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2017年6月24日 (土)

MR. BIG『...THE STORIES WE COULD TELL』(2014)

2014年9月にリリースされた、通算8枚目のオリジナルアルバム。再結成後としては、2010年末に発表された前作『WHAT IF...』から3年9ヶ月ぶり。ここまで時間が空いたのには理由があり……ご存知のとおり、パット・トーピー(Dr)のパーキンソン病が発覚。また、ポール・ギルバート(G)の難聴が悪化したことや、ビリー・シーン(B)がリッチー・コッツェン(Vo, G)、マイク・ポートノイ(Dr)と新たに結成したバンド、THE WINERY DOGSの活動が好調だったことが、制作の遅れにつながったと言われています。

さて、そうなると誰がバンドの新作制作を引っ張るのか。意外にも、その役割を引き受けたのがエリック・マーティン(Vo)でした。エリックは全13曲中(ボーナストラック除く)11曲にクレジットされ、プロデューサーのパット・リーガンとともに根気よく作業を続けたようです。そこには、病気でドラムが叩けなくなったパット・トーピーが自身がプログラミングしたドラムトラックを採用するという、気の遠くなる作業も含まれているのですから……。

そういう難産の末完成した本作ですが、評価は前作ほど高くないのも事実。ドラム云々は抜きにしても(実際、シンバルなど金モノ系を集中して聴かない限り、プログラミングしたドラムトラックとは気づかないのでは?)、なんとなくバンドが完璧に噛み合ってない印象を受けるのです。

楽曲自体は前作の延長線上にあり、メロディラインなど比較的優れたナンバーが多いのですが、ギターとベースが遠慮がちというか。このへんはポールの病気の影響も大きいのかもしれませんが、それに引っ張られるようにベースもボトムを支えることに専念している印象を受けます。そこにパットの件が加わるもんだから……言い方は悪いけど、「エリック・マーティンのソロアルバム(MR. BIG寄り)」と感じてしまうのです。

いえ、エリックはそうならないよう、しっかりMR. BIGというバンドのことを意識して作業に当たったと思うんです。しかしエリック以外のメンバーが地味すぎるがために、結果エリックの個性のみが突出してしまう。それが先の「バンドが完璧に噛み合ってない」につながるわけです。

改めて聴き返してみても、決して悪いアルバムではないんですよ。だけど、地味さが前面に出てしまい、前作よりも聴く頻度が落ちてしまった。悲しいかな、そういう残念な1枚であります。

また、本作は日本盤の初回限定盤のみ、初期編成で発表した4枚のアルバムからのベスト選曲を再録音したボーナスティスク付き。なぜこのタイミングで再録ベスト?と思ったけど、実はこれ、パットが過去の楽曲でプログラミングの練習をしたってことなんじゃないでしょうか。ここでの“リハーサル”があったから、オリジナル新作では違和感のない“ドラミング”を披露することができた。そう思うと、この『...THE STORIES WE COULD TELL』というアルバムがいかに難産だったかが理解できると思います。

もうひとつ残念なのは、新作本編よりもこっちのボーナスディスクのほうが聴く頻度が高かったということ。声域が若干低くなったエリックに合わせて半音下げで再録された名曲の数々は、原曲よりテンションが落ちるものではありますが、曲によっては大人の色気を感じるものも含まれており、まったくナシではないかな。とはいえこれ、単なるオマケなのであまり高い評価は付けないでおきます。

本作を携えたツアーでは、パットもステージ上に姿はあるものの、基本的にはサポートドラマーのマット・スターがプレイ。パットはタンバリンを叩いたりコーラスを入れたりしつつ、限られた楽曲でドラムを披露してくれました。ここでの変則編成がメンバー的にもお気に召したようで、新たな未来へとつながっていくわけです。



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