PANTERA『BEFORE WE WERE COWBOYS』(2015)
2015年9月11日にリリースされたPANTERAの非公式ライブアルバム。当初は『BORN IN THE BASEMENT: THE DALLAS BROADCAST 1988』というタイトルで発表。日本では2018年4月6日に限定発売されています。
昨今のサブスク中心の音楽生活においては、ふいにこういった作品が追加されてビックリさせられることも少なくありません。本作もそのひとつであり、後ろめたさはありつつもついつい再生してしまう自分がいます。正直、本サイトでもこの手のアイテムはあまり紹介しないようにしていたのですが、内容が内容なだけに(かつ、この時期の音源を公式に聴く手段がないので)こうして改めてピックアップしてみました。
本作は1988年12月20日、アメリカ・テキサス州ダラスの The Basement Clubで行われたPANTERAのFMラジオ放送用ライブ音源に、非公式リリースに際してデジタルリマスタリングを施したもの。1986年に加入したフィル・アンセルモ(Vo)を擁する編成で初のスタジオアルバム(通算4作目)『POWER METAL』(1988年)を発表し、半年後に行われたライブのようです。
初期3作はグラムメタルの延長線上にあるサウンドでしたが、フィルの加入により(アルバムタイトルどおり)パワフルなメタルバンドへと生まれ変わったPANTERAですが、当時はまだメジャーデビュー前。本作のタイトルのように“『COWBOYS FORM HELL』(1990年)前夜”という、非常にレアなタイミングでのライブとあって、選曲的にも今では想像できないような内容のステージが展開されています。
全9曲が収められた本作ですが、冒頭4曲(「Death Trap」「Rock The World」「Power Metal」「We'll Meet Again」)は『POWER METAL』からの選曲。『COWBOYS FORM HELL』以降しか知らない世代にとっては、この時点で相当新鮮に映ります。スタジオ音源では正統派メタル的カラーが強いものの、こうしてライブテイクを耳にすると、どの曲も『COWBOYS FORM HELL』期の片鱗を感じさせ、楽器隊(特にギターのダイムバック・ダレル)のプレイに関してはすでに“『COWBOYS FORM HELL』以降”を感じさせる完成度。そりゃあメジャーに引っ張られるわけだと納得してしまいます。
またこの時点で、のちに『COWBOYS FORM HELL』に収録される「The Art Of Shredding」「The Sleep」も披露されており、早くもバンドが次の変化に向けて動き出していたことも確認できます。大まかなアレンジはその後のスタジオバージョンと一緒ですが、やっぱり『POWER METAL』の楽曲とはちょっと質感が異なることもあり、このライブの流れで聴くと馴染んでいるようで乖離しているようでもあり、なかなか面白いことになってます。
さらに、本作には9分にもおよぶダイム(当時はダイアモンド・ダレル)のギターソロや、「This Bud's For You」のお遊びカバーなども含まれており、その後公式に残されたライブ作品とはまた違った味わい深さも伝わります。音質的には不安定さも否めませんが、ひとつの記録として、また『POWER METAL』収録曲の一部を追体験する上で非常に貴重な作品と言えるのではないでしょうか。いつサブスク上から消えるかわからない1枚ですが、『LOUD PARK 2023』での来日を前にチェックしてみてはどうでしょう。
▼PANTERA『BEFORE WE WERE COWBOYS』
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