カテゴリー「2007年の作品」の61件の記事

2024年8月 9日 (金)

THE SMASHING PUMPKINS『ZEITGEIST』(2007)

2007年7月10日にリリースされたTHE SMASHING PUMPKINSの7thアルバム。日本盤は同年7月11日発売。

THE SMASHING PUMPKINSは2000年末に解散。メンバーのビリー・コーガン(Vo, G)とジミー・チェンバレン(Dr)は新バンドZWANを結成するも、アルバム1枚を残して2003年に解散。ジェイムズ・イハ(G, Vo)はソロ活動と並行してA PERFECT CIRCLEに加入(2004年に活動停止)。それぞれ停滞気味だったところ、2006年春にビリーがTHE SMASHING PUMPKINS再結成をアナウンス。オリジナルメンバーはビリーとジミーのみで、ほかのメンバーに関しては未発表のままアルバム制作に突入します。

アルバムリリース前の2007年5月、ついに新生THE SMASHING PUMPKINSは初ライブを実施。ここでステージに立ったのはビリー&ジミーのほか、ジェフ・シュローダー(G)、ジンジャー・レイエス(B)という布陣でした(このほか、サポートキーボーディストとしてリサ・ハリトンも参加)。しかし、そこから1ヶ月強を経て届けられた7年ぶりのアルバムのクレジットに目をやると、レコーディングはビリー&ジミーのみで制作されたことが明らかになります(ドラム以外のパートはすべてビリーが担当)。

バンドとの共同プロデューサーにロイ・トーマス・ベイカー(QUEENCHEAP TRICKオジー・オズボーンなど)とテリー・デイト(DEFTONESPANTERASOUNDGARDENなど)を迎えた本作。ジミーの派手なドラミングから始まるオープニングトラック「Doomsday Clock」や3連ビートが新鮮な先行シングル「Tarantula」など、アルバム前半はメタリックでダイナミックなハードロックチューンで固められています。ある意味では解散直前の『MACHINA: THE MACHINES OF GOD』(2000年)『MACHINA II: THE FRIENDS & ENEMIES OF MODERN MUSIC』(2000年)の延長線上にある作風と言えるでしょう。ただ、そのハード&ヘヴィ具合がよりプリミティヴなものへと昇華されている点が解散前とは大きく異なる。そこはバンドとして心機一転、再スタートを切るぞという意気込みにも感じられます。

そんな雰囲気が少々変わるのが、中盤に配置された約10分にもおよぶ大作「United States」から。トライバルなリズムをフィーチャーしたこの曲は聴き手に革命を促すような1曲で、本作のハイライトと言える重要なナンバーです。そこからグロッケンを取り入れたエモーショナルなロックチューン「Neverlost」、マイナーキーのパワーポップ的な「Bring The Light」、ゴシックロック調の「For God And Country」などの変化球を交えつつ、エレクトロとシンフォニックさを織り交ぜたスローナンバー「Pomp And Circumstance」で締めくくり。全12曲/50分強と彼らにしては比較的コンパクトにまとめられています。

アルバム後半にメランコリックな楽曲がいくつか用意されているものの、それでも印象に残るのはガッツのあるハードロックナンバーばかり。もちろんこれはこれで彼ららしくもあるのですが、やはりこのバンドはそこだけではないわけで。もっと繊細さだったり悲哀さだったりダークさだったり、そういったハードロックとの対比を生み出すようなテイストも重要なわけです。そこが足りないという意味で、バンドとして不完全と捉えるべきなのか、それとも新生スマパンはこういう形で進んでいくのか……どう受け取るかで、本作への評価は大きく変わる気がします。

決して悪いアルバムではないですし、2024年までの長い歴史の中で考えればこういうテイストのアルバムが1枚くらいあっても不思議じゃないわけですが、全キャリアの中でも印象が薄い作品に分類されてしまうのは仕方ないかな。だって、日本では本作のみサブスク配信されていないわけですから(本作やZWANのアルバム、ビリーの1stソロアルバムといった、Warnerから発表された作品群はすべて未配信のまま)。

 


▼THE SMASHING PUMPKINS『ZEITGEIST』
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2022年11月 6日 (日)

SEBASTIAN BACH『ANGEL DOWN』(2007)

