STEVEN TYLER『WE'RE ALL SOMEBODY FROM SOMEWHERE』(2016)
聴く前からこんなにも不安でネガティブな気持ちになったソロアルバムって、自分の経験上そんなになかったんじゃないかな。だって、これが世に出るということは、バンドとしてしばらく機能しないということを示すわけだから。
そんな気持ちで接した、AEROSMITHのフロントマン、スティーヴン・タイラー初のソロアルバム『WE'RE ALL SOMEBODY FROM SOMEWHERE』。カントリーレーベルからのリリースということで、最初は「年寄りが趣味でやるんでしょ。はいはい」くらいの気持ちでいたんです。そもそも、アルバムの1年前に発表されたリードトラック「Love Is Your Name」がポップだけどレイドバックしまくりだったから、余計にね。いや、悪い曲じゃないんですよ。ぶっちゃけ、エアロの最新作『MUSIC FROM ANOTHER DIMENSION!』の楽曲よりも優れてると思ったし。いやいや、比べるのは違うか。
ここ数年、以前ほど高音が出にくくなって、声質もカサカサになってきたスティーヴンの声には、こういうサウンドが意外と合うんだな。そう前向きなことも考えました。でも、自分が聴きたいのはジョー・ペリーと並ぶスティーヴンの姿。ジョーがソロをやるのとは意味が違うんですよ。
ところが。不安を抱えたままアルバムと接すると……いいんです、これが。楽曲がどれも優れているというのは言うに及ばず、スティーヴンのボーカルワークも非常に素晴らしい。無理にシャウトせず淡々と歌っているんだけど、それでも存在感が溢れてしまう感じといいましょうか。サウンド的にもカントリーを軸にしてはいるものの、もっとアメリカンポップス寄り。そもそもスティーヴンの性分を考えれば、こうなるのも納得なわけで、古き良き時代のアメリカンポップスやカントリー、ブルース、そして適度にロックで適度にサイケ。思えばエアロの楽曲の大半はスティーヴンがジョーと一緒に書いてきたもの。こういう作風になるのは当然であり、演奏している人間が異なるんだからエアロにならないのも当たり前。なんでそんな簡単なことに気づかなかったんだろうと、聴き終えた後に反省しました。そんなフラットな気持ちで接すれば、「Janie's Got A Gun」のアーシーなセルフカバーも素直に受け入れられるわけです。
もしかしたらこの人は、もっと新曲をレコーディングしたかったのかな。でも、それが今のエアロでは叶わないというなんらかの障害が存在する。だったら自分の好きなように1枚作ろうと。そう納得することにしました。事実、このアルバムを出した後にはエアロはショートツアーも行っているわけで、以前ほど大々的な活動はないものの、今後もよきタイミングでライブをしてくれるはず、と。
そんなことを考えていたところに、来年のツアーを最後にAEROSMITHの活動終了という話が飛び込んできたり。さらに来春にはスティーヴンのソロ来日公演も決定。もう何が正しくて、何が間違っているのか判断がつきませんが……ひとまず武道館でのソロライブには行きます。夏にはエアロでフェスに出たりツアーをしたりするようなので、そちらでの来日にも期待したい。そして……せめてバンドでもう1枚アルバムを作ってください。それだけが僕の望みです。その夢が実現するまで、このソロアルバムやここ数年発表されたライブ作品を目に耳にし続けていこうと思います。

▼STEVEN TYLER『WE'RE ALL SOMEBODY FROM SOMEWHERE』
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