AEROSMITH『GET A GRIP』(1993)
前作『PUMP』が全米アルバムチャート5位(TOP5入りは1976年の『ROCKS』以来13年ぶり)、現在までに700万枚も売り上げるという大成功を収めたAEROSMITH。『PUMP』を携えたワールドツアーを終えた後もソニー時代のボックスセット『PANDORA'S BOX』(1991年)発表や、MTV10周年イベントでマイケル・ケイメンと「Dream On」をオーケストラ共演、GUNS N' ROSESのライブにゲスト出演(スティーヴン・タイラーとジョー・ペリーのみ)など話題に事欠きませんでしたが、その裏側では『PUMP』を超えるアルバムを作り上げようと試行錯誤していました。その結果、前作から約4年という歳月を経て通算11枚目のオリジナルアルバム『GET A GRIP』は完成したのです。
今作は一度12曲程度でまとめあげられたものの、メンバーやスタッフが客観的にアルバムを聴いて「何か足りたい」として新たに楽曲を制作。そういう経緯を経て、全12曲(イントロ&アウトロおよびボーナストラックを除く)で60分強という大作が完成したわけです。スティーヴンのラップボーカルをフィーチャーしたイントロから「Eat The Rich」へと流れるオープニング、そのままほぼ曲間なく「Get A Grip」「Fever」「Livin' On The Edge」へと続く構成は、前作『PUMP』にも匹敵するもので、緊張感だけで言えば今作のほうが優っていると個人的には思っています。
バンドとしての熱量は全キャリア中でも『ROCKS』に匹敵するものだし、そこに絶妙なバランスで“枯れ”具合が混在する。1曲1曲の完成度も非常に高く、「カッコいいロック」よりも「単純にいい曲」を目指したかのようなヒットシングル「Livin' On The Edge」(全米18位)、「Cryin'」(同12位)、「Amazing」(同24位)、「Crazy」(17位)も目白押し。久しぶりにジョー・ペリーがリードボーカルを取った「Walk On Down」も箸休めで終わっておらず、頭から終盤まで一切の隙なし。だからこそアウトロとして収録されたお遊び的インスト「Boogie Man」までたどり着くと、肩の力を抜いてホッとできるわけです。
人間の集中力が持続するのは30〜40分程度、なんてよく言われますし、昔の名盤は(アナログ盤の収録状況なども要因ではあるものの)大半が30〜40分前後の作品ばかり。60分前後のアルバムとなると数曲は印象に残らないことも多いのですが、こうやって最後まで集中して楽しめる、引き込まれる長編ハードロックアルバムはDEF LEPPARD『HYSTERIA』と本作ぐらいじゃないか……と思うのですが、いかがでしょう?
2016年現在、彼らの全アルバムを振り返ると、初の全米No.1を獲得したこの『GET A GRIP』こそが第2のピークだったのは間違いない事実。彼らが80年代後半から目指したサウンドもここで一度完成を見るわけです。だからこそ、ここから長い試行錯誤が再び続くことになるのでした。そういう意味では、『GET A GRIP』は非常に罪深いアルバムでもあるのです。
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