DEF LEPPARD『ADRENALIZE』(1992)
1991年1月8日、DEF LEPPARDのギタリスト、スティーヴ・クラークが亡くなりました。当時は小さいながらも新聞記事にもなったし、bayfm『POWER ROCK TODAY』では4時間まるまる追悼特集を組んだほどでした。DEF LEPPARDは当時、1987年夏発売の4thアルバム『HYSTERIA』に続く新作を制作している途中でしたが、これにより作業は一時中断。1983年の3rd『PYROMANIA』発売から『HYSTERIA』が完成するまでも、リック・アレン(Dr)が交通事故で片腕を失う悲劇が起こりましたが、まさか二度も大きな不幸が訪れることになろうとは……。
その後、バンドはスティーヴの代役を立てずにフィル・コリン(G)がすべてのギターパートを担当。こうして1992年春に完成したのが前作から4年ぶりの新作『ADRENALIZE』でした。
当時だけで全米で700万枚近くも売り上げた『PYROMANIA』、そして『PYROMANIA』をさらに上回る1000万枚に到達した『HYSTERIA』とメガヒットアルバムが2枚も続いたいあとだけに、プレッシャーは相当なものがあったと思います。しかもソングライターのひとりでバンドの初期メンバーを最悪の形で失ったあとだけに、バンドはどんな思いで制作と向き合ったのか……新曲を耳にするまでは、こちら側にもそんな不安がたくさんありました。が、先行シングルにしてアルバムのオープニングトラック「Let's Get Rocked」はそんな負の要素が一切感じられない、ひたすらポジティブさに満ちあふれた1曲でした。これには、きっと多くのHR/HMファンが驚かされたんじゃないでしょうか。
『HYSTERIA』ほど緻密に作り込まれた感じではなく、かといって『PYROMANIA』みたいに生々しいロックサウンドというわけでもない。スティーヴに捧げた7分超のエピック「White Lightning」はあるものの、ほかは1曲1曲が非常にコンパクトで、全10曲(日本盤ボーナストラック2曲を除く)で44分程度。12曲で60分超えだった『HYSTERIA』とはある種相反する作風かもしれません。思えば、時代はすでにグランジ時代に突入したタイミング。パンキッシュで生々しくてコンパクトな方向へと突き進み始めた時代の変わり目に、DEF LEPPARDがこういう“らしくて、らしくない”作品を発表し、それが英米1位を獲得してしまったのは、今となっては非常に面白い話です。
そういえば、本作収録の「Tonight」は前作『HYSTERIA』制作中には存在した楽曲だというし、「Heaven Is」「Make Love Like A Man」「Stand Up (Kick Love Into Motion)」「I Wanna Touch U」「Tear It Down」にはスティーヴの名前もクレジットに入っている。そりゃあ『HYSTERIA』にも通ずる色合いがあるよなと。だけど、バンドは次のフェーズに進みたがった。そういう意味においては、この『ADRENALIZE』はメガバンドDEF LEPPARDにおける過渡期の1枚なのかもしれません。真の意味での新章は、本作完成後に加入したヴィヴィアン・キャンベルと一緒に制作した次作『SLANG』(1996年)から始まるわけです。

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