2007年11月20日にリリースされたセバスチャン・バック(ex. SKID ROW)の1stオリジナルアルバム。日本盤は同年11月21日発売。

90年代後半にSKID ROWを解雇され、ソロ活動に移行したバズ。まず、日本限定でスタジオ録音の新曲を含むライブアルバム『BRING 'EM BACH ALIVE!』(1998年)を発表しますが、2000年以降は『ロッキ・ホラー・ショウ』『ジキル&ハイド』『ジーザス・クライスト・スーパースター』などのブロードウェイ・ミュージカルで活躍するという新たな活路を見出します。その間にも、カバーコンピ『BACH 2: BASICS』(2002年)やTHE LAST HARD MEN名義でのアルバムリリース、VELVET REVOLVERへの加入の噂などがありましたが、2006年にGUNS N' ROSESのライブに同行したのを機にHR/HMシーンへ本格復帰。このアルバム制作へと至るわけです。

プロデュースを手がけたのはロイ・Z(JUDAS PRIESTHALFORDブルース・ディッキンソンなど)。レコーディングにはロイ・Zと同じく当時HALFORDのメンバーだったマイク・クラシアク(G)とボビー・ジャーゾンベク(Dr/RIOT)も参加しており、ほかにもスティーヴ・ディジョルジオ(B/現TESTAMENT、ex. DEATHなど)やアクセル・ローズ(Vo/GUNS N' ROSES)といった面々も名を連ねています。アクセルの他アーティスト作品へのゲスト参加は非常にレアですよね。

楽曲の多くはバズがロイ・Zやバンドメンバーとともに書き下ろしたものですが、中にはAEROSMITH「Back In The Saddle」、マイク・クラシアクが当時在籍していたバンドPAINMUSEUMの「American Metalhead」「Live & Die」といったカバー曲も含まれています。音楽性的には、かつてバズが在籍していたSKID ROWの2ndアルバム『SLAVE TO THE GRIND』(1991年)や3rdアルバム『SUBHUMAN RACE』(1995年)あたり(特に後者かな)のヘヴィ路線に、2000年以降のニューメタル的テイストを散りばめたものが中心。オープニングを飾るタイトルトラック「Angel Down」なんてサウンド/歌唱スタイル含め、モロに2000年代のニューメタル/モダンメタルのそれですものね。そんな中に「You Don't Understand」というメロディアスな正統派HR/HMが突如飛び込んでくると、思わずギョッとしてしまいますが(いい曲なんだけど、本作のテイストを考えると浮いてしまっていて、非常に勿体ない)。

過小評価されすぎ、いや、むしろ否定的な声が多い『SUBHUMAN RACE』の路線をあのまま突き進めていたら、おそらくこうなっていたであろう……という楽曲の数々は、その当時のSKID ROWが展開していたスタイルと比較すると、実はこっちのほうが正しい未来だったのではないか……そう感じずにはいられないほど、バズが活き活きしているのが印象的。ただヘヴィ一辺倒ではなく、しっかりと泣きのバラード「By Your Side」「Falling Into You」も用意されており、『SLAVE TO THE GRIND』以降のSKID ROWが好きだったリスナーにこそ聴いてほしい内容かなと(ロイ・Zやその界隈がサポートしているという点では、「HALFORDの楽曲をバズが歌ったら」的シミュレート作とも言えますが)。

アクセルは意外にも3曲と多くの楽曲にフィーチャーされており、それぞれで“いかにも”な個性的ボーカルを披露しています。バズのハイテンションボーカルとの相性も抜群で、これが90年代前半に実現していたらもっと大きな話題になったのに……と思わずにはいられません(苦笑)。この時期のガンズは1999年の「Oh My God」を最後に新曲を発表しておらず、かの『CHINESE DEMOCRACY』(2008年)が発表されるのはこの1年後と考えると、ガンズファン的には期待を高めてくれる良いつなぎになったのではないでしょうか。

トータルバランスは次作以降には劣るものの、破壊力という点においては彼の作品中もっとも効力が強い1枚です。

 


▼SEBASTIAN BACH『ANGEL DOWN』
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2022年5月 7日 (土)

BLOC PARTY『A WEEKEND IN THE CITY』(2007)

2007年2月5日にリリースされたBLOC PARTYの2ndアルバム。日本盤は同年1月24日に先行発売。

全英3位まで上昇し、その年の『NME』誌年間アルバムランキング1位を獲得したデビューアルバム『SILENT ALARM』(2005年)から約2年ぶりの新作。1stアルバムは初期衝動性がそのまま形になったかのような焦燥感の強いポストパンクサウンドで好評を博しましたが、一部からは「ライブでは下手くそ」「一過性の流行りもの」などと揶揄されましたが、続くこの2作目では短期間で急成長したバンドの姿が最良の形で表現され、過去の下馬評を跳ね除け全英2位/全米12位というヒットにつなげます。

