SMASHING PUMPKINS『SIAMESE DREAM』(1993)
1993年夏に発表されたSMASHING PUMPKINSの2ndアルバム。前作『GISH』(1991年)はNIRVANA『NEVERMIND』やPEARL JAM『TEN』の数ヶ月前に発表されたものの、大きな話題にならずセールス的に惨敗。そこでビリー・コーガン(Vo, G)は「この流れに乗ってやる」とばかりに、“良い曲、良いアルバム”を目指してこの『SIAMESE DREAM』を制作するのでした。
前作はいわゆるインディーロックの範疇にある作風でしたが、その中にもキラリと光るメロディセンスやのちのポピュラリティにつながる要素は含まれていました。その秘めた才能は、本作に収められている「Today」や「Disarm」といったメロウな楽曲で存分に活かされることになります。
オープニングの「Cherub Rock」や「Geek U.S.A.」などで聴けるハードロック的手法は、確かに前作にも多少見え隠れしたテイストですが、ここではさらにその色を強めています。また、今作ではグランジ(主にNIRVANA)特有の“強弱法”(バースは静かめに、サビで一気に爆発するアレンジ法)を多用した楽曲が多いのも特徴で、「Today」や「Mayonaise」あたりはそのもっともたる楽曲。かと思えばストリングスを導入した「Disarm」や「Luna」、メロトロンをフィーチャーしたアコースティックナンバー「Spaceboy」などもあり、続く次作『MELLON COLLIE AND THE INFINITE SADNESS』(1995年)への布石も感じさせます。
もちろん、前作で顕著だったジャムセッション的な長尺ナンバーも、「Soma」や「Silverfuck」で引き継がれつつその強度をさらに増している。前作をなかったことにせず、しっかり延長線上にありながらも何十歩も先に進んだ、それがこの『SIAMESE DREAM』の強みだと思います。
音楽的才能の本格的開花は2枚組大作の3rd『MELLON COLLIE AND THE INFINITE SADNESS』に譲るとして、本作では我々がよく知るSMASHING PUMPKINSの根幹を作り上げたという点での“1stアルバム”なのかなと。もちろん『GISH』という習作があってこその本作なのですが、グランジという時代の流れにしっかり乗りながらバンドの個性を確立させたという意味では、本作は重要な1枚だったと言えるわけです。
そして、セールス的にもしっかり結果を出したのが本作。全米10位、400万枚以上もの売り上げを記録しております。ただ、意外にも本作からはBillboard TOP100に入るシングルヒットは生まれておらず、「Cherub Rock」「Today」「Disarm」がそれぞれBillboardオルタナティブソングチャートで7位、4位、8位にランクインしたのみ。ヒットシングル連発は次作以降なんですね。
グランジのイメージが強い彼らですが、シアトルの外からグランジに接近して独自の個性を磨いたという点においてはSTONE TEMPLE PILOTSに通ずるものがあるなと。思えば両バンドともに、HR/HM的なポピュラリティがしっかり備わってるところも似てますし。ただ、ビリー・コーガンという男が“まとも”だったことで、カートやスコット・ウェイランドみたいにはなれなかった。今となってはそれでよかったんですけどね。

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