SCORPIONS『CRAZY WORLD』(1990)
1990年11月にリリースされた、SCORPIONS通算11枚目のオリジナルアルバム。それまで同郷のエンジニアであるディーター・ダークスとともに制作を進めてきたバンドが、初めてアメリカのプロデューサーであるキース・オルセン(オジー・オズボーン、WHITESNAKE、EUROPEなど)を迎えて完成させた1枚です。
サウンドや楽曲の質感は、大成功を収めた『LOVE AT FIRST STING』(1984年)と、それに続く『SAVAGE AMUSEMENT』(1988年)の延長線上にあるもの。ですが、本作では過去2作に残っていたヘヴィメタル的側面を極力排除し、「良質なメロディに重点を置いたハードロック」という点に注力した内容になっています。もしかしたらポップでメロウな楽曲を好むものの『LOVE AT FIRST STING』路線が好きだったというリスナーには、若干“軽く”感じるかもしれません。
楽曲制作面では、ブライアン・アダムスやHEARTなどで知られるジム・ヴァランスを迎えています。そう知ると「なるほど」と納得できるものがあるかもしれません。実際、僕はジム・ヴァランスが参加していることを知らずに本作を聴いて、「なんだかHEARTみたいになってきたなぁ」と思ったものですから……彼らの中にそういった意図があったかどうかはわかりませんけど。
ですが、楽曲の完成度やアルバムとしてのまとまりは非常に高いものがあります。「Tease Me Please Me」「Don't Believe Her」というオープニング2曲の軽やかさ、メロディアスさはさすがの一言だし、全米4位のみならず世界中で大ヒットした名バラード「Wind Of Change」もポップソングとして非常に優れた1曲ですし。かと思えばアップテンポなロックチューン「Kicks After Six」「Hit Between The Eyes」のような疾走感も兼ね備えている。メタリックなノリとは異なるロックンロールなノリだけど、これはこれで良いじゃないですか。で、ラストには“以前の”SCORPIONSらしさを引き継ぐ泣きメロバラード「Send Me An Angel」も用意されている。どの曲も過剰なドラマチックさは皆無だけど、幅広い層を取り込む求心力がたっぷり感じられる。そういった意味での“非の打ち所のなさ”は抜群すぎるものがあると思います。
正直言えば、リリース当時はそこまで好きなアルバムではありませんでした。が、ベルリンの壁崩壊をはじめとした世界情勢の大きな変動を踏まえた上で、なぜ「Wind Of Change」が世界中でヒットしたのか、そしてドイツのバンドである彼らがなぜこのアルバムに『CRAZY WORLD』というタイトルを冠したのか。そういったことを考えてから再び本作と接すると、また感じ方が変わってきたのも確か。90年代初頭という時代に産み落とされたからこそ意味のある、そんな1枚なのかもしれませんね。

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