「Banquet」や「Helicopter」のようにストレートで疾走感の強いスタイルを極力抑え、手数の多いリズムパターンでダンサブルな要素を軸にすることで、ギターのフレージングなど細かな表現力が求められるようになった楽曲群は、このバンドの新たな可能性を導き出すことに成功。「Song For Clay (Disappear Here)」や「Hunting For Witches」、あるいは「I Still Remember」などといったナンバーではその要素がより強まることでデビュー作を敬遠していたリスナーにも広くアピールすることができました。

また、変幻自在なアレンジで惹きつける「Uniform」や、エレクトロ要素を全面に打ち出した「Flux」(当初はアルバム未収録でしたが、2007年11月のシングル発売を機にアルバムに追加収録)、浮遊感の強いスローナンバー「Srxt」など変化球も多数用意されており、聴き手をまったく飽きさせることのない表現の幅を見せつけてくれます。ぶっちゃけ、『SILENT ALARM』時代にライブを観て「単調だなあ」と感じた筆者のようなリスナーは、この色彩豊かな2作目を初めて聴いたときに「え、君らもうポストRADIOHEADの座に君臨しちゃうわけ?」とひっくり返ったこともよく覚えています。ちょっと進化のスピードが早すぎだよ。

アルバム同様、本作からは「The Prayer」(全英4位)、「I Still Remember」(同20位)、「Hunting For Witches」(同22位)、「Flux」(同8位)というヒットシングルも多数誕生。この好調ぶりは、早くも届けられることになる次作『INTIMACY』(2008年)でさらにピークを迎えることになります。

 


▼BLOC PARTY『A WEEKEND IN THE CITY』
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2022年5月 5日 (木)

HARDCORE SUPERSTAR『DREAMIN' IN A CASKET』(2007)

2007年11月12日にリリースされたHARDCORE SUPERSTARの6thアルバム。日本盤は同年11月21日発売。

起死回生のセルフタイトル作『HARDCORE SUPERSTAR』(2005年)からちょうど2年というスパンで届けられた新作。その成功をなぞるかのように、今作でもアッデ・ムーン(Dr)&マーティン・サンドヴィック(B)がプロデュースを手がけており、ハード&タフな前作を一歩推し進めたような硬質さの際立つ作風に仕上げられています。

本作に向けたリードシングル「Bastards」(アルバム未収録。ただし日本盤にはボーナストラックとして追加収録)で聴くことができた、『HARDCORE SUPERSTAR』でのバッドボーイズ・ロック路線をさらにメタリックに仕立てた作風はアルバム全編を通して貫かれており、タイトルトラックでのリフの刻み方含めシルヴァー(G)のギタリストとしての個性がこれまで以上に色濃く表れる結果に。結果、前作や初期のスリージーなハードロックを求める層には「あれ、ちょっと違う?」と不安を与えてしまうことになります。

しかし、このタフさも時間が経ってみれば改めてカッコいいと思えるもの。ここまでの6枚のアルバム、デビュー作『IT'S ONLY ROCK 'N' ROLL』(1998年)は次作での焼き直しも多いから除外するとして、特に2ndアルバム『BAD SNEAKERS AND A PINA COLADA』(2000年)以降はどれひとつとして同じようなアルバムがないのも初期のHCSSの特徴ではないでしょうか。そこに関しては僕自身もポジティブに受け入れています。

ただ、そんな今作ですが「これ!」と誰もが認めるキメ曲やキラーチューンが存在しないのが唯一の欠点。どれも平均点は超えているものの、全体をと通してトーンが似通ってしまっていること、楽曲のテイストも統一感が強すぎて変化に乏しいことは次作への課題といったところかな。ただ、残念ながら本作を最後にシルヴァーが脱退。以降のツアーサポートを務めたヴィック・ジーノ(G/当時CRAZY LIXX)が正式加入することで、バンドとして第2期に突入することになります。

 


▼HARDCORE SUPERSTAR『DREAMIN' IN A CASKET』
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2022年3月 3日 (木)

SCORPIONS『HUMANITY: HOUR I』(2007)

ヨーロッパで2007年5月14日、北米では同年8月28日にリリースされたSCORPIONSの16thアルバム。日本盤は『蠍団の警鐘 - ヒューマニティー:アワーI』の邦題で、同年6月20日発売。

