THE SMASHING PUMPKINS『OCEANIA』(2012)
2012年6月19日にリリースされたTHE SMASHING PUMPKINSの8thアルバム。日本盤は『オセアニア〜海洋の彼方』の邦題で同年6月20日発売。
再結成後初のアルバムとなる『ZEITGEIST』(2007年)から約5年ぶりの新作。この5年の間には、ビリー・コーガン(Vo, G)が今後スマパンのとして新作を発表することはないと発言したり(2008年)、ジミー・チェンバレン(Dr)が再脱退したり(2009年)、再始動後初の来日公演およびサマソニに出演したり(2010年)といろいろ動きはありました。また、新曲に関しても2008年には『AMERICAN GOTHIC』と題した4曲入りEPを配信し、2010年には『TEARGARDEN BY KALEIDYSCOPE』と銘打った新曲プロジェクトを始動させるなど、いろいろありながらも精力的に動き続けていました。
この8枚目のオリジナルアルバムは、先の『TEARGARDEN BY KALEIDYSCOPE』プロジェクトから生まれたもの。当初、このプロジェクトは44曲入りのコンセプトアルバムを予定していましたが、先に2つのEPを発表したのちに、「コンセプトアルバム内アルバム」としてこの『OCEANIA』を単独作品として世に送り出すことになります。
レコーディングにはビリーに加え、前作のツアーからバンドに加わったジェフ・シュローダー(G)のほか、ニコール・フィオレンティーノ(B/ex. VERUCA SALT)、マイク・バーン(Dr)が参加。プロデューサーには『ADORE』(1998年)からスマパンのレコーディングに携わり、ZWANやビリーのソロアルバムにも共同プロデューサーとして名を連ねてきたビョルン・トルスルードを迎えて制作されています。
ジミーのダイナミックなドラミングを軸に、豪快なハードロック色で統一された前作『ZEITGEIST』から一転、今作では90年代の“あの”スマパンらしさが復調。とはいえ、単なる焼き直しというわけではなく、“あの頃”から20年経って立派な大人に成長したビリーが、今を生きる若者たちを一緒に音楽を一から作り上げるのだから、似て非なるものになるのは当たり前。方向性としての原点回帰かもしれないけど、そこで鳴らされている音や奏でられるメロディに関しては完全に2010年代のそれではないでしょうか。
前作も“新生スマパン”としては決して悪くなかった。だけど、良くも悪くも90年代の影を引きずっており、完全に2000年代のノリに合流できていなかったことでちぐはぐさが生じてしまった(と、個人的には感じている)。それ自体は正直悪いことではないんだけど、なんだかこちら側もうまくノリきれない。その点で、今作は正真正銘“新生スマパン”として、文字通り“新たな生きもの”としてすべてが有機的に機能している。力みすぎていないし、かといってユルすぎもしない。それが懐かしさと新鮮さ、聴きやすさといういろんな効用を発揮させてくれるのです。
もしかしたら、前作と今作を並列させることで初めて“新生スマパン”が完成するのでは……バランスという点では、それが一番正しいのかもしれません。5年というタイムラグはあるものの、実は復活後のスマパンを正当に評価する上では、『ZEITGEIST』と『OCEANIA』は対で語るべき作品集なのでしょうか(これもつい最近気づいたことなんですけどね)。
過去に縛られていない、かと言ってスマパン以外の何者でもなく、ビリーのソロといわけでもない。バンドとして正真正銘の再スタートを切ることに成功した、奇跡の1枚。この流れが以降も続けばよかったんですが、こうした瑞々しい輝きは本作を最後にしばらく途絶えることとなります。1曲1曲がこれこれこうと語るよりも、アルバム1枚をひとつの塊として捉え、堪能してほしい傑作です。
▼THE SMASHING PUMPKINS『OCEANIA』
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