PANTERA『COWBOYS FROM HELL』(1990)
1990年夏にAtlantic Records傘下のAtco Recordsからリリースされた、PANTERAのメジャーデビューアルバム(インディーズからの4枚を含むと、通算5作目)。プロデュースを手がけたのは、OVERKILLやMETAL CHURCHといったスラッシュ勢のほか、SOUNDGARDENやMOTHER LOVE BONEといったグランジバンドにも携わってきたテリー・デイト。聴けばそれとわかる“テリー・デイトらしいサウンド”が展開されています。
メジャー2作目の『VULGAR DISPLAY OF POWER』(1992年)で一気に知名度を上げたPANTERAですが、すでに本作リリース後には一部ミュージシャンの間では注目のバンドとして彼らの名前が挙がっていました。それがMOTLEY CRUE(主にトミー・リー)やSKID ROWなどといった当時のメジャーど真ん中のハードロックバンドから、というのがまた面白い事実でして、僕も彼らのインタビューなどでPANTERAの名前を知りこの『COWBOYS FROM HELL』を手に取ったほど。影響力というのはつくづくすごいなと思わされる一例ですね。
80年代後半のMETALLICAを筆頭とした新たなヘヴィメタルの波は、確かに1990年前後に変革の時期を迎えつつありました。HR/HMブーム自体が過渡期に突入したというのもありますが、単にお行儀の良いバンドに飽き飽きしていたという風潮も大きかったのでしょう。実際、この1990年という年にはSLAYERが『SEASONS IN THE ABYSS』を発表したほかMEGADETHが『RUST IN PEACE』を、ANTHRAXが『PERSISTENCE OF TIME』を、JUDAS PRIESTが『PAINKILLER』を、ALICE IN CHAINSがメジャーデビュー作『FACELIFT』をリリースしています。旧来のスタイルと新たな姿勢が融合しつつあった、絶妙なタイミングだったんでしょうね。
そんな中登場したのがPANTERA。しかもそのサウンドは、のちのMETALLICAがブラックアルバムで示すグルーヴメタル路線で、『VULGAR DISPLAY OF POWER』以降の作品みたいにヘヴィ一辺倒というわけではなく適度にメロディアスで緩急もしっかりしている。そう、この『COWBOYS FROM HELL』というアルバム自体も旧来のスタイルと新たな姿勢が交差する、1990年という時代にマッチした作風だったのです。
フィル・アンセルモ(Vo)も以降のようにただがなり立てるだけではなく、しっかり歌メロを表現している(笑)。ドスの利かせ方もまだ徹底する前で、どこか優しさすら感じられるのですから、本当に不思議です。「Cowboys From Hell」や「Primal Concrete Sledge」なんてサビでシンガロングできますし、「Cemetery Gates」は王道のヘヴィメタルバラードですからね。さらに、ダイムバッグ・ダレル(G / 当時はダイヤモンド・ダレル名義)のギタープレイはすでに当時から光るものがあるし、リズム隊が生み出すグルーヴィーなリズムもそれ以前のHR/HMとは異なる“ハネた”ものが多い。今思えばですけど、このあとに新たな時代が訪れることを、このアルバムで予言していたわけですね。そういう点において、非常に歴史的価値の高い1枚ではないでしょうか。
とはいえ、本作がリリースされた当時はそこまで“すごいアルバム”だと自信を持って言えなかったし、ましてや続く『VULGAR DISPLAY OF POWER』であんな化け方をするとも思わなかった。そして、彼らがその後のメタルシーンを一変させてしまう力を持っていたなんて……見る目がなかったのか、それとも彼ら自身が本作発表後の1年ちょっとで激変したのか。まあそのどっちもなんでしょうね。とにかく、純粋にHR/HMアルバムとして優れた作品だと思います。『VULGAR DISPLAY OF POWER』以降、特に『FAR BEYOND DRIVEN』(1994年)以降のハードコア色が強いテイストが苦手という人でも、この『COWBOYS FROM HELL』は存分に楽しめると思いますよ。

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