前作『UNBREAKABLE』(2004年)でHR/HM路線へと回帰したものの、チャート的には成功したとは言い難かったSCORPIONS(前々作『EYE II EYE』(1999年)から2作連続でBillboardアルバムチャートランク外)。しかし、さらにハード路線を極めた今作では全米63位と、『PURE INSTINCT』(1996年)の最高99位以来となる全米チャート入りを成し遂げます。

新たなプロデューサーとしてデスモンド・チャイルドBON JOVIAEROSMITHKISSなどとのコライトで有名)&ジェイムズ・マイケル(SIXX:A.M.のフロントマン。およびPAPA ROACH、HAMMERFALLなどのプロデューサー)を迎えた本作は、前作以上に往年の“らしさ”をメロディやアレンジに取り戻しつつ、モダンなヘヴィさも効果的に取り入れた意欲作。また、ビリー・コーガン(Vo/SMASHING PUMPKINS)が「The Cross」、エリック・バジリアン(G/THE HOOTERSなど)が「Love Will Keep Us Alive」、ジョン・5(G/ROB ZOMBIEなど)が「Hour I」にゲスト参加しているのも、このプロデューサーならではの人選かもしれません。

実は本作、バンドにとってキャリア初のコンセプトアルバム。デズモンド・チャイルドが大まかなストーリーを草案し、楽曲制作が進められたとのこと。ソングライターとしても著名な2人をプロデューサーに迎えたこともあり、彼らは作曲でも全面的に関与。それ以外にもマーティ・フレドリクセン、アンドレアス・カールソンなど人気のソングライターがコライトで名を連ねており、ある意味では外部のライターたちがバンドに“らしさ”を思い出させていると受け取ることもできるのではないでしょうか。その効果は非常に絶大で、80年代のSCORPIONSらしいメロディラインやアレンジを随所から見つけることができます。

一方で、前作から引き続きダウンチューニングを起用していることで、そのダークさが本作が持つヘヴィさを強めることに一役買っている。「The Game Of Life」や「You're Lovin' Me To Death」での程よいメロウ&ヘヴィさはその好例だと断言できます。

かと思えば、過去数作でトライしたビートルズQUEENの流れを汲む壮大なバラード「The Future Never Dies」があったり、グランジ以降のモダンヘヴィネスをなぜか2007年に取り入れた(笑)「321」もある。後半、バラードタイプの楽曲が立て続けに収録されており(「Love Will Keep Us Alive」「We Will Rise Again」「Your Last Song」「Love Is War」)、そこで若干萎えてしまいますが、ミドルパートでビリー・コーガンをフィーチャーしたメロウなヘヴィロック「The Cross」やグランジ寄りのリフワークが印象的なアンセムナンバー「Humanity」がラストに置かれているので、アルバムとしてもなんとなく締まる印象を受けます。

ヘヴィながらもソフトさもしっかり感じられるのは、全体を通してデヴィッド・キャンベルによるオーケストレーションが効果的にフィーチャーされているからでしょうか。ドラマチックなヘヴィロックという点ではSCORPIONSの全キャリア中、本作がもっともバランス感に優れているように感じます。バンドとしてもようやく過渡期を抜け出しそうな予感も伝わり、これが次作『STING IN THE TAIL』(2010年)での完全復活へとつながっていくと思うと、本作も非常に意味の大きな1枚ではないでしょうか。

 


▼SCORPIONS『HUMANITY: HOUR I』
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2021年11月24日 (水)

QUEEN『QUEEN ROCK MONTREAL』(2007)

2007年10月29日にリリースされたQUEENのライブアルバム。日本盤は同年10月31日発売。

フレディ・マーキュリー(Vo)没後、さまざまな未発表音源が公式リリースされてきましたが、本作もそのひとつ。全英&全米1位を獲得した8thアルバム『THE GAME』(1980年)を携えたワールドツアーから、1981年11月24&25日にカナダ・モントリオールにて行われたファイナル公演のもようを収めたもので、もともとライブ映画『WE WILL ROCK YOU』として1982年に公開されたものに、映画ではカットされた「Flash」「The Hero」を追加した完全版。ライブアルバムと同時に、同タイトルの映像作品も発売されています。

フレディがこの世を去る(1991年11月24日)ちょうど10年前の録音という、非常に意味深い内容でもありますが、初めてイギリスとアメリカで同時に1位を獲得した、ある意味で第二の全盛期を迎え油の乗ったタイミングの録音でもあるので、筆者のようにフレディを含むQUEENを一度も生で目にすることができなかった世代や後追いファンにとっても貴重な作品と言えるでしょう。

