CARCASS『SURGICAL STEEL』(2013)、『SURGICAL REMISSION / SURPLUS STEEL』(2014)
『SURGICAL STEEL』は2013年9月13日にリリースされたCARCASSの6thアルバム。日本盤は同年9月4日発売。
2007年にジェフ・ウォーカー(Vo, B)、ビル・スティアー(G, Vo)にマイケル・アモット(G)、体調面を考慮して不参加となったケン・オーウェーンに代わりARCH ENEMYのダニエル・アーランドソン(Dr)という布陣で再結成ツアーを行ったCARCASS。2012年にはマイケル、ダニエルがバンドを離れ、ジェフとビルは新作制作を前提として活動を継続します。
その後、現在までバンドに在籍するダニエル・ワイルディング(Dr)が正式加入。この3人で『SWANSONG』(1996年)以来17年ぶりとなるアルバム制作に臨みます。プロデューサーには名盤『HEARTWORK』(1993年)や『SWANSONG』を手掛けたコリン・リチャードソン(FEAR FACTORY、NAPALM DEATH、BULLET FOR MY VALENTINEなど)が担当したことからもわかるように、グラインドコアを通過した初期メロディックデスメタルやスラッシュメタル的テイストのアルバムが完成。そこに、ミックスでアンディ・スニープ(OPETH、KILLSWITCH ENGAGE、TESTAMENTなど)が加わることにより、単なる原点回帰では終わらないモダンさも随所で感じられる1枚へと到達します。
『SURGICAL STEEL』というタイトルが、JUDAS PRIESTにおける『BRITISH STEEL』(1980年) のオマージュだという話もありましたが、そういった点からも彼らがこの復活作で「90年代以降のブリティッシュメタル/エクストリームメタル」を現代によみがえらせようとした……そう解釈できる音ではないでしょうか。アルバム冒頭を飾るアンセミックなインスト「1985」もどこか往年のヘヴィメタル的な空気感があり、ちょっと及び腰になってしまいますが、そこから唐突に雪崩れ込む「Thrasher's Abattoir」の残虐さに一安心(笑)。以降も(レコーディングではビルひとりですべてのギターパートを録音したものの)このバンドらしさ満点のツインリードギター&リフが随所に用意され、曲が切り替わるたびに思わずガッツポーズしたくなるほどの高揚感を味わえます。
復活作としては文句なしの仕上がりで、軽く平均点越えの内容だと思うのですが、CARCASSというエクストリームな存在にとってはいささかお行儀が良すぎるような印象も。1枚のヘヴィメタルアルバムとしては100点に近いクオリティですが、ことエクストリームの観点で接すると「もう一声」という本音も漏れてきます。
とはいえ、ライブで聴くと文句なしの高揚感が味わえるので、そういった意味では「ライブで化ける」曲たちが並んだ良作なのかもしれませんね。
▼CARCASS『SURGICAL STEEL』
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その後、『SURGICAL STEEL』に収録されなかったアウトテイク(日本盤および海外諸国でのデラックス盤に追加されたボーナストラックを含む)で構成されたEP『SURGICAL REMISSION / SURPLUS STEEL』が2014年11月10日にリリースされます。日本盤未発売。
新たなツアーを行うために海外で発売された本作は、『SURGICAL STEEL』セッションから生まれた全5曲を収録。『SURGICAL STEEL』日本盤に追加収録された「A Wraith In The Apparatus」「Intensive Battery Brooding」といった耳馴染みの強い曲のほか、完全未発表の「Zochrot」「Livestock Marketplace」、『SURGICAL STEEL』冒頭を飾ったインスト「1985」のリプライズ・バージョンという『SURGICAL STEEL』との関連性の強さを感じさせる作品となっています。
「A Wraith In The Apparatus」「Intensive Battery Brooding」はスピード感よりも重さ重視したテイストで、アルバム本編と比べたらインパクトは若干弱め。ただ、「Intensive Battery Brooding」は終盤にアップテンポにギアチェンジするアレンジがカッコいいので、これはこれでアリ。
「Zochrot」も前2曲の延長線上にある作風ですが、仕上がり的にはアルバムに入っていても不思議じゃないレベル。アルバムに含まれていたら、よいフックになっていたかもしれません。「Livestock Marketplace」は『HEARTWORK』期のCARCASSというよりも『SWANSONG』期に近い内容で、ビルのカラーが強く表出した1曲ではないでしょうか。これもフックとしては十分な役目を果たしてくれそうな良曲です。
▼CARCASS『SURGICAL REMISSION / SURPLUS STEEL』
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そして、これら2枚の作品を1枚のCDにまとめたのが、2015年10月30日にリリースされた『SURGICAL STEEL (COMPLETE EDITION)』です。日本盤は海外に先駆けて、同年10月7日発売。
当初はEP『SURGICAL REMISSION / SURPLUS STEEL』が日本盤未発売だったことを受け、『SURGICAL STEEL』日本盤に未収録だった『SURGICAL REMISSION / SURPLUS STEEL』からの3曲を追加する「『SURGICAL STEEL』ワークス完全版」として『LOUD PARK 15』での再来日にあわせた日本限定リリースの予定でしたが、のちに別ジャケットで海外でも発売。結果として、似たようなアートワークの作品が3枚も並ぶこととなります。
内容に関しては上で触れた通りですが、EPがミドルテンポ中心でクオリティ的にもアルバムより若干落ちること、かつトータル全16曲/約65分という長尺作品となってしまったことで、アルバムの魅力が良い形で伝わりきらないような印象も受けます。ただ、「1985」で始まり「1985 (Reprise)」で終わる構成はドラマチックで良いと思うので、EPからの4曲をカットして「Mount Of Execution」〜「1985 (Reprise)」でアルバムが終了していたらアルバムの持つ抒情性がより強調されたんじゃないかなと、今さらながらに思ってしまいます。
ぶっちゃけ『SURGICAL STEEL』1枚持っていれば問題ありませんが、CARCASSのすべてを知っておきたくて『SURGICAL STEEL』未聴の方ならこのコンプリートエディションを入手しておけば大丈夫でしょう。
なお、『SURGICAL STEEL』に関連したこの3作品は、国内サブスクでは未配信。配信で購入したい、聴きたいという方はBandcampで購入できますので、こちらをチェックしてみてください。
▼CARCASS『SURGICAL STEEL (COMPLETE EDITION)』
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