PEARL JAM『LIGHTNING BOLT』(2013)
2013年10月15日にリリースされたPEARL JAMの10thアルバム。日本盤は同年10月23日発売。
4thアルバム『NO CODE』(1996年)以来となる全米No.1を獲得した前作『BACKSPACER』(2009年)から4年ぶりの新作。プロデューサーには気心知れたブレンダン・オブライエンを再度起用し、バンドのデビュー20周年を記念するドキュメンタリー映画『PEARL JAM TWENTY』(2011年)公開やメンバーのサイドプロジェクト(エディ・ヴェダーのソロ活動、マット・キャメロンのSOUNDGARDEN再始動など)を挟みつつ、約2年をかけてじっくり制作に臨みました。
陽の空気感と衝動性を重視した結果、コンパクトな楽曲群で構成されることとなった前作とは対照的に、今作では初期の彼ららしいじっくり聴かせる要素も復調。また、オープニングトラック「Getaway」で聴けるような、怒りに満ちたテイストの楽曲も含まれており、アップチューンが並ぶ冒頭3曲(「Getaway」「Mind Your Manners」「My Father's Son」)は前作を踏襲する構成ながらもまったく別の印象を与えてくれます。
こうした初期のテキストの復調は、先のドキュメンタリー映画『PEARL JAM TWENTY』でバンドの原点を見つめ直したいこと、マットのSOUNDGARDEN再結成&アルバム『KING ANIMAL』(2012年)制作、ストーン・ゴッサードがBRADとしてアルバムを制作したこと、さらにはマイク・マクレディがMAD SEASONとして久しぶりに演奏(2012年)したことなども大きく影響しているのではないでしょうか。各々の出自を再確認しつつ、「PEARL JAMとは何なのか?」という命題と向き合った。もちろん、単なる原点回帰をするだけでなく、新章の門出を華々しく飾った前作『BACKSPACER』での経験を踏まえつつ、グランジという文化が過去のものとなった2010年代に「PEARL JAMであること」を高らかに宣言する。それを効果的に表現できたのが、『LIGHTNING BOLT』と題したこのアルバムなんだと思います。
個人的にはアルバム中盤、「Lightning Bolt」や「infallible」「Pendulum」あたりで見せる深みのある作風の楽曲群が、非常に興味深く響きます。それも、冒頭でのアッパーなショートチューンあってこそ。この対比が際立つ作風は前作にはなかったものなので、より味わい深く感じられるのかもしれません。また、シャッフルビートの「Let The Recrods Play」は、3rdアルバム『VITALOGY』(1994年)における「Spin The Black Circle」のアンサーといいますか、20年後の回答のようにも感じられ、そのへんも“あの頃”と地続きなんだということを実感させられます。
ポジティブもネガティブも飲み込んで、本来の彼ららしくあろうとした結果、それが前作での新境地により深みを与えることとなった。迷いがなくなったあとで再び迷い出したようにも映りますが、実はその迷いは人生の一部でしかない。それが90年代の彼らとこの頃の彼らの大きな違い。それくらい、この時期のPEARL JAMは充実していたのです。
ただ、このアルバムから次作『GIGATON』(2020年)まで6年半という過去最長のインターバルを要することになるとは、当時は想像もしていませんでしたが。結果として、本作は2010年代にリリースした唯一のオリジナルアルバムとなってしまいました。
▼PEARL JAM『LIGHTNING BOLT』
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