名ライブアルバム『LIVE KILLERS』(1979年)同様、「We Will Rock You」のファストバージョンからスタートし、そのまま「Let Me Entertain You」へと続く構成は興奮ものですし、そこから「Play The Game」「Somebody To Love」と新旧の名ピアノバラードを連発する流れも圧倒的。特に後者は後半で聴けるフレディのアドリブやフェイク、そこに絡んでいくブライアン・メイ(G, Vo)のギタープレイなど聴きどころも多く、数ある同曲のライブテイクの中でも出色の出来ではないでしょうか(曲終わりにブライアンが「Under Pressure」のイントロを弾き始めると大歓声が湧くあたりもポイントでは)。

中盤の聴きどころは、「Now I'm Here」の中間にフィーチャーされた「Dragon Attack」かな。まあ中間というか「Now I'm Here」終盤にそのまま「Dragon Attack」へとなだれ込んでいき、「Dragon Attack」のエンディングでフレディのボーカルエフェクト&ブライアンのギターを挿入しつつ再び「Now I'm Here」に戻っていくという、ライブならではのアレンジなんですけどね。「Now I'm Here」はよくこういう使われ方するので、「Dragon Attack」とのドッキングはこの時期ならではと言えるでしょう。

後半に入ると、ようやく「Under Pressure」がちゃんと披露されるのですが、ベースリフが鳴り響いた瞬間の歓声もヒット直後のこの時期ならでは。そしてブライアンのギターソロから「Flash」「The Hero:へと続く構成も、この時期じゃないと聴けない貴重なもの。そこから大ヒット曲「Crazy Little Thing Called Love」からエルヴィル・プレスリー「Jailhouse Rock」へと続けるお遊び、「Boheian Rhapsody」よりもあとに「Another One Bites The Dust」が置かれているのも1981年という時代ならでは。こうやって代表曲の置き場所の違いによって、その時期のバンドの様子が窺えるのは面白いものですね。

『LIVE AT WEMBLEY '86』(1992年)のように歴史的ライブを収めた作品とは異なる、数あるツアーの断片ではありますが、こうした作品が複数存在するのはファンにはありがたい限り。ストリーミングサービスを通じて気軽に聴くことができるライブアルバムはもちろんですが、ぜひ映像版(1985年の『LIVE AID』映像も追加収録)も併せて楽しんでほしいですし、中でも映画『ボヘミアン・プソディ』を観た方には絶対に刺さる作品だと思いますので。

 


▼QUEEN『QUEEN ROCK MONTREAL』
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2020年10月15日 (木)

CAVALERA CONSPIRACY『INFLIKTED』(2007)

2007年3月25日にリリースされたCAVALERA CONSPIRACYの1stアルバム。日本盤は同年3月19日に先行発売されています。

その名前からもわかるように、CAVALERA CONSPIRACYはマックス・カヴァレラ(Vo, G/SOULFLYKILLER BE KILLEDNAILBOMB、ex. SEPULTURA)が実弟イゴール・カヴァレラ(Dr/ex. SEPULTURA)と結成した新バンド。名盤『ROOTS』(1996年)を携えたツアーを経てSEPULTURAを脱退したマックスと、以後ほぼ交流のなかったイゴールでしたが、10年ぶりの再会を機に不和が解消され、カヴァレラ姓を冠した新たなサイドプロジェクトが立ち上げられることになります。

当時のレコーディングメンバーはカヴァレラ兄弟のほかSOULFLYでマックスと活動をともにするマーク・リゾ(G)と、フランスのGOJIRAからフロントマンであるジョー・デュプランティエ(B, Vo)が参加。アルバムのプロデュースはマックスと、初期SOULFLYや初期MACHINE HEADのメンバーでもあったローガン・メイダーが担当しており、スラッシュメタル色の強いグルーヴメタルをマックスらしいカラーでまとめあげています。

カヴァレラ兄弟がタッグを組むことで、初期SEPULTURAのスラッシュ/デスメタル路線か、『ROOTS』期やSOULFLYで展開する民族音楽をフィーチャーしたモダンメタル路線のどちらに進むのかが気になりましたが、結果としてはそのどちらでもない、「『ROOTS』期のSEPULTURAやSOULFLYから民族音楽色を排除した、スラッシーなグルーヴメタル」というのが正解でした。

