MR. BIG『LEAN INTO IT』(1991)
MR. BIGが1991年春にリリースした通算2作目のオリジナルアルバム。前作『MR. BIG』(1989年)発表後、バンドは来日公演を行ったほか、翌1990年には6曲入りミニライブアルバム『RAW LIKE SUSHI』をリリース。1作目こそ海外公演の音源でしたが、これ以降続く『RAW LIKE SUSHI』シリーズは日本公演の模様を収めたものが発表されていくことになります。
さて、本国以上にここ日本で高い人気を誇り、文字通り“Big in Japan”になりつつあった彼らが、次の作品で挑んだのは、エリック・マーティン(Vo)の歌唱力を存分に生かした、より純度の高いソウルフルなアルバムを作ること。そこにポール・ギルバート(G)とビリー・シーン(B)のユニゾン&インタープレイを取り込むことで、歌モノ目線でもプレイヤー目線でも楽しめる、1枚目の延長線上にあるアルバムを作るはずでした。実際、このアルバムの大半の楽曲はそういうものに仕上がっていると思います。
ところが、この時期からポールのソングライターとしての才能が一気に開花。バンマスのビリーが想定していなかった「Green-Tinted Sixties Mind」みたいに、THE BEATLESの影響下にあるポップ色の強い楽曲が上がってきます。と同時に、エリックからもアコースティックバラード「To Be With You」が上がり、この2曲をアルバムに収録するかどうかでバンドは議論になるわけです。結果はご存知のとおり、この2曲は無事収録され、それぞれシングルカットもされることに。このシングル化にはレコード会社の思惑も働いているのではないかと思いますが、最初にシングルカットされた「Green-Tinted Sixties Mind」はイギリスで小ヒットし、ここ日本では好意的に受け入れられたと記憶しています。
で、問題は次のシングルとして発表された「To Be With You」。1991年末にシングル発売されると、翌1992年初頭にかけて全米チャートを上昇していき、気づけばNo.1を獲得。しかも4周連続1位というおまけつき。イギリスでも最高2位という、バンドを代表する1曲になるわけです。
ブルースやソウルをベースにしたハードロックバンドを始めたはずのMR. BIGが、ソングライターとしてのエゴを優先したがために、当初と違った方向でブレイクしてしまう。この成功と引き換えに、バンドはこの先、想像もつかないような苦難の数々に遭遇することになるわけです。
……が、それはまた別の話。純粋にアルバムの内容は素晴らしい以外の言葉が見つからないほど最高です。1曲目「Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)」の疾走感と電動ドリルを使ったギター&ベースユニゾンソロ、“これぞMR. BIG”と断言したくなるソウルフルな「Alive And Kickin'」、前述のサイケデリックポップ「Green-Tinted Sixties Mind」、本作中唯一メンバーのペンではない楽曲(のちに作者のジェフ・パリスもレコーディングした)「CDFF-Lucky This Time」、“これぞMR. BIG”その2「Voodoo Kiss」、エリックならではのポップさとバンドのワイルドな演奏のバランスが絶妙な「Never Say Never」、王道歌モノバラード「Just Take My Heart」、もっとも前作の延長線上にあるHRチューン「My Kinda Woman」、冒頭のビリーによる低音Vo含め最高なヘヴィブルーズ「A Little Too Loose」、オープニングのハーモニーから最高なシャッフルナンバー「Road To Ruin」、そして締めにふさわしい「To Be With You」。日本盤にはここにポップだけど疾走感のある「Love Makes You Strong」も加わりますが、とにかく捨て曲なし。発売から26年経ったものの、今聴いても色褪せない名盤だと思います。
確かに1stアルバムで掲げたコンセプトはブレブレですが、そのこだわりを凌駕するほどの傑作。以降の迷走ぶりを考えると複雑な気持ちにはなるものの、このアルバムでの成功(全米15位、100万枚以上の売り上げ。またシングルとしても「Just Take My Heart」が全米16位にランクイン)がなければバンドの寿命はもっと短かったでしょうし、2000年代後半の再始動もなかったと思うのです。
まだ聴いたことない……というHR/HMファンはほぼいないと思われますが、もしいたら悪いことは言いません。今すぐ購入しましょう。
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