で‥‥それまでの'90年代の作品集3枚が非常に個性的で、現役感であったり同時代性なんかをヒシヒシと感じる傑作だと個人的に思っていたので、この酷く地味なアルバムは「多分、駄作とまではいかないけど、評判悪いんだろうなぁ‥‥」と勝手に判断して、4年近く手にすることはありませんでした。つうかそもそも、その後彼の「新作」を手にするまで本当に4年以上もの歳月を要することになるんですが‥‥

'03年秋に「REALITY」という「新作」がリリースされ、また久し振りの来日公演もあるってことで、思い切って買ってみたらこれがかなり良くてビックリで。思わず「HEATHEN」とこの「'hours...'」を買い揃えちゃいましたからね。特にこの後者(このアルバム)なんて、近所の中古屋で50円で売られてた程でして‥‥まぁどんなに酷くても、50円なら許せるか、ボウイだしな‥‥って納得して。

ところがね、これが50円どころじゃないんですよ。ちゃんと定価相応の内容だったと。確かに1曲目 "Thursday's Child" の歌い出しでの、完全に枯れ切ったボウイの声にはちょっとショックを受けましたが(その後の作品が生き生きとしてるだけに、余計ね)、ここに収められている楽曲には合ってるんですよね、この感じが。

「'hours...'」という時間をテーマにしたタイトル、若き日のボウイが年老いたボウイを優しく抱きかかえているかのようなジャケット、別れや旅立ちといった「区切り」についての内容が多い楽曲達。かつて、何度も過去と決別しようとしたボウイ。今までのボウイはそれを皮肉っぽく、そして時には苛立ちながら実行してきたけど、このアルバムではそういった自虐さは感じられる、むしろそれを全面的に、体全体で受け止めようとしているような印象が強く、更に楽曲のタイプが前述の「HUNKY DORY」期‥‥グラム前夜‥‥を思わせるような作風のため、余計に温かみを感じるんですね。

当初はゲームのサントラとなるはずだった楽曲群が、作っていくうちにドンドンいい曲が出来上がっていったため、急遽オリジナルアルバムへと変更になった、というのがこのアルバム制作のいきさつらしく(実際、同時期にヴィスコンティとも仕事をしていたという話だし)、その割りには想像以上にオーガニックなサウンドで構成されているんだよね。中には前作までのテクノロジー路線を彷彿させる "The Pretty Things Are Going To Hell" なんて曲もあるんだけど、基本はミドルテンポでじっくりと歌を聴かすタイプがメイン。頭2曲("Thursday's Child" と "Something In The Air")が非常にムーディーでどことなくソウルフルな印象だったり、"Survive" や "Seven" といった楽曲ではアコースティックを基調としながらも力強くロックしているイメージがあったり、7分もある "If I'm Dreaming My Life" はムーディーなスタートを切りながらも途中でストレートなロックチューンへと展開していったり、"The Man Who Sold The World" を現代的にしたかのような "What's Really Happening?"、オリエンタルな雰囲気のインスト "Brilliant Adventure"、どことなく前作までのイメージを引きずってるかのようなストレートなロックチューン "The Dreamers" 等。全体的にストレートな印象が強くて、そこがイマイチって人が多いらしく、まぁ確かにこれまで‥‥特に前作までの作り込みを考えれば、ここにある楽曲はシンプル且つストレート、聴く人によってはそのまま聴き流してしまいそうな作風であるのも確か。けど、ここで自分を見つめ直したからこそ、続く「HEATHEN」や「REALITY」があるんだよな、とさえ思える今日この頃。いやいや、このアルバムは「'90年代のデヴィッド・ボウイ」を語る上で、なくてはならない1枚ですよ。むしろ、「OUTSIDE」や「EARTHLING」以上にね。

個人的には "Seven" という1曲のためだけに買っても損はしない1枚だと思ってます。歌詞のテーマといい、シンプルな構成といい、全体の雰囲気といい、全てが特別なものであり、聴く人によっては「最高に輝いている1曲」であり、またある人にとっては「あるアーティストの『本当の』死を実感させる1曲」なんだろうな、と‥‥残念ながら現在行われているツアーでは、このアルバムからは1曲も演奏されていないようですが‥‥それでいいんだと思います。多分、二度と演奏されることのない楽曲ばかりだと思いますが、だからこそ意味を持つんですからね‥‥



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投稿: 2004 03 08 07:35 午前 [1999年の作品, David Bowie] | 固定リンク