本作を最初に聴いたときは、若干NAILBOMBにも近いかな?と感じたりもしましたが、今聴くとあそこまでの直線的な演奏でもないですし、むしろNAILBOMBの色はインダストリアル調の味付け(「Inflikted」の冒頭など)にとどまるのみ。それよりは、『CHAOS A.D.』(1993年)や『ROOTS』からスラッシーでストレートな楽曲を抜き取り、かつSOULFLYでのグルーヴィーな楽曲からラテンテイストを排除したものをミックスなのかなという気がします。マーク・リゾがソロを弾いている時点でSOULFLYっぽさがにじみ出てしまうものの、イゴールの手数が多い“らしい”プレイやフレーズを織り交ぜることでSOULFLYとの差別化はなんとかできていると思います。

とはいえ、マックスがこのデス声で歌ってしまえば、どれもこれもSEPULTURA的でありSOULFLY的になってしまうんですけどね。こればかりは仕方ない。クセが強いから(「The Doom Of All Fires」の序盤は意外性ありましたけどね)。ただ、「Black Ark」「Ultra-Violent」の2曲にはジョーのボーカリもフィーチャーされているので、一瞬ですがハッとされるかも。もっとフィーチャーしてもよかったのに。

また、本作にはマックスの継子リッチー・カヴァレラやレックス・ブラウン(B/ex. PANTERA)がゲスト参加。とはいえ、それぞれ1曲ずつなので、そこまで大きな話題でもないかな。そもそも、カヴァレラ兄弟の和解という巨大なテーマがある1枚ですからね。

なお、CAVALERA CONSPIRACYは本作以降もコンスタントに活動を継続。2017年までにアルバムを4枚残しており、現在はマックス&イゴール、マークの3人にサポートベーシストという布陣のようです(ジョー脱退後、CONVERGEのネイト・ニュートンが在籍したこともありました)。

 


▼CAVALERA CONSPIRACY『INFLIKTED』
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2020年7月19日 (日)

NINE INCH NAILS『YEAR ZERO』(2007)

2007年4月にリリースされたNINE INCH NAILS通算5作目のオリジナルアルバム。

前作『WITH TEETH』(2005年)が約6年ぶりのオリジナルアルバムだったこともあり、この『YEAR ZERO』までの2年というインターバルはNINE INCH NAILSにとって非常に短いもので、当時かなり驚かされた記憶があります(その驚きは、続く『GHOST I-IV』や『THE SLIP』でさらに更新されるのですが)。全米1位を獲得した『WITH TEETH』からの流れで、今作も最高2位という好記録を樹立しています。

作風としては、前作『WITH TEETH』が生音を軸に“インダストリアル・ロックバンドNINE INCH NAILS”を表現したものだとするならば、今作は“トレント・レズナーのインダストリアル・ユニットNINE INCH NAILS”をより濃く表したものかなと。事実、ジョシュ・フリース(Dr)による生ドラムによるトラックは2曲のみで、それ以外は打ち込み主体の、良い意味で初期NINを彷彿とさせる楽曲ばかり。もっと言えばデビューアルバム『PRETTY HATE MACHINE』(1989年)を約20年後に、最新の技術を用いて焼き直した、そんな印象すら受けます。

言い方は正しくないかもしれませんが、前作を「ロックバンドとしての初期衝動を、大人になったトレント・レズナーなりの表現で手堅くまとめた」ものだとしたら、今回は「アーティストとしての初期衝動を、大人になったトレントが今の知識・技術を用いて手堅くまとめた」……そう受け取ることはできないでしょうか。

「手堅く」と書くと、ちょっとネガティブに受け取られるかもしれませんが、これはもちろん褒め言葉。アーティスティックな側面は前作よりも本作のほうが色濃く表れているものの、しっかり「プロダクツ」としての完成度も考えられている。そのへんを「手堅く」と言い表したのですが……理解していただけますか?

ぶっちゃけ、NINE INCH NAILSとしてやるべきこと、やりたいことって90年代のうちに(1999年発売の大作『THE FRAGILE』で)やり尽くしてしまったわけで、そこを踏まえて『WITH TEETH』や『YEAR ZERO』を聴くと改めて“NINの再生”というテーマが見えてくる……のではないでしょうか。その“再生”が果たしてうまくいったのか、失敗だったのかはわかりません。しかし、新しい“何か”を見つけることができなかったから、この数年後にトレントはNINとしての活動を一度止めることになるわけでして。

とはいいつつ、本作にはブラックミュージックからの影響も見え隠れする。ファンクというよりはヒップホップ以降のリズム感が、エレクトロニック・ボディ・ミュージック(EBM)とミックスすることで生まれる、歪なインダストリアル感……そこに関しては、ひとつ新たな発見や成長を得られたのかな。NINがここで終わらずにもう数年延命したのは、そういった影響も少なくないと思います。

