MR. BIG『MR. BIG』(1989)
ここ数日BLUE MURDER、BADLANDSを取り上げてきましたが、今回紹介するMR. BIG含めて……思えば1989年って“スーパーバンド”と呼ばれる大物アーティストや名プレイヤーが結成した新バンドが続出した1年だったんですよね。ジョン・ウェイトと元JOURNEY組が結成したBAD ENGLISHも1989年デビューでしたし。この風潮は、1986年を起点としたアメリカでのHR/HMブームが過渡期に突入したことを表していたのかもしれません。
さて。今回は日本のHR/HMファンなら誰もが知っている“BIG IN JAPAN”ことMR. BIGのデビュー作を紹介します。メンバーはソロシンガーとして活躍してきたエリック・マーティン(Vo)、元RACER-Xのポール・ギルバート(G)、元TALAS〜デヴィッド・リー・ロス・バンドのビリー・シーン(B)、IMPELLITTERIやテッド・ニュージェント・バンドなどに在籍したパット・トーピー(Dr)の4人。アルバムは全米46位という成績を残し、続く大ヒット作『LEAN INTO IT』(1991年)につなげることになります。
デヴィッド・リー・ロスのアルバム『EAT 'EM AND SMILE』でスティーヴ・ヴァイとのテクニカルなユニゾンプレイでHR/HMファンやギター&ベースプレイヤーを沸かせたビリーが、RACER-Xで強烈な速弾きを披露したポールとバンドを組んだことで、ファンは当然同様のユニゾンプレイを期待するわけですが、それは1曲目「Addicted To That Rush」で早くも実現します。
しかし、アルバムを聴き進めていくと本作は決してギター&ベース中心のアルバムではなく、エリックの歌が軸になっているブルースベースのハードロックアルバムであることに気づかされるわけです。「Wind Me Up」「Merciless」とグルーヴィーなミドルチューンが続き、4曲目でようやくタッピングを多用したビリーのベースソロが聴こえてきて「おおっ!」と期待してしまうのですが、当の「Had Enough」自体は泣きメロの歌がメインのバラードナンバー。その後も「Big Love」や「How Can You Do What You Do」「Anything For You」、「Rock & Roll Over」とキャッチーでメロウな楽曲、「Blame It On My Youth」や「Take A Walk」などのブルーステイストのロックチューンが続きます。
とはいえ、そういった歌主体の楽曲の中でもビリー&ポールは常人にはとても弾けないような、テクニカルなフレーズを散りばめています。そのへんがMR. BIGの個性につながっているわけですが、ここまでブルース色、テクニカルさを前面に打ち出すのは、この編成では本作が最初で最後。次作以降、ポールのカラーが色濃くなっていき、ポップさを強めた楽曲志向のバンドへと変化していきます。
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