SUICIDAL TENDENCIES『WORLD GONE MAD』(2016)
マイク・ミューア(Vo)率いるアメリカのクロスオーバー/ハードコアバンドの、通算12枚目となるスタジオオリジナルアルバム。実は彼らの新作を聴くのはずいぶん久しぶりのことで、振り返ればそれこそ90年代前半以来かも……と気づかされるわけです。そうそう、ロッキー・ジョージ&マイク・クラークのツインギター編成で、今ではMETALLICAの一員としておなじみのロバート・トゥルージロ(B)なんかが在籍していた頃です。当時はハードコアとスラッシュメタルの接近&融合を“クロスオーバー”なんて括りで呼んでいましたが、一時のSUICIDAL TENDENCIESはそのクロスオーバーさえ飛び越えて“まんまヘヴィメタル”みたいなことをやってましたけどね。
そんな彼らもすでに結成から30年以上を経たベテランバンド。オリジナルメンバーはマイク以外残っておらず、90年代半ばの再結成から在籍のディーン・プレザンツ(G)以外はかなり入れ替わっています。本作の制作に際してもリズムギター、ベース、ドラムを一新。新ドラマーにはなんと、元SLAYERのデイヴ・ロンバードが加わり、発表当時大きな話題となりました。SLAYER黄金期の土台を支えたデイヴがSUICIDAL TENDENCIESに加わると、どんなプレイを聞かせてくれるのか、と……。
さて、完成したこの『WORLD GONE MAD』というアルバム。オープングの「Clap Like Ozzy」というメタルファンならクスッとしてしまうタイトルの疾走ハードコアチューンからスタートします。スラッシュともハードコアとも受け取れるこの楽曲こそ、まさにクロスオーバーと呼ぶにふさわしい1曲。その後もヘヴィなミドルチューン「The New Degeneration」、どこかジャジーなテイストも含む「Living For Life」、バラード風ミドルヘヴィサウンドに泣きメロギターソロとラップ調ボーカルが乗る「Get Your Fight On!」(曲中盤でアップテンポになる展開はメタルそのもの)などバラエティに富んだ楽曲が続きます。
全体的にドラムがかなり前に出ている印象があるものの、かといってSLAYER時代ほど派手さはない。また新加入のベーシスト、ラー・ディアスのプレイもスラップを多用した派手なもので、デイヴとの相性も抜群。そこに派手に暴れまくるディーンのギターソロが加わると、不思議と我々がよく知る「80年代末から90年代前半のSUICIDAL TENDENCIES」とイメージがオーバーラップするのです。かといって、楽曲自体にはあの頃みたいに大袈裟な展開やアレンジは皆無なのですが。不思議です。
初期の作品に通ずるものがありつつも、しっかりメタル期とオーバラップする部分もある。なのにそれらの時期とは完全に一致するわけではなく、新しさ(今までのSUICIDAL TENDENCIESにはなかったような魅力)も感じられる。デイヴ・ロンバードを迎えたことでマイク・ミューアの心に再び火がついたのかもしれませんね。個人的にはハードコアやパンクリスナーよりもメタルファンにこそ触れてほしい1枚です。
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