終始安心して楽しめる1枚だけど、作り手としてはそういう作品は求めていなかったのかな。個人的には先の『WITH TEETH』とあわせて二部作的なポジションで楽しむべき、NINの集大成的1枚だと思っています。

 


▼NINE INCH NAILS『YEAR ZERO』
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2020年7月10日 (金)

LED ZEPPELIN『THE SONG REMAINS THE SAME』(1976/2007)

1976年10月にリリースされたLED ZEPPELIN初のライブアルバム。

同作はアルバム発売と同タイミングに劇場公開された映画『レッド・ツェッペリン狂熱のライヴ(THE SONG REMAINS THE SAME)』のサウンドトラック的立ち位置の2枚組作品で、1976年3月発売の7thアルバム『PRESENCE』から約半年という短いスパンでリリースされたにも関わらず同作以上の売り上げを記録しました(全英1位、全米2位)。

映画のほうは1973年7月末に行われたマディソン・スクエア・ガーデンでのライブ映像を軸に、メンバー4人のイメージ映像などがフィーチャーされたサイケデリックさを併せ持つ内容。80年代前半にVHSにて販売され、当時は唯一手に入れることができる「ツェッペリンの公式ライブ映像」としてかなり重宝しました。と同時に、このライブアルバムもスタジオワークとは異なる、生々しい演奏と歌を味わうことができるという点で、オリジナルアルバム以上にリピートしたというリスナーも少なくなかったと思います(筆者も含む)。

サントラとはいえ、収録曲の曲順は映画の流れに沿ったものではなく、中には映画で使用されていない「Celebration Day」も含まれている。かつ、映画にはアルバムには未収録の「Black Dog」「Since I've Been Loving You」「Heartbreaker」も(フルではないものの)収録されている。つまり、どちらも実際のライブをフル収録したものではないことが伺えます。とはいえ、1973年当時(時期的には5thアルバム『HOUSES OF THE HOLEY』リリース後)のベスト選曲的なライブ音源を楽しむことができるし(選曲は5枚目に偏ってますけどね)、なによりも「弾けているようで弾けていないジミー・ペイジ」や「どんどん高音域が出なくなっているため初期の楽曲をうまくごまかしながら歌うロバート・プラント」「ライブでキーボード主体の曲を演奏するときは、ベースはフットペダルで対応するジョン・ポール・ジョーンズ」「どんなときでもすごいジョン・ボーナム」という奇跡の4人(笑)の実力を思う存分堪能できるので、90年代半ばまではかなり重要な作品だったと言えます。

それこそ、よく言われる「ライブだとインプロヴィゼーションが加わり、1曲の長さがどんどん延びていく」という現象も「Dazed And Confused」や「Moby Dick」「Whole Lotta Love」で存分に理解できるはず。「Dazed And Confused」なんて27分にもおよぶ熱演で(それでも編集されて若干短くなっているわけですが)、アナログ盤では片面で1曲使うほどでしたからね(笑)。

さて、そんな本作ですが、2007年11月にはリリース30周年を記念したリミックス/リマスター/再編集盤を発表。こちらは映画でのみ聴くことができた3曲のフルバージョンと、2003年発売のDVD『LED ZEPPELIN DVD』で初公開された「Misty Mountain Hop」「The Ocean」と、これまで未公開だった「Over The Hills And Far Away」の6曲が追加された全15曲入り作品としてリパッケージされたもので、2020年現在流通しているのはこちらのバージョンとなります。つまり、旧オリジナルバージョンは現時点では廃盤状態というわけです(まあ中古で簡単に手に入りますけどね)。

リマスタリングされたのは非常にありがたいのですが、ペイジお得意のリミックス(音の足し引き・編集)が随所に発揮されており、「Dazed And Confused」のように30分近くにまで引き延ばされた(実際の演奏に近づけた)ものもあれば、「No Quarter」や「Moby Dick」「Whole Lotta Love」みたいにオリジナル盤から1〜2分ほど短く編集されたものもあるので、オリジナル盤を数十年にわたり聴きまくった耳には違和感が残ります(それ以上に、リミックスによる違和感が大きいわけですが)。

さらに、オリジナル盤に未収録だった6曲が加わったことで、曲順も再構成。もともとは序盤に収められていた「The Rain Song」や「Dazed And Confused」が終盤に置かれているなどの変化に、リマスター盤発売から13年経った今も追いつけていません(苦笑)。そりゃあ一長一短ありますわな。

現在各種ストリーミングサービスで聴くことができるのは、この2007年バージョンのほうのみ。なので、このバージョンから触れたというリスナーには逆に1976年盤は耳馴染みの悪い内容なんでしょうね。まあ、あれです。要は両方聴いてくれと。今でこそ公式リリースされたライブCDや映像作品が複数存在しますが、活動現役期間は本作しかなかったわけですから。バンドが意図してリリースした、唯一のライブ作品としていろんな楽しみ方をしてみては如何でしょう。

 


▼LED ZEPPELIN『THE SONG REMAINS THE SAME』
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2019年11月23日 (土)

POISON『POISON'D!』(2007)

2007年6月にリリースされた、POISONのカバーアルバム。スタジオ作品としては本作が、現時点での最新アルバムとなります(残念ながら、現在まで日本盤リリースはなし)。

1996年にC.C.デヴィル(G, Vo)がバンドに復帰し、新録5曲を含むライブアルバム『POWER TO THE PEOPLE』(2000年)、オリジナルアルバム『HOLLYWEIRD』(2002年)をそれぞれインディーズレーベルから発表。ライブ活動を精力的に続けることで動員を伸ばし続け、2006年にはデビュー20周年を記念した新録曲「We're An American Band」(GRAND FUNK RAILROADのカバー)を含むベストアルバム『THE BEST OF POISON: 20 YEARS OF ROCK』をリリースして全米17位という好記録を残しています。

そんな好状況を受け、先のベストアルバムから立て続けに制作されたのが本作。全13曲(デジタル盤のみ14曲)すべてが新録とはいかず、5曲(KISS「Rock And Roll All Nite」、THE WHO「Squeeze Box」、ジム・クロウチ「You Don't Mess Around with Jim」、LOGGINS AND MESSINA「Your Mama Don't Dance」、そして先の「We're An American Band」)が既発テイクとなりました。なので、カバー・コンピレーションという呼び方が正しいのかもしれませんね。

新録はデジタル盤のみ収録のジャスティン・ティンバーレイク「SexyBack」を含む全9曲。SWEET、デヴィッド・ボウイアリス・クーパー、TOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS、THE MARSHALL TUCKER BAND、THE ROMANTICS、THE ROLLING STONESTHE CARSと、2000年代のジャスティンの除けばすべて70年代の楽曲(THE ROMANTICSのみ1980年とギリですが)。つまり、POISONというバンドのルーツナンバー/アーティストということになるのでしょうね。既発の5強もすべて70年代前半の楽曲ですし、そういう意味ではトータル性の高い選曲だと思います。

POISONらしいという点においてはボウイやアリス・クーパー、SWEETといったグラマラスなバンドの存在が挙げられるでしょう。既発のKISS含め、これらのアーティストはバンドのパブリックイメージまんまなので、選曲含めまあ納得かな。

TOM PETTY AND THE HEARTBREAKERSやTHE MARSHALL TUCKER BAND、あるいはジム・クロウチやLOGGINS AND MESSINAはバンドのフォーキーでソウルフルなパートを担っていると捉えることができるでしょう。特に、本作における「Can't You See」は3rdアルバム『FLESH & BLOOD』(1990年)や4thアルバム『NATIVE TONGUE』(1993年)での路線に通ずるものがありますしね。

意外性という点においては、THE ROMANTICSやTHE CARSの存在が挙げられるのではないでしょうか。ニューウェイヴ流れのバンドですが、バブルガム・ポップ的立ち位置で考えると、実は意外とPOISONとの親和性も高い気がしますし。あ、ストーンズやTHE WHOはとりあえずやっておかないと、くらいのポジションでいいんじゃないでしょうか(笑)。

で、本作における最大の聴きどころって実はボーナストラック的立ち位置の「SexyBack」なんですよね。この曲の出来が非常に素晴らしくて、僕はリリース当時よくこの曲を自分のDJ時に使用したものです。思えばPOISONってHR/HMがラウド&ヘヴィやインダストリアル勢に押しつぶされそうになった時期も、一貫として自身のスタイルを崩さなかった珍しい存在なんですよ。そんな彼らが、いわゆるモダンなサウンドと融合したときどうなるのか……その答えがこの1曲に込められているような気がするんです。POISONらしさは皆無かもしれませんが(笑)、僕はこのカバー大好きなんですよね。

さて。そんなPOISONは本作以降、新曲や新録曲を一切発表していません。ブレット・マイケルズ(Vo)はソロ作を発表しているのですが……もはやバンドは集金ツアーのために必要不可欠な存在に成り下がってしまったのかな。それはそれでいいんだけど……1曲くらいは。ね?

 


▼POISON『POISON'D!』
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