WINGER『PULL』(1993)
1993年春にリリースされた、WINGER通算3作目のスタジオアルバム。デビュー作『WINGER』(1988年)、2nd『IN THE HEART OF THE YOUNG』(1990年)がともにミリオンヒットとなり、シングルヒットも連発させた彼らでしたが、1991年以降HR/HMの人気が下降線をたどり、代わりにグランジやモダンヘヴィネス系バンドが台頭し始めたなか、WINGER自体にも大きな変化が訪れます。それは、キーボーディスト&ギタリストのポール・テイラーの脱退でした。
長期にわたるツアー生活に疲弊したポールがバンドを離れると、バンドはキップ・ウィンガー(Vo, B)、レブ・ビーチ(G)、ロッド・モーゲンスタイン(Dr)の3人でレコーディングに突入。プロデューサーは過去2作を手がけたボー・ヒルから、DEF LEPPARDなどで知られるマイク・シプリーに変更し、時流に合わせたタフさを取り入れつつもWINGERらしいキャッチーでプログレッシヴなサウンドを作り上げていきます。
ベーシックトラックをキーボードレスの編成で制作したためか、本作は過去2作以上にギターオリエンテッドなアルバムに仕上がっています。特にアコースティックギターの使い方が非常に効果的で、オープニング曲「Blind Revolution Mad」の冒頭や、「Down Incognito」「Spell I'm Under」「The Lucky One」「Who's The One」などではアコギが曲の軸になっており、バンドとしての新たな挑戦として受け取ることがでいます。特に「Down Incognito」ではブルースハープもフィーチャーされており、産業ハードロック的イメージからの脱却を図っているかのようです。
また、「Spell I'm Under」のようなプログレッシヴなバラードでは、以前ならシンセを前面に打ち出すことでプログレハード的テイストが強まっていたところを、アコギをはじめとするギターサウンドを軸にしたことでよりヘヴィさが増している。「Blind Revolution Mad」にしろ「In My Veins」にしろ演奏自体は非常にテクニカルでプログレッシヴな部類の楽曲なんですが、生々しさと音の太さが過去以上。ダウンチューニングを採用した「Junkyard Dog (Tears On Stone)」なんて、完全にPANTERAやALICE IN CHAINS以降のグルーヴメタル/グランジの影響が感じられますし。
けどね、こういった楽曲を他のバンドがやったらきっと“グランジ/モダンヘヴィネスの二番煎じ”で済まされるところを、キップ・ウィンガーが歌うことでかろうじて“らしさ”を保てているから、WINGERの作品として成立している。こういうときにこそ、改めて個性的なフロントマン/シンガーを要することの重要さを実感させられるのではないでしょうか。
確かに全体的に地味ですし、世間的な評価も高いほうではない。けど、あの時代の空気感を切り取った意欲作として、僕はお気に入りの1枚に挙げることが多いんですよね。むしろ最近のラウドロックやヘヴィ系が好きな人なら、案外いけるんじゃないかと思うのですが……いかがでしょう?
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