CHEAP TRICK『CHEAP TRICK』(1997)
実はCHEAP TRICKには同じタイトルのアルバムが2枚存在していることをご存知でしょうか。それが意外にもセルフタイトルの『CHEAP TRICK』という点が非常に興味深く、しかも2作目のほうはデビュー作発売の20年後、1997年2月にここ日本で先行リリースされているという(海外では2ヶ月遅れの同年4月に発売されました)。
当時のCHEAP TRICKは、80年代後半のHR/HMブームに乗って本格的な再浮上を果たしたもののそれも長く続かず、90年代に入るとダークなグランジがもてはやされるタームに突入。が、本来なら毛嫌いされるはずのHR/HMシーンに括られてきたCHEAP TRICKは、グランジシーンから“オリジネーター”や“ルーツ”としてリスペクトされることになるのです。不思議なものです。
本作は彼らにとって通算13枚目のスタジオアルバム。前作『WOKE UP WITH A MONSTER』(1994年)は長年在籍したEpic Recordsから離れ、新たにWaner Brothersと契約して発表したものの、以前ほどの大きなヒットにつながらず、結局バンドはこれ1枚でWarnerから離れることに。結果、彼らはインディーズに活動の場を移し活動を継続します。
そうして彼らがまず最初に取り組んだのが、かのスティーヴ・アルビニをエンジニアに迎えてEPを制作すること。ここで制作した「Baby Talk」と「Brontosaurus」はグランジシーンでその名が知れ渡ったSub Pop Recordsから7インチシングルとしてリリースされています。
そのままアルビニを迎えてアルバムを作るかと思いきや、彼らは『ONE ON ONE』(1982年)などでエンジニアを務めたイアン・テイラーを迎えて完成させた作品を発表するわけです(実際にはアルビニとのコラボ以前から進められていたようですが)。
「Anytime」から始まる本作は、「You Let A Lotta People Down」などをはじめ全体的にダーク……というわけではなく、確かに重々しい空気もありつつ、基本的には彼ららしいポップさとロック感、ヘヴィさが混在したクールなロックアルバムに仕上げられています。
確かにサウンドの質感は90年代的な生々しさを伴っていますが、それがかえって70年代の彼らを彷彿とさせ、20年という長い時間を感じさせないフレッシュさすら散見されます。ポップな曲はとことんポップに、ヘヴィな曲はとことんヘヴィに。このメリハリの効き具合が前数作と比べるとかなり強まっており、そこは80年代の彼らとは大きな違いではないかと思います。
もちろん、彼らが時代に影響されている部分も少なからず存在し、「Anytime」や「You Let A Lotta People Down」「Baby No More」あたりはグランジからの影響がモロに出ています。けど、それが特に嫌味には感じられないのは、当時のグランジバンドがリスペクトを口にしたように、CHEAP TRICKというバンドのサウンドがいかに当時のバンドマンに影響を与えてきたかということを証明しているのではないでしょうか。
ややこしいタイトルやジャケット(1stアルバムをパロッたモノクロ感)、そして全キャリア中もっともグランジの影響が強いことなど、従来のファンからは評価がそこまで高くない1枚かもしれませんが、個人的には前作『WOKE UP WITH A MONSTER』以上に好きな作品です。
なお、日本盤には先のアルビニプロデュース曲2曲を追加収録。とはいえ、現在は廃盤状態にあり、デジタル配信&サブスクリプションサービスでも全オリジナルアルバム中本作のみ未配信のまま。ぜひなんらかの形で復活させてほしい1